説明

プロテインチップ前処理キット

【課題】 数十個〜数百個程度の中規模個数のタンパク質検体を検査するのに適したプロテインチップ前処理キットを提供する。
【解決手段】 抗原又は抗体が付着される基板と、前記抗原又は抗体に液体試薬を供給するための少なくとも1枚以上の治具とからなり、前記治具は前記抗原又は抗体のアレイの本数に対応する本数の流路を有し、前記流路の両端は貫通孔を介して大気に連通していることを特徴とするプロテインチップ前処理キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質を検出するためのプロテインチップを作製するための前処理キットに関する。更に詳細には、本発明は数十〜数百個のタンパク質検体を一度に処理することができるプロテインチップ前処理キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジー技術の著しい発展により、ゲノム解析が急速に進んだ。ゲノム解析の結果は、疾病の診断、治療の他、創薬などにも活用されている。最近は、ポストゲノム時代を迎えるにあたり、タンパク質の機能解析に注目が集まっている。
【0003】
一般に医学検査材料となる体液や組織には非常に多くの種類のタンパク質やペプチドが含まれている。臨床検査の場では、数え切れないほど多くのタンパク質やペプチドが、しかもそれぞれ異なる濃度で含まれた試料の中の、或る特定のタンパク質のみを定量又は定性する必要が生じる。アルブミンのように大量に存在するタンパク質であれば、例えば、電気泳動を行ってバンドの太さを比較するだけで良い場合もあるが、他のタンパク質に比べて微量しか存在しないタンパク質やペプチドを相手にする場合は、特異性の高さ(目的の物質を狭雑する他のタンパク質からどれだけ正確に区別できるか)と定量性の良さ(どれだけ微量で正確に量れるか)が同時に求められる。このような目的に合致する検査法として抗体の特異性を用いた方法が開発された。すなわち、目的のタンパク質又はペプチドのみと反応し、狭雑する他のタンパク質とは反応しない抗体により先ず「特異性」を確保し、抗原抗体反応は比較的定量的に起こるので抗体の量がわかっていれば抗原の量を容易に求めることができる。従来は抗体の標識に放射性同位元素を使用してきたが、利用できる施設が限られ、試薬と検出器を含めて費用もかなり高価になる欠点があったので、放射性同位元素を酵素に置き換え、抗体に結合した酵素の反応で抗原を定性及び定量する方法として「酵素免疫測定(ELISA)法」が新たに開発された(例えば、特許文献1参照)。ELISA法には直接吸着法とサンドイッチ法の二種類があるが、何れの方法も、安価で簡便であるため、現在ホルモンや微量タンパク質あるいは感染性微生物抗原の検出と定量に極めて広範に用いられている。
【0004】
図8はELISA法の直接吸着法を説明する模式図である。ステップ(1)において、プラスチック、ガラスなどのような基板100の固相表面に抗原(例えば、HIV抗原)102を、例えば、アミノカップリング法、表面チオールカップリング法又はリガンドチオールカップリング法などの方法により付着させる。ステップ(2)において、被検サンプル(例えば、血清)を注ぐ。サンプル中に抗体(例えば、抗HIV抗体(HIVに感染すると平均12週位で産生され、HIV抗原に特異的に結合する))104があれば、抗原102と反応し、結合する。次いで、ステップ(3)において、標識物質として、酵素付き二次抗体106を注ぐ。この酵素付き二次抗体106は被検サンプル中の抗体104と特異的に結合することができる。その後、ステップ(4)において、酵素付き抗体106の酵素と反応して発色する物質108を注ぐ。ステップ(5A)において、反応生成物110の発色状態を測定する。ステップ(5B)に示されるように、被検サンプル中に抗体(例えば、抗HIV抗体)104がなければ、発色物質108を注いでも、反応しないので発色しない。
【0005】
ELISA法のサンドイッチ法では、抗原102の代わりに先ず基板100に目的のタンパク質に特異的な一次抗体を結合させておき、目的物質を含む溶液を加えると、溶液中の抗原が「抗原抗体反応」により抗体に結合する。その後、酵素標識二次抗体をを加え、一次抗体に結合していた目的物質を定性及び定量する。
【0006】
従来、ELISA法などを実施する場合、サンプル数が数千個に及ぶ場合がある。このような多量のサンプルを処理するため、プロテインアレイチップが用いられている。プロテインアレイチップはプロテオゲン(Proteogen)社から市販されている全自動のマイアクロアレイヤー(例えば、Proteogen CM-1000)により作製、処理することができる。この装置の特徴は、ガラス基板上に抗原を付着させるために、ガラス基板上に「プロリンカー」と呼ばれる固定化試薬を予め固着させておくことである。この装置によれば、スポット径100〜300μm、スポットピッチ10μm、スポット密度最大4900スポット/cmで、25.4mmx76.2mmのスタンダードフォーマットスライドガラスを使用することができる。
