説明

プリンタ装置

【課題】給紙動作と印刷時の紙送り動作とを同一のモータにより駆動して印刷する印刷紙の停止精度を確保し、印刷時間を短縮するプリンタ装置を提供する。
【解決手段】プリンタ装置100は、印刷紙を搬送している場合においてモータ1を停止させたときに、歯車62a〜dを搬送時の回転と反対方向に転動させる給紙部ASFの負荷の値と、モータ1が紙送り部PFのみを駆動するときの負荷の値と、の合計値がモータ1の最大出力値以下であり、かつ、給紙部ASFの負荷が、給紙部ASFの負荷と紙送り部PFを駆動する負荷とを座標軸とする座標で定義される関数で表される限界値より小さい値の範囲で設定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に給紙動作と紙送り動作とを同時に行うプリンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の小型のプリンタ装置では、印刷紙をセットする給紙動作と印刷時の紙送り動作は同時に行われていないことが多く、給紙動作と紙送り動作とを時間を分けてしか動作させることができないため、印刷時間が長くかかっていた。
また、モータによる駆動対象物の停止位置精度を確保する制御方法として、目標とする停止位置に停止させるため、駆動対象物の速度をもとにしてモータを停止させるまでの時間を求め、停止位置精度を向上させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
停止位置精度の向上は、印刷品質の向上に寄与するだけでなく、機構部の無駄な動きを削減できるため、印刷速度向上にも寄与するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−251878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、小型のプリンタ装置であっても印刷時間の短縮を目的として、印刷している間に、次に印刷する印刷紙を給紙するプリンタ装置がある。このようなプリンタ装置では、給紙機構部を駆動する給紙モータと、印刷の紙送りを行う紙送り部PFを駆動する紙送りモータとを独立して備えていた。
給紙動作と印刷動作を同時に行う機能を持ちながら構造の簡素化を目的として、給紙機構部を駆動する給紙モータと印刷の紙送りを行う紙送り部PFを駆動する紙送りモータとを1個のモータにより駆動する方法が考えられた。これまでのプリンタ装置では、給紙動作と印刷時の紙送り動作を同一のモータにより駆動することがなく問題とならなかった印刷紙が印刷中にずれてしまうという新たな問題が生じることとなった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、給紙動作と印刷時の紙送り動作とを同一のモータにより駆動して印刷する印刷紙の停止精度を確保し、印刷時間を短縮するプリンタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明は、印刷紙の給紙を行う給紙部と、前記給紙部によって給紙される印刷紙を搬送する紙送り部とを備えるプリンタ装置であって、前記紙送り部は、前記給紙部と前記紙送り部とを駆動するモータと、前記モータの駆動軸に設けられた駆動プーリ部と、歯車を有し前記印刷紙の搬送を行う従動プーリ部と、前記駆動プーリ部と前記従動プーリ部とに渡して設けられたベルトと、を備え、前記給紙部は、前記歯車に噛み合わされて前記歯車の回転に応じて転動する輪列と、を備え、前記印刷紙を搬送している場合において前記モータを停止させたときに、前記輪列を前記搬送時の回転と反対方向に転動させる第1の負荷と、前記モータが、前記紙送り部のみを駆動するときの第2の負荷との合計値が、前記モータの最大出力値以下であり、かつ、前記第1の負荷が、前記第1の負荷と前記第2の負荷とを座標軸とする座標で定義される関数で表される限界値より小さい値の範囲で設定されるプリンタ装置である。
【0007】
このような特徴を有する本発明によれば、モータによって駆動される従動プーリ部が備える歯車を介して、紙送り部が備える輪列が駆動され印刷紙の搬送が行われる。印刷紙の搬送中にモータを停止させると、給紙部の輪列を搬送時の回転方向と逆向きに転動させる負荷(第1の負荷)が生じ、その負荷は、停止させるべき給紙部の従動プーリ部を通常の搬送時の回転方向に対して逆回転させる方向に働く。紙送り部の静止を保持することができる第1の負荷の限界値を、その応力と紙送り部を駆動するときの負荷(第2の負荷)に応じて関連付けられた関数で表し、第1の負荷をその限界値以下とする。
