説明

ブロックポリマー及びその製造方法

【課題】 生産性がよく、ドットパターンの大きな自己組織化薄膜を形成することが可能な、ブロックポリマー及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 分子を構成する少なくとも1種のブロック鎖が、アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物である、ブロックポリマーであって、
(1)ミクロ相分離構造を有しており、
(2)ブロック鎖の1種以上が、リビングラジカル重合で合成されたものであり、
(3)数平均分子量が20万以上1000万以下であり、
(4)分子量分布が1.5以下である、ブロックポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化に代表されるように、リソグラフィー技術を始めとする微細なパターン加工技術の重要性は非常に高まっている。しかしながら、リソグラフィー技術では加工寸法が小さくなるほど加工装置が複雑且つ大型化し、膨大な投資が必要になってくるため、加工サイズの微細化とそのコストをバランスさせる新しい技術の創出が待望されていた。
【0003】
このような観点からリソグラフィーのような機械的手法ではなく、特定の材料、特にブロックポリマーが自己組織的に形作る相分離構造を材料の微細加工に利用しようとする研究が盛んに行われている(特許文献1)。
【0004】
例えば、超高分子量スチレン−メタクリル酸メチルブロックポリマーの自己組織化を利用して、発光素子の表面に薄膜を形成し、表面に形成された薄膜のミクロ相分離構造のメタアクリル酸メチル相を選択的に除去し、残余のスチレン相をエッチングマスクとして用いて発光素子の表面をエッチングすることによって、微細な凹凸が形成され、素子内部で発生した光を外部に効率的に取り出す事例が紹介されている(特許文献2)。
【0005】
使用されるブロックポリマーの構造はその用途によって異なるが、発光素子用レジスト膜を作成する場合は、効率的に光を取り出すためには、ある程度規則的で直径100ナノメートル以上のドットパターンを持つ自己組織化膜が必要となる。自己組織化膜のドットパターンを大きくするためには、ブロックポリマーの分子量が大きい方が有利であり、直径100ナノメートル以上では20万以上の分子量を持つブロックポリマーが使用される。また、自己組織化膜の規則性の観点から、ブロックポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が1に近い分子量の揃ったポリマーが使用される。実際に、分子量分布の狭いブロックポリマーを用いた方が規則性の高いパターンが得られることが報告されている(特許文献3)。
【0006】
上記理由から超高分子量体で、分子量分布が狭いブロックポリマーを得るため、これまではリビングアニオン重合法によって合成されていた(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−200526
【特許文献2】特開2003−258296
【特許文献3】特開2001−151834
【特許文献4】特開2008−109152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、リビングアニオン重合法で極性の高いモノマー、例えば、メタクリル酸メチルを重合する場合、使用するモノマーや溶媒の厳密な精製が必要であり、安定的に製造することは極めて困難である。また、副反応を抑制して高分子量体を合成するためには、極低温での重合が必要になり、溶解性の低い超高分子量ブロックポリマーを合成するためには、極希薄溶液中での重合が必須であるため、リビングアニオン重合法では生産性にも問題がある。
【0009】
一方、得られたブロックポリマーは自己組織化膜を形成させるために高温で長時間アニールされる。その工程で熱的安定性に乏しいポリメタクリル酸メチルが熱分解し、装置を汚染してしまったり、自己組織化膜の厚みが変化し、エッチング工程で一方の相を除去することが困難になる。
【0010】
さらに、この熱分解により、ブロックポリマーの組成比が変化し、自己組織化パターンやその大きさが安定しないといった問題も生じる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、熱的安定性に優れるとともに、薄膜を形成してプラズマエッチングしたときに大きなドットパターンを与える自己組織化薄膜を形成することが可能なブロックポリマー、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分子を構成する少なくとも1種のブロック鎖が、アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物である、ブロックポリマーであって、
(1)ミクロ相分離構造を有しており、
(2)ブロック鎖の1種以上が、リビングラジカル重合で合成されたものであり、
(3)数平均分子量が20万以上1000万以下であり、
(4)分子量分布が1.5以下である、ブロックポリマーを提供する。
【0013】
上記本発明のブロックポリマーは、熱的安定性に優れるとともに、薄膜を形成してプラズマエッチングしたときに大きなドットパターンを与える自己組織化薄膜を形成することが可能である。
【0014】
本発明のブロックポリマーにおいては、分子を構成する2種のブロック鎖について、それぞれのN/(N−N)を算出し(但し、N、N及びNは、それぞれ、各ブロック鎖を構成するモノマー単位の、総原子数、炭素原子数及び酸素原子数である。)、算出値の一方を他方で除したときに、その数値が1.4以上となるようなブロック鎖が存在することが好ましい。
【0015】
このような構成により、プラズマエッチングしたときに大きく且つ明瞭なドットパターンを得ることができるようになる。なお、N/(N−N)を算出して、算出値の一方を他方で除す場合においては、大きな算出値を小さな算出値で除する(算出値が同一である場合は、いずれで除してもよい)。