【0007】
しかし、このような装置は数千万円以上もする非常に高価な装置であり、検体数が数十〜数百程度の小規模な検査には使用できないか、又は使用した場合、非常に不経済となる。このため、検体数が数十〜数百程度の小規模な検査を行う場合は、マイクロタイタープレートなどを用いて手作業で行わなければならなかった。各穴毎に抗原を付着し、その後、被検サンプルを注ぎ、二次抗体を注ぎ、発色物質を注いでいたのでは作業時間が冗長になるばかりか、検査効率も大幅に低下する。各穴毎に作業するのではなく、マイクロタイタープレート全体に抗原を付着し、各穴毎に被検サンプル、二次抗体又は発色物質を注ぐ方式が試みられたが、最初の抗原が無駄になるばかりか、後の作業は各穴毎に行うので作業時間はさほど短縮されない。
【0008】
【特許文献1】特公平6−11335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、数十個〜数百個程度の中規模個数のタンパク質検体を検査するのに適したプロテインチップ前処理キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として請求項1に係る発明は、抗原又は抗体が付着される基板と、前記抗原又は抗体に液体試薬を供給するための少なくとも1枚以上の治具とからなり、前記治具は前記抗原又は抗体のアレイの本数に対応する本数の流路を有し、前記流路の両端は貫通孔を介して大気に連通していることを特徴とするプロテインチップ前処理キットである。
【0011】
基板上に付着された抗原又は抗体のアレイの本数に対応する本数の流路を有する液体試薬供給治具を使用することにより、基板と液体試薬供給治具を貼り合わせることにより、基板上の抗原又は抗体のアレイに液体試薬を簡単に供給することができる。
【0012】
前記課題を解決するための手段として請求項2に係る発明は、前記液体試薬供給治具が、前記抗原又は抗体のアレイの行数に対応する本数の流路を有する治具と、前記抗原又は抗体のアレイの列数に対応する本数の流路を有する治具との2枚からなることを特徴とする請求項1記載のプロテインチップ前処理キットである。
【0013】
基板上に付着された抗原又は抗体のアレイの行数と列数が異なる場合に、行数と列数にそれぞれ対応する本数の流路を有する2種類の液体試薬供給治具を使用することにより、液体試薬供給を更に容易にすることができる。
【0014】
前記課題を解決するための手段として請求項3に係る発明は、前記基板の上面には、複数の貫通孔を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)製ポリマーシートが貼り合わされ、前記基板と前記貫通孔とによりウエルを形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロテインチップ前処理キットである。
【0015】
基板上面に複数の貫通孔を有するPDMS製ポリマーシートを貼り合わせることにより複数個のウエルを有するマイクロタイタープレートが形成されるので、このウエルを抗原叉は抗体付着アレイとして使用することができる。
【0016】
前記課題を解決するための手段として請求項4に係る発明は、前記基板の上面には、複数の貫通孔を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)製ポリマーシートが貼り合わされ、前記基板と前記貫通孔とによりウエルを形成しており、前記PDMS製ポリマーシートの上部四辺の端部のうちの少なくとも一つの辺端部にPDMS製液体試薬供給治具の端部が、前記ウエルと前記液体試薬供給治具の流路との位置が整合するように、自己吸着されていることを特徴とする請求項1記載のプロテインチップ前処理キットである。
【0017】
