説明

プロセス液の着色防止方法

【課題】高硫黄濃度ステンレス鋼が用いられている設備で酸性のプロセス液を扱ってもプロセス液の着色を防止する方法を提供する。
【解決手段】プロセス液の着色防止方法は、(1)高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて酸性のプロセス液を扱う設備を製造する前の該高硫黄濃度ステンレス鋼を、または(2)高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて製造した設備で酸性のプロセス液を扱う前に設備の接液面を、酸溶液で浸漬処理をする。また該高硫黄濃度ステンレス鋼の硫黄含有量は0.01重量%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス液の着色防止方法に関する。詳しくは、高硫黄濃度ステンレス鋼に起因する酸性のプロセス液の着色を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸、酢酸などの酸性のプロセス溶液は、通常、SUS304、SUS316などのステンレス鋼で扱われることが多い(例えば、特許文献1参照。)。
通常、プロセス溶液が着色するなどの問題を起こすことはないが、ステンレス鋼の設備によってはプロセス溶液が着色することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−73328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ステンレス鋼の設備によって酸性のプロセス溶液が着色するのを防止する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ステンレス鋼の設備によって酸性のプロセス溶液が着色する原因およびその対策について鋭意検討した結果、硫黄濃度が高いステンレス鋼が用いられていると腐食し、プロセス液が着色し、予め高硫黄濃度ステンレス鋼を酸溶液で浸漬処理することによって、酸性のプロセス溶液によって腐食せず、着色しないことを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、(1)高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて酸性のプロセス液を扱う設備を製造する前の該高硫黄濃度ステンレス鋼を、または(2)高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて製造した設備で酸性のプロセス液を扱う前に設備の接液面を、酸溶液で浸漬処理することを特徴とするプロセス液の着色防止方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、高硫黄濃度ステンレス鋼が用いられている設備で酸性のプロセス液を扱ってもプロセス液の着色を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における高硫黄濃度ステンレス鋼とは、硫黄含有量が約0.01重量%以上、更には約0.02重量%以上のものを言う。上限は特に制限されるものではないが、通常、約0.15重量%である。
また、酸性のプロセス溶液としては、酢酸、アクリル酸などの有機酸、硫酸、硝酸などの無機酸およびこれらの水溶液が挙げられる。
【0009】
SUS304やSUS316などのステンレス鋼の硫黄含有量のJIS規格値は0.03重量%以下であり、圧延材の多くは硫黄含有量が0.01重量%未満まで精製されているが、中には規格値0.03重量%に近いものもある。一方、切削性を良くするために硫黄を0.15重量%以上含有するSUS303がある。
【0010】
SUS304やSUS316を使用して製造された設備で酸性のプロセス液を扱った場合、プロセス液が着色する場合がある。これはSUS304やSUS316でも硫黄含有量の高いものが使用されたり、設備の一部に硫黄含有量の高い鍛造部品が使用されたりしており、硫黄含有量が高いと孔食が発生するためである。
【0011】
着色を防止するために、予め高硫黄濃度ステンレス鋼を酸溶液で浸漬処理する。浸漬処理は、高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて設備を製造する前の該高硫黄濃度ステンレス鋼を、または高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて製造した後の設備の接液面について行う。
【0012】
使用する酸溶液としては、プロセス溶液として使用する酢酸、アクリル酸などの有機酸の水溶液、硫酸または硝酸などの無機酸の水溶液である。
【0013】
浸漬処理条件としては使用する酸溶液の種類、その濃度によって変わるが、常温〜約100℃で20時間〜4週間程度行われる。
処理は、攪拌下に酸溶液に高硫黄濃度ステンレス鋼を浸漬して、または高硫黄濃度ステンレス鋼で製造した設備内に酸溶液を入れて攪拌し、または酸溶液を循環させて行う。
【0014】
この酸溶液による浸漬処理を十分に行うことによって、その後、酸性のプロセス溶液を扱ってもステンレス鋼の腐食は進まず、プロセス溶液の着色を防止することができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例で詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。用いたステンレス鋼の組成を表1に示す。尚、SUS中のCとSは燃焼赤外線吸収法により、他の元素は発光分光分析法により得た値である。
【0016】
【表1】

【0017】
用いたステンレス鋼の形状は下記のとおりである。
低S-SUS304:
圧延板材から切り出した長さ25mm×幅20mm×厚さ2mmの長方体
高S-SUS304:
外径55mm×内径26mmの円筒材から厚さ5mmの小円筒を切り出し、それを
四分割したもの。
SUS303:
外径60mmの鍛造丸棒から切り出した長さ25mm×幅20mm×厚さ2mm
の長方体
【0018】
実施例1
ガラス製フラスコに上記金属片および40重量%酢酸250mlを入れ、気相を窒素で置換しながら、40℃で浸漬処理を行った。
所定時間毎に金属片を取り出し、その重量減少から腐食速度(g/m/hr)を求め、液の色調を観察した。次に、同じ金属片について新しい40重量%酢酸を用いて同様に浸漬処理を繰り返した。結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
上記のとおり低S-SUS304(S:0.007重量%)は初めから着色しないが、S含有量が高い高S-SUS304(S:0.030重量%)およびSUS303(S:0.123重量%)は着色する。しかし、十分に浸漬処理することによって、その後は着色しなくなる。
【0021】
実施例2
40重量%酢酸の代わりに40重量%アクリル酸を用い、また試験温度を50℃で浸漬した以外は実施例1と同様に行い、液の色調を観察した。
結果を表3に示す。
【0022】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて酸性のプロセス液を扱う設備を製造する前の該高硫黄濃度ステンレス鋼を、または(2)高硫黄濃度ステンレス鋼を用いて製造した設備で酸性のプロセス液を扱う前に設備の接液面を、酸溶液で浸漬処理することを特徴とするプロセス液の着色防止方法。
【請求項2】
高硫黄濃度ステンレス鋼の硫黄含有量が0.01重量%以上であることを特徴とする請求項1記載のプロセス液の着色防止方法。
【請求項3】
酸性のプロセス液が酢酸、アクリル酸、硫酸または硝酸の水溶液であることを特徴とする請求項1記載のプロセス液の着色防止方法。
【請求項4】
酸溶液が酢酸、アクリル酸、硫酸または硝酸の水溶液であることを特徴とする請求項1記載のプロセス液の着色防止方法。

【公開番号】特開2010−189744(P2010−189744A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37659(P2009−37659)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】