説明

ブラスト加工用投射材およびその製造方法

【課題】 研磨紙や研磨布による研磨等の従来技術に比べ、非常に短時間で、被加工物表面に梨地状の凹凸を発生させることなく鏡面化、或いは平滑面化することが可能なブラスト加工用投射材およびブラスト加工用投射材の製造方法を提供する。
【解決方法】 径が10〜3,000μmの塩化ビニル粒子の表面に1〜50μmの砥材を担持させることにて形成する。ポリ塩化ビニル粒子、砥材、可塑剤、成形助剤を加熱しながら混練することによって製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被加工面に対し投射材を噴射するブラスト加工において、被加工面の面粗度を小さくし、該被加工面を鏡面、或いは光沢面等とする為の投射材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工面の面粗度を小さくして、該被加工面を鏡面、或いは光沢面化等とする研磨加工方法としては、研磨紙や研磨布等による研磨や、バフによる研磨や、ラッピングや、回転する砥粒との接触による研磨等が用いられてきた。しかしながら、いずれの研磨方法においても、該被加工面が鏡面または光沢面等に仕上がるまで相当の加工時間が必要であった。そこで、ブラスト加工を該加工に適用し、加工時間の短縮を図る試みが行われている。
【0003】
ブラスト加工とは、セラミックスや、金属や、樹脂等の投射材を被加工面に噴射することで該被加工面を加工する方法である。短時間で被加工面を加工できるが、投射材の衝突により該被加工面に梨地状の凹凸が形成されやすく、被加工面の鏡面化、或いは光沢面化等には不向きである。
【0004】
梨地状の凹凸の形成を抑制し、被加工面の鏡面化、或いは光沢面化を行うために、例えば特許文献1にはゼラチンを核体とし、これに砥材と水を含ませた投射材を使用することが提案されている。しかし、ブラスト加工中に、該投射材中の水分が蒸発した結果、被加工面に梨地状の凹凸を形成することとなるため、投射材に定期的に水分を補給することが必要となる。そのため、ブラスト装置が煩雑となる(例えば特許文献2参照)
【0005】
また、特許文献3では、ゴムまたは熱可塑性エラストマーに砥材を10〜90質量%混合した投射材を使用することが提案されている。しかし、砥材の含有量が少ない場合は例えば目詰まりにより投射材としての寿命は短く、ブラスト加工装置から頻繁に新品との入れ替えが必要となり効率が悪い。一方、砥材の含有量が多い場合、例えば70質量%以上とした場合は、ゴムまたはエラストマーより砥材が容易に脱落し、新生面が現れることにより前記のような目詰まりが発生せず、投射材としての寿命は長く、連続して良好な研磨能力を有するが、砥材は比較的高価であるため投射材の価格に上昇の要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−207160
【特許文献2】特開2009−190108
【特許文献3】特開2006−159402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされた物であり、被加工面に梨地状の凹凸の形成を抑制して、該被加工面を鏡面化、或いは光沢面化等をブラスト加工にて行うに際し、研磨能力を維持するための特別な装置を必要とせず、また長時間の使用においても連続して安定した研磨能力を有し、かつ安価な投射材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、径が10〜3,000μmの塩化ビニル粒子の表面に1〜50μmの砥材を担持させて形成された略球形粒子である、という技術的手段を用いる。
【0009】
請求項1に記載の発明によると、被加工物表面に梨地状の凹凸を形成させることなく、被加工面の鏡面化或いは平滑面化をブラスト加工にて効率よく行うことができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のブラスト加工用投射材において、前記塩化ビニル粒子中に可塑剤が70質量%以下の含まれている、という技術的手段を用いる。
【0011】
