説明

プロジェクション溶接方法及びプロジェクション溶接装置

【課題】プロジェクション溶接について、作業者の手間を増大させることなく鋼板表面のナット周りにスパッタや溶接ススが付着するのを低減させる。
【解決手段】下端側に複数本の突起を形成したナット50を鋼板100表面のネジ孔部分に配置し、鋼板100裏面に接している下部電極3Aとナット50上面に接している上部電極2A先端側の電極チップ20との間を通電状態にして上部電極2Aを下降させることで突起を押し潰しながらナット50を鋼板100上に溶着するプロジェクション溶接方法において、その溶接の際に上部電極2Aの電極チップホルダ21先端面に設けた電極チップ取付孔24の内周面とこれに挿設した電極チップ20外周面との間に形成された円筒状の隙間から、鋼板100表面のナット50周りに向かって下向きに圧縮空気を噴出することにより、鋼板100表面へのスパッタ及び溶接ススの付着量を低減させるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロジェクション溶接方法及びプロジェクション溶接装置に関し、殊に、鋼板部品にナットを溶接する際に鋼板表面のナット周りに溶接ススやスパッタが付着するのを低減するプロジェクション溶接方法、及びその方法で用いるプロジェクション溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナットを表面に備えた鋼板部品を製造する場合、ナット下部側に形成した突起に電流を集中させて加熱しこれを押し潰しながら鋼板表面に溶着させるプロジェクション溶接方法が多用されている。この方法では、溶接の際に火花とともにスパッタや溶接ススが発生し、これらがナットや鋼板表面に付着することで製品の品質低下に繋がる点が問題となっている。
【0003】
例えば、ナットのネジ孔内にスパッタが付着すればボルトの螺入が困難となりやすく、鋼板表面のナット周りに溶接ススが付着すれば製品の外観を損なうことになる。これに対し、特開平6−320288号公報には、プロジェクション溶接の際に、図5に示すように鋼板100上でナット50の位置決めをするパイロットピン32の外周を通り下部電極3Bの下側からナット50のネジ孔に向かって下側から圧縮空気を噴出させることで、発生したスパッタをネジ孔外へ飛散させる溶接方法が提案されている。
【0004】
これにより、ナット50のネジ孔内にスパッタが付着するのを防止することができ、溶接後にネジ孔を切り直す手順が不要となる。しかし、この方法はネジ孔に向かって下側から圧縮空気を噴出するものであるため、鋼板100表面のナット50周りにスパッタや溶接ススが付着する問題は殆ど解消されていない。殊に、鋼板100が亜鉛メッキ製の場合はスス汚れが顕著となりやすく、製品の外観を大きく損なうことを防止できない。
【0005】
そのため、プロジェクション溶接を実施する前に、予め作業者が鋼板のナット溶接部分の周囲に油を塗ってスパッタや溶接ススが付着しにくい状態にしておくことも考えられる。しかしながら、その油の塗布作業に手間と時間を要するとともに溶接後の洗浄工程も延長することに加え洗浄液の消費量も増大してしまうため、作業者の手間の増大と製造コストの高騰を招いてしまう。
【0006】
そこで、特開2002―1546号公報には、上部電極の先端側外周に圧縮コイルスプリングを設けて、プロジェクション溶接の際に被加工物の周りに圧縮コイルスプリングを押し付けて覆うことにより、スパッタや溶接ススが周りに飛散するのを防止するようにした溶接方法も提案されている。
【0007】
ところが、この方法ではナット等の被加工物のサイズが変わる度に圧縮コイルスプリングの内径を変更する必要が生じるとともに、発生したスパッタや溶接ススが圧縮コイルスプリングの内部に封じ込まれて電極チップに付着しやすくなるため、その付着した部分を頻繁に清掃する必要が生じて、メンテナンスの手間を増大させる結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−320288号公報
