説明

プライヤ

【課題】挟持対象物を挟持するプライヤの先端部分が磨耗しても、プライヤ全体を交換する必要のないプライヤを提供することを目的とする。
【解決手段】一対のレバー部材を交差させて軸支することにより、前記レバー部材の一端側に形成され、挟持対象物を挟む挟持部と、他端側に形成され、前記挟持部を開閉させる把持部と、を備えるプライヤにおいて、前記挟持部は、挟持の際に前記挟持対象物に接触する部材として、前記レバー部材に対して着脱可能な交換挟持部を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挟持対象物を挟持する先端部分に磨耗が生じても継続して使用可能なプライヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を一対の挟持部で挟持し、把持部に力を加えて対象物を保持するプライヤ(ペンチ)において、把持部に対して加わるトルクが所定のトルクに達すると、信号を出力するプライヤが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このプライヤは、例えば、プライヤの一対のレバーの内、一方のレバー内にトグル機構が内蔵されており、挟持対象物を把持するトルクが所定トルクに達するとトグル機構が作動する。そして、トグル機構の作動を検知するセンサによって、対象物を所定トルク以上の力で挟持したことを知らせる信号が出力されるようになっている。
【0004】
このようなプライヤによれば、例えば、プライヤを用いてホースとホースの接続部分とを固定するクランプを掴んで、所定位置に設置するという作業を行う場合に、クランプを掴んで離すという1回の設置作業ごとに信号を出力することができる。そのため、受信機側で信号の回数をカウントすれば、設置作業を何回行ったかを確認することができ、必要なクランプの設置個数と比較するなどして、設置し忘れがないかを確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−123663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したプライヤでは、クランプなどの対象物を掴む場合、プライヤの先端の一対の挟持部で挟持対象物を挟んで掴む。従って、対象物を掴む力が大きく挟持部に大きな力が加わる場合や、対象物が非常に硬い場合、あるいは、クランプなどを設置する作業を多数行う場合など、作業により徐々に挟持面を形成する先端部分は磨耗してしまう。
【0007】
挟持対象物を直接挟持する先端部分が磨耗すると、挟持対象物を確実に保持することができないため、プライヤを交換しなければならない。特に、上述したように、一回の挟持動作ごとに信号を出力するようなプライヤの場合、信号を出力するための機器やトグル機構など、通常のプライヤにない部材を備えている。そのため、挟持部が磨耗しただけで、他の部材・機器はまだ使用できる場合にも、プライヤを交換しなければならないという問題があった。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、挟持対象物を挟持するプライヤの先端部分が磨耗しても、プライヤ全体を交換する必要のないプライヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係るプライヤは、一対のレバー部材を交差させて軸支することにより、前記レバー部材の一端側に形成され、挟持対象物を挟む挟持部と、他端側に形成され、前記挟持部を開閉させる把持部と、を備えるプライヤにおいて、前記挟持部は、挟持の際に前記挟持対象物に接触する部材として、前記レバー部材に対して着脱可能な交換挟持部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、挟持対象物を挟持するプライヤの先端部分が磨耗しても、プライヤ全体を交換する必要のないプライヤを提供することができる。
【0011】
また、先端部分を着脱可能にすることにより、プライヤの用途に適した挟持部に交換可能なプライヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態によるプライヤの外観及び一部分における内部構造を示す外観・内部構造図である。
【図2】図1に示すプライヤを開閉した場合におけるプライヤの動作を示す外観図である。
【図3】図1に示したプライヤの着脱可能な挟持部の交換挟持部の外観図である。
【図4】図1に示したプライヤの交換挟持部を他の形状の交換挟持部に交換したプライヤの外観図である。
【図5】図4に示したプライヤの着脱可能な交換挟持部の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態による、プライヤ1の外観と、一部についての内部構造を示す図であり、図2は、プライヤ1の開閉動作を示す図である。プライヤ1は、一対のレバー100、200が重ねられて支軸12によって回動可能に軸支され、支軸12の前方側と後方側で第1レバー100と第2レバー200が交差するように構成される。そして、第1レバー100、第2レバー200には、支軸12から後方側に作業者が握る把持部8、10が形成され、支軸12の前方側に着脱可能な交換挟持部2(2a、2b)を備える挟持対象物を挟持する挟持部4、6が把持部8、10の先端側にハサミ構造をなすように形成されている。
【0015】
第1レバー100は挟持部4と把持部8とが、挟持部4から延びる軸部4aが筒状の把持部8の内部でトグル機構62によって連結されることにより構成されている。軸部4aとトグル機構62により連結される把持部側の連結部材8aは、把持部8の内部のスプリング8bによって前方側(支軸12側)に押さえつけられている。
