説明

プラズマディスプレイパネル

【課題】放電開始電圧の変動を抑制可能なプラズマディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】PDP1は、前面板2と、前面板2と放電空間を挟んで対向配置された背面板と、を備える。前面板2は、放電空間16に面する保護層9を含む。保護層9は、少なくとも第1の金属酸化物であるMgOと第2の金属酸化物であるCaOとを有する。さらに保護層9は、面放電が発生する放電領域50と、放電が発生しない非放電領域60とに区画され、放電領域50表面の組成は、非放電領域60表面の組成と異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、表示デバイスなどに用いられるプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称する)の保護層の一つの機能は、放電を発生させるための電子を放出することである。
【0003】
特許文献1には、以下の技術が開示されている。保護層の形成後、保護層上に「金属酸化物粒子と有機溶剤とを含んだ液状原料」を塗布して冷却することによって一時保護層を形成する。かかる一時保護層によって前面板における保護層変質を防止できる。前面板と背面板とを組み合わせてPDPを構成するに際しては、封着処理の前に加熱または減圧下に付して有機溶剤を除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−289717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PDPの放電開始電圧は、放電時間とともに変動していく場合がある。すなわち、従来は、放電開始電圧の変動を許容可能な駆動波形を実現する必要があった。このため、駆動波形を発生させる回路の設計が制限されるといった課題があった。
【0006】
ここに開示された技術は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、PDPの放電電圧の変動を抑制することで、駆動波形を発生させるための回路設計の制限を緩和可能なPDPを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下のPDPによって達成される。前面板と、前面板と放電空間を挟んで対向配置された背面板と、を備える。前面板は、放電空間に面する保護層を含む。保護層は、少なくとも第1の金属酸化物と第2の金属酸化物とを有する。さらに保護層は、面放電が発生する放電領域と、放電が発生しない非放電領域とに区画され、放電領域表面の組成は、非放電領域表面の組成と異なり、第1の金属酸化物および第2の金属酸化物は、MgO、SrO、CaO、BaO、Al23の中から選ばれるいずれかの成分、またはこれらの化合物である。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、PDPの放電開始電圧の放電時間にともなう変動が抑制できる。よって、駆動波形を発生させるための回路設計の制限を緩和可能なPDPを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態にかかるPDPの概略構造を示す斜視図
【図2】実施の形態にかかる前面板における電極配置を示す図
【図3】実施の形態にかかる前面板を示す図
【図4】実施の形態にかかるPDPの製造フロー図
【図5】実施の形態にかかる前面板を示す図
【図6】実施の形態にかかる前面板を正面から見た図
【図7】実施の形態にかかる温度プロファイルを示す図
【図8】実施の形態にかかるPDPを背面板側から見た図
【図9】実施の形態にかかる表面調整装置の概略図
【図10】実施の形態にかかる放電領域の組成変化を示す図
【図11】PDPに印加される駆動波形図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態)
[1.PDP1の構造]
PDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPである。図1から図3に示すように、PDP1は前面ガラス基板3などから構成された前面板2と、背面ガラス基板11などから構成された背面板10とが対向して配置されている。前面板2と背面板10とは、外周部がガラスフリットなどからなる封着部材によって気密封着されている。封着されたPDP1内部の放電空間16には、ネオン(Ne)およびキセノン(Xe)などの放電ガスが53kPa(400Torr)〜80kPa(600Torr)の圧力で封入されている。
【0011】
前面ガラス基板3上には、走査電極4および維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極6が平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板3上には表示電極6を被覆する誘電体層8が形成されている。誘電体層8は、コンデンサとしての働きをする。さらに誘電体層8を被覆する保護層9が形成されている。なお、保護層9については、後に詳細に述べられる。
