説明

プロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法及びこれにより得られたプロピレン系樹脂微孔フィルム

【課題】リチウムイオンの透過性及び機械的強度に優れており高性能のリチウムイオン電池を構成することができ且つ短絡を防止できるプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】Tダイ2から押出されたプロピレン系樹脂フィルムAを、表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100〜10℃低い温度であり、且つ上記第1冷却ロール3の周速度(R)と上記プロピレン系樹脂フィルムの押出速度(R)との比(R/R)が5〜80である第1冷却ロール3によって搬送した後、さらに上記プロピレン系樹脂フィルムAを、表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100〜10℃低い温度であり、且つ第2冷却ロール5の周速度(R)と第1冷却ロール3の周速度(R)との比(R/R)が1.01〜5.00である第2冷却ロール5によって搬送することを特徴とするプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池のセパレータに用いられるプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法、及び上記方法により製造されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から携帯用電子機器の電源としてリチウムイオン電池が用いられている。このリチウムイオン電池は、一般的に、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム又はマンガン酸リチウムを塗布してなる正極と、銅箔の表面にカーボンを塗布してなる負極と、この正極と負極の短絡を防止するために正極と負極とを仕切るセパレータとを電解液中に配設することによって構成されている。
【0003】
そして、リチウムイオン電池は、その充電時には、正極からリチウムイオンが放出されて負極内に進入する一方、放電時には、負極からリチウムイオンが放出されて正極に移動することによって充放電が行われる。従って、リチウムイオン電池に用いられているセパレータは、リチウムイオンが良好に透過し得ることが必要である。
【0004】
リチウムイオン電池の充放電を繰り返すと、負極端面にリチウムのデンドライト(樹枝状結晶)が発生し、このデンドライトがセパレータを突き破って正極と負極とが微小な内部短絡(デンドライトショート)を起こし、著しく電池容量が劣化するという問題がある。
【0005】
リチウムイオン電池の安全性の向上のため、ポリエチレンを主とするオレフィン系樹脂の多孔フィルムがセパレータに使用されている。これは、リチウムイオン電池が短絡などによって異常発熱した場合に、多孔フィルムを構成しているポリエチレンが130℃前後の温度領域で溶融し、多孔構造が閉塞すること(シャットダウン)によって、リチウムイオン電池の異常発熱を停止させて安全性を確保することができるからである。
【0006】
近年、自動車用のリチウムイオン電池のような大型電池は高出力化が進んでおり、130℃を超える急激な温度上昇もあり得るため、シャットダウン機能は必ずしも求められておらず、リチウムイオン電池の耐熱性が重要視されている。又、リチウムイオン電池の高出力化のためには、リチウムイオンがセパレータを通過する際の低抵抗化が求められており、セパレータの高い透気性が必要とされている。更に、大型のリチウムイオン電池の場合には、長寿命、長期安全性の保障も重要となる。
【0007】
耐熱性の高いポリプロピレンの多孔フィルムを用いたセパレータは種々提案されており、特許文献1には、例えば、ポリプロピレンとポリプロピレンより溶融結晶化温度の高いポリマーおよびβ晶核剤となる組成物を溶融押出し、高温でシート状に成形後、少なくとも一軸延伸することを特徴とするポリプロピレン微孔性フィルムの製造方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、上記ポリプロピレン微孔性フィルムの製造方法で得られたポリプロピレン微孔性フィルムは、透気度が低く、リチウムイオンの透過性が不充分であり、高出力を要するリチウムイオン電池に用いることは困難である。
【0009】
又、特許文献2には、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する厚さ0.2μm以上100μm以下の多孔層を備え、透気度が1〜650秒/100ccである多層多孔膜が提案されているが、上記多層多孔膜も、リチウムイオンの透過性が不充分であり、高出力を要するリチウムイオン電池に用いることは困難である。
【0010】
更に、特許文献3には、軽金属よりなる負極、非水電解液が含浸されたセパレータ、および正極で構成される非水電解液電池において、上記セパレータにポリエチレン微粉末が予め添着されている非水電解液電池が提案され、高出力用途に適した高耐熱性のポリプロピレン不織布をセパレータに用いている。
【0011】
しかしながら、上記セパレータは、数μm程度の大きな孔径を有していることから、微短絡が起こりやすいことが予想され、セパレータの寿命、長期安全性が充分ではないという問題点の他に、不織布を使用しているため、セパレータの薄膜化が困難という問題点も有する。
【0012】
特許文献4には、インフレーション成形法により得られるポリマーフィルムを用いて微細多孔性セパレータを製造する方法が提案されている。具体的には、溶融状態にある円筒状ポリマーフィルムを押し出し、この円筒状ポリマーフィルムの内表面及び外表面に低温流体を流して固化させた後、上記ポリマーフィルムをアニーリング及び延伸することにより微細多孔性セパレータが製造されている。しかしながら、インフレーション成形法を用いた特許文献4の製造方法では、溶融状態にある円筒状ポリマーフィルムの押出及び冷却時に円筒状ポリマーフィルムの温度や厚みを均一に制御するのが困難であり、円筒状ポリマーフィルムの結晶化を高度且つ均一に行うことができない。したがって、特許文献4の方法により製造されてなる微細多孔性セパレータもまた透気度が低く、リチウムイオンの透過性が不充分であり、高出力を要するリチウムイオン電池に用いることは困難である。
