説明

プラスチック消しゴム、それを含むプラスチック消しゴム複合体及びその製造方法

【課題】消字性にすぐれるのみならず、環境負荷が極めて少ないプラスチック消しゴムを提供する。更に、そのようなプラスチック消しゴムを有機ポリマーからなる多孔性構造体に充填してなるプラスチック消しゴム複合体とその製造方法を提供する。
【解決手段】基材樹脂である塩化ビニル系樹脂と可塑剤として4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせを含むプラスチック消しゴムにおいて、上記基材樹脂を25〜60重量%と上記可塑剤の組み合わせを30〜60重量%含み、上記可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合が5〜60重量%の範囲であると共に、硬さが55〜75の範囲にあり、ゲル硬度が3.0〜6.0kgfの範囲にあるプラスチック消しゴムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック消しゴムに関し、詳しくは、環境負荷が極めて少なく、しかも、消字性にすぐれるプラスチック消しゴムに関し、更には、有機ポリマーからなる多孔性構造体にそのようなプラスチック消しゴムを含むプラスチック消しゴム複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック消しゴムは、通常、基材樹脂に可塑剤と、必要に応じて、安定剤や着色剤等のその他の添加剤を適宜に加えて均一に攪拌した後、適宜の成形手段を用いて加熱、成形して製造されている。
【0003】
このような従来のプラスチック消しゴムにおいて、上記基材樹脂としては、塩化ビニル系樹脂が最も広く用いられており、また、上記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤が最も広く用いられている。
【0004】
しかし、上述したようなフタル酸エステル系可塑剤は、近年、所謂環境ホルモン(内分泌攪乱物質)として作用する可能性が指摘されており、プラスチック消しゴムについても、フタル酸エステル系可塑剤に代わる新たな可塑剤が望まれている。
【0005】
そこで、非フタル酸エステル系可塑剤可塑剤として、例えば、アセチルクエン酸トリブチル(特許文献1参照)、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)(特許文献2参照)、セバシン酸ジエステル(特許文献3参照)、アルキルスルホン酸フェニル(特許文献4参照)等を用いるプラスチック消しゴムが提案されている。
【0006】
更に、ウレタンを基材樹脂とするプラスチック消しゴムにおいては、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジアルキレングリコールベンゾエートの非フタル酸エステル系可塑剤可塑剤の組み合わせも提案されている(特許文献5参照)。
【0007】
また、最近では、有機ポリマーからなる多孔性構造体の空隙にプラスチック消しゴムを有し、紙面上の文字を擦過して消字したとき、消しゴムがその表面で磨耗すると共に、消しゴム表面の上記多孔性構造体の骨格構造が破断されて、よく消字することができるのみならず、消し屑の纏まりのよいプラスチック消しゴム複合体が提案されている(特許文献6参照)。
【0008】
しかし、基材樹脂を塩化ビニル系樹脂とするプラスチック消しゴムについては、環境負荷の低減と消字性の向上という観点からは、未だ、効果的な非フタル酸エステル系可塑剤が提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−105150号公報
【特許文献2】特開2001−81259号公報
【特許文献3】特開2007−21768号公報
【特許文献4】特開2005−138359号公報
【特許文献5】国際公開WO2009/145132号公報
【特許文献6】特開2001−138688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、プラスチック消しゴム、特に、基材樹脂を塩化ビニル系樹脂とするプラスチック消しゴムにおける上述した問題を解決するためになされたものであって、環境負荷が極めて少なく、しかも、すぐれた消字性を有するプラスチック消しゴムを提供することを目的とする。更に、本発明は、そのようなプラスチック消しゴムを有機ポリマーからなる多孔性構造体の空隙に有するプラスチック消しゴム複合体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、基材樹脂である塩化ビニル系樹脂と可塑剤として4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせを含むプラスチック消しゴムにおいて、上記基材樹脂を25〜60重量%と上記可塑剤の組み合わせを30〜60重量%含み、上記可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合が5〜60重量%の範囲であると共に、硬さが55〜75の範囲にあり、ゲル硬度が3.0〜6.0kgfの範囲にあるプラスチック消しゴムが提供される。
【0012】
本発明によれば、好ましくは、上記プラスチック消しゴムは、上記可塑剤の組み合わせを35〜55重量%の範囲で含み。また、上記可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合は10〜50重量%の範囲である。
【0013】
