説明

ブラキバクテリウム属に属する微生物を担持させた介護用衣料

【課題】ブラキバクテリウム属に属する新規な微生物を担持した、就寝用衣料、手袋、靴下、足袋および下着の介護用衣料を提供する。
【解決手段】介護用衣料は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を持つブラキバクテリウム属に属する新規な微生物を担持していること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラキバクテリウム(Brachybacterium)属に属する微生物を担持させた介護用衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラキバクテリウム属に属する細菌としては、現在のところ下記のようなものが知られている。

Brachybacterium conglomeratum

Brachybacterium faecium

Brachybacterium nesterenkovii

Brachybacterium paraconglomeratum

Brachybacterium rhamnosum
しかしながら、これらのブラキバクテリウムについては、その産業的利用性については、全く研究がなされていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本願の発明者らは、ブラキバクテリウムについて鋭意研究を重ねたところ、ブラキバクテリウムは、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を持つことを知見した。

本発明の課題は、この知見に基づくものであり、上記ブラキバクテリウムを担持させた介護用衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、下記構成(1)〜(6)により達成することができる。
(1) 黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を持つブラキバクテリウム属に属する微生物を担持させた介護用衣料。
(2) 前記ブラキバクテリウムが下記の菌学的性質を有するブラキバクテリウム属に属する新規微生物である請求項1に記載の介護用衣料。
1.形態 :多形性桿菌
2.グラム染色性 :+
3.胞子 :−
4.運動性 :−
5.酸素に対する態度 :好気性
6.オキシダーゼ :−
7.カタラーゼ :+
8.集落の色調 :黄色系
9.抗酸性 :−
10.桿状‐球状 サイクル :+
11.集落の周辺細胞の伸長 :−
12.細胞壁のジアミノ酸 :メソ‐ジアミノピメリン酸
13.グリコリル試験 :−(アセチル型)
14.細胞壁のアラビノ・ガラクタンポリマー :−
15.ミコール酸 :−
16.キノン系 :MK−7,−8
17.菌体内DNAのGC含量 :72mol%
18.硝酸塩の還元 :+
19.脱窒反応 :+
20.メチルレッド試験 :−
21.V−P反応 :−
22.インドールの生成 :−
23.硫化水素の生成
TSI寒天 :−
酢酸鉛寒天 :−
24.デンプンの加水分解 :+
25.クエン酸塩の利用
コーサー(Koser)の培地 :−
クリステンセン(Christensen)の培地:−
26.無機窒素源の利用
硝酸塩 :−
アンモニウム塩 :微弱
27.色素の生成 :+(黄色系)
28.ウレアーゼ :−
29.オキシダーゼ :−
30.生育の範囲
pH :6.0〜10.0
温度 :9〜42℃
31.酸の生成
D−アラビノース :−
L−アラビノース :+
D−キシロース :+
D−グルコース :+
D−マンノース :+
D−フラクトース :+
D−ガラクトース :+
マルトース :+
シュークロース :+
ラクトース :+
トレハロース :+
D−ソルビトール :−
D−マンニトール :+
イノシトール :−
グリセリン :+
デンプン :+
メレチトース :−
D−リボース :−
32.ガスの生成
L−アラビノース :−
D−キシロース :−
D−グルコース :−
D−マンノース :−
D−フラクトース :−
D−ガラクトース :−
マルトース :−
シュークロース :−
ラクトース :−
トレハロース :−
D−ソルビトール :−
D−マンニトール :−
イノシトール :−
グリセリン :−
デンプン :−
(3) 就寝用衣料である上記(1)または(2)に記載の介護用衣料。