このように本発明によれば、給紙動作と印刷動作とを同一のモータにより駆動しても、印刷する印刷紙の停止精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明におけるプリンタ装置の駆動系を示す概略構成図(その1)である。
【図2】プリンタ装置を示す概略構成図である。
【図3】紙送り部PFと給紙部ASFの負荷の関係を示すグラフ(その1)である。
【図4】紙送り部PFと給紙部ASFの負荷の関係を示すグラフ(その2)である。
【図5】モータ1にかかる負荷測定時のPFドライバ2aの構成図である。
【図6】特性改善策1を行ったときのモータ1の電流波形である。
【図7】特性改善策1を行ったときの効果を示すグラフである。
【図8】特性改善策2を行ったときのモータ1の電流波形である。
【図9】特性改善策2を行ったときの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態によるプリンタ装置1の紙送り部PFと給紙部ASFとを連動させる駆動系を示す概略構成図である。
【0010】
この図に示される紙送り部PFと、給紙部ASFとが図示される輪列によって接続されている。
紙送り部PFは、プーリ1p(駆動プーリ部)が設けられたモータ1と、モータ1に連動して印刷紙を紙送りする紙送りローラ65と図示されない同じ軸に設けられた従動プーリ65pと、排紙ローラ68と同じ軸に備えられた従動プーリ68pを備え、それぞれのプーリは、ベルト160によって接続されている。
また、歯車65gは、従動プーリ65pと図示されない同じ軸に設けられ、一体となって回転する。従動プーリ65pと紙送りローラ65と歯車65gとをまとめて表すときは従動プーリ部65sという。
【0011】
給紙部ASFは、複数の歯車A、歯車B、歯車C、歯車Dによってモータ1の動力が伝達され、歯車A〜D(輪列)のいずれかに設けられた給紙ローラによって印刷紙50が給紙される。
また、複数の歯車A〜Dは、少なくとも1つの歯車が紙送り部PFの歯車65gと噛み合うように設置される。ここでは、歯車Dは、歯車65gと噛み合い、従動プーリ部65sからの動力を給紙部ASFに伝える。また、給紙ローラ62は、歯車Aと同じ軸に設置され、印刷紙を印刷開始位置まで給紙させるものとする。
【0012】
図1(a)は、紙送り動作をモータ1が行っているときの、紙送り部PFと、給紙部ASFを紙送りローラ65などの回転軸方向から見た側面図である。
この図において、左側に配置される給紙部ASF側から右側の紙送り部PF側に印刷紙50が搬送される。そのとき各プーリ、各歯車の通常時の回転方向について、右回り/左回りを「CW(Clock Wise)」、「CCW(Counter Clock Wise)」の記号をつけて矢印で示した。
歯車A、歯車C、歯車65g、およびプーリ1p、65p、68pは、モータ1と同じ回転方向の右回り(CW)に回転し、歯車B、歯車Dは、左回り(CCW)に回転している。
【0013】
図1(b)は、図1(a)の状態はモータ1が回転し紙送り動作を行っている状態から、モータ1を停止させたときの、紙送り部PFと、給紙部ASFを紙送りローラ65などの回転軸方向から見た側面図である。
【0014】
ここで、モータ1を停止させることにより、モータ1の軸に接続されているプーリ1pを介して動力を伝えるベルト160の回転が停止する。これにより、ベルト160で駆動されるプーリ65p、68pが停止し、プーリ65pと一体となって回転する歯車65g、紙送りローラ65への動力も遮断される。歯車65gの回転が停止することにより、給紙部ASFの歯車Dへの動力伝達も遮断される。
【0015】
これまで、モータ1の動力によるトルクがかかっていた給紙部ASFでは、モータ1のトルクによって歯車A〜Dを支える軸のたわみなどが生じる。その結果、モータ1のトルクから開放されることにより復元する方向に反発力が生じて、給紙時の回転方向と逆の方向に各歯車を回転させる応力が発生する。
このときの回転方向を図1(b)の矢印で示す回転方向を示す。
歯車A、歯車Cは、左回り(CCW)、歯車B、歯車Dは右回り(CW)で回転させようとする方向の応力が発生する。この応力は、紙送り部PFの歯車65gを左回り(CCW)に転回させようとする力となる。歯車65gの回転軸は、紙送りローラの回転軸と同じ軸になっているので、この力が作用することにより、輪列と一緒に回転軸が回転してしまうと、紙送りローラで押さえている印刷紙50を搬送方向と逆方向にずらしてしまうことになる。
【0016】
図2を参照して、プリンタ装置100の概略構成を示す。
