説明

フッ素系重合体

【課題】 全てフッ素化された新規な全芳香族重合体。
【解決手段】 一般式(1)で表される繰り返し単位を主成分とするフッ素系重合体。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な全フッ素化全芳香族重合体に関する。
【0002】
【従来の技術】これまでに知られているフッ素化芳香族重合体としては、米国特許第5114780号明細書でMercerらが開示しているデカフルオロビフェニルとビスフェノールAなどの芳香族ジヒドロキシ化合物との縮合物である芳香族ポリエーテルがある。
【0003】しかし、上記特許に記載されている方法では、部分的にフッ素化された重合体しか得られない。一方、モノマーの芳香族ジヒドロキシ化合物として全フッ素化芳香族ジヒドロキシ化合物を用いれば全フッ素化全芳香族重合体が得られるということも考えられるが、このようなジヒドロキシ化合物は不安定であって、重合用のモノマーとして用いた場合、通常複雑な混合物を与えるのみで、本願発明が目的とする全フッ素化全芳香族重合体の製造は不可能であった。その他にも全芳香族重合体の報告例は多いのであるが、全てフッ素化された全芳香族重合体の報告例は本発明者らの調査では見出されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、新規な全フッ素化全芳香族重合体を提供するところにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を主成分とするフッ素系重合体
【0006】
【化2】


を提供するものである。
【0007】以下本発明を詳説する。本発明の全フッ素系重合体は、上記の一般式(1)で表される繰り返し単位を有する全フッ素化全芳香族ポリエーテルケトンであり、約1,000〜10,000程度の分子量を有する白色のさらさらした粉末状の重合体である。そして該重合体は空気中で加熱しても350℃程度までは安定な耐熱性を有し、他に難燃性、耐薬品性と低誘電率を有する新規な重合体である。
【0008】本発明の全フッ素化全芳香族重合体は、全フッ素化芳香族化合物とアルカリ金属の炭酸塩または重炭酸塩、および触媒であるケイ素酸化物とを溶媒に混合し、窒素等の不活性雰囲気下で加熱撹拌して重合反応を進行させることで得られる。
【0009】本発明の重合体を製造するのに用いられる全フッ素化芳香族化合物は主にデカフルオロベンゾフェノンが用いられる。また重合体の改質のために、上記モノマーとともに本発明の重合体の特性を損なわない範囲で他の任意のモノマーを用いてもよい。例えば、ビスフェノールなどの芳香族ジヒドロキシ化合物類を添加する従来法と組み合わせることも可能である。
【0010】本発明の重合体を製造するのに用いられるアルカリ金属の炭酸塩または重炭酸塩としては、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが挙げられる。またこれらのアルカリ金属塩は微粉砕した方が反応速度は速くなる。
【0011】本発明の重合体を製造する際、その反応は触媒であるケイ素酸化物の表面においてが進行するものと考えられるので、用いるケイ素酸化物はコロイダルシリカや多孔質シリカゲルなどの大きな表面積を有するものであることが好ましい。
【0012】本発明の重合体の製造に用いる溶媒は特に制限はなく、反応温度において安定なものならどのようなものでも使用できる。例としてはアセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、フェノキシベンゾフェノンなどのケトン類、スルホラン、ジフェニルスルホンなどのスルホン類、ジフェニルエーテルなどのエーテル類、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、デカリンなどの炭化水素類、塩素化ビフェニル等のハロゲン化炭化水素類などの高沸点のが挙げられる。又ここに挙げた以外の低沸点の溶媒でも、加圧下で使用することが可能である。そして、これらの中では、溶媒の極性が高い方が反応が容易に進行するので、高温で安定かつ極性の高いジフェニルスルホン、ベンゾフェノン、キサントンなどが特に好ましい。
【0013】本発明の重合体を得る反応では、芳香環に結合したフッ素が脱離してアルカリ金属のフッ化物塩となり、芳香環は分子間で縮合してエーテル結合を生成する。従って直鎖の重合体を高収率で得たい場合には、用いるアルカリ金属の炭酸塩に含まれるアルカリ金属原子の量は、全フッ素化芳香族化合物に対して2当量用いる必要がある。アルカリ金属原子がこれより少ないと反応が十分に進行せず、またこれより多いと架橋等の副反応が起こりやすい。ただし意図的に架橋した重合体を得ようとする場合は、アルカリ金属の炭酸塩をこれより多く用いても構わない。
【0014】触媒として用いるケイ素酸化物の量については特に制限はないが、通常は原料の全フッ素化芳香族モノマーに対して10-3〜1重量部、好ましくは10-2〜3×10-1重量部である。この値以下の添加量では触媒の効果が小さく、この値以上に添加しても重合速度はそれほど大きくならず、場合によっては好ましくない副反応が起こり得る。
【0015】反応温度は80℃〜350℃とするのが好ましく、100℃〜250℃が特に好ましい。この温度より低い温度で重合反応を行うと反応が十分に進行せず、また高い温度で重合反応を行うと好ましくない副反応が起こる場合がある。
【0016】得られた重合体は、反応混合物をメタノールなどの溶剤に投入することで沈殿させて単離することができる。反応に用いたアルカリ金属の炭酸塩または重炭酸塩は、希塩酸など酸性の溶液で洗浄して取り除くことができる。また触媒として用いたケイ素酸化物は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど強塩基の溶液中で数分〜数十分撹拌することで除去できる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例1で得られた重合体の赤外吸収スペクトルは、重合体1mgと臭化カリウム100mgとを混合し、加圧して錠剤にしたものを、パーキンエルマー社製の赤外吸収測定装置を用いて測定した。
【0018】
【実施例】
実施例1デカフルオロベンゾフェノン1.5g(4.1mmol)、コロイダルシリカ(AEROSIL380、日本アエロジル(株)製)0.075g、炭酸カリウム0.75g(5.4mmol)、溶媒のジフェニルスルホン1.5gの混合物を、窒素雰囲気下において270℃にて2時間加熱した。反応混合物を大量のメタノールに投入し、沈殿物を4%水酸化カリウム水溶液、塩酸、水、メタノールで洗浄することによって目的の粉末状のポリマー665mgを得た。(収率48%)
【0019】
【発明の効果】本発明の全フッ素化全芳香族重合体は、特に耐熱性、難燃性、耐薬品性に優れているので、これらの性質が要求される用途に好適に用いられる。そして、上記の特性に加えて低誘電率であるという特長を有しているため、例えば多層配線用絶縁膜などの電子材料に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた重合体の赤外吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(1)で表される繰り返し単位を主成分とするフッ素系重合体。
【化1】


【図1】
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【公開番号】特開平10−158382
【公開日】平成10年(1998)6月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−329087
【出願日】平成8年(1996)11月26日
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)