(4) 手袋である上記(1)または(2)に記載の介護用衣料。
(5) 靴下又は足袋である上記(1)または(2)に記載の介護用衣料。
(6) 下着である上記(1)または(2)に記載の介護用衣料。
上記の新規ブラキバクテリウムの菌学的性質の試験および分類は、下記の文献に従い行なった。
【0005】
1) インターナショナル ジャーナル システマティック バクテリオロジー (International Journal Systematic Bacteriology)、第38巻、第45〜48ページ (1988)
2) インターナショナル ジャーナル システマティック バクテリオロジー (International Journal Systematic Bacteriology)、第42巻、第74〜78ページ (1992)
3) インターナショナル ジャーナル システマティック バクテリオロジー(International Journal Systematic Bacteriology)、第46巻、第81〜87ページ (1996)
4) インターナショナル ジャーナル システマティック バクテリオロジー(International Journal Systematic Bacteriology)、第45巻、第160〜168ページ (1995)
【0006】
その結果、その微生物は、多形性を示す無芽胞のグラム陽性桿菌であることからブラキバクテリウムであると同定されたが、菌体成分の分析結果が、上記の文献に記載されているいずれの菌種とも一致せず、ブラキバクテリウムに属する新菌であることが確認された。当該微生物は、ブラキバクテリウム(Brachybacterium)菌株AAA−a(寄託番号:FERM P−16951)として工業技術院生命工学工業技術研究所微生物寄託センターに寄託されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の介護用衣料は、ブラキバクテリウムを担持している。ブラキバクテリウムとしては、下記の新規微生物を用いることが好ましい。
以下、上記のブラキバクテリウムに属する新規微生物の菌学的性質を説明する。
【0008】
1.形態 :多形性桿菌(図1及び図2を参照)
2.グラム染色性 :+
3.胞子 :−
4.運動性 :−
5.酸素に対する態度 :好気性
6.オキシダーゼ :−
7.カタラーゼ :+
8.集落の色調 :黄色系
9.抗酸性 :−
10.桿状‐球状 サイクル(rod‐coccus cycle) :+(図1及び図2を参照)
11.集落の周辺細胞の伸長 :−
12.細胞壁のジアミノ酸 :メソ‐ジアミノピメリン酸(全細胞の酸
加水分解物より推定)
13.グリコリル試験 :−(アセチル型)
14.細胞壁のアラビノ・ガラクタンポリマー :−(全細胞の酸加水分解物よ
り推定)
15.ミコール酸 :−
16.キノン系 :MK−7,−8
17.菌体内DNAのGC含量 :72mol%
(HPLC法による)
18.硝酸塩の還元 :+
19.脱窒反応 :+
20.メチルレッド試験 :−
21.V−P反応 :−
22.インドールの生成 :−
23.硫化水素の生成
TSI寒天 :−
酢酸鉛寒天 :−(酢酸鉛は加えずに酢酸鉛
試験紙を懸垂して試験)
24.デンプンの加水分解 :+
25.クエン酸塩の利用
コーサー(Koser)の培地 :−
クリステンセン(Christensen)の培地:−
26.無機窒素源の利用
硝酸塩 :−
アンモニウム塩 :微弱
27.色素の生成 :+(黄色系)
28.ウレアーゼ :−
29.オキシダーゼ :−
30.生育の範囲(肉汁ブロスを用いて試験。その際、下記pHは0.5、温
度は1℃刻みに試験を行った)
pH :6.0〜10.0
温度 :9〜42℃
最適生育条件
pH :7.5〜9.0
温度 :18〜27℃
31.酸の生成
D−アラビノース :−
L−アラビノース :+
D−キシロース :+
D−グルコース :+
D−マンノース :+
D−フラクトース :+
D−ガラクトース :+
マルトース :+
シュークロース :+
ラクトース :+
トレハロース :+
D−ソルビトール :−
D−マンニトール :+
イノシトール :−
グリセリン :+
デンプン :+
メレチトース :−
D−リボース :−
32.ガスの生成
L−アラビノース :−
D−キシロース :−
D−グルコース :−
D−マンノース :−
D−フラクトース :−
D−ガラクトース :−
マルトース :−
シュークロース :−
ラクトース :−
トレハロース :−