PDMS製液体試薬供給治具の流路とPDMS製ポリマーシートのウエルとが予め位置合わせされた状態で、PDMS製液体試薬供給治具の端部がPDMS製ポリマーシートの端部に恒久接着されているので、PDMS製液体試薬供給治具を使用する際、流路とアレイとの位置合わせが不要となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の液体試薬供給治具を使用すれば、抗原又は抗体及び/又は液体試薬の使用量を節約できるばかりか、これらの乾燥を防ぐことができる。また、本発明のプロテインチップ前処理キットによれば、従来の数千万円もする高価なスポッターを使用したのと同じ処理作業を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の検査治具の好ましい実施態様について説明する。図1は本発明のプロテインチップ前処理キット1の一例の分解図である。本発明のプロテインチップ前処理キット1は基本的に、図1(A)に示される、抗原又は抗体7が付着された又はこれら抗原又は抗体を付着すべき基板3と、この基板3の抗原又は抗体付着面上に着脱可能に積重又は貼り合わされる少なくとも1枚以上の液体試薬供給治具5とからなる。図1(B)は、行(横列)用液体試薬供給治具5−1であり、図1(C)は、列(縦列)用液体試薬供給治具5−2である。
【0020】
基板3に行(横列)用液体試薬供給治具5−1を積重又は貼り合わせて所定の液体試薬の注入が完了したら、基板3から行(横列)用液体試薬供給治具5−1を剥がし、次いで、基板3に列(縦列)用液体試薬供給治具5−2を積重又は貼り合わせて別の液体試薬を注入する。その後、基板3から列用液体試薬供給治具5−2を剥がし、基板3だけにしてから所望の定性及び定量測定を行う。抗原又は抗体7の配列が正方形状であれば、行用液体試薬供給治具5−1と、列用液体試薬供給治具5−2とを共用することができるので、液体試薬供給治具は1枚でもかまわないが、“コンタミネーション”を避けるために、使用する液体試薬毎に液体試薬供給治具5を使い分けることが好ましい。従って、本発明のプロテインチップ前処理キット1では、使用する液体試薬の種類に応じた枚数の液体試薬供給治具5を使用することが好ましい。
【0021】
基板3へ抗原又は抗体7を付着させる方法自体は本発明の構成要件ではない。従って、基板3へ抗原又は抗体7を付着させるには、例えば、アミノカップリング法、表面チオールカップリング法又はリガンドチオールカップリング法などの公知慣用の方法を使用することができる。何れの付着方法を使用するにしても、基板3へ抗原又は抗体7を付着させるために、本発明者らが先に出願した特願2004−075654の明細書に記載されているような、複数個の貫通穴を有するポリマーシートを使用することが好ましい。このポリマーシートを使用すれば、スポッターなどの様な高価な装置を使用しなくても、基板3上に抗原又は抗体7を容易に規則的に整然と配列させることができる。
【0022】
図2(A)はこのようなポリマーシートの一例の平面図であり、図2(B)は図2(A)におけるB−B線に沿った断面図であり、図2(C)はポリマーシートの使用状態を示す一例の断面図である。ポリマーシート10は例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのポリマーから形成されている。その他のポリマーも使用できる。シート10のサイズ自体は用途に応じて任意のサイズを選択することができる。従って、シート10は正方形、長方形、円形、楕円形、三角形、五角以上の多角形など任意の形状をとることができる。シート10には用途に応じて任意の個数(例えば、96個)の貫通穴13が形成されている。シート10の厚さは数百μm〜数十mm程度(例えば、200μm〜10mm)である。貫通穴13の断面形状は図示された矩形状のものに限定されない。円形状、楕円状、三角形状、五角以上の多角形状など様々な形状を採ることもできる。図2(C)に示されるように、ポリマーシート10の下部に基板3を貼着することにより、ポリマーシート10の貫通穴13の下部が遮蔽され、ウエル15が形成されるので、得られた構造物17を化学分析用のマイクロタイタープレートとして使用することができる。抗原又は抗体はウエル15の底部(すなわち、基板3の上面)に付着される。
基板3はガラス、合成樹脂、金属、撥水紙など任意の材料から形成されたものを使用できる。ポリマーシート10がPDMSから形成されている場合、基板3はガラス製であることが好ましい。PDMSとガラスは容易に恒久接着することができるからである。
構造物17のウエル15内に抗原を含む溶液(直接吸着法)又は抗体を含む溶液(サンドイッチ法)を注入し、余分な溶液を廃棄すれば、基板3の上面に目的とする抗原又は抗体を付着(又は結合)させることができる。基板3の上面に目的とする抗原又は抗体を付着(又は結合)させた後、所望により、ポリマーシート10を基板3上に残置することもできるし、基板3から剥離し、除去することもできる。
【0023】