また、本発明によれば、上記プラスチック消しゴムを有機ポリマーからなる多孔性構造体の空隙に有する消しゴム複合体が提供される。
【0014】
更に、本発明によれば、上記消しゴム複合体の製造方法において、基材樹脂である塩化ビニル系樹脂25〜60重量%と可塑剤として4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせ30〜60重量%を含み、上記可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合が5〜60重量%の範囲であるプラスチゾルを有機ポリマーからなる多孔性構造体に含浸し、その空隙に充填した後、加熱して、上記プラスチゾルを硬化させる製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によるプラスチック消しゴムは、基材樹脂である塩化ビニル系樹脂と可塑剤として4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせを含み、上記基材樹脂を25〜60重量%、上記可塑剤の組み合わせを30〜60重量%を含み、上記可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合が5〜60重量%の範囲であると共に、硬さが55〜75の範囲にあり、ゲル硬度が3.0〜6.0kgfの範囲にある。
【0016】
ここに、硬さとは、プラスチック消しゴムが外力に対して可逆的に反発する強さである。ゲル硬度とは、プラスチック消しゴムを構成するゲルを非可逆的に破壊する外力の大きさである。
【0017】
本発明によるプラスチック消しゴムの基材樹脂は塩化ビニル系樹脂である。ここに、塩化ビニル系樹脂とはポリ塩化ビニルと塩化ビニル共重合体をいい、塩化ビニル共重合体とは塩化ビニルとこれに共重合性を有するラジカル重合性単量体との共重合体をいい、そのような塩化ビニルと共重合性を有するラジカル重合性単量体は、特に、限定されるものではないが、例えば、エチレン、酢酸ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、メチルビニルエーテル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル、スチレン等を挙げることができる。本発明において、代表的な塩化ビニル共重合体として、例えば、塩化ビニル−エチレン共重合体や塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等を挙げることができる。
【0018】
しかし、本発明においては、基材樹脂として、なかでも、ポリ塩化ビニルが好ましく用いられ、更に、成形によって容易にプラスチック消しゴムを得ることができるように、ポリ塩化ビニルは可塑剤に分散させてなるペースト状のプラスチゾルとして用いられる。
【0019】
本発明によれば、可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせが用いられる。このような4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせにおいて、ジエチレングリコールジベンゾエートの割合は5〜60重量%の範囲であり、好ましくは、10〜50重量%の範囲であり、最も好ましくは、15〜45重量%の範囲である。
【0020】
可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせにおいて、ジエチレングリコールジベンゾエートの割合が低すぎるときは、得られるプラスチック消しゴムのゲル硬度が小さくなり、消字に際して崩れやすい。しかし、ジエチレングリコールジベンゾエートの割合が高すぎるときは、得られるプラスチック消しゴムがゲル硬度が高すぎて、消字率が低下する。
【0021】
更に、本発明によれば、可塑剤としての4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせは、プラスチック消しゴムにおいて、30〜60重量%の範囲で、好ましくは、30重量%を越えて、60重量%まで、より好ましくは、35〜55重量%の範囲で用いられ、最も、好ましくは、40〜55重量%の範囲で用いられる。プラスチック消しゴムにおける上記可塑剤の組み合わせの割合が少なすぎるときは、得られるプラスチック消しゴムの硬さが高く、弾力性が低下して、消字率が低く、使用感も悪い。しかし、プラスチック消しゴムにおける上記可塑剤の組み合わせの割合が多すぎるときは、得られるプラスチック消しゴムの摩擦抵抗が大きくなって、使用感が悪い。
【0022】
本発明によるプラスチック消しゴムは、適度の硬さを有するように、好ましくは、充填剤を含む。充填剤としては、従来、知られている充填剤が適宜に用いられる。具体例として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、タルク、クレー、珪藻土、石英粉、アルミナ、アルミナシリケート、マイカ、セリサナイト、モンモリロナイト等を挙げることができる。特に、限定されるものではないが、プラスチック消しゴムにおける充填剤の割合は、通常、50重量%以下の範囲であり、好ましくは、5〜50重量%の範囲である。プラスチック消しゴムにおける充填剤の割合が少なすぎるときは、使用に際して、摩耗よりも変形が起こりやすくなり、反対に、多すぎるときは、硬さが高くなって、弾力性が低下する。
【0023】