D−ソルビトール :−
D−マンニトール :−
イノシトール :−
グリセリン :−
デンプン :−
【0009】
上記の新規微生物は一般栄養培地であるならいかなる培地でも良好に成育する。他のブラキバクテリウムも同様である。
【0010】
培養は、好ましくは5〜30℃、最も好ましくは18〜27℃程度で良好に増殖する。
【0011】
上記の新規微生物の形態的性質は下記の通りである。
(1)細胞の形及び大きさ:
1) 肉汁寒天培地を用いて培養した場合
・30℃、6時間培養では1.2〜1.4×1.5〜1.9ミクロンの多形性の短桿菌である。
・30℃、24時間培養では1.2〜1.4×1.2〜1.5ミクロンの球菌様を示す。
2) 肉汁液体培地を用いて培養した場合
・30℃、24時間培養で1.0〜1.2×1.3〜1.4ミクロンの球菌様を示す。
(2)細胞の多形性:
多形性、及び、桿状−球状 サイクルを認める(図1および2を参
照)。
(3)運動性は認められない。
(4)胞子の形成は認められない。
【0012】
各培地における上記の新規微生物の培養的性質は下記の通りである。
(1)肉汁寒天平板培地を用いて培養した場合:
・集落は平滑、全縁で光沢が認められる。
・黄色系の集落色素の生成が認められる。
(2)肉汁液体培地を用いて培養した場合:
・培地全体における生育及び沈殿が認められる。
・表面皮膜の形成は認められない。
(3)肉汁ゼラチン穿刺を用いて培養した場合:
・培地の上部に生育が認められるが、液化は認められない。
(4)リトマス・ミルクを用いて培養した場合:
・培地全体に生育が認められるが、凝固及び液化は認められない。
・酸の生成がわずかに認められる。
上記の新規微生物を始めとするブラキバクテリウムは、水や液体培地に分散させ、布製又は紙製の衣料に担持される。布製の衣料としては、織布や不織布を用いることができる。材料としては、木綿、麻等の天然繊維や、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル等の化学繊維を用い、織布、不織布等の形態で形成された布、あるいは紙(以下、担体と称することがある)を基体としている。上記布等からなる担体には、ブラキバクテリウムが下記に詳細に説明するように担持されている。ブラキバクテリウムの担持部分は、上記布等の一部であってもよいし、また、ブラキバクテリウム担持布製あるいは紙製リボン等を衣料に縫い付けたり、貼り付けたりした構造のものであってもよい。
【0013】
衣料を構成する布の一部の材料として、遠赤外線放射特性を持つ酸化物セラミックスの粒子が、望ましくは内部に混入されている繊維を用いることが好ましい。ここで使用する遠赤外線放射性酸化物セラミックスとしては、粘土に酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ等のM金属酸化物を添加して焼結させたものがあり、具体的にはZrO2−SiO2系セラミックス・Al2O3−SiO2系セラミックス・TiO2−Cr2O3系セラミックス・Al2O3−(Si,Ti)O2系セラミックス・(Al,Fe,B,Cr)2O3−SiO2−(アルカリ金属、アルカリ土類金属)酸化物系セラミックスが挙げられる。
【0014】
ここにおいて、前記酸化物セラミックスは、体温とほぼ等しい35.5〜36.5℃に暖められたとき、人体の赤外線吸収波長に一致した、波長のピークが8〜14μmの電磁波を放射する遠赤外線放射特性を持ったものが用いられている。
【0015】
上記のような担体に微生物群を担持させるには、上記微生物群を水や液体培地に分散させて準備した微生物群分散液を担体に吹きかけるが、これに浸漬した後、乾燥すればよい。
【0016】
担体の微生物群の担持量は、担持させるときの条件によっても異なるが、好ましくは、5個〜200億個/cm3、更に好ましくは10個〜100億個/cm3である。
【0017】
本発明のブラキバクテリウム担持衣料は、黄色ブドウ球菌の抗菌・除菌に有効であり、長期療養者等の床ずれ等の防止の効果が期待できる。また、脱臭効果が確認された。
【0018】
なお、上記の新規微生物は、マウスによる経口投与試験によりその安全性が確認された。上記の効果から、上記ブラキバクテリウム担持衣料は、介護用衣料として用いることができる。
【実施例】
【0019】
実施例1
次に、本発明の実施例について説明する。
まず、次のような組成の培地を調製した。
【0020】
培地
ペプトン 5g
肉エキス 5g
水 500m1
培地のpH 6.8±0.2