【0016】
本発明のブロックポリマーは、アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物からなるブロック鎖の他に、芳香族ビニル系化合物の重合物からなるブロック鎖を有することが好ましい。
【0017】
本発明においては、ブロックポリマーの薄膜を形成して窒素下290℃で8時間加熱したときに、残膜厚率が80%以上(好ましくは90%以上、さらには95%以上、特には98%以上)であることが好適である。ここで、薄膜としては100nm程度(例えば、100nm±50nm程度)の膜を使用できる。
【0018】
本発明はまた、上述のブロックポリマーを、250℃を超え分解温度未満の温度(好ましくは260〜330℃、さらには280〜310℃)でアニールしたブロックポリマーを提供する。
【0019】
このようなブロックポリマーにおいては、ミクロ相分離構造が海島構造であり、アニール後のプラズマエッチングで残存するドットの平均直径が100nm以上であることが好ましい。
【0020】
本発明はさらに、上記ブロックポリマーを製造する製造方法であって、アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物からなるブロック鎖が、リビングラジカル重合で重合される、製造方法を提供する。
【0021】
ここで、リビングラジカル重合が、原子移動ラジカル重合であるのが良く、還元剤を共存させて原子移動ラジカル重合法を行うと特に良い。
【0022】
また、アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物からなるブロック鎖が、配位子として2,2’−ビピリジン又はその誘導体を有する金属触媒を用いた、リビングラジカル重合で重合されることが好適である。
【0023】
上述したブロックポリマーは、例えば基板上に形成させる薄膜やレジスト膜として使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱的安定性に優れるとともに、薄膜を形成してプラズマエッチングしたときに大きなドットパターンを与える自己組織化薄膜を形成することが可能なブロックポリマー、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】超高分子量ブロックポリマー薄膜を窒素下290℃で8時間アニールし、エッチングによりP(MMA/MA)を除去した後のSEM写真である。
【図2】超高分子量ブロックポリマー薄膜を窒素下290℃で8時間アニールし、エッチングによりP(MMA/MA)を除去した後のSEM写真を、画像解析した図である。
【図3】超高分子量ブロックポリマー薄膜を窒素下250℃で8時間アニールし、エッチングによりP(MMA/MA)を除去した後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0027】
まず、本発明で合成されるブロックポリマーについて説明する。ブロックポリマーとは、複数のホモポリマー鎖がブロックとして結合した直鎖コポリマーをいう。ブロックポリマーの代表例は、繰り返し単位Aを有するAブロック鎖と繰り返し単位Bを有するBブロック鎖とが末端どうしで結合した、−(AA・・AA)−(BB・・BB)−という構造を持つA−B型ジブロックポリマーである。3種以上のポリマー鎖が結合したブロックポリマーを用いてもよい。トリブロックポリマーの場合、A−B−A型、B−A−B型、A−B−C型のいずれでもよい。1種または複数種のブロック鎖が中心から放射状に延びたスター型のブロックポリマーを用いてもよい。ブロック鎖が4つ以上の(A−B)n型または(A−B−A)n型などのブロックポリマーを用いてもよい。
【0028】
グラフトポリマーは、あるポリマーの主鎖に、他のブロック鎖が側鎖としてぶら下がった構造を有する。グラフトポリマーでは、側鎖に数種類のポリマーをぶら下げることができる。また、A−B型、A−B−A型、B−A−B型などのブロックポリマーにCブロック鎖がぶら下がったようなブロックポリマーとグラフトポリマーの組合せでもよい。ブロックポリマーは、グラフトポリマーと比較して、分子量分布の狭いポリマーを得やすく、組成比も制御しやすいので好ましい。なお、以下においてはブロックポリマーについて説明することが多いが、ブロックポリマーに関する記載はそのままグラフトポリマーにも適用できる。
【0029】
フローリー−ハギンス(Flory−Haggins)の理論によれば、一般的にAポリマーおよびBポリマーが相分離するには混合の自由エネルギーΔGが正にならなければならない。AポリマーとBポリマーとが相溶しにくく、2つのブロック鎖の斥力が強いとAポリマーが多い相とBポリマーが多い相に分離を起こしやすく、このような状態を相分離状態と定義されている。ブロックポリマーの場合、AポリマーとBポリマーが化学的に結合しているため、ナノメートルもしくはミクロンメートルスケールで相分離を起こすので、ミクロ相分離状態と呼ばれる。
【0030】
ミクロ相分離構造は、ブロックポリマーの重合度が大きいほど形成されやすいので、分子量には下限値がある。ただし、相分離構造を形成する各相のポリマーは、必ずしも相互に非相溶である必要はない。これらのポリマーの前駆体ポリマーが相互に非相溶であれば、ミクロ相分離構造を形成することができる。前駆体ポリマーを用いて相分離構造を形成した後に、加熱、光照射、触媒添加などにより反応させて目的のポリマーに変換することができる。この際、反応条件を適切に選択すれば、前駆体ポリマーによって形成された相分離構造が破壊されることはない。
【0031】
Aブロック鎖およびBブロック鎖の組成比が50:50のときに、最も相分離が起こりやすい。これは、最も形成しやすいミクロ相分離構造がラメラ構造であることを意味する。逆に、一方のポリマーの組成を非常に高くすると、他方のポリマーからなる小さい島を含む海島構造を形成する。例えば、ポリスチレン(PS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)の組成比がPS/PMMA=30/70のブロックポリマーでは、PSからなる球状の島部(ドット)とPMMAからなる海部(マトリックス)の相に分離する。これらのミクロ相分離構造は、ブロックポリマーの組成比によって選択することができる。
