説明

プラスチックレンズの着色方法及び着色装置

【課題】 均染性に優れた気相法によるプラスチックレンズの着色方法を提供すること。
【解決手段】 基板上に所定間隔ごとに昇華性染料を塗布して点在させ、該昇華性染料が点在した基板面とプラスチックレンズの被着色面とを離間して対向させ、大気中または真空中で、加熱手段により加熱して前記昇華性染料を昇華させることにより、プラスチックレンズを着色する着色方法であって、前記塗布した昇華性染料の点在範囲が、プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさを有する範囲であるプラスチックレンズの着色方法である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチックレンズを気相法により均一に着色する方法及び着色装置に関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックを着色する方法としては、従来から浸漬法や気相法が用いられている。このうち気相法の例として、特公昭35−1384号公報には、有機色素顔料を用い、放射状に昇華させてプラスチックを着色する方法が記載されている。また、特開昭59−153321号公報及び特開昭56−159376号公報には、固形昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズを着色する方法が開示されている。さらに特開平1−277814号公報には、昇華性染料を塗布してなる基体を加熱手段から非接触状態で、且つテ−パ−型のレンズ保持具を用いていることから判るように、プラスチックにおける着色しようとする範囲よりも小さい形状の着色層を加熱する(特開平1−277814公報第1図参照) ことによりプラスチックを着色する方法が記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかながら、特公昭35−1384号公報に記載の方法では、着色剤として有機色素顔料を用いるため、顔料の不透明な薄膜が形成されるに過ぎない。また、特開昭59−153321号公報及び特開昭56−159376号公報に記載の方法では、固形昇華性染料をレンズ面に定量的に飛ばすことができない、着色源を均一に加熱することができない、染色濃度の調整が難しいという課題を有する。さらに、特開平1−277814号公報に記載の方法では、商品化に向けて、均染性に関して更なる向上が必要とされ、さらには染色濃度の制御の向上が必要とされていた。また、従来の浸漬法では着色が困難であったプラスチックレンズを容易に着色する方法の出現も望まれている。本発明は、上述した課題を解決することを目的としてなされたもので、その主目的は、従来の気相法による着色方法よりもプラスチックレンズの均染性に優れた気相法による着色方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基板上の所定間隔ごとに塗布し、点在させた昇華性染料を昇華させることにより、プラスチックレンズを着色する着色方法において、基板における昇華性染料の点在範囲を、プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさを有する範囲とすることにより、プラスチックレンズを均一に着色することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、基板上に所定間隔ごとに昇華性染料を塗布して点在させ、該昇華性染料が点在した基板面とプラスチックレンズの被着色面とを離間して対向させ、大気中または真空中で、加熱手段により加熱して前記昇華性染料を昇華させることにより、プラスチックレンズを着色する着色方法であって、前記塗布した昇華性染料の点在範囲が、プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさを有する範囲であることを特徴とするプラスチックレンズの着色方法を提供するものである。また、本発明は、被着色プラスチックレンズを、その周辺部を支持することにより保持し、かつレンズの被着色面方向が開口すると共に、この開口部を密閉する基板が係合するための段差部を有するレンズ保持部材と、プラスチックレンズの被着色面と対向する側に配設され、該プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさを有する範囲において、表面に所定間隔ごとに昇華性染料が塗布されて点在し、かつ前記レンズ保持部材の開口部を密閉する基板と、前記基板における昇華性染料が点在する面と反対側の面の全体に接触して設けられる加熱用部材と、前記レンズ保持部材を収容する開口部を有し、かつ前記加熱用部材によって密閉可能な収容器と、該収容器を真空状態にするための真空機構とを含むことを特徴とするプラスチックレンズ着色装置を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明において、使用される昇華性染料は、大気中あるいは真空中にて染料を加熱した場合、昇華する特性がある染料をいい、そのような染料としては、特開平1−277814号公報の第2頁左下欄第6行〜第13行に記載されている染料、Dianix