説明

プロピレンカーボネートの製造方法

再循環臭化テトラアルキルホスホニウム触媒の存在下でプロピレンオキシドを二酸化炭素と150〜250℃の温度で接触させることを含むプロピレンカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキシドを二酸化炭素と反応させることによるプロピレンカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンカーボネートは多数の各種方法における重要な中間体であり、例えばイソシアネートまたはポリカーボネートの製造のような方法においてカルボニル化剤として非常に有毒なホスゲンの代替品として使用される。
【0003】
プロピレンカーボネートの別の重要な用途は接触加水分解による1,2−プロパンジオールの製造である。プロピレンカーボネートは、メチルtert−ブチルエーテルの代替品として燃料中のオクタン価向上剤として使用することに関心が高まっているジメチルカーボネートの製造のためにも使用され得る。
【0004】
触媒を再循環させながら、上記方法を150〜250℃のような比較的高温で実施し得るならば有利であることが判明した。そうした方法により、効率的な熱統合が可能でありながら出発化合物が効率的に使用されることが判明した。しかしながら、高温及び触媒再循環の組合わせには触媒がかなり安定であることが必要である。
【0005】
米国特許第5,153,333号明細書は、第4級ホスホニウム化合物を用いた60〜160℃の温度でのエポキシ樹脂の変換方法を開示している。例示されている方法では触媒は最終生成物中に残存している。
【0006】
臭化ホスホニウム触媒は、米国特許第2,994,705号明細書、同第4,434,105号明細書、国際特許出願公開第99/57108号パンフレットや欧州特許出願公開第776,890号明細書のような従来技術において言及されている。しかしながら、これらの文献には、プロピレンカーボネートの製造を触媒を再循環させながら150〜250℃の温度で実施する場合どの触媒を使用するかについての教示がない。
【発明の開示】
【0007】
従って、本発明は、式(I):RPBrを有する再循環臭化テトラアルキルホスホニウム触媒の存在下でプロピレンオキシドを二酸化炭素と150〜250℃の温度で接触させることを含むプロピレンカーボネートの製造方法に関する。
【0008】
驚くことに、この特定のホスホニウム触媒は高温で使用した後再循環され得ることが知見された。触媒が非常に安定である場合のみ触媒を上記した厳しい条件にかけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法では、プロピレンオキシドを二酸化炭素と反応させてプロピレンカーボネートを含有する反応混合物を得る。
【0010】
本発明の方法では少量の水、アルコール及びジオールの存在は許容されるが、水とプロピレンオキシド及び/または形成されたプロピレンカーボネートの間の副反応を避けるために水は本質的に非存在下で実施することが好ましい。
【0011】
好ましくは再循環触媒を含めた合わせたプロセス供給原料は0〜10重量%の水を含有する。供給原料は、より好ましくは0〜5重量%、更に好ましくは0〜2重量%の水を含有する。
【0012】
本発明の方法は、式(I):RPBrを有する臭化テトラアルキルホスホニウム触媒を用いる。本発明の範囲内のテトラアルキルとは、4つのアルキル置換基R〜Rがリン原子に共有結合していることを意味する。アルキル置換基は、好ましくは1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜6個の炭素原子、更に好ましくは2〜4個の炭素原子、最も好ましくは4個の炭素原子を有する飽和炭化水素基を意味する。従って、好ましいアルキル置換基R〜Rをメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル及びtert−ブチルからなる群から選択することが好ましく、最も好ましいアルキル置換基はn−ブチルである。
【0013】
本発明の方法において、臭化テトラアルキルホスホニウム触媒は、非常に安定でありながら所望の生成物に対して驚くほど良好な活性及び選択率を有する。この触媒の他の重要な作用効果は腐食される傾向が低いことである。
【0014】
ハロゲン化第4級ホスホニウム類の中で、本発明の方法における触媒の特性はハライド対イオン及びホスホニウム部分の構造に依存することが判明した。ハライドはF、Cl、Br、I及びAtのイオンである。これらの中で、アスタチン含有化合物は元素の放射能及びその低い入手可能性のために評価対象としなかった。また、フッ素含有副生成物が環境的に許容されにくいのでフッ化第4級ホスホニウムも評価対象としなかった。
【0015】