【0016】
一方、第2レバー200は、挟持部6から把持部10まで一体の部材である。
【0017】
この第1レバー100、第2レバー200の構造により、挟持部4、6の交換挟持部2の間に挟持対象物を挟んで把持部8、10を握って力を加え、挟持対象物に加わるトルクが所定のトルクを超えた場合、連結部材8aがスプリング8bの力に逆らって後端側に押し戻され、トグル機構62が作動する。このトグル機構62の動作をケース20内に配置された不図示の挟持検知部としてのセンサによって検知し、同じくケース20内に配置される不図示の無線送信機によって検知信号を送信することができる。例えば、連結部材8aから把持部8の外部に支出した支出ピン(不図示)により、マイクロスイッチ等のセンサを機械的にスイッチング動作させることにより、信号を出力することができる。
【0018】
また、スプリング8bに対する付勢力を調整して、連結部材8aを押さえつける力を変更することにより、トグル機構62が作動するトルクを調整できるため、任意のトルクでの挟持対象物の挟持動作を検知することができる。
【0019】
これにより、例えば、自動車のエンジンルーム内に配置される各種のホースをホース接続部に固定するためのクランプを設置する場合に、クランプを挟持してホース接続部に設置可能な径に広げるために必要なトルクを予め計測しておき、その所定トルク以上のトルクがプライヤ1に加えられた場合にトグル機構62が作動するようにスプリング8bの付勢力を設定する。これにより、プライヤ1によりクランプを掴み、所定トルク以上の力を加えてクランプを開き、所定位置に設置するという1回の作業ごとに、トグル機構62が1回作動して、検知信号が出力される。従って、このプライヤ1から送信される検知信号によって、上述したようなクランプの設置作業などの作業回数をカウントすることができる。
【0020】
この第1レバー100と第2レバー200には、スプリング14が取り付けられている。把持部8と10に対して閉じる方向に力が加えられていない状態では、スプリング14の作用により図2において破線で示すように挟持部4、6が開くようになっている。これにより、例えば、作業者が把持部8、10を握ってクランプを掴んで所定位置に設置した後、把持部8、10の握りをゆるめた場合に、自然と挟持部4、6が開くため、次のクランプを掴む動作に速やかに移ることができる。
【0021】
また、第2レバー200の把持部10の中ほどには、何も挟持していない場合にトグル機構62が作動することを防止するストッパ82が形成されている。ストッパ82は、挟持部4と挟持部6との間に挟持対象物を挟まずに把持部8、10を握って閉じた場合に、第1レバー100の把持部8に当接して、把持部8、10に作用する把持力を受ける。それによって、第1レバー100において支軸12を中心としたトルクが作用しなくなるため、挟持対象物を挟んでいない状態において、トグル機構62が作動して検知信号が送信されてしまうことを防ぐことができる。
【0022】
なお、上述したように第1レバー100と第2レバー200は非対称の構造になっているが、本実施形態のプライヤ1は、交換挟持部2a、2bによって形成される挟持位置と支軸を通る中心線Lと、第1レバー100の把持部8及び第2レバー200の把持部10とが、互いに平行となるように形成されている。
【0023】
以上のような構成を備える本実施形態のプライヤ1は、上述したように、挟持部4と挟持部6の挟持対象物と接触する交換挟持部2が、第1レバー100、第2レバー200に対して着脱可能になっている。図3には、図1に示した本実施形態のプライヤ1の挟持部4、6の先端部に取り付けられている交換挟持部2のみの外観図を示す。図3の(A)は、第2レバー200の挟持部6に取り付けられる交換挟持部2bを示し、(B)は、第1レバー100の挟持部4に取り付けられる交換挟持部2aを示し、(C)は、交換挟持部2aを(B)に示す矢印D方向から見た図であり、(D)は交換挟持部2をプライヤ1の先端側から見た図である。
【0024】
まず、本実施形態のプライヤ1の第1レバー100と第2レバー200の挟持部4、6の先端部は、図1において、挟持部6の先端部が平面視手前側に位置し、挟持部4の先端部がその奥側に位置するが、交換挟持部2a、2bが噛み合う位置に対して、互いに対称の形状となっている。また、この挟持部4、6の先端部は、それぞれに取り付けられる交換挟持部2a、2bの支軸12の軸方向であるZ軸方向における厚みの半分程度の厚みで形成される。
【0025】
そして、この挟持部4、6に取り付けられる交換挟持部2a、2bは、同一形状の同一部材であり、挟持部4、6に取り付けられた状態では、表裏の関係にある。これは、上述したように挟持部4、6の先端部の形状を対称の形状としているためであり、同一部材である交換挟持部2を裏表反転させることで、いずれの挟持部4、6にも取り付けることができる。
【0026】
この交換挟持部2a、2bには、挟持対象物を挟む挟持面と平行な垂直面2eと、垂直面に対して垂直な(プライヤ1の開閉動作の面と平行)水平面2fとが形成される。この垂直面2eと水平面2fとにより形成されるかぎ状部を挟持部4、6の先端部に取り付け、ねじ16a、16bをねじの通し孔2c、2dに通して挟持部4、6の先端部に螺合させることで、交換挟持部2a、2bを挟持部4、6の先端部に固定することができる。
【0027】
この垂直面2eと水平面2f及びねじ16a、16bによって、交換挟持部2a、2bは、挟持部4、6の先端部において正確に位置決めされるため、交換挟持部2a、2bの挟持面を形成する歯部2gが、プライヤ1を閉じた状態で互いにぴったりと噛み合うように取り付けることができる。また、このような交換挟持部2a、2bの取付構造により、交換挟持部2a及び2bは、挟持部4、6の先端部に対してガタなく強固に固定されることができる。
