説明

プラスチック塗料用水性エマルジョン組成物

【課題】自動車内外装部品、家電製品、情報関連機器等に用いられるポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ノリル樹脂等の各種プラスチック基材に対して、密着性、耐アルコールラビング性、耐水性、耐溶剤性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成することができるプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物を提供すること。
【解決手段】2種以上のエチレン性不飽和単量体組成物を、炭素原子数6〜20のアルキル基を有するアルキルメルカプタン及びベンゼン環を有する付加開裂型連鎖移動剤の存在下で、共重合して得られる共重合体を含有する水性エマルジョンであり、その共重合体のガラス転移温度が90℃以上であるプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内外装部品、家電製品、情報関連機器等に用いられるプラスチック基材に塗膜を形成することができるプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内外装部品、家電製品、情報関連機器等に用いられるプラスチック成型品には、その表面の保護や装飾、触感向上などを目的として、プラスチック塗料が塗布される。従来、このプラスチック塗料としては、樹脂を有機溶剤に溶解した有機溶剤型の塗料が一般的である。有機溶剤型の塗料は、有機溶剤がプラスチック基材表面を溶解して基材と塗膜が一体化することにより、基材に対する密着性に優れた塗膜が得られる。また、架橋硬化型塗膜とした場合には、耐水性及び耐溶剤性にも優れたものとなる。しかしながら、有機溶剤型の塗料は、火災や爆発の危険性があり、また毒性を有するものもあり労働安全衛生や環境汚染の面で多くの問題がある。
【0003】
これに対して、水溶性樹脂又は水分散性樹脂を含有する水性塗料は、有機溶剤を全く含まないか或いは含んでいたとしても少量であるため、有機溶剤型塗料のような大気汚染の心配がない点で優れており、種々のプラスチック基材への塗装においても水性塗料への転換が図られつつある。
【0004】
しかし、水性塗料には、親水性官能基を有する樹脂が必須であるため、形成される塗膜の耐水性が低いという欠点がある。また、水性塗料は、一般的に、有機溶剤による基材溶解がないため有機溶剤型塗料に比較してプラスチック基材への密着性に劣る。さらに、エマルジョンタイプの塗料では、特有の造膜機構により形成される塗膜は比較的多孔質で、該塗膜と接触する種々の液状物質、例えば水や有機溶剤等が塗膜内部に透過し、白化、膨潤、軟化などを生じ易いといった欠点がある。これらの理由により、水性塗料は、特に耐水性及び耐溶剤性が要求される用途のプラスチック基材には適さないという問題がある。
【0005】
このような水性タイプのプラスチック塗料における問題を解決するものとして、カルボニル基とヒドラジド基との架橋反応を利用した自己架橋型エマルジョン塗料が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、この水性塗料で十分な耐溶剤性及び耐薬品性を得るには多量のカルボニル基とヒドラジド基が必要となり、貯蔵安定性やコストの面で問題がある。また、架橋密度が高くなるにつれて塗膜の凝集力が大きくなり、この凝集力の増大が塗膜のプラスチック基材への密着性を低下させる原因となる。
さらに、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、エチレン性不飽和カルボン酸などの単量体組成物を反応性乳化剤の存在下で乳化重合して得られる共重合体の水分散体(例えば、特許文献2を参照)、アルコール性水酸基を含有する重量平均分子量2,000以上の水溶性高分子で分散安定化されたエマルジョン(例えば、特許文献3を参照)、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを必須成分として含有するエチレン性不飽和単量体組成物を界面活性剤の存在下で乳化重合して得られる水性エマルジョン(例えば、特許文献4を参照)も提案されている。しかし、これらの水性塗料では、実用に耐え得る塗膜を形成できるプラスチック基材の種類が限定されるため、一つの水性塗料で各種プラスチック基材に対応することができないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−51559号公報
【特許文献2】特開平06―116528号公報
【特許文献3】特開2001−152076号公報