塩化ホスホニウムは、本発明の方法においてヨウ化ホスホニウム及び臭化ホスホニウムよりも非常に速く分解することが判明した。この現象は、触媒を生成物混合物から反応容器に連続的に循環させるときに顕著となる。こうした挙動のために、塩素含有触媒の使用は本発明の方法にとって望ましくなくなる。
【0016】
本発明の方法の条件下で、臭化第4級ホスホニウムが対応のヨウ化物よりもより高い活性を与えることが判明した。ヨウ素イオン含有触媒の別の欠点は、その分解生成物の沸点が本発明の方法の所望生成物の沸点に近く、該分解生成物を除去することが困難となることである。これに反して、臭化テトラアルキルホスホニウムの多くの臭素イオン含有分解生成物の沸点は所望する最終生成物の沸点と離れている。また、海水または生きている有機細胞中には臭素に比してはるかに少ない量の遊離ヨウ素しか存在しないので、ヨウ素の最終的放出は環境の見地から望ましくない。従って、ヨウ素イオンを含有する排水流の処理には煩わしい精製処理を使用しなければならない。よって、ヨウ素イオン含有ホスホニウム触媒の使用も本発明の反応にとって望ましくない。
【0017】
臭化テトラアルキルホスホニウム群の中で、対称的に置換されている臭化テトラアルキルホスホニウム、すなわち4個のアルキル置換基が同一のアルキル基である臭化テトラアルキルホスホニウムは、同一の活性レベルで非対称的に置換されている臭化ホスホニウムよりも安定であることが判明した。従って、式(I):RPBr(式中、R、R、R及びRは同一のアルキル基を表す)を有する臭化テトラアルキルホスホニウム触媒が本発明の方法において好ましく使用される。
【0018】
対称的に置換されている臭化テトラアルキルホスホニウム触媒の使用に関する別の作用効果は、非対称的に置換されているホスホニウム触媒を使用した場合よりもより単純な分解生成物混合物が形成されることである。こうすると、所望の最終生成物をより効率的に精製することができる。
【0019】
臭化テトラブチルホスホニウムで特に良好な結果が得られた。従って、好ましくは、本発明は式(I)中のR、R、R及びRの各々がn−ブチル基を表す上記方法、すなわち触媒として臭化テトラ−n−ブチルホスホニウムを使用する上記方法に関する。この触媒は、本発明の方法で通常使用される温度範囲の融点を有するという更なる利点を有する。よって、この触媒は最初のプロセス相中液体である。この触媒は形成された生成物中でより容易に溶解し、ある程度は溶媒の非存在下でプロピレンオキシド中にも溶解する。
【0020】
臭化ホスホニウム触媒を用いる変換は異なる触媒濃度で実施され得る。特に有効な濃度の決定は主にプロセスパラメーター(例えば、反応器中のプロセス供給原料の残留時間、供給原料の種類、温度及び圧力)に依存する。
【0021】
触媒の量をプロピレンオキシド1モルあたりの触媒のモルで表示するのが便利であり得る。好ましくは、副生成物の量が少ないので、本発明の方法はプロピレンオキシド1モルあたり少なくとも0.0001モルの臭化テトラアルキルホスホニウム触媒の存在下で実施する。
【0022】
存在させる臭化テトラアルキルアンモニウム化合物の量は、プロピレンオキシド1モルあたり好ましくは0.0001〜0.1モル、より好ましくは0.001〜0.05モル、最も好ましくは0.003〜0.03モルの臭化テトラアルキルホスホニウム化合物である。
【0023】
プロピレンオキシドを二酸化炭素を用いてプロピレンカーボネートに変換する際にプロトン性化合物を存在させることが好ましい。プロトン性化合物はプロトン供与体として作用し得る化合物、例えば(Pure Applied Chem.,66:1077−1184(1994)に記載されている)水素結合ドナー溶媒である。プロトン性化合物を存在させると、触媒及び供給原料の溶解が助けられ、反応器にポンプで戻すことができる液体流の形態で新鮮または再循環触媒を反応に導入することができる。好ましいプロトン性化合物はアルコールである。特に好ましい化合物は使用したプロピレンオキシドに由来する1,2−プロパンジオールである。1,2−プロパンジオールのモノグリコール加水分解生成物はプロピレンオキシドから直接、または対応プロピレンカーボネートを経てプロピレンオキシドから得ることができる。対応の1,2−プロパンジオールを使用すると追加の生成物をプロセスに導入しなくて済み、生成物の精製が簡単となる。
【0024】
プロピレンオキシドのオキシラン部分への二酸化炭素の挿入は可逆反応である。すなわち、プロピレンオキシドは二酸化炭素の遊離によりプロピレンカーボネートから逆形成され得る。平衡を所望するプロピレンカーボネートの方にシフトさせるため、反応を高圧力下で実施することが好ましい。
【0025】
所望する過剰の二酸化炭素が提供される他、高圧での操作により、プロピレンオキシドの大部分がプロセス条件下で液体のままで、反応を本質的に液体相で実施することもできる。
【0026】