【0012】
走査電極4および維持電極5は、それぞれインジウム錫酸化物(ITO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性金属酸化物からなる透明電極上にAgからなるバス電極が積層されている。
【0013】
図2および図3に示すように、透明電極4aと透明電極5aとの間の相対的に狭い領域にメインギャップ40が形成される。メインギャップ40は、PDP1において維持放電が始まる領域である。メインギャップ40から始まった維持放電は、メインギャップ40を挟んで、概ね金属バス電極4bと金属バス電極5bとの間まで広がる。つまり、放電領域50は、概ね金属バス電極4bと金属バス電極5bとの間の領域である。
【0014】
一方、透明電極4aと透明電極5aとの間の相対的に広い領域にインターピクセルギャップである非放電領域60が形成される。維持放電は、非放電領域60までは広がらない。つまり、非放電領域60は、非放電領域である。なお、図2および図3において、後述される下地層91および金属酸化物粒子92は省略されている。
【0015】
背面ガラス基板11上には、表示電極6と直交する方向に、銀(Ag)を主成分とする導電性材料からなる複数のデータ電極12が、互いに平行に配置されている。データ電極12は、下地誘電体層13に被覆されている。さらに、データ電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。隔壁14間の溝には、データ電極12毎に、紫外線によって赤色に発光する蛍光体層15、緑色に発光する蛍光体層15および青色に発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。表示電極6とデータ電極12とが交差する位置に放電セルが形成されている。表示電極6方向に並んだ赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
【0016】
なお、本実施の形態において、放電空間16に封入する放電ガスは、10体積%以上30体積%以下のXeを含む。
【0017】
[2.PDP1の製造方法]
図4に示すように、本実施の形態にかかるPDP1の製造方法は、前面板作製工程A1、背面板作製工程B1、フリット塗布工程B2、封着・排気工程C1、および表面調整工程C2を有する。
【0018】
[2−1.前面板作製工程A1]
前面板作製工程A1においては、フォトリソグラフィ法によって、前面ガラス基板3上に、走査電極4および維持電極5が形成される。走査電極4および維持電極5は、導電性を確保するための銀(Ag)を含む金属バス電極4b、5bを有する。また、走査電極4および維持電極5は、透明電極4a、5aを有する。金属バス電極4bは、透明電極4aに積層される。金属バス電極5bは、透明電極5aに積層される。
【0019】
透明電極4a、5aの材料には、透明度と電気伝導度を確保するためインジウム錫酸化物(ITO)などが用いられる。まず、スパッタ法などによって、ITO薄膜が前面ガラス基板3上に形成される。次にリソグラフィ法によって所定のパターンの透明電極4a、5aが形成される。
【0020】
金属バス電極4b、5bの材料には、銀(Ag)と銀を結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含む電極ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法などによって、電極ペーストが、前面ガラス基板3上に塗布される。次に、乾燥炉によって、電極ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、電極ペーストが露光される。
【0021】
次に、電極ペーストが現像され、金属バス電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、金属バス電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、金属バス電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、金属バス電極パターン中のガラスフリットが溶融する。溶融していたガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、金属バス電極4b、5bが形成される。
【0022】
次に、誘電体層8が形成される。誘電体層8の材料には、誘電体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む誘電体ペーストが用いられる。まずダイコート法などによって、誘電体ペーストが所定の厚みで表示電極6を覆うように前面ガラス基板3上に塗布される。次に、乾燥炉によって、誘電体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、誘電体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、誘電体ペースト中の樹脂が除去される。また、誘電体ガラスフリットが溶融する。溶融した誘電体ガラスフリットは、焼成後に、再びガラス化する。以上の工程によって、誘電体層8が形成される。ここで、誘電体ペーストをダイコートする方法以外にも、スクリーン印刷法、スピンコート法などを用いることができる。また、誘電体ペーストを用いずに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって、誘電体層8となる膜を形成することもできる。
