説明

フルオロスルホン酸リチウムの製造方法、およびフルオロスルホン酸リチウム

【課題】従来知られている方法では、反応性が高い三酸化硫黄(またはこれを含む発煙硫酸)を用いる必要があったり、加水分解によってフッ化水素を生成するガス状無機フッ化物の副生を伴ったりする為、一般的な反応設備での実施は難しく、それに伴う製造コストが増大する課題がある。また、その他の方法でも、生成物に酢酸が吸着する可能性が高く、その除去が問題となると考えられる。本発明は、上記のような問題に鑑みて、温和な条件で高純度のフルオロスルホン酸リチウムを安定に製造する方法を提供する。
【解決手段】非水溶媒中で、カルボン酸リチウムとフルオロスルホン酸との反応工程を経て得ることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロスルホン酸リチウムの製造方法、およびフルオロスルホン酸リチウムに関する。詳しくは、非水溶媒中において、ハロゲン化リチウムとフルオロスルホン酸とを反応させることによるフルオロスルホン酸リチウムの製造方法、およびフルオロスルホン酸リチウムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等の広範な用途にリチウム二次電池等の非水系電解液二次電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の非水系電解液二次電池に対する高性能化の要求はますます高くなっている。
これまで、非水電解液二次電池の特性を改善するための手段として、数多くの技術が検討されている。例えば特許文献1には、フルオロスルホン酸リチウムを電解質とすると、60℃充放電サイクル評価時の放電容量が高い電池が得られることが記載されている。
このフルオロスルホン酸リチウムを製造する方法については、以下の二法が報告されているのみである。
【0003】
非特許文献1では、フルオロスルホン酸アンモニウムと水酸化リチウム水溶液を混合してフルオロスルホン酸リチウムの三水和物を得たと報告している。
しかしながら、この手法では、一旦アンモニウム塩を合成した後、改めてリチウム塩へのカチオン交換を実施している為、煩雑であり、かつ脱離するアンモニアの混入が懸念される。
【0004】
また、同文献内ではフルオロスルホン酸カリウム塩が、加水分解性を有することと報告されており、リチウム塩もその可能性が高いことから、水和物が長期に安定に保存出来るかどうか懸念が残る。
さらには、電解液に溶解した際にこの水が六フッ化リン酸リチウムを分解してフッ化水素を副生するという悪影響を与えることからこの結晶水を予め取り除く必要があり、さらに操作が煩雑になる。
【0005】
特許文献2では、各種溶液中で塩化リチウム又は硫酸リチウムと、各種ナトリウム塩・カリウム塩との塩交換反応により、各種リチウム塩を製造可能なことが記載されており、その中にフルオロスルホン酸リチウムも含まれている。しかしながら、本特許文献の実施例は、水溶液中にて、水に安定な硝酸リチウム、臭化リチウムを製造しているのみで、加水分解性の疑われるフルオロスルホン酸リチウムを製造する実施例は報告されていない。また、本特許文献においては、目的物である各種リチウム塩と、副生物であるナトリウム又はカリウムの塩化物塩又は硫酸塩の分離には、その溶解度差を利用している。溶液を濃縮することで溶解度の低い副生物を先に析出させ、これを濾別することで目的物の各種リチウム塩を溶解させた溶液を取り出すことにより、単離している。この手法では、目的物であるリチウム塩と副生物塩の溶解度の差が大きな溶媒を用いなければ高い回収率は望めず、フルオロスルホン酸リチウムの製造方法に適応した場合の回収率は未知数である。
【0006】
一方、リチウムと同じアルカリ金属であり、リチウムよりも広く用いられることの多いナトリウム・カリウムの塩については、以下のような製造方法が知られている。
(1)フッ化ナトリウム・カリウムと、三酸化硫黄又は発煙硫酸を反応させる方法(特許文献3、4及び非特許文献2)
(2)無機フッ化物塩と三酸化硫黄との反応(非特許文献3(六フッ化ケイ酸塩)、非特許文献4(六フッ化リン酸塩))
(3)酢酸溶媒中、フルオロスルホン酸と酢酸カリウムとの塩交換反応(非特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−296849号公報
【特許文献2】WO1998013297公報
【特許文献3】DE1010503公報
【特許文献4】SU223070公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft (1919), 52B 1272
【非特許文献2】Inorganic Chemistry (1967), 6(2), 416
【非特許文献3】Journal of Fluorine Chemistry (1984), 24(4), 399
【非特許文献4】Synthesis and Reactivity in Inorganic and Metal-Organic Chemistry (1992), 22(10), 1533
【非特許文献5】Journal of the Chemical Society [Section] A、(1967), (3), 355
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記(1)については、反応性が高い三酸化硫黄(またはこれを含む発煙硫酸)を用いる必要があり、(2)については、加水分解によってフッ化水素を生成するガス状無機フッ化物の副生を伴う為、双方とも一般的な反応設備での実施は難しく、それに伴う製造コストが増大する課題がある。(3)については、生成物に酢酸が吸着する可能性が高く、その除去が問題となると考えられる。そこで、本発明は、上記のような問題を鑑みて、温和な条件で高純度のフルオロスルホン酸リチウムを安定に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フルオロスルホン酸とカルボン酸リチウムを、非水溶媒中で反応させることで、温和な条件で高純度のフルオロスルホン酸リチウムを高い収率で製造することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、