更に、基材樹脂の高温における劣化を防止するために、本発明によれば、プラスチック消しゴムは、安定剤を含むことができる。安定剤としては、例えば、バリウム−亜鉛安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、マグネシウム−亜鉛安定剤等を挙げることができる。
【0024】
本発明においては、プラスチック消しゴムは、上述した充填剤や安定剤のはか、必要に応じて、例えば、粘度調整剤、滑剤、溶剤、着色剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、芳香剤等の添加剤を含んでもよい。これらの添加剤のプラスチック消しゴムにおける割合は特に、限定されるものではないが、通常、5重量%以下の範囲であり、好ましくは、0.3重量%以下の範囲である。
【0025】
本発明によるプラスチック消しゴムは、その製造方法において、特に制約を受けるものではない。例えば、注入法によれば、基材樹脂を可塑剤と、必要に応じて、充填剤、滑剤、着色剤、防腐剤、防黴剤、芳香剤等と混合して、プラスチゾルを調製し、適宜の金型に注入し、加熱して、上記プラスチゾルを硬化させた後、冷却し、適宜に裁断して、プラスチック消しゴムを得ることができる。しかし、成形方法は、上記例示に限定されず、押出成形、射出成形、プレス成形等によることもできる。
【0026】
また、本発明によれば、有機ポリマーからなる多孔性構造体の有する空隙に上述したようなプラスチック消しゴムを有するプラスチック消しゴム複合体として得ることもできる。上記有機ポリマーからなる多孔性構造体は既に知られており(特許文献6参照)、空隙を有する三次元の連通空孔(連通気泡ともいう。)を有する骨格構造乃至三次元網状構造を有機ポリマーが構成しており、上記骨格構造は消しゴムを補強すると共に、このような消しゴムを用いて、紙面上の文字を擦過して消字するときには、紙面によって磨耗する消しゴムと共に、紙面を擦過した部分の骨格構造が破壊されて、消しゴムに由来する消し屑と共に纏まりのある消し屑を形成する。
【0027】
上記有機ポリマーからなる多孔性構造体において、骨格構造(即ち、空隙を形成する壁体又は骨格)の平均肉厚は、特に制限されないが、例えば、1〜100μm、好ましくは、10〜50μmであり、骨格構造の有する空隙の平均孔径は、特に制限されないが、例えば、10μmから3mmの範囲であり、好ましくは、20μmから1mmの範囲である。
【0028】
本発明において、多孔性構造体における空隙率(気孔率)は、特に制限されないが、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上であり、例えば、90〜99.8%である。
【0029】
本発明によるプラスチック消しゴム複合体は、このような多孔質構造体の空隙に前述したようなプラスチック消しゴムを有する複合体であって、多孔性構造体の空隙の全容積に対するプラスチック消しゴムの充填率は、特に限定されないが、通常、50%以上、100%未満であるが、消し屑の纏まり性、消字性及び使用感にバランスよくすぐれるように、好ましくは、70〜99%、最適には85%程度である。
【0030】
更に、本発明においては、多孔性構造体は、引張強度が3kgf/cm以下、好ましくは、2kgf/cm以下である。多孔性構造体が3kgf/cmを超える引張強度を有するときは、得られるプラスチック消しゴム複合体を用いて消字する際に、消しゴムが摩耗しても、骨格構造がその部分において破壊され難くなるからである。上記引張強度は、サンプル厚みを10mm、ダンベルは2号形状、引張速度は300mm/分として、JIS K 6402に準拠して測定するものとする。
【0031】
また、本発明によれば、上記多孔性構造体は、伸びが500%以下であり、好ましくは、100%以下である。多孔性構造体が500%を超える伸びを有するときは、消字の際に消しゴムの摩耗面と多孔性構造体の破断面が一致せず、多孔性構造体の骨格構造が摩耗面から浮き出て、外観上好ましくないからである。この伸びも、上記と同じく、サンプル厚みを10mm、ダンベルは2号形状、引張速度は300mm/分として、JIS K 6402に準拠して測定するものとする。
【0032】
また、上記多孔性構造体は、圧縮反発力が0.2kgf以上を有し、好ましくは、0.7kgf以上を有する。多孔性構造体の圧縮反発力が0.2kgf未満であるとき、消しゴムの剛性が十分でなく、強い腰をもたせ難い。この圧縮反発力は、厚さ10mmのサンプルに直径15.2mmのディスクを当て、7mm/分の速さで5mm圧縮したときの反発力を測定した数値である。
【0033】
以上から、本発明において、多孔性構造体は、好ましくは、3kgf/cm以下の引張強度、500%以下の伸び、0.2kgf以上の圧縮反発力を有することが好ましい。
本発明において、多孔性構造体を構成する有機ポリマーとしては、例えば、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリスチレンのようなスチレン系樹脂、ポリエステルのようなエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステルのようなアクリル系樹脂、ポリエチレンのようなオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルのような塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム等のゴム類を挙げることができる。
【0034】
