説明

プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置

【課題】本発明は、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置において、プラズマ処理に必要なガス以外の、製造には不必要なガスや光を導入することなく真空装置中に存在するプラズマにより生成した正負イオン、電子といった荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置を提供することを課題とする。
【解決手段】プラズマ発生部付近の温度を熱電対により測定するステップと、その熱電対の接地電位に対する電位を変化させてプラズマによる上昇温度の電位依存性を測定するステップと、プラズマによる上昇温度の電位依存性からプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量を決定するステップとを含むことを特徴とする、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置等の分野でプラズマを利用したいろいろな加工処理が行われている。このようなプラズマを利用した装置において、正負の電荷を持つイオンや電子の量を測定することはプラズマを加工に適した状態に維持し、当該加工の精度、効率を一定に保つために必要なことである。
【0003】
そこで、従来、プラズマモニタ方法、プラズマ処理方法、半導体装置の製造方法、及びプラズマ処理装置のようなプラズマ測定手段が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、水晶振動子センサ出力が測定するガスの分子量及び粘性に依存することを利用すると、二種類のガスから成る混合ガス中の各ガスの濃度(分圧)を求めることができる。このような、二成分混合気体における濃度測定法については既に知られている(特許文献2参照)
【0005】
プラズマ中のイオンを測定する方法としては、光を用いた方法がある。そのひとつの方法は発光分光法と呼ばれるもので、具体的にはプラズマ中においてそれ自身が発光する性質を持つイオンについては、分光器でその光の波長を計測することによりその波長の光を発光する活性種の種類を解析する計測が最も簡便な方法である。
【0006】
発せられる光の波長は活性種の種類によって一定に決まっているため、このプラズマ発光を分光器で分析することにより発光しているイオンの種類及びその量を求めることができる。
【0007】
イオンの計測としてはレーザーによってエネルギー的に励起された状態から再び基底状態に戻る際に発せられる発光を測定するレーザー誘起蛍光法も利用できる。エネルギー的に励起できる光の波長及び発光波長はイオンの種類に依存しているため、分光器を用いて発光波長を測定し、既知データと比較することによりプラズマ中に存在しうるイオンの種類とその量が求められる。
【0008】
その他の方法としては、質量分析器を用いたガス分析法がある。この方法は、プラズマ装置から小孔を通して質量分析器に導いた後、質量分析を行うことにより行うものである。例えば四重極型質量分析計(QMS)や飛行時間型質量分析器(TOFMS)といった質量分析器を用いればこれらの分析が可能である。
【0009】
また、プラズマ中に金属線を挿入して電極として用い、これとプラズマの空間電位との間に電位をかけた際に生じる電流の電位依存性を求めることによりこの依存性の形状からプラズマ中の電子密度や電子の代表的なエネルギーを表わす電子温度を求めることができる。この方法は一般的にラングミュア・プローブ(LP)法と呼ばれている。
【0010】
以上は非特許文献1の第4章に詳しく記載されている。また、このような方法で測定した活性種量の変化を利用したプラズマ処理によるクリーニング終点を検出する特許文献3が出願されている。
【0011】
しかしながら、以上の方法では、光源として用いるレーザーが高価である他測定装置及び測定結果の解析が複雑である。さらに光がプラズマ処理に悪影響を与える場合には利用できない。
質量分析器を用いる方法ではプラズマ装置から荷電粒子を含むガスを取り出す際にプラズマ装置中の圧力が低下し、プラズマを安定的に保つことができない。またこのようなイオンの質量分析を行うことのできるQMS及びTOFMSは少なくとも数百万円単位の装置であり比較的高価である。
さらにLP法ではプラズマ中の電子に関する情報は得られるが、イオンの量は求められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3873943号公報
【特許文献2】特許第3336384号公報
【特許文献3】特開2006−086325号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】プラズマと成膜の基礎、小沼光晴著、日刊工業新聞社昭和61年8月29日発行
