ブルーベリーの栽培方法
【課題】ブルーベリー苗木のPAC含有量を露地栽培の成木に近い量に増やし、苗木の周年収穫を可能にする栽培方法を提供する。
【解決手段】
ブルーベリーの苗木の栽培には、マイクロプロパゲーションにより増殖された多芽体由来のシュートから挿し穂を採取する。採取された挿し穂をセルトレーに挿し木し、人工気象機内の高湿度雰囲気、蛍光灯及び/又はLEDで光照射下し挿し穂から発根を誘導し、漸次湿度を常湿まで低減して発根後の苗木を育苗する。育苗した苗木を実質的閉鎖環境内で蛍光灯及び/又はLEDで光照射下し生育させる。さらに本発明では、生育された苗木に蛍光灯及び/又はLEDで光照射下しPAC含量を増やすことにより高含量のPACを含む苗木を生産する。これにより、露地栽培のブルーベリー成木の葉におけるPAC含量に近い高含量のPACを含む苗木での周年複数回収穫を可能にする。
【解決手段】
ブルーベリーの苗木の栽培には、マイクロプロパゲーションにより増殖された多芽体由来のシュートから挿し穂を採取する。採取された挿し穂をセルトレーに挿し木し、人工気象機内の高湿度雰囲気、蛍光灯及び/又はLEDで光照射下し挿し穂から発根を誘導し、漸次湿度を常湿まで低減して発根後の苗木を育苗する。育苗した苗木を実質的閉鎖環境内で蛍光灯及び/又はLEDで光照射下し生育させる。さらに本発明では、生育された苗木に蛍光灯及び/又はLEDで光照射下しPAC含量を増やすことにより高含量のPACを含む苗木を生産する。これにより、露地栽培のブルーベリー成木の葉におけるPAC含量に近い高含量のPACを含む苗木での周年複数回収穫を可能にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブルーベリーの栽培方法、特にマイクロプロパゲーションにより増殖したブルーベリー苗木のプロアントシアニジン(以下、「PAC」と言う。)含量を増やすブルーベリーの栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブルーベリー葉の生理活性に関しては、特許文献1、2、3、4により知られている。例えば、特許文献1は、ブルーベリー葉が肝ガン細胞および白血病細胞の増殖を抑制し、ガンの改善に有効であることを開示している。特許文献2は、ブルーベリー葉の加工処理物がC型肝炎ウイルス(以下、「HCV」と言う。)の産生を抑制することを開示している。非特許文献1によれば、このブルーベリー葉の抗HCV活性有効成分はPACであることが記載されている。特許文献3では、ブルーベリー葉の経口摂取により前ガン病変から肝ガンへの進展を抑制することが開示されている。同様に、特許文献4では、ブルーベリー葉の経口摂取により肝臓への脂肪蓄積も抑制することが開示されている。これらのブルーベリー葉の生理活性成分のうち、少なくとも抗HCV活性成分がPACであることは、非特許文献1に開示されている。
【0003】
ブルーベリーのマイクロプロパゲーションに関しては、特許文献5および6が知られている。しかし、特許文献5および6所載のマイクロプロパゲーションは、単に露地に移植する苗木を増やすための技術であって、比較的高含量のPACを含む苗木の生産、収穫を目指す栽培方法に関する示唆はない。
【0004】
例えば、特許文献5のマイクロプロバゲーション栽培法では、ブルーベリーの腋芽(葉腋に分化している芽)を植物成長調節物質(以下、「PGR」という。)添加培地で無菌培養して多芽体を誘導する。次いで、同一組成培地に分割移植して、無菌下増殖を繰り返し、増殖した多芽体をPGR無添加培地に移植して、無菌下で芽の伸張を誘導する。この伸張した芽(シュート)から挿し穂をとり、セルトレーに挿し木して、非無菌下で発根誘導する。発根後は、引き続き培養室内環境で順化し、さらに外気環境で順化している。また、特許文献6のマイクロプロバゲーション栽培方法では、スノキ属植物、例えばブルーベリーの茎頂点組織片をPGR添加培地に着床し、密閉状態で組織培養して多芽体を得る。得られた多芽体を気密状態から開放状態へと容器の換気を制御しながら、無菌または減菌下で増殖と健苗化を行う。健苗化された多芽体シュートから、一定長の挿し穂を採取、セルトレーに移植して、培養室環境で発根を誘導する。発根した苗木は、外気環境で本格的に順化する。特許文献6の特徴は、多芽体増殖工程の後段で、無菌または減菌下開放環境に移行し、健苗化を行う点にあり、これによって、発根誘導工程までの効率化と健全な苗の生育をはかり、発根、順化工程への移行を容易にしている。
【0005】
一方、光の強制照射によって、ポリフェノールやアントシアニンを増やすことに関しては、ブルーベリーとは異なる植物で、非特許文献2及び非特許文献3が知られている。非特許文献2では、ブロッコリースプラウト中のポリフェノール含量に及ぼすLED照射の影響が記載されている。また、非特許文献3によれば、幼植物期のアカジソにおけるアントシアニン生成向上への青色LEDと蛍光灯の同時照射効果も知られている。しかし、これらの文献ではPACの増量に関しての言及は見られない。また、非特許文献2及び3で対象とする植物は、本発明の栽培方法が対象とするブルーベリーとは、科レベルで異なる植物であり、これらの非特許文献に記載の方法をブルーベリーに適用したとしても、本願発明が提供する、PACを選択的に増加させる栽培方法を見出すことは容易ではない。
【0006】
植物において、PAC又はその前駆体の産生に関与する種々の遺伝子、フラバノン3−ハイドロキシラーゼ(以下F3Hと言う。)、ロイコアントシアニジンオキシゲナーセ(以下LDOXと言う。)、ジハイドロフラボノール4−レダクターゼ(以下DFRと言う。)、ロイコアントシアニジンリダクターゼ(以下LARと言う。)及びアントシアニジンリダクターゼ(以下ANRと言う。)等も、非特許文献4に開示されている。しかし、ブルーベリーの光照射による人工栽培において、光照射と葉のPAC産生に関与する遺伝子についての言及はない。尚、本発明者の知見では、LARについて遺伝子学的に異なる2種のタイプ、LAR1及びLAR2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−22929
【特許文献2】特開2007−119398
【特許文献3】特開2008−174479
【特許文献4】特開2008−189631
【特許文献5】特開2003−304765
【特許文献6】特開2008−220242
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Takeshita M.et al.“Proanthocyanidin from Blueberry Leaves Suppresses Expression of Subgenomic Hepatitis C Virus RNA”The Journal of Biological Chemistry 284:21165−21176(2009)
【非特許文献2】前田智雄ら「ブロッコリースプラウトの生育およびポリフェノール含量に及ぼす補光光質の影響」植物環境工学20[2]83−89(2008)
【非特許文献3】岩井万祐子ら「幼植物期のアカジソにおけるアントシアニン生成向上への青色LEDと蛍光灯の同時照射効果」植物環境工学21[2]51−58(2009)
【非特許文献4】Jochen Bogs.et al.“The Grapevine Transcription Factor VvMYBPA1 Regulates Proanthocyanidin Synthesis during Fruit Development”Plant Physiology,March 2007,Vol.143,pp.1347−1361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、マイクロプロパゲーションによって増殖したブルーベリー苗木のPAC含量を増やすブルーベリーの栽培方法を提供することを目的としている。
【0010】
また本発明は、露地栽培の成木の葉に近いPAC含有量を苗木段階で得ることにより、早期収穫・周年複数回収穫を可能にしたブルーベリーの栽培方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意研究を重ねた結果、ブルーベリー苗木に特定条件下で光を照射することにより、露地栽培のブルーベリー成木の葉におけるPAC含量に近い高含量のPACを含む苗木の生産ができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
前記知見に基づく本発明は、以下の態様を含むことを特徴としている。
項1:ブルーベリーの苗木に、PAC増量照射として蛍光灯及び/又はLEDからなる光照射し、苗木に含まれるPAC含量を増やすブルーベリーの栽培方法。
項2:苗木がマイクロプロパゲーションにより増殖された多芽体由来である項1の方法。
項3:下記段階からなる項1又は2の方法。
(1)多芽体のシュートから挿し穂を採取し、採取された挿し穂をセルトレーに挿し木し、人工気象機内の高湿度雰囲気、光照射下で挿し穂から発根を誘導し、漸次湿度を常湿まで低減して発根後の苗木を順化する育苗段階
(2)順化した苗木を実質的な閉鎖環境内、光照射下で生育させる生育段階
(3)生育された苗木のPAC含量を光照射下で増やすPAC増量段階
項4:育苗段階における光照射が、蛍光灯及び/又はLEDによる間欠照射であり、照射時の照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、該間欠照射が明期と暗期の等時間の少なくとも1回の繰り返しであり、照射期間が30〜60日である項3の方法。
項5:生育段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1である。照射期間が少なくとも20日間である項3の方法。
項6:PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が60〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間である項3の方法。
項7:PAC増量段階での光照射がLEDの単独であり、該LEDが青色もしくは赤色の単独又はそれらの組み合わせである項6の方法。
項8:LEDの青色照射が、照射強度100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である項7の方法。
項9:LEDの赤色照射が、照射強度60〜90μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である項7の方法。
項10:育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が30μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び赤色LEDによる連続照射であり、照射強度が60〜200μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である項3の方法。
項11:育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が、蛍光灯及び青色LEDによる連続照射であり、照射強度が100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である項3の方法。
項12:ブルーベリーがラビットアイブルーベリーである項1〜11のいずれかの方法。
項13:ラビットアイブルーベリーが「くにさと35号」である項12の方法。
項14:遺伝子F3H、DFR、LDOX、及びANRからなる群から選ばれた少なくともひとつの発現の強弱を指標として、光照射条件を選択する請求項1の方法。
項15:PAC増量した枝葉を収穫した苗木を生育段階に戻し、再び生育した枝葉のPAC含有量を増やし収穫を繰り返すブルーベリーの栽培方法。
【0013】
以下本発明において下記用語は、以下の意味で用いる。
1.育苗段階:増殖された多芽体から採取した挿し穂を培養土に挿し木して、発根を誘導し、発根した苗木を順化する段階である。
2.生育段階:育苗した苗木に蛍光灯および/またはLEDを照射し、苗木に生育する段階である。
3.PAC増量段階:生育した苗木に蛍光灯および/またはLEDを照射し、苗木のPAC含有量を増やす段階である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下記の効果または利点がある。
(1)光照射、特にPAC増量照射により、図7(B)と図9(B)に示すように露地栽培の成木の葉に近い高PAC含量のブルーベリーの苗木が得られる。
(2)マイクロプロパゲーションで増殖された苗木を使用して、人工栽培することにより、2〜3ヵ月の短周期で、高PAC含有苗木を収穫できる。
(3)人工的な閉鎖環境での栽培により、天候等に支配されないので、安定した周年収穫が可能となる。
(4)実質的な閉鎖環境での栽培により、露地栽培とは異なり、収穫したブルーベリー苗木に残留農薬や病原菌による汚染がない。
(5)また、PACの産生に関与する特定の遺伝子発現の強弱を指標として、好適な光照射条件を容易に設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】 本発明のブルーベリーの栽培方法を示す流れ図である。
【図2】 セルトレーに移植直後のブルーベリー苗木を示す写真である。
【図3】 育苗照射により発根したブルーベリー苗木を示す写真である。