【特許文献2】特開2002―1546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような問題を解決しようとするものであり、プロジェクション溶接について、作業者の手間を増大させることなく鋼板表面のナット周りにスパッタや溶接ススが付着するのを低減できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、下端側に複数本の突起を形成したナットを鋼板表面のネジ孔部分に配置し、鋼板裏面に接している下部電極とナット上面に接している上部電極先端側の電極チップとの間を通電状態にして上部電極を下降させることにより、突起を押し潰しながらナットを鋼板上に溶着するプロジェクション溶接方法において、その溶接の際に、上部電極の電極チップホルダ先端面に設けた電極チップ取付孔の内周面とこれに挿設した電極チップの外周面との間に形成されている円筒状の隙間から、鋼板表面のナット周りに向かって下向きに圧縮空気を噴出することにより、鋼板表面へのスパッタ及び溶接ススの付着量を低減させることを特徴とするものとした。
【0011】
このように、上部電極の電極チップホルダ先端面に設けた電極チップ取付孔とこれに挿設した電極チップとの間に形成した隙間から鋼板表面のナット周りに圧縮空気を噴出させるという比較的簡易な手順を加えるだけで、プロジェクション溶接で鋼板に付着するスパッタ及び溶接ススの量を大幅に低減させることが可能となり、且つ、溶接するナットのサイズが多少異なっても、そのままで同様の効果が期待できるものとなる。
【0012】
また、この場合、その圧縮空気は鋼板表面のナット周り全周に亘って噴出されることを特徴としたものとすれば、ナット周りの総てに部分に亘ってスパッタや溶接ススが付着するのを低減して、製品の外観を一層綺麗な状態にしやすいものとなる。
【0013】
さらに、固定式の下部電極と先端側に電極チップを挿設した電極チップホルダを有する上下可動式の上部電極とを備え、下部電極に載せた鋼板の表面ネジ孔部分に複数本の突起を下端側に設けたナットを配置し鋼板裏面に接している下部電極とナット上面に接している電極チップとの間を通電状態にして上部電極を下降させることで突起を押し潰しながらナットを鋼板上に溶着する方式のプロジェクション溶接装置において、その上部電極は、電極チップホルダ先端面に電極チップの外径よりも内径の大きな電極チップ取付孔を有してこれに挿設した電極チップの外周面との間に円筒状の隙間が形成されているとともに、その電極チップ取付孔の内部に圧縮空気供給路が接続されており、前記隙間から圧縮空気を下向きに噴出することが可能とされている、ことを特徴とする上述したプロジェクション溶接方法で用いるプロジェクション溶接装置とすれば、これを用いることで上述のプロジェクション溶接方法を容易に実施することができ、鋼板表面にスパッタや溶接ススが付着するのを大幅に軽減できるようになる。
【0014】
さらにまた、このプロジェクション溶接装置において、その上部電極は、電極チップが電極チップホルダの電極チップ取付孔に着脱自在に挿設されており、その電極チップのみを取り外すことが可能とされていることを特徴としたものとすれば、スパッタや溶接ススが付着しやすい電極チップの清掃作業が極めて容易なものとなる。
【発明の効果】
【0015】
電極チップ取付孔の内周面とこれに挿設した電極チップの外周面との間に形成した隙間から、鋼板表面のナット周りに圧縮空気を噴出させるものとした本発明によると、作業者の手間を増大させることなく鋼板表面のナット周りにスパッタや溶接ススが付着するのを大幅に低減できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における実施の形態のプロジェクション溶接方法で使用するプロジェクション溶接装置の電極部分の構成を説明するため部分正面図である。
【図2】図1のプロジェクション溶接装置の上部電極の構成を説明するための拡大した部分縦断面図である。
【図3】図2の上部電極の機能を説明するための部分縦断面図である。
【図4】図1のプロジェクション溶接装置を用いて本実施の形態のプロジェクション溶接方法で溶接した鋼板表面のナット周りの状態を示す写真である。
【図5】従来例のプロジェクション溶接装置による溶接時の状態を示す部分縦断面図である。
