説明

フラーレン状窒化ホウ素の中空微粒子の製造法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、フラーレン状の窒化ホウ素の中空の微粒子を製造する合成方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、潤滑材料や触媒等として使用できるフラーレン状窒化ホウ素の微粒子の製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、カーボンを構成物質とするナノメートル径の微細な粒子であるフラーレンやナノチューブが発見され、新しい機能性材料として期待されている。C60で代表されるフラーレンは炭素原子が60個からなり、サッカーボール状の構造をしている。また、グラファイト層が多層からなり、粒子の内部が中空であるフラーレン状の微微粒子も見いだされている。
【0003】本発明者は、先にカーボンナノチューブを原料として窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法を発明し、特許出願した(特許第2972882号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】これまで、フラーレン状のカーボンや窒化ホウ素の微粒子はアーク放電法やレーザー加熱法などにより合成されている。しかし、従来の方法ではフラーレン状微粒子の収率は悪く、また生成物の大きさは一定でなく、多くの金属不純物を含んでいた。
【0005】この発明は、大きさのそろったカーボンナノチューブを出発原料とし、不純物を含まなく、しかも外径の大きさがそろったフラーレン状の窒化ホウ素の中空の微粒子を製造することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決するものとして、カーボンナノチューブを出発物質とし、ホウ素酸化物と高温下の窒素ガス中で化学反応させることによりカーボンナノチューブとほぼ同じ直径を有するフラーレン状の窒化ホウ素の中空微粒子を製造する方法を提供する。
【0007】上記の本発明者らの先の発明が黒鉛るつぼを用いて、1500℃以上の高温で反応させるのに対して、本発明は、窒化ホウ素るつぼを用いて、1500℃以下の温度で反応させる点に特徴がある。
【0008】本発明の製造方法における化学反応は下記の通りである。
B2O3 + 3C(カーボンナノチューブ)= 2BN(フラーレン状微粒子)+ 3CO上記のホウ素酸化物としては、ホウ酸、酸化ホウ素、または高温下でホウ素酸化物を発生する物質を用いることができ、加熱手段としては高周波加熱炉を用いることができる。反応るつぼの材料はカーボンでなく、窒化ホウ素を用いる。反応温度は1000℃以上1500℃以下が適しており、特に1300℃がより好ましい。反応るつぼに黒鉛を用い、1500℃以上の高温で反応させると、フラーレン状のBN微粒子でなく、BNナノチューブが生成してしまう。
【0009】
【発明の実施の形態】図1は、この発明の方法を窒化ホウ素るつぼを使用して実施するために用いる高周波誘導加熱炉の模式図である。まず、本発明の製造方法に用いる装置を説明する。高周波誘導加熱炉(1)の断熱材(2)を被覆した石英外筒(3)の内部に設置した管状の黒鉛発熱体(4)とワークコイル(5)で加熱する。小穴14を設けたBN第1るつぼ(6)中にB2O3(B)を、BN第2るつぼ(8)の中にカーボンナノチューブ(C)を配置する。BNるつぼ(6,8)は筒状の黒鉛発熱体(4)内部の黒鉛スぺーサー(7)上に配置する。筒状の黒鉛発熱体(4)に窒素ガスを上下2ヶ所の入口(9,10)から導入する。石英外筒(3)の下部には窒素ガスの排出用出口(11)を設ける。反応部の温度は、筒状の黒鉛発熱体(4)の開口部を通る光をガラスプリズム(12)で屈折させて光高温計(13)を用いて測定する。
【0010】原料の配置は、BN第1るつぼ(6)中に酸化ホウ素を、上部に位置したBN第2るつぼの中にカーボンナノチューブを置き、高温でホウ素酸化物が拡散または輸送により、カーボンナノチューブと反応する構造である必要がある。
【0011】上記の酸化ホウ素は、加熱によりホウ素酸化物を生成する物質であれば他の物質でもよい。例えば、ホウ酸、メラミンボレート等の有機ホウ酸化合物、ホウ酸と有機物の混合物等の固体、液体、さらにはホウ素、酸素を含む気体ででもよい。
【0012】反応に用いるるつぼはBN焼結体るつぼを用いる。安価で加工性がよく還元性を有する黒鉛るつぼを用いると、窒化ホウ素ナノチューブが生成し易くなる。本発明の方法において、フラーレン状の窒化ホウ素中空微粒子の生成には、1000℃以上が必要であり、好ましくは1300℃以上である。
【0013】上記に説明した装置を用いて、例えば、窒素ガス中で1300℃で1時間加熱すると、B2O3は加熱により、ホウ素酸化物(B2O3等)として気化または表面拡散によりカーボンナノチューブに到達し、化学反応を起こして、フラーレン状窒化ホウ素の中空微粒子が生成する。