<1>非水溶媒中で、カルボン酸リチウムとフルオロスルホン酸との反応工程を経て得ることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウムの製造方法、に関するものであり、
<2>前記反応工程に用いられる非水溶媒が、カルボン酸以外の非水溶媒であることが好ましく、
<3>また、前記反応工程に用いられる非水溶媒が、非プロトン性極性有機溶媒であることが好ましく、
<4>また、前記反応工程後に副生するカルボン酸を除去する工程を経ることが好ましく、
<5>また、前記カルボン酸を除去する工程が、蒸留操作により為されることが好ましく、
<6>また、前記カルボン酸を除去が、反応工程後に副生するカルボン酸よりも高い沸点を持つ非水溶媒の溶液中から行われることが好ましく、
<7>また、前記カルボン酸を除去する工程に用いられる非水溶媒が、非プロトン性極性
有機溶媒であることが好ましく、
<8>また、前記非水溶媒が、鎖状炭酸エステルであることが好ましく、
<9>また、前記反応工程またはカルボン酸を除去する工程後に、精製工程を経ることが好ましく、
<10>また、前記精製工程中に、反応工程で得られた粗フルオロスルホン酸を含む非水溶液に、さらに、非水溶媒を混合する操作を有することが好ましく、
<11>また、<10>に記載の非水溶媒が、非プロトン性極性有機溶媒であることが好ましく、
<12>また、<11>に記載の非プロトン性極性有機溶媒が、鎖状炭酸エステルであることが好ましく、
<13>さらに、<1>〜<12>に記載の製造方法により得られたフルオロスルホン酸リチウムであって、当該フルオロスルホン酸リチウム中のカルボン酸の含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの全量に対して、5.0×10−2mol/kg以下であることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウム、に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法を用いることで、高純度なフルオロスルホン酸リチウムを、温和な条件で高い収率にて製造することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
<フルオロスルホン酸リチウムの製造方法>
<1.カルボン酸リチウムとフルオロスルホン酸との反応工程>
本発明は、非水溶媒中で、カルボン酸リチウムとフルオロスルホン酸との反応工程を経て得ることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウムの製造方法、に関する。
【0013】
本発明にて用いられるカルボン酸リチウムは、特に限定はされないが、具体的には以下のようなものが挙げられる。
1)脂肪族モノカルボン酸
ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、フェニル酢酸リチウム、等
2)脂肪族ジカルボン酸モノリチウム
シュウ酸水素リチウム、マロン酸水素リチウム、コハク酸水素リチウム、フマル酸水素リチウム、マレイン酸水素リチウム、等
3)脂肪族ジカルボン酸ジリチウム
シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、フマル酸リチウム、マレイン酸リチウム、等
4)芳香族モノカルボン酸
安息香酸リチウム、等
5)芳香族ジカルボン酸モノリチウム
フタル酸水素リチウム、テレフタル酸水素リチウム、等
6)芳香族ジカルボン酸ジリチウム
フタル酸リチウム、テレフタル酸リチウム、等
これらのカルボン酸リチウムの中でも、安価で高純度品が容易に入手可能であることから、脂肪族モノカルボン酸リチウム、脂肪族ジカルボン酸ジリチウムが好ましい。
【0014】
さらに、モノカルボン酸リチウムとしては、沸点が低い脂肪族モノカルボン酸が副生する系が除去の容易性から好ましく、具体的には、ギ酸リチウム、酢酸リチウムが好ましい。
また、ジカルボン酸ジリチウムでは、分子内元素中のリチウム含有比率が高い方が、廃棄物量が減る等の観点から好ましく、具代的には、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウムが好ましい。
【0015】
これらの中でもギ酸リチウム、酢酸リチウムが好ましく、入手の容易性から酢酸リチウムが最も好ましい。
これらのカルボン酸リチウムは単独で用いても組み合わせてもよいが、操作を複雑にしない為に単独で用いることが好ましい。
本発明の反応に用いられるカルボン酸リチウムは、市販のものをそのまま用いても精製して用いてもよく、他の化合物から製造して用いてもよい。純度については特に限定はされないが、フルオロスルホン酸リチウム中にハロゲン化リチウム由来の不純物が残存することにより、電池等の性能が悪化することが懸念される為、より高純度であることが好ましく、好ましくは99質量%以上で有ることが好ましい。
【0016】
本発明の反応に用いられるフルオロスルホン酸は、市販のものをそのまま用いても精製して用いてもよく、他の化合物から製造して用いてもよい。純度については特に限定はされないが、フルオロスルホン酸リチウム中にフルオロスルホン酸由来の不純物が残存することにより、電池等の性能が悪化することが懸念される為、より高純度であることが好ましく、好ましくは99質量%以上で有ることが好ましい。
本発明の反応工程で用いられるフルオロスルホン酸とカルボン酸リチウム中のリチウムとの仕込みの量比は特に限定はされないが、原料の消費効率の観点から比率が1:1から大きく外れないことが好ましい。
【0017】
