説明

フトモズクの養殖方法及び養殖網

【課題】フトモズクの養殖網をに容易に配設可能とし、さらに高密度養殖を可能としたフトモズクの養殖方法及び養殖網を提供する。
【解決手段】養殖網の網面を上下方向に展開した状態で海中に配設し、その上下方向に展開した養殖網にフトモズクを着生させる養殖網であって、フトモズクを着生させる網面1と、その網面1の上方に取付けられる浮き4と、前記網面1の下方に取付けられる重り5とを備え、養殖網本体を海中に投下することにより、重り5が海底に沈下して下端部を海底に固定し、一方、網面1の上端部が浮力によって吊り上げられて、網面1が上下方向に展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフトモズクの養殖方法及び養殖網に関し、特に、浮きと重りによって養殖網を上下方向に展開し、高密度養殖を可能としたフトモズクの養殖方法及び養殖網に関する。
【背景技術】
【0002】
ノリやワカメ、カキ等の養殖は、養殖に使用する網、ロープなどを固定するため、波が静かな内湾や入り江で行われる。
一方、外海は波が荒いため年間を通して養殖適地が確保しにくいこと、また、冬に多くなるシケ時には漁船漁業の操業もできないことから、冬期は収入の確保が難しいという問題がある。そのため地元漁業者からは冬期の漁閑期対策として外海でも可能な新しい養殖品種の開発が求められている。
このような状況を踏まえ、本願出願人は先にフトモズクの養殖に関する技術として特開2001−57823号を出願している。
【特許文献1】特開2001−57823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記フトモズクは褐藻類ナガマツモ目モズク科の海藻であり、比較的波の荒い水深2〜5mの岩礁・転石地帯で生育し、漁期は4月下旬から5月下旬にかけてのわずか1か月間である。現在では主に海女により採取されるが、その生産量は極めて少なく、希少価値のある藻類である。
そして従来より海藻の養殖においては、海底につき立てたコンポーズや竹等の支柱にノリ網を固定して行う支柱式と網を海面に水平に張って行う浮流し方式が採用されている。この浮流し方式は図5に示すように、合成繊維のより糸を30cmくらいの目合いに作った網を、海中の支柱につないで水平方向に広げて配設するものである。
しかし、このような支柱式及び浮き流し方式による養殖は、海底に養殖網を設置するために作業者が網の設置、養殖管理及び収穫時に潜水しなければならない。そのため手間とコストを要する。
また、水平方向に網を張るために、広い設置スペースを必要とし、波の荒い岩礁・転石地帯で生育するフトモズクの性質を考慮すると、設置が極めて困難という問題があった。
本発明は係る従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、浮きと重りを網に取付けることによって養殖網を上下方向に容易に配設可能とし、さらに高密度養殖を可能としたフトモズクの養殖方法及び養殖網を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するための手段として、請求項1記載のフトモズクの養殖方法では、養殖網の網面を上下方向に展開した状態で海中に配設し、その上下方向に展開した養殖網にフトモズクを着生させる方法とした。
【0005】
請求項2記載のフトモズク養殖方法では、請求項1記載のフトモズクの養殖方法において、海面又は海面下に水平方向にロープを掛け渡し、そのロープに所定間隔で養殖網の上部を取付け、その上部を取付けた養殖網の下部に重りを付けて垂下させ、ロープに沿って養殖網を上下方向に連続して配設する方法とした。
【0006】
請求項3記載のフトモズクの養殖網では、請求項1記載の養殖方法に使用する養殖網であって、フトモズクを着生させる網面と、その網面の上方に取付けられる浮きと、前記網面の下方に取付けられる重りとを備え、養殖網本体を海中に投下することにより、重りが海底に沈下して下端部を海底に固定し、一方、網面の上端部が浮力によって吊り上げられて、網面が上下方向に展開する構成とした。
【発明の効果】
【0007】
前記構成を採用したことにより、本発明では次の効果を有する。
請求項1記載のフトモズクの養殖方法では、養殖網の網面を上下方向に展開した状態で海中に配設するので、網を積層して配設することができ、水平に網を広げる場合に比べて養殖面積を広く確保することができる。