【0013】
特許文献5には、プロピレン系樹脂を溶融混練した後に押出すことにより未延伸シートを得、この未延伸シートを冷却ロール上で徐冷した後に二軸延伸することにより、多孔性ポリプロピレンフィルムを製造する方法が開示されている。しかしながら、徐冷された未延伸シート中のプロピレン系樹脂が十分に配向されていないため、このような未延伸シートを二軸延伸しても、得られる多孔性ポリプロピレンフィルム中に多くの貫通孔を均一に発生させることができない。したがって、特許文献5の方法によって製造されてなる多孔性ポリプロピレンフィルムも透気度が低く、リチウムイオンの透過性が不充分であり、高出力を要するリチウムイオン電池に用いることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭63−199742号公報
【特許文献2】特開2007−273443号公報
【特許文献3】特開昭60−52号公報
【特許文献4】特開2000−340207号公報
【特許文献5】特開2010−242060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、リチウムイオンの透過性に優れており高性能のリチウムイオン電池を構成することができ、高出力用途に用いてもデンドライトによる正極と負極の短絡や放電容量の急激な低下が生じにくいプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法、及び上記方法によって製造されてなるプロピレン系樹脂微孔フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法は、下記工程、
プロピレン系樹脂を押出機に供給し、上記プロピレン系樹脂の融点よりも20℃高い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃高い温度以下にて溶融混練し、上記押出機に取り付けたTダイから押出すことによりプロピレン系樹脂フィルムを得る押出工程と、
上記Tダイから押出された上記プロピレン系樹脂フィルムを第1冷却ロールに供給し、上記プロピレン系樹脂フィルムを、表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下とされた第1冷却ロールの表面に載せて、上記第1冷却ロールの周速度(R)と上記プロピレン系樹脂フィルムの押出速度(R)との比(R/R)が5〜80となるように上記第1冷却ロールを回転させ、上記Tダイと上記第1冷却ロールとの間に存在する上記プロピレン系樹脂フィルムをその搬送方向に延伸する第1搬送工程と、
上記第1冷却ロールから送り出された上記プロピレン系樹脂フィルムを、表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下とされた第2冷却ロールに供給し、上記プロピレン系樹脂フィルムを上記第2冷却ロールの表面に載せて、上記第2冷却ロールの周速度(R2)と上記第1冷却ロールの周速度(R1)との比(R2/R1)が1.01〜5.00となるように上記第2冷却ロールを回転させ、上記第1冷却ロールと上記第2冷却ロールとの間に存在する上記プロピレン系樹脂フィルムをその搬送方向に延伸する第2搬送工程と、
上記第2搬送工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以下となるまで冷却する冷却工程と、
上記冷却工程後のプロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸することにより、上記プロピレン系樹脂フィルムに微小孔部を形成する延伸工程と、
上記延伸工程後の上記プロピレン系樹脂フィルムをアニーリングするアニーリング工程と、
を有することを特徴とする。以下、順を追って、本願発明の方法について説明する。
【0017】
図1は、本発明の方法における押出工程及び搬送工程に用いられる製造装置の一例を示したものである。図1の製造装置では、押出機1の前端にTダイ2が取り付けられている。Tダイ2の下方には、第1冷却ロール3と、この第1冷却ロール3の前方に所定間隔を存して第2冷却ロール5が配設されている。第1冷却ロール3の後側周面に第1ニップロール4が当接された状態で配設され、第1冷却ロール3と第1ニップロール4との接触面の垂直上方にTダイ2を配設して、Tダイ2の下向きに開口している押出口2aをこれらのロール3、4間に臨ませている。また、第2冷却ロール5の上側周面に第2ニップロール6が当接された状態で配設されている。
【0018】
そして、第1冷却ロール3と第1ニップロール4、第2冷却ロール5と第2ニップロール6は、それぞれプロピレン系樹脂フィルムAを挟んで送り出す一対のロールとなっている。第1冷却ロール3及び第2冷却ロール5はそれぞれ独立して周速度を制御して駆動させることができ、第1ニップロール4及び第2ニップロール6はそれぞれ第1冷却ロール3及び第2冷却ロール5に当接して従動回転することができる。また、第1ニップロール4の表面温度は第1冷却ロール3の表面温度と同じ温度となるように加熱されているのが好ましく、第2ニップロール6の表面温度も第2冷却ロール5の表面温度と同じ温度となるように加熱されているのが好ましい。
【0019】
[押出工程]
本発明の方法では、まず、プロピレン系樹脂を押出機1に供給して溶融混練した後、押出機1に取り付けたTダイ2からフィルム状に連続的に押し出すことによりプロピレン系樹脂フィルムAを得る押出工程を行う。
【0020】
(プロピレン系樹脂)
プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。プロピレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0021】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンなどが挙げられる。
【0022】
プロピレン系樹脂の重量平均分子量は、小さいと、プロピレン系樹脂微多孔フィルムの微小孔部の形成が不均一となることがあり、大きいと、成膜が不安定になることがあり、又、微小孔部が形成されにくくなる虞れがあるので、25万〜50万が好ましく、28万〜48万がより好ましい。