本発明の反応工程に用いられるフルオロスルホン酸とカルボン酸リチウム中のリチウムの仕込みの量比(フルオロスルホン酸に対するハロゲン化リチウムの量比)は、下限値としては、フルオロスルホン酸の仕込み量がカルボン酸リチウム中のリチウムに対して多くなると、フルオロスルホン酸がフルオロスルホン酸リチウム中に残存して純度を下げる等の問題が起こりうる可能性があることから、フルオロスルホン酸とカルボン酸リチウム中のリチウムの仕込みの量比(フルオロスルホン酸に対するハロゲン化リチウムの量比)は、好ましくは1モル倍以上、より好ましくは1.01モル倍以上、さらに好ましくは1.05モル倍以上であり、上限値としては、好ましくは2モル倍以下、さらに好ましくは1.5モル倍以下、さらに好ましくは1.2モル倍以下である。フルオロスルホン酸に対するハロゲン化リチウムの量比を上記範囲内調整すると煩雑な精製工程を経ることなく高純度のフルオロスルホン酸リチウムが高収率で製造できるために好ましい。
【0018】
本発明の反応工程に用いられる非水溶媒は、水以外であれば特に限定はされないが、副生するカルボン酸を除去し易くするという観点から、カルボン酸以外の非水溶媒であることが好ましい。また、フルオロスルホン酸が強いプロトン酸であることから、プロトン酸との反応性が低い非プロトン性極性有機溶媒であることが好ましい。また、生成したフルオロスルホン酸リチウムの溶解性が極端に低くないものが、安定して反応させられること点で好ましい。反応工程に用いられる非水溶媒に対するフルオロスルホン酸リチウムの溶解度は、室温において好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。
【0019】
また、反応工程に用いられる非水溶媒の沸点は、残存して電池等の性能が悪化しない様に、高過ぎないことが好ましく、具体的には、常圧にて300℃以下が好ましく、さらに200℃以下が好ましく、さらに150℃以下が好ましい。沸点が上記範囲外にあると、用いる非水溶媒によるが、得られるフルオロスルホン酸リチウム中に残留し、電池性能に悪影響を与える場合がある。
【0020】
本発明の反応工程に用いられる非水溶媒は、具体的には、無水弗酸又は有機溶媒が好ましく、その中でも有機溶媒がより好ましく、特に、非プロトン性極性有機溶媒が好ましい。非プロトン性極性有機溶媒としては、具体的には、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の鎖状炭酸エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル;メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル等の鎖状スルホン酸エステル;アセトニトリル、プロピオニトリル等の鎖状ニトリル;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル;等が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の鎖状炭酸エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル;アセトニトリル、プロピオニトリル等の鎖状ニトリル;が好ましく、さらにはその入手の容易性から、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、酢酸エチル、アセトニトリルが好ましい。
一方、残留した場合の電池特性等に与える影響から、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の鎖状炭酸エステルが好ましい。これらのことから、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルが好ましく、さらに、炭酸ジエチルは、沸点が炭酸ジエチルより低いカルボン酸が存在することから最も好ましい。
【0022】
これらの非水溶媒は単独で用いても組み合わせてもよいが、操作を複雑にしない為に単独で用いることが好ましい。
本発明の反応工程に用いる非水溶媒のフルオロスルホン酸に対する比率は、特に限定されないが、好ましくは体積比100倍以下、さらに好ましくは50倍以下、さらに好ましくは25倍以下である。また、反応に用いる溶媒のフルオロスルホン酸に対する比率は、好ましくは体積比2倍以上、さらに好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上である。上記範囲内にあると、製造の効率に優れ、得られるフルオロスルホン酸リチウムが反応中に過度に析出することなく、攪拌を阻害する等の問題が発生し難くなる。
【0023】
また、本発明の反応工程を開始する際の温度は、特に限定されないが、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。また、反応を行う際の温度は、好ましくは−20℃以上、さらに好ましくは−10℃以上、さらに好ましくは0℃以上である。本発明の反応工程を開始する際の温度が上記範囲内にあると、溶媒の揮発や予測されざる副反応の発生等の問題が生じにくく、反応速度の低下等の問題も防ぐことができる。
【0024】
本発明の反応工程における反応系への投入の順序は、特に限定はされず、フルオロスルホン酸の溶液を攪袢させながら固体のカルボン酸リチウムを投入しても、固体のカルボン酸リチウムを溶媒中に懸濁させながら、フルオロスルホン酸を滴下してもよい。また滴下するフルオロスルホン酸は溶媒に希釈してなくとも、希釈されていてもよい。ここで、フルオロスルホン酸を溶媒に希釈して滴下する場合、好ましくは体積比5倍以下、さらに好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下である。希釈溶媒の量が上記範囲内であると、反応系内の溶媒の総量が適量となる。
【0025】
本発明の反応工程における投入の時間は、特に限定はされないが、好ましくは10時間以下、さらに好ましくは5時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。また、本発明の反応における投入の時間は、好ましくは1分以上、さらに好ましくは5分以上、さらに好ましくは10分以上である。本発明の反応工程における投入の時間が上記範囲内にあることで、製造効率に優れる。
【0026】
本発明の反応工程における投入時の温度は、特に限定されないが、好ましくは開始時の