図1に示されるように、液体試薬供給治具5−1及び5−2は、抗原又は抗体7の横及び縦の列数に相当する本数の流路20を有する。図3は図1におけるIII-III線に沿った断面図である。各流路20の下面は遮蔽されていない。各流路20の両端には貫通孔22a及び22bが配設されている。液体試薬供給治具5−1及び5−2はプラスチック製又はガラス製であることが好ましい。プラスチックは例えば、PDMS、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂などである。液体試薬供給治具の形成材料としては、基板3又はポリマーシート10との密着性に優れ、しかも常用の光リソグラフィー法により容易に量産可能なPDMSが好ましい。液体試薬供給治具5の厚さは数百μm〜数mm程度であることが好ましい。流路20の幅は抗原又は抗体7の付着幅、若しくはポリマーシート10のウエル15の開口幅と同等か又は小さいことが好ましい。
【0024】
図4Aに示されるように、図3の液体試薬供給治具5−1を図2(C)の構造物17の上面に積重又は貼り合わせる。図4Bは図4AにおけるB−B線に沿った部分概要断面図である。
ウエル15の底部には抗原又は抗体7が付着されている。貫通孔22a又は22bの一方から液体試薬(例えば、アルブミンなどのタンパク溶液、一次抗体、酵素標識二次抗体、発色試薬、水など)を注入し、余分な液体試薬は他方の貫通孔から排出する。各流路毎に注入する液体試薬を変えることができる。従って、構造物17がマイクロタイタープレートである場合、行(横列)用液体試薬供給治具5−1及び列(縦列)用液体試薬供給治具5−2を使用すると、各抗原又は抗体7毎に試薬を全て変えることができる。例えば、行(横列)と、列(縦列)を組み合わせることにより、第1行第1列〜第8行第12列の全ての抗原について異なる液体試薬を注入することができる。従って、本発明の液体試薬供給治具を使用すれば、抗原又は抗体の個数(例えば、96個)と同じ個数の異なる反応相を1個のチップ上で実施することができる。本発明の液体試薬供給治具5はウエル15の底部に抗原又は抗体を付着(又は結合)させる目的にも使用できる。この場合、行及び/又は列毎に異なる抗原又は抗体を付着(又は結合)させることができる。本発明の液体試薬供給治具5を使用すれば、各流路当たりの液体注入量を約3μL以下にまで抑制することができ、液体試薬類の無駄使いが避けられる。また、治具5でウエル15がカバーされているため、ウエル内の抗原又は抗体ばかりかその他の液体試薬類が乾燥・蒸発することも防止できる。
【0025】
図5A及び図5Bは本発明のプロテインチップ前処理キット1で使用される液体試薬供給治具5の別の実施態様を示す平面図である。ELISA法では、固相(基板)に抗原又は抗体を付着させた後、固相表面を無関係なタンパク質で覆う「ブロッキング」処理が行われる。また、余計なタンパク質や抗原に結合しなかった抗体又は固相に結合しなかった抗原を洗い流す処理が行われる。このような場合、各流路20内に一斉に液体を流すことが必要になる。図5A及び図5Bに示される実施態様はこのような目的に使用するのに好適な液体試薬供給治具5−2及び5−3である。この液体試薬供給治具5−2及び5−3を使用すると作業時間を大幅に短縮することができる。
図5Aの実施態様では、各流路20の一端は拡大容積部24に連通し、拡大容積部24には大気に連通する貫通孔26が配設されており、各流路の他端には貫通孔28が配設されている。例えば、貫通孔26から液体が拡大容積部24に注入されると、液体は各流路20を流れて、末端の各貫通孔28から排出される。
図5Bの実施態様では、各流路20の両端は拡大容積部24a及び24bにそれぞれ連通し、各拡大容積部24a及び24bに、大気に連通する貫通孔26a及び26bがそれぞれ配設されている。例えば、貫通孔26aから液体が拡大容積部24aに注入されると、液体は各流路20を流れて、末端の拡大容積部24bに集まり、貫通孔26bから排出される。
【0026】
図6は本発明のプロテインチップ前処理キット1Aの別の実施態様の概要斜視図である。図1に示されたプロテインチップ前処理キット1では、基板3に対して液体試薬供給治具5−1及び5−2が別体として分離されており、必要に応じて各液体試薬供給治具5−1又は5−2を基板3上に積重又は貼り合わせて使用するが、その都度、基板3の抗原又は抗体アレイと治具の流路を位置合わせさせて積重又は貼り合わせなければならない。これに対して、図6のプロテインチップ前処理キット1Aでは、ポリマーシートのウエルと液体試薬供給治具の流路が予め位置合わせされた状態で、4枚の液体試薬供給治具5−5〜5−8のそれぞれの一端がポリマーシート10の上面に恒久接着されており、ポリマーシート10と一体化されている。従って、異なる液体試薬供給治具を使用する場合でも、ウエルと流路の位置合わせをその都度行う必要が無い。ポリマーシート10が矩形状なので、これに一体化し得る液体試薬供給治具は最大4個であるが、1個だけでもよく、2個又は3個でもよい。