【図4】 PAC増量照射直前のブルーベリー苗木を示す写真である。
【図5】 人工気象機におけるPAC増量照射を示す写真である。
【図6】 収穫直前のブルーベリー苗木を示す写真である。
【図7】 一定の光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木及び露地栽培のブルーベリー成木中の生理活性成分の測定結果を示すグラフで、(A)総ポリフェノール含量の測定結果、(B)総PAC含量の測定結果である。
【図8】 一定の光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木中の総アントシアニン含量の測定結果を示すグラフである。
【図9】 図7及び図8とは異なる光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木及び露地栽培のブルーベリー成木中の生理活性成分の測定結果を示すグラフで、(A)総ポリフェノール含量の測定結果、(B)総PAC含量の測定結果である。
【図10】 図7及び図8とは異なる光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木中の総アントシアニン含量の測定結果を示すグラフである。
【図11】 図7(B)と図8のデータを経時的にプロットしたグラフである。
【図12】 PAC又はその前駆体を含むPAC産生経路に関与する代表的な遺伝子を示すブロック図である。
【図13】 一定の光照射条件下で栽培したブルーベリー葉における図12に示す遺伝子発現の強弱の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の栽培方法が対象とする植物はブルーベリーである。ブルーベリーは、ツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium)植物である。スノキ属植物は、さらに10の節に分類される。このうち、果実が利用されているのは、ビルベリー、クランベリー、コケモモ、及びブルーベリー等を含むサイアノコカスセツ節、ミルティルス節、オキゾコカスセツ節、ビテスーイディア節、バクシニウム節の4つの節である。
ブルーベリーは、このスノキ属のサイアノコカス節(Cyanococcus)に属するアメリカ原産の落葉性もしくは常緑性の低木または半高木果樹である。ブルーベリーには多くの種があり、大別して6種からなるが、果樹園芸上重要なのは下記の3種である。
(1)ハイブッシュブルーベリー(Highbush blueberry,V.corymbosum L.):オニール、シャープブルー、ジョージアジェム、フローダブルー、レベレイ、スパルタン、ダロウ、デューク、バークレイ、ハリソン等
(2)ラビットアイブルーベリー(Rabbiteye blueberry,V.ashei Reade):ウッダード、ガーデンブルー、ティフブルー、ホームベル、マイヤー等。
(3)ローブッシュブルーベリー(Lowbush blueberry,V.angustifolium Aiton,V.myrtilloides Michaux):チグネクト、ブロンズウィック、ブロミドン等。
【0017】
ブルーベリーは、もともと20世紀の初頭以降、アメリカ農務省あるいは州立大学によって野生種から改良されたものである。品種改良は、栽培が容易であり、果実が大きくて甘い、などの観点から良品種とされ、主に生果生産を目標として進められてきた。今日では、世界各国で栽培されている。本発明に使用するブルーベリーは、その種類、由来、原産地等、特に制限するものではない。
【0018】
好適な品種としては、南方系のラビットアイ、中でもレッドパールや本発明者等による新品種「くにさと35号」(「種苗法」品種登録出願番号;第23433号)の枝葉にはPAC含量が高く、本発明の苗木に適している。例えば、図7(B)における特定の光照射条件では、「くにさと35号」の苗木は、露地栽培の成木のブルーベリー葉並みの高総PAC含量を示している。またレッドパールの苗木も、図9(B)に示すように、総PAC含量は露地栽培の成木並みである。注目すべきは、図7(B)及び図9(B)において、ブルーベリーの主要品種であるハイブッシュ系のバークレイに比べ、南方系のラビットアイがいずれも高い総PAC量を示すことである。
【0019】
次に図面に従って、本発明の好適な実施の形態を詳述する。図1は、本発明のブルーベリーの栽培方法の段階(ステップ;S1,S2,S3,S4,S5,S6)を示す。このうち、S1及びS2は本発明の前段階で、S3〜S6が本発明の段階である。
(1)多芽体誘導段階(S1):
S1は、ブルーベリーの多芽体を誘導する段階である。本発明で「多芽体」とは、芽数が概ね10以上のものをいう。S1では、ブルーベリーの茎頂部の組織片を、糖類、PGR、及び支持体を含む培地で組織培養する。
【0020】
組織培養に使用する基本培地には、植物の組織培養に広く用いられるWoody Plant培地(WP培地)、Murashige & Skoog培地(MS培地)、もしくはこれらの培地の組み合わせ、またはその組成を改変した培地を挙げることができる。好適にはMS培地とWP培地とを組み合わせたMW培地(MS培地1:WP培地1)を用いる。
【0021】
基本培地には、糖類、PGR、及び支持体を添加する。糖類としては、蔗糖、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース及びソルビトールなどの糖、ならびにマルトースやマンニトール等の糖アルコールを挙げることができる。これらの糖は、単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0022】
PGRには、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール−3−酢酸(IAA)、インドール−3−酪酸(IBA)、2,4−シクロフェノキシ酢酸(CPA)、インドール−3−プロピオン酸(IPA)、ベンゾフラン−3−酢酸(BFA)、フェニル酢酸(PA)、及びこれらの誘導体等のオーキシン類;並びに、ベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン、2−イソペンテニルアデニン(2IP)、(2−クロル−4−ピリジル)−3−フェニル尿素(4PU)等のサイトカイニン類を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくはゼアチンを用いる。
【0023】
支持体は、培地を固相化する上で必要な成分である。通常、固形培地に使用される基剤、例えば寒天やゲランガムなどのゲル化剤を用いる。寒天の使用が一般的である。
【0024】
これらの成分の培地中の濃度は、ブルーベリーの種によっても異なるので一概に特定できないが、例えば、MW培地を用いる場合、糖類(好ましくは蔗糖)の濃度として1〜10重量%、好ましくは2〜3重量%;PGR(好ましくはゼアチン)の濃度として1〜10mg・L−1、好ましくは2〜5mg・L−1;支持体(好ましくは寒天)の濃度として0.8〜2重量%、好ましくは0.8〜1.0重量%である。これらの割合は、糖類、PGRまたは支持体をそれぞれ2種以上組み合わせて使用する場合には、それらの総量を意味する。
【0025】
さらに、これらの培地には、他の成分として、カビの発生を防止するため、PPM(Plant Preservative Mixture、ナカライテスク株式会社製、商標名)のごとき抗生物質を配合することもできる。PPMの濃度は、培地の0.1〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%程度である。培地は、滅菌処理し、無菌状態で使用する。
【0026】
茎頂培養は、人工気象機のような厳密にコントロールされた気密閉鎖系、無菌条件下で行う。具体的には、容器内の滅菌状態で調製された培地に、ブルーベリーの茎頂部の組織片を接植し、人工気象機内で多芽体の発生を誘導する。
【0027】
茎頂部の組織片には、圃場で生育したブルーベリーの例えば1年生枝から採取し、滅菌処理したものを用いる。滅菌処理法に特に制限はない。例えば、流水と超純水で洗浄後、5%程度の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬し、次いで滅菌蒸留水で洗浄する。茎頂培養は、温度20〜25℃、湿度は100%RH、明期12〜16時間、暗期8〜12時間の範囲で、明期と暗期を24時間内で交互に実施するのが望ましい。明期において用いる照明の光量子数は、特に制限はないが、通常照射強度5〜20μmol・m−2・s−1の範囲内で調整する。培養は、芽数が概ね10程度になるまで行う。その期間は、ブルーベリーの種によって多少異なるので特定はできないが、通常2〜5ヶ月程度である。
【0028】
(2)多芽体の増殖段階(S2):
S2は、S1で得た多芽体を増殖する段階である。S2では、S1で得られた多芽体を培地に分割接植し、培養する。分割接植では、多芽体を0.5〜0.2gになるように2〜10個程度に株分けし、これを培地に接植する。必要に応じて、この段階を数度繰り返す。
【0029】
培養には、S1で用いた培地と同一の基本培地を用いることができるが、培地には、抗生物質は添加しないのが好ましい。糖類は、必ずしも必要ではなく、0(無添加)〜10重量%の範囲で用いる。糖類としては蔗糖が好ましい。PGRもS1で用いるものを使用することができる。好ましくはゼアチン、カイネチン、2IP及びBAからなる群から選ばれる少なくとも1種を、総量として0.1〜10mg・L−1の割合で用いる。より好ましくは、ゼアチンの単独使用、特に2〜5mg・L−1の割合での使用が効果的である。支持体としても、S1で用いられるものを使用することができる。好適には、寒天を0.8〜2重量%程度の割合で用いる。
【0030】
S2において分割移植された株は、移植当初には、S1と同様に気密状態、無菌条件下で培養されるが、培養初期から終期にわたり、容器内の空気の置換が、気密状態から一定の開放状態へと、段階的あるいは連続的に増加するように換気を制御しながら培養することが好ましい。より具体的には、分割移植による増殖を繰り返すことにより、多芽体が培養環境になれて一定の速度で増殖するようになる段階までは無菌の気密状態とし、増殖最終段階で換気を開始し、次いで一定期間、通常約1ヶ月程度換気条件下で培養する。すなわち、S2の多芽体増殖工程は、分割移植による増殖を2〜3回程度繰り返す。「増殖段階」における培養は、前述する多芽体誘導工程(S1)と同様に、無菌条件下、気密状態で行われることが望ましい。
【0031】
本工程の培養は、ほぼ同一の条件で行うことができる。具体的には、温度条件として20〜25℃、照明条件として照射強度20〜50μmol・m−2・s−1で、照射時間12〜16時間の範囲を挙げることができる。なお、制限されないが、「増殖段階」には、多芽体を増殖させ、次いで増殖した培養環境になれて一定の速度で増殖するようになるまでの期間を要する。かかる期間としては、制限されないが、通常約2ヶ月程度を挙げることができる。
【0032】
(3)育苗段階(S3):
S3では、S2で増殖された多芽体から挿し穂を採取し、培養土に挿し木して発根を誘導し、順化する段階である。この挿し穂は、露地栽培のブルーベリー成木から採取してもよい。
【0033】
例えば、S2で増殖化された多芽体のシュートから挿し穂を採取し、この挿し穂を図2に示すようにセルトレーの培養土に挿し木して、人工気象機内に移し、発根を誘導する。シュートの長さが20〜80mm時点で採取して、更に10〜20mmに切断して挿し穂する。
【0034】
培養土としては、当業界で使用される一般の培養土を用いることができる。例えば、一般に培養土としてピートモスを挙げることができるが、これとゼオライト、鹿沼土、ボラ土、軽石、バーミキュライトまたはパーライト等の多孔性物質を適宜組み合わせて用いてもよい。さらに、木粉、おがくず、腐葉土、または繊維状組成物と粘土鉱物を配合することもできる。好ましい培養土としては、ピートモスとシラスの混合物を挙げることができる。かかる培養土の混合比は、シラスを全量の10〜70容量%程度混合するのが好適である。培養土に変えてロックウールを挙げることもできる。
【0035】
発根を促進するために、インドール酪酸(IBA)またはナフタレン酢酸(NAA)等のオーキシン類をシュートの基部に塗布してもよい。濃度は、100〜1000mg・L−1が望ましい。
【0036】
人工気象機内の温度は15〜25℃が好適である。15℃未満では、発根・生育が遅く、25℃を超えると、熱障害により発根前に枯れるおそれがある。湿度管理は、挿し穂して発根が不十分な状態の間は重要である。湿度は、70%RH以上の高湿度に維持管理する。70%未満では、枯れるおそれがある。調整方法としては、セルトレーの下部に常時水を入れておき、間欠的に上から噴霧する。湿度を一定条件に保つために、セルトレーを簡単なプラスチック製の蓋のようなもので覆ったり、又はミスト装置で調整したりしても良い。
【0037】
この段階の光照射は、弱い挿し穂への光熱による損傷を避けるための間欠照射である。光源は、蛍光灯及び/又はLEDである。蛍光灯の場合であれば、明期の照射強度は20〜50μmol・m−2・s−1の範囲が適切である。間欠照射期間は明期12〜16時間、暗期8〜12時間の範囲内で、適宜交互に繰り返せばよい。間欠通し照射期間は30〜60日間である。LEDは、蛍光灯に比べて発熱量が低く、挿し穂への熱障害は少ない。