【0023】
プロピレン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、小さいと、プロピレン系樹脂微多孔フィルムの表面開口率が低くなることがあり、大きいと、プロピレン系樹脂微多孔フィルムの機械的強度が低下することがあるので、7.5〜12.0が好ましく、8.0〜11.5がより好ましく、8.0〜11.0が特に好ましい。
【0024】
ここで、プロピレン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、プロピレン系樹脂6〜7mgを採取し、採取したプロピレン系樹脂を試験管に供給した上で、試験管に0.05重量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)のo−DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えてプロピレン系樹脂濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0025】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転速度25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうさせてプロピレン系樹脂をBHTのo−DCB溶液に溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によってプロピレン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量を測定することができる。
【0026】
プロピレン系樹脂における重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC−8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR−H(20)HT×3本
TSKguardcolumn−HHR(30)HT×1本
移動相:o−DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500〜8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0027】
プロピレン系樹脂の融点は、低いと、プロピレン系樹脂微多孔フィルムの高温における機械的強度が低下することがあり、高いと、成膜が不安定になることがあるので、160〜170℃が好ましく、160〜165℃がより好ましい。
【0028】
プロピレン系樹脂における示差走査熱量分析(DSC)によって得られる融解熱量は、小さいと、プロピレン系樹脂の配向性が低下して、プロピレン系樹脂フィルムの延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムに均一に微小孔部を形成することができないことがあるので、85mJ/mg以上が好ましく、90mJ/mg以上がより好ましい。
【0029】
なお、プロピレン系樹脂の融点及びDSCによって得られる融解熱量は、下記の要領で測定された値をいう。先ず、プロピレン系樹脂10mgを採取する。次に、プロピレン系樹脂を0℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで加熱し、250℃にて3分間に亘って保持する。次に、プロピレン系樹脂を250℃から降温速度10℃/分にて0℃まで冷却して0℃にて3分間に亘って保持する。続いて、プロピレン系樹脂を0℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで再加熱し、この再加熱工程における融解ピークトップの温度を融点とし、融解ピークの総面積を算出し融解熱量とする。上記プロピレン系樹脂の示差走査熱量分析(DSC)は、例えば、セイコーインスツル社から商品名「DSC220C」にて市販されている装置を用いて行うことができる。
【0030】
(溶融混練)
プロピレン系樹脂を押出機にて溶融混練する際のプロピレン系樹脂の温度は、低いと、得られるプロピレン系樹脂微多孔フィルムの厚みが不均一となり或いはプロピレン系樹脂微多孔フィルムの表面平滑性が低下し、高いと、プロピレン系樹脂の配向性が低下してプロピレン系樹脂がラメラを充分に生成しない虞れがあるので、プロピレン系樹脂の融点よりも20℃高い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも100℃高い温度以下に限定されるが、プロピレン系樹脂の融点よりも25℃高い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも80℃高い温度以下であることが好ましい。
【0031】
プロピレン系樹脂を押出機1に取り付けたTダイ2から押出す際におけるプロピレン系樹脂フィルムの押出速度(R)は、プロピレン系樹脂フィルムの製膜安定性を考慮すると、0.05〜25m/分が好ましく、0.10〜15m/分がより好ましく、0.10〜1.00m/分が特に好ましい。
【0032】
なお、プロピレン系樹脂フィルムの押出速度R(m/分)は、Tダイ2から押し出されるプロピレン系樹脂の押出量E(kg/分)、プロピレン系樹脂の密度D(kg/m3)及びTダイ2の押出口2aの断面積A(m2)から、下記式により算出することができる。
(m/分)=E(kg/分)/[D(kg/m3)×A(m2)]
【0033】
[第1搬送工程]
本発明の方法では、次に、Tダイ2から押出されたプロピレン系樹脂フィルムAを、第1冷却ロール3に供給し、プロピレン系樹脂フィルムAを表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下とされた第1冷却ロール3の表面に載せて搬送する(第1搬送工程)。
【0034】
