説明

フラットケーブルの製造方法及び製造装置

【課題】 外形の寸法ばらつきが少なく、寸法精度が向上し、良品質のフラットケーブルを長時間安定して能率よく製造することができるフラットケーブルの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 押出機10に並列に配列された複数本の導体18を供給し、その導体18上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設け、形成された被覆導体22を引取機12で引き取ると共に、その被覆導体22の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御することにより、フラットケーブル16を製造する場合に、被覆導体幅及び導体間隔を計測して、被覆導体幅及び導体間隔の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように被覆導体22の外形を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用配線材等に利用されるフラットケーブルの製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフラットケーブルの製造方法は、主に絶縁性が良好なポリエチレンテレフタレート(PET)を基材として、その片側表面に熱可溶性の接着層を有するポリエステル系絶縁フイルム間に並列配置された断面平角状の複数本の導体を挟み込んだ状態で、その絶縁フイルムを一対の熱圧着用加熱ロールで熱圧着する方法が使用されている。
【0003】
しかしながら、このような製造方法では、各絶縁フイルムの接着層を十分に溶融させて接着させる必要があるため、熱の伝導速度の関係から加工時間が非常に長くなり、生産性に劣るという問題がある。
【0004】
そこで、フラットケーブルの生産性の向上を図るために、押出機のクロスヘッド内に設けられた成形金型内に並列に配列された複数本の導体を供給し、その導体上にポリエチレン等の絶縁樹脂を押出被覆してフラットケーブルを製造するようになってきている(特許文献1参照)。
【0005】
近年、ワイヤーハーネス(W/H)加工の自動化が進むに従い、ケーブルに要求される寸法精度が厳しくなってきている。特にフラットケーブルに対しては、コネクタや端子との接続性能を維持するため、フラットケーブルの幅(マージン幅)及び導体間隔(導体間ピッチ)に要求される精度が非常に厳しくなってきており、幅及び導体間隔における寸法ばらつきの少ないことが望まれている。
【0006】
そこで、フラットケーブルを絶縁樹脂の押出被覆により製造する場合には、押出機の絶縁樹脂押出部(押出シリンダ、押出スクリュー等)及び成形金型(押出ダイス、ニップル等)の工作精度に頼ったフィードフォワード製造方法や押出機で押出被覆された被覆導体の外形を計測し、計測値と目標値とを比較してフィードバック制御を行う方法により、外形の寸法ばらつきを少なくし、寸法精度を高めるようにしている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−119234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記フィードフォワード製造方法では、材料ロット、押出機の絶縁樹脂押出部や成形金型等の磨耗による外的要因で外形の寸法精度が低下する恐れがあり、高い寸法精度のフラットケーブルを長時間安定して製造することができないという問題がある。また、外形の寸法精度が低下して、ケーブル不良が発生すると、押出条件等の見直しが必要になるので、フラットケーブルの製造能率が低下するという問題がある。
【0009】
また、フィードバック制御を行う製造方法では、フラットケーブル(被覆導体)の外形、即ち、被覆導体幅及び導体間隔の両制御対象について同時にフィードバック制御を行うと、フィードバック制御系が相互に干渉し合って複雑になり、設備のコストが高くなるという問題がある。いずれか一方の制御対象についてフィードバック制御を行うと、このような問題は解消するが、フィードバック制御を行っていない制御対象の寸法ばらつきが大きくなり、寸法精度が低下してケーブルの品質が低下するという問題がある。
【0010】
本発明は上記に鑑みて生まれたもので、外形の寸法ばらつきが少なく、寸法精度が向上し、良品質のフラットケーブルを長時間安定して能率よく製造することができるフラットケーブルの製造方法及び製造装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載された発明によると、押出機の成形金型内に並列に配列された複数本の導体を供給し、その導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設け、形成された被覆導体を引取機で引き取ると共に、その被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御するようにしたフラットケーブルの製造方法において、被覆導体幅及び導体間隔を計測して、被覆導体幅及び導体間隔の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように被覆導体の外形を制御する構成になっている。