【0038】
発根は、挿し穂を挿し木して14日程度で始まり、30〜60日間で根がプラグトレーの穴の中で回った状態になる。図3は、S3で得られた苗木の発根状態を示す。
【0039】
大部分の挿し穂が発根し、図3に示すような苗木に生育したら、セルトレーの蓋の開閉をするなどして、発根誘導時期の高湿度状態から常湿の30〜60%RH程度まで下げて、苗木を次工程の環境へと順応させる。湿度の急激な変化は好ましくないため、湿度低下は少なくとも16時間程度かけて漸次行う。この順化段階の温度は、発根誘導期間と同様15〜25℃である。照射は、発根誘導時と実質的に同一である。順化に要する期間は1〜5日程度である。
【0040】
(4)生育段階(S4);
S4は、S3で順化された苗木を生育し、生重量を増やす段階である。S4では、実験的にはS3に引き続き人工気象機内で実施してもよいが、産業的にはハウスや植物工場のような露地とは異なる実質的閉鎖環境で行うのが望ましい。
【0041】
S4の段階での温度は15〜25℃、湿度は30〜60%RHである。光照射は、光源が蛍光灯及び/又はLEDの連続照射となり、蛍光灯とLEDでは多少異なるが、照射強度が30〜50μmol・m−2・s−1、照射期間が少なくとも20日間である。上限は技術的に特定する必要はないが60日程度が妥当である。照射期間後の生重量は、S3段階の生重量に比して約2倍増となっている。
【0042】
(5)PAC増量段階(S5);
S5は、S4で得られた苗木のPAC含有量を増やす本発明のもっとも特徴的な光照射段階である。図4は、PAC増量段階直前の苗木の状態を示す。苗木の長さは50〜120mm程度である。図5は、人工気象機による光照射の状況を示しているが、温度、湿度、光照射条件等を適正に管理できれば、人工気象機以外のハウスや植物工場のような実質的閉鎖環境の場に移すのが大量生産には適している。
【0043】
S5での温度及び湿度は、いずれもS4と略同等でよく、温度は15〜25℃、湿度は30〜60%RHの範囲内である。
【0044】
S5での光照射の光源は、蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射である。照射強度は60〜300μmol・m−2・s−1範囲、照射期間は少なくとも4日間である。4日以上の光照射により、PAC含量及びPAC含量割合を増加させることができる。照射期間の上限は技術的に特定する必要はないが、照射期間を4〜12日間程度にすれば、早期収穫が可能となる。光照射にLEDを使用する場合、LEDは青色もしくは赤色の単独又はそれらの組み合わせでもあってもよい。LEDの青色照射にあっては、照射強度100〜300μmol・m−2・s−1の範囲が好適である。LEDの赤色照射にあっては、照射強度60〜90μmol・m−2・s−1の範囲が好適である。照射条件が変わっても照射期間は4〜12日間程度でよい。
【0045】
一般にLEDの使用は、消費電力が低く、発熱量も少ないため、空調にかかるコストを低減できる利点がある。加えて、発熱量が低いため、至近距離からの光照射でも、苗木に熱障害がおこらず、植物体の光利用効率が高い。また後述の通り、LEDにより特定の光を照射することで、PAC含量及びPAC含量割合を顕著に増加させることができる。
【0046】
本発明の特徴であるS3、S4及びS5における光照射の好適な組み合わせを、以下に例示する。
(1)育苗段階S3での光照射は、蛍光灯のみによる12時間毎の明暗間欠照射で、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射である。生育段階S4での光照射は、蛍光灯のみよる連続照射で、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射である。PAC増量段階S5での光照射は、蛍光灯及び赤色LEDによる連続照射であり、照射強度が120μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である。
(2)育苗段階での光照射は、蛍光灯による12時間毎の明暗間欠照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射である。生育段階での光照射は、蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射である。PAC増量段階での光照射は、蛍光灯及び青色LEDによる連続照射であり、照射強度が300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である。
【0047】
注目すべきは、S5での照射効果である。詳細は実施例の考察に譲るが、概して言えることは、図7(B)及び図9(B)に示すように、S4までの光照射では、苗木の総PAC含量はあまり増えず、S5の短期間の照射で初めて露地栽培のブルーベリー成木の葉に近い総PAC含量に達していることである。また、アントシアニン含量は図10に示すように、蛍光灯と青色LEDの併用の場合顕著に増量する。蛍光灯と赤色LEDの併用又は青色LED単独では増量効果が確認される程度である。この結果は、総アントシアニンに占めるPAC含量の割合が、増加することを意味する。
【0048】
光照射によるPACとアントシアニンの増量の効果においては、図11に示すように経時的変化が異なる。総PAC含量は照射期間に応じて増加するが、総アントシアニン含量は5日頃から減少に転じる。この結果は、本発明の光照射を望ましくは5日以上行うと、PACの増量が選択的に増えることを意味する。
【0049】
さらに、図12に示すPACの産生に関与する遺伝子発現は、図13から明らかなように光照射を反映して強弱を示し、そのうちの少なくともF3H、DFR、LDOX及びANRは、強制的な光照射をしない比較例▲1▼に比し、特定の光照射条件を反映して明らかに強くなっている。このことから、逆に人工気象機内でのブルーベリー苗に対するテスト照射条件下での遺伝子発現が強くなることを指標として、ブルーベリー葉からのPAC取得のためのブルーベリー人工栽培工場等での好適な照射条件のプレスクリーニングが可能である。
【0050】
(6)収穫段階(S6);
S6は、S5でPAC含量が増えたブルーベリー苗木の収穫段階である。図6は、収穫直前の苗木の状態を示す。苗木全長は、50〜150mm程度である。
【0051】
この段階の苗木の上部を枝葉ともに切り取って、PAC抽出の原料に用いることができる。ブルーベリーの枝葉には優れた生理活性を示すPACが存在していることは、既述の通りである。本発明では苗木で収穫段階を迎えるため、小枝が混入しても差し支えなく、露地栽培の成木の葉の収穫に比べると、収穫作業は極めて効率的である。枝葉を収穫した後の苗木は、再度S4の生成過程に戻し、生重量を増やすことができる。S4〜S6の周期を60日程度とすると、全段階を実質的な閉鎖環境内で行うため、枝葉を年5〜6回収穫できる。この点も、収穫が年1回の露地栽培に比べて有利である。
【0052】
以下、実験例および実施例を挙げて本発明を説明する。ただし、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、特に記載のない限り、「%」とは「重量%」を、「部」とは「重量部」を意味するものとする。
【0053】
材料及び機器:
ラビットアイブルーベリー(V.ashei Reade)の培養苗と成葉およびハイブッシュブルーベリー(V.corymbosum L.)の培養苗を供試した。
【0054】
光源として昼白色蛍光灯(メロウ 5N FLR40S−EX−NM36−H 東芝)、青色LED(パネル LED LED−B型 東京理化器械株式会社 ピーク波長 470nm)、赤色LED(パネル LED LED−R型 東京理化器械株式会社 ピーク波長 660nm)を使用した。
【0055】
植物体の生育には、植物インキュベーター(CFH−405 株式会社トミー精工)を用いた。
【0056】
測定法
1.ブルーベリー苗木の総ポリフェノール含量
80%(v/v)メタノールで、凍結乾燥物からポリフェノールを抽出した。ポリフェノール含量は、フォーリン−チオカルト法(柚木崎千鶴子ら「県内産農産物の抗酸化活性」、宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告[48]91−98(2003))で測定した。測定値は、生重量あたりの没食子酸相当量で算出した。
【0057】
2.ブルーベリー苗木の総PAC含量
99℃の熱水で、凍結乾燥物からPACを抽出した。PAC含量は、4−ジメチルアミノシンナムアルデヒド(DMACA)法(Li,Y.−G.et al.“The DM ACA−HCl Protocol and the Threshold Proanthocyanidin Content for Bloat Safety in Forage Legumes”Journal of the Science of Food and Agriculture 70:89−101(1996))で測定した。測定値は、生重量あたりのカテキン相当量で算出した。
【0058】
3.ブルーベリー苗木の総アントシアニン含量
終濃度が0.1Nになるように塩酸を添加した95%(v/v)エタノールで、凍結乾燥物からアントシアニンを抽出した。アントシアニン含量の測定はHPLCで行った(Ballington J.R.et al.“Interspecific differences in the percentage of anthocyanins,aglycons,and aglycon−sugars in the fruit of seven species of blueberries.”Journal of American Society for Horticultural Science 112:859−864(1987))。測定値は、生重量あたりのシアニジン3−グルコシド相当量で算出した。
【0059】
5.遺伝子発現の測定
ブルーベリーのポリフェノール生合成系を調べるため、ポリフェノール生合成遺伝子、F3H、LDOX、DFR、LAR1、LAR2及びANRの6つの遺伝子の発現解析を行った。
ブルーベリーポリフェノール生合成遺伝子のうちF3H及びLDOXは、Clontech PCR−SelectTM cDNAサブトラクションキット(クロンテック社製)を用いて単離した。DFR、ANRは、ブルーベリー以外の生物においてそれぞれの遺伝子で相同性の高い領域に、以下の塩基配列を持った特異的なプライマーをそれぞれ2種類作製した。
DFR
DFR−F1:GTNTSYGTBACNGGDGGNNCNGGNTWY
DFR−R1:HTCDAYRGCNCCNNBRWACATNTCYTY
ANR
ANR−F1:AAGRMVGCDTGYGTBRTHGGYGGMACY
ANR−R1:CCCCTTDGYSTTSAWRTAYTCYASASW
LAR
LAR−F1:GGWKCMWCYGGKTTYATNGGBMRGTTY
LAR−R1:VTYAAGRCAYTCNTCNAHGSWYCKRAA
用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、それぞれの遺伝子に特異的な塩基配列を増幅して単離した。また、SMARTScribeTM Reverse Transcriptase(クロンテック社製)を用いてRapid Amplification of cDNA Ends(RACE)−PCRを行い、それぞれの遺伝子の5´末端および3´末端を単離した。単離した遺伝子の塩基配列は、Applied Biosystems3500xLジェネティックアナライザ(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)で解読した。解読した遺伝子の機能は、日本DNAデータバンクのBlastによる相同性検索により推定した。
解読した配列をもとにブルーベリーポリフェノール生合成遺伝子にそれぞれ特異的なプライマーを2種類ずつ作製し、後述の発現解析に用いた。
培養苗のポリフェノール生合成遺伝子の発現を調べるため、改良したCetyl trimethyl ammonium bromide(CTAB)法(布施ら「ブルーベリー葉における効率的なRNA抽出法の開発」第51回植物生理学会年会要旨集 282頁 2010年)により培養苗からRNAを抽出した。
写酵素(インビトロジェン社製)を用い、抽出したRNAから、相補的DNA(cDNA)を合成した。合成したcDNAに対し、それぞれの遺伝子に以下の塩基配列を持った特異的なプライマーを2種類作製した。
F3H
C74−F6:ATGGCACCAACGACGCTGAC
C74−R7:ATAGCAAAGTGGGTCTAAGCA
LDOX
C68−F6:ATGGTGAGTACAATGGTTGC
C68−R4:GACAAGTACAACGTTATGCC
DFR
DFR−F8:CGAACCAGTCATGAAAGATGC
DFR−R8:CCACCTCATCCATACAAGCAT
ANR
ANR−F6:CGACCTCAATCTTTGTCTCC
ANR−R6:ACCATTGCTAAGGTGAACACC
LAR1
LAR1−F3:ATGACGTTGATCACAGCTTCTG
LAR1−R1:GCTGATACACATGCTCCCAT
LAR2
LAR2−F4:GGGAATCATGACTGTGTCGA
LAR2−R2:GCCACGTAATCCTCAAAGCA