この図は、紙送り(PF)を行うモータ1と、モータ1を駆動するPFモータドライバ2と、印刷紙50にインクを吐出するヘッド9が固定され、印刷紙50に対し平行方向かつ紙送り方向に対し垂直方向に駆動されるキャリッジ3と、キャリッジ3を駆動するキャリッジモータ(以下、CRモータともいう。)4と、キャリッジモータ4を駆動するCRモータドライバ5と、PFモータドライバ2にモータ1を駆動させる直流電流指令値を払い出すDCユニット6と、ヘッド9を駆動制御するヘッドドライバ10と、キャリッジ3に固定されたリニア式エンコーダ11と、所定の間隔にスリットが形成されたリニア式エンコーダ11用符号板12と、モータ1用のロータリ式エンコーダ13と、プリンタ全体の制御を行うCPU(Central Processing Unit)16と、CPU16に対して周期的に割込み信号を発生するタイマIC17と、ホストコンピュータ18との間でデータの送受信を行うインタフェース部(以下、IFともいう。)19と、ホストコンピュータ18からIF19を介して送られてくる印字情報に基づいて印字解像度やヘッド9の駆動波形等を制御するASIC(Application Specific Integrated Circuit)20と、ASIC20及びCPU16の作業領域やプログラム格納領域として用いられるPROM(Programmable Read Only Memory)21,RAM(Random Access Memory)22及びEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)23と、印刷紙50を支持するプラテン25と、モータ1によって駆動されて印刷紙50を搬送する紙送りローラ65と、CRモータ4の回転軸に取付けられたプーリ30と、プーリ30によって駆動されるタイミングベルト31とから構成されている。
【0017】
DCユニット6は、CPU16から送られてくる制御指令、エンコーダ11,13の出力に基づいてPFモータドライバ2及びCRモータドライバ5を駆動制御する。また、紙送りモータ1及びCRモータ4はいずれもDCモータで構成されている。
【0018】
図3を参照し、上記の測定によって求められた、紙送り部PFの負荷の値と、紙送り部PFの歯車65gに逆転を生じさせない擬似的負荷の値の関係を示す。
この印刷紙を逆方向にずらしてしまう応力が生じた場合においても紙送りローラの回転軸が回転しなければ、応力の影響をなくすことができる。
まず、紙送り部PFを駆動させるときの負荷の値を数点定める。
ここでは、3つの値を定め、その値を負荷PF1、負荷PF2、負荷PF3と順に呼ぶ。
まず、定められたられた負荷PF1となるように紙送り部PFの負荷を設定する。
次に、設定された紙送り部PFの負荷を負荷PF1とした状態で、歯車65gに模擬的な負荷をかけながらモータによって紙送り部PFと模擬的負荷を駆動して、モータを停止させたときの歯車65gの逆転量を検出する。
模擬的負荷の値を変えながら、繰り返し検出を行って、歯車65gに逆転が生じない最大の値となる擬似的負荷の値を求め、その値をALIM1と呼ぶ。
上記の擬似的負荷の最大の値を、定められた紙送り部PFの負荷の値に応じて求める。同じようにして、負荷PF2に対してALIM2が求められ、負荷PF3に対してALIM3が求められる。
【0019】
図3を参照し、上記の測定によって求められた、紙送り部PFの負荷の値と、紙送り部PFの歯車65gに逆転を生じさせない擬似的負荷の値の関係を示す。
まず、第1の条件について説明する。
この図は、横軸に紙送り部PFの負荷の値(x)を示し、縦軸に紙送り部PFの歯車65gに逆転を生じさせない擬似的負荷の値(y)を示す座標軸で表されるグラフである。ここに、上記で求められた3点P1(PF1,ALIM1)、P2(PF2,ALIM2)、P3(PF3,ALIM3)をプロットする。
また、上記の3点を使って直線補間を行い、次式で示す一次関数を図示する。
【0020】
y = a × x + b
【0021】
このグラフ(a)の傾きa、ならびに切片bは、ともに正の値をとる。
また、このグラフ(a)で分けられた2つの領域は、擬似的負荷がかかった状態で回転中のモータ1を停止したときに、紙送りローラの回転軸が負荷のトルクにより逆転するか否かで分けられた領域を示している。すなわち、グラフ(a)の上部で示す擬似的負荷より大きな負荷条件となる範囲では、逆転が発生し、グラフ(a)の下部で示す擬似的負荷より小さな負荷条件となる範囲では、逆転が発生しない。
【0022】
なお、この判定条件を定める際に、逆転の有無を領域判定の条件として説明したが、許容される停止位置の誤差の範囲を定め、領域判定の条件とすることもできる。
【0023】
続いて第2の条件について説明する。
モータ1で駆動できる最大負荷は、モータ1の特性に依存する。この実施形態の説明におけるモータ1の最大出力トルクTmaxの値を1000(gf・cm)として説明する。