特に、本発明においては、例えば、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂からなる連続気泡を有する硬くて、脆い多孔性構造体が好ましく用いられる。このような有機ポリマーからなる多孔性構造体は、所謂樹脂発泡体として市販品を入手することができる。例えば、メラミン系樹脂からなる多孔性構造体はBASF社製の「バソテクト」として、また、ウレタン系樹脂からなる多孔性構造体はINOAC CORP.社製の「MF−50」として、エチレン系樹脂からなる多孔性構造体は三和加工(株)製の「OPECELL LC−300」として、それぞれ入手することができる。
【0035】
本発明によるプラスチック消しゴム複合体は、その製造方法において、特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、必要に応じて、前述したような種々の添加剤を含む塩化ビニル系樹脂のプラスチゾルを有機ポリマーからなる多孔性構造体に含浸して、その多孔性構造体の空隙に上記プラスチゾルを充填した後、加熱し、プラスチゾルを硬化させ、冷却し、硬化物を適宜に裁断すれば、本発明によるプラスチック消しゴム複合体を得ることができる。
【0036】
上述した製造方法において、上記プラスチゾルを加熱、硬化させる際の温度は、通常、100〜160℃の範囲であり、加熱時間は、通常、10分から50分程度である。
【0037】
上述したような方法によって本発明によるプラスチック消しゴム複合体を製造するにあたっては、例えば、温度20℃、B型粘度計、回転数6rpmの条件下に100〜20000mPa・s、好ましくは、800〜7000mPa・sのプラスチゾルを用いることが望ましい。この範囲内の粘度のプラスチゾルであれば、常温において、多孔性構造体の空隙に容易に含浸させることができる。
【0038】
このようにして得られる本発明によるプラスチック消しゴム複合体は、硬さが55〜75の範囲であり、ゲル硬度が3.0〜6.0kgfの範囲であって、腰が強く、それでいて、崩れ難く、しかも、高い消字性を有する。
【0039】
本発明によるプラスチック消しゴム複合体は、上述したように、腰が強く、それでいて、崩れ難く、しかも、高い消字性を有し、使用感にすぐれている。勿論、消し屑は纏まり性にすぐれている。
【0040】
本発明によるプラスチック消しゴム複合体の摩擦係数は、消字の際のタッチが軽いように、0.8以下であることが好ましい。また、摩耗率は、消字の際、表面が汚れにくく、容易に消字することができるように、1%以上であることが好ましい。
【0041】
更に、本発明によれば、プラスチック消しゴム複合体の製造においても、塩化ビニル系樹脂と共に、可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)95〜40重量%とジエチレングリコールジベンゾエート5〜60重量%からなる組み合わせを用いることに種々の利点がある。
【0042】
即ち、塩化ビニル系樹脂と上記可塑剤を含むプラスチゾルを加熱してゲル化させるための温度を、可塑剤としてフタル酸オクチルやフタル酸ベンジルのようなフタル酸エステル系のものを用いる場合に比べて、約3℃低くすることができる。そのうえ、塩化ビニル系樹脂と上記可塑剤の組み合わせを含むプラスチゾルは、有機ポリマーからなる多孔性構造体への含浸性にもすぐれており、プラスチック消しゴムを生産性高く製造することができる。
【0043】
例えば、有機ポリマーからなる多孔性構造体に上記塩化ビニル系樹脂と上記可塑剤の組み合わせを含むプラスチゾルを常圧下に含浸させる際に、雰囲気を真空にせずとも、短時間に容易に、且つ、十分に含浸させることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はそれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0045】
実施例1
表1に示すように、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製ゼストP21)31.7重量部、可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)(大日本インキ化学工業(株)製モノサイザーW−150、表1中、可塑剤1)43.7重量部とジエチレングリコールジベンゾエート(大日本インキ化学工業(株)製モノサイザーPB−3A、表1中、可塑剤2)4.9重量部の組み合わせ及び炭酸カルシウム(備北粉化工(株)製重質炭酸カルシウム)19.8重量部を混合、攪拌して、プラスチゾルを調製した。
【0046】
このプラスチゾルを金型に充填し、100℃で20分間、予備加熱した後、116℃で30分間、本加熱した。その後、金型を冷却し、得られたゲル化物を金型から取り出し、裁断して、プラスチック消しゴムを得た。
【0047】
得られたプラスチック消しゴムの硬さ、ゲル硬度及び消字率を表1に示す。但し、硬さ、ゲル硬度及び消字率の数値はいずれも、3回の測定値の平均値である。プラスチック消しゴムの硬さ、ゲル硬度及び消字率の測定方法は下記のとおりである。
【0048】
(プラスチック消しゴムの硬さ)
JIS S 6050に準じて測定した。
(プラスチック消しゴムのゲル硬度)
厚さ5mm、直径10mmの円盤状の試料を調製し、その中央に直径4.4mmのロッドを7mm/分の速度で押し当てていき、ロッドを押し当てた部分が破断した時の加重をゲル硬度として測定した。測定器はアイコーエンジニアリング(株)製ゲル硬度計を用いた。
(プラスチック消しゴムの消字率)
JIS S 6050に準じて測定した。
【0049】
実施例2及び3