塩化ビニル粒子中に可塑剤が含まれることで、塩化ビニル粒子は軟化する。つまり可塑剤の含有率が高い程塩化ビニル粒子の硬度は低い。被加工面の鏡面化、或いは光沢面化を達成するためには、被加工物の材質および形状に最適な硬さをもつ投射材を使用することが重要である。請求項2に記載の発明の様に該塩化ビニル粒子中に70質量%以下の可塑剤が含まれていることで、被加工物の材質および形状に合わせた硬度をもつ塩化ビニル粒子、ひいては投射材を得ることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載のブラスト加工用投射材において、前記塩化ビニル粒子の中心部から表面部に向かって硬度が連続的に軟化されている、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項3に記載の発明によると、投射材の外周面に比べ内部の硬度が硬いので、該投射材が被加工面と衝突する際の衝突エネルギーが大きくなり、高い研磨力を得ることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のブラスト加工用投射材において、前記砥材の担持量が前記投射材の1〜50体積%である、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、砥材の担持量が前記投射材の1〜50体積%であることによってブラスト加工時に発生する粉塵等が砥材間に入り込むこと(目詰まり)による研磨力の低下を防ぎ、長時間に渡り高い研磨力を維持することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のブラスト加工用投射材の製造方法において、塩化ビニル重合体および砥材、さらには必要に応じ可塑剤および/または成形助剤を添加するとともに、60〜200℃で加熱しながら混練することによって製造する、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項5に記載の発明によると、非常に簡易な方法にてブラスト加工用投射材を得ることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載のブラスト加工用投射材の製造方法において、大気圧基準で0.1〜0.8MPaで加圧しながら混練する、という技術的手段を用いる。
【0019】
請求項6に記載の発明によると、大気圧基準で0.1〜0.8MPaで加圧しながら混練することで、品質がより安定したブラスト加工用投射材を短時間で得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、研磨紙や研磨布による研磨等の従来技術に比べ、非常に短時間で、被加工物表面に梨地状の凹凸を発生させることなく鏡面化、或いは平結面化することが可能となり、また長時間にわたり高い研磨力を維持できるブラスト加工用投射材を得ることができる。
【0021】
特に塩化ビニル粒子に含まれる可塑剤の量を適宜選択することで、被加工物の材質および形状に合わせたブラスト加工用の投射材を得ることができる。
【0022】
また、例えばポリ塩化ビニル粒子といった原料粒子から、ペレット等への成形を必要とせず、非常に簡易な方法にてブラスト加工用投射材を得ることができる。
【0023】
また、前記のような簡易な製造工程ばかりでなく、砥材の使用量を比較的少なくできるため、安価にブラスト加工用投射材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明におけるブラスト加工用投射材の模式図である。
【図2】砥材の担持状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
原料として、ポリ塩化ビニル粒子(以降、原料粒子)と砥材を使用する。また、添加する可塑剤および形成助剤を必要に応じて使用する。
【0026】
ポリ塩化ビニル粒子は一般に塩素化したエチレン(Vinyl Chloride Monomer:VCM)より懸濁重合法によって得られる。ポリ塩化ビニルの懸濁重合法は、一般に開始剤および界面活性剤が分散された溶媒中で、界面活性剤により外郭にミセルを形成したVCMを形成され、ミセル中のVCMが成長することで進行する。開始剤はパーオキシエステル系およびジカーボネイト系の水溶性開始剤等が使用される。本実施例における原料粒子も懸濁重合法によって得られたが、本発明は懸濁重合法に限定されずその他公知の手法によって得てもよい。
【0027】
