説明

フライホイール装置及び車両

【課題】上死点出しのためのクランキング作業時に作業者が目視するために必要なスペースを不要にし、さらに、一人の作業者による上死点出しを実現する。
【解決手段】フライホイール装置は、エンジンのクランクシャフトに結合し穴部(7)を有するフライホイール(1)と、前記フライホイール(1)を覆うように配置され貫通孔(9)を有するハウジング(3)と、前記エンジンのピストンの上死点に対応する前記フライホイール(1)の回転位置において、直線状に並んだ前記穴部(7)と前記貫通孔(9)の両方に挿入されるロックピン(5)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロック機構を有するフライホイール装置、及び、そのフライホイール装置を有する車両に関する。特に、本発明は、クランキング作業によるピストンの上死点出しを、目視に頼らず容易に行うための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのバルブタイミング調整等のためにクランキング作業により、エンジンのピストンの上死点出しが行われることがある。上死点出しとは、ピストンを上死点(Top Dead Center:TDC)に位置合わせすることをいう。従来、ピストンの上死点出しにおいて、作業者は、フライホイールの外周に付けられたマークを目視することによってピストンの上死点を確認していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3360021号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、昨今、排ガス規制対応等によるエンジン補機部品やシャシ補機部品の増加、及び、架装物からの制約によって、作業者がフライホイール外周のマークを目視するために必要なスペース(隙間)の確保が困難となっている。又、クランキングの作業者と目視者との二人が作業することが必要となり、ピストンの上死点出しの作業が非効率になる。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、クランキング作業時の目視のために必要なスペースを不要にすること、及び、一人の作業者によるピストンの上死点出しを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフライホイール装置は、エンジンのクランクシャフトに結合し穴部を有するフライホイールと、前記フライホイールを覆うように配置され貫通孔を有するハウジングと、を備える。さらに、フライホイール装置は、前記エンジンのピストンの上死点に対応する前記フライホイールの回転位置において、直線状に並んだ前記穴部と前記貫通孔の両方に挿入されるロックピンを備える。
【発明の効果】
【0007】
作業者は、目視せずにピストンの上死点への位置合わせ(上視点出し)が可能となる。従って、作業者が目視するためのスペースの確保が不要となりまた、一人の作業者での上視点出しが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第一実施形態に係るフライホイール装置を示す断面図である。
【図2】第一実施形態に係るフライホイール装置の一部を拡大した一部拡大断面図である。
【図3】(a)フライホイールをロックする手順の一部を示す図である。(b)フライホイールをロックする手順の他の一部を示す図である。
【図4】(a)第二実施形態に係るフライホイール装置を示す断面図である。(b)第二実施形態に係るフライホイールの穴部の一例を示す図である。(c)第二実施形態に係るフライホイールの穴部の他の例を示す図である。
【図5】(a)第三実施形態に係るフライホイール装置を示す図である。(b)第三実施形態に係るフライホイール装置を示す他の図である。(c)第三実施形態に係るモータ電流遮断回路の回路図である。
【図6】(a)第四実施形態に係るフライホイール装置の一例を示す一部断面図である。(b)第四実施形態に係るフライホイール装置の他の例を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では図面を参照して本発明を実施するための形態について、さらに詳しく説明する。