【0023】
[3.保護層9の詳細]
保護層9の機能の一つは、誘電体層8を放電によるイオン衝撃から守るためである。他にも放電時に二次電子を放出する機能は重要である。放電ガスが電離して生じたイオンは、保護層9に衝突して、保護層9の内部まで浸入する。イオンが持つ運動エネルギーを受けて衝突した保護層9の材料から二次電子が発生する。放電開始電圧を下げるためには、二次電子発生量の多い材料が好ましい。一方、材料の内部で発生した二次電子は材料表面にまで移動する過程でエネルギーを消費する。よって、なるべく大きなエネルギーをもったまま材料の表面に到達することが好ましい。
【0024】
[3−1.第1の形態]
図5に示すように、一例として保護層9は、下地層91と金属酸化物粒子92とを含む。金属酸化物粒子92は、下地層91上に分散配置されている。下地層91は、一例として、Alを不純物として含有するMgO膜である。MgO膜の厚さは、500nm〜1200nm程度である。金属酸化物粒子92は、一例として、CaO粒子である。なお、CaO粒子の平均粒径は0.7〜1.5μmである。本実施の形態において、平均粒径とは、体積累積平均径(D50)のことである。
【0025】
下地層91は、一例として、EB蒸着装置により形成される。材料は、不純物としてAlが添加された単結晶のMgOペレットである。具体的には、MgOペレットがハースに配置される。ハースは、EB蒸着装置の成膜室に配置される。次に、ハース内のMgOペレットに電子ビームが照射される。電子ビームのエネルギーを受けたMgOペレットが蒸発することにより、成膜室内に配置された誘電体層8上に付着する。具体的には、EB蒸着装置の成膜室に配置されたMgOペレットに電子ビームが照射される。電子ビームのエネルギーを受けたMgOペレットが蒸発することにより、誘電体層8上に付着する。MgO膜は、誘電体層8を被覆する。MgO膜の膜厚は、電子ビームの強度、成膜室の圧力などによって、所定の範囲に収まるように調整される。
【0026】
下地層91は、Alが添加されたMgOの他にも、SrO(酸化ストロンチウム)、CaO(酸化カルシウム)、BaO(酸化バリウム)、およびAl23(酸化アルミニウム)などの金属酸化物を含む膜を用いることができる。また、複数の種類の金属酸化物を含む膜を用いることもできる。
【0027】
また、下地層91は、MgOなどの金属酸化物膜の他にも、MgO、SrO、CaO、BaO、Al23などの金属酸化物微粒子の集合体を含んでもよい。また、複数の種類の金属酸化物微粒子を含む集合体を用いることもできる。
【0028】
[3−2.金属酸化物粒子92]
金属酸化物粒子92は、一例として、スリットコータおよび乾燥装置により形成される。スリットコータは、テーブル、塗布ヘッド、テーブル駆動系、レーザ変位計などを備える。材料は、平均粒径が0.7〜1.5μmのCaO粒子が、5体積%の濃度で希釈溶剤中に分散された溶液である。希釈溶剤は、例えば、3メチル−3メトキシブタノール95体積%、αターピネオール5.0体積%の混合溶剤である。溶液の粘度は10mPasに調整された。まず、スリットコータのテーブル上に、前面ガラス基板3が設置される。前面ガラス基板3は、テーブル上に真空チャックされ、固定される。レーザ変位計などによりスリットコータの塗布ヘッドと前面ガラス基板3間の距離(ギャップ)が測定される。例えば、100μmの距離を保つように、塗布ヘッドの高さが調節される。さらに塗布ヘッドは、例えば、50mm/sの等速度で移動する。溶液タンクから塗布ヘッドに送られた溶液は、15μmの膜厚になるように前面ガラス基板3上に均一に塗布される。CaO粒子が希釈溶剤に分散した塗膜が下地層91上に形成される。CaO粒子は沈降し、下地層91に付着する。
【0029】
次に、前面ガラス基板3は、乾燥装置へ移送される。一例として、乾燥装置は真空チャンバー、加熱ヒータ、テーブル、真空ポンプ、圧力計などを備える。加熱ヒータにより予め所定の温度に保持されている大気圧の真空チャンバー内のテーブル上に前面ガラス基板3が設置される。その後、真空ポンプが、真空チャンバー内部を所定の圧力まで排気する。真空チャンバー内部の圧力が降下することにより、塗膜から希釈溶剤が脱離する。
【0030】
一例として、本実施の形態においては、真空チャンバー温度:70℃〜100℃、圧力:0.1Pa〜10Pa、処理時間:5minであった。上記工程によって、CaO粒子は下地層91との面積比で5〜20%の被覆率になっている。
【0031】