温度+20℃以下、さらに好ましくは+10℃以下、さらに好ましくは+5℃以下である。本発明の反応における投入時の温度は、好ましくは開始時の温度−20℃以上、より好ましくは−10℃以上、さらに好ましくは−5℃以上であり、開始時の温度前後に保つことが特に好ましい。本発明の反応工程における投入時の温度が上記範囲内にあると、溶媒の揮発や予測されざる副反応の発生等の問題や反応速度の低下等の問題が生じにくくなる。
【0027】
本発明の反応工程においては投入後に熟成工程を経ることが好ましい。前記熟成工程での熟成中の温度は特に限定されないが、反応時の温度に対して+100℃以下が好ましく、さらに+80℃以下が好ましく、さらに+50℃以下が好ましい。また、熟成時の温度は、反応時の温度に対して+5℃以上が好ましく、さらに+10℃以上が好ましく、さらに+20℃以上が好ましい。熟成工程での熟成中の温度が上記範囲であると、溶媒の揮発や予測されざる副反応の発生等の問題や反応速度の低下等の問題が生じにくくなる。
また、投入時の温度より高くとも低くとも構わないが、熟成の効果を高める為には高い方が好ましい。
【0028】
熟成工程の温度が上記範囲内であると、溶媒の揮発や副反応の発生等が抑制され、また製造の効率が良好となるために熟成の効果を十分に得ることができる。
本発明の反応工程における上記熟成工程の時間は、特に限定はされないが、好ましくは20時間以下、さらに好ましくは10時間以下、さらに好ましくは5時間以下である。また、本発明の反応における反応の時間は、好ましくは1分以上、さらに好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上である。熟成工程の時間が上記範囲内であると、製造の効率が良好となり、熟成の効果を十分に得ることができる。
【0029】
本発明の反応工程時の雰囲気は特に制限されないが、原料のフルオロスルホン酸や生成物のフルオロスルホン酸リチウムが水によって分解する懸念があることから、外気を遮断した雰囲気下で混合を行うことが好ましく、乾燥空気又は、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気下で混合を行うことがより好ましい。これら気体は反応工程開始時に設備内に導入した後に密閉されてもよいし、連続的に装置内に供給・排出してもよい。
【0030】
本発明の反応工程における反応の設備は、一般的な化学品製造に用いられる材質であれば特に限定はされないが、万が一大気中の水が混入してフルオロスルホン酸が加水分解した場合弗酸を生成する可能性が有る為、弗酸に腐蝕されにくい材質を使用することが好ましく、特に、反応槽等反応溶液と長時間接する部位に関して弗酸に腐蝕されない材質を使用することが好ましい。具体的には反応槽にガラス類以外を使用することが好ましい。
【0031】
<2.過剰なカルボン酸リチウムの除去>
上記反応工程後の非水溶液から、(粗)フルオロスルホン酸リチウムを回収する方法に関しては特に限定はされない。
また、反応工程時にカルボン酸リチウムを過剰に用いた場合、選択するカルボン酸リチウムの種類と非水溶媒の種類との組合せによっては過剰なカルボン酸リチウムが不溶分として残存する場合が有る。この場合、精製工程に先立ち、予めこの過剰なカルボン酸リチウムの不溶分を分離しておくことが望ましい。カルボン酸リチウムの不溶分の分離方法に関しては特に限定されず、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の濾過、静置、遠心による沈降して上澄みを取り出す等を用いることが出来、さらにこれらの手法を組合せたり、同一の手法を繰り返したりすることが出来る。なお、この工程は、反応工程後、反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程後又はその途中、カルボン酸を除去する工程の途中のいずれかの段階で実施すれば良い。
続いて、反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程、副生するカルボン酸を除去する工程について説明するが、副生するカルボン酸の種類と選択する非水溶媒の種類によって
、工程の順序を入れ替える、または双方の工程を兼ねて一工程として行うことが出来る。
【0032】
<3.反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程>
反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く方法については、特に限定はされないが、濃縮留去等を用いることが出来る。濃縮留去を行う際の温度は特に限定されないが、反応工程時の温度を大きく超えない温度に制御することが好ましい。濃縮留去時の温度は、高すぎると予測されざる副反応の発生等の問題から好ましくない。好ましくは熟成時の温度に対して+50℃以下が好ましく、さらに+40℃以下が好ましく、さらに+30℃以下が好ましい。濃縮留去を行う際の圧力は常圧、減圧のどちらでも構わないが、濃縮の際の好ましい温度に合わせて設定される必要がある。
【0033】
反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く量については、特に限定されず、乾固させても一部残存させてもよいが、完全に乾固させない場合は、結晶化による精製効果も期待できる可能性が有る為好ましい。
反応時に用いた溶媒を残存させる量としては、残存させる量が多すぎると固体として回収される量が少なくなることがあるため、好ましくは、投入したフルオロスルホン酸の体積比で20倍以下が好ましく、さらに体積比で15倍以下が好ましく、さらに体積比で10倍以下が好ましい。一方、残存させる量が少なすぎると粘稠なスラリー状態になり、取扱いが困難になることがあるため、反応時に用いた溶媒を残存させる量としては、好ましくは、投入したフルオロスルホン酸の体積比で0.3倍以上が好ましく、さらに体積比で0.5倍以上が好ましく、さらに体積比で1倍以上が好ましい。
【0034】
但し、固体として取扱いが可能になるまで乾固させた場合はこの限りではない。
