説明

プラスチックレンズ用組成物及びプラスチックレンズの製造方法

【構成】 実質的に脂肪族ポリイソシアネートと特定のポリチオール化合物とからなる単量体混合物に特定のアルキル錫ハライド化合物を含有させたプラスチックレンズ用組成物。
【効果】 粘度の経時変化が少なく作業性に優れ、かつ光学歪の発生が少なく実用的なプラスチックレンズを得ることができるプラスチックレンズ用組成物が提供された。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプラスチックレンズを製造する際に用いられる組成物及びこの組成物を用いるプラスチックレンズの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高屈折率を有するプラスチックレンズを得るためにポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させることは知られている。例えば特開昭60−199016号公報にはキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物と、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(メルカプトアセテート)などの脂肪族ポリチオール化合物を混合してなる組成物を加熱してポリウレタン系プラスチックレンズを製造する方法が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら前記の特開昭60−199016号公報に開示された方法で得られるプラスチックレンズは、特開昭63−46213号公報にも記されているように重合速度が大きく重合時の熱制御が困難で、光学歪みが大きく実用的なレンズを得難いという問題を有する。さらに前記組成物は時間の経過とともに粘度が著しく上昇し、鋳型中に注入することが困難となるなどの作業性の低下が生じる。
【0004】本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、時間経過とともに粘度が著しく上昇し、作業性が悪いこと、および光学歪みが大きく実用的なレンズが得難いことが特開昭63−46213号公報から知られている組成物を用いても、作業性、生産性の低下を生じずに、光学歪みの発生が少ない実用的なレンズを得ることができるプラスチックレンズ用組成物及び該組成物を用いたプラスチックレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するため本発明者は研究を重ねた結果、時間経過とともに粘度が著しく上昇すること、及び光学歪みが大きく実用的なレンズが得難いことが知られていた下記(A)成分と(B)成分および/または(C)成分とからなる単量体混合物に下記(D)成分のアルキル錫ハライド化合物を含有させた組成物は、経時的な粘度上昇がほとんどなく作業性に優れ、またこの組成物を用いると、重合速度が低くなり、重合時の光学歪みの発生が極めて少なく実用的なレンズが容易に得られること、さらに上記の光学歪みのない実用的なレンズが精密な温度制御を必要とせずに大量生産可能であることを見い出した。
【0006】本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、本発明のプラスチックレンズ用組成物は、実質的に下記(A)成分と(B)成分および/または(C)成分とからなる単量体混合物に下記(D)成分を含有させたことを特徴とする。
【0007】また本発明のプラスチックレンズの製造方法は、実質的に下記(A)成分と(B)成分および/または(C)成分とからなる単量体混合物に下記(D)成分を含有させたプラスチックレンズ用組成物をプラスチックレンズ製造用成形型内で注型重合させることを特徴とする。
【0008】(A)成分:1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物。
【0009】(B)成分:一般式(I)
(R1 a −C(CH2 OCOCH2 SH)b (I)
(式中、R1 はメチル基、エチル基を表し、aは0〜1の整数、bは3〜4の整数を表し、a+b=4である。)で表されるポリチオール化合物。
【0010】(C)成分:式(II)
【化3】


で表されるジペンタエリスリトールヘキサキス−(メルカプトアセテート)。
【0011】(D)成分:一般式(III)(R2 f −Sn−X4-f(式中、R2 はメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基を表し、Xは弗素原子、塩素原子、臭素原子を表し、fは1〜3の整数である。)で表されるアルキル錫ハライド化合物。
【0012】以下、本発明を詳説する。
【0013】本発明の組成物において、(A)成分は1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物であり、特開昭60−199016号公報、特開昭57−136601号公報、特開昭63−46213号公報、特開平1−302202号公報などに開示された脂肪族ポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0014】本発明の効果が特に顕著な脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えばイソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)ビシクロヘプタン、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、ビシクロヘプタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、メシチレントリイソシアネート等がある。
【0015】なお、(A)成分の脂肪族ポリイソシアネートは単独または2種以上混合して使用することも可能である。
【0016】本発明の組成物において(B)成分は一般式(I)
(R1 a −C(CH2 OCOCH2 SH)b (I)
(式中、R1 はメチル基、エチル基を表し、aは0〜1の整数、bは3〜4の整数を表し、a+b=4である。)で表されるポリチオール化合物であり、その具体例として、トリメチロールプロパントリス−(メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス−(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−(メルカプトアセテート)等が挙げられる。これらのうち、ペンタエリスリトールテトラキス−(メルカプトアセテート)が特に顕著な効果を示す。
【0017】本発明の組成物において(C)成分は式(II)
【化4】