これは、本発明の方法を好ましくは5〜200×10N/m(すなわち、5〜200バール)の範囲の全圧下、好ましくは5〜70×10N/m、より好ましくは7〜50×10N/m、最も好ましくは10〜20×10N/mの範囲の二酸化炭素分圧下で実施することにより達成され得る。
【0027】
本発明に従うプロピレンカーボネートの製造では、多数の異なる汚染物質が存在し得る。しかしながら、供給原料が微量の塩化物を含有すると、本発明の臭化物触媒の安定性が低下することが判明した。この影響は、新鮮な供給原料を添加しながら触媒を頻繁に再循環させたときに特に顕著である。従って、本発明の方法を供給原料の全重量に基づいて計算して1000ppmw未満、より好ましくは100ppmw未満の塩化物を含有する供給原料を用いて実施することが好ましい。
【0028】
本発明の触媒は再循環臭化テトラアルキルホスホニウム触媒である。「再循環」とは、臭化テトラアルキルホスホニウムをプロピレンオキシド及び二酸化炭素からのプロピレンカーボネートの製造において前もって使用したことを意味する。通常、触媒を方法において使用し、プロピレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートから誘導される生成物から分離し、再びプロピレンオキシド及び二酸化炭素と接触させる。
【0029】
本発明の方法を1,2−プロパンジオールの製造方法と統合させてもよい。従って、本発明は、(i)本発明の方法でプロピレンカーボネートを製造し、(ii)不均一系触媒の存在下でプロピレンカーボネートを含有する反応混合物を水及び/またはアルコールと接触させて、1,2−プロパンジオール及び場合によりジアルキルカーボネートを得、(iii)得られた反応混合物から1,2−プロパンジオール及び場合によりジアルキルカーボネートを分離することを含む1,2−プロパンジオールの製造方法にも関する。
【0030】
プロピレンカーボネートを含有する反応混合物を水のみと接触させることが好ましい。プロピレンカーボネートを水のみと接触させるならば、このプロセスの生成物は1,2−プロパンジオールのみである。
【0031】
ステップ(i)で得た反応混合物の一部をプロセスから除去してもよいが、得られた反応混合物の全部もしくは実質的に全部をステップ(ii)にかけることが通常好ましい。
【0032】
ステップ(ii)で使用するのに適した不均一系触媒は公知であり、例えば特開平6−238165号公報または欧州特許出願公開第0,478,073号明細書に記載されている。プロピレンカーボネートの製造方法を1,2−プロパンジオールの製造方法と統合させることにより、ワンポットプロセスでジ−及びトリ−プロピレングリコールの形成をもたらす副反応を大きく抑えることができる。こうした副反応は英国特許出願公開第2,035,294号明細書に記載されている。本発明の方法により、所望生成物が高い全収率で得られる。本発明の方法は1,2−プロパンジオールの製造に関して非常に良好な結果を与えることが判明した。これは、例えばエチレンオキシド供給原料とはかなり異なるプロピレンオキシド供給原料の溶媒特性及びpHに関係していると考えられる。
【0033】
統合した方法は、プロピレンカーボネートを水またはアルコール(好ましくは、メタノール)を用いて変換して、1,2−プロパンジオール及び場合によりジアルキルカーボネートを得ることを含む。本発明の臭化ホスホニウム触媒を再循環させるために、触媒を反応混合物から、好ましくは反応混合物を何らかの方法により分離するときに分離する。臭化テトラアルキルホスホニウム触媒を1,2−プロパンジオールと一緒に除去することが特に有利であることが判明した。1,2−プロパンジオールは触媒を溶解し、これにより取扱いがより簡単となる。前記分離の更なる作用効果は、1,2−プロパンジオールは方法のステップ(i)に再循環するときに有利であるので触媒と共に残存させ得ることである。従って、本発明のステップ(iii)では、臭化テトラアルキルホスホニウム触媒を1,2−プロパンジオールと一緒に除去し、その後前記した触媒及び1,2−プロパンジオールをステップ(i)に再循環させることが好ましい。
【0034】
以下の実施例により本発明の方法を更に説明する。
【実施例1】
【0035】
第1反応器において二酸化炭素及びプロピレンオキシドを180℃の温度、20バールの圧力及び20×10N/mの二酸化炭素分圧下で臭化テトラブチルホスホニウム触媒と1:60の触媒/プロピレンオキシドのモル比で接触させた。プロピレンオキシドの添加量は10kgのプロピレンオキシド/kg−臭化テトラブチルホスホニウム触媒/時であった。
【0036】
その後、20バールの圧力及び80℃の温度で運転させた気液分離器においてガス状二酸化炭素を除去した。
【0037】
得られた液体反応混合物を第2反応器に送った。この第2反応器は不均一系アルミナ触媒を収容しており、150℃及び25×10N/mで操作した。水/プロピレンカーボネートのモル比は約1.2:1であった。