【非特許文献2】物理化学で用いられる量・単位・記号、日本化学会標準化専門委員会監修、朽津耕三訳、講談社(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上のような状況に鑑み、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置において、プラズマ処理に必要なガス以外の、製造には不必要なガスや光を導入することなく真空装置中に存在するプラズマにより生成した正負イオン、電子といった荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明は、次のような手段を提供する。
(1)プラズマ発生部付近の温度を熱電対により測定するステップと、その熱電対の接地電位に対する電位を変化させてプラズマによる上昇温度の電位依存性を測定するステップと、プラズマによる上昇温度の電位依存性からプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量を決定するステップとを含むことを特徴とする、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法。
(2)プラズマ発生部付近で温度測定できる熱電対と、その熱電対のプラズマに対する電位を変化させることができる直流電源と、プラズマによる上昇温度を測定する手段と、プラズマによる上昇温度の電位依存性からプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量を決定する手段とを有する、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置は、以下のような優れた効果を奏する。
ガスを媒体とするプラズマにおいて、プラズマが存在する容器内を熱電対による測定において、その熱電対の電位を変化させた際に生じる温度変化の電位依存性を測定することにより正負各イオン及び電子密度及び電子温度に関する情報を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明は、熱や光を照射しない測定法であるため、熱や光による刺激によって爆発の起こる反応性の高い混合気体でも安全に測定することができ、測定に際して特定の波長の紫外線ランプ等を必要とせず、メンテナンスが容易なプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る実施例を説明する図である。
【図2】プラズマ発生に関し、電極付近に設置した熱電対で測定した温度の時間変化を示す図である。
【図3】プラズマによる上昇温度の電位依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本発明の原理)
熱電対を用いてプラズマ近傍で温度測定を行う際に、この熱電対の電位を変化させて測定すると、その電位によって測定される温度が変化する。それぞれの電位の条件で測定される温度はそれぞれの電位の符号及び大きさに依存して変化することから、これらの測定される温度の変化は主に正負イオンや電子といった電荷を持った化学種によるものと推測される。
【0020】
したがってこの測定によりプラズマ中の荷電粒子の測定を行うことができる。特に電位の符号に関しては設定した符号と逆の電荷を持つ荷電粒子の影響が大きいと考えられることから、これによって正負それぞれを持つ荷電粒子を区別して測定できる。
したがって、以上を応用すれば、この測定によって測定が困難なプラズマ中の荷電粒子の量を計測することができる。荷電粒子の絶対量及び個々の活性種の成分及び密度を求めるには他の方法によって測定する必要があり、ここで得られるのは正負それぞれの荷電粒子の相対量であるが、少なくとも荷電粒子全体の相対量を把握するためには有効である。
【0021】
具体的には、プラズマ装置内のガスに対して熱電対による測定を行い、さらに熱電対の接地電位に対する電位を変化させて求められる温度の電位依存性によりプラズマ装置中に存在する正負それぞれの荷電粒子の種類及び量を求めるものである。
本発明に係るプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法では、従来の光や質量分析器を用いたプラズマ診断法と比較して簡便な方法及び装置でプラズマによる荷電粒子の種類及び量を測定することができる。
【0022】
(実施例)
以下、図面を参照して、プラズマ中に存在する荷電粒子の測定方法及び装置について詳細に説明する。
プラズマ加工装置は、図1に示すように、プラズマ装置の反応装置3と、高周波電源10から高周波電圧を供給するプラズマ装置の反応装置3内に突設されプラズマ電極5と、複数種の供給ガスを導入する複数の気体流量制御装置(マスフローコントローラー:MFC)7を有する複数の導入管と、製造物であるワーク支持台15と、圧力制御弁19を備えている。
【0023】
このようなプラズマ加工装置におけるプラズマ装置に適用する例として、本発明のプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定装置の実施例を説明する。
図1においてプラズマ電極5付近にその先端が配置されるよう熱電対18を設置する。18の先端付近に別に電位調整用の電極20を配置し、直流電源21に接続する。
以上の配置においてプラズマを発生させ、18による測定を行う。この測定を、20を変化させてその電位依存性を求める。
【0024】