を行い、それぞれの遺伝子に特異的な塩基配列を増幅した。増幅した産物を1.5%(w/v)アガロースゲルで50Vで90分の電気泳動を行い、特異的産物を分離し、臭化エチジウムで染色後、紫外線照射により蛍光を発光させ、その強さで発現強度を推定した。発現強度の解析は、解析ソフトImageJ 1.43u(アメリカ国立衛生研究所)にて行った。
【実施例1】
【0060】
1.ブルーベリーの育苗段階(S3)
ブルーベリーには「レッドパール」を用いた。培養土にはピートモスとボラ土を1:1で混合した土を充填した幅28cm、奥行き28cm、高さ6cmの100穴セルトレイに、特許文献6に基づき作製した挿し穂を移植した。1日に1度挿し穂全体がぬれる程度に霧状の水を与え、セルトレーの上には、光が当たるように透明な蓋を置き、中の挿し穂が乾燥しないようにし、気温25℃の人工気象機内に置いた。1日のうち、12時間は、30〜50μmol・m−2・s−1の昼白色蛍光灯の照射を行い、残り12時間は暗所に置き60日間間欠照射した。挿し穂には、ホルモン剤塗布などの特別な処理は行わなかった。14日程度で挿し穂に発根が起こり、挿し穂から60日後に健全な苗木を確認できた。育苗後は蓋を少し開けておき、2日かけて徐々に外気と同じ湿度にまで下げ、最後は蓋をはずして順化を行った。
【0061】
2.苗木の生育段階(S4)
前工程で得た苗木に対し、気温25℃の人工気象機内で、昼白色蛍光灯を用い、照射強度30μmol・m−2・s−1、照射期間20日間、24時間連続照射した。
3.苗木のPAC増量段階(S5)
前工程で得た生育苗木に対し、気温25℃の人工気象機内で、昼白色蛍光灯を用い、照射強度170μmol・m−2・s−1、照射期間1〜10日間、24時間連続照射した。図7及び図8に示すようにPAC増量段階照射開始から1,3,5,10日目にサンプルを採取し、凍結乾燥し、冷凍保存した。
4.有効成分の測定
前段階の凍結乾燥試料を用い、前述の方法により、総ポリフェノール含量、総PAC含量、及び総アントシアニン含量を測定した。結果を図7及び図8に示す。
【実施例2】
【0062】
ブルーベリーとして「くにさと35号」を用い、PAC増量照射を昼白色蛍光灯で照射強度170μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図7及び図8に示す。
【実施例3】
【0063】
ブルーベリーとして「バークレイ」を用い、PAC増量照射を昼白色蛍光灯で照射強度170μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図7及び図8に示す。
【実施例4】
【0064】
ブルーベリーとして「レッドパール」を用い、PAC増量照射を昼白色蛍光灯30μmol・m−2・s−1とLED(青又は赤)の組み合わせで行った。青色LEDは照射強度300μmol・m−2・s−1、照射期間5日間と10日間、24時間連続照射した。赤色LEDは照射強度90μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図9及び図10に示す。
【実施例5】
【0065】
ブルーベリーとして「レッドパール」を用い、PAC増量照射を青色LEDで照射強度300μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図9及び図10に示す。
【実施例6】
【0066】
ブルーベリーとして「バークレイ」を用い、PAC増量照射を青色LEDで照射強度300μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図9及び図10に示す。
【0067】
図7(A)が示すように、総ポリフェノール含量は、苗木にPAC増量照射を10日間行った場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり74mgであった。露地栽培の成木と比較すると、6月収穫葉の79%、9月収穫葉の56%の含量に達した。
【0068】
図7(B)が示すように、総PAC含量も、苗木にPAC増量照射を10日間行った場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり6.0mgであった。露地栽培の成木と比較すると、6月収穫葉の153%、9月収穫葉の75%の含量に達した。また5日程度の照射でも、ほぼ露地栽培の成木に匹敵する量の総PACが得られた。試験番号1、2のように、生育照射のみでは十分なPAC量は得られなかった。このことから、5から10日程度の照射で、PACが十分に含まれた苗木の収穫が可能である。「くにさと35号」の苗木の総PAC含量は、生重量1g当たり8.2mgという、非常に高い値となった。この結果から、「くにさと35号」は、本発明の栽培方法に適した品種であると考えられる。一方、ハイブッシュブルーベリーの1種である「バークレイ」の苗木では、ラビットアイブルーベリー苗木ほどのPAC含量を得ることはできなかった。
【0069】
図8が示すように、総アントシアニン含量は、PAC増量照射開始から5日目に最も多くなり、5日目以降は減少した。理由は定かでないが、本発明の光照射によれば、PACが選択的に増加することが明らかになった。
【0070】
以上のことから、光照射条件の変動によるプロアントシニジン含量の変化は、アントシアニン含量の変化と全く異なる挙動を示すため、PAC高含有ブルーベリー苗木の生育には、今回見出された照射条件で照射する栽培方法が有効である。
【0071】
図9(A)が示すように、総ポリフェノール含量は、ラビットアイブルーベリー苗木に、30μmol・m−2・s−1の白色蛍光灯に加え、300μmol・m−2・s−1のLED青色光を10日間照射した場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり56mgであった。露地栽培の成木と比較すると、6月収穫葉の60%、9月収穫葉の43%の含量であった。総ポリフェノール含量は、露地栽培の成木ほどの量は得られなかった。
【0072】
図9(B)が示すように、総PAC含量は、培養苗に、300μmol・m−2・s−1のLED青色光のみを10日間照射した場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり6.6mgであった。露地で生育したものと比較すると、6月収穫葉の169%、9月収穫葉の83%の含量であった。また30μmol・m−2・s−1の白色蛍光灯の光に加え、300μmol・m−2・s−1のLED青色光を10日間照射した場合も、同程度のPACが含まれていた。30μmol・m−2・s−1白色蛍光灯の光に加え、90μmol・m−2・s−1のLED赤色光を10日間照射した場合や、30μmol・m−2・s−1の白色蛍光灯の光に加え、300μmol・m−2・s−1のLED青色光を5日間照射した場合でも、6月収穫葉以上のPAC含量が確認された。
【0073】
図10が示すように、総アントシアニン含量は、LED照射を5日行ったものよりも、10日間行ったものの方が減少し、図8と同様の傾向が見られた。
【0074】
以上のことから、昼白色蛍光灯だけの場合、LED光と昼白色蛍光灯を同時に照射した場合、およびLED光だけの場合、いずれの場合でも、5から10日間短期間照射することで、ブルーベリー苗木のPAC含量を露地栽培の成木並みにすることが可能であることが分かった。LED光を利用した場合、総ポリフェノール含量は白色蛍光灯の方が増加するが、PAC含量の増加量はほとんど差がなく、ポリフェノール中に占めるPACの割合をより高めることができると考えられる。
【0075】
ハイブッシュブルーベリーの1種である「バークレイ」の苗木で、20日間の生育後、300μmol・m−2・s−1のLED青色光のみを10日間照射する試験を行ってみたが、ラビットアイブルーベリーほどのPAC含量を得ることはできなかった。
【0076】
一方、図12のPAC又はその前駆体の産生に関与する遺伝子のうち、F3H、DFR、LDOX及びANRは、図13に示すように、強制的な光照射を行わない光照射のテスト番号1に比して、遺伝子の発現が強くなっている。すなわち、F3Hの発現強度は、テスト番号2及び6における光照射条件でテスト番号1を大きく上回っている。同様に、DFRの発現はテスト番号2、3、6、9において強くなり、LDOXの発現はテスト番号2、3、6、9で強くなり、ANRの発現はテスト番号2、3、4、9で強くなっている。しかし、同じPAC又はその前駆体の産生に関与する遺伝子でも、LAR1及びLAR2の発現強度は光照射条件を反映しない。
【0077】
ブルーベリー葉由来のPACは、特許文献1から明らかなように、カテキンよりエピカテキンを基本骨格としたものの割合が高い。本発明においても、図13に示すように、図12におけるエピカテキンルートに関与するLDOX及びANRの発現は強くなっているが、カテキンルートのLARの発現は強くなっていない。このことは、本発明における遺伝子発現が強くなっていることと、ブルーベリー葉由来のPACのエピカテキンの割合が高くなっていることに対応していることを示唆している。
【0078】
また、図7(B)と図13から分かるように、S5:PAC増量照射条件開始後、1日でF3H、DFR、LDOX及びANRの発現が強くなり、5日で総PAC含量が増加している。かかる遺伝子発現と光照射条件の対応から、遺伝子F3H、DFR、LDOX及び/またはANRの少なくともひとつの発現が強くなっていることを指標として、好適な光照射条件を選定することができる。あるいは、採取したブルーベリー葉の総ポリフェノールの測定と併用又はこれに代えて、これらの遺伝子発現の強弱を測定し、ブルーベリー葉のPAC取得を目的としたブルーベリーの人工栽培における光照射条件の適否をプレスクリーニングする指標とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、植物工場での栽培に利用可能である。生産物は、サプリメントの製造、サラダやお菓子、飲料などへの添加物として利用可能である。また本発明の光照射下におけるPACの産生に関与する遺伝子は、PAC産生量の多いブルーベリーの育種にも利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブルーベリーの栽培方法、特にマイクロプロパゲーションにより増殖したブルーベリー苗木のプロアントシアニジン(以下、「PAC」と言う。)含量を増やすブルーベリーの栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブルーベリー葉の生理活性に関しては、特許文献1、2、3、4により知られている。例えば、特許文献1は、ブルーベリー葉が肝ガン細胞および白血病細胞の増殖を抑制し、ガンの改善に有効であることを開示している。特許文献2は、ブルーベリー葉の加工処理物がC型肝炎ウイルス(以下、「HCV」と言う。)の産生を抑制することを開示している。非特許文献1によれば、このブルーベリー葉の抗HCV活性有効成分はPACであることが記載されている。特許文献3では、ブルーベリー葉の経口摂取により前ガン病変から肝ガンへの進展を抑制することが開示されている。同様に、特許文献4では、ブルーベリー葉の経口摂取により肝臓への脂肪蓄積も抑制することが開示されている。これらのブルーベリー葉の生理活性成分のうち、少なくとも抗HCV活性成分がPACであることは、非特許文献1に開示されている。
【0003】
ブルーベリーのマイクロプロパゲーションに関しては、特許文献5および6が知られている。しかし、特許文献5および6所載のマイクロプロパゲーションは、単に露地に移植する苗木を増やすための技術であって、比較的高含量のPACを含む苗木の生産、収穫を目指す栽培方法に関する示唆はない。
【0004】
例えば、特許文献5のマイクロプロバゲーション栽培法では、ブルーベリーの腋芽(葉腋に分化している芽)を植物成長調節物質(以下、「PGR」という。)添加培地で無菌培養して多芽体を誘導する。次いで、同一組成培地に分割移植して、無菌下増殖を繰り返し、増殖した多芽体をPGR無添加培地に移植して、無菌下で芽の伸張を誘導する。この伸張した芽(シュート)から挿し穂をとり、セルトレーに挿し木して、非無菌下で発根誘導する。発根後は、引き続き培養室内環境で順化し、さらに外気環境で順化している。また、特許文献6のマイクロプロバゲーション栽培方法では、スノキ属植物、例えばブルーベリーの茎頂点組織片をPGR添加培地に着床し、密閉状態で組織培養して多芽体を得る。得られた多芽体を気密状態から開放状態へと容器の換気を制御しながら、無菌または減菌下で増殖と健苗化を行う。健苗化された多芽体シュートから、一定長の挿し穂を採取、セルトレーに移植して、培養室環境で発根を誘導する。発根した苗木は、外気環境で本格的に順化する。特許文献6の特徴は、多芽体増殖工程の後段で、無菌または減菌下開放環境に移行し、健苗化を行う点にあり、これによって、発根誘導工程までの効率化と健全な苗の生育をはかり、発根、順化工程への移行を容易にしている。
【0005】
一方、光の強制照射によって、ポリフェノールやアントシアニンを増やすことに関しては、ブルーベリーとは異なる植物で、非特許文献2及び非特許文献3が知られている。非特許文献2では、ブロッコリースプラウト中のポリフェノール含量に及ぼすLED照射の影響が記載されている。また、非特許文献3によれば、幼植物期のアカジソにおけるアントシアニン生成向上への青色LEDと蛍光灯の同時照射効果も知られている。しかし、これらの文献ではPACの増量に関しての言及は見られない。また、非特許文献2及び3で対象とする植物は、本発明の栽培方法が対象とするブルーベリーとは、科レベルで異なる植物であり、これらの非特許文献に記載の方法をブルーベリーに適用したとしても、本願発明が提供する、PACを選択的に増加させる栽培方法を見出すことは容易ではない。