【0010】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態に係るフライホイール装置を示す図である。図2は、フライホイール装置の一部を拡大した一部拡大図である。
【0011】
フライホイール装置は、フライホイール1と、ハウジング(フライホイールハウジング)3と、ロック機構4を備える。フライホイール1は、車両においてエンジンのクランクシャフトに取り付けられてこれに結合するものである。フライホイール1は、その回転軸方向の端面(正面)1aにおいて、穴部(凹部)7を備える。フライホイール1を収容するハウジング3は、ハウジング3を貫通する貫通孔(ガイド孔)9を、フライホイール1の端面1aに対向する略板状の板状部3aにおいて有する。本実施形態では、穴部7と貫通孔9は、円柱状の形状を有するが、これに限定されない。フライホイール装置に設けられたロック機構4は、フライホイール1の端面1aの穴部7と、フライホイール1を包囲するハウジング3の貫通孔9と、これら穴部7と貫通孔9に挿入されるロックピン5とを備える。
【0012】
ロックピン5は、全体的に細長い段付き形状を有し、細い先端部5aと太い根元部5bからなる。ロックピン5の先端部5aは、貫通孔9に挿入されこれに適合する太さと形状を有し、貫通孔9により案内される。また、ロックピン5の先端部5aは、フライホイール1の穴部7と適合する太さと形状を有する。フライホイール1の穴部7は、ロックピン5の先端部5aの断面よりわずかに広い。本実施形態で、細い先端部5aと根元部5bは、円柱状の形状であるが、これに限定されない。
【0013】
図3(a)と図3(b)は、作業者がロックピン5でフライホイール1をロックする手順を示す。まず、図3(a)のように、第一のステップにおいて、作業者は、ロックピン5の先端部5aを貫通孔9に沿って挿入して、先端部5aをフライホイール1の端面1aに付き当てる。第二のステップにおいて、先端部5aがフライホイール1の端面1aに当接した状態で、作業者はフライホイール1を回転させてクランキングを開始する。その際、ロックピン5を回転軸方向に押し続ける。
【0014】
図3(b)のように、第三のステップにおいて、フライホイール1の所定の回転位置で、穴部7と貫通孔9は対峙して回転軸方向に直線状に並び、穴部7の軸中心とロックピン5の軸中心が一致する。これにより、ロックピン5の先端部5aを、貫通孔3に貫通させて穴部7に嵌合できる。従って、ロックピン5は、フライホイール1をハウジング3に対してロック(固定)できる。
【0015】
フライホイール1のこの所定の回転位置は、エンジンのピストンの上死点に対応するように設定されているため、フライホイール1がロックされた場合にピストンは上死点に位置する。
【0016】
−作用効果−
ロックピン5は、エンジンのピストンの上死点に対応するフライホイール1の回転位置において、直線状に並んだフライホイール1の穴部7とハウジング3の貫通孔9の両方に挿入される。このように、作業者は、目視せずにピストンの上死点への位置合わせ(上視点出し)が可能となる。従って、作業者が目視するためのスペースの確保が不要となる。目視スペースの確保が不要となり、エンジン、シャシ、架装物のレイアウト自由度が拡大される。また、一人の作業者で、クランキングとピストンの上死点への位置合わせが可能となる。
【0017】
フライホイール1の穴部7が、フライホイール回転軸方向の端面1aにおいて設けられるため、フライホイール1が外周にリングギアを有する場合などでも、穴部7を形成できる。
【0018】
[第二実施形態]
図4(a)は、第二実施形態に係るフライホイール装置を示す図である。第二実施形態において、フライホイール1は、その円周面1b(即ち、半径方向の端面)において、穴部(凹部)17を備える。フライホイール1のハウジング3は、ハウジング3を貫通する貫通孔(ガイド孔)19を、フライホイール1の円周面1bに対向する環状部3bにおいて有する。なお、フライホイール1がリングギアを有する場合、穴部17は、リングギアを避けて設けられる。フライホイール装置に設けられたロック機構4は、フライホイール1の円周面1bの穴部17と、フライホイール1を包囲するハウジング3の貫通孔19と、これら穴部17と貫通孔19に挿入されるロックピン5とを備える。
【0019】