反応工程時に用いた非水溶媒を残存させた場合は、この溶媒と固体を分離する必要が有る。分離方法に関しては特に限定されず、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の濾過、静置、遠心による沈降して上澄みを取り出す等を用いることが出来る。
なお、副生するカルボン酸の種類と選択する溶媒の種類によって、本工程と次項に述べる工程双方の工程を兼ねて一工程として行うことが出来る。
【0035】
<4.カルボン酸を除去する工程>
副生するカルボン酸を除去する工程については、副生するカルボン酸の物性によって、二種類の方法を適宜選択することが出来る。
1)副生するカルボン酸が操作を実施する温度において液体である場合
蒸留操作により除去する
2)副生するカルボン酸が操作を実施する温度において固体である場合
フルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸が難溶・不溶であり除去が容易である溶媒にフルオロスルホン酸リチウムを溶解し、得られたスラリーから、副生するカルボン酸を固体と液体を分離する各種手法により分離する。
【0036】
1)の場合においては、蒸留操作での除去する圧力や温度は特に限定はされないが、反応工程時の温度を大きく超えない温度に制御することが好ましい。除去時の温度は、高すぎると予測されざる副反応の発生等が懸念されるため好ましくない。好ましくは熟成時の温度に対して+50℃以下が好ましく、さらに+40℃以下が好ましく、さらに+30℃以下が好ましい。除去を行う際の圧力は常圧、減圧のどちらでも構わないが、除去の際の好ましい温度に合わせて設定される必要がある。
【0037】
さらに、副生するカルボン酸の除去をより完全に行う為、フルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸の沸点よりも高い沸点を有しさらに除去が容易な溶媒を用いてこの溶媒を一部または全て除去する操作を行うことが好ましい。
この操作は、反応工程後に、フルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボ
ン酸の沸点よりも高い沸点を有しさらに除去が容易な非水溶媒をさらに加えて行ってもよく、予め反応溶媒としてフルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸の沸点よりも高い沸点を有しさらに除去が容易な非水溶媒を選択して反応溶媒の除去と副生するカルボン酸の除去を一工程で兼ねてもよい。工程を簡略化するためには一工程で兼ねることがより好ましい。
【0038】
また、本操作に先立って、カルボン酸と共沸性を持ちさらに除去が容易な非水溶媒を加えて、共沸によりカルボン酸を除く操作を加えてもよい。この操作を実施する場合には、本工程で使用するフルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸の沸点よりも高い沸点を有しさらに除去が容易な非水溶媒よりも低い沸点の非水溶媒を用いると、用いたカルボン酸と共沸性を持ち除去が容易な溶媒の除去が容易になる為好ましい。
【0039】
本工程にて用いるフルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸の沸点よりも高い沸点を有しさらに除去が容易な非水溶媒は、副生するカルボン酸の種類によって異なるが、例えば、ギ酸リチウムでは、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等が好ましく、酢酸リチウムでは、炭酸ジエチル等が好ましい。
これらの溶媒を蒸留操作により除く際は、理論段数が多段の精留塔を用いることがより好ましい。
【0040】
精留塔の構造としては、特に指定はされず、工業的に用いられている物を適宜使用できる。また、精留塔の理論段数としては、低すぎると精留効果が得られない為、好ましくは2段以上、さらに好ましくは3段以上、さらに好ましくは5段以上であり、あまり高すぎると工業的な生産性が低下する為、好ましくは50段以下、さらに好ましくは30段以下、さらに好ましくは10段以下か好ましい。
【0041】
2)の場合においては除去する方法は特に限定されないが、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の濾過、静置、遠心による沈降して上澄みを取り出す等を用いることが出来、さらにこれらの手法を組合せたり、同一の手法を繰り返したりすることが出来る。
過剰なカルボン酸リチウムを取り除いた後に、一旦反応に用いた非水溶媒を除去し、改めてフルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸が難溶・不溶であり除去が容易である非水溶媒を加えて実施してもよいし、あらかじめ反応工程で用いる非水溶媒にフルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸が難溶・不溶であり除去が容易である非水溶媒を用い、過剰なカルボン酸リチウムと副生するカルボン酸を一度に取り除いてもよい。副生するカルボン酸を除去した後の溶媒の除去に関しては、反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程に準じて行うことが出来る。
【0042】
本工程にて用いるフルオロスルホン酸リチウムが可溶でかつ副生するカルボン酸が難溶・不溶であり除去が容易である非水溶媒は、副生するカルボン酸の種類によって異なるが、例えば、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウムを用いた場合には、特に限定されないが、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等が好ましい。
【0043】
<5.精製工程>