で表わされるジペンタエリスリトールヘキサキス−(メルカプトアセテート)である。
【0018】屈折率や加工性等のレンズとして好ましい物性を得るために、(A)成分(脂肪族ポリイソシアネート)に対して一般式(I)で表わされる(B)成分の少なくとも1種および/または式(II)で表わされる(C)成分の少なくとも1種を−NCO基/(−SH基)モル比が0.9〜1.2、特に好ましくは0.95〜1.10の比率になるように混合することが望ましい。
【0019】単量体組成物に、他の単量体を前記(A)〜(C)成分とともに含有させると、このときの単量体混合物全体の粘度が時間の経過とともに大きく上昇するので、他の単量体の添加は好ましくない。但し、組成物の粘度の上昇を押さえるという本発明の目的を十分に達成できる程度の範囲内であれば少量の単量体の添加は可能である。
【0020】本発明の組成物は、実質的に上記(A)成分と(B)成分および/または(C)成分とを含む単量体混合物に一般式(III)(R2 f −Sn−X4-f(式中、R2 はメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基を表し、Xは弗素原子、塩素原子、臭素原子を表し、fは1〜3の整数である。)で表されるアルキル錫ハライド化合物を含有させたことを特徴とするものである。
【0021】この一般式(III)のアルキル錫ハライド化合物は、上記単量体混合物の経時的な粘度変化を抑え、また重合時の重合速度を低くして光学歪の発生を抑えるという役割を果す。一般式(III)のアルキル錫ハライド化合物としては、例えばモノメチルチントリクロリド、ジメチルチンジクロリド、トリメチルチンクロリド、ジブチルチンジクロリド、トリブチルチンクロリド、トリブチルチンフロリド、ジメチルチンジブロミド等が挙げられる。この錫化合物の使用量は、用いる単量体の種類や重合温度にも左右されるが、一般には単量体混合物中に10〜10,000ppm好ましくは50〜8,000ppmの範囲になるように添加するのが好ましい。
【0022】なお、(D)成分の代りに、ジブチルチンジラウレートなどのハロゲン非含有錫化合物を用いた場合、(D)成分のような作用効果は生じず、本発明の目的を達成することはできない。
【0023】また、本発明の組成物において耐候性を改良するため紫外線吸収剤、酸化防止剤、などの添加剤を必要に応じて加えても良い。
【0024】本発明の組成物は例えば0℃〜室温下で(D)成分をあらかじめ(A)〜(C)成分のいづれかの1成分に添加した後に、残りの(A)〜(C)成分を混合撹拌することにより調製するのが好ましい。
【0025】次に本発明のプラスチックレンズの製造方法について説明する。本発明のプラスチックレンズの製造方法は、上記(A)成分と(B)成分および/または(C)成分とを含む単量体混合物に上記(D)成分を含有させたプラスチックレンズ用組成物をプラスチックレンズ製造用成形型内で注型重合させるものである。ここにプラスチックレンズ製造用成形型としては、例えばガラス又は金属製のモールドと樹脂製ガスケットを組み合せたモールド型が用いられる。重合時間、重合温度は使用するモノマーにもよるが、一般に3〜96時間、0〜130℃である。重合後のレンズの離型性を良くするために成形型の成形面に離型剤を塗布しても良く、また単量体混合物に内部離型剤を添加しても良い。
【0026】本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、(D)成分のアルキル錫ハライド化合物を含有させたプラスチックレンズ用組成物を注型重合させるため、光学歪の発生が少なく実用的なレンズを得ることができる。
【0027】
【実施例】以下実施例により本発明を更に説明する。
【0028】実施例1 (A)成分:ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン (以下、H6−XDIと略す) 47.3重量部 (B)成分:ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテート (以下、PETMAと略す) 52.7重量部 (D)成分:ジメチルチンジクロリド (以下DMTDClと略す) 0.01重量部 (100ppm)
60%ジブトキシエチルアシッドフォスフェートと 40%ブトキシエチルアシッドフォスフェートとの混合物 0.10重量部 2−(2′−ヒドロキシ−5′−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール 0.03重量部(1)可使時間の測定上記成分を室温中で十分に撹拌混合して得た混合物を20℃に保たれた電気炉内に入れ、山一電機(株)製ビスコメイトVM−1A−Lを用いて粘度の経時変化を調べた。その結果、初期粘度48.0cpsに対して、1.5時間後の粘度49.0cpsで変化がなく、その後も大きな粘度上昇もなく、5時間後の粘度は56.0cpsであった。このように本実施例の組成物は、経時的な粘度上昇が極めてゆるやかであり、可使時間が長いので、作業性が優れていることが明らかとなった。
【0029】これに対して、(D)成分を含まない以外は同一の組成物について同様に粘度の経時変化を調べたが、初期粘度47.0cpsに対して0.25時間後の粘度が65.6cps、0.5時間後の粘度が100.0cpsと急上昇し、1時間後には185.0cpsにまで達した。
【0030】なお、この可使時間の評価は、後掲の表中では、室温(20℃)において調製後の初期粘度から2倍の粘度に増粘する迄の時間が2時間以上のものを良(○)と、2時間未満のものを不良(×)と表示した。
【0031】(2)プラスチックレンズの製造上記成分を室温中で十分に撹拌混合して得た混合物を、5mmHgの減圧下で60分間脱気後、一対のガラス型とポリエチレン製ガスケットよりなる成形型中に注入した。なお、上記一対のガラス型は上型曲率600mm、下型曲率120mmからなるものを用い、レンズの中心肉厚が5mm、径が75mmになるように成形型を組み立てた。
【0032】単量体混合物を成形型に注入後、20℃にて25時間、のちに120℃まで14時間かけて昇温し、120℃にて3時間、重合した後、成形型からプラスチックレンズを取り出した。
【0033】本実施例で得られたプラスチックレンズの屈折率、アッベ数、透明性、耐候性、光学歪、脈理を評価した結果を表1に示す。表1より、屈折率は1.56、アッベ数は46であった。またレンズの曇り及び不透明物質の析出がなく、透明性は良(○)であり、耐候性試験後も色相の変化が殆んどなく、耐候性も良(○)であった。さらに本実施例で得られたプラスチックレンズは中心肉厚、径、周縁厚が大きいにもかかわらず光学歪、脈理の発生がなく、これらの評価もいずれも良(○)であった。
【0034】なお、屈折率、アッベ数、透明性、耐候性、光学歪、脈理についての評価方法を以下に示す。
【0035】屈折率・アッベ数: アタゴ社製アッベ屈折率計2Tを用いて20℃にて測定した。
【0036】透明性: 得られたレンズを暗所にて蛍光灯下で目視観察し、レンズの曇り及び不透明物質の析出がないものを良(○)とし、明らかにあるものを不良(×)とした。
【0037】耐候性: サンシャインカーボンアークランプを装備したウェザーメーターにレンズをセットし200時間経過したところで、試験前との色相を比較した。
【0038】評価基準はほとんど変化なしを良(○)とし、わずかに黄変を可(△)、黄変を不良(×)とした。なお(△)の評価は実用的には問題のない範囲である。
【0039】光学歪: ストレインスコープによる目視観察を行なった。歪みが無いものを良(○)とし、歪みが多いものを不良(×)とした。
【0040】脈理: シュリーレン法による目視観察を行なった。脈理が殆んど無いものを良(○)とし、脈理が多いものを不良(×)とした。
【0041】実施例2〜11単量体および(D)成分のアルキル錫ハライド化合物として表1および表2に記載したものを所定量用いた以外は実施例1と同様にしてプラスチックレンズ用組成物を調製し、可使時間の測定及びプラスチックレンズの製造を行なった。得られたプラスチックレンズの物性を評価した結果を表1および表2に示す。表1および表2より、実施例2〜11の組成物も可使時間が長く、また得られたプラスチックレンズは屈折率、アッベ数、透明性、耐候性、光学歪、脈理の全ての試験項目において満足すべきものであった。
【0042】
【表1】


【0043】
【表2】


【0044】比較例1〜6(D)成分のアルキル錫ハロゲン化合物を含まない、表3に示す組成物および(D)成分の代りにハロゲン非含有錫化合物を用いた、表3に示す組成物をそれぞれ調製し、可使時間の測定およびプラスチックレンズの製造を行なった。得られたプラスチックレンズの物性を表3に示す。表3より比較例1〜6の組成物は、いずれも可使時間が2時間以内と短く(評価×)、作業性に劣っていた。また比較例1〜6の組成物から得られたプラスチックレンズは光学歪、脈理の発生が認められた(評価×)。
【0045】
【表3】


【0046】
【発明の効果】本発明によれば、実質的に脂肪族ポリイソシアネートと特定のポリチオール化合物とからなる単量体混合物に特定のアルキル錫ハライド化合物を含有させることにより、粘度の経時変化が少なく作業性に優れ、かつ光学歪の発生が少なく実用的なプラスチックレンズを得ることができるプラスチックレンズ用組成物が提供された。
【0047】また本発明によれば、中心肉厚、径、周縁厚が大きい場合でも光学歪の発生が少なく、実用的なプラスチックレンズの製造方法が提供された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 実質的に下記(A)成分と、(B)成分および/または(C)成分とからなる単量体混合物に下記(D)成分を含有させたことを特徴とするプラスチックレンズ用組成物。
(A)成分:1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物。
(B)成分:一般式(I)
(R1 a −C(CH2 OCOCH2 SH)b (I)
(式中、R1 はメチル基、エチル基を表し、aは0〜1の整数、bは3〜4の整数を表し、a+b=4である。)で表されるポリチオール化合物。
(C)成分:式(II)
【化1】


で表されるジペンタエリスリトールヘキサキス−(メルカプトアセテート)。
(D)成分:一般式(III)(R2 f −Sn−X4-f(式中、R2 はメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基を表し、Xは弗素原子、塩素原子、臭素原子を表し、fは1〜3の整数である。)で表されるアルキル錫ハライド化合物。
【請求項2】 (D)成分を単量体混合物中に10〜10,000ppm含有させた、請求項1に記載のプラスチックレンズ用組成物。
【請求項3】 実質的に下記(A)成分と、(B)成分および/または(C)成分とからなる単量体混合物に下記(D)成分を含有させたプラスチックレンズ用組成物をプラスチックレンズ製造用成形型内で注型重合させることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
(A)成分:1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物。
(B)成分:一般式(I)
(R1 a −C(CH2 OCOCH2 SH)b (I)
(式中、R1 はメチル基、エチル基を表し、aは0〜1の整数、bは3〜4の整数を表し、a+b=4である。)で表されるポリチオール化合物。
(C)成分:式(II)
【化2】


で表されるジペンタエリスリトールヘキサキス−(メルカプトアセテート)。
(D)成分:一般式(III)(R2 f −Sn−X4-f(式中、R2 はメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基を表し、Xは弗素原子、塩素原子、臭素原子を表し、fは1〜3の整数である。)で表されるアルキル錫ハライド化合物。