図4(b)のように、フライホイール1の穴部17は、ロックピン5の断面よりかなり広く、又、フライホイール円周方向の長さLが回転軸方向の幅Wより大きい楕円状の形状を有する。代わりに、図4(c)のように、フライホイール1の穴部17は、フライホイール円周方向の長さLが回転軸方向の幅Wより大きい扇状の形状を有してもよい。
【0020】
作業者は、ロックピン5を貫通孔19に沿って挿入して、ロックピン5の先端をフライホイール1の円周面1bに付き当てる。ロックピン5の先端がフライホイール1の円周面1bに当接した状態で、作業者はフライホイール1を回転させてクランキングを開始する。その際、ロックピン5をフライホイール1の半径方向に押し続ける。
【0021】
フライホイール1がしばらく回転した後、ロックピン5の先端は、図4(b)(c)の点線で示すように、フライホイール1の穴部17の一端17aに位置する。そして、穴部17と貫通孔19は対峙してフライホイール半径方向に直線状に並び、ロックピン5の先端は、穴部17に挿入される。
【0022】
フライホイール1がさらに回転すると、ロックピン5の先端は穴部17に挿入されたままフライホイール1に対して移動する。そして、フライホイール1が所定の回転位置になると、ロックピン5の先端は、穴部17の他端17bに達する。フライホイール1のこの所定の回転位置は、エンジンのピストンの上死点に対応するように設定されている。このため、フライホイール1が所定の回転位置で止められて、回転方向への付勢により穴部17の他端17bにあるロックピン5によってロックされた場合に、ピストンは上死点に位置合わせされ、上死点出しが完了する。
【0023】
クランキング(フライホイール1の回転)によるピストンの位置合わせは、歯車のバックラッシの影響などで一回転方向による位置だしが要求される場合がある。しかし、フライホイール1の穴部17の上記形状によって、フライホイール1の一回転方向において確実にピストンは上死点へ位置合わせされる。このため、フライホイール1を過剰に回転させたことによる、やり直し作業(フライホイール1の逆回転の後、正回転での再位置合わせを行うこと)が不要になる。
【0024】
第二実施形態によると、フライホイール1の穴部17が、フライホイール1の円周面1bにおいて設けられ、フライホイール円周方向の長さLがフライホイール回転軸方向の幅Wより大きい形状を有する。このため、フライホイール1を一回転方向に回転させるだけで、確実にピストンは上死点へ位置合わせされる。
【0025】
[第三実施形態]
図5(a)(b)は、第三実施形態に係るフライホイール装置を示す図である。第三実施形態において、フライホイール装置は、フライホイール1とハウジング3とロック機構4に加えて、ストロークスイッチ21を備える。ストロークスイッチ21以外の構成は、第一実施形態と同じである。
【0026】
ストロークスイッチ21は、図5(a)のように、ロックピン5がフライホイール1の穴部7に入っていない場合にオン(ON)状態になり、図5(b)のように、ロックピン5がフライホイール1の穴部7に入った場合にオフ(OFF)状態になる。ストロークスイッチ21は、磁気的、電気的、光学的、又は音響的に、ロックピン5がフライホイール1の穴部7に入ったことを検出する。例えば、穴部7の表面に絶縁体を塗布しておき、ロックピン5が金属製のフライホイール1の穴部7に入った場合に、金属製のロックピン5と金属製のフライホイール1(車体(アース))との導通が遮断され、電気的にオフするストロークスイッチでよい。この場合、ロックピン5そのものがスイッチとして機能する。
【0027】
ストロークスイッチ21は、フライホイール1の穴部7の壁に埋め込まれた磁石の磁気を検出する磁気センサ21aや、周囲の物体を検出する赤外線センサで構成してよい。なお、ストロークスイッチ21は、図5(a)(b)のようにロックピン5に設けられるものでなく、フライホイール1の穴部7に設けられるものでもよい。
【0028】
図5(c)のようなモータ電流遮断回路は、ストロークスイッチ21がオフ状態になる場合に、クランキング(フライホイール1の回転)を行う電気モータ23への電流を遮断して、電気モータ23を停止させる。なお、電気モータ23は、フライホイール1の外周のリングギアなどを介してフライホイール1を回転する。ロックピン5が穴部7に入ってストロークスイッチ21がオフ状態になる場合に、コイル25の電流が遮断されて電源スイッチ27がオフ状態になり、電源29から電気モータ23への電流が遮断されて電気モータ23が停止する。コイル25と電源スイッチ27は、リレー(継電器)24を構成する。