プロテインチップ前処理キット1Aを使用する場合、例えば、先ず液体試薬供給治具5−5をポリマーシート10の上面に折り重ねて貼り合わせ、貫通孔22aから流路20を通してウエル15内に液体試薬を供給し、余分な液体試薬は貫通孔22bから排出する。行ウエルの処理が完了したら、液体試薬供給治具5−5をポリマーシート10から引き剥がして起こし、次いで、列用の液体試薬供給治具5−7を倒してポリマーシート10の上面に貼り合わせ、貫通孔22aから流路20を通して列ウエル15内に液体試薬を供給し、余分な液体試薬は貫通孔22bから排出する。別の行用液体試薬供給治具5−6及び列用液体試薬供給治具5−8も同様にして使用される。プロテインチップ前処理キット1Aにおいて、液体試薬供給治具として図5A及び図5Bに示されるような治具5−3及び/又は5−4を使用することもできる。
【0027】
図6のプロテインチップ前処理キット1Aの利点は、液体試薬供給治具5−5〜5−8の各流路20がポリマーシート10のウエル15の位置と予め位置合わせして一体化されているため、各液体試薬供給治具5−5〜5−8をポリマーシート10に折り重ねるだけで液体試薬供給治具5−5〜5−8の各流路20がポリマーシート10のウエル15に整合される。従って、図1のチップ1におけるような、液体試薬供給治具の流路20とポリマーシート10のウエル15との面倒な整合作業が不要となる。
【0028】
図6に示されるプロテインチップ前処理キット1Aの製造方法を図7に示す。ステップ(1)において、PDMSポリマーシート10の上面にPDMS製液体試薬供給治具5−5を流路20とポリマーシート10のウエル15の位置が合致するように自己吸着させておく。次いで、ステップ(2)において、PDMS製液体試薬供給治具5−5の貫通孔22a側の端部を引き剥がし、露出面を酸素プラズマ処理する。PDMS製液体試薬供給治具5−5は酸素プラズマ処理した部分でPDMSポリマーシート10に恒久接着するが、その他の部分ではポリマーシート10から剥離できる。従って、ステップ(3)において、恒久接着していない部分のPDMS製液体試薬供給治具5−5をPDMSポリマーシート10から剥離し、その剥離部分に別のPDMS製液体試薬供給治具5−6を流路20とポリマーシート10のウエル15の位置が合致するように自己吸着させる。次いで、ステップ(4)において、PDMS製液体試薬供給治具5−6の貫通孔22b側の端部を引き剥がし、露出面を酸素プラズマ処理する。ステップ(5)において、ポリマーシート10に対して自己吸着していない部分のPDMS製液体試薬供給治具5−6をポリマーシート10から剥離し、PDMS製液体試薬供給治具5−7及び5−8について前記ステップ(3)〜ステップ(4)を繰り返す。異なるデザインの液体試薬供給治具を使用する場合は、既存の液体試薬供給治具のうちの何れかをポリマーシートから除去し、その除去した対応する位置に前記ステップ(3)〜ステップ(4)を繰り返すことにより異なるデザインの新たな液体試薬供給治具を配設することができる。
【実施例1】
【0029】
(1)96穴マイクロタイタープレートの作製
先ず、4インチウエハを準備した。プロセスの信頼性を得るために、レジストを使用する前に基板を洗浄・乾燥する必要があり、本実施例では、ピラニア・エッチング/クリーン(HSOおよびH)処理後、蒸留水でリンスした。その後、シリコンの表面酸化膜を除去するため、BHF(バッファード弗酸)に15分間浸し、蒸留水でリンスした。その後、表面の脱水のため、対流式のオーブン中で60℃、30分間程度ベークした。この表面処理済ウエハ上にSU−8ネガティブフォトレジストを1000rpmの回転速度で約25秒間塗布し、溶媒を蒸発させ、膜を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレジスト膜上に、直径0.35mm、穴と穴の間隔が1mmの96穴のパターンを有するマスクを被せ、露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)で密着露光した。その後、レジスト膜の露光された部分の架橋を行うため65℃で15分間(STEP1)、95℃で25分間(STEP2)加温し、クーリング後、1−メトキシ−2−プロピル酢酸現像液で現像し、現像後、基板は短時間イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。その後、65℃で30分間乾燥後、150℃で5分間かけてハードベークし、レジスト厚200μmのマスターを完成させた。