【図6】図5のプロジェクション溶接装置を用いて従来のプロジェクション溶接方法で溶接した鋼板表面のナット周りの状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態によるプロジェクション溶接方法で用いるプロジェクション溶接装置の電極部分を拡大して示したものである。このプロジェクション溶接装置は、固定式の下部電極3Aと先端側に電極チップ20を挿設した電極チップホルダ21を有する上下可動式の上部電極2Aとを備えている。
【0019】
その下部電極3Aの上面に載せた鋼板100表面のネジ孔部分に、下端側に複数本の突起を形成してなるナット(ウェルドナット)50を配置し、ナット50上面に上部電極2Aの電極チップ20を押し付けた状態で下部電極3Aとの間を通電状態にして加熱し、突起を押し潰しながらナット50を鋼板100に溶着させる方式であり、以上の構成部分は図5に示した従来例の装置と共通している。
【0020】
そして、本実施の形態においては、その上部電極2Aが、電極チップホルダ21先端面に電極チップ20の外径よりも内径の大きな円柱状の電極チップ取付孔24が設けられ、これに挿設した円柱状の電極チップ20外周面との間に円筒状の隙間が形成されている。また、その電極チップホルダ21には管体接続用エルボ22が取り付けられて図示しない圧縮空気供給路がその電極チップ取付孔24の内部に接続されており、その電極チップ20外周側の隙間から圧縮空気を下向きに噴出可能とされている。
【0021】
以上のような構成のプロジェクション溶接装置を用いて、本実施の形態のプロジェクション溶接方法を実施するものであり、図1のプロジェクション溶接装置による溶接作業時の上部電極2A部分の縦断面図である図2に示すように、図示しないコンプレッサー等の圧縮空気供給手段から図示しない配管を通りエルボ22を介して電極チップホルダ21内部まで圧縮空気供給路が形成され、導入した圧縮空気を横向きの通路25a、下半分が円筒状に形成された縦向きの通路25bを経て、鋼板100表面のナット50周り全周に向かって下向きに圧縮空気を噴出させることにより、鋼板100表面のスパッタ及び溶接ススの付着量を大幅に減少させるようにした点を特徴としている。
【0022】
即ち、プロジェクション溶接において、鋼板100表面側でスパッタや溶接ススが生じて飛散するタイミング又は/及びこれらが固着してしまう前のタイミングで、圧縮空気を矢印の向きにて噴出させることにより、生じたスパッタや溶接ススを冷却しながら吹き飛ばして鋼板100に付するのを低減するようにしたものである。
【0023】
これにより、事前に鋼板100表面に油を塗布したり溶接後に汚れを清掃したりする工程を削減することが可能となった。殊に、鋼板100が亜鉛メッキ製の場合に溶接ススの付着が顕著であったが、本実施の形態のプロジェクション溶接方法を実施することにより、溶接後に溶接スス等の汚れを払拭する必要が殆どない綺麗な状態を確保することが可能となった。
【0024】
また、上部電極2Aは、電極チップ20が電極チップホルダ21の電極チップ取付孔24に対し着脱自在な状態で挿設されており、電極チップ20を単独で容易に取り外せるようになっている点も特徴部分となっている。即ち、電極チップ20には溶接の際に生じたスパッタや溶接ススが表面に付着しやすく、所定のタイミングで清掃を行うメンテナンス作業が必要であるところ、その汚れが付着する電極チップ20部分だけを簡易な手順で着脱自在として、上部電極チップ全体を外してメンテナンス作業を実施する従来例と比べて作業の手間を大幅に軽減することを目的としたものである。
【0025】
そのため、電極チップ20の上部は図2に示したようにキノコ状の摘み部20aとされており、電極チップ取付孔24に挿入した状態において、電極チップホルダ21の外周側から中心方向に挿設された係止部品26の先端穴から突出している鋼球26aが摘み部20aの首部分に弾性的に係合することにより、挿設状態を維持する構成となっている。
【0026】
図3は、図2の縦断面に対し直角の面で縦断した部分縦断面図を示しているが、電極チップホルダ21の外周側から中心方向に穿設した脱抜用孔23の先端側は摘み部20aの上方まで達しており、先端側を円錐状に形成した脱抜用工具60を脱抜用孔23に挿入して先端側傾斜部分で摘み部20a上面側を押すことにより、電極チップ20は容易に外れるようになっている。