被覆率とは、1個の放電セルの領域において、金属酸化物粒子92が付着している面積aを1個の放電セルの面積bの比率で表したものである。つまり、被覆率(%)=a/b×100の式により計算されたものである。測定方法としては、例えば、隔壁14により区切られた1個の放電セルに相当する領域がカメラにより撮像される。次に、撮像された画像が、x×yの1セルの大きさにトリミングされる。次に、トリミング後の画像が白黒データに2値化される。次に、2値化されたデータに基づき金属酸化物粒子92による黒エリアの面積aを求める。最後に、被覆率が、a/b×100の式により計算される。
【0032】
なお、本乾燥条件は、用いられる希釈溶剤の種類、塗膜の膜厚などによっても変動するため、適宜変更し得る。
【0033】
なお、金属酸化物粒子92の形成には、スリットコータの他にも、スクリーン印刷法、スプレー法、スピンコート法、ダイコート法なども用いることができる。また、希釈溶剤に、有機樹脂などを添加してもよい。有機樹脂を添加することにより、溶液の粘度を上げることができる。有機樹脂が添加された場合には、有機樹脂を除去するために焼成工程を付加することが好ましい。
【0034】
以上の工程により前面ガラス基板3上に所定の構成部材を有する前面板2が完成する。
【0035】
図6に示すように、誘電体層8および保護層9で被覆されない領域に、走査電極側引出部21と、維持電極側引出部23とが形成される。走査電極側引出部21には、走査電極4に回路基板からの信号を伝達する複数の走査電極端子22が形成されている。維持電極側引出部23には、維持電極5に回路基板からの信号を伝達する複数の維持電極端子24が形成されている。
【0036】
[4−1.背面板作製工程B1]
フォトリソグラフィ法によって、背面ガラス基板11上に、データ電極12が形成される。データ電極12の材料には、導電性を確保するための銀(Ag)と銀を結着させるためのガラスフリットと感光性樹脂と溶剤などを含むデータ電極ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法などによって、データ電極ペーストが所定の厚みで背面ガラス基板11上に塗布される。次に、乾燥炉によって、データ電極ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、データ電極ペーストが露光される。次に、データ電極ペーストが現像され、データ電極パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、データ電極パターンが所定の温度で焼成される。つまり、データ電極パターン中の感光性樹脂が除去される。また、データ電極パターン中のガラスフリットが溶融する。溶融していたガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、データ電極12が形成される。ここで、データ電極ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
【0037】
次に、下地誘電体層13が形成される。下地誘電体層13の材料には、誘電体ガラスフリットと樹脂と溶剤などを含む下地誘電体ペーストが用いられる。まず、スクリーン印刷法などによって、下地誘電体ペーストが所定の厚みでデータ電極12が形成された背面ガラス基板11上にデータ電極12を覆うように塗布される。次に、乾燥炉によって、下地誘電体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、下地誘電体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、下地誘電体ペースト中の樹脂が除去される。また、誘電体ガラスフリットが溶融する。溶融していた誘電体ガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、下地誘電体層13が形成される。ここで、下地誘電体ペーストをスクリーン印刷する方法以外にも、ダイコート法、スピンコート法などを用いることができる。また、下地誘電体ペーストを用いずに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって、下地誘電体層13となる膜を形成することもできる。
【0038】
次に、フォトリソグラフィ法によって、隔壁14が形成される。隔壁14の材料には、フィラーと、フィラーを結着させるためのガラスフリットと、感光性樹脂と、溶剤などを含む隔壁ペーストが用いられる。まず、ダイコート法などによって、隔壁ペーストが所定の厚みで下地誘電体層13上に塗布される。次に、乾燥炉によって、隔壁ペースト中の溶剤が除去される。次に、所定のパターンのフォトマスクを介して、隔壁ペーストが露光される。次に、隔壁ペーストが現像され、隔壁パターンが形成される。最後に、焼成炉によって、隔壁パターンが所定の温度で焼成される。つまり、隔壁パターン中の感光性樹脂が除去される。また、隔壁パターン中のガラスフリットが溶融する。溶融していたガラスフリットは、焼成後に再びガラス化する。以上の工程によって、隔壁14が形成される。ここで、フォトリソグラフィ法以外にも、サンドブラスト法などを用いることができる。
【0039】