Red TA-N (三菱化学社製) 、Kayalon Microester Red C-LSconc(日本化薬社製) 、Kayalon Microester Red AQ-LE(日本化薬社製)、Miketon Fast Red Z(三井化学社製) 、Kayalon Microester Red DX-LS(日本化薬社製) 、Dianix Blue UN- SE(三菱化学社製) 、DisperseFast Blue Z(三井化学社製) 、Dianix/Samaron Navy Blue TA-N(三菱化学社製) 、Kayalon Microester Blue C-LS conc(日本化薬社製) 、Kayalon Microester Blue AQ-LE(日本化薬社製) 、Kayalon Microester Blue DX-LS conc(日本化薬社製) 、Dianix/Samaron Orange TA-N(三菱化学社製)、Dianix Yellow TA-N(三菱化学社製) 、Kayalon Microester Yellow AQ-LE(日本化薬社製) 、Kayalon Microester Yellow DX-LS conc (日本化薬社製) 、Miketon Fast Yellow Z(三井化学社製) 、Kayalon MicroesterYellow C-LS(日本化薬社製) 等の染料が好ましく用いられる。
【0006】昇華性染料を点在させる基板は、染料を塗布できるものであればよく、その材質は特には限定されないが、染料が加熱されて昇華できるようにアルミニウム板等の熱伝導板が好ましい。また、基板の大きさは、プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさを必要とする。基板上において昇華性染料が塗布される位置は、基板上に染料が所定の範囲に点在するような位置であればよいが、プラスチックレンズを均一に着色する観点から、基板上にX軸及びY軸を設定し、X軸及びY軸それぞれに平行な線を0.2〜3.0cm間隔ごとに、特に好ましくは0.2〜1.5cm間隔ごとに想定し、その交点位置に染料を塗布することが好ましい。基板における染料を塗布する位置に印を付けて塗布位置を認知しやすいようにしてもよい。かかる手段によって、レンズの着色濃度を制御することが可能になる。印をつける方法としては、加工時の加熱や洗浄等で剥離しないインクを用いた印刷や、刻印などがある。
【0007】昇華性染料を基板上に点在させるには、上述した昇華性染料に水などの溶媒、あるいは水溶性アクリル樹脂などのバインダ−を配合した配合液を前記交点位置ごとに塗布し、基板上に染料層を形成させる。これらの溶媒等の使用量は、重量比で昇華性染料1に対して1〜30とすることができる。この配合液の基板への塗布は、例えばマイクロシリンジ、少量塗布が可能なディスペンサ−を用いて行うことができる。塗布量は、着色濃度に応じて変化させることができ、例えば前記交点位置ごとに0.01〜500マイクロリットルの範囲とすることができる。昇華性染料を基板上に固着させるために、前記配合液を基板に塗布するに際し、基板をあらかじめ加熱しておくことが好ましい。好ましい加熱温度は80℃以上である。
【0008】また、レンズに着色したいカラ−をパ−ソナルコンピュ−タで作製し、かかるカラー情報をコンピュータに格納し、このカラー情報に基づいて基板の所定位置に所定の昇華性染料を点在させることも可能である。基板に塗布した昇華性染料の点在範囲は、プラスチックレンズを均一に着色させるため、プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさが必要である。プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲よりも、基板における昇華性染料の点在範囲が小さい場合には、染料が放射状に昇華するとはいえ、着色ムラが生じやすい。なお、昇華性染料が点在した基板と被着色プラスチックレンズとを対向させる際には、プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲が、基板における昇華性染料が点在した範囲に含まれるような位置関係となるように対向させる。