可塑剤が含有されることで、塩化ビニル粒子の硬さは柔らかくなる。塩化ビニル粒子の硬さは可塑剤の添加量によって決まる。被加工物の材料および形状により投射材、ひいては塩化ビニル粒子に求められる硬さは異なり、可塑剤の添加量により適宜調整する。本発明において可塑剤を添加する必要がある場合のブラスト加工用投射材に用いる場合の可塑剤の添加量は、塩化ビニル粒子に対し70質量%以下、より好ましくは20〜60%質量%含有させるように添加する。塩化ビニル可塑剤の含有量が70質量%を越えると、塩化ビニル粒子が必要以上に柔らかくなり、たとえ該塩化ビニル粒子表面に砥材を担持させたとしても投射材として必要な硬さは十分に得られず、被加工面に対し十分な衝突エネルギーを得ることができない。その結果、被加工面に対し十分な研磨力を得ることができない。
【0028】
可塑剤は、一般にフタル酸エステル系化合物およびそれに類するもの、およびそれらの化合物物を用いるが、本発明はこれに限定されず、例えばトリトメット酸エステル、脂肪酸エステル、アジピン酸等、公知の物質を用いることができる。
【0029】
形成助剤は、本発明の塩化ビニル粒子およびブラスト加工用投射材を形成するために必要に応じ添加する物質である。具体的には、本実施例において、原料粒子内に可塑剤を含浸させるために必要な炭酸カルシウムや、塩化ビニル粒子の形状や組成を安定させる為に必要な各種安定剤(Pb系、Sn系、複合金属石けん系)等が挙げられる。その他、必要に応じ物品および量を適宜選択し用いることができる。
【0030】
砥材は、一般のブラスト加工で用いる投射材や、一般の研磨方法で用いる研磨剤等の中から少なくとも1種類以上選択される。例えば、ホワイトアランダムやガラスやダイヤモンド等をはじめとするセラミックス系や、鉄やステンレス等をはじめとする金属系や、カルシウムの炭酸塩や硫化塩等をはじめとする無機系や、クルミやピーチ等をはじめとする植物系等、PETやPP等をはじめとする樹脂系(ただし、本発明における投射材における核となる塩化ビニルより高硬度のもの)、などが挙げられる。砥材の粒子径は1〜50μm、より好ましくは1〜20μmから選択される。砥材の粒子径が1μmを下回ると被加工面の鏡面化、或いは平滑面化を行うのに必要な研磨能力を得ることができず、50μmを越えると塩化ビニル粒子表面への担持力が弱く、被加工面との衝突により砥材が必要以上に脱落する。
【0031】
砥材を担持する塩化ビニル粒子の径は10〜3,000μm、好ましくは10〜1,000μmより好ましくは50〜300μmから選択される。10μmを下回ると、砥材を十分に担持できないばかりでなく、たとえ担持できたとしてブラスト加工に用いた場合被加工面に対して十分な研磨能力を得ることができない。さらに、ブラスト加工装置では、噴射手段(例えばエアブラスト加工装置における噴射ノズル)により被加工物に向けて噴射された投射材は分級装置(例えばサイクロン式分級装置)により再使用が可能な投射材と、それ以外に分けられ、再使用が可能な投射材は再度噴射手段へ送られ噴射される。該塩化ビニル粒子の径が1μmを下回るものを投射材として使用した場合、前記の様に分級装置にて再使用が可能な投射材を分離することが困難となる。また、3,000μmを上回ると、ブラスト加工時に、投射材が被加工面と衝突する際に被加工面に梨地状の凹凸が形成される。また、前記塩化ビニル粒子は製造方法にもよるが粒子径が1,000μm以下の物が比較的製造が容易である。
【0032】
前記原料を所定量計量し、混練装置に投入する。混練装置には加熱手段が備えられており、該加熱手段を用いて原料を60〜200℃から選択される温度にて加熱しながら混練を行った。
【0033】
加熱を行いながら攪拌を行うことで、原料粒子の表面に砥材が担持される。可塑剤を使用しない場合は原料粒子がそのまま本発明における塩化ビニル粒子となる。原料粒子表面への砥材の担持は、加熱により原料粒子表面が軟化することによって行われる。加熱温度が60℃を下回ると、原料粒子表面の軟化が十分でなく、原料粒子表面に砥材が十分に担持されない。
【0034】
原料として可塑剤を添加した場合は、加熱して混練することで原料粒子の中心に向かって可塑剤が浸透し、本発明における塩化ビニル粒子が形成される。一方、砥材および形成助剤等製造上必要な物質は該粒子の中心部まで浸透することはなく、該粒子表面およびその周辺に担持される。即ち、原料粒子中への可塑剤の含浸と砥材の担持が同一の工程にて行われる。本発明における「粒子表面に砥材が担持された状態」とは、砥材ばかりでなく、前述の通り製造上必要な物質が担持されている場合も含まれる。
【0035】