次に、蛍光体層15が形成される。蛍光体層15の材料には、蛍光体粒子とバインダと溶剤などとを含む蛍光体ペーストが用いられる。まず、ディスペンス法などによって、蛍光体ペーストが所定の厚みで隣接する隔壁14間の下地誘電体層13上および隔壁14の側面に塗布される。次に、乾燥炉によって、蛍光体ペースト中の溶剤が除去される。最後に、焼成炉によって、蛍光体ペーストが所定の温度で焼成される。つまり、蛍光体ペースト中の樹脂が除去される。以上の工程によって、蛍光体層15が形成される。ここで、ディスペンス法以外にも、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0040】
以上の工程により、背面ガラス基板11上に所定の構成部材を有する背面板10が完成する。
【0041】
[4−2.フリット塗布工程B2]
背面板作製工程B1により作製された背面板10の画像表示領域外に封着部材であるガラスフリットが塗布される。その後、ガラスフリットは、350℃程度の温度で仮焼成される。仮焼成によって、溶剤成分などが除去される。
【0042】
封着部材としては、酸化ビスマスや酸化バナジウムを主成分としたフリットが望ましい。この酸化ビスマスを主成分とするフリットとしては、例えば、Bi23−B23−RO−MO系(ここでRは、Ba、Sr、Ca、Mgのいずれかであり、Mは、Cu、Sb、Feのいずれかである。)のガラス材料に、Al23、SiO2、コージライト等酸化物からなるフィラーを加えたものを用いることができる。また、酸化バナジウムを主成分とするフリットとしては、例えば、V25−BaO−TeO−WO系のガラス材料に、Al23、SiO2、コージライト等酸化物からなるフィラーを加えたものを用いることができる。
【0043】
[4−3.封着・排気工程C1]
前面板2とフリット塗布工程B2を経た背面板10とが対向配置されて周辺部が封着部材により封着される。その後、放電空間16に放電ガスが封入される。
【0044】
本実施の形態にかかる封着・排気工程C1は、同一の装置において、図7に例示された温度プロファイルの処理を行う。
【0045】
図7における封着温度とは、前面板2と背面板10とが封着部材であるフリットにより封着されるときの温度である。本実施の形態における封着温度は、例えば約490℃である。図7における排気温度とは、大気などが放電空間16から排気されるときの温度である。本実施の形態における排気温度は、例えば約400℃である。
【0046】
[4−4.温度プロファイル]
図7に示すように、温度は、室温から封着温度まで上昇する。次に、温度は、a−bの期間、封着温度に維持される。その後、温度は、b−cの期間に封着温度から排気温度に下降する。b−cの期間において、放電空間16が排気される。つまり、放電空間16は減圧状態になる。
【0047】
次に、温度は所定の期間、排気温度に維持される。その後、温度は、室温程度まで下降する。d−eの期間において、放電空間16が排気される。
【0048】
次に、放電空間16に表面調整工程用ガスが導入される。つまり、温度が室温程度に下がったe以降の期間に表面調整工程用ガスが導入される。表面調整工程用ガスは、一例としてXe100%のガスが用いられた。放電空間16の内圧は、一例として、60kPaであった。
【0049】
図8に示すように、組立後のPDP1は、背面板10側から見て、走査電極側引出部21と、維持電極側引出部23が突出している。
【0050】
[4−5.表面調整工程C2]
表面調整工程C2は、保護層9の表面状態を調整するための工程である。具体的には、図9に示す表面調整装置100によって行われる。表面調整装置100は、筐体102、複数の端子部104、ケーブル106、テーブル108、直流電源110を備えている。筐体102は、図示しないゲート部を備えている。ゲート部を介して、PDP1が出し入れされる。端子部104は、棒状の導電部を備える。複数の端子部104は、筐体102の内部で互いが対向するように少なくとも2箇所に配置されている。端子部104と、直流電源110とは、ケーブル106を介して電気的に接続されている。テーブル108は、筐体102内に配置されている。テーブル108は、図示しない固定機構を備えている。直流電源110は、LC共振回路を含み、パルス波形を発生させることができる。さらに直流電源110は、複数の端子部104に対して、異なるパルス波形を供給できる。
【0051】
まず、表面調整用ガスが放電空間16に導入されたPDP1がテーブル108上に設置される。具体的には、PDP1は、前面板2が上になるように設置される。次に、維持電極端子24と端子部104の導電部が接続される。走査電極端子22と端子部104の導電部が接続される。
【0052】