【0009】基板に点在した昇華性染料は、加熱手段により加熱して昇華させる。加熱手段としては、加熱用部材を用いて基板を加熱する方法が好ましく、基板の加熱により昇華した染料による染色層がプラスチックレンズ表面に形成されてプラスチックレンズを着色する。基板上に点在した染料を均一に加熱する観点から、加熱用部材は、染料が点在した基板と接触状態とすることが好ましい。加熱用部材として具体的には、温度調節が容易で実用的な電流抵抗ヒーターや、遠赤外線ヒーターなどを挙げることができる。加熱用部材により基板を加熱し、昇華性染料を昇華させてレンズを着色する操作は、大気中及び真空中のいずれで行ってもよいが、短時間で染色する場合は、真空雰囲気下で行うのが好ましい。真空度は被着色プラスチックレンズの材質、使用する昇華染料の種類に応じて適宜選定される。また、加熱用部材による加熱温度は、被着色レンズの材質、使用する昇華性染料などに応じて異なるが、短時間で着色させるには、加熱用部材を100℃以上にするのが好ましい。さらに、染色時間は、被着色プラスチックレンズの材質、使用する昇華性染料の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0010】昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズ表面に染色層を形成させるに際し、該プラスチックレンズの温度は、レンズの種類により異なり、特に限定されないが、通常70〜150℃の範囲に保持するのが好ましい。本発明において使用されるプラスチックレンズとしては、特に限定されず、例えばメチルメタクリレ−ト単独重合体、メチルメタクリレ−トと1種以上の他のモノマ−とをモノマ−成分とする共重合体、ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−ト単独重合体、ジエチレングリコ−ルビスアリルカ−ボネ−トと1種以上の他のモノマ−とをモノマ−成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン共重合体、ポリカ−ボネ−ト、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリウレタン、ポリチオウレタンなどからなるレンズが挙げられる。また、これらのプラスチックレンズ上に、公知のプライマ−層、ハ−ドコ−ト層を施したレンズも本発明の着色方法により着色することができる。
【0011】次に、本発明のプラスチックレンズ着色装置について、添付図面に従って説明する。図1は、本発明のプラスチックレンズ着色装置を構成する各部材の一例を示す概略図であって、この着色装置は、レンズ保持部材1と、塗布した染料3が点在した基板2と、加熱用部材4と、収容器5と、真空ポンプ6より構成されている。保持部材1は、被着色プラスチックレンズ7の周辺部を支持して、該レンズを保持する部材であって、レンズの着色面方向が開口すると共に、この開口部を密閉する基板2が係合するための段差部8を有している。また9は、被着色プラスチックレンズ7の位置調節用リングである。基板2は、被着色プラスチックレンズ7の着色面と対面する側に、縦軸及び横軸方向に点在した染料3を有しており(図2及び図3参照)、染料3の点在範囲はプラスチックレンズにおける着色しようとする範囲よりも大きい(図2参照)。そして、基板2はレンズ保持部1の開口部を密閉するのに用いられる。なお、点在する染料3は、基板2の表面に直接形成され、基板2と染料3とが一体化されていてもよいし、染料3を付着させた繊維成形物を基板2に施してもよい。
【0012】加熱用部材4は、基板2の背面(着色層3とは反対側の面)全体に接触させて加熱し、染料を昇華させて、被着色プラスチックレンズ7の着色面を染色するのに用いられる。この着色装置において、加熱用部材4として具体的には上ゴテ(熱板)を用いることができる。収容器5は、レンズ保持部材1と被着色プラスチックレンズ7と染料3を有する基材3との組み合わせを1組または複数組収容する部材であって、それらを収納するための開口部を有し、上記加熱部材4によって密閉される。この収納器5には、被着色プラスチックレンズ7を所定の温度に保持するために、所望により加熱機構10を有してもよい。さらに、適当な位置に温度測定用センサ−及び真空度測定用機器(図示せず)を設けることができる。なお、11はパッキンである。
【0013】真空ポンプ6は、収納器5内を真空状態に保持するためのものである。この着色装置においては、被着色プラスチックレンズ7と着色層3との間の距離は、該レンズおよび着色層の加熱温度、着色時間、真空度、所望の染色濃度などに応じて、適宜選定されるが、一般的には1〜1000mmの範囲で選ばれる。この距離が1mm未満では染料を昇華させる際の加熱用部材の熱がプラスチックレンズに伝わり、該レンズの光学特性が損なわれるおそれがあり、この距離が1000mmを超えると昇華した染料のプラスチックレンズへの到達量が極端に少なくなり、被着色プラスチックレンズ上に染色層が形成される時間が長くなると共に、所望の濃度に着色するのが困難となり、好ましくない。なお、レンズのハ−フ染色を行うには、図2の上側に示すように、基板2の半分に昇華性染料を塗布し、点在させるとよい。
【0014】