【0032】
数百ナノメートルサイズ以上の構造の大きさをパターニングするために、通常のブロックポリマーより大きな分子量のものを用いる。このため、ブロックポリマーの数平均分子量は、20万以上1000万以下である必要がある。このとき、数平均分子量(Mn)が20万を下回ると、必要とする大きさに十分達しない。また、数平均分子量が1000万より大きいと粘度などが非常に高く、自己組織的に構造を形成することが不可能になる。数平均分子量は、好ましくは、20万以上500万以下、更に好ましくは、20万以上100万以下である。
【0033】
本発明では、以下において数平均分子量Mnが20万以上のポリマーを超高分子量ポリマーと記載する。
【0034】
自己組織化膜の規則性の観点から、ブロックポリマーの分子量分布Mw/Mnが1に近い分子量の揃ったポリマーが使用される(Mwは重量平均分子量を意味する)。実際に、分子量分布の狭いブロックポリマーを用いた方が規則性の高いパターンが得られるため、少なくともMw/Mn1.5以下の超高分子量ブロックポリマーが必要となる。
【0035】
超高分子量ブロックポリマーのみで、規則的な自己組織化膜を形成することが困難な場合は、所望の組成比となるように一方のホモポリマーをブレンドして組成比を調整してもよい。ホモポリマーの添加量は、ブロックポリマー100重量部に対して、100重量部以下、好ましくは50重量部以下、より好ましくは10重量部以下に設定する。ホモポリマーの添加量が多すぎると、ミクロ相分離構造を乱すおそれがある。
【0036】
以下、本発明において用いられるミクロ相分離構造を形成するブロックポリマーの例を説明する。
【0037】
まず、ドライエッチング速度の差が大きい2種以上のブロック鎖を含むブロックポリマーからなるミクロ相構造形成性ブロックポリマーについて説明する。本発明のミクロ相構造形成性ブロックポリマーは、それぞれのモノマー単位のN/(Nc−No)の値(ここで、Nはモノマー単位の総原子数、Ncはモノマー単位の炭素原子数、Noはモノマー単位の酸素原子数)の比が1.4以上である2つのブロック鎖を有するブロックポリマーを含有する。2つのブロック鎖についてN/(Nc−No)の値の比が1.4以上であるという要件は、ミクロ相分離構造を形成する各ブロック鎖のエッチング選択比が大きいことを意味する。すなわち、上記の要件を満たすブロックポリマーをミクロ相分離させた後にドライエッチングすると、1つのポリマー相が選択的にエッチングされ、他のポリマー相が残る。ポリスチレン(PS)とアクリル酸メチル(MA)を例に詳細を説明する。PSのモノマー単位はCであるから16/(8−0)=2となる。PMAのモノマー単位はCであるから12/(4−2)=6となる。PMAブロック鎖とPSブロック鎖を構成するモノマー単位のN/(N−N)値の比は3となり、本出願で定義した1.4以上となる。したがって、PSはエッチング耐性が高く、PMAのみがエッチングされる。
【0038】
PMAと他のコモノマーからなる共重合体の場合も同様に、そのコモノマーは、エッチング耐性の高いブロック鎖との比が1.4以上になるものが選択される。本出願のMAとMMAの共重合物では、MMAはCであるから15/(5−2)=5となり、MAと同様にエッチングされる。
【0039】
なお、1つのブロック鎖が複数のモノマーの混合物から成っている場合の、N/(Nc−No)は、構成モノマーのモル分率に基づいて、加重平均を計算して求める。例えば、1つのブロック鎖が、モル比MMA/MA=90/10で成っている場合は、N/(Nc−No)は、MMAで5、MAで6であるから、5×0.9+6×0.1=5.1となる。
【0040】
以下、N/(Nc−No)というパラメーターについて説明する。Nはポリマーのセグメント(モノマー単位に相当)当たりの原子の総数、Ncは炭素原子数、Noは酸素原子数である。このパラメーターは、ポリマーのドライエッチング耐性を示す指標であり、この値が大きいほどドライエッチングによるエッチング速度が大きくなる(ドライエッチング耐性が低下する)。有機化合物のエッチング耐性については、J.Electrochem.Soc,130,143(1983)に詳細に記載されている。
【0041】
本発明の超高分子量ブロックポリマーの少なくとも1種のブロック鎖は、アクリル酸エステル単独重合物、もしくはアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物で構成される。ポリメタクリル酸エステルのみから成るブロック鎖は、熱分解温度が低く、熱安定性に乏しい。ブロックポリマーは、自己組織化膜を形成させるために高温でアニールされるため、その工程で熱安定性に乏しいポリメタクリル酸メチルが熱分解することで、分解物の装置への付着などの問題が発生するばかりでなく、ブロックポリマーの組成比が変化することで、自己組織化パターンやその大きさが安定しない問題が生じる。
【0042】
更に、自己組織化膜の厚みがアニール後に変化して、エッチング工程で安定的に一方の相を除去することが困難になる。そのため、熱安定性の高いブロックポリマーを合成することは極めて重要になる。本発明では、ブロック鎖がアクリル酸エステルの単独重合物、あるいはアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物で構成されるため、熱安定性に優れ、分解による問題が発生しない。使用されるモノマーは、限定されるものでは無いが、アクリル酸エステルとしてはメチルアクリレート、メタクリル酸エステルとしてはメチルメタクリレートが好適に用いられる。
【0043】
以下、超高分子量ブロックポリマーの合成法について説明する。
【0044】
本発明の超高分子量ブロックポリマーは、少なくとも1種のブロック鎖がリビングラジカル重合法により合成される。従来のリビングアニオン重合法では、エッチング耐性の低いブロック鎖、つまり極性の比較的高いブロック鎖を、安定的に同じ構造で製造することが極めて困難であった。極性の高いモノマー、例えばメタクリル酸メチルなどを重合する場合、使用するモノマーや溶媒の厳密な精製が必要となるが、水や酸素を完全に除去するのは非常に困難である。また、副反応を抑制して高分子量体を合成するためには極低温での重合が必要となる。そのため、溶解性の低い超高分子量ブロックポリマーを合成する場合は、溶液中のポリマー濃度を上げることができず、リビングアニオン重合法は生産性にも問題がある。
【0045】
更に、アクリル酸エステルのリビングアニオン重合においては、活性α−プロトンの引き抜きや成長鎖末端アニオンの分子内カルボニル炭素攻撃反応が頻繁におこるため、極低温下でも設計どおりの超高分子量ブロックポリマーを合成することは極めて困難である。一方で、リビングラジカル重合法では、高温で安定的にアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルを製造することが可能で、生産性の面からも特に好ましい。
【0046】
エッチング耐性の高いブロック鎖を構成するモノマーとしては、限定されるものでは無いが、スチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエンなどの炭化水素系化合物が好適に用いられる。重合法は特に限定されない。つまり、超高分子量ブロックポリマーは、リビングラジカル重合とその他の重合法の組合せ、あるいはリビングラジカル重合のみによって合成される。
【0047】
リビングラジカル重合法としては、主に3種の方法が知られている。具体的には、ニトロキシラジカルを使用する方法(NMP;例えば特開昭60−89452号公報)、原子移動ラジカル重合法(ATRP;例えば特表平10−509475号公報)、可逆的付加解裂連鎖移動法(RAFT;例えば国際公開第98/01478号パンフレット)がある。重合開始剤の汎用度、適用可能なモノマーの種類の多さ、重合温度等の点から、特に原子移動ラジカル重合法(以下「ATRP」と称す)がより好ましい。
【0048】
また、近年、重合速度の改善、操作の簡便性などを目的として還元剤を添加し、ATRP系中に生成した2価銅を連続的に活性な1価銅に還元するARGET ATRP法が報告されている(例えば、Angew Chem,Int Ed,45(27),4482(2006))。この還元剤の添加によって2価銅と1価銅の割合が平衡に保たれるため、モノマーが消費されても充分な重合速度が維持される。更に、適切な還元剤を添加すれば、使用する銅の量が0.1モル%以下程度にまで減少できるため、超高分子量ポリマーを合成する場合は、更に好ましい重合法である。この手法で使用される還元剤は、金属を含む金属触媒がラジカル成長種を発生させる活性な状態に還元できるものを適宜選択すればよい。
【0049】
重合は、無溶媒で行うこともできるし、各種の溶媒中で行うこともできる。好ましい溶媒としては、特に超高分子量ブロックポリマーの溶解性の点から、アニソール、トルエン、エチルベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0050】
重合溶媒の使用量は特に限定されないが、モノマー仕込み量100質量部に対して0〜2000質量部の範囲内が好ましく、10〜1000質量部の範囲内がより好ましい。超高分子量ポリマーを精密に短時間で合成する場合は、10〜100質量部の範囲内が最も好適である。これら各範囲の上限値は、重合速度低下の抑制、重合制御の点で意義がある。
【0051】
重合開始剤は、一般的にリビングラジカル重合の開始剤基として知られている基を有する化合物が好適に使用できる。例えば、ATRPでは、一般にハロゲン化アルキル基もしくはハロゲン化スルホニル基を有する化合物を開始剤として使用している。
【0052】
モノマーと開始剤のモル比は、100000/1〜100/1の範囲内が好ましく、100000/1〜200/1の範囲内がより好ましい。超高分子量ポリマーを精密に短時間で合成する場合は、60000/1〜1000/1の範囲がより好適である。これら各範囲の上限値は、製造プロセスにおける未反応モノマーの低減の点で意義があり、下限値は、重合速度低下の抑制、重合制御の点で意義がある。
【0053】
重合には触媒を使用することが好ましい。触媒の種類は、一般的に知られている各種のものの中から、重合法に応じて適宜選択すればよい。例えば、重合法としてATRPを用いる場合は、Cu(0)、Cu+、Cu2+、Fe+、Fe2+、Fe3+、Ru2+、Ru3+等の金属を含む金属触媒を使用できる。分子量や分子量分布の高度な制御を達成する為には、特にCu+を含む1価の銅化合物あるいは0価の銅が好ましい。その具体例としては、Cu(0)、CuCl、CuBr、Cu2O等が挙げられる。触媒の使用量は、重合開始剤1モルに対して、通常0.01〜100モル、好ましくは0.01〜50モル、更に好ましくは0.01〜10モルである。
【0054】
また、上述した金属触媒には、通常は有機配位子が使用される。金属への配位原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子等が挙げられる。中でも、窒素原子、リン原子が好ましい。有機配位子の具体例としては、2,2’−ビピリジンおよびその誘導体、1,10−フェナントロリンおよびその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン(Me6TREN)、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等が挙げられる。アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類の超高分子量ポリマーを合成する場合は、2,2’−ビピリジンおよびその誘導体が好ましい。更に好ましくは、2,2’−ビピリジン誘導体である4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジンである。
【0055】
金属触媒と有機配位子とは、別々に添加して重合系中で混合させてもよいし、予め混合して重合系中へ添加してもよい。特に、銅化合物を使用する場合は、前者の方法が好ましい。
【0056】
重合温度は特に制限されない。例えば、ATRPを用いる場合は、通常−50℃〜200℃、好ましくは0℃〜150℃、更に好ましくは20℃〜130℃である。
【0057】
ブロックポリマーのミクロ相分離構造は以下のような方法により作製できる。例えば、ブロックポリマーを適当な溶媒に溶解して塗布溶液を調製し、この塗布溶液を基板上に塗布して膜を形成し、加熱乾燥(プリベーク)する。この膜をポリマーのガラス転移温度以上の温度でアニールすることによって、相分離構造を形成することができる。
【0058】
その他の方法として、ブロックポリマーの溶液をゆっくりとキャストさせることでミクロ相分離構造を形成することもできる。ブロックポリマーを溶融し、ホットプレス法、射出成形法、トランスファー成形法などの方法によって、所望の形状に成形した後、アニールしてミクロ相分離構造を形成することもできる。
【0059】
ここで、アニールとは、繰り返し構造単位によって秩序パターンを画定する際に、ブロックポリマーの二つ以上の異なるポリマーブロック成分間の十分な相分離を可能にする処理のことを意味する。本発明におけるブロックポリマーのアニールは、当該技術分野において周知の様々な方法によって行うことができる。例えば、熱アニーリング(真空中、または窒素あるいはアルゴンを含有する不活性雰囲気中で行う)、溶媒蒸気を用いたアニーリング(室温以上で行う)、または超臨界流体を用いたアニーリングなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
一般的にアニールは、ブロックポリマーのガラス転移温度(T)を上回り、分解温度(T)を下回る高温下で行われる。超高分子量ブロックポリマーの場合は、流動性が著しく低下しているため、安定な相分離状態を形成させるためには、低分子量ブロックポリマーよりも高温で、長時間アニールする必要性が生じる。しかしながら、これまでのリビングアニオン重合で合成された超高分子量ブロックポリマーでは、良好な相分離構造を形成させるために必要な温度で熱分解してしまうため、分子量が大きく減少する。そのため、耐熱性の高い超高分子量ブロックポリマーを選択する必要がある。
【0061】
形成したミクロ相分離構造を利用して、ナノメートルサイズの構造体を形成することができる。具体的には、基板上にエッチング耐性の異なる層(パターントランスファー層)を塗布し、さらに本発明のブロックポリマー層を塗布する。乾燥後、ブロックポリマー層をドライもしくはウエットでエッチングし、ブロックポリマーの1つの相のみを選択的に除去し、凹凸パターンを形成する。この有機物であるポリマーのパターンをマスク(レジスト膜)にして、更にエッチングすることで、凹凸パターンを金属等に転写することが可能となる。
【実施例】
【0062】
本発明を実施例に基づいて説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
[分析方法]
(1)分子量(Mn、Mw、Mw/Mn)
分子量(Mn、Mw、Mw/Mn)は、東ソー社製のHLC−8020にカラム(TSKgelGMHXL、40℃)を2本接続し、RI検出器が取り付けてあるGPC装置で測定した。テトラヒドロフランを移動相に用いた。分子量の計算は、アニオン重合で合成したポリスチレンは、ポリスチレンスタンダード(東ソー社製)を使って検量線を作成し、ポリスチレン換算にて行った。アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルを含むブロックポリマーは、ポリメタクリル酸メチルスタンダード(東ソー社製)を使って検量線を作成し、ポリメタクリル酸メチル換算にて行った。
【0064】
(2)ガラス転移温度(T
ガラス転移温度(T)は、パーキンエルマー社製のDSC−7を使って、JIS−K−7121に準拠して求めた。具体的には、窒素下、10℃/minで室温から250℃まで昇温し、その後10℃/minで室温まで戻し、再び10℃/minで250℃まで昇温した。2度目の昇温過程で測定されるガラス転移温度をTとした。
【0065】
(3)1%熱分解温度
1%熱分解温度は、島津製作所製の熱重量測定装置TGA−50を使って求めた。ブロックポリマーを、窒素気流下で25℃から10℃/minで加熱していき、測定前のブロックポリマー重量に対して重量減少が1%となる時の温度で求めた。
【0066】
(4)共重合体中のアクリル酸メチル(MA)の組成量
共重合体中のアクリル酸メチル(MA)の組成量は、NMR DPX−400(BRUKER社製)を使って求めた。1H−NMRを測定し、メタクリル酸メチル(MMA)のメチルエステルのメチル、α位のメチルとアクリル酸メチルのメチルエステルのメチルのピーク面積比から計算で求めた。
【0067】
(5)走査型電子顕微鏡(SEM)
SEM写真の撮影には、FE−SEM S−800(日立ハイテク社製)を使用した。
【0068】
(6)膜厚測定
ブロックポリマーの膜厚測定には、NanoSpec5100UV−L6(ナノメトリクスジャパン社製)の非接触光学式膜厚測定装置を使用して測定した。
【0069】
(7)ドット平均直径測定
ドットパターンの平均直径測定は、画像解析ソフトA像君(旭化成エンジニアリング社製)を使用して、SEM写真より計測した。
【0070】
[実施例1]
リビングアニオン重合とリビングラジカル重合を使用したPS−b−P(MMA/MA)ブロックポリマー合成法
[1段目;リビングアニオン重合によるPS−Brの合成法]
リビングアニオン重合の全ての操作は窒素下で実施した。
2lフラスコにアルミナカラムを通して精製したシクロヘキサン700mlとスチレンモノマー(68ml、0.60mol)を導入し、続いて0.55mol/lのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(0.2ml、0.35mmol)を加えて重合を開始した。室温で1.5時間撹拌した後、スチレンオキサイド(0.04ml、0.35mmol)を加えて15分間撹拌、続いて2−ブロモイソブチリルブロマイド(0.04ml、0.35mmol)を加えて30分間撹拌した。得られた溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させた後、120℃で真空乾燥させた。得られた末端変性ポリスチレンPS−Brの数平均分子量Mnは251,100g/mol、分子量分布Mw/Mnは1.08であった。
【0071】
[2段目;リビングラジカル重合によるPS−b−P(MMA/MA)の合成法]
300mlフラスコに塩化第二銅(11.2mg、0.08mmol)、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン(67.9mg、0.17mmol)、ATRP開始剤となる1段目で合成したPS−Br(10.4g、0.04mmol)を加えて窒素置換を行った。30分間窒素バブリングしたアニソール39mlとアルミナカラムを通して重合禁止剤を除去したメタクリル酸メチル(MMA)(80.0ml、0.75mol)とアクリル酸メチル(MA)(7.5ml、0.08mol)をモノマーと開始剤のモル比が20000/1になるように加えた後、1時間撹拌してPS−Brを溶解させた。このフラスコを80℃の湯浴に浸し、別容器で調製した還元剤溶液2−エチルヘキサン酸錫Sn(EH)(0.03ml、0.08mmol)/アニソール溶液1mlを加えて重合を開始した。23時間後、室温に戻し、空気と接触させることで重合を停止した。ポリマー溶液はアルミナカラムを通して精製した。この溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させた後、140℃で真空乾燥させた。得られたポリマーは、シクロヘキサン溶剤によるソックスレー抽出を12時間行うことによってホモポリスチレンを除去した。得られたPS−b−P(MMA/MA)の数平均分子量Mnは655,000g/mol、分子量分布Mw/Mnは1.19であった。ガラス転移温度Tは106℃と115℃で、窒素下1%重量減温度は336℃であった。
【0072】
[実施例2]
重合モノマーとしてメタクリル酸メチル(160ml、1.50mol)とアクリル酸メチル(15ml、0.17mol)、溶媒としてアニソール79mlを加えた以外は、実施例1と同様な方法で実施した。得られたPS−b−P(MMA/MA)の数平均分子量Mnは818,800g/mol、分子量分布Mw/Mnは1.39であった。ガラス転移温度Tは105℃と114℃で、窒素下1%重量減温度は335℃であった。
【0073】
[実施例3]
リビングラジカル重合によるPS−b−P(MMA/MA)ブロックポリマー合成法
[1段目;リビングラジカル重合によるP(MMA/MA)−Brの合成法]
500mlフラスコに塩化第二銅(18.2mg、0.13mmol)、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン(110.4mg、0.27mmol)、ATRP開始剤であるエチル2−ブロモイソブチレート(13.2mg、0.07mmol)を加えて窒素置換を行った。30分間窒素バブリングしたアニソール70mlとアルミナカラムを通して重合禁止剤を除去したメタクリル酸メチル(130ml、1.22mol)とアクリル酸メチル(12.2ml、0.14mol)をモノマーと開始剤のモル比が40000/1になるように加えた後、このフラスコを80℃の湯浴に浸し、別容器で調製した還元剤溶液2−エチルヘキサン酸錫Sn(EH)(0.05ml、0.14mmol)/アニソール溶液1mlを加えて重合を開始した。50時間後、室温に戻し、空気と接触させることで重合を停止した。ポリマー溶液はアルミナカラムを通して精製した。この溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させた後、140℃で真空乾燥させた。得られたP(MMA/MA)−Brの数平均分子量Mnは333,500g/mol、分子量分布Mw/Mnは1.14であった。
【0074】
[2段目;リビングラジカル重合によるPS−b−P(MMA/MA)の合成法]
500mlフラスコに臭化第二銅(0.97mg、0.004mmol)、Me6TREN(20.11mg、0.087mmol)、ATRP開始剤となる1段目で合成したP(MMA/MA)−Br(12.7g、0.02mmol)を加えて窒素置換を行った。30分間窒素バブリングしたアニソール199mlとアルミナカラムを通して重合禁止剤を除去したスチレン(50ml、0.44mol)をモノマーと開始剤のモル比が20000/1になるように加えた後、1時間撹拌してP(MMA/MA)−Brを溶解させた。このフラスコを90℃の湯浴に浸し、別容器で調製した還元剤溶液2−エチルヘキサン酸錫Sn(EH)2(0.006ml、0.017mmol)/アニソール溶液1mlを加えて重合を開始した。40時間後、室温に戻し、空気と接触させることで重合を停止した。ポリマー溶液はアルミナカラムを通して精製した。この溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させた後、140℃で真空乾燥させた。得られたPS−b−P(MMA/MA)の数平均分子量Mnは538,600g/mol、分子量分布Mw/Mnは1.43であった。ガラス転移温度Tは106℃と112℃で、窒素下1%重量減温度は341℃であった。
【0075】
[比較例1]
重合モノマーとしてメタクリル酸メチル(89ml、0.83mol)、溶媒としてアニソール44mlを加えた以外は、実施例1と同様な方法で実施した。得られたPS−b−PMMAの数平均分子量Mnは660,500g/mol、分子量分布Mw/Mnは1.29であった。ガラス転移温度Tは107℃と129℃で、窒素下1%重量減温度は281℃であった。
【0076】
[比較例2]
リビングアニオン重合によるPS−b−PMMAブロックポリマーの合成法
リビングアニオン重合の全ての操作は窒素下で実施した。
2lフラスコに蒸留精製したテトラヒドロフラン1l、アルミナカラムを通して精製したスチレンモノマー(14.7ml、0.13mol)を導入した。このフラスコをドライアイス/アセトン浴に浸し、溶液が−78℃以下になるまで撹拌した。続いてn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(20ml、0.05mmol)を加えて重合を開始した。−78℃で2時間撹拌した後、メタクリル酸メチル100mlにトリエチルアルミ10gを加えて、室温で1時間撹拌した後、低温で減圧蒸留することによって得た精製メタクリル酸メチル(28.5ml、0.27mol)を一気に加え、−78℃で更に5時間撹拌した。この溶液をメタノールに注いでポリマーを析出させた後、140℃で真空乾燥させた。得られたポリマーは、シクロヘキサン溶剤によるソックスレー抽出を12時間行うことによってホモポリスチレンを除去した。得られたPS−b−PMMAの数平均分子量Mnは641,100g/mol、分子量分布Mw/Mnは1.19であった。ガラス転移温度Tは106℃と123℃で、窒素下1%重量減温度は280℃であった。
【0077】
[比較例3]
重合モノマーとしてスチレンモノマー(14.7ml、0.13mol)、メタクリル酸メチル(41.1ml、0.38mol)、触媒としてn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(120ml、0.32mmol)、溶媒としてテトラヒドロフラン900mlを加えた以外は、比較例2と同様な方法で実施した。得られたPS−b−PMMAの数平均分子量Mnは185,000g/mol(PS平均分子量Mn40,000g/mol)、分子量分布Mw/Mnは1.12であった。ガラス転移温度Tは103℃と119℃で、窒素下1%重量減温度は278℃であった。
【0078】
以上の実験の結果を以下の表1〜3に示す。
【0079】
【表1】



【0080】
【表2】



【0081】
【表3】



【0082】
[実施例4]
実施例1で合成したブロックポリマー30mgを溶剤プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと示す)2.7gに溶解した溶液をスピンコートでシリコン基板に回転数1320rpmで塗布した後、120℃、90秒でプリベークして溶剤を気化した。次に窒素雰囲気中で、290℃、8時間のアニールを行い、ブロックポリマーの相分離を行った。アニール前の膜厚は99nm、アニール後の膜厚は99nmで、残膜厚率は100%であった。
【0083】
この相分離したプロックポリマー付基板を、酸素プラズマ130W、30Paでエッチングすることにより、相分離した膜のPSとP(MMA/MA)をエッチングした。この時、エッチング速度差により、P(MMA/MA)が選択的にエッチングされ、PSのドットパターンが残った(図1)。PSドットの平均直径は278nmであった(図2)。なお、図2においては、写真で全ドット円周が観察されているものを解析した。
【0084】
[実施例5]
実施例2で合成したブロックポリマー30mgを溶剤PGMEA2.7gに溶解した溶液をスピンコートでシリコン基板に回転数1410rpmで塗布した後、120℃、90秒でプリベークして溶剤を気化した。次に窒素雰囲気中で、290℃、8時間のアニールを行い、ブロックポリマーの相分離を行った。アニール前の膜厚は99nm、アニール後の膜厚は98nmで、残膜厚率は99%であった。
【0085】
この相分離したプロックポリマー付基板を、酸素プラズマ130W、30Paでエッチングすることにより、相分離した膜のPSとP(MMA/MA)をエッチングした。この時、エッチング速度差により、P(MMA/MA)が選択的にエッチングされ、PSのドットパターンが残った。PSドットの平均直径は320nmであった。
【0086】
[実施例6]
実施例3で合成したブロックポリマー30mgを溶剤PGMEA2.7gに溶解した溶液をスピンコートでシリコン基板に回転数1200rpmで塗布した後、120℃、90秒でプリベークして溶剤を気化した。次に窒素雰囲気中で、290℃、8時間のアニールを行い、ブロックポリマーの相分離を行った。アニール前の膜厚は98nm、アニール後の膜厚は97nmで、残膜厚率は99%であった。
【0087】
この相分離したプロックポリマー付基板を、酸素プラズマ130W、30Paでエッチングすることにより、相分離した膜のPSとP(MMA/MA)をエッチングした。この時、エッチング速度差により、P(MMA/MA)が選択的にエッチングされ、PSのドットパターンが残った。PSドットの平均直径は249nmであった。
【0088】
[比較例4]
実施例1で合成したブロックポリマー30mgを溶剤PGMEA2.7gに溶解した溶液をスピンコートでシリコン基板に回転数1300rpmで塗布した後、120℃、90秒でプリベークして溶剤を気化した。次に窒素雰囲気中で、250℃、8時間のアニールを行い、ブロックポリマーの相分離を行った。アニール前の膜厚は100nm、アニール後の膜厚は100nmで、残膜厚率は100%であった。
【0089】
この相分離したプロックポリマー付基板を、酸素プラズマ130W、30Paでエッチングすることにより、相分離した膜のPSとP(MMA/MA)をエッチングした。この時、エッチング速度差により、P(MMA/MA)が選択的にエッチングされ、PSのパターンが残ったが、相分離が十分に進まず、十分なドットパターンは形成されなかった(図3)。
【0090】
[比較例5]
比較例1で合成したブロックポリマー30mgを溶剤PGMEA2.7gに溶解した溶液をスピンコートでシリコン基板に回転数1360rpmで塗布した後、120℃、90秒でプリベークして溶剤を気化した。次に窒素雰囲気中で、290℃、8時間のアニールを行い、ブロックポリマーの相分離を行った。アニール前の膜厚は99nm、アニール後の膜厚は72nmで、残膜厚率は73%であった。