【0008】
請求項2記載のフトモズクの養殖方法では、掛け渡したロープに沿って養殖網を配置するため、ロープによって設置場所が明確にされる共に、養殖網を所定間隔で整然と集約配置することができる。
【0009】
請求項3記載の養殖網では、網面の上方に浮き、下方に重りを備えるので、船上から投下するのみで重りが沈下して浮きが網を吊り上げ、海中に網を上下に展開することができる。
特に、フトモズクの比較的波の荒い岩礁・転石地帯で生育するという特質から、従来、設置・収穫時に潜水作業が必要であり、設置作業が極めて困難であったところ、本発明の養殖網を使用することにより設置・管理・収穫作業が極めて容易化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明を実現する最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明の養殖網について説明する。
本発明の養殖網は図1(a)に示すように、フトモズクを着生させる網面1と、網面1の上端に挿架された棒材2と、網面1の下端に挿架された棒材3と、上側の棒材2の両端に配置された浮き4と、下側の棒材3の両端に取付けられた重り5から構成されている。
前記網はポリビニルアルコール系繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の樹脂製繊維、また、綿、麻、シュロあるいはこれらの混合繊維等から構成され、直径数mm程度のより糸を、数cm〜数十cmの目合いに形成している。
網面1の広さは設置場所によって適宜設定されるが、一例として1.8m×2mの広さに設定する。
【0012】
前記棒材2,3は網の上端及び下端を保持して、海中の水平方向に架設される。
棒材2の左右にはそれぞれ浮き4が配置され、この浮き4の浮力により、上下の棒材2,3及び網面1が海中で吊り上げられる。
棒材3の左右にはそれぞれ重り5が取付けられ、この重り5は砂袋を結束して、その紐6の先端を棒材3の両端に結び付けている。
重り5として砂袋を採用することにより、海底に凹凸があっても柔軟に着地して本体を確実に固定する。
前記浮き4は網面1を上方に吊り上げる浮力を有しているが、重り5はその浮力に抗して本体を海底に固定する。
【0013】
次に、養殖網の設置方法を説明する。
所定広さの網面1に、予め培養したフトモズクの遊走子や糸状体を付着させる。
この網面1の上下に棒材2,3を取付け、上側の棒材2の左右に浮き4、下側の棒材3の左右に重り5を取付けて船に積載する。養殖網の取り扱いにおいては、上下の棒材2,3を重ね合わせて、その重ね合わせ部の中央部分の外周に網を取り巻きコンパクト化して積載する(図1(b)参照)。棒材2,3の両端にそれぞれ浮きと重りを取り付けているので、中央部分を取り巻くことが可能である。
しかし、この浮き4と重り5の取付け作業は海中へ投下する際に船上で行う方法としても良い。
船で漁場に到達すると、棒材2,3と網面1との絡まりを防止しながら養殖網を海中に投下する(図1(c)参照)。
この投下により養殖網は重りを下、浮きを上にした状態で海底に沈下する。
海底に沈下した後は、重りの重力により本体が動かないように固定され、一方、棒材は浮きによって吊り上げられて、網面を上下方向に展開した状態で養殖網が設置される(図1(d)参照)。
養殖漁場の波が荒れることがあっても、養殖網は海中に浮遊しているので、波と共に柔軟に揺れ動き、フトモズクの藻体や養殖網の損傷を防止する。
所定期間養殖網を設置すると、養殖網に付着したフトモズクの藻体が海中で生育し、生育後は船上から重りと共に養殖網が引き上げられる。
養殖網は1.5〜5mの海底に設置されているので、収穫時には船上から長尺のカッタ、鎌を差し入れ、袋を切断して砂を流出除去し、養殖網の浮力により自力で海面へ浮上させた後に引き上げる方法としても良い。
【実施例2】
【0014】
次に、第2実施例に係るフトモズクの養殖方法を説明する。
第2実施例のフトモズクの養殖方法は、図2に示すように、海面下にロープ7を掛け渡し、そのロープ7に沿って養殖網を取り付けたものである。
海面には所定間隔で浮き8が配置され、その浮き8から紐9が垂下してその紐9にロープ7が取付けられて、ロープ7は水面下の所定の深さに配置される。
浮き8が配置されていることにより、海面上からロープ7の位置が認識される。