また、加熱温度によって可塑剤が原料粒子中に含浸する速度および量が異なるため、得られる塩化ビニル粒子中の可塑剤の分布が変化する。即ち、低温での混練では可塑剤の含浸の進行は緩やかであり、結果として得られた塩化ビニル粒子は中心部から表面に向かって段階的に柔らかい粒子が得られる。加熱温度が160℃以上で可塑剤は塩化ビニル粒子の中心まで含浸している。しかし、160℃を越えると塩化ビニルの側鎖にある塩素が塩化水素として分解を開始するため、160℃を越える温度で加熱する場合は必要に応じて安定剤を添加する。加熱温度をさらに上昇させ200℃を越えると、塩化ビニルの主鎖の分裂が開始し、物性が大きく変化するので加熱温度は200℃以下とする必要がある。
【0036】
前記混練は、大気圧基準で0.1〜0.8MPa、より好ましくは0.1〜0.5MPaに加圧して行う。0.1MPa以上の加圧を行うことによって、前記砥材の担持や、可塑剤を添加した場合には原料粒子中への可塑剤の含浸がより促進されるが、0.8MPaを越えると隣り合う塩化ビニル粒子同士が凝集する等、塩化ビニル粒子の形状が維持できない。
【0037】
また、混練時間によっても原料粒子中への可塑剤の含浸量が変化する。よって、混練時の加熱温度および混練時間を適宜調整することにより、被加工品の材質や形状に最適な硬さおよび研磨力を有する粒子を得ることができる。含浸された可塑剤が塩化ビニル粒子中に均一に分散されている場合、前記粒子はどの部位においても一様な硬さであるが、均一に分散されていない場合は部位によって硬さは異なる。即ち可塑剤は外周部より中心部に向かって含浸するため、可塑剤が前記粒子の中心部まで十分に到達していない場合は、前記粒子の中心部と外周部では可塑剤の含有率に差があり、外周部の方が含有率は高くなる。その結果、前記粒子の中心部に比べ外周部は軟質である。
【0038】
こうして得られた粒子を必要に応じて分級することで、塩化ビニル粒子11の表面に砥材12および製造上必要な物質(本実施形態では形成助剤13)が担持されている図1に示すようなブラスト加工用投射材を得た。なお、分級は篩や風力分級等公知な手法によって行うことができ、方法は特に限定されない。また、該投射材の形状は略球形である。球形であることにより、担持されている砥材は、該投射材表面に対し偏りなく均等に担持されている。
【0039】
得られたブラスト加工用投射材は、砥材が塩化ビニル粒子に対し1〜50体積%、より好ましくは5〜30体積%担持されている。1体積%を下回ると、該投射材表面への砥材の露出量が少なく被加工面に対して十分な研磨力を得ることができない。50体積%を上回ると、該投射材における砥材の量が多くなったことにより全体的な硬度が上昇し、ブラスト加工によって被加工面に梨地状の凹凸を形成、或いは被加工面に傷が生じる。
【0040】
なお、本発明における塩化ビニル粒子の表面へ砥材が担持されている状態は、表面のみに担持されているばかりではなく、表面付近にも担持(例えば砥材が積み重ねられて層を形成)している場合も含まれる。具体的には、図2に示すように該投射材の中心部を中心とした、径が少なくとも70%未満の範囲内に砥材が担持されていなければよい。即ち、図2に示すように直径Aμmのブラスト加工用投射材20の中心部を中心に直径0.7×Aμm以上の範囲が塩化ビニル21のみの領域であればよく,残部は塩化ビニルと砥材が共存している領域22である。
【0041】
こうして得られた投射材を、空気式ブラスト加工装置に投入した。空気式ブラスト装置は、吸引式(重力式)と加圧式(直圧式)があるが、本実施例では吸引式を例に説明する。
【0042】
吸引式ブラスト加工装置は、ブラスト加工室、ブラスト加工用ノズル、圧縮空気供給装置、分級装置、集塵装置より構成されている。ブラスト加工室内にセットされたブラスト加工用ノズルに、圧縮空気供給装置により圧縮空気を供給することで、該ノズル内部に負圧(吸引力)が発生する。この負圧の流れに投射材を投入することで、該圧縮空気に投射材が混入され、混合気流となって、該ノズルの噴射口より噴射される。
【0043】
該ノズルは被加工面より所定の距離を離して、被加工面に対し45°に傾斜してセットされている。該ノズルの噴射口より噴射された投射材は被加工面に高速で衝突し、被加工面の研磨が行われる。同時に、該投射材は被加工面との衝突により一部の研磨粒子が脱落する。
【0044】
噴射された投射材、被加工面の切削物や、該投射材より脱落した研磨粒子等の粉塵、等は分級装置(例えばサイクロン式分級装置)に移送される。そこで、再利用可能な投射材は、投射材ホッパーに移送され、再び該ノズルに投入される。一方、粉塵や再利用できない投射材は集塵機にて捕集される。