【0029】
なお、ストロークスイッチ21は、ロックピン5がフライホイール1の穴部7に入った場合にオン状態になり、電源スイッチ27は、ストロークスイッチ21のオン状態で、オフする構成としてもよい。
【0030】
第三実施形態によると、ストロークスイッチ21は、ロックピン5がフライホイール1の穴部7に入った場合にオン状態又はオフ状態に変化する。このため、電気モータ23によってフライホイール1を回転させる場合でも、ストロークスイッチ21の動作に応じて電気モータ23への電流を遮断することにより、確実且つ安全にピストンの上死点への位置合わせができる。
【0031】
[第四実施形態]
図6(a)(b)は、第四実施形態に係るフライホイール装置を示す図である。第四実施形態において、ロックピン5は弾性力や流体圧などの付勢手段によりフライホイール1に押される。その他の構成は、第一実施形態と同じである。
【0032】
一例では、図6(a)のように、弾性体としてのバネ31がケース33に収納され、ロックピン5の端部に弾性力を加えてフライホイール1側へ押してよい。ケース33は、治具35によりフライホイール1のハウジング3に取り付けられる。
【0033】
別の例では、図6(b)のように、空気圧や油圧などの流体圧が、ロックピン5の端部をフライホイール1側へ押してよい。流体供給装置37が、流体をケース33内に供給して、流体圧がケース33内に発生する。ケース33は、ロックピン5の端部を収容して、流体圧がロックピン5の端部に加えられる。
【0034】
第四実施形態によると、ロックピンが、流体圧又は弾性力によりフライホイールに対して付勢される。このため、作業者がロックピン5を手に持って穴部7と貫通孔9に挿入する必要がなくなり、作業者は、クランキング(フライホイール1の回転)だけ行えばよい。従って、一人の作業者によるピストンの上死点への位置合わせ(上死点出し)が容易になる。
【0035】
本発明は以上説明した第一から第四の実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【符号の説明】
【0036】
1 フライホイール
1a 端面
1b 円周面
3 ハウジング
3a 板状部
3b 環状部
5 ロックピン
7、17 穴部
9、19 貫通孔
21 ストロークスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトに結合し、穴部を有するフライホイールと、
前記フライホイールを覆うように配置され、貫通孔を有するハウジングと、
前記エンジンのピストンの上死点に対応する前記フライホイールの回転位置において、直線状に並んだ前記穴部と前記貫通孔の両方に挿入されるロックピンと、
を備えることを特徴とするフライホイール装置。
【請求項2】
前記フライホイールの前記穴部が、前記フライホイールの回転軸方向の端面において設けられ、
前記ハウジングの前記貫通孔が、前記フライホイールの端面に対向する板状部において設けられることを特徴とする請求項1に記載のフライホイール装置。
【請求項3】
前記フライホイールの前記穴部が、前記フライホイールの円周面において設けられ、フライホイール円周方向の長さがフライホイール回転軸方向の幅より大きい形状を有し、
前記ハウジングの前記貫通孔が、前記フライホイールの前記円周面に対向する環状部において設けられることを特徴とする請求項1に記載のフライホイール装置。
【請求項4】
ロックピンがフライホイールの穴部に入った場合にオン状態又はオフ状態に変化するストロークスイッチを備えることを特徴とする請求項1に記載のフライホイール装置。
【請求項5】
前記ロックピンが、流体圧又は弾性力によりフライホイールに対して付勢されることを特徴とする請求項1に記載のフライホイール装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のフライホイール装置を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127319(P2012−127319A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281641(P2010−281641)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)