次に、直流電源110がパルス波形を発生させる。ケーブル106と端子部104を介して走査電極端子22に印加されたパルス波形は、走査電極4に伝達される。ケーブル106と端子部104を介して維持電極端子24に印加されたパルス波形は、維持電極5に伝達される。維持電極5に印加されたパルス波形は、走査電極4に印加されたパルス波形とは位相が半周期ずれている。しかし、走査電極4に印加されたパルス波形と維持電極5に印加されたパルス波形の周期およびピーク高さは同じである。本実施の形態においては、直流電源110は、200Vの電圧を発生させている。また、LC共振回路によってリンギングされたパルス波形は、ピーク高さが260Vであり、周波数が45kHzであった。なお、ピーク高さ、周波数などのパルス波形の形状は、放電ガスの圧力、組成、放電ギャップの距離などによって、適宜調整され得る。さらに、パルス波形は、リンギングパルスに限られず、矩形パルスでもよい。
【0053】
パルス波形が印加された維持電極5と、パルス波形が印加された走査電極4との間で面放電が発生する。放電によりイオン化されたXeが、下地層91および金属酸化物粒子92と衝突する。下地層91および金属酸化物粒子92の表面は、衝突するXeイオンによってスパッタされる。スパッタされることにより、下地層91および金属酸化物粒子92の表面から飛び出したMgOやCaOの多くは保護層9に再付着する。PDP1内部は大気圧に近い圧力(60kPa)まで昇圧されているために、スパッタされたMgOやCaOは、長距離を移動することなく放電ガスによってはね返されると考えられるからである。
【0054】
所定時間の処理が行われた後、放電空間16が再び排気される。次に所定の放電ガスが所定の内圧になるように放電空間16に導入される。
【0055】
以上の工程によって、PDP1が完成する。
【0056】
発明者らは、完成したPDP1における放電領域50表面の組成、および非放電領域60表面の組成を測定した。なお、測定サンプルにおける前面板2完成時の被覆率は15%であった。測定装置は、XPSである走査型光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製)が用いられた。XPSにて放電が生じた領域の濃度を把握する。分析装置の特性上、深さ方向には、1nmから5nm程度の情報が得られる。つまり、実質的に表面のみの組成が測定される。
【0057】
放電領域50のMgO膜上におけるCaの割合、および放電領域50のCaO粒子上におけるCaの割合が別々に測定された。ここでは極小領域での測定が必要なため、走査型電子顕微鏡によって測定領域を特定し、オージェ電子分光(電界放射型オージェ電子分光(FE−AES)装置:Physical Electronics社製 SAM−680)によって定量分析を実施した。
【0058】
また、非放電領域60のMgO膜上におけるCaの割合、および非放電領域60のCaO粒子上におけるCaの割合が別々に測定された。
【0059】
図10に示すように、放電領域50では、MgO膜上のCaの割合は、処理時間とともに上昇していく。つまり、MgO膜上にCaOとMgOの混成層が形成されていくことを示唆している。一方、CaO粒子上のCaの割合は、処理時間とともに減少していく。つまり、CaO粒子上にCaOとMgOの混成層が形成されていくことを示唆している。図10に示すように、MgO膜上のCaの割合の上昇は、処理時間が30分を経過したあたりから平衡に達し、約9%に収束する。同様に、CaO粒子上のCaの割合の減少は、処理時間が30分を経過したあたりから平衡に達し、約9%に収束する。
【0060】
一方、図示しないが、非放電領域60では、MgO膜上のCaの割合は、処理時間に依存せず、0%のままであった。さらに、非放電領域60では、CaO粒子上のCaの割合も、処理時間に依存せず、100%のままであった。
【0061】
放電領域50の組成が平衡に達した後は、混成層が再びスパッタされかつ再付着しても組成は大きく変動しないと考えられる。
【0062】
MgOとCaとの合計(モル%)に対するCaの割合は、CaOの被覆率などが変動することによって、変動し得る。
【0063】
[5.実施例]
PDP1が作製され、PDP1の性能が評価された。作製されたPDP1は、42インチクラスのハイビジョンテレビに適合するものである。すなわち、PDP1は、前面板2と、前面板2と対向配置された背面板10と、を備える。また、前面板2と背面板10の周囲は、封着材で封着されている。前面板2は、表示電極6と誘電体層8と保護層9とを有する。背面板10は、データ電極12と、下地誘電体層13と、隔壁14と、蛍光体層15とを有する。PDP1には、キセノン(Xe)の含有量が15体積%のネオン(Ne)−キセノン(Xe)系の混合ガスが、60kPaの内圧で封入された。また、走査電極と維持電極との距離、すなわち放電ギャップは、80nmであった。隔壁14の高さは120nm、隔壁14と隔壁14との間隔(セルピッチ)は150nmであった。
【0064】
実施例および比較例における下地層91は、不純物としてAlを含むMgO膜が用いられた。MgO膜の膜厚は、700nmであった。下地層91上には、金属酸化物粒子92としてCaO粒子が形成された。CaO粒子の平均粒径は、1.1μmであった。実施例および比較例の金属酸化物粒子92の被覆率は15.0%であった。
【0065】
実施例1から3は、表面調整工程C2が行われた。また、実施例1から3は、放電領域50の組成と、非放電領域60の組成が異なっている。放電領域50のMgO膜上における、MgOとCaとの合計(モル%)に対するCaの割合は、実施例1が8%、実施例2が10%、実施例3が14%であった。比較例は、表面調整工程C2が行われなかった。