【0012】
本発明の請求項2に記載された発明によると、押出機の成形金型内に並列に配列された複数本の導体を供給し、その導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設け、形成された被覆導体を引取機で引き取ると共に、その被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御するようにしたフラットケーブルの製造方法において、前記被覆導体幅及び絶縁樹脂の樹脂圧力を計測して、被覆導体幅及び樹脂圧力の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように被覆導体の外形を制御する構成になっている。
【0013】
本発明の請求項3に記載された発明によると、並列に配列された複数本の導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設ける押出機と、形成された被覆導体を引き取る引取機と、被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御する外形制御手段とを備えたフラットケーブルの製造装置において、前記外形制御手段が被覆導体幅を計測する幅計測部と、被覆導体の導体間隔を計測する導体間隔計測部と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部と、導体間隔の工程能力指数を算出する導体間隔演算部と、幅演算部及び導体間隔演算部で算出された被覆導体幅の工程能力指数と導体間隔の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は導体間隔を制御すべき対象に選択する演算制御部と、演算制御部で制御対象に選択された被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように、被覆導体幅又は導体間隔を制御する幅制御部及び導体間隔制御部とを備える構成になっている。
【0014】
本発明の請求項4に記載された発明によると、並列に配列された複数本の導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設ける押出機と、形成された被覆導体を引き取る引取機と、被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御する外形制御手段とを備えたフラットケーブルの製造装置において、前記外形制御手段が被覆導体幅を計測する幅計測部と、絶縁樹脂の樹脂圧力を計測する樹脂圧力計測部と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部と、樹脂圧力の工程能力指数を算出する樹脂圧力演算部と、幅演算部及び樹脂圧力演算部で算出された被覆導体幅の工程能力指数と樹脂圧力の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力を制御すべき対象に選択する演算制御部と、演算制御部で制御対象に選択された被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように、被覆導体幅又は樹脂圧力を制御する幅制御部及び樹脂圧力制御部とを備える構成になっている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載のフラットケーブルの製造方法によると、被覆導体幅及び導体間隔を計測して、被覆導体幅及び導体間隔の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように被覆導体の外形を制御するようにしたので、フラットケーブルの被覆導体幅及び導体間隔のうち、寸法ばらつきが大きい方の被覆導体幅又は導体間隔について外形の制御を行えばよい。従って、外形の制御系が相互に干渉しなくなって簡単になるほか、制御の応答性も良くなり、外形の寸法ばらつきが少なく、寸法精度の高い良品質のフラットケーブルを長時間安定して能率よく製造することができる。また、ワイヤーハーネスの加工性を向上させることができる。
【0016】
本発明の請求項2記載のフラットケーブルの製造方法によると、前記被覆導体幅及び絶縁樹脂の樹脂圧力を計測して、被覆導体幅及び樹脂圧力の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように被覆導体の外形を制御するようにしたので、フラットケーブルの被覆導体幅及び樹脂圧力のうち、ばらつきが大きい方の被覆導体幅又は樹脂圧力について制御を行えばよい。従って、外形の制御系が相互に干渉しなくなって簡単になり、制御の応答性も良くなり、外形の寸法ばらつきが少なく、寸法精度の高い良品質のフラットケーブルを長時間安定して能率よく製造することができる。また、被覆導体の絶縁体が不透明なため、被覆導体の導体間隔の計測が不便になる場合でも、樹脂圧力を計測することにより、導体間隔を直接計測した場合にほぼ匹敵する精度で間接的に計測することが可能になり、フラットケーブルの製造能率をより向上させることができる。更に、ワイヤーハーネスの加工性を向上させることができる。
【0017】
本発明の請求項3記載のフラットケーブルの製造装置によると、前記外形制御手段が被覆導体幅を計測する幅計測部と、被覆導体の導体間隔を計測する導体間隔計測部と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部と、導体間隔の工程能力指数を算出する導体間隔演算部と、幅演算部及び導体間隔演算部で算出された被覆導体幅の工程能力指数と導体間隔の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は導体間隔を制御すべき対象に選択する演算制御部と、演算制御部で制御対象に選択された被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように、被覆導体幅又は導体間隔を制御する幅制御部及び導体間隔制御部とを備えているので、外形の寸法ばらつきが少ないフラットケーブルを能率よく製造することができ、また、被覆導体の外形制御機構が簡単になり、製造装置のコストダウンを図ることができる。
【0018】
本発明の請求項4記載のフラットケーブルの製造装置によると、前記外形制御手段が被覆導体幅を計測する幅計測部と、絶縁樹脂の樹脂圧力を計測する樹脂圧力計測部と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部と、樹脂圧力の工程能力指数を算出する樹脂圧力演算部と、幅演算部及び樹脂圧力演算部で算出された被覆導体幅の工程能力指数と樹脂圧力の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力を制御すべき対象に選択する演算制御部と、演算制御部で制御対象に選択された被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように、被覆導体幅又は樹脂圧力を制御する幅制御部及び樹脂圧力制御部とを備えているので、外形の寸法ばらつきが少ないフラットケーブルを更に能率よく製造することができ、また、被覆導体の外形制御機構が簡単になり、製造装置のコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面により詳細に説明する。図1は本発明に係るフラットケーブルの製造装置の一実施形態を示す概要図である。
【0020】
本実施形態のフラットケーブル16(図4参照)の製造装置は、図1に示すように、並列に配列された複数本の導体18上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体20を設ける押出機10と、形成された被覆導体22を冷却水槽(図示省略)で冷却した後引き取る引取機12と、被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値(狙い値)とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御する外形制御手段14とを備えている。
【0021】
フラットケーブル16(図4参照)は、押出機10のクロスヘッド内に装着された成形金型内に並列に配列して供給された複数本(図示例は2本又は3本)の導体18(図4(a)は導体18が断面長方形状、図4(b)は導体18が断面円形状の場合を示す)上に、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性飽和共重合ポリエステル、ポリアミド等の絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体20を設けて形成された被覆導体22で構成されるものである。
【0022】
外形制御手段14は、被覆導体22の被覆導体幅を計測する幅計測部24と、被覆導体22の導体間隔を計測する導体間隔計測部26と、被覆導体幅の工程能力指数(Cpk)を算出する幅演算部28と、導体間隔の工程能力指数(Cpk)を算出する導体間隔演算部30と、幅演算部28及び導体間隔演算部30で算出された被覆導体幅の工程能力指数と導体間隔の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は導体間隔を制御すべき対象に選択する演算制御部32と、演算制御部32で制御対象に選択された被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように、被覆導体幅又は導体間隔を制御する幅制御部34及び導体間隔制御部36とを備えている。
【0023】