【0006】
植物において、PAC又はその前駆体の産生に関与する種々の遺伝子、フラバノン3−ハイドロキシラーゼ(以下F3Hと言う。)、ロイコアントシアニジンオキシゲナーセ(以下LDOXと言う。)、ジハイドロフラボノール4−レダクターゼ(以下DFRと言う。)、ロイコアントシアニジンリダクターゼ(以下LARと言う。)及びアントシアニジンリダクターゼ(以下ANRと言う。)等も、非特許文献4に開示されている。しかし、ブルーベリーの光照射による人工栽培において、光照射と葉のPAC産生に関与する遺伝子についての言及はない。尚、本発明者の知見では、LARについて遺伝子学的に異なる2種のタイプ、LAR1及びLAR2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−22929
【特許文献2】特開2007−119398
【特許文献3】特開2008−174479
【特許文献4】特開2008−189631
【特許文献5】特開2003−304765
【特許文献6】特開2008−220242
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Takeshita M.et al.“Proanthocyanidin from Blueberry Leaves Suppresses Expression of Subgenomic Hepatitis C Virus RNA”The Journal of Biological Chemistry 284:21165−21176(2009)
【非特許文献2】前田智雄ら「ブロッコリースプラウトの生育およびポリフェノール含量に及ぼす補光光質の影響」植物環境工学20[2]83−89(2008)
【非特許文献3】岩井万祐子ら「幼植物期のアカジソにおけるアントシアニン生成向上への青色LEDと蛍光灯の同時照射効果」植物環境工学21[2]51−58(2009)
【非特許文献4】Jochen Bogs.et al.“The Grapevine Transcription Factor VvMYBPA1 Regulates Proanthocyanidin Synthesis during Fruit Development”Plant Physiology,March 2007,Vol.143,pp.1347−1361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、マイクロプロパゲーションによって増殖したブルーベリー苗木のPAC含量を増やすブルーベリーの栽培方法を提供することを目的としている。
【0010】
また本発明は、露地栽培の成木の葉に近いPAC含有量を苗木段階で得ることにより、早期収穫・周年複数回収穫を可能にしたブルーベリーの栽培方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意研究を重ねた結果、ブルーベリー苗木に特定条件下で光を照射することにより、露地栽培のブルーベリー成木の葉におけるPAC含量に近い高含量のPACを含む苗木の生産ができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
前記知見に基づく本発明は、以下の態様を含むことを特徴としている。
項1:ブルーベリーの苗木に、PAC増量照射として蛍光灯及び/又はLEDからなる光照射し、苗木に含まれるPAC含量を増やすブルーベリーの栽培方法。
項2:苗木がマイクロプロパゲーションにより増殖された多芽体由来である項1の方法。
項3:下記段階からなる項1又は2の方法。
(1)多芽体のシュートから挿し穂を採取し、採取された挿し穂をセルトレーに挿し木し、人工気象機内の高湿度雰囲気、光照射下で挿し穂から発根を誘導し、漸次湿度を常湿まで低減して発根後の苗木を順化する育苗段階
(2)順化した苗木を実質的な閉鎖環境内、光照射下で生育させる生育段階
(3)生育された苗木のPAC含量を光照射下で増やすPAC増量段階
項4:育苗段階における光照射が、蛍光灯及び/又はLEDによる間欠照射であり、照射時の照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、該間欠照射が明期と暗期の等時間の少なくとも1回の繰り返しであり、照射期間が30〜60日である項3の方法。
項5:生育段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1である。照射期間が少なくとも20日間である項3の方法。
項6:PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が60〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間である項3の方法。
項7:PAC増量段階での光照射がLEDの単独であり、該LEDが青色もしくは赤色の単独又はそれらの組み合わせである項6の方法。
項8:LEDの青色照射が、照射強度100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である項7の方法。
項9:LEDの赤色照射が、照射強度60〜90μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である項7の方法。
項10:育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が30μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び赤色LEDによる連続照射であり、照射強度が60〜200μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である項3の方法。
項11:育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が、蛍光灯及び青色LEDによる連続照射であり、照射強度が100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である項3の方法。
項12:ブルーベリーがラビットアイブルーベリーである項1〜11のいずれかの方法。
項13:ラビットアイブルーベリーが「くにさと35号」である項12の方法。
項14:遺伝子F3H、DFR、LDOX、及びANRからなる群から選ばれた少なくともひとつの発現の強弱を指標として、光照射条件を選択する請求項1の方法。
項15:PAC増量した枝葉を収穫した苗木を生育段階に戻し、再び生育した枝葉のPAC含有量を増やし収穫を繰り返すブルーベリーの栽培方法。
【0013】
以下本発明において下記用語は、以下の意味で用いる。
1.育苗段階:増殖された多芽体から採取した挿し穂を培養土に挿し木して、発根を誘導し、発根した苗木を順化する段階である。
2.生育段階:育苗した苗木に蛍光灯および/またはLEDを照射し、苗木に生育する段階である。
3.PAC増量段階:生育した苗木に蛍光灯および/またはLEDを照射し、苗木のPAC含有量を増やす段階である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下記の効果または利点がある。
(1)光照射、特にPAC増量照射により、図7(B)と図9(B)に示すように露地栽培の成木の葉に近い高PAC含量のブルーベリーの苗木が得られる。
(2)マイクロプロパゲーションで増殖された苗木を使用して、人工栽培することにより、2〜3ヵ月の短周期で、高PAC含有苗木を収穫できる。
(3)人工的な閉鎖環境での栽培により、天候等に支配されないので、安定した周年収穫が可能となる。
(4)実質的な閉鎖環境での栽培により、露地栽培とは異なり、収穫したブルーベリー苗木に残留農薬や病原菌による汚染がない。
(5)また、PACの産生に関与する特定の遺伝子発現の強弱を指標として、好適な光照射条件を容易に設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】 本発明のブルーベリーの栽培方法を示す流れ図である。
【図2】 セルトレーに移植直後のブルーベリー苗木を示す写真である。
【図3】 育苗照射により発根したブルーベリー苗木を示す写真である。
【図4】 PAC増量照射直前のブルーベリー苗木を示す写真である。
【図5】 人工気象機におけるPAC増量照射を示す写真である。
【図6】 収穫直前のブルーベリー苗木を示す写真である。
【図7】 一定の光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木及び露地栽培のブルーベリー成木中の生理活性成分の測定結果を示すグラフで、(A)総ポリフェノール含量の測定結果、(B)総PAC含量の測定結果である。
【図8】 一定の光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木中の総アントシアニン含量の測定結果を示すグラフである。
【図9】 図7及び図8とは異なる光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木及び露地栽培のブルーベリー成木中の生理活性成分の測定結果を示すグラフで、(A)総ポリフェノール含量の測定結果、(B)総PAC含量の測定結果である。
【図10】 図7及び図8とは異なる光照射条件下で栽培したブルーベリー苗木中の総アントシアニン含量の測定結果を示すグラフである。
【図11】 図7(B)と図8のデータを経時的にプロットしたグラフである。
【図12】 PAC又はその前駆体を含むPAC産生経路に関与する代表的な遺伝子を示すブロック図である。
【図13】 一定の光照射条件下で栽培したブルーベリー葉における図12に示す遺伝子発現の強弱の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の栽培方法が対象とする植物はブルーベリーである。ブルーベリーは、ツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium)植物である。スノキ属植物は、さらに10の節に分類される。このうち、果実が利用されているのは、ビルベリー、クランベリー、コケモモ、及びブルーベリー等を含むサイアノコカスセツ節、ミルティルス節、オキゾコカスセツ節、ビテスーイディア節、バクシニウム節の4つの節である。
ブルーベリーは、このスノキ属のサイアノコカス節(Cyanococcus)に属するアメリカ原産の落葉性もしくは常緑性の低木または半高木果樹である。ブルーベリーには多くの種があり、大別して6種からなるが、果樹園芸上重要なのは下記の3種である。
(1)ハイブッシュブルーベリー(Highbush blueberry,V.corymbosum L.):オニール、シャープブルー、ジョージアジェム、フローダブルー、レベレイ、スパルタン、ダロウ、デューク、バークレイ、ハリソン等
(2)ラビットアイブルーベリー(Rabbiteye blueberry,V.ashei Reade):ウッダード、ガーデンブルー、ティフブルー、ホームベル、マイヤー等。
(3)ローブッシュブルーベリー(Lowbush blueberry,V.angustifolium Aiton,V.myrtilloides Michaux):チグネクト、ブロンズウィック、ブロミドン等。
【0017】
ブルーベリーは、もともと20世紀の初頭以降、アメリカ農務省あるいは州立大学によって野生種から改良されたものである。品種改良は、栽培が容易であり、果実が大きくて甘い、などの観点から良品種とされ、主に生果生産を目標として進められてきた。今日では、世界各国で栽培されている。本発明に使用するブルーベリーは、その種類、由来、原産地等、特に制限するものではない。
【0018】
好適な品種としては、南方系のラビットアイ、中でもレッドパールや本発明者等による新品種「くにさと35号」(「種苗法」品種登録出願番号;第23433号)の枝葉にはPAC含量が高く、本発明の苗木に適している。例えば、図7(B)における特定の光照射条件では、「くにさと35号」の苗木は、露地栽培の成木のブルーベリー葉並みの高総PAC含量を示している。またレッドパールの苗木も、図9(B)に示すように、総PAC含量は露地栽培の成木並みである。注目すべきは、図7(B)及び図9(B)において、ブルーベリーの主要品種であるハイブッシュ系のバークレイに比べ、南方系のラビットアイがいずれも高い総PAC量を示すことである。
【0019】
次に図面に従って、本発明の好適な実施の形態を詳述する。図1は、本発明のブルーベリーの栽培方法の段階(ステップ;S1,S2,S3,S4,S5,S6)を示す。このうち、S1及びS2は本発明の前段階で、S3〜S6が本発明の段階である。
(1)多芽体誘導段階(S1):
S1は、ブルーベリーの多芽体を誘導する段階である。本発明で「多芽体」とは、芽数が概ね10以上のものをいう。S1では、ブルーベリーの茎頂部の組織片を、糖類、PGR、及び支持体を含む培地で組織培養する。
【0020】
組織培養に使用する基本培地には、植物の組織培養に広く用いられるWoody Plant培地(WP培地)、Murashige & Skoog培地(MS培地)、もしくはこれらの培地の組み合わせ、またはその組成を改変した培地を挙げることができる。好適にはMS培地とWP培地とを組み合わせたMW培地(MS培地1:WP培地1)を用いる。