【実施例】1.染料液調製Dianix Red -ACE(三菱化学社製), Dianix Blue AC(三菱化学社製), Fast Yellow GL (三井化学社製)を重量比で5:2:24の割合で混合し、この染料の重量に対して10倍の純水を加えて染色溶液を作製した。さらに予め100度加熱しておいた直径103mm、厚さ1mmの円形のアルミニウム板に、前記染色溶液を碁盤目状に1cm間隔で70箇所に塗布した。塗布量は一点につき1マイクロリットル(実施例1)、3マイクロリットル(実施例2)、5マイクロリットル(実施例3)、10マイクロリットル(実施例4)とした。比較例1においては、染料が点在する範囲が直径70mmの円形となる範囲とした。
【0015】2.使用した着色装置図1に示す着色装置を用いた。
3.使用したプラスチックレンズ素材含硫黄プラスチックレンズである未加工のテスラリッド(商品名、HOYA株製、直径80mm) を用いた。
【0016】実施例1染料の点在範囲が直径103mmとなるように、染料層をアルミニウム板上に形成し、図1に示す装置で、治具にて上ゴテ(熱板) にアルミニウム板を接触させて、熱板の温度を115℃、真空度3.5kPaの状態で、20分間染色を行った。染色はレンズの凹面に対して行った。波長575nmにおいて光の透過率を測定したところ76.8%であった。また目視で着色の均一性を調べたところ、均一に着色されていることが認められた。また、レンズの変形も見られなかった。この着色処理を何度も繰り返してもほぼ同様の結果が得られた。
【0017】実施例2〜4各点における染料量を変化させた以外は実施例1と同様に行った。その結果、均一に着色したプラスチックレンズが得られ、且つ染料量の増加に伴い着色濃度の増加が見られた。
【0018】
【表1】


【0019】実施例5アルミニウム板と熱板との離間距離を2mmとした以外は実施例1と同様に行った。得られた着色プラスチックレンズの波長575nmにおける光の透過率は83.0%であった。
比較例1染料の点在する範囲が直径70mmの円形となるように、染料層をアルミニウム板上に形成した以外は、実施例1と同様に行った。得られた着色プラスチックレンズについて、目視で着色の均一性を調べたところ、若干の色ムラが見られた。
比較例2Dianix Red-TA-N(三菱化学) 3g及びDianix Blue UN-SE (三菱化学) 3gを純水1リットルに加えて染色液を調製し、かかる染色液を95℃にして実施例1と同様のプラスチックレンズを30分間浸漬したが、このプラスチックレンズを着色をすることはできなかった。
【0020】
【発明の効果】本発明によれば、従来の気相法による着色方法よりもレンズの均染性に優れ、染色濃度を制御することが可能な気相法による染色方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のプラスチックレンズ着色装置の一例を示す概略図である。
【図2】 昇華性染料が点在した本発明に係る基板及びプラスチックレンズを示す写真である。
【図3】 昇華性染料が点在した本発明に係る基板及び染料の塗布に用いた器具を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に所定間隔ごとに昇華性染料を塗布して点在させ、該昇華性染料が点在した基板面とプラスチックレンズの被着色面とを離間して対向させ、大気中または真空中で、加熱手段により加熱して前記昇華性染料を昇華させることにより、プラスチックレンズを着色する着色方法であって、前記塗布した昇華性染料の点在範囲が、プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさを有する範囲であることを特徴とするプラスチックレンズの着色方法。
【請求項2】 前記基板が、所定間隔ごとに昇華性染料を塗布するための位置を認知できるように印が施されていることを特徴とする請求項1記載のプラスチックレンズの着色方法。
【請求項3】 被着色プラスチックレンズを、その周辺部を支持することにより保持し、かつレンズの被着色面方向が開口すると共に、この開口部を密閉する基板が係合するための段差部を有するレンズ保持部材と、プラスチックレンズの被着色面と対向する側に配設され、該プラスチックレンズにおける着色しようとする範囲以上の大きさを有する範囲において、表面に所定間隔ごとに昇華性染料が塗布されて点在し、かつ前記レンズ保持部材の開口部を密閉する基板と、前記基板における昇華性染料が点在する面と反対側の面の全体に接触して設けられる加熱用部材と、前記レンズ保持部材を収容する開口部を有し、かつ前記加熱用部材によって密閉可能な収容器と、該収容器を真空状態にするための真空機構とを含むことを特徴とするプラスチックレンズ着色装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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