【0045】
被加工面の全体を加工するために、該ノズルもしくは被加工物を移動しながら所定時間投射材の噴射を行った。所定時間噴射した後、投射材の噴射を停止して被加工物をブラスト加工室より取り出し、被加工物をエアブローや水洗等にて洗浄し、鏡面化、もしくは光沢面化の加工が完了する。
【0046】
(変更例)
本実施形態では、原料粒子としてポリ塩化ビニル粒子を使用したが、ポリ塩化ビニルの共重合体、ポリ塩化ビニルデンの重合体または共重合体、及び可塑剤により可塑化可能である公知の高分子材料を使用することができる。
【0047】
原料の攪拌の際は大気圧下で行ってもよい。前記砥材の担持速度や、可塑剤を添加した場合における原料粒子中への可塑剤の含浸速度が緩やかとなるため、ブラスト加工用投射材の物性値の細かい調整が可能である。
【0048】
ブラスト加工は空気式に限定されず、例えば羽根車の回転によって投射材を被加工物に衝突させる遠心式等、公知の方法を選択することができる。
【0049】
該ノズルと被加工面との成す角度は垂直を含む0ないし180°の範囲より任意に設定することができる。
【実施例】
【0050】
(原料)
原料粒子にポリ塩化ビニルの粒子(ZEST 1300Z:新第一塩ビ(株)製)を、可塑剤にフタル酸ジイソノニル(ビニサイザー90:花王(株)製)を、形成助剤に炭酸カルシウム(NS#400:日東粉化工業(株)製)を、砥材にカーボランダム(GC#4000:新東工業(株)製)を使用した。これらを原料とし、混合比を2:3:2:3とした。
【0051】
(混練条件)
混練は、加圧式混練装置(自作品)を用いた。混練装置の加熱温度を120℃に設定し、混練時の圧力、混練時間を変化させた。具体的には、大気圧下で20分混練して得た試料を実施例1、大気圧下で60分混練して得た試料を実施例2、0.3MPa(大気圧基準)で20分混練して得た試料を実施例3とした。
【0052】
(ブラスト加工)
得られたブラスト投射材を、ブラスト加工装置(MY−30:新東工業(株)製)を用いて、φ40mmの被加工面を持ち、硬さがHRC62(JISG0202)のSK−3C熱処理品に噴射した。なお噴射条件は、噴射圧力は0.3MPa、ノズルと被加工面の距離は100mm、ノズルと被加工面の角度は45度とし、5分間の加工を行った。
【0053】
(評価)
ブラスト加工後、エアブローおよび水洗等により被加工面の洗浄を行った後、面粗度および光沢度について評価をおこなった。面粗度は表面粗さ計(SURFCOM1500SD:(株)東京精密製)にて算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRz(JISB0601−1994)の測定をおこなった。光沢度は目視にて行い、未加工品と比較して光沢が増していた場合は○、未加工品と同等の場合は△、未加工品より光沢がなくなっていた場合は×とした。また、面粗度と光沢度を合わせた評価を総合評価とし、未加工品より良好な場合は○、未加工品と同等の場合は△、未加工品より悪い場合は×とした。
【0054】
(比較例)
比較例1は前記実施例において、可塑剤を過剰に添加、具体的には塩化ビニル粒子に対し80%となるように添加し、その他の条件は実施例1と同じとした。比較例2は前期実施例において、砥材を塩化ビニル粒子に過剰に担持、具体的にはブラスト加工用投射材において60体積%となるように担持たせ、その他の条件は実施例1と同じとした。比較例3は前記実施例において、混練装置の温度を50℃に設定し、その他の条件は実施例1と同じとした。比較例4は前期実施例において、加圧の圧力を0.9MPaとし、その他の条件は実施例1と同じとした。実施例1〜3および比較例1〜4の実施条件を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(結果)
原料を混練して得られた試料は、実施例1〜3および比較例2では塩化ビニル粒子の表面に砥材が担持された略球形の試料が得られた。比較例1および比較例4では略球形ではなく異形状の粒子となり、砥材の担持も粒子表面に対し均等に担持されておらず、粗密の分布が生じていた。比較例3は略球形であったものの、表面に砥材がほとんど担持されていなかった。
【0057】