【0028】
さらに、このような取付構造により、本実施形態の交換挟持部2a、2bは、プライヤ1を閉じる場合、挟持部4、6の先端部から挟持する方向に直接押されるように力を受けて挟持対象物を挟持することができる。そのため、挟持部分を第1レバー100、第2レバー200に対して着脱可能な別部材としていても、挟持する力を確実に伝えることができる。
【0029】
以上のように、交換挟持部2a、2bを着脱可能にすることで、挟持対象物を挟持する作業において交換挟持部2の歯部2gが磨耗した場合でも、交換挟持部2だけを交換することができ、プライヤ1の本体部分はそのまま利用することができる。特に、本実施形態で説明したように、1回の挟持動作ごとに検知信号を送信するような機能を有するプライヤの場合、交換挟持部を交換可能とすることで、プライヤ全てを交換する場合に比べて大幅にコストを抑えることができる。
【0030】
さらに、挟持部4、6の先端部の形状を対称の形状として、同一形状の交換挟持部2(2a、2b)を使用できるようにしたことで、一対の交換挟持部2のいずれか一方が磨耗したような場合であっても、片方のみ交換することができる。また、同一形状の交換挟持部2とすることにより、交換挟持部2をいずれの挟持部4、6にも取り付けられるため、一種類の交換挟持部のみ用意しておけばよいという効果も得られる。
【0031】
なお、この交換挟持部2a、2bとして、磨耗が生じにくい硬度の高い材料によって形成したものを用いることもできる。これにより、磨耗を抑制できると共に、プライヤ1全体を硬度の高い材料とする場合に比べて、プライヤのコストを抑えることができる。また、挟持対象物が樹脂や木材など硬度が低いものである場合には、それに応じて交換挟持部2a、2bを樹脂などで構成することもできる。
【0032】
また、交換挟持部2を着脱可能とすることで、図1に示した交換挟持部2を、図4に示すような別の形状の交換挟持部2’に交換することも可能になるという効果も得られる。図4は、図1に示したプライヤ1の交換挟持部2を、長さが長く先端が細い形状の交換挟持部2’に交換したプライヤ1の外観図であり、図5は、交換挟持部2’の外観図を示す(図5(A)は、第2レバー200の挟持部6に取り付けられる交換挟持部2b’の外観を示し、(B)は第1レバー100の挟持部4に取り付けられる交換挟持部2a’の外観を示し、(C)は交換挟持部2a’を(B)に示す矢印D方向から見た外観を示す)。
【0033】
図1に示したプライヤ1の交換挟持部2から図4に示す交換挟持部2’に交換する場合には、図1に示す交換挟持部2のねじ16a、16bを緩めて取り外し、交換挟持部2a、2bを挟持部4、6から取り外す。そして、プライヤ1の挟持部4、6に対して、交換挟持部2a’、2b’に形成される、交換挟持部2a、2bと同様のかぎ状部を嵌め合わせて、再度ねじ16a、16bにより固定することで、交換挟持部2a’、2b’に交換することができる。
【0034】
このように、例えば、図1に示す通常のプライヤが備えるような形状の交換挟持部2から、図4に示す先端の細い交換挟持部2’に交換することで、プライヤ1の本体は同じ物を用いて、ラジオペンチ型のプライヤとして使用することが可能になる。従って、挟持する対象物や使用状況に応じて、最適な交換挟持部を用いることができる。
【0035】
本実施形態においては、挟持するトルクが所定トルクになった場合に検知信号を送信する構成のプライヤにおいて交換挟持部が交換可能であるとして説明したが、これに限られるものではなく、検知信号を送信する部材やトグル機構などを備えない通常のプライヤ、ペンチなどについても適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 プライヤ
2(2a、2b) 交換挟持部
2e 垂直面
2f 水平面
2g 歯部
4、6 挟持部
8、10 把持部
12 支軸
14 スプリング
16a、16b ねじ
62 トグル機構
100 第1レバー
200 第2レバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のレバー部材を交差させて軸支することにより、前記レバー部材の一端側に形成され、挟持対象物を挟む挟持部と、他端側に形成され、前記挟持部を開閉させる把持部と、を備えるプライヤにおいて、
前記挟持部は、挟持の際に前記挟持対象物に接触する部材として、前記レバー部材に対して着脱可能な交換挟持部を備えることを特徴とするプライヤ。
【請求項2】
前記挟持対象物を所定トルクで挟持したことを検知する挟持検知部を備えることを特徴とする請求項1に記載のプライヤ。
【請求項3】
前記交換挟持部は、前記一対のレバー部材の前記挟持部のいずれに対しても着脱可能な同一形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプライヤ。
【請求項4】
前記交換挟持部は、形状又は材料が異なる交換挟持部に交換可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のプライヤ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−104662(P2011−104662A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258845(P2009−258845)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000151690)株式会社東日製作所 (47)
【Fターム(参考)】