この第1搬送工程では、第1冷却ロール3の周速度(R)とプロピレン系樹脂フィルムAの押出速度(R)との比(R/R)が5〜80となるように第1冷却ロール3を回転させ、Tダイ2と第1冷却ロール3との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAをその搬送方向に延伸することにより、好ましくはその搬送方向に一軸延伸することにより、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を、プロピレン系樹脂フィルムAの搬送方向に高度に且つ均一に配向させることができる。その後、プロピレン系樹脂フィルムAを所定の表面温度に調整されている第1冷却ロール3上で一次冷却させることにより、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラを生成することができる。この時、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を予め配向させていることから、このプロピレ系樹脂の配向されている部分がラメラの生成を促進させることができる。
【0035】
なお、第1冷却ロール3上でプロピレン系樹脂フィルムAが滑ることを抑制し、後述する第2搬送工程において第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAの延伸を確実に行うために、Tダイ2から押出されたプロピレン系樹脂フィルムAを、第1冷却ロール3と第1ニップロール4によって挟んだ後、プロピレン系樹脂フィルムAを第1冷却ロール3の表面に載せて連続的に搬送するのが好ましい。
【0036】
第1冷却ロール3の表面温度は、プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下に限定されるが、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より75℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下がより好ましい。第1冷却ロール3の表面温度が低いと、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラを充分に生成しない虞れがある。又、第1冷却ロール3の表面温度が高いと、プロピレン系樹脂フィルムAが第1冷却ロール3から剥がれ難くなったり、プロピレン系樹脂フィルムのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまいラメラが崩れる虞れがある。
【0037】
Tダイ2出口におけるプロピレン系樹脂フィルムAの押出速度(R)に対する第1冷却ロール4の周速度(R)の比(R/R)は、5〜80に限定され、10〜70が好ましい。Tダイ2出口におけるプロピレン系樹脂フィルムAの押出速度(R)に対する第1冷却ロールの周速度(R)の比(R/R)が、小さいと、プロピレン系樹脂フィルムAに加わる張力が低下して、プロピレン系樹脂の分子配向が不充分となる虞れがあり、大きいと、プロピレン系樹脂の分子配向は高いものとなるが、プロピレン系樹脂フィルムの製膜安定性が低下し、得られるプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度や幅精度が低下する虞れがある。
【0038】
なお、第1冷却ロール3の周速度(m/分)は第1冷却ロール3の外周面上の任意の点が単位時間(分)あたりに移動する距離(m)を意味する。第1冷却ロールの周速度(m/分)の測定は、非接触式回転速度計(例えば、日本電産シンポ株式会社製 DT−105N)を用いて行うことができる。なお、後述する第2冷却ロール5及び第3冷却ロール5の周速度も同様に測定することができる。
【0039】
プロピレン系樹脂フィルムAが第1冷却ロール3から初めて剥離した時のプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラを十分に生成しないだけでなく、後工程で第1冷却ロール3と第2冷却ロール5とによるプロピレン系樹脂フィルムAの延伸の際にプロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子の配向にバラツキが生じる虞れがあり、高いと、プロピレン系樹脂フィルムAが第1冷却ロール3から剥がれ難くなったり、プロピレン系樹脂フィルムを構成しているプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまいラメラが崩れる虞れがあることから、プロピレン系樹脂の融点より100℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より10℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下がより好ましく、プロピレン系樹脂の融点より75℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下が特に好ましい。
【0040】
なお、プロピレン系樹脂フィルムAと第1冷却ロール3との接触時間を調整することにより、第1冷却ロール3から初めて剥離した時のプロピレン系樹脂フィルムAの温度を上記範囲内に調整することができる。
【0041】
また、プロピレン系樹脂フィルムAが第1冷却ロール3から剥離した後の第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、プロピレン系樹脂フィルムAの延伸を確実に行うために、プロピレン系樹脂の融点より100℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より10℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下がより好ましく、プロピレン系樹脂の融点より75℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下が特に好ましい。
【0042】
第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度を上記範囲内とするには、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間の距離を調整して、第1冷却ロール3から剥離したプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度の低下するのを抑制することにより行うのが好ましい。また、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAを保温するための手段を設けてもよい。このような保温手段としては、例えば、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAに熱風を吹きつける熱風加熱装置や、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAに近赤外線や遠赤外線などを照射する赤外線照射装置などが挙げられる。