本発明においては、フルオロスルホン酸リチウムの純度を更に上げるために、精製工程を経ることが好ましい。具体的には、反応工程を経て得られた(粗)フルオロスルホン酸リチウムを非水溶媒に接触させた後、洗浄、再結晶、再沈殿等の操作を経ることにより、高純度化できる。前記操作の中でも、再結晶法を用いることがより好ましい。さらには、再結晶法行った後に洗浄を行うことが好ましい。再結晶の回数としては特に限定されず、繰り返し実施してもよい。洗浄の回数としては特に限定されず、繰り返し実施してもよく、再結晶を繰り返した場合はその度毎に少なくとも一回以上実施することが好ましいが、特に限定されない。
【0044】
精製工程に用いる溶媒としては水以外であれば特に限定はされないが、有機溶媒であることが好ましく、さらに非プロトン性極性有機溶媒であることがより好ましい。
非プロトン性極性有機溶媒としては、具体的には、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の鎖状炭酸エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル;メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル等の鎖状スルホン酸エステル;アセトニトリル、プロピオニトリル等の鎖状ニトリル;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル、等が挙げられる。
【0045】
これらの中でも、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の鎖状炭酸エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル;アセトニトリル、プロピオニトリル等の鎖状ニトリル、が好ましく、さらにはその入手の容易性から、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、酢酸エチル、アセトニトリルが好ましい。一方、残留した場合の電池特性等に与える影響から、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の鎖状炭酸エステルが好ましい。これらのことから、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルが最も好ましい。これらの溶媒は単独で用いても組み合わせてもよい。
【0046】
なお、再沈殿法を行う際に用いられる貧溶媒に関してはこの限りではなく、溶解せしめた溶媒より極性の低い溶媒であれば特に限定はされない。
精製工程に再結晶を行う際の溶媒量については特に限定はされないが、少なくとも一度は(粗)フルオロスルホン酸リチウムを溶解させる量が必要である一方、多すぎると再結晶時の回収効率が低下する為好ましくない。好ましい量は、フルオロスルホン酸リチウムの溶解度が用いる溶媒によって異なるため、特に限定されないが、例えば炭酸ジメチルの場合には、好ましくは粗製フルオロスルホン酸リチウム固体の質量に対して2倍量以上が好ましく、さらに好ましくは3倍量以上が好ましく、さらに好ましくは5倍量以上が好ましい。また、例えば炭酸ジメチルの場合には、好ましくは粗製フルオロスルホン酸リチウム固体の質量に対して20倍量以下が好ましく、さらに好ましくは15倍量以上が好ましく、さらに好ましくは10倍量以下が好ましい。
【0047】
精製に再結晶を行う際の溶解時の温度は特に限定されないが、高すぎると加熱による分解が懸念される為好ましくなく、低すぎるとほぼ完溶させる為に多量の溶媒を必要とするため好ましくない。精製に再結晶を行う際の溶解時の温度は、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
再結晶を行う際、溶解後結晶化させる前に不溶な不純物が残存している懸念が有る為、濾過等の方法にて不溶物を除去する操作を行うことが好ましい。
【0048】
再結晶時の結晶化の温度については、溶解温度より低い温度であれば特に限定はされないが、回収効率を上げる為には低い方が好ましく、一方で回収効率を上げすぎると取り除きたい可溶性の不純物まで沈殿させてしまうおそれが有る。結晶化時の温度は、用いる再結晶溶媒によって好ましい温度が異なるため、特に限定されないが、例えば炭酸ジメチルの場合には、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下であり、また好ましくは−50℃以上、さらに好ましくは−20℃以上、さらに好ましくは0℃以上である。
【0049】
<6.精製工程後の処理>
上記精製工程を経て得られたフルオロスルホン酸リチウムの固体には、上記精製工程に用いた非水溶媒が残存している為、乾燥により除去することが好ましい。溶媒の除去方法
は特に限定はされないが、除去の操作にて高い温度をかけると熱分解が懸念される為好ましくない。一方、温度が低すぎると十分な除去が行われない可能性が有る為好ましくない。除去の温度は、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。また、好ましくは0℃以上、さらに好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上である。除去の時間は、長ければ長いほど除去効率があがり好ましい一方、生産効率が落ちる。このことから、適切な範囲の時間で実施することが好ましい。除去の時間は好ましくは、30分以上、さらに好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上である。また、除去の時間は好ましくは、24時間以下、さらに好ましくは10時間以下、さらに好ましくは5時間以下である。
【0050】
<7.フルオロスルホン酸リチウム>
フルオロスルホン酸リチウムを電池等に用いた場合により高い性能を示す為に、純度は高いことが好ましいが、その中でも、例えばカルボン酸リチウムを用いて製造した場合、電池内で容易に酸化されるカルボン酸イオンが電解液
中に溶解しないように除去されていることが電池特性を制御する上で望ましい。これは、水に溶かした際のカルボン酸イオン量を測定することで確認が出来る。
【0051】