幅計測部24及び導体間隔計測部26は、例えば、被覆導体22の一面側に配置されて光を照射するストロボ光源と、ストロボ光源から照射された光によって得られる被覆導体の透過画像を撮像するCCDカメラと、CCDカメラから得られた画像を解析して、被覆導体幅又は導体間隔を計測する画像解析手段とを備えたものを使用する。この種タイプの幅計測部24及び導体間隔計測部26を使用する場合には、被覆導体22の絶縁体20が透明又は半透明状であることが望ましい。なお、絶縁体20が不透明である場合等には、電磁気やX線等の放射線を利用したもの等を使用する。
【0024】
幅演算部28は、幅計測部24で計測された被覆導体幅の計測値を所定時間(T)に所定回数(N)サンプリングして、所定時間(T)毎に、サンプリングしたN個の計測値に基づき、被覆導体幅の標準偏差σ、平均値を演算し、式1により、被覆導体幅の工程能力指数(Cpk)を算出する。そして、演算制御部32に信号を出力後、標準偏差等のデータをリセットして、次の標準偏差等の演算、工程能力指数の算出に備えるように構成されている。
【0025】
工程能力指数(Cpk)=(被覆導体幅の上下限目標値−平均値)/3σ・・・(1)
【0026】
導体間隔演算部30は、導体間隔計測部26で計測された導体間隔の計測値を所定回数サンプリングして、所定回数毎に導体間隔の標準偏差σ、平均値を演算し、式2により、導体間隔の工程能力指数(Cpk)を算出する。そして、演算制御部32に信号を出力後、標準偏差等のデータをリセットして、次の標準偏差等の演算、工程能力指数の算出に備えるように構成されている。
【0027】
工程能力指数(Cpk)=(導体間隔の上下限目標値−平均値)/3σ・・・・(2)
【0028】
演算制御部32は、前記所定時間(T)毎に、幅演算部28及び導体間隔演算部30で算出された被覆導体幅の工程能力指数と導体間隔の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は導体間隔を制御すべき対象に選択した後、幅制御部34又は導体間隔制御部36に動作指令の信号を出力する。
【0029】
幅制御部34は、演算制御部32で制御対象に選択された被覆導体幅が目標値に収束するように、被覆導体幅を制御するもので、例えば、幅計測部24で計測された被覆導体幅の計測値と目標値(狙い値)との偏差に応じて、押出機10の押出スクリュの回転数を増減させ、押出機10で押し出される絶縁樹脂の単位時間当りの樹脂押出量を調整する。そして、被覆導体幅が目標値よりも小さくなった場合には、押出スクリュの回転数を増速して樹脂量を増加させ、被覆導体幅が目標値よりも大きくなった場合には、押出スクリュの回転数を減速して樹脂量を減少させるように被覆導体幅を制御するようになっている。なお、幅制御部34は詳細説明を省略するが、被覆導体幅の計測値に応じて引取機12の引取速度を増減させることにより、被覆導体幅を制御するようにしてもよい。
【0030】
導体間隔制御部36は、演算制御部32で制御対象に選択された導体間隔が目標値に収束するように、導体間隔を制御するもので、例えば、導体間隔計測部26で計測された導体間隔の計測値と目標値(狙い値)との偏差に応じて、押出機10の押出スクリュの回転数を増減させ、押出機10で押し出される絶縁樹脂の単位時間当りの樹脂押出量を調整する。そして、導体間隔が目標値よりも小さくなった場合には、押出スクリュの回転数を増速して樹脂量を増加させ、導体間隔が目標値よりも大きくなった場合には、押出スクリュの回転数を減速して樹脂量を減少させるように導体間隔を制御するようになっている。なお、導体間隔制御部34は詳細説明を省略するが、導体間隔の計測値に応じて引取機12の引取速度を増減させることにより、導体間隔を制御するようにしてもよい。
【0031】
次に、図1の製造装置を用いて、本発明に係るフラットケーブル16の製造方法の一実施形態を説明すると、押出機10の成形金型内に並列に配列された複数本の導体18を供給し、その導体18上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体20を設け、形成された被覆導体22を冷却した後、引取機12で引き取る。また、この作業と並行して被覆導体22の外形を制御する。即ち、被覆導体22の被覆導体幅を幅計測部24で計測すると共に、導体間隔を導体間隔計測部26で計測する。次に、幅演算部28で被覆導体幅の工程能力指数を算出し、導体間隔演算部30で導体間隔の工程能力指数を算出する。次に、演算制御部32で被覆導体幅の工程能力指数と導体間隔の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は導体間隔を制御すべき対象に選択する。次に、幅制御部34又は導体間隔制御部36において、前記演算制御部32で制御対象に選択された被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように制御することにより、フラットケーブル16を製造する。
【0032】