【0043】
[第2搬送工程]
本発明の方法では、次に、第1冷却ロール3から送り出されたプロピレン系樹脂フィルムAを、第2冷却ロール5に供給し、プロピレン系樹脂フィルムAを表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下とされた第2冷却ロール5の表面に載せて搬送する(第2搬送工程)。
【0044】
この第2搬送工程においても、第2冷却ロール5の周速度(R2)と第1冷却ロール3の周速度(R1)との比(R2/R1)が1.01〜5.00となるように第2冷却ロール5を回転させ、上記第1冷却ロール3と上記第2冷却ロール5との間に存在する上記プロピレン系樹脂フィルムAをその搬送方向にさらに延伸することにより、好ましくはその搬送方向にさらに一軸延伸することにより、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を、プロピレン系樹脂フィルムAの搬送方向により配向させることができる。その後、プロピレン系樹脂フィルムAを所定の表面温度に調整されている第2冷却ロール5上で二次冷却させることにより、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラをさらに生成することができる。このように、第1搬送工程に続き、第2搬送工程においても、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を配向させた上で二次冷却することにより、プロピレン系樹脂のラメラの生成をさらに促進させることができる。
【0045】
なお、第1冷却ロール3から送り出されたプロピレン系樹脂フィルムAが第2冷却ロール5上で滑ることを抑制し、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAの延伸を確実に行うために、第1冷却ロール3から送り出されたプロピレン系樹脂フィルムAを第2冷却ロール5の表面に載せて連続的に搬送する際に、プロピレン系樹脂フィルムAを第2冷却ロール5及び第2ニップロール6により挟むことが好ましい。
【0046】
第2冷却ロール5の表面温度は、プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下に限定されるが、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下がより好ましい。第2冷却ロール5の表面温度が低いと、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラを充分に生成しない虞れがある。又、第2冷却ロール5の表面温度が高いと、プロピレン系樹脂フィルムAが第2冷却ロール5から剥がれ難くなったり、プロピレン系樹脂フィルムAのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまいラメラが崩れる虞れがある。
【0047】
第1冷却ロールの周速度(R)に対する第2冷却ロール5の周速度(R)の比(R/R)は、1.01〜5.00に限定されるが、1.01〜4.00が好ましく、1.03〜3.00がより好ましい。第1冷却ロールの周速度(R)に対する第2冷却ロール5の周速度(R)の比(R/R)が、小さいと、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAを十分に延伸することができず、プロピレン系樹脂フィルムAをプロピレン系樹脂分子を配向できない虞れがあり、大きいと、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAが幅方向に収縮する、いわゆるネックイン現象が生じる虞れがある。
【0048】
プロピレン系樹脂フィルムAが第2冷却ロール5から初めて剥離した時のプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラを十分に生成できていないだけでなく、後工程で第2冷却ロール5と第3冷却ロール7とによるプロピレン系樹脂フィルムAの延伸を行う場合にはプロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子の配向にバラツキが生じる虞れがあり、高いと、プロピレン系樹脂フィルムAが第2冷却ロール5から剥がれ難くなったり、プロピレン系樹脂フィルムのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまいラメラが崩れる虞れがあることから、プロピレン系樹脂の融点より100℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より10℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下がより好ましく、プロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下が特に好ましい。
【0049】
[第3搬送工程]
ここで、本発明の方法における押出工程及び搬送工程に用いられる製造装置の他の一例を図2に示す。図2の製造装置では、Tダイ2の下方に、第1冷却ロール3及び第2冷却ロール5の他に、さらに第3冷却ロール7が第2冷却ロール5の前方に所定間隔を存して配設され、第3冷却ロール7の下側周面に第3ニップロール8の上側周面が当接された状態で配設されている以外は、図1と同様の構成を有している。
【0050】
第3冷却ロール7と第3ニップロール8は、それぞれプロピレン系樹脂フィルムAを挟んで送り出す一対のロールとなっている。第3冷却ロール7及び第3ニップロール8は、それぞれ独立して周速度を制御して駆動することができ、第3冷却ロール7と第3ニップロール8は、それぞれプロピレン系樹脂フィルムAを後方に向かって送り出す方向に同一の