【0091】
この相分離したプロックポリマー付基板を、酸素プラズマ130W、30Paでエッチングすることにより、相分離した膜のPSとPMMAをエッチングした。この時、エッチング速度差により、PMMAが選択的にエッチングされ、PSのドットパターンが残った。PSドットの平均直径は250nmであった。
【0092】
[比較例6]
比較例2で合成したブロックポリマー30mgを溶剤PGMEA2.7gに溶解した溶液をスピンコートでシリコン基板に回転数1360rpmで塗布した後、120℃、90秒でプリベークして溶剤を気化した。次に窒素雰囲気中で、290℃、8時間のアニールを行い、ブロックポリマーの相分離を行った。アニール前の膜厚は98nm、アニール後の膜厚は69nmで、残膜厚率は70%であった。
【0093】
この相分離したプロックポリマー付基板を、酸素プラズマ130W、30Paでエッチングすることにより、相分離した膜のPSとPMMAをエッチングした。この時、エッチング速度差により、PMMAが選択的にエッチングされ、PSのドットパターンが残った。PSドットの平均直径は241nmであった。
【0094】
[比較例7]
比較例3で合成したブロックポリマー30mgを溶剤PGMEA2.7gに溶解した溶液をスピンコートでシリコン基板に回転数1000rpmで塗布した後、120℃、90秒でプリベークして溶剤を気化した。次に窒素雰囲気中で、290℃、8時間のアニールを行い、ブロックポリマーの相分離を行った。アニール前の膜厚は90nm、アニール後の膜厚は69nmで、残膜厚率は77%であった。
【0095】
この相分離したプロックポリマー付基板を、酸素プラズマ130W、30Paでエッチングすることにより、相分離した膜のPSとPMMAをエッチングした。この時、エッチング速度差により、PMMAが選択的にエッチングされ、PSのドットパターンが残った。PSドットの平均直径は90nmであった。
【0096】
以上の実験の結果を以下の表4に示す。
【表4】



【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の超高分子量ブロックポリマーは、微細加工が必要とされる発光素子、パターンドメディア等の分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子を構成する少なくとも1種のブロック鎖が、アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物である、ブロックポリマーであって、
(1)ミクロ相分離構造を有しており、
(2)ブロック鎖の1種以上が、リビングラジカル重合で合成されたものであり、
(3)数平均分子量が20万以上1000万以下であり、
(4)分子量分布が1.5以下である、ブロックポリマー。
【請求項2】
分子を構成する2種のブロック鎖について、それぞれのN/(N−N)を算出し(但し、N、N及びNは、それぞれ、各ブロック鎖を構成するモノマー単位の、総原子数、炭素原子数及び酸素原子数である。)、算出値の一方を他方で除したときに、その数値が1.4以上となるようなブロック鎖が存在する、請求項1記載のブロックポリマー。
【請求項3】
アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物からなるブロック鎖の他に、芳香族ビニル系化合物の重合物からなるブロック鎖を有する請求項1又は2記載のブロックポリマー。
【請求項4】
薄膜を形成して窒素下290℃で8時間加熱したときに、残膜厚率が80%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のブロックポリマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のブロックポリマーを、250℃を超え分解温度未満の温度でアニールしたブロックポリマー。
【請求項6】
ミクロ相分離構造が海島構造であり、アニール後のプラズマエッチングで残存するドットの平均直径が100nm以上である、請求項5記載のブロックポリマー。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のブロックポリマーを製造する製造方法であって、
アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物からなるブロック鎖が、リビングラジカル重合で重合される、製造方法。
【請求項8】
リビングラジカル重合が、原子移動ラジカル重合である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
還元剤を共存させて原子移動ラジカル重合法を行う、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
アクリル酸エステルの単独重合物又はアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの共重合物からなるブロック鎖が、配位子として2,2’−ビピリジン又はその誘導体を有する金属触媒を用いた、リビングラジカル重合で重合される、請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のブロックポリマーからなる薄膜。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のブロックポリマーからなるレジスト膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254815(P2010−254815A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106796(P2009−106796)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】