このマスターの表面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、表面にCHF剥離膜を形成した。マスターの剥離膜形成面上に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ約2mmになるように流し込み、脱気、加温(65℃、4時間)した。4時間経過後、オーブンから取り出し、PDMSモールドをマスターから剥離した。この剥離したPDMSモールドをガラス基板に自己吸着させ、200μmの隙間に更に、反応性イオンエッチングシステムにより、フルオロカーボン(CHF)処理後、200μmの隙間にPDMSプレポリマーを流し込んだ。流し込んだ後、65℃で4時間加熱重合した。その後、まず、PDMSモールドと、流し込んで加熱重合形成された目的のPDMSシートを同時にガラスから引き剥がし、別のガラスに貼り、目的のPDMSシートをガラスに押さえながら、PDMSモールドを引き剥がした。その後、目的のPDMSシートをOプラズマによりクリーニングした。クリーニングされた96個の貫通穴を有するPDMSシートをガラス基板に恒久接着させ、96穴マイクロタイタープレートを完成させた。
(2)液体試薬供給治具の作製
先ず、4インチウエハを準備した。プロセスの信頼性を得るために、レジストを使用する前に基板を洗浄・乾燥する必要があり、本実施例では、ピラニア・エッチング/クリーン(HSOおよびH)処理後、蒸留水でリンスした。その後、シリコンの表面酸化膜を除去するため、BHF(バッファード弗酸)に15分間浸し、蒸留水でリンスした。その後、表面の脱水のため、対流式のオーブン中で60℃、30分間程度ベークした。この表面処理済ウエハ上にSU−8ネガティブフォトレジストを1000rpmの回転速度で約25秒間塗布し、溶媒を蒸発させ、膜を高密度化するためにソフトベークを65℃で30分間(STEP1)、95℃で90分間(STEP2)処理した。クーリング後、このレジスト膜上に、貫通穴(注入口)22a,22bの直径1mm、流路20の間隔0.35mm、流路20の深さ100μm、流路20の幅1mmに相当するパターンを有するマスクを被せ、露光装置(ユニオン光学製 PEM−800)で密着露光した。その後、レジスト膜の露光された部分の架橋を行うため65℃で15分間(STEP1)、95℃で25分間(STEP2)加温し、クーリング後、1−メトキシ−2−プロピル酢酸現像液で現像し、現像後、基板は短時間イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。その後、65℃で30分間乾燥後、150℃で5分間かけてハードベークし、レジスト厚200μmのマスターを完成させた。
このマスターの表面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、表面にCHF剥離膜を形成した。マスターの剥離膜形成面上に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ約2mmになるように流し込み、脱気、加温(65℃、4時間)した。4時間経過後、オーブンから取り出し、PDMSモールドをマスターから剥離した。この剥離したPDMSモールドをガラス基板に自己吸着させ、200μmの隙間に更に、反応性イオンエッチングシステムにより、フルオロカーボン(CHF)処理後、200μmの隙間にPDMSプレポリマーを流し込んだ。流し込んだ後、65℃で4時間加熱重合した。その後、まず、PDMSモールドと、流し込んで加熱重合形成された目的のPDMS製液体試薬供給治具を同時にガラスから引き剥がし、別のガラスに貼り、目的のPDMS製液体試薬供給治具をガラスに押さえながら、PDMSモールドを引き剥がした。その後、目的のPDMS製液体試薬供給治具をOプラズマによりクリーニングした。クリーニングされたPDMS製液体試薬供給治具を、その流路と前述の96穴マイクロタイタープレートのウエルとの位置が整合するように、96穴マイクロタイタープレート上面に自己吸着させた。
(3)液体注入
前記(2)で得られた、96穴マイクロタイタープレートとPDMS製液体試薬供給治具とを貼り合わせた本発明のプロテインチップ前処理キットにおいて、PDMS製液体試薬供給治具の一方の貫通孔から着色液を注入して流路内に流し込み、余剰の着色液を他方の貫通孔から排出させた。この作業を全ての行について行った。その後、PDMS製液体試薬供給治具を96穴マイクロタイタープレートから剥離し、ウエル内を検査した。その結果、全てのウエル内に目的の着色液が充填されていることが確認された。
【0030】