【特許文献4】特許第3934152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、自動車内外装部品、家電製品、情報関連機器等に用いられるポリスチレン(PS)、ABS樹脂、ポリカーボネート(PC)、ノリル樹脂等の各種プラスチック基材に対して、密着性、耐アルコールラビング性、耐水性、耐溶剤性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成することができるプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、2種以上のエチレン性不飽和単量体組成物を、炭素原子数6〜20のアルキル基を有するアルキルメルカプタン及びベンゼン環を有する付加開裂型連鎖移動剤の存在下で、共重合して得られる共重合体を含有する水性エマルジョンであり、その共重合体のガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とするプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物が上記課題を解決するのに有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物において、エチレン性不飽和単量体組成物は、(a)ベンゼン環を有するエチレン性不飽和単量体、(b)炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(c)不飽和カルボン酸、(d)(メタ)アクリルアミド及び(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体からなる群から選択される2種以上を含有することが好ましい。
本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物において、(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体の架橋性官能基は、グリシジル基又はアルコキシシリル基であることが好ましい。
本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物において、エチレン性不飽和単量体組成物は、25質量%〜74質量%の(a)ベンゼン環を有するエチレン性不飽和単量体、25質量%〜74質量%の(b)炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、0.1質量%〜5質量%の(c)不飽和カルボン酸、0.1質量%〜5質量%の(d)(メタ)アクリルアミド及び0.1質量%〜5質量%の(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。
本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物において、炭素原子数6〜20のアルキル基を有するアルキルメルカプタンは、エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.01質量%〜5質量%の範囲で使用され、且つベンゼン環を有する付加開裂型連鎖移動剤は、エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.01質量%〜5質量%の範囲で使用されることが好ましい。
本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物において、共重合体の重量平均分子量は、10,000〜200,000であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動車内外装部品、家電製品、情報関連機器等に用いられるABS樹脂、PS樹脂、PC樹脂、ノリル樹脂等の各種プラスチック基材に対して、密着性、耐アルコールラビング性、耐水性、耐溶剤性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成することができるプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物は、共重合体のガラス転移温度が90℃以上となるような2種以上のエチレン性不飽和単量体を共重合して得られる共重合体を含有することを特徴とする。
本発明に用いられるエチレン性不飽和単量体としては、上記した共重合体のガラス転移温度となるものであればよいが、例えば、(a)ベンゼン環を有するエチレン性不飽和単量体、(b)炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(c)不飽和カルボン酸、(d)(メタ)アクリルアミド及び(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。エチレン性不飽和単量体組成物中には、これらの単量体(a)〜(e)の2種以上が含まれていればよいが、単量体(a)〜(e)の全種類が含まれることが好ましい。
【0011】
ここで、本発明における共重合体のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(セイコーインスツル製 DSC−220)を用いて、下記条件にて測定されるものである。
リファレンス:アルミニウム
サンプル容器:アルミニウムパン
サンプル重量:10mg
昇温速度:10℃/分
【0012】
共重合体のガラス転移温度(Tg)が90℃未満であると、塗膜の硬度が低い上に、耐磨耗性、耐擦り傷性、耐温水性及び耐薬品性が十分に得られない。また好ましくは、共重合体のガラス転移温度(Tg)は180℃以下である。ガラス転移温度が180℃を超えると、成膜助剤としての有機溶剤の必要量が増加し、塗料化した際のエマルジョンの安定性が低下する場合がある。
【0013】
(a)ベンゼン環を有するエチレン性不飽和単量体の具体例としては、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ホモポリマーのガラス転移温度が高く、他の単量体との共重合性が良好であるという点から、スチレン及びベンジルメタクリレートが好ましい。この単量体(a)は、エチレン性不飽和単量体組成物中に25質量%〜74質量%配合されることが好ましく、30質量%〜60質量%配合されることがより好ましい。単量体(a)の配合量が25質量%未満であると、プラスチック基材に対する塗膜の密着性が不十分となる場合があり、一方、単量体(a)の配合量が74質量%を超えると、塗膜の耐油性及び耐可塑剤移行性が低下する場合がある。
【0014】
(b)炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ブチル等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。炭素原子数が5以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルでは、塗膜の耐油性及び耐可塑剤移行性が低下する場合がある。これらの中でも、ホモポリマーのガラス転移温度が高く、他の単量体との共重合性が良好であるという点から、アルキル基の炭素原子数が2以下であるメタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルが好ましい。この単量体(b)は、エチレン性不飽和単量体組成物中に25質量%〜74質量%配合されることが好ましく、40質量%〜70質量%配合されることがより好ましい。単量体(b)の配合量が25質量%未満であると、塗膜の耐油性及び耐可塑剤移行性が低下する場合があり、一方、単量体(b)の配合量が74質量%を超えると、プラスチック基材に対する塗膜の密着性や、メタノール、エタノール等の低級アルコールに対する耐性が低下する場合がある。
【0015】
(c)不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸又はこれら不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、他の単量体との共重合性が良好であるという点から、メタクリル酸及びアクリル酸が好ましい。この単量体(c)は、エチレン性不飽和単量体組成物中に0.1質量%〜5質量%配合されることが好ましく、0.5質量%〜4質量%配合されることがより好ましい。単量体(c)の配合量が0.1質量%未満であると、エマルジョン組成物の貯蔵安定性が低下したり、成膜助剤添加時の安定性が低下する場合があり、一方、単量体(c)の配合量が5質量%を超えると、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0016】
(d)(メタ)アクリルアミドの具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。この単量体(d)は、エチレン性不飽和単量体組成物中に0.1質量%〜5質量%配合されることが好ましく、0.5質量%〜4質量%配合されることがより好ましい。単量体(d)の配合量が0.1質量%未満であると、塗膜の耐薬品性が低下する場合があり、一方、単量体(d)の配合量が5質量%を超えると、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0017】
(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体の具体例としては、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有するエチレン性不飽和単量体、ビニルメチルケトン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート等のカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、β−メチルグリシジルメタクリレート等のグリシジル基を有するエチレン性不飽和単量体、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、架橋性官能基の反応性の点からグリシジル基又はアルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体が好ましく、さらには、他の単量体との共重合性が良好であるという点から、メタクリル酸グリシジル及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。この単量体(e)は、エチレン性不飽和単量体組成物中に0.1質量%〜5質量%配合されることが好ましく、グリシジル基を有するエチレン性不飽和単量体では1質量%〜5質量%、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体では0.1質量%〜2質量%配合されることがより好ましい。単量体(e)の配合量が0.1質量%未満であると、塗膜の耐水性、耐油性及び耐可塑剤移行性が低下する場合があり、一方、単量体(e)の配合量が5質量%を超えると、プラスチック基材に対する密着性が低下したり、エマルジョン組成物の貯蔵安定性が低下したり、成膜助剤添加時の安定性が低下する場合がある。
【0018】
上記した単量体(a)〜(e)の他に、単量体(a)〜(e)と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体(f)を併用しいてもよい。このようなエチレン性不飽和単量体(f)の具体例としては、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。この単量体(f)は、共重合体のガラス転移温度が90℃以上となる範囲で適宜配合することができる。
【0019】
上記した単量体を共重合させる際に用いられる炭素原子数6〜20のアルキル基を有するアルキルメルカプタンは、連鎖移動剤として作用し、分子末端に疎水性のアルキル鎖を導入してプラスチック基材への密着性を向上させる。このようなアルキルメルカプタンの具体例としては、ヘキシルメルカプタン、ヘプチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ノニルメルカプタン、t−ノニルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。炭素原子数が6未満のアルキル基を有するアルキルメルカプタンでは、プラスチック基材に対する密着性が不十分となる。炭素原子数が20を超えるアルキル基を有するアルキルメルカプタンでは、乳化重合におけるエチレン性不飽和単量体との反応性が低く、共重合体の分子末端への結合が低下する。炭素原子数6〜20のアルキル基を有するアルキルメルカプタンは、エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.01質量%〜5質量%の範囲で使用することが好ましく、0.05質量%〜3質量%の範囲で使用することがより好ましい。アルキルメルカプタンの使用量が0.01質量%未満であると、プラスチック基材に対する密着性が不十分となる場合があり、一方、アルキルメルカプタンの使用量が5質量%を超えると、共重合体の重合阻害や分子量低下が起きたり、アルキルメルカプタンの残存により塗膜の耐水性及び耐薬品性が低下する場合がある。
【0020】
また、上記した単量体を共重合させる際に用いられるベンゼン環を有する付加開裂型連鎖移動剤も、連鎖移動剤として作用し、分子末端に疎水性のベンゼン環を導入してプラスチック基材への密着性を向上させると共に耐水性及び耐水白化性も向上させる。このような付加開裂型連鎖移動剤の具体例としては、下記式(1)で表される2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾエート、下記式(2)で表される[1−(O−エチルザンチル)エチル]ベンゼン等のジチオエステル類化合物、αメチルスチレンダイマー等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、1分子当たり2つのベンゼン環を有するαメチルスチレンダイマーが好ましい。ベンゼン環を有する付加開裂型連鎖移動剤は、エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.01質量%〜5質量%の範囲で使用することが好ましく、0.05質量%〜3質量%の範囲で使用することがより好ましい。付加開裂型連鎖移動剤の使用量が0.01質量%未満であると、プラスチック基材に対する密着性が不十分となる場合があり、一方、付加開裂型連鎖移動剤の使用量が5質量%を超えると、共重合体の重合阻害や分子量低下が起きたり、付加開裂型連鎖移動剤の残存により塗膜の耐水性及び耐薬品性が低下する場合がある。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
上記した単量体を共重合させて得られる共重合体の重量平均分子量は、10,000〜200,000であることが好ましく、30,000〜150,000であることがより好ましい。共重合体の重量平均分子量が10,000未満であると、分子間の凝集力が低く、耐磨耗性、耐擦り傷性及び耐薬品性が低下する場合があり、一方、共重合体の重量平均分子量が200,000を超えると、塗装時に共重合体がプラスチック基材表面に濡れ広がりにくく、部分濡れ状態となってプラスチック基材との密着性が低下する場合がある。共重合体の重量平均分子量は、アルキルメルカプタン、付加開裂型連鎖移動剤、後述する重合開始剤の使用量等を変えることで調整することができる。
なお、本発明における共重合体の重量平均分子量の値は、ゲル・パーミッション・クロマトグラフィー(昭和電工製Shodex SYS−11)を用いて、下記条件にて測定し、ポリスチレン換算にて算出されるものである。
カラム:昭和電工製KF−806L
カラム温度:40℃
試料:共重合体の0.2%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
【0024】
本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物は、公知の乳化重合法によって製造することができる。乳化重合の際に用いられる重合開始剤の具体例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド等の有機過酸化物系重合開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等の窒素含有重合開始剤等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.01質量%〜5質量%の範囲で使用することが好ましい。重合開始剤の使用量が0.01質量%未満であると、エチレン性不飽和単量体の重合が進行しない場合があり、一方、重合開始剤の使用量が5質量%を超えると、アルキルメルカプタン、付加開裂型連鎖移動剤の分子末端への結合を阻害する場合がある。
また、これらの重合開始剤と、酸性亜硫酸ソーダ、ロンガリット、L−アスコルビン酸、糖類、アミン類等の還元剤とを併用してもよい。
【0025】
乳化重合の際に用いられる界面活性剤の具体例としては、アルキル又はアルキルアリル硫酸塩、アルキル又はアルキルアリルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホコハク酸塩、スチレンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のノニオン性乳化剤等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、塗膜の耐水性を向上させるという点で、ラジカル重合性の界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤は、エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.1質量%〜5質量%の範囲で使用することが好ましい。界面活性剤の使用量が0.1質量%未満であると、乳化重合時及び貯蔵時におけるエマルジョン粒子の安定性が低下する場合があり、一方、界面活性剤の使用量が5質量%を超えると、塗膜の耐水性、耐水白化性及び耐薬品性が低下する場合がある。
【0026】
乳化重合法としては、各成分を一括で仕込んで重合する方法、各成分を連続供給しながら重合する方法等が挙げられる。乳化重合反応は、通常、30℃〜95℃の温度範囲で撹拌下に行われる。なお、本発明において単量体として(c)不飽和カルボン酸を用いる場合、重合中又は重合終了後に塩基性物質を加えてpHを調整することにより、乳化重合時の重合安定性、機械的安定性及び化学的安定性を向上させることができる上に、プラスチック塗料用水性エマルジョン組成物に造膜助剤を添加する際の助剤混和性を著しく向上させることができる。この場合、得られるプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物のpHが7以上となるように塩基性物質を加えることが好ましい。塩基性物質の具体例としては、アンモニア、エチルアミン、エタノールアミン、苛性ソーダ等が挙げられる。
【0027】
本発明のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物には、上記で説明した共重合体以外の樹脂、造膜助剤、着色剤、可塑剤、防腐剤、消泡剤、濡れ剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の公知慣用の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜添加してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
冷却管、温度計、撹拌機及び滴下ロートを備えた反応容器に、イオン交換水200質量部及び界面活性剤(株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10)1.5質量部を仕込み、攪拌し、85℃に昇温した。下記表1に示される単量体及び連鎖移動剤の混合物に界面活性剤(株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10)5質量部、パラスチレンスルホン酸ソーダ8.5質量部及びイオン交換水320質量部を添加、混合して単量体乳化物とした。単量体乳化物の5質量%を反応容器に投入した後、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3質量部を投入して15分間プレ反応を行った。その後、残りの単量体乳化物と過硫酸カリウム1質量部をイオン交換水50質量部で溶解させた溶液とを4時間掛けて反応容器に滴下した。滴下終了後、さらに85〜90℃で2時間攪拌した後、アンモニア水4質量部を添加して水性エマルジョンを得た。
【0029】
【表1】

【0030】
〔実施例2、実施例3及び比較例1〜3〕
表1に示される単量体及び連鎖移動剤を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2、実施例3及び比較例1〜3の水性エマルジョンを得た。
【0031】
実施例1〜3及び比較例1〜3の水性エマルジョンの性能を以下の方法に従って評価した。結果を表2に示した。
【0032】
(試験片の作製)
水性エマルジョン100質量部に対し、攪拌下でジエチレングリコールモノブチルエーテル22.5質量部及びイオン交換水57.5質量部を添加し、10分攪拌後、1日静置してクリアー塗料を調製した。クリアー塗料を各種プラスチック基材(ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ノリル樹脂)に50g/m2でスプレー塗装し、60℃の恒温槽内で30分間乾燥させた。さらに23℃、65%RHで24時間養生して試験片を作製した。作製した試験片を以下の評価試験に用いた。
【0033】
(常態密着性の評価)
JIS K−5400に準じ、試験片の塗膜表面に1mm間隔の碁盤目の切れ込み(100マス)を入れ、セロテープ(登録商標)を貼合した。1時間後にセロテープ(登録商標)を剥離して、その剥離の程度で密着性を評価した。
◎:100/100
○:99〜90/100
△:89〜70/100
×:70未満/100
【0034】
(耐エタノールラビング性の評価)
試験片との接触部が1cm×1cm平面の冶具にフェルトを載せ、さらにさらし布を被せて固定し、エタノールを染み込ませた。この冶具を往復磨耗試験機にセットし、荷重500g、60往復/分の条件で試験片表面を冶具でこすり、プラスチック基材表面が1/3程度露出するまでの摩擦回数を測定した。
【0035】
(耐ヒマシ油性の評価)
ヒマシ油を染み込ませた2cm×2cmのキムワイプを試験片表面に載せ、50℃、90%RHの恒温恒湿機内に1日放置した。放置後、試験片表面からヒマシ油をふき取り、試験片表面の状態変化を観察した。
◎:変化なし
○:わずかに変化あり
△:膨潤
×:軟化
【0036】
(耐ブラバス性の評価)
ブラバスヘアリキッド(資生堂製)を染み込ませた2cm×2cmのキムワイプを試験片表面に載せ、23℃、65%RHの恒温恒湿機内に1日放置した。放置後、試験片表面からブラバスヘアリキッドをふき取り、試験片表面の状態変化を観察した。
◎:変化なし
○:わずかに変化あり
△:膨潤
×:軟化
【0037】
(耐ハンドクリーム性の評価)
ハンドクリーム(アトリックス製)を染み込ませた2cm×2cmのキムワイプを試験片表面に載せ、50℃の恒温槽内に2日放置した。放置後、試験片表面からハンドクリームをふき取り、試験片表面の状態変化を観察した。
◎:変化なし
○:わずかに変化あり
△:膨潤
×:軟化
【0038】
(耐可塑剤移行性の評価)
試験片表面に塩化ビニール製の電気コードを載せ、50℃の恒温槽内で500gの荷重をかけて1日放置した。放置後、試験片表面から電気コードを取り除き、試験片表面の状態変化を観察した。
◎:変化なし
○:わずかに変化あり
△:塗膜剥離
×:基材剥離
【0039】
(耐湿白化性の評価)
試験片を50℃、90%RHの恒温恒湿機内に5日放置した。試験前後でL、a、b値を測定し、色差(ΔE)を求めた。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜3の水性エマルジョンを用いたクリアー塗料は、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート及びノリル樹脂の各種プラスチック基材に対して、密着性、耐アルコールラビング性、耐水性、耐溶剤性及び耐薬品性に優れた塗膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のエチレン性不飽和単量体組成物を、炭素原子数6〜20のアルキル基を有するアルキルメルカプタン及びベンゼン環を有する付加開裂型連鎖移動剤の存在下で、共重合して得られる共重合体を含有する水性エマルジョンであり、その共重合体のガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とするプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和単量体組成物が、(a)ベンゼン環を有するエチレン性不飽和単量体、(b)炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(c)不飽和カルボン酸、(d)(メタ)アクリルアミド及び(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体からなる群から選択される2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物。
【請求項3】
前記(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体の架橋性官能基が、グリシジル基又はアルコキシシリル基であることを特徴とする請求項2に記載のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和単量体組成物が、25質量%〜74質量%の前記(a)ベンゼン環を有するエチレン性不飽和単量体、25質量%〜74質量%の前記(b)炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、0.1質量%〜5質量%の前記(c)不飽和カルボン酸、0.1質量%〜5質量%の前記(d)(メタ)アクリルアミド及び0.1質量%〜5質量%の前記(e)架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を含有することを特徴とする請求項2に記載のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物。
【請求項5】
前記炭素原子数6〜20のアルキル基を有するアルキルメルカプタンが、前記エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.01質量%〜5質量%の範囲で使用され、且つ前記ベンゼン環を有する付加開裂型連鎖移動剤が、前記エチレン性不飽和単量体組成物に対して0.01質量%〜5質量%の範囲で使用されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物。
【請求項6】
前記共重合体の重量平均分子量が、10,000〜200,000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のプラスチック塗料用水性エマルジョン組成物。

【公開番号】特開2009−298932(P2009−298932A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155470(P2008−155470)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】