実施例1と同じポリ塩化ビニル、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジエチレングリコールジベンゾエート及び炭酸カルシウムをそれぞれ表1に示す量にて用いて、実施例1と同様にして、プラスチック消しゴムを得た。得られたプラスチック消しゴムの硬さ、ゲル硬度及び消字率を表1に示す。
【0050】
比較例1及び2
実施例1と同じポリ塩化ビニル、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジエチレングリコールジベンゾエート及び炭酸カルシウムをそれぞれ表1に示す量にて用いて、実施例1と同様にして、プラスチック消しゴムを得た。得られたプラスチック消しゴムの硬さ、ゲル硬度及び消字率を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示す結果から明らかなように、本発明によるプラスチック消しゴムは、硬さが55〜75の範囲にあり、ゲル硬度が3.0〜6.0kgfの範囲にあって、腰が強く、崩れ難く、しかも、高い消字率を有している。これに対して、比較例1によるプラスチック消しゴムは、ゲル硬度が小さく、消字に際して崩れやすい。また、比較例2によるプラスチック消しゴムは、ゲル硬度が高く、消字率が低い。
【0053】
実施例4
(プラスチゾルの多孔性構造体への含浸性の評価)
実施例1において調製したプラスチゾルを温度25℃にて有底のプレート状金型内に充填し、その上に厚み10mm、空隙率98%のメラミン樹脂からなる多孔性構造体のシートを載せて、この多孔性構造体のシートの上表面まで上記プラスチゾルが含浸するまでの時間を測定したところ、5分であった。
【0054】
実施例1において、可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせに代えて、フタル酸オクチル、アセチルクエン酸トリブチル、アルキルスルホン酸フェニルをそれぞれ48.6重量部用いた以外は、同様にして、プラスチゾルを調製し、上述したようにして、多孔性構造体のシートをこれらプラスチゾルがそれぞれ含浸するまでの時間を測定したところ、それぞれ7分、15分及び17分であった。
【0055】
即ち、可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせを用いるとき、可塑剤として、上記その他の可塑剤を用いる場合に比べて、プラスチゾルをより速やかに多孔性構造体に含浸させることができる。
【0056】
(プラスチゾルのゲル化性の評価)
実施例1において調製したプラスチゾルを金型に充填し、100℃で20分間予備加熱した後、116℃で30分間することによって、プラスチゾルをゲル化させることができた。
【0057】
実施例1において、可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせに代えて、フタル酸オクチルを48.6重量部用いた以外は、同様にして、プラスチゾルを調製し、これを金型に充填し、100℃で20分間予備加熱した後、119℃で30分間することによって、プラスチゾルはゲル化した。
【0058】
即ち、可塑剤として、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせを用いるとき、可塑剤として、フタル酸オクチルを用いる場合に比べて、プラスチゾルをより低温にてゲル化させることができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂である塩化ビニル系樹脂と可塑剤として4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせを含むプラスチック消しゴムにおいて、上記基材樹脂を25〜60重量%と上記可塑剤の組み合わせを30〜60重量%含み、上記可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合が5〜60重量%の範囲であると共に、硬さが55〜75の範囲にあり、ゲル硬度が3.0〜6.0kgfの範囲にあるプラスチック消しゴム。
【請求項2】
可塑剤の組み合わせを35〜55重量%の範囲で含む請求項1に記載のプラスチック消しゴム。
【請求項3】
可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合が10〜50重量%の範囲である請求項1又は2に記載のプラスチック消しゴム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のプラスチック消しゴムを有機ポリマーからなる多孔性構造体の空隙に有するプラスチック消しゴム複合体。
【請求項5】
請求項4に記載の消しゴム複合体の製造方法において、基材樹脂である塩化ビニル系樹脂25〜60重量%と可塑剤として4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)とジエチレングリコールジベンゾエートの組み合わせ30〜60重量%を含み、上記可塑剤の組み合わせにおけるジエチレングリコールジベンゾエートの割合が5〜60重量%の範囲であるプラスチゾルを有機ポリマーからなる多孔性構造体に含浸し、その空隙に充填した後、加熱して、上記プラスチゾルを硬化させる製造方法。


【公開番号】特開2012−200908(P2012−200908A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65256(P2011−65256)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)