また、粒子の形態(硬度)は、実施例1および比較例2では塩化ビニル粒子の中心から外周面に向かって連続的に軟質なっている。これは、混練段階において原料粒子の中心部まで可塑剤が十分に含浸しなかったことに起因すると考えられる。これに対し実施例2および実施例3では、塩化ビニル粒子がどの部位においても一様の硬度となっていた。これは、実施例2では原料粒子中に可塑剤が含浸するだけの十分な攪拌時間であったこと、また実施例3では加圧することにより含浸が進行したことによると考えられる。
【0058】
塩化ビニル粒子の表面に砥材がされた試料(実施例1〜3および比較例2)を用いてブラスト加工を行った結果を表2に示す。ブラスト加工後の被加工面の面粗度(Ra、Ry、Rz)は、実施例2と実施例3はほぼ同等の結果が得られたが、実施例1はいずれの数値も若干高めであった。しかし、ブラスト加工前に比べ面粗度は改善されていた(未加工品の面粗度Ra、Ry、Rzはそれぞれ0.20μm、2.05μm、1.51μm)。また、光沢度は実施例1〜3いずれも○であったことから、総合評価はいずれも○となった。よって、実施例1のような形態を持つ粒子でも光沢面化或いは平滑面化を目的としたブラスト加工用投射材として好適に用いることができ、被加工品の材質および形状等によっては実施例2および3の様な形態よりも好適に用いることができることが示唆された。一方、比較例では面粗度および光沢度は未加工品より悪化した。これは、砥材の担持量が多いために投射材としては硬度が硬くなりブラスト加工時に、被加工面に梨地状の凹凸を形成したためであると考えられる。
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によって、研磨紙や研磨布による研磨等の従来技術に比べ、非常に短時間で、被加工物表面に梨地状の凹凸を発生させることなく鏡面化、或いは平滑面化することが可能となった。例えば金型のキャビティー面の鏡面化に適用することができる。金型のキャビティー面は非常に高精度な面を必要としている。また使用するに従って成形材料の焼き付き等が発生する。よって、例えば焼き付き等による成形材料のクリーニングには、従来のショットブラストや表面研磨法などの公知な方法によって行い、その後本発明による鏡面化を行うことができる。もちろん、キャビティー面の残渣の付着力がそれほど強固でなく、本発明の投射材の噴射によって十分に除去が可能であれば、本発明にてクリーニングと鏡面化を同時に行ってもよい。
【0061】
他の用途として、例えばDLC等の皮膜を施工する際の基材の前処理をはじめ、あらゆる鏡面化、或いは平滑面化の用途に適用することができる。

【符号の説明】
【0062】
11 塩化ビニル粒子
12 砥材
13 形成助剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径が10〜3,000μmの塩化ビニル粒子の表面に1〜50μmの砥材を担持させて形成された略球形の粒子であることを特徴とするブラスト加工用投射材。
【請求項2】
前記塩化ビニル粒子は、70質量%以下の可塑剤が含まれていることを特徴とする請求項1に記載のブラスト加工用投射材。
【請求項3】
前記塩化ビニルは、中心部から表面部に向かって硬度が連続的に軟化されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブラスト加工用投射材。
【請求項4】
前記砥材は、前記塩化ビニル粒子に対し1〜50体積%担持されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のブラスト加工用投射材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のブラスト加工用投射材の製造方法において、ポリ塩化ビニル粒子および砥材、さらには必要に応じ可塑剤および/または成形助剤を添加するとともに、60〜200℃で加熱しながら混練することによって製造することを特徴とするブラスト加工用投射材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のブラスト加工用投射材の製造方法において、大気圧基準で0.1〜0.8MPaで加圧しながら混練することを特徴とするブラスト加工用投射材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−121120(P2011−121120A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278101(P2009−278101)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)