【0021】
基本培地には、糖類、PGR、及び支持体を添加する。糖類としては、蔗糖、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース及びソルビトールなどの糖、ならびにマルトースやマンニトール等の糖アルコールを挙げることができる。これらの糖は、単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0022】
PGRには、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール−3−酢酸(IAA)、インドール−3−酪酸(IBA)、2,4−シクロフェノキシ酢酸(CPA)、インドール−3−プロピオン酸(IPA)、ベンゾフラン−3−酢酸(BFA)、フェニル酢酸(PA)、及びこれらの誘導体等のオーキシン類;並びに、ベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン、2−イソペンテニルアデニン(2IP)、(2−クロル−4−ピリジル)−3−フェニル尿素(4PU)等のサイトカイニン類を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくはゼアチンを用いる。
【0023】
支持体は、培地を固相化する上で必要な成分である。通常、固形培地に使用される基剤、例えば寒天やゲランガムなどのゲル化剤を用いる。寒天の使用が一般的である。
【0024】
これらの成分の培地中の濃度は、ブルーベリーの種によっても異なるので一概に特定できないが、例えば、MW培地を用いる場合、糖類(好ましくは蔗糖)の濃度として1〜10重量%、好ましくは2〜3重量%;PGR(好ましくはゼアチン)の濃度として1〜10mg・L−1、好ましくは2〜5mg・L−1;支持体(好ましくは寒天)の濃度として0.8〜2重量%、好ましくは0.8〜1.0重量%である。これらの割合は、糖類、PGRまたは支持体をそれぞれ2種以上組み合わせて使用する場合には、それらの総量を意味する。
【0025】
さらに、これらの培地には、他の成分として、カビの発生を防止するため、PPM(Plant Preservative Mixture、ナカライテスク株式会社製、商標名)のごとき抗生物質を配合することもできる。PPMの濃度は、培地の0.1〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%程度である。培地は、滅菌処理し、無菌状態で使用する。
【0026】
茎頂培養は、人工気象機のような厳密にコントロールされた気密閉鎖系、無菌条件下で行う。具体的には、容器内の滅菌状態で調製された培地に、ブルーベリーの茎頂部の組織片を接植し、人工気象機内で多芽体の発生を誘導する。
【0027】
茎頂部の組織片には、圃場で生育したブルーベリーの例えば1年生枝から採取し、滅菌処理したものを用いる。滅菌処理法に特に制限はない。例えば、流水と超純水で洗浄後、5%程度の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬し、次いで滅菌蒸留水で洗浄する。茎頂培養は、温度20〜25℃、湿度は100%RH、明期12〜16時間、暗期8〜12時間の範囲で、明期と暗期を24時間内で交互に実施するのが望ましい。明期において用いる照明の光量子数は、特に制限はないが、通常照射強度5〜20μmol・m−2・s−1の範囲内で調整する。培養は、芽数が概ね10程度になるまで行う。その期間は、ブルーベリーの種によって多少異なるので特定はできないが、通常2〜5ヶ月程度である。
【0028】
(2)多芽体の増殖段階(S2):
S2は、S1で得た多芽体を増殖する段階である。S2では、S1で得られた多芽体を培地に分割接植し、培養する。分割接植では、多芽体を0.5〜0.2gになるように2〜10個程度に株分けし、これを培地に接植する。必要に応じて、この段階を数度繰り返す。
【0029】
培養には、S1で用いた培地と同一の基本培地を用いることができるが、培地には、抗生物質は添加しないのが好ましい。糖類は、必ずしも必要ではなく、0(無添加)〜10重量%の範囲で用いる。糖類としては蔗糖が好ましい。PGRもS1で用いるものを使用することができる。好ましくはゼアチン、カイネチン、2IP及びBAからなる群から選ばれる少なくとも1種を、総量として0.1〜10mg・L−1の割合で用いる。より好ましくは、ゼアチンの単独使用、特に2〜5mg・L−1の割合での使用が効果的である。支持体としても、S1で用いられるものを使用することができる。好適には、寒天を0.8〜2重量%程度の割合で用いる。
【0030】
S2において分割移植された株は、移植当初には、S1と同様に気密状態、無菌条件下で培養されるが、培養初期から終期にわたり、容器内の空気の置換が、気密状態から一定の開放状態へと、段階的あるいは連続的に増加するように換気を制御しながら培養することが好ましい。より具体的には、分割移植による増殖を繰り返すことにより、多芽体が培養環境になれて一定の速度で増殖するようになる段階までは無菌の気密状態とし、増殖最終段階で換気を開始し、次いで一定期間、通常約1ヶ月程度換気条件下で培養する。すなわち、S2の多芽体増殖工程は、分割移植による増殖を2〜3回程度繰り返す。「増殖段階」における培養は、前述する多芽体誘導工程(S1)と同様に、無菌条件下、気密状態で行われることが望ましい。
【0031】
本工程の培養は、ほぼ同一の条件で行うことができる。具体的には、温度条件として20〜25℃、照明条件として照射強度20〜50μmol・m−2・s−1で、照射時間12〜16時間の範囲を挙げることができる。なお、制限されないが、「増殖段階」には、多芽体を増殖させ、次いで増殖した培養環境になれて一定の速度で増殖するようになるまでの期間を要する。かかる期間としては、制限されないが、通常約2ヶ月程度を挙げることができる。
【0032】
(3)育苗段階(S3):
S3では、S2で増殖された多芽体から挿し穂を採取し、培養土に挿し木して発根を誘導し、順化する段階である。この挿し穂は、露地栽培のブルーベリー成木から採取してもよい。
【0033】
例えば、S2で増殖化された多芽体のシュートから挿し穂を採取し、この挿し穂を図2に示すようにセルトレーの培養土に挿し木して、人工気象機内に移し、発根を誘導する。シュートの長さが20〜80mm時点で採取して、更に10〜20mmに切断して挿し穂する。
【0034】
培養土としては、当業界で使用される一般の培養土を用いることができる。例えば、一般に培養土としてピートモスを挙げることができるが、これとゼオライト、鹿沼土、ボラ土、軽石、バーミキュライトまたはパーライト等の多孔性物質を適宜組み合わせて用いてもよい。さらに、木粉、おがくず、腐葉土、または繊維状組成物と粘土鉱物を配合することもできる。好ましい培養土としては、ピートモスとシラスの混合物を挙げることができる。かかる培養土の混合比は、シラスを全量の10〜70容量%程度混合するのが好適である。培養土に変えてロックウールを挙げることもできる。
【0035】
発根を促進するために、インドール酪酸(IBA)またはナフタレン酢酸(NAA)等のオーキシン類をシュートの基部に塗布してもよい。濃度は、100〜1000mg・L−1が望ましい。
【0036】
人工気象機内の温度は15〜25℃が好適である。15℃未満では、発根・生育が遅く、25℃を超えると、熱障害により発根前に枯れるおそれがある。湿度管理は、挿し穂して発根が不十分な状態の間は重要である。湿度は、70%RH以上の高湿度に維持管理する。70%未満では、枯れるおそれがある。調整方法としては、セルトレーの下部に常時水を入れておき、間欠的に上から噴霧する。湿度を一定条件に保つために、セルトレーを簡単なプラスチック製の蓋のようなもので覆ったり、又はミスト装置で調整したりしても良い。
【0037】
この段階の光照射は、弱い挿し穂への光熱による損傷を避けるための間欠照射である。光源は、蛍光灯及び/又はLEDである。蛍光灯の場合であれば、明期の照射強度は20〜50μmol・m−2・s−1の範囲が適切である。間欠照射期間は明期12〜16時間、暗期8〜12時間の範囲内で、適宜交互に繰り返せばよい。間欠通し照射期間は30〜60日間である。LEDは、蛍光灯に比べて発熱量が低く、挿し穂への熱障害は少ない。
【0038】
発根は、挿し穂を挿し木して14日程度で始まり、30〜60日間で根がプラグトレーの穴の中で回った状態になる。図3は、S3で得られた苗木の発根状態を示す。
【0039】
大部分の挿し穂が発根し、図3に示すような苗木に生育したら、セルトレーの蓋の開閉をするなどして、発根誘導時期の高湿度状態から常湿の30〜60%RH程度まで下げて、苗木を次工程の環境へと順応させる。湿度の急激な変化は好ましくないため、湿度低下は少なくとも16時間程度かけて漸次行う。この順化段階の温度は、発根誘導期間と同様15〜25℃である。照射は、発根誘導時と実質的に同一である。順化に要する期間は1〜5日程度である。
【0040】
(4)生育段階(S4);
S4は、S3で順化された苗木を生育し、生重量を増やす段階である。S4では、実験的にはS3に引き続き人工気象機内で実施してもよいが、産業的にはハウスや植物工場のような露地とは異なる実質的閉鎖環境で行うのが望ましい。
【0041】
S4の段階での温度は15〜25℃、湿度は30〜60%RHである。光照射は、光源が蛍光灯及び/又はLEDの連続照射となり、蛍光灯とLEDでは多少異なるが、照射強度が30〜50μmol・m−2・s−1、照射期間が少なくとも20日間である。上限は技術的に特定する必要はないが60日程度が妥当である。照射期間後の生重量は、S3段階の生重量に比して約2倍増となっている。
【0042】
(5)PAC増量段階(S5);
S5は、S4で得られた苗木のPAC含有量を増やす本発明のもっとも特徴的な光照射段階である。図4は、PAC増量段階直前の苗木の状態を示す。苗木の長さは50〜120mm程度である。図5は、人工気象機による光照射の状況を示しているが、温度、湿度、光照射条件等を適正に管理できれば、人工気象機以外のハウスや植物工場のような実質的閉鎖環境の場に移すのが大量生産には適している。
【0043】
S5での温度及び湿度は、いずれもS4と略同等でよく、温度は15〜25℃、湿度は30〜60%RHの範囲内である。
【0044】
S5での光照射の光源は、蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射である。照射強度は60〜300μmol・m−2・s−1範囲、照射期間は少なくとも4日間である。4日以上の光照射により、PAC含量及びPAC含量割合を増加させることができる。照射期間の上限は技術的に特定する必要はないが、照射期間を4〜12日間程度にすれば、早期収穫が可能となる。光照射にLEDを使用する場合、LEDは青色もしくは赤色の単独又はそれらの組み合わせでもあってもよい。LEDの青色照射にあっては、照射強度100〜300μmol・m−2・s−1の範囲が好適である。LEDの赤色照射にあっては、照射強度60〜90μmol・m−2・s−1の範囲が好適である。照射条件が変わっても照射期間は4〜12日間程度でよい。
【0045】
一般にLEDの使用は、消費電力が低く、発熱量も少ないため、空調にかかるコストを低減できる利点がある。加えて、発熱量が低いため、至近距離からの光照射でも、苗木に熱障害がおこらず、植物体の光利用効率が高い。また後述の通り、LEDにより特定の光を照射することで、PAC含量及びPAC含量割合を顕著に増加させることができる。
【0046】
本発明の特徴であるS3、S4及びS5における光照射の好適な組み合わせを、以下に例示する。
(1)育苗段階S3での光照射は、蛍光灯のみによる12時間毎の明暗間欠照射で、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射である。生育段階S4での光照射は、蛍光灯のみよる連続照射で、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射である。PAC増量段階S5での光照射は、蛍光灯及び赤色LEDによる連続照射であり、照射強度が120μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である。
(2)育苗段階での光照射は、蛍光灯による12時間毎の明暗間欠照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射である。生育段階での光照射は、蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射である。PAC増量段階での光照射は、蛍光灯及び青色LEDによる連続照射であり、照射強度が300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である。
【0047】
注目すべきは、S5での照射効果である。詳細は実施例の考察に譲るが、概して言えることは、図7(B)及び図9(B)に示すように、S4までの光照射では、苗木の総PAC含量はあまり増えず、S5の短期間の照射で初めて露地栽培のブルーベリー成木の葉に近い総PAC含量に達していることである。また、アントシアニン含量は図10に示すように、蛍光灯と青色LEDの併用の場合顕著に増量する。蛍光灯と赤色LEDの併用又は青色LED単独では増量効果が確認される程度である。この結果は、総アントシアニンに占めるPAC含量の割合が、増加することを意味する。