アンモニアプラズマに対して行った実際の測定結果を図2に示す。電位依存性を調べるため、プラズマ発生の時間は一定の5分とし、この時間に生じたプラズマによる温度の上昇を測定する。
以上の測定を、電源21によって熱電対18の付近の電位を変化させて行い、この電位に対して図2の上昇温度を、プラズマ電力を変えて測定した結果をプロットして電位依存性を求めた結果が図3である。
【0025】
図3では電位の絶対値が大きくなるにつれて上昇温度が大きい。電位の絶対値が増加するとそれと逆の荷電を持つ粒子がより大きなエネルギーを持って熱電対に流入する。したがって図3の結果はプラズマによって生じた温度上昇が、主にイオンや電子といった荷電を持つ粒子によって生じていることを示している。これはプラズマ電力が大きくなるに従い上昇温度が大きくなっていることとも一致する。なぜなら一般に荷電粒子の量はプラズマ電力が大きいほど多くなるからである。
【0026】
電位0の時の上昇温度に対して電位の絶対値を増加させた際の上昇温度の増加が、電位と逆の符号の電荷を持つ粒子の熱電対への流入によるものであるとすると、図3における電位が負の領域の上昇温度の増加は正の荷電粒子、すなわちプラズマ中の正イオンによるものであると結論される。したがってこの負の領域の上昇温度の電位依存性から正イオンの量が求められる。また逆に電位が正の領域の結果からは負イオン及び電子についての情報が求められる。
【0027】
図3に示した上昇温度のバイアス電位依存性においては、上昇温度はバイアス電圧の絶対値に対してほぼ直線的に増加している。熱電対に達するイオン及び電子のエネルギーはバイアス電圧の絶対値に比例し、そのエネルギーは熱電対に与えられるから、熱電対で測定されるプラズマによる温度上昇は与えられたエネルギーに比例するはずである。したがって熱電対で測定される上昇温度がバイアス電位に比例することは、この上昇温度が荷電粒子が得たエネルギーの増加によるものであることを示している。
【0028】
以上のことから正負それぞれの符号の領域の結果を用いて、正負それぞれの荷電粒子の量が以下のように求められる。すなわち上昇温度が全て熱電対に飛来、流入するエネルギーによるものであるとすると、熱電対で測定した上昇温度ΔT(K)は次の式1で表わされる。
ΔT(K)=q(e)×V(電圧/個数)×n(個数)×K(無単位) (式1)
式1において、q(e)は電荷素量、Vは1粒子あたりの電圧(電圧/個数)、nは荷電粒子量(個数)、Kは粒子エネルギーの熱電対への変換効率K(無単位)である。
非特許文献2によれば1 eV(エレクトロンボルト)は1.2×104 Kに相当することからこのエネルギー変換を行い、例えば図3のプラズマ電力200W、ΔT=10℃、V=-300Vの結果を上記の式1に当てはめてnを求めると、
n=K×10 K/1.2×104 K/(1.6×10-19 e×300 V)=K×1.2×1013 cm-3
となる。
Kの値は使用するプラズマ及びその諸条件によって異なることから荷電粒子の絶対量は、別途の測定で求められた量で校正することによって求められる。ここで別途の測定とは、前述した質量分析法やLP法である。
【0029】
以上、本発明に係るプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法及び装置は、以上のような構成であるから、プラズマ装置を使用した加工や工作、製造を行う各種の製造装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
3 プラズマ装置の反応装置
5 プラズマ電極
7 気体流量制御装置(マスフローコントローラー:MFC)
8 ヒータ
9 圧力制御弁
10 高周波電源
12 ワーク
15 ワーク支持台
18 熱電対
19 圧力制御弁
20 電位調整用電極
21 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生部付近の温度を熱電対により測定するステップと、その熱電対の接地電位に対する電位を変化させてプラズマによる上昇温度の電位依存性を測定するステップと、プラズマによる上昇温度の電位依存性からプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量を決定するステップとを含むことを特徴とする、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定方法。
【請求項2】
プラズマ発生部付近で温度測定できる熱電対と、その熱電対のプラズマに対する電位を変化させることができる直流電源と、プラズマによる上昇温度を測定する手段と、プラズマによる上昇温度の電位依存性からプラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量を決定する手段とを有する、プラズマ中に存在する荷電粒子の種類及び量の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−60439(P2011−60439A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205585(P2009−205585)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)