説明

ブローチ

【課題】ブローチの逃げ面摩耗、特にコーナ摩耗に起因するブローチ切れ刃の刃先のチツピング、又は、ブローチの再研削時に切刃のすくい面研削で発生する研削バリの脱落によるブローチ切れ刃の刃先のチツピング、を発生させてブローチの低寿命といったトラブルを引き起こすことを防止するブローチを提供。
【解決手段】切れ刃1の刃先aにショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングにより、 3〜25μmの微小の丸みを付けて、ブローチの切刃の耐摩耗性を向上させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴切削加工又は表面切削加工を行うブローチに関し、特にブローチ切れ刃の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来切削工具の逃げ面摩耗は工具寿命を判断する代表的な摩耗形態であるが、特に穴切削加工又は表面切削加工を行うブローチの逃げ面摩耗は他の切削工具より顕著に現れ、よりこの防止が求められている。かかる従来のブローチの逃げ面摩耗は一般的に中央部よりコーナ部の方が大きな逃げ面摩耗が発生することが報告されている。コーナ摩耗が大きくなる原因として、コーナ部は切削中に熱の影響を受け易く、鋭利なエッジ形状であるため強度が弱く、微小のチツピングを起こし易いためである。又、ブローチの再研削は切れ刃のすくい面で実施することが一般的であるが、切れ刃のすくい面研削で発生する研削バリがワークを加工中に脱落し、ブローチ切れ刃の刃先にチツピングを発生させ、ブローチの低寿命といったトラブルを引き起こすことがあった。図5に示す、従来のブローチの逃げ面摩耗を示す丸ブローチの1刃の斜視図でみて、コーナ摩耗に起因するブローチ切れ刃1の刃先aのチツピング、又は、ブローチの再研削した切れ刃のすくい面で、切れ刃1の刃先aと側面4を形成するコーナ稜線cに研削バリが発生し、これら研削バリはワーク加工初期に脱落して、ブローチの切れ刃1の刃先aと側面4を形成するコーナ稜線cにチツピングを発生させ、ブローチの低寿命といったトラブルを引き起こした。
さらにブローチのトラブルとしては、ブローチ表面の溶着が挙げられるが、これは主にブローチ材料と被削材との親和性が強い場合に起こりやすく、又被削材の硬度が軟らかい場合には更に発生しやすく、窒化処理やコーティングといった表面処理を追加するか、極圧性の高い切削油を使用する必要があった。
【特許文献1】実開昭63−30427 号公報
【特許文献2】特開2000−5904号公報
【特許文献3】特公平02−17607 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、かかるブローチの切れ刃の刃先にチツピングが発生することを防止する目的で、切れ刃のコーナ部に30〜250 μmのアールをサンドブラスト、液体ホーニングで付け、その後で、切れ刃の刃先はアールを除くすくい面研削を行いシャープエッジにすることが提案されている(特許文献1第3頁第10〜18行目)。しかしながら切れ刃の刃先のシャープエッジは残るしかかるすくい面研削で研削バリが発生するので、上記課題の解決にはならない。又、特許文献2の請求項10で、ブローチの切れ刃の刃先に30〜250 μmの切れ刃面(平取り面取り面)を設けることを提案する。しかしながらブローチ1刃の切り込み量は数μm〜50μmであり、かかる大きな切れ刃面(平取り面取り面)は大きな切削抵抗を受け、ブローチの切損など短寿命を招くおそれがあり、また切削精度が満足できるかどうかについても開示がない。
従来のブローチでは、ブローチの切れ刃の刃先にチツピングを防止する、切削精度が満足できる程度の適切な丸み量の開示、又は安定した適切な丸み量を確保する手段がなかった。特許文献3はショットピーニングによる金属製品の加熱処理を提案するが、 900℃前後にまで加熱する加熱処理であり、焼入れ後のブローチ切れ刃には適用できない。
【0004】
本発明の課題は、ブローチの逃げ面摩耗、特にコーナ摩耗に起因するブローチ切れ刃の刃先のチツピング、又は、ブローチの再研削時に切刃のすくい面研削で発生する研削バリの脱落によるブローチ切れ刃の刃先のチツピング、を発生させてブローチの低寿命といったトラブルを引き起こすことを防止するブローチを提供することにある。
本発明の別の課題は、ブローチ表面の溶着を、窒化処理やコーティングといった表面処理を追加することなく防止するブローチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明は、高速度鋼製又は超硬製ブローチ切れ刃の刃先に、ショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングにより、 3〜25μmの微小の丸みを付けて、前記ブローチの切れ刃の耐摩耗性を向上させたことを特徴とするブローチを提供することにより上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、高速度鋼製又は超硬製ブローチ切れ刃の刃先に、ショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングにより、 3〜25μmの微小の丸みを付けたので、ブローチの切刃の刃先及びコーナ稜線の各エッジは切削精度に影響しない範囲の安定した量だけ丸められ、ブローチの逃げ面摩耗、特にコーナ摩耗に起因するブローチ切れ刃の刃先のチツピング、又は、ブローチの再研削時に切刃のすくい面研削で発生する研削バリの脱落によるブローチ切れ刃の刃先のチツピング、を発生させてブローチの低寿命といったトラブルを引き起こすことを防止するブローチを提供するものとなった。