本実施形態のフラットケーブル16の製造方法によると、被覆導体幅及び導体間隔を計測して、被覆導体幅及び導体間隔の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように被覆導体22の外形を制御するようにしたので、フラットケーブル16の被覆導体幅及び導体間隔のうち、寸法ばらつきが大きい方の被覆導体幅又は導体間隔について外形の制御を行えばよい。従って、外形の制御系が相互に干渉しなくなって簡単になるほか、制御の応答性も良くなり、外形の寸法ばらつきが少なく、寸法精度の高い良品質のフラットケーブル16を長時間安定して能率よく製造することができる。また、ワイヤーハーネスの加工性を向上させることができる。
【0033】
本実施形態のフラットケーブル16の製造装置によると、前記外形制御手段14が被覆導体幅を計測する幅計測部24と、被覆導体22の導体間隔を計測する導体間隔計測部26と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部28と、導体間隔の工程能力指数を算出する導体間隔演算部30と、幅演算部28及び導体間隔演算部30で算出された被覆導体幅の工程能力指数と導体間隔の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は導体間隔を制御すべき対象に選択する演算制御部32と、演算制御部32で制御対象に選択された被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように、被覆導体幅又は導体間隔を制御する幅制御部34及び導体間隔制御部36とを備えているので、外形の寸法ばらつきが少ないフラットケーブル16を能率よく製造することができ、また、被覆導体22の外形制御機構が簡単になり、製造装置のコストダウンを図ることができる。
【0034】
図2は本発明に係るフラットケーブル16の製造装置の他の実施形態を示す概要図である。本実施形態の製造装置は、被覆導体22の絶縁体20が不透明なため、被覆導体22の導体間隔の計測が不便になる場合でも、外形の寸法ばらつきの少ないフラットケーブル16を容易に製造することができる装置を提供するものである。
【0035】
発明者は、図3に示すように、押出機10で押し出された絶縁樹脂の樹脂圧力(MPa)が押出時間の経過に伴って推移する曲線と、押出機10で形成された被覆導体22の導体間隔(mm)が押出時間の経過に伴って推移する曲線の形状が酷似し、両者間に強い相関関係があることを見出した。本実施形態の製造装置は、このような知見に基づいて得られたものであり、導体間隔計測部26で導体間隔を計測する代わりに、押出機10で押し出される絶縁樹脂の樹脂圧力を計測することにより、被覆導体22の外形を制御するようにしたものである。
【0036】
本実施形態の製造装置は図2に示すような構成になっている。本装置の外形制御手段38は、被覆導体22の被覆導体幅を計測する幅計測部24と、絶縁樹脂の樹脂圧力を計測する樹脂圧力計測部40と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部28と、樹脂圧力の工程能力指数を算出する樹脂圧力演算部42と、幅演算部28及び樹脂圧力演算部42で算出された被覆導体幅の工程能力指数と樹脂圧力の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力を制御すべき対象に選択する演算制御部44と、演算制御部44で制御対象に選択された被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように、被覆導体幅又は樹脂圧力を制御する幅制御部34及び樹脂圧力制御部46とを備えている。
【0037】
導体間隔計測部26に代わる樹脂圧力計測部40は押出機10の絶縁樹脂出口付近に設けられた、例えば、歪ゲージ型の圧力センサを使用する。
【0038】
樹脂圧力演算部42は、樹脂圧力計測部40で計測された樹脂圧力の計測値を所定時間(T)に所定回数(N)サンプリングして、所定時間(T)毎に、サンプリングしたN個の計測値に基づき、樹脂圧力の標準偏差σ、平均値を演算し、式3により、樹脂圧力の工程能力指数を算出する。そして、演算制御部44に信号を出力後、標準偏差等のデータをリセットして、次の標準偏差等の演算、工程能力指数の算出に備えるように構成されている。
【0039】
工程能力指数(Cpk)=(樹脂圧力の上下限目標値−平均値)/3σ・・・・(3)
【0040】
演算制御部44は、前記所定時間(T)毎に、幅演算部28及び樹脂圧力演算部42で算出された被覆導体幅の工程能力指数と樹脂圧力の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力を制御すべき対象に選択した後、幅制御部34又は樹脂圧力制御部46に動作指令の信号を出力する。
【0041】
樹脂圧力制御部46は、演算制御部44で制御対象に選択された樹脂圧力が目標値に収束するように、樹脂圧力を制御するもので、例えば、樹脂圧力計測部40で計測された樹脂圧力の計測値と目標値(狙い値)との偏差に応じて、押出機10の押出スクリュの回転数を増減させ、押出機10で押し出される絶縁樹脂の単位時間当りの樹脂押出量を調整する。そして、樹脂圧力が目標値よりも低くなった場合には、押出スクリュの回転数を増速して樹脂量を増加させ、樹脂圧力が目標値よりも高くなった場合には、押出スクリュの回転数を減速して樹脂量を減少させるように樹脂圧力を制御するようになっている。その他の構成は図1に示す実施形態のものと実質同一なので詳細説明を省略する。