従って、本発明の液体試薬供給治具をマイクロタイタープレートと組み合わせて使用すれば、ELISA法で使用する一次抗体、二次抗体、発色試薬、洗浄液などの液体試薬類をウエル内に注入できることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のプロテインチップ前処理キットは医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産など様々な分野で活用できる。特に、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なチップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で使用できる。また、本発明のプロテインチップ前処理キットは、タンパク質−タンパク質、タンパク質−DNA、タンパク質−リガンドの相互作用解析、及びタンパク質発現プロファイルの研究、診断用マイクロアレイチップの開発、新規医薬品のスクリーニングなどにも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のプロテインチップ1の一例の分解平面図であり、(A)は抗原又は抗体が付着された基板3、(B)は行用液体試薬供給治具5−1、(C)は列用液体試薬供給治具5−2である。
【図2(A)】本発明のプロテインチップで使用するのに適した複数個の貫通穴を有するポリマーシート10の一例の部分平面図である。
【図2(B)】図2AにおけるB−B線に沿った部分断面図である。
【図2(C)】図2Aのポリマーシート10を基板3に貼り合わせることにより得られる構造物17の一例の部分概要断面図である。
【図3】図1(B)におけるIII-III線に沿った部分断面図である。
【図4】(A)は、図3の液体試薬供給治具5−1を図2(C)の構造物17の上面に積重又は貼り合わせた状態を示す部分概要断面図であり、(B)は図4AにおけるB−B線に沿った部分概要断面図である。
【図5(A)】本発明のプロテインチップ1で使用される液体試薬供給治具5の別の実施態様を示す平面図である。
【図5(B)】本発明のプロテインチップ1で使用される液体試薬供給治具5の別の実施態様を示す平面図である。
【図6】本発明のプロテインチップの別の実施態様の概要斜視図である。
【図7】図6に示されるプロテインチップの製造方法を説明する工程図である。
【図8】従来のELISA法を説明する工程図である。
【符号の説明】
【0033】
1,1A 本発明のプロテインチップ
3 基板
5 液体試薬供給治具
7 抗原又は抗体
10 ポリマーシート
13 貫通孔
15 ウエル
17 構造体
20 流路
22a,22b 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原又は抗体が付着される基板と、前記抗原又は抗体に液体試薬を供給するための少なくとも1枚以上の治具とからなり、前記治具は前記抗原又は抗体のアレイの本数に対応する本数の流路を有し、前記流路の両端は貫通孔を介して大気に連通していることを特徴とするプロテインチップ前処理キット。
【請求項2】
前記液体試薬供給治具は、前記抗原又は抗体のアレイの行数に対応する本数の流路を有する治具と、前記抗原又は抗体のアレイの列数に対応する本数の流路を有する治具との2枚からなることを特徴とする請求項1記載のプロテインチップ前処理キット。
【請求項3】
前記基板の上面には、複数の貫通孔を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)製ポリマーシートが貼り合わされ、前記基板と前記貫通孔とによりウエルを形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロテインチップ前処理キット。
【請求項4】
前記基板の上面には、複数の貫通孔を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)製ポリマーシートが貼り合わされ、前記基板と前記貫通孔とによりウエルを形成しており、前記PDMS製ポリマーシートの上部四辺の端部のうちの少なくとも一つの辺端部にPDMS製液体試薬供給治具の端部が、前記ウエルと前記液体試薬供給治具の流路との位置が整合するように、自己吸着されていることを特徴とする請求項1記載のプロテインチップ前処理キット。

【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図2(C)】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−125913(P2006−125913A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311925(P2004−311925)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【出願人】(502338454)フルイドウェアテクノロジーズ株式会社 (11)