【0048】
光照射によるPACとアントシアニンの増量の効果においては、図11に示すように経時的変化が異なる。総PAC含量は照射期間に応じて増加するが、総アントシアニン含量は5日頃から減少に転じる。この結果は、本発明の光照射を望ましくは5日以上行うと、PACの増量が選択的に増えることを意味する。
【0049】
さらに、図12に示すPACの産生に関与する遺伝子発現は、図13から明らかなように光照射を反映して強弱を示し、そのうちの少なくともF3H、DFR、LDOX及びANRは、強制的な光照射をしない比較例▲1▼に比し、特定の光照射条件を反映して明らかに強くなっている。このことから、逆に人工気象機内でのブルーベリー苗に対するテスト照射条件下での遺伝子発現が強くなることを指標として、ブルーベリー葉からのPAC取得のためのブルーベリー人工栽培工場等での好適な照射条件のプレスクリーニングが可能である。
【0050】
(6)収穫段階(S6);
S6は、S5でPAC含量が増えたブルーベリー苗木の収穫段階である。図6は、収穫直前の苗木の状態を示す。苗木全長は、50〜150mm程度である。
【0051】
この段階の苗木の上部を枝葉ともに切り取って、PAC抽出の原料に用いることができる。ブルーベリーの枝葉には優れた生理活性を示すPACが存在していることは、既述の通りである。本発明では苗木で収穫段階を迎えるため、小枝が混入しても差し支えなく、露地栽培の成木の葉の収穫に比べると、収穫作業は極めて効率的である。枝葉を収穫した後の苗木は、再度S4の生成過程に戻し、生重量を増やすことができる。S4〜S6の周期を60日程度とすると、全段階を実質的な閉鎖環境内で行うため、枝葉を年5〜6回収穫できる。この点も、収穫が年1回の露地栽培に比べて有利である。
【0052】
以下、実験例および実施例を挙げて本発明を説明する。ただし、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、特に記載のない限り、「%」とは「重量%」を、「部」とは「重量部」を意味するものとする。
【0053】
材料及び機器:
ラビットアイブルーベリー(V.ashei Reade)の培養苗と成葉およびハイブッシュブルーベリー(V.corymbosum L.)の培養苗を供試した。
【0054】
光源として昼白色蛍光灯(メロウ 5N FLR40S−EX−NM36−H 東芝)、青色LED(パネル LED LED−B型 東京理化器械株式会社 ピーク波長 470nm)、赤色LED(パネル LED LED−R型 東京理化器械株式会社 ピーク波長 660nm)を使用した。
【0055】
植物体の生育には、植物インキュベーター(CFH−405 株式会社トミー精工)を用いた。
【0056】
測定法
1.ブルーベリー苗木の総ポリフェノール含量
80%(v/v)メタノールで、凍結乾燥物からポリフェノールを抽出した。ポリフェノール含量は、フォーリン−チオカルト法(柚木崎千鶴子ら「県内産農産物の抗酸化活性」、宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告[48]91−98(2003))で測定した。測定値は、生重量あたりの没食子酸相当量で算出した。
【0057】
2.ブルーベリー苗木の総PAC含量
99℃の熱水で、凍結乾燥物からPACを抽出した。PAC含量は、4−ジメチルアミノシンナムアルデヒド(DMACA)法(Li,Y.−G.et al.“The DM ACA−HCl Protocol and the Threshold Proanthocyanidin Content for Bloat Safety in Forage Legumes”Journal of the Science of Food and Agriculture 70:89−101(1996))で測定した。測定値は、生重量あたりのカテキン相当量で算出した。
【0058】
3.ブルーベリー苗木の総アントシアニン含量
終濃度が0.1Nになるように塩酸を添加した95%(v/v)エタノールで、凍結乾燥物からアントシアニンを抽出した。アントシアニン含量の測定はHPLCで行った(Ballington J.R.et al.“Interspecific differences in the percentage of anthocyanins,aglycons,and aglycon−sugars in the fruit of seven species of blueberries.”Journal of American Society for Horticultural Science 112:859−864(1987))。測定値は、生重量あたりのシアニジン3−グルコシド相当量で算出した。
【0059】
5.遺伝子発現の測定
ブルーベリーのポリフェノール生合成系を調べるため、ポリフェノール生合成遺伝子、F3H、LDOX、DFR、LAR1、LAR2及びANRの6つの遺伝子の発現解析を行った。
ブルーベリーポリフェノール生合成遺伝子のうちF3H及びLDOXは、Clontech PCR−SelectTM cDNAサブトラクションキット(クロンテック社製)を用いて単離した。DFR、ANRは、ブルーベリー以外の生物においてそれぞれの遺伝子で相同性の高い領域に、以下の塩基配列を持った特異的なプライマーをそれぞれ2種類作製した。
DFR
DFR−F1:GTNTSYGTBACNGGDGGNNCNGGNTWY
DFR−R1:HTCDAYRGCNCCNNBRWACATNTCYTY
ANR
ANR−F1:AAGRMVGCDTGYGTBRTHGGYGGMACY
ANR−R1:CCCCTTDGYSTTSAWRTAYTCYASASW
LAR
LAR−F1:GGWKCMWCYGGKTTYATNGGBMRGTTY
LAR−R1:VTYAAGRCAYTCNTCNAHGSWYCKRAA
用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、それぞれの遺伝子に特異的な塩基配列を増幅して単離した。また、SMARTScribeTM Reverse Transcriptase(クロンテック社製)を用いてRapid Amplification of cDNA Ends(RACE)−PCRを行い、それぞれの遺伝子の5´末端および3´末端を単離した。単離した遺伝子の塩基配列は、Applied Biosystems3500xLジェネティックアナライザ(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)で解読した。解読した遺伝子の機能は、日本DNAデータバンクのBlastによる相同性検索により推定した。
解読した配列をもとにブルーベリーポリフェノール生合成遺伝子にそれぞれ特異的なプライマーを2種類ずつ作製し、後述の発現解析に用いた。
培養苗のポリフェノール生合成遺伝子の発現を調べるため、改良したCetyl trimethyl ammonium bromide(CTAB)法(布施ら「ブルーベリー葉における効率的なRNA抽出法の開発」第51回植物生理学会年会要旨集 282頁 2010年)により培養苗からRNAを抽出した。
写酵素(インビトロジェン社製)を用い、抽出したRNAから、相補的DNA(cDNA)を合成した。合成したcDNAに対し、それぞれの遺伝子に以下の塩基配列を持った特異的なプライマーを2種類作製した。
F3H
C74−F6:ATGGCACCAACGACGCTGAC
C74−R7:ATAGCAAAGTGGGTCTAAGCA
LDOX
C68−F6:ATGGTGAGTACAATGGTTGC
C68−R4:GACAAGTACAACGTTATGCC
DFR
DFR−F8:CGAACCAGTCATGAAAGATGC
DFR−R8:CCACCTCATCCATACAAGCAT
ANR
ANR−F6:CGACCTCAATCTTTGTCTCC
ANR−R6:ACCATTGCTAAGGTGAACACC
LAR1
LAR1−F3:ATGACGTTGATCACAGCTTCTG
LAR1−R1:GCTGATACACATGCTCCCAT
LAR2
LAR2−F4:GGGAATCATGACTGTGTCGA
LAR2−R2:GCCACGTAATCCTCAAAGCA
を行い、それぞれの遺伝子に特異的な塩基配列を増幅した。増幅した産物を1.5%(w/v)アガロースゲルで50Vで90分の電気泳動を行い、特異的産物を分離し、臭化エチジウムで染色後、紫外線照射により蛍光を発光させ、その強さで発現強度を推定した。発現強度の解析は、解析ソフトImageJ 1.43u(アメリカ国立衛生研究所)にて行った。
【実施例1】
【0060】
1.ブルーベリーの育苗段階(S3)
ブルーベリーには「レッドパール」を用いた。培養土にはピートモスとボラ土を1:1で混合した土を充填した幅28cm、奥行き28cm、高さ6cmの100穴セルトレイに、特許文献6に基づき作製した挿し穂を移植した。1日に1度挿し穂全体がぬれる程度に霧状の水を与え、セルトレーの上には、光が当たるように透明な蓋を置き、中の挿し穂が乾燥しないようにし、気温25℃の人工気象機内に置いた。1日のうち、12時間は、30〜50μmol・m−2・s−1の昼白色蛍光灯の照射を行い、残り12時間は暗所に置き60日間間欠照射した。挿し穂には、ホルモン剤塗布などの特別な処理は行わなかった。14日程度で挿し穂に発根が起こり、挿し穂から60日後に健全な苗木を確認できた。育苗後は蓋を少し開けておき、2日かけて徐々に外気と同じ湿度にまで下げ、最後は蓋をはずして順化を行った。
【0061】
2.苗木の生育段階(S4)
前工程で得た苗木に対し、気温25℃の人工気象機内で、昼白色蛍光灯を用い、照射強度30μmol・m−2・s−1、照射期間20日間、24時間連続照射した。
3.苗木のPAC増量段階(S5)
前工程で得た生育苗木に対し、気温25℃の人工気象機内で、昼白色蛍光灯を用い、照射強度170μmol・m−2・s−1、照射期間1〜10日間、24時間連続照射した。図7及び図8に示すようにPAC増量段階照射開始から1,3,5,10日目にサンプルを採取し、凍結乾燥し、冷凍保存した。
4.有効成分の測定
前段階の凍結乾燥試料を用い、前述の方法により、総ポリフェノール含量、総PAC含量、及び総アントシアニン含量を測定した。結果を図7及び図8に示す。
【実施例2】
【0062】
ブルーベリーとして「くにさと35号」を用い、PAC増量照射を昼白色蛍光灯で照射強度170μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図7及び図8に示す。
【実施例3】
【0063】
ブルーベリーとして「バークレイ」を用い、PAC増量照射を昼白色蛍光灯で照射強度170μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図7及び図8に示す。
【実施例4】
【0064】
ブルーベリーとして「レッドパール」を用い、PAC増量照射を昼白色蛍光灯30μmol・m−2・s−1とLED(青又は赤)の組み合わせで行った。青色LEDは照射強度300μmol・m−2・s−1、照射期間5日間と10日間、24時間連続照射した。赤色LEDは照射強度90μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図9及び図10に示す。
【実施例5】
【0065】
ブルーベリーとして「レッドパール」を用い、PAC増量照射を青色LEDで照射強度300μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図9及び図10に示す。
【実施例6】
【0066】
ブルーベリーとして「バークレイ」を用い、PAC増量照射を青色LEDで照射強度300μmol・m−2・s−1、照射期間10日間、24時間連続照射した。それ以外は、実施例1と同じ方法によった。結果を図9及び図10に示す。
【0067】
図7(A)が示すように、総ポリフェノール含量は、苗木にPAC増量照射を10日間行った場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり74mgであった。露地栽培の成木と比較すると、6月収穫葉の79%、9月収穫葉の56%の含量に達した。
【0068】
図7(B)が示すように、総PAC含量も、苗木にPAC増量照射を10日間行った場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり6.0mgであった。露地栽培の成木と比較すると、6月収穫葉の153%、9月収穫葉の75%の含量に達した。また5日程度の照射でも、ほぼ露地栽培の成木に匹敵する量の総PACが得られた。試験番号1、2のように、生育照射のみでは十分なPAC量は得られなかった。このことから、5から10日程度の照射で、PACが十分に含まれた苗木の収穫が可能である。「くにさと35号」の苗木の総PAC含量は、生重量1g当たり8.2mgという、非常に高い値となった。この結果から、「くにさと35号」は、本発明の栽培方法に適した品種であると考えられる。一方、ハイブッシュブルーベリーの1種である「バークレイ」の苗木では、ラビットアイブルーベリー苗木ほどのPAC含量を得ることはできなかった。
【0069】
図8が示すように、総アントシアニン含量は、PAC増量照射開始から5日目に最も多くなり、5日目以降は減少した。理由は定かでないが、本発明の光照射によれば、PACが選択的に増加することが明らかになった。