【0042】
次に、図2の製造装置を用いて、本発明に係るフラットケーブル16の製造方法の他の実施形態を説明すると、押出機10の成形金型内に並列に配列された複数本の導体18を供給し、その導体18上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体20を設け、形成された被覆導体22を冷却した後、引取機12で引き取る。また、この作業と並行して被覆導体22の外形を制御する。即ち、被覆導体22の被覆導体幅を幅計測部24で計測すると共に、樹脂圧力を樹脂圧力計測部40で計測する。次に、幅演算部28で被覆導体幅の工程能力指数を算出し、樹脂圧力演算部42で樹脂圧力の工程能力指数を算出する。次に、演算制御部44で被覆導体幅の工程能力指数と樹脂圧力の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力を制御すべき対象に選択する。次に、幅制御部34又は樹脂圧力制御部46において、前記演算制御部44で制御対象に選択された被覆導体幅又は樹脂圧力制御部が目標値に収束するように制御することにより、フラットケーブル16を製造する。
【0043】
本実施形態のフラットケーブル16の製造方法によると、前記被覆導体幅及び絶縁樹脂の樹脂圧力を計測して、被覆導体幅及び樹脂圧力の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように被覆導体の外形を制御するようにしたので、フラットケーブル16の被覆導体幅及び樹脂圧力のうち、ばらつきが大きい方の被覆導体幅又は樹脂圧力について制御を行えばよい。従って、外形の制御系が相互に干渉しなくなって簡単になり、制御の応答性も良くなり、外形の寸法ばらつきが少なく、寸法精度の高い良品質のフラットケーブル16を長時間安定して能率よく製造することができる。また、被覆導体22の絶縁体が不透明なため、被覆導体22の導体間隔の計測が不便になる場合でも、樹脂圧力を計測することにより、導体間隔を直接計測した場合にほぼ匹敵する精度で間接的に計測することが可能になり、フラットケーブル16の製造能率をより向上させることができる。更に、ワイヤーハーネスの加工性を向上させることができる。
【0044】
本実施形態のフラットケーブル16の製造装置によると、前記外形制御手段38が被覆導体幅を計測する幅計測部24と、絶縁樹脂の樹脂圧力を計測する樹脂圧力計測部40と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部28と、樹脂圧力の工程能力指数を算出する樹脂圧力演算部42と、幅演算部28及び樹脂圧力演算部42で算出された被覆導体幅の工程能力指数と樹脂圧力の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力を制御すべき対象に選択する演算制御部42と、演算制御部42で制御対象に選択された被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように、被覆導体幅又は樹脂圧力を制御する幅制御部34及び樹脂圧力制御部46とを備えているので、外形の寸法ばらつきが少ないフラットケーブル16を更に能率よく製造することができ、また、被覆導体22の外形制御機構が簡単になり、製造装置のコストダウンを図ることができる。
【0045】
次に、本発明の製造装置及び製造方法により、フラットケーブル16を試作して、その評価を行った。表1は評価結果、表2は工程能力指数に対する評価点基準を示す。なお、表1において、発明Aは図1の製造装置を用いた製造方法で試作されたフラットケーブル16、発明Bは図2の製造装置を用いた製造方法で試作されたフラットケーブル16、従来Aはフィードフォワード製造方法で試作されたフラットケーブル、及び従来Bはフィードバック制御により試作されたフラットケーブルにおけるそれぞれの評価結果である。



【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
上記表1、2から、発明A及び発明Bのケーブルの工程能力指数はそれぞれ3.17、2.53で、一般に製品の寸法ばらつきによる不良率が低く、安定生産が可能な目安である工程能力指数=1.5よりも大きくなるのに対して、従来A及び従来Bのケーブルの工程能力指数はそれぞれ0.57、0.89と1.5よりも小さくなることが分かる。その結果、本発明によると、外形の寸法ばらつきが少なく、寸法精度の高い良品質のフラットケーブルを安定して製造できることを検証できた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るフラットケーブルの製造装置の一実施形態を示す概要図である。
【図2】本発明に係るフラットケーブルの製造装置の他の実施形態を示す概要図である。