好ましくは、前記微小の丸みは、 5〜10μmの微小の丸みがより好ましい。
【0007】
さらに好ましくは、前記高速度鋼製又は超硬製ブローチの切刃の切刃逃げ面及び切刃側面逃げ面にも、前記ショットピーニング又は前記ブラシングを施すことにより、面粗さ Rmax 0.5 〜5 μmを持つ、研削筋とは異なる一様な梨地仕上げを施すことにより、切刃逃げ面及び切刃側面逃げ面に梨地状の凹凸を形成させ、切削油の浸透性を向上させて、ブローチ表面の溶着を、窒化処理やコーティングといった表面処理を追加することなく防止するブローチを提供することができる。
好ましくは、前記面粗さは Rmax 0.5 〜1.5 μmがより好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を図1、図2を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施形態を示す丸ブローチの2刃の斜視図、図2(a)は本発明の第2の実施形態を示す丸ブローチの1刃の斜視図で、本発明のショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングによる表面改質後の刃先状態を示し、(b)はショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシング前の、研削直後の研削筋を有する刃先状態を示す。
【0009】
本発明の第1の実施形態のブローチは、図1に示すように、高速度鋼製(超硬製であってもよい)ブローチの切れ刃1の刃先aにショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングにより、 3〜25μmの微小の丸みを付けて、ブローチの切刃の耐摩耗性を向上させるようにした。3は切れ刃逃げ面、2はすくい面、4は側面逃げ面である。好ましくは、かかるショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングは、ブローチの再研削後毎に施すことにより、ブローチの再研削時に切刃のすくい面研削で発生する研削バリの脱落によるブローチ切れ刃の刃先のチツピング、を発生させてブローチの低寿命といったトラブルを引き起こすことを防止できる。
【0010】
本発明の第2の実施形態のブローチは、図2(a)に示すように、第1の実施形態の高速度鋼製(超硬製であってもよい)ブローチの切れ刃1の切れ刃逃げ面3及び切れ刃側面逃げ面4にも、本発明の第1の実施形態と同じショットピーニング又はブラシングを施すことにより、面粗さ Rmax 0.5 〜5 μmを持つ、研削筋とは異なる一様な梨地仕上げを施したものである(すくい面2、側面4の下方にも同様の梨地面ができる)。この一様な梨地仕上げは、図2(b)で示す研削筋(すくい面2、側面4の下方にも同様の研削筋ができる)とは明らかに異なる。切刃逃げ面及び切刃側面逃げ面に梨地状の凹凸を形成させ、切削油の浸透性を向上させて、ブローチ表面の溶着を、窒化処理やコーティングといった表面処理を追加することなく防止するブローチを提供することができる。
【実施例1】
【0011】
図3は、ブローチの切れ刃1の刃先aに 0〜30μmの微小の丸みを付けときの加工データを示す。発明者は、図1に示す高速度鋼製ブローチの切れ刃1の刃先aに、ショットピーニングにより、ショットの微粒径、噴射圧力、噴射速度及び噴射距離を適宜変えて、切れ刃1の刃先aに 0〜30μmの微小の丸みを付けて、ブローチの切れ刃1の切れ刃逃げ面3が 0.1mm摩耗するまでの加工数を実験値より算出プロットした結果を図3に示す。切れ刃1の刃先aに 3〜25μmの微小の丸みの面取りを付けた方が加工数が多く、ブローチの寿命が長くなり、25μmを越える微小の丸みの面取りでは、切れ刃1の切れ味が劣化してブローチの寿命が短くなる結果となった。 3〜25μmの微小の丸みの面取りは、ブローチの切削状態を安定させ、切削精度への影響はなかった。 5〜10μmの微小の丸みの面取りを付けた方が加工数がより多かった。
【実施例2】
【0012】
図4は、図3の実施例1の実験で使用したと同じショットピーニングを、高速度鋼製板に施し、面粗さ Rmax 0.5 〜8 μmを持つ10枚の、一様な梨地仕上げ面としたときのこの10枚の高速度鋼製板とワークとのコスリ摩擦試験のデータを示す。比較として、面粗さが Rmax 0.5 〜7 μmを持つ10枚の、図2(b)で示す研削筋仕上げ面を有する高速度鋼製板とワークとのコスリ摩擦試験を行った。結果は、図4に示すように、本発明品一様な梨地仕上げ面では、ワークの減少量は 5μm未満であったが、比較品研削筋仕上げ面のワークの減少量は 8μmと多く、かつ減少量は常に、一様な梨地仕上げ面より多かった。ブローチの切れ刃の切れ刃逃げ面及び切れ刃側面逃げ面においても、梨地仕上げ面では、ワークとの接触面が減少することと同時に、梨地仕上げ面には凹凸部に切削油が溜まり易く、潤滑性を向上させ、結果として、ワークの減少量を減少させるものと考えられる。従って、ブローチ表面の溶着を、窒化処理やコーティングといった表面処理を追加することなく防止するブローチを提供するものとなった。 Rmax 0.5 〜5 μmの梨地仕上げ面を持つ高速度鋼製板のワークの減少量がより好成績であった。
【0013】
かかる構成により、本発明の実施形態では、高速度鋼製又は超硬製ブローチ切れ刃の刃先に、ショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングにより、 3〜25μmの微小の丸みを付けたので、ブローチの切刃の刃先及びコーナ稜線の各エッジは切削精度に影響しない範囲の安定した量だけ丸められ、ブローチの切削状態を安定させ、ブローチの逃げ面摩耗、特にコーナ摩耗に起因するブローチ切れ刃の刃先のチツピング、又は、ブローチの再研削時に切刃のすくい面研削で発生する研削バリの脱落によるブローチ切れ刃の刃先のチツピング、を発生させてブローチの低寿命といったトラブルを引き起こすことを防止するブローチを提供するものとなった。好ましくは、前記微小の丸みは、 5〜10μmの微小の丸みがより好ましい。
【0014】
好ましくは、前記高速度鋼製又は超硬製ブローチの切刃の切刃逃げ面及び切刃側面逃げ面にも、前記ショットピーニング又は前記ブラシングを施すことにより、面粗さ Rmax 0.5 〜5 μmを持つ、研削筋とは異なる一様な梨地仕上げを施すことにより、ブローチ表面の溶着を、窒化処理やコーティングといった表面処理を追加することなく防止するブローチを提供することができる。
好ましくは、前記面粗さは一般的なブローチ研削面に近く、ワーク仕上げ面が良いことから、 Rmax 0.5 〜1.5 μmがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す丸ブローチの2刃の斜視図。
【図2】(a)は本発明の第2の実施形態を示す丸ブローチの1刃の斜視図で、本発明のショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングによる表面改質後の刃先状態を示し、(b)はショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシング前の、研削直後の研削筋を有する刃先状態を示す。
【図3】ブローチの切れ刃1の刃先aに 0〜30μmの微小の丸みを付けときの加工データを示す。
【図4】図3の実施例1の実験で使用したと同じショットピーニングを、高速度鋼製板に施し、面粗さ Rmax 0.5 〜8 μmを持つ10枚の、一様な梨地仕上げ面としたときのこの10枚の高速度鋼製板とワークとのコスリ摩擦試験のデータを示す。
【図5】従来のブローチの逃げ面摩耗を示す丸ブローチの1刃の斜視図。
【符号の説明】
【0016】
1:ブローチの切れ刃 3:切れ刃逃げ面 4:側面逃げ面
a:ブローチ切れ刃の刃先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速度鋼製又は超硬製ブローチ切れ刃の刃先に、ショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングにより、 3〜25μmの微小の丸みを付けて、前記ブローチの切れ刃の耐摩耗性を向上させたことを特徴とするブローチ。
【請求項2】
高速度鋼製又は超硬製ブローチ切れ刃の刃先に、ショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングにより、 5〜10μmの微小の丸みを付けて、前記ブローチの切れ刃の耐摩耗性を向上させたことを特徴とするブローチ。
【請求項3】
前記高速度鋼製又は超硬製ブローチの切れ刃の切れ刃逃げ面及び切れ刃側面逃げ面にも、前記ショットピーニング又は前記ブラシングを施すことにより、面粗さ Rmax 0.5 〜5 μmを持つ、研削筋とは異なる一様な梨地仕上げを施したことを特徴とする請求項1記載のブローチ。
【請求項4】
前記高速度鋼製又は超硬製ブローチの切れ刃の切れ刃逃げ面及び切れ刃側面逃げ面にも、前記ショットピーニング又は前記ブラシングを施すことにより、面粗さ Rmax 0.5 〜5.0 μmを持つ、研削筋とは異なる一様な梨地仕上げを施したことを特徴とする請求項2記載のブローチ。
【請求項5】
前記高速度鋼製又は超硬製ブローチの切れ刃の切れ刃逃げ面及び切れ刃側面逃げ面にも、前記ショットピーニング又は前記ブラシングを施すことにより、面粗さ Rmax 0.5 〜1.5 μmを持つ、研削筋とは異なる一様な梨地仕上げを施したことを特徴とする請求項2記載のブローチ。
【請求項6】
前記ショットピーニング又は鋼線ブラシによるブラシングは、ブローチの再研削後に施すことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1に記載のブローチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−61997(P2007−61997A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255033(P2005−255033)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】