フルオロスルホン酸リチウムのカルボン酸の含有量は、上限値としては、通常5.0×10−2mol/kg以下であり、好ましくは3.0×10−2mol/kg以下、より好ましくは2.5×10−2mol/kg以下であり、更に好ましくは2.0×10−2mol/kg以下、最も好ましくは1.0×10−2mol/kg以下である。一方で、下限値としては、1.0×10−5mol/kg以上であり、好ましくは5.0×10−5mol/kg以上、より好ましくは1.0×10−4mol/kg以上である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明について具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、任意に変形して実施することができる。
分析にはイオンクロマトグラフィー測定と、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定を用いた。また、カルボン酸除去時、留出する成分中のカルボン酸量の分析にはガスクロマトグラフィーを用いた。
【0053】
イオンクロマトグラフィーはカラムとしてダイオネクス社のICS−3000を用い、メーカーが推奨する従来公知の無機陰イオンの分析条件に従って実施した。測定サンプルの希釈溶媒は純水を用いた。
NMRはジメチルスルフォキシド−d6を測定溶媒に、ベンゾドリフルオリドを内部標準として用いて測定し、そのシグナルと積分値から、フルオロスルホン酸イオン分と溶媒の比を求めた。
ガスクロマトグラフィーはFID検出器を有する島津製作所製のGC−17Aを用い、カラムにはGLサイエンス社製のTC−1(径0.53μm、膜厚0.2μm、全長50m)を用い、各成分の試薬の検出面積比を試薬のそれと比較した。
【0054】
(実施例1)
<反応工程>
乾燥窒素気流下、200mlのPFA製四口フラスコに酢酸リチウム6.8g(103.1mmol)を量り取り、炭酸ジメチル125mlを加えた。この溶液を氷浴中で攪袢しながらフルオロスルホン酸5ml(8.6g、86.2mmol)を約10分かけてと滴下した。滴下前に10℃であった液温は、酸の滴下により発熱し20℃まで昇温されたが、滴下終了後に速やかに元の温度に戻った。滴下に伴い、炭酸ジメチルに難溶である酢酸リチウムが溶解した。氷水浴にて冷却しながら2時間撹拌した後、氷水浴を外し室温環
境下にて1時間攪袢した。反応終了後の溶液からメンブレンフィルター(PTFE製、公称孔径0.5μm)を用いて過剰の酢酸リチウムを濾別した。
【0055】
<反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程>
上記反応溶液から約10kPa、40℃で炭酸ジメチルを留出が終了するまで蒸留留去し、透明で粘稠な液体を得た。
NMR分析結果から得られた粉末はフルオロスルホン酸リチウムと酢酸、炭酸ジメチルの混合物であり、イオンクロマトグラフィーの結果から、硫酸イオンの含量は0.3mol/kgであった。
【0056】
<カルボン酸を除去する工程>
上記の粘稠な液体に、150mlの炭酸ジエチルを加え、トートクエンジ社製のHelipackNo.1を充填した精留塔を用いて、60℃、6.0kPaにて減圧蒸留を開始し、2.4kPaまで徐々に減圧真空度を変化させた。ここまでの流出量は、135mlであった。
ロータリーエバポレーターにて残りの炭酸ジエチルを留去したところ白色の固体が得られた。イオンクロマトグラフィーによる分析の結果、酢酸イオンの含量は0.001mol/kg以下であった。
【0057】
(実施例2)
<反応工程>
乾燥窒素気流下、500mlのPFA製四口フラスコに酢酸リチウム7.9g(120.1mmol)を量り取り、炭酸ジメチル250mlを加えた。この溶液を水浴中で攪袢しながらフルオロスルホン酸5.43ml(10.0g、100mmol)を約10分かけて滴下した。滴下前に25℃であった液温は、酸の滴下により発熱し30℃まで昇温されたが、滴下終了後に速やかに元の温度に戻った。滴下に伴い、炭酸ジメチルに難溶である酢酸リチウムが溶解した。水浴にて1時間撹拌した。
【0058】
<反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程>
上記反応溶液を浴温45℃にて減圧度を制御しながら炭酸ジメチルを約220ml蒸留留去し、脱水された不活性ガスにて大気圧に復圧後、300mlの炭酸ジエチルを加えた。この溶液からメンブレンフィルター(PTFE製、公称孔径0.5μm)を用いて過剰の酢酸リチウムを濾別した。
【0059】
<カルボン酸を除去する工程>
上記溶液をトートクエンジ社製のHelipackNo.2を充填した10cmの精留塔を用いて、浴温45℃にて、減圧度を制御しながら、残りの炭酸ジメチルと炭酸ジエチルを炭酸ジエチルが残り約10mlとなるまで留去した。
【0060】
<精製工程>
脱水された不活性ガスにて大気圧に復圧後、浴温45℃を保ちながら、炭酸ジメチルを40ml加えた。得られた溶液を、脱水された不活性ガス雰囲気下、メンブレンフィルター(PTFE製、公称孔径0.5μm)を用いて熱時漉過を行い、溶液を不活性ガス雰囲気下で徐々に4℃まで冷却したところ、白色結晶が得られた。収率は66%、硫酸イオンの含量は0.01mol/kg以下、酢酸イオンの含量は0.001mol/kg以下であった。さらに、得られた固体を45℃にて50mlのDMCに溶解し、同様の工程を実施したところ、90%の回収率で、硫酸イオン・酢酸イオン共に0.001mol/kg以下の白色結晶を得た。
【0061】
(実施例3)
<反応工程>
乾燥窒素気流下、500mlのPFA製四口フラスコに酢酸リチウム7.9g(120.1mmol)を量り取り、炭酸ジエチル300mlを加えた。この溶液を水浴中で攪袢しながらフルオロスルホン酸5.43ml(10.0g、100mmol)を約10分かけて滴下した。滴下前に25℃であった液温は、酸の滴下により発熱し30℃まで昇温されたが、滴下終了後に速やかに元の温度に戻った。滴下に伴い、炭酸ジエチルに難溶である酢酸リチウムが溶解した。水浴にて1時間撹拌した。
【0062】
<反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程とカルボン酸を除去する工程を兼ねた工程>
上記溶液をトートクエンジ社製のHelipackNo.2を充填した10cmの精留塔を用いて、浴温45℃にて、減圧度を制御しながら、炭酸ジエチル合わせて220mlを留去した。脱水された不活性ガスにて大気圧に復圧後、この溶液からメンブレンフィルター(PTFE製、 公称孔径0.5μm)を用いて過剰の酢酸リチウムを濾別した。
この漉過後の溶液から、さらに炭酸ジエチルを残り約10mlになるまで同条件にて留去した。
【0063】
<精製工程>
実施例2と同様に実施したところ、65%の収率で、白色結晶が得られた。硫酸イオンの含量は0.01mol/kg以下、酢酸イオンの含量は0.001mol/kg以下で実施例2と同様であった。さらに、得られた固体を45℃にて50mlのDMCに溶解し、同様の工程を実施したところ、90%の回収率で、硫酸イオン・酢酸イオン共に0.001mol/kg以下の白色結晶を得た。これも実施例2と同様であった。
【0064】
(比較例1)
溶媒に水を用いた以外は実施例1と同様に<反応>操作を行った。
得られた濃縮を実施例1の<濃縮>操作と同様に濃縮した所固体は析出しなかった。
イオンクロマトグラフィー分析の結果、フルオロスルホン酸が全量硫酸に加水分解していることが確認された。
【0065】
(実施例4)
実施例2と同様に<反応工程>を実施し、<反応工程時に用いた非水溶媒を取り除く工程>と同様の条件で炭酸ジメチルが約40ml程度まで留去されたところで、留去を留め、<精製工程>と同様に冷却したところ、結晶の生成は見られなかった。
しかし、約0.2kPa以下まで減圧し、残った炭酸ジメチルを留去したところ白色のワックス状の固体を得ることができた。この固体中のフルオロスルホン酸リチウムに対する酢酸イオン量は0.063mol/kgであった。
【0066】
(実施例5)
実施例3と同様に<反応工程>を実施した後、炭酸ジエチルを、ロータリーエバポレーターで5Torr以下を保ちながら一気に200ml留去し、実施例3同様に過剰の酢酸リチウムを濾別した後、さらにロータリーエバポレーターで5Torr以下を保ちながら一気に10ml程度まで濃縮した。実施例3と同様に<精製工程>工程を実施したところ、50%の収率で白色粉末が得られた。酢酸イオンの含量は0.11mol/kgと高かったが、硫酸イオンの含量は0.01mol/kg以下に抑えることができた。さらに、得られた固体を45℃にて50mlのDMCに溶解し、同様の工程を実施したところ、90%の回収率で白色結晶が得られ、酢酸イオンはあまり減少しなかったが、硫酸イオンを0.001mol/kg以下と更に減少することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒中で、カルボン酸リチウムとフルオロスルホン酸との反応工程を経て得ることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記反応工程に用いられる非水溶媒が、カルボン酸以外の非水溶媒であることを特徴とする請求項1に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記反応工程に用いられる非水溶媒が、非プロトン性極性有機溶媒である請求項1または2に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記反応工程後に副生するカルボン酸を除去する工程を経ることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸を除去する工程が、蒸留操作により為されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記カルボン酸を除去が、反応工程後に副生するカルボン酸よりも高い沸点を持つ非水溶媒の溶液中から行われることを特徴とする請求項5に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法
【請求項7】
前記カルボン酸を除去する工程に用いられる非水溶媒が、非プロトン性極性有機溶媒であることを特徴とする請求項6に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の非水溶媒が、鎖状炭酸エステルである請求項1〜6の何れか1項に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項9】
前記反応工程またはカルボン酸を除去する工程後に、精製工程を経ることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項10】
前記精製工程中に、反応工程で得られた粗フルオロスルホン酸を含む非水溶液に、さらに、非水溶媒を混合する操作を有することを特徴とする請求項9に記載のフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の非水溶媒が、非プロトン性極性有機溶媒であることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の非プロトン性極性有機溶媒が、鎖状炭酸エステルであることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウムの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の製造方法により得られたフルオロスルホン酸リチウムであって、当該フルオロスルホン酸リチウム中のカルボン酸の含有量が、フルオロスルホン酸リチウムの全量に対して、5.0×10−2mol/kg以下であることを特徴とするフルオロスルホン酸リチウム。

【公開番号】特開2012−232888(P2012−232888A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94091(P2012−94091)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)