【0070】
以上のことから、光照射条件の変動によるプロアントシニジン含量の変化は、アントシアニン含量の変化と全く異なる挙動を示すため、PAC高含有ブルーベリー苗木の生育には、今回見出された照射条件で照射する栽培方法が有効である。
【0071】
図9(A)が示すように、総ポリフェノール含量は、ラビットアイブルーベリー苗木に、30μmol・m−2・s−1の白色蛍光灯に加え、300μmol・m−2・s−1のLED青色光を10日間照射した場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり56mgであった。露地栽培の成木と比較すると、6月収穫葉の60%、9月収穫葉の43%の含量であった。総ポリフェノール含量は、露地栽培の成木ほどの量は得られなかった。
【0072】
図9(B)が示すように、総PAC含量は、培養苗に、300μmol・m−2・s−1のLED青色光のみを10日間照射した場合に最も多くなり、その量は、生重量1g当たり6.6mgであった。露地で生育したものと比較すると、6月収穫葉の169%、9月収穫葉の83%の含量であった。また30μmol・m−2・s−1の白色蛍光灯の光に加え、300μmol・m−2・s−1のLED青色光を10日間照射した場合も、同程度のPACが含まれていた。30μmol・m−2・s−1白色蛍光灯の光に加え、90μmol・m−2・s−1のLED赤色光を10日間照射した場合や、30μmol・m−2・s−1の白色蛍光灯の光に加え、300μmol・m−2・s−1のLED青色光を5日間照射した場合でも、6月収穫葉以上のPAC含量が確認された。
【0073】
図10が示すように、総アントシアニン含量は、LED照射を5日行ったものよりも、10日間行ったものの方が減少し、図8と同様の傾向が見られた。
【0074】
以上のことから、昼白色蛍光灯だけの場合、LED光と昼白色蛍光灯を同時に照射した場合、およびLED光だけの場合、いずれの場合でも、5から10日間短期間照射することで、ブルーベリー苗木のPAC含量を露地栽培の成木並みにすることが可能であることが分かった。LED光を利用した場合、総ポリフェノール含量は白色蛍光灯の方が増加するが、PAC含量の増加量はほとんど差がなく、ポリフェノール中に占めるPACの割合をより高めることができると考えられる。
【0075】
ハイブッシュブルーベリーの1種である「バークレイ」の苗木で、20日間の生育後、300μmol・m−2・s−1のLED青色光のみを10日間照射する試験を行ってみたが、ラビットアイブルーベリーほどのPAC含量を得ることはできなかった。
【0076】
一方、図12のPAC又はその前駆体の産生に関与する遺伝子のうち、F3H、DFR、LDOX及びANRは、図13に示すように、強制的な光照射を行わない光照射のテスト番号1に比して、遺伝子の発現が強くなっている。すなわち、F3Hの発現強度は、テスト番号2及び6における光照射条件でテスト番号1を大きく上回っている。同様に、DFRの発現はテスト番号2、3、6、9において強くなり、LDOXの発現はテスト番号2、3、6、9で強くなり、ANRの発現はテスト番号2、3、4、9で強くなっている。しかし、同じPAC又はその前駆体の産生に関与する遺伝子でも、LAR1及びLAR2の発現強度は光照射条件を反映しない。
【0077】
ブルーベリー葉由来のPACは、特許文献1から明らかなように、カテキンよりエピカテキンを基本骨格としたものの割合が高い。本発明においても、図13に示すように、図12におけるエピカテキンルートに関与するLDOX及びANRの発現は強くなっているが、カテキンルートのLARの発現は強くなっていない。このことは、本発明における遺伝子発現が強くなっていることと、ブルーベリー葉由来のPACのエピカテキンの割合が高くなっていることに対応していることを示唆している。
【0078】
また、図7(B)と図13から分かるように、S5:PAC増量照射条件開始後、1日でF3H、DFR、LDOX及びANRの発現が強くなり、5日で総PAC含量が増加している。かかる遺伝子発現と光照射条件の対応から、遺伝子F3H、DFR、LDOX及び/またはANRの少なくともひとつの発現が強くなっていることを指標として、好適な光照射条件を選定することができる。あるいは、採取したブルーベリー葉の総ポリフェノールの測定と併用又はこれに代えて、これらの遺伝子発現の強弱を測定し、ブルーベリー葉のPAC取得を目的としたブルーベリーの人工栽培における光照射条件の適否をプレスクリーニングする指標とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、植物工場での栽培に利用可能である。生産物は、サプリメントの製造、サラダやお菓子、飲料などへの添加物として利用可能である。また本発明の光照射下におけるPACの産生に関与する遺伝子は、PAC産生量の多いブルーベリーの育種にも利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブルーベリーの苗木に、PAC増量照射として蛍光灯及び/又はLEDからなる光照射し、苗木に含まれるPAC含量を増やすブルーベリーの栽培方法。
【請求項2】
苗木がマイクロプロパゲーションにより増殖された多芽体由来である請求項1の方法。
【請求項3】
下記段階からなる請求項1又は2の方法。
(1)多芽体のシュートから挿し穂を採取し、採取された挿し穂をセルトレーに挿し木し、人工気象機内の高湿度雰囲気、光照射下で挿し穂から発根を誘導し、漸次湿度を常湿まで低減して発根後の苗木を順化する育苗段階
(2)順化した苗木を実質的な閉鎖環境内、光照射下で生育させる生育段階
(3)生育された苗木のPAC含量を光照射下で増やすPAC増量段階
【請求項4】
育苗段階における光照射が、蛍光灯及び/又はLEDによる間欠照射であり、照射時の照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、該間欠照射が明期と暗期の等時間の少なくとも1回の繰り返しであり、照射期間が30〜60日である請求項3の方法。
【請求項5】
生育段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1である。照射期間が少なくとも20日間である請求項3の方法。
【請求項6】
PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が60〜300μmol・m・−2・s−1で、照射期間が4〜12日間である請求項3の方法。
【請求項7】
PAC増量段階での光照射がLEDの単独であり、該LEDが青色もしくは赤色の単独又はそれらの組み合わせである請求項6の方法。
【請求項8】
LEDの青色照射が、照射強度100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である請求項7の方法。
【請求項9】
LEDの赤色照射が、照射強度60〜90μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である請求項7の方法。
【請求項10】
育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が30μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び赤色LEDによる連続照射であり、照射強度が60〜200μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である請求項3の方法。
【請求項11】
育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が、蛍光灯及び青色LEDによる連続照射であり、照射強度が100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である請求項3の方法。
【請求項12】
ブルーベリーがラビットアイブルーベリーである請求項1〜11のいずれかの方法。
【請求項13】
ラビットアイブルーベリーが「くにさと35号」である請求項12の方法。
【請求項14】
遺伝子F3H、DFR、LDOX、及びANRからなる群から選ばれた少なくともひとつの発現の強弱を指標として、光照射条件を選択する請求項1の方法。
【請求項15】
PAC増量した枝葉を収穫した苗木を生育段階に戻し、再び生育した枝葉のPAC含有量を増やし収穫を繰り返すブルーベリーの栽培方法。
【請求項1】
ブルーベリーの苗木に、PAC増量照射として蛍光灯及び/又はLEDからなる光照射し、苗木に含まれるPAC含量を増やすブルーベリーの栽培方法。
【請求項2】
苗木がマイクロプロパゲーションにより増殖された多芽体由来である請求項1の方法。
【請求項3】
下記段階からなる請求項1又は2の方法。
(1)多芽体のシュートから挿し穂を採取し、採取された挿し穂をセルトレーに挿し木し、人工気象機内の高湿度雰囲気、光照射下で挿し穂から発根を誘導し、漸次湿度を常湿まで低減して発根後の苗木を順化する育苗段階
(2)順化した苗木を実質的な閉鎖環境内、光照射下で生育させる生育段階
(3)生育された苗木のPAC含量を光照射下で増やすPAC増量段階
【請求項4】
育苗段階における光照射が、蛍光灯及び/又はLEDによる間欠照射であり、照射時の照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、該間欠照射が明期と暗期の等時間の少なくとも1回の繰り返しであり、照射期間が30〜60日である請求項3の方法。
【請求項5】
生育段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1である。照射期間が少なくとも20日間である請求項3の方法。
【請求項6】
PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び/又はLEDによる連続照射であり、照射強度が60〜300μmol・m・−2・s−1で、照射期間が4〜12日間である請求項3の方法。
【請求項7】
PAC増量段階での光照射がLEDの単独であり、該LEDが青色もしくは赤色の単独又はそれらの組み合わせである請求項6の方法。
【請求項8】
LEDの青色照射が、照射強度100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である請求項7の方法。
【請求項9】
LEDの赤色照射が、照射強度60〜90μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日である請求項7の方法。
【請求項10】
育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が30μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が蛍光灯及び赤色LEDによる連続照射であり、照射強度が60〜200μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である請求項3の方法。
【請求項11】
育苗段階での光照射が蛍光灯による12時間毎の間欠照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が30〜60日間の照射であり、生育段階での光照射が蛍光灯による連続照射であり、照射強度が20〜50μmol・m−2・s−1で、照射期間が20〜30日間の照射であり、PAC増量段階での光照射が、蛍光灯及び青色LEDによる連続照射であり、照射強度が100〜300μmol・m−2・s−1で、照射期間が4〜12日間の照射である請求項3の方法。
【請求項12】
ブルーベリーがラビットアイブルーベリーである請求項1〜11のいずれかの方法。
【請求項13】
ラビットアイブルーベリーが「くにさと35号」である請求項12の方法。
【請求項14】
遺伝子F3H、DFR、LDOX、及びANRからなる群から選ばれた少なくともひとつの発現の強弱を指標として、光照射条件を選択する請求項1の方法。
【請求項15】
PAC増量した枝葉を収穫した苗木を生育段階に戻し、再び生育した枝葉のPAC含有量を増やし収穫を繰り返すブルーベリーの栽培方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−182790(P2011−182790A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40784(P2011−40784)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究「地域結集型共同研究事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究「研究成果最適展開支援事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究「地域結集型共同研究事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、委託研究「研究成果最適展開支援事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【Fターム(参考)】
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