【0038】
1,2−プロパンジオールを蒸留により反応混合物から分離した。得られたフラクションの1つは1,2−プロパンジオールと一緒に33重量%の臭化テトラブチルホスホニウム触媒を含んでいた。このフラクションを第1反応器に再循環させた。
【0039】
上記方法は、新鮮な触媒を添加することなく600時間にわたり高い変換率及び選択率で操作された。このことから、上記触媒がこれらの厳しい操作条件下で非常に安定であることが分かる。
【実施例2】
【0040】
この実験は、加熱ジャケット及びガス入口を備えた60ml容量のハステロイC(ハステロイはHaynes International,Inc.の商標である)オートクレーブにおいて実施し、ガス分散プロペラを用いて撹拌した。
【0041】
反応器に評価しようとする触媒を装入した後、5g(86モル)のプロピレンオキシド(PO)を添加した。
【0042】
その後、反応器を密封し、二酸化炭素(CO)を20×10N/m(バール)の全圧まで導入した。次いで、反応器を撹拌しながら180℃に加熱した。180℃で、反応器全圧をCOを用いて50×10N/m(バール)に調節した。上記条件下で4時間後、反応器を迅速に冷却し、減圧し、サンプルを採取した。
【0043】
プロピレンカーボネート(PC)及び1,2−プロパンジオール(モノプロピレングリコール,MPG)の収率を外部標準としてデカンを用いるガスクロマトグラフィー(GC)により測定し、変換されたプロピレンオキシドのモル量に基づくモル%として表示した。対応のホスフィンオキシドへの触媒分解を31P−NMRを用いて測定し、ホスフィンオキシドに分解したホスホニウム化合物のリン原子の%として表示する。
【0044】
実施例の結果を表1に要約する。塩化テトラブチル触媒は厳しい操作条件下で不安定であることは明らかである。臭化テトラアルキルホスホニウムは、収率対触媒安定性の点で使用した他の触媒よりも優れた性能を発揮している。臭化テトラ−n−ブチルホスホニウムは最良の全体性能を示している。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):RPBrを有する再循環臭化テトラアルキルホスホニウム触媒の存在下でプロピレンオキシドを二酸化炭素と150〜250℃の温度で接触させることを含むプロピレンカーボネートの製造方法。
【請求項2】
(i)請求項1に従ってプロピレンカーボネートを製造し、
(ii)不均一系触媒の存在下でプロピレンカーボネートを含有する反応混合物を水及び/またはアルコールと接触させて、1,2−プロパンジオール及び場合によりジアルキルカーボネートを得、
(iii)得られた反応混合物から1,2−プロパンジオール及び場合によりジアルキルカーボネートを分離する
ことを含む1,2−プロパンジオールの製造方法。
【請求項3】
ステップ(ii)においてプロピレンカーボネートを水と接触させて1,2−プロパンジオールを得る請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(iii)において更に臭化テトラアルキルホスホニウム触媒を1,2−プロパンジオールと一緒に除去し、その後前記した触媒及び1,2−プロパンジオールをステップ(i)に再循環させる請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
プロピレンカーボネートの製造中プロトン性化合物を存在させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
プロトン性化合物がアルコールである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式(I)中のR、R、R及びRが同一のアルキル基を表す請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
臭化テトラアルキルホスホニウム化合物の量がプロピレンオキシド1モルあたり0.0001〜0.1モルである請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
プロピレンカーボネートの製造を5〜70×10N/mの二酸化炭素分圧下で実施する請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−513535(P2009−513535A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518204(P2006−518204)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051270
【国際公開番号】WO2005/003113
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】