養殖網は前記第1実施例で説明した養殖網の浮きを取り外して、棒材2の左右両端をロープ7から紐10を介して吊り下げたものである。そして、養殖網の棒材2はロープの長さ方向に沿って水平に配置している。
これにより、養殖網の下方は重り5によって海底に固定され、上方はロープ7に吊り下げられて、網面1が上下方向に展開した状態で連続配設される。
【実施例3】
【0015】
次に、第3実施例に係るフトモズクの養殖方法を説明する。
第3実施例のフトモズクの養殖方法は、図3に示すように、海面下にロープ7を掛け渡し、そのロープ7に直交して養殖網を取り付けたものである。
ロープ7の配設方法は前記第2実施例と同様であるが、養殖網は前記第1実施例で説明した養殖網の浮きを取り外して、棒材2の中央をロープ7から紐11を介して吊り下げたものである。そして、養殖網の棒材2はロープ7と直交して水平に配置している。
これにより、養殖網の下方は重り5によって海底に固定され、上方はロープに吊り下げられて、網面1が上下方向に積層した状態で連続配設される。
【実施例4】
【0016】
次に、第4実施例に係るフトモズクの養殖方法を説明する。
第4実施例のフトモズクの養殖方法は、図4に示すように、海面上にロープ7を掛け渡し、そのロープ7に沿って養殖網1を取り付けたものである。
ロープ7には所定間隔で浮き8が直接取付けられ、海面上にロープ7の位置が認識される。
養殖網1は前記第1実施例で説明した養殖網と同一であり、棒材2の両端に浮き4を備え、その棒材2がロープ7の長さ方向に沿って水平に配置している。
本実施例では、棒材2の中央部分はロープ7から垂下する紐12によって結ばれ、この紐12によって結ばれていることにより、養殖網1同士の間隔が保持されて相互の接触が防止される。そして、養殖網1の下方は重り5によって海底に固定され、上方は浮き4に吊り下げられて、網面が上下方向に展開した状態で連続配設される。
【0017】
以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、前記実施例では網面1の上下に棒材2,3を配置したが、この棒材2,3は使用せずに網面1に直接浮き4と重り5を取付ける構成であっても本発明に含まれる。
また、前記実施例で説明した重りとしては、棒材に重りの機能を持たせることも可能であり、海底の石等を重りとして使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施例に係る養殖網の設置方法を示す説明図である。
【図2】第2実施例に係る養殖網の設置方法を示す説明図である。
【図3】第3実施例に係る養殖網の設置方法を示す説明図である。
【図4】第4実施例に係る養殖網の設置方法を示す説明図である。
【図5】従来例に係る養殖網の設置方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1 網面
2 棒材
3 棒材
4 浮き
5 重り
6 紐
7 ロープ
8 浮き
9 紐
10 紐
11 紐
12 紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖網の網面を上下方向に展開した状態で海中に配設し、
その上下方向に展開した養殖網にフトモズクを着生させる方法としたフトモズクの養殖方法。
【請求項2】
海面又は海面下に水平方向にロープを掛け渡し、そのロープに所定間隔で養殖網の上部を取付け、その上部を取付けた養殖網の下部に重りを付けて垂下させ、ロープに沿って養殖網を上下方向に連続して配設する方法とした請求項1記載のフトモズクの養殖方法。
【請求項3】
請求項1記載の養殖方法に使用する養殖網であって、
フトモズクを着生させる網面と、その網面の上方に取付けられる浮きと、前記網面の下方に取付けられる重りとを備え、
養殖網本体を海中に投下することにより、重りが海底に沈下して下端部を海底に固定し、一方、網面の上端部が浮力によって吊り上げられて、網面が上下方向に展開する構成とした養殖網。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−220270(P2008−220270A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63342(P2007−63342)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】