【図3】押出機で押し出される絶縁樹脂の樹脂圧力の曲線と押出機で形成された被覆導体の導体間隔の曲線との押出時間の経過に伴う相関関係を示すグラフである。
【図4】本発明の製造方法により製造されるフラットケーブルの2例を示すもので、(a)は導体が断面長方形状の場合の横断面図、(b)は導体が断面円形状の場合の横断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 押出機
12 引取機
14、38 外形制御手段
16 フラットケーブル
18 導体
20 絶縁体
22 被覆導体
24 幅計測部
26 導体間隔計測部
28 幅演算部
30 導体間隔演算部
32、44 演算制御部
34 幅制御部
36 導体間隔制御部
40 樹脂圧力計測部
42 樹脂圧力演算部
46 樹脂圧力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機の成形金型内に並列に配列された複数本の導体を供給し、その導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設け、形成された被覆導体を引取機で引き取ると共に、その被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御するようにしたフラットケーブルの製造方法において、被覆導体幅及び導体間隔を計測して、被覆導体幅及び導体間隔の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように被覆導体の外形を制御することを特徴とするフラットケーブルの製造方法。
【請求項2】
押出機の成形金型内に並列に配列された複数本の導体を供給し、その導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設け、形成された被覆導体を引取機で引き取ると共に、その被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御するようにしたフラットケーブルの製造方法において、前記被覆導体幅及び絶縁樹脂の樹脂圧力を計測して、被覆導体幅及び樹脂圧力の工程能力指数を算出し、工程能力指数が小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように被覆導体の外形を制御することを特徴とするフラットケーブルの製造方法。
【請求項3】
並列に配列された複数本の導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設ける押出機と、形成された被覆導体を引き取る引取機と、被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御する外形制御手段とを備えたフラットケーブルの製造装置において、前記外形制御手段が被覆導体幅を計測する幅計測部と、被覆導体の導体間隔を計測する導体間隔計測部と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部と、導体間隔の工程能力指数を算出する導体間隔演算部と、幅演算部及び導体間隔演算部で算出された被覆導体幅の工程能力指数と導体間隔の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は導体間隔を制御すべき対象に選択する演算制御部と、演算制御部で制御対象に選択された被覆導体幅又は導体間隔が目標値に収束するように、被覆導体幅又は導体間隔を制御する幅制御部及び導体間隔制御部とを備えることを特徴とするフラットケーブルの製造装置。
【請求項4】
並列に配列された複数本の導体上に絶縁樹脂を押出被覆して絶縁体を設ける押出機と、形成された被覆導体を引き取る引取機と、被覆導体の外形を計測し、その計測値と予め設定された外形の目標値とを比較して、その計測値が外形の目標値に収束するように、その被覆導体の外形を制御する外形制御手段とを備えたフラットケーブルの製造装置において、前記外形制御手段が被覆導体幅を計測する幅計測部と、絶縁樹脂の樹脂圧力を計測する樹脂圧力計測部と、被覆導体幅の工程能力指数を算出する幅演算部と、樹脂圧力の工程能力指数を算出する樹脂圧力演算部と、幅演算部及び樹脂圧力演算部で算出された被覆導体幅の工程能力指数と樹脂圧力の工程能力指数を比較して、工程能力指数の小さい方の被覆導体幅又は樹脂圧力を制御すべき対象に選択する演算制御部と、演算制御部で制御対象に選択された被覆導体幅又は樹脂圧力が目標値に収束するように、被覆導体幅又は樹脂圧力を制御する幅制御部及び樹脂圧力制御部とを備えることを特徴とするフラットケーブルの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−324215(P2006−324215A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148589(P2005−148589)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)