【0014】本発明の方法で得られるフラーレン状窒化ホウ素微粒子の大きさ(実施例の場合、外径は約20〜50nm程度)は出発物質のカーボンナノチューブの平均太さ(実施例の場合で約20nm程度)とほぼ一致する。
【0015】
【実施例】以下に、実施例を示してさらに詳しくフラーレン状窒化ホウ素の製造方法について説明する。
実施例1図1に示す高周波加熱炉(1)を用い、平均直径約20nmのカーボンナノチューブ(C)を出発物質に用いた。内径2cm、深さ2cmのBN第1るつぼ(6)の底に酸化ホウ素(B)を0.5g、BN第2るつぼ(8)の中にカーボンナノチューブ(C)を15mgいれた。これを筒状の黒鉛発熱体(4)の内部に入れ、ガス入口(9,10)から窒素ガスを0.5リットル/分で導入し、筒状の黒鉛発熱体(4)内部に流し、ワークコイル5にて1300℃、1時間加熱後、自然冷却した。温度の測定は、黒鉛発熱体(4)の蓋に開けた開口部を通じて光高温計(13)で行った。
【0016】図1に示した装置で製造したフラーレン状窒化ホウ素の微粒子の電子顕微鏡写真を図2に示す。窒化ホウ素のフラーレン状の微粒子はグラファイト層面が6層から20層(厚みが約2〜8nm)程度で多面体状に被われ、粒子の内部は中空である。微粒子の外径は約20から50nm程度であった。
【0017】図3に示す電子エネルギー損失スペクトル分析によれば、フラーレン状微粒子の組成がB(ホウ素)と窒素(N)からでき、その組成がB:N=1:1であることを確認した。金属不純物は含まれていなかった。
【0018】
【発明の効果】フラーレン状の窒化ホウ素微粒子は、潤滑材料、耐熱性充填材料や触媒等の分野において、従来にない特性を有する新材料として応用が期待される。特に、本物質は化学的に安定で、耐熱性や強度に優れていることから、高温で作動する機械部品の潤滑材料としての用途が期待される。
【0019】本発明により、カーボンナノチューブを出発原料として、安価な簡単な方法でフラーレン状の窒化ホウ素の微粒子を製造することができる。カーボンナノチューブは既に大量生産法が確立されているので、これを出発物質として用いれば、約60%以上の収率でフラーレン状の窒化ホウ素の中空の微粒子を大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法の実施例に用いる高周波誘導加熱炉の模式図(BNるつぼ使用)である。
【図2】実施例1によって合成したフラーレン状窒化ホウ素の中空微粒子の図面代用電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1によって合成したフラーレン状窒化ホウ素の中空微粒子の電子エネルギー損失スペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
1 高周波誘導加熱炉
2 断熱材
3 石英外筒
4 黒鉛発熱体
5 ワークコイル
6 BN第1るつぼ
7 黒鉛スペーサー
8 BN第2るつぼ
9、10 窒素ガス入口
11 窒素ガス出口
12 ガラスプリズム
13 光高温計
14 小穴
B B23
C カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カーボンナノチューブを原料とし、これにホウ素酸化物および窒素を1000℃から1500℃の高温下で化学反応させることを特徴とするフラーレン状窒化ホウ素の中空微粒子の製造法。
【請求項2】 反応に用いるホウ素酸化物は酸化ホウ素(B2O3)、ホウ酸(H3BO3)または高温でホウ素酸化物を生成する物質とし、反応に用いるガスは窒素とすることを特徴とする請求項1記載のフラーレン状窒化ホウ素の中空微粒子の製造法。
【請求項3】 ホウ素酸化物粉末とカーボンナノチューブを窒化ホウ素焼結体からなるるつぼの中に入れて、高周波誘導加熱炉の中に置き、窒素ガス中で加熱することを特徴とする請求項1または2記載のフラーレン状窒化ホウ素の中空微粒子の製造法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【特許番号】特許第3496050号(P3496050)
【登録日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【発行日】平成16年2月9日(2004.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−111620(P2000−111620)
【出願日】平成12年4月13日(2000.4.13)
【公開番号】特開2001−294409(P2001−294409A)
【公開日】平成13年10月23日(2001.10.23)
【審査請求日】平成12年4月14日(2000.4.14)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【参考文献】
【文献】特開2000−109306(JP,A)
【文献】日本セラミックス協会年会講演予稿集,2000年 3月21日,Vol.2000,p85