【0027】
また、この電極チップ20は、電極チップホルダ21の下方から電極チップ取付孔24に押し込むだけで、係止部品26先端側の鋼球26aを図示しないバネとともに押し戻しながら容易に装着出来るようになっている。以上の構成により、電極チップ20清掃の際の作業者の手間を最小限に抑えることが可能となった。
【0028】
図4は、図1のプロジェクション溶接装置を実際に作成して、これを用いて上述したプロジェクション溶接方法を実施した場合の鋼板表面の状態を示す写真である。図6の従来例による溶接後の写真と比べると、矢印で示す鋼板表面のナット周りの溶接ススの付着量が大幅に低減されていることが分かる。
【0029】
この結果から、従来の装置に僅かな改良を加えただけの上述したプロジェクション溶接装置を用いて、従来の方法に僅かな手順を加えただけの上述したプロジェクション溶接方法を実施することにより、溶接後の鋼板表面のナット周りは綺麗な状態を維持することができ、過剰な手間やコストを要することなく製品の品質低下を防止できることが明らかとなった。
【0030】
以上、述べたように、プロジェクション溶接について、本発明により、作業者の手間を増大させることなく鋼板表面のナット周りにスパッタや溶接ススが付着するのを大幅に低減できるようになった。
【符号の説明】
【0031】
2A 上部電極、3A 下部電極、20 電極チップ、21 電極チップホルダ、24 電極チップ取付孔、50 ナット、100 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端側に複数本の突起を形成したナットを鋼板表面のネジ孔部分に配置し、前記鋼板の裏面に接している下部電極と前記ナットの上面に接している上部電極先端側の電極チップとの間を通電状態にして前記上部電極を下降させることにより、前記突起を押し潰しながら前記ナットを鋼板上に溶着するプロジェクション溶接方法において、
溶接の際に、前記上部電極の電極チップホルダ先端面に設けた前記電極チップ取付孔の内周面と該電極チップ取付孔に挿設した前記電極チップの外周面との間に形成された円筒状の隙間から、前記鋼板表面の前記ナット周りに向かって下向きに圧縮空気を噴出することにより、前記鋼板表面へのスパッタ及び溶接ススの付着量を低減させることを特徴とするプロジェクション溶接方法。
【請求項2】
前記圧縮空気は前記ナット周り全周に亘って噴出されることを特徴とする、請求項1に記載したプロジェクション溶接方法。
【請求項3】
固定式の下部電極と先端側に電極チップを挿設した電極チップホルダを有する上下可動式の上部電極とを備え、前記下部電極に載せた鋼板の表面ネジ孔部分に複数本の突起を下端側に設けたナットを配置し前記鋼板裏面に接している前記下部電極と前記ナット上面に接している前記電極チップとの間を通電状態にして前記上部電極を下降させることで前記突起を押し潰しながら前記ナットを前記鋼板上に溶着する方式のプロジェクション溶接装置において、
前記上部電極は、前記電極チップホルダ先端面に前記電極チップの外径よりも内径の大きな電極チップ取付孔を有して該電極チップ取付孔に挿設した前記電極チップの外周面との間に円筒状の隙間が形成されているとともに、前記電極チップ取付孔内部に圧縮空気供給路が接続されており、前記隙間から圧縮空気を下向きに噴出することが可能とされている、ことを特徴とする請求項1または2に記載したプロジェクション溶接方法で用いるプロジェクション溶接装置。
【請求項4】
前記上部電極は、前記電極チップが前記電極チップホルダの電極チップ取付孔に着脱自在に挿設されており、前記電極チップのみを取り外すことが可能とされている、ことを特徴とする請求項3に記載したプロジェクション溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−111583(P2013−111583A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256873(P2011−256873)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(511286230)株式会社中沢工業所 (1)