このモータ1によって駆動させることができる範囲は、最大出力トルクの値までである。また、紙送り部PFの負荷と、給紙部ASFの負荷とが同時にかかるような時においても、上記の最大出力トルクの値を超えることはできない。その限界となる値をグラフ(b)で示す。
グラフ(b)で示される直線は、つぎの関係式となる。
【0024】
(x + y) = Tmax(最大出力トルク)
【0025】
ここで、xは、紙送り部PFの負荷の値を示し、yは給紙部ASFの負荷の値を示す。
したがって、紙送り部PFの負荷と、給紙部ASFの負荷の合計は、上記直線で示された下側の範囲としなければならない。
【0026】
これにより、2つの条件により許容される条件を重ね合わせると、四角形OM1M2M3で示される範囲を得ることができる。
第1の条件では、擬似的な負荷を用いて逆転が起こらない限界となる負荷の値を求めた。この擬似的な負荷の代わりに、擬似的な負荷の限界となる値より小さい値で、給紙部ASFの負荷を選ぶことにより、モータ1を停止させたときにおいても紙送りローラの回転軸を逆転させない負荷の値とする機構部を設定することができる。
【0027】
(第2実施形態)
ここで示す第2実施形態は、第1実施形態で説明した紙送り部PFが逆転しない負荷範囲で示した限界値を大きくするために行う改善策であり、第1実施形態に付加して行うことにより効果を得ることができる。
ここで示す実施形態では、モータに連動する紙送りローラに対して、モータから停止トルクを与えて紙送りローラが、逆転することを防ぐ方法をとることとする。
図4を参照し、この方法により改善される効果を示す。
この図に示すグラフは、先に示した図3のグラフ(a)、(b)に新たにグラフ(c)を追記したものである。グラフ(c)で示されるように、第1実施形態での限界値を示すグラフ(a)の値を大きくする対策であり、グラフ(a)を上方側に移動させて、例えばグラフ(c)のようにすることを期待するものである。
【0028】
停止トルクを与える方法として、次の2通りの方法がある。
第1の改善策は、ショートディケイといわれる方法で、モータ停止時にモータへの駆動電流を停止するときに、モータの入力端子を回路的に切り離さずに、ドライブ回路のスイッチング素子により、モータの両方の端子をショートさせる方法である。
第2の改善策は、モータを停止させておくのに必要なだけの電力を与えることにより、停止させておくトルクを増強させる方法である。
【0029】
モータ1と、擬似的なドライブ回路2aを使って実験した結果を示す。
図5を参照し、この実験で用いた系統を示す。
この図は、モータ1と擬似的なドライブ回路2aを示している。
ドライブ回路2aは、4個のトランジスタと、4個のダイオードと、1個の抵抗を備えており、4個のトランジスタで、H字型のブリッジ構成を形成している。4個のダイオードは、各トランジスタの保護ダイオードである。ここで、抵抗Rは、本実験でモータ1の電流を観測するためにセンサとして用いる抵抗であり、この抵抗にかかる電圧を観測する。
【0030】
図6、図8を参照し、上記の実験により観測したモータ1の電流の観測波形を示す。
また、図7、図9は、図6、図8に示した観測波形が得られた測定を繰り返し行ったときの効果を示す。
まず、第1の改善策について説明する。
図6は、第1の改善策によるスローディケイを採用したときの観測波形である。
図6(a)は、ファストディケイ、すなわちモータ停止時にドライブ回路2aを切り離し、モータの電極を回路的にオープンにしたときの波形である。
時刻t11からモータ1の回転を始め、時刻t12でモータ1の回転を停止した。
回路的にオープンとしているので、電流の観測波形も0Vとなり、電流が流れていないことを示している。
【0031】
図6(b)は、スローディケイ、すなわちモータ停止時にドライブ回路2aでモータの電極間をショートさせたときの波形である。
時刻t21からモータ1の回転を始め、時刻t22でモータ1の回転を停止した。
ここで、時刻t22を過ぎてからしばらくの間、電流が流れているのが観測できる。この波形は、モータが停止するまでに発生する逆起電力であり、ここで発生する電力を使って停止トルクに利用することができる。この波形が観測できる時刻t22から時刻t23までの期間が、モータ1を静止させるためのトルクが発生している時間になる。
【0032】
図7は、第1の改善策によるファストディケイを採用したときと、スローディケイを採用したときの逆転量の違いを示すグラフである。
横軸は、モータ1によって印刷紙を搬送する速度を示す。
縦軸は、エンコーダで検出した移動量を示し、単位「エッジ」はエンコーダで検出するパルス幅の1/4の移動量を示す。
グラフFASTは、ファストディケイでの逆転量を示す。グラフSLOWは、スローディケイでの逆転量を示す。
全ての速度における観測で、スローディケイにおける逆転量が少なくなっていることが観測できる。
【0033】
続いて、第2の改善策について説明する。
図8は、第2の改善策によるホールド電流を採用したときの観測波形である。
図8(a)は、モータ停止時にドライブ回路2aを切り離し、モータの電極を回路的にオープンにしたときの波形である。
時刻t31からモータ1の回転を始め、時刻t32でモータ1の回転を停止した。
回路的にオープンとしているので、電流の観測波形も0Vとなり、電流が流れていないことを示している。
【0034】
図8(b)は、モータ停止時にドライブ回路2aを使ってホールド電流を与えたときの波形である。
時刻t41からモータ1の回転を始め、時刻t42でモータ1の回転を停止した。
ここで、時刻t42からt43までの間、モータ1にホールド電流を与えている。この間、電流が流れているのが観測できる。
この電流によるトルクは、モータ1の回転が生じない範囲の値でなければならず、過大に与えてしまうと逆に回転を始めてしまうので、電流値に注意が必要である。
【0035】
図9は、第2の改善策によるホールド電流をモータ1に与えたときの効果を示す。
モータ1にホールド電流を与えないときと、ホールド電流を与えたときの停止位置のばらつきを示すグラフである。
横軸は、目標停止位置に対して実際に停止した位置との偏差を示し、単位「エッジ」はエンコーダで検出するパルス幅の1/4の移動量を示す。
縦軸は、上記の差が発生した回数を示す。
ホールド電流を与えない場合には、偏差がマイナスの値を示す範囲でばらついて発生していることがわかる。これは、負荷のトルクにより、紙送りローラの逆転が生じていることを表している。
これに対し、ホールド電流を与えたグラフ(b)では、停止目標位置付近に集中して発生している。これにより、ホールド電流を与えたことによる紙送りローラの逆転防止に寄与する改善策であることを示している。
【0036】
以上の方法により、モータ1の停止直後に、給紙部ASFからの応力によって回転を生じさせないための停止力を増加させることができる。
【0037】
このような特徴を有するプリンタ装置100によれば、モータ1によって駆動される従動プーリ部が備える歯車65gを介して、紙送り部PFが備える輪列が駆動され印刷紙50の搬送が行われる。印刷紙50の搬送中にモータ1を停止させると、給紙部ASFの輪列を搬送時の回転方向と逆向きに転動させる応力(第1の負荷)が生じ、その負荷は、停止させるべき給紙部PFの従動プーリ部を通常の搬送時の回転方向に対して逆回転させる方向に働く。紙送り部PFの静止を保持することができる第1の負荷の限界値を、その応力と紙送り部PFを駆動するときの負荷(第2の負荷)に応じて関連付けられた関数で表し、第1の負荷をその限界値以下とする。
これにより、給紙動作と印刷動作とを同一のモータ1により駆動しても、印刷される印刷紙50の停止精度を向上させることができるという利点がある。
【符号の説明】
【0038】
ASF 給紙部、PF 紙送り部、1 モータ、1p 従動プーリ、
62 給紙ローラ、62a 歯車A、62b 歯車B、62c 歯車C、62d 歯車D、65s 従動プーリ部、65 紙送りローラ、65g 歯車、65p 従動プーリ、68 排紙ローラ、68p 従動プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷紙の給紙を行う給紙部と、前記給紙部によって給紙される印刷紙を搬送する紙送り部とを備えるプリンタ装置であって、
前記紙送り部は、
前記給紙部と前記紙送り部とを駆動するモータと、
前記モータの駆動軸に設けられた駆動プーリ部と、
歯車を有し前記印刷紙の搬送を行う従動プーリ部と、
前記駆動プーリ部と前記従動プーリ部とに渡して設けられたベルトと、
を備え、
前記給紙部は、
前記歯車に噛み合わされて前記歯車の回転に応じて転動する輪列と、
を備え、
前記印刷紙を搬送している場合において前記モータを停止させたときに、前記輪列を前記搬送時の回転と反対方向に転動させる第1の負荷と、
前記モータが、前記紙送り部のみを駆動するときの第2の負荷との合計値が、
前記モータの最大出力値以下であり、
かつ、前記第1の負荷が、前記第1の負荷と前記第2の負荷とを座標軸とする座標で定義される関数で表される限界値より小さい値の範囲で設定される
ことを特徴とするプリンタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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