以上の組成の培地にブラキバクテリウム菌株AAA−aを接種し、30℃にて振とう培養を行った。対数期に達した培地を滅菌した生理食塩水にて希釈し、生菌数約1×108/mlになるように調製し、この調製液を直接ブドウ球菌に振り掛けることにより接種したところ、ハローの特性が認められた。上記の他のブラキバクテリウムについても同様の実験を行ったところ、上記新規菌株よりは機能が劣るものの、黄色ブドウ球菌に対してハローの特性が認められた。
【0021】
実施例2
ブラキバクテリウム菌株AAA-aを、ハートインフュージョン、ブイヨン培地に接種し、30℃にて振とう培養を行った。
対数期に達した培地を滅菌した生理食塩水にて希釈し、生菌数1×108/ml程に調製する。その調製水を生菌数1×104/cm2 程度になるように、布、紙などの担体に塗布し乾燥させる。その様にして作られた素材を用い、浴衣を作成した。 これを、寝たきりとなった患者に着させたところ、6ヶ月を経過しても床ずれが生じなかった。
本浴衣を用いない外は同じ環境の患者にあっては、早い者で1ヶ月、遅い者でも3ヶ月で床ずれができてしまった。なお、いずれも床ずれ防止用の特別の器具は用いなかった。
【0022】
なお、菌は汗等の栄養物により6時間後には3×107 /cm2にまで増殖する。この増殖したブラキバクテリウムの持つハローの特性により黄色ブドウ球菌を除去する。ブドウ球菌により発病する、肺炎、敗血症、骨髄炎、ブドウ球菌腸炎、ブドウ球菌性熱傷様症候群、毒素性ショック症候群を防止できることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図面代用写真であって、本発明の衣料に用いて好ましい新規微生物の形 態を示す顕微鏡写真である。
【図2】図面代用写真であって、本発明の衣料に用いて好ましい新規微生物の形 態を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を持つブラキバクテリウム属に属する微生物を担持させた介護用衣料。
【請求項2】
前記ブラキバクテリウムが下記の菌学的性質を有するブラキバクテリウム属に属する新規微生物である請求項1に記載の介護用衣料。
1.形態 :多形性桿菌
2.グラム染色性 :+
3.胞子 :−
4.運動性 :−
5.酸素に対する態度 :好気性
6.オキシダーゼ :−
7.カタラーゼ :+
8.集落の色調 :黄色系
9.抗酸性 :−
10.桿状‐球状 サイクル :+
11.集落の周辺細胞の伸長 :−
12.細胞壁のジアミノ酸 :メソ‐ジアミノピメリン酸
13.グリコリル試験 :−(アセチル型)
14.細胞壁のアラビノ・ガラクタンポリマー :−
15.ミコール酸 :−
16.キノン系 :MK−7,−8
17.菌体内DNAのGC含量 :72mol%
18.硝酸塩の還元 :+
19.脱窒反応 :+
20.メチルレッド試験 :−
21.V−P反応 :−
22.インドールの生成 :−
23.硫化水素の生成
TSI寒天 :−
酢酸鉛寒天 :−
24.デンプンの加水分解 :+
25.クエン酸塩の利用
コーサー(Koser)の培地 :−
クリステンセン(Christensen)の培地:−
26.無機窒素源の利用
硝酸塩 :−
アンモニウム塩 :微弱
27.色素の生成 :+(黄色系)
28.ウレアーゼ :−
29.オキシダーゼ :−
30.生育の範囲
pH :6.0〜10.0
温度 :9〜42℃
31.酸の生成
D−アラビノース :−
L−アラビノース :+
D−キシロース :+
D−グルコース :+
D−マンノース :+
D−フラクトース :+
D−ガラクトース :+
マルトース :+
シュークロース :+
ラクトース :+
トレハロース :+
D−ソルビトール :−
D−マンニトール :+
イノシトール :−
グリセリン :+
デンプン :+
メレチトース :−
D−リボース :−
32.ガスの生成
L−アラビノース :−
D−キシロース :−
D−グルコース :−
D−マンノース :−
D−フラクトース :−
D−ガラクトース :−
マルトース :−
シュークロース :−
ラクトース :−
トレハロース :−
D−ソルビトール :−
D−マンニトール :−
イノシトール :−
グリセリン :−
デンプン :−
【請求項3】
就寝用衣料である請求項1または2に記載の介護用衣料。
【請求項4】
手袋である請求項1または2に記載の介護用衣料。
【請求項5】
靴下又は足袋である請求項1または2に記載の介護用衣料。
【請求項6】
下着である請求項1または2に記載の介護用衣料。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−231656(P2008−231656A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104395(P2008−104395)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【分割の表示】特願平11−212633の分割
【原出願日】平成11年7月27日(1999.7.27)
【出願人】(598075701)株式会社伸栄フェルメンテック (1)
【Fターム(参考)】