【0066】
したがって実施例1から3と比較例におけるPDP1の違いは、表面調整工程C2の有無のみである。
【0067】
[5−1.性能評価]
維持放電時の放電開始電圧の変化を測定することによりPDP1の性能が評価された。図11に示すように、PDP1を駆動させるためのパルス電圧が、走査電極4、維持電極5、データ電極12に印加された。性能評価実験でPDP1に印加される電圧条件は、以下のとおりである。
【0068】
初期化電圧(固定):330V
走査電圧(固定):−140V、パルス幅0.6μs
書込み電圧(固定):70V
維持電圧(固定):200V、維持周期0.5μs
さらに、性能評価実験においては、PDP1の全ての放電セルに維持放電が発生した状態である。比較例においては、放電開始電圧の初期値が198Vであった。維持放電時間の累積にともない、放電開始電圧は低下していった。維持放電時間が累積で400時間を経過したときには、放電開始電圧は、190Vまで低下した。さらに、維持放電時間が累積で800時間を経過したときには、放電開始電圧は178Vまで低下した。一方、実施例1から実施例3においては、放電開始電圧の初期値が175V〜177Vであった。その後、維持放電時間が累積しても、放電開始電圧は、174V〜176Vであった。したがって、実施例1から実施例3においては、維持放電時の放電開始電圧は、比較例よりも安定している。
【0069】
[6.まとめ]
本実施の形態のPDP1は、前面板2と、前面板2と放電空間16を挟んで対向配置された背面板10と、を備える。前面板2は、放電空間16に面する保護層9を含む。保護層9は、少なくとも第1の金属酸化物であるMgOと第2の金属酸化物であるCaOとを有する。さらに保護層9は、面放電が発生する放電領域50と、放電が発生しない非放電領域60とに区画され、放電領域50表面の組成は、非放電領域60表面の組成と異なる。
【0070】
このような構成によれば、保護層9の放電領域50の表面が安定しているので、PDP1の放電開始電圧の放電時間にともなう変動が抑制される。
【0071】
さらに、保護層9は、下地層91と、下地層91上に分散配置された金属酸化物粒子92を含み、下地層91は、第1の金属酸化物であるMgO膜を有し、金属酸化物粒子92は、第2の金属酸化物であるCaOを有してもよい。
【0072】
さらに、XPS測定における放電領域50表面の組成は、XPS測定における非放電領域60表面の組成と異なることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
ここに開示された技術は、放電開始電圧の変動を抑制可能なPDPを実現して、大画面の表示デバイスなどに有用である。
【符号の説明】
【0074】
1 PDP
2 前面板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a、5a 透明電極
4b、5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極
8 誘電体層
9 保護層
10 背面板
11 背面ガラス基板
12 データ電極
13 下地誘電体層
14 隔壁
15 蛍光体層
16 放電空間
21 走査電極側引出部
22 走査電極端子
23 維持電極側引出部
24 維持電極端子
40 メインギャップ
50 放電領域
60 非放電領域
91 下地層
92 金属酸化物粒子
100 表面調整装置
102 筐体
104 端子部
106 ケーブル
108 テーブル
110 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面板と、
前記前面板と放電空間を挟んで対向配置された背面板と、を備え、
前記前面板は、前記放電空間に面する保護層を含み、
前記保護層は、少なくとも第1の金属酸化物と第2の金属酸化物とを有し、
さらに前記保護層は、面放電が発生する放電領域と、放電が発生しない非放電領域とに区画され、
前記放電領域表面の組成は、前記非放電領域表面の組成と異なり、
前記第1の金属酸化物および前記第2の金属酸化物は、MgO、SrO、CaO、BaO、Al23の中から選ばれるいずれかの成分、またはこれらの化合物である、プラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記保護層は、下地層と、前記下地層上に分散配置された金属酸化物粒子を含み、
前記下地層は、前記第1の金属酸化物を有し、
前記金属酸化物粒子は、前記第2の金属酸化物を有する、
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
XPS測定における前記放電領域表面の組成は、XPS測定における前記非放電領域表面の組成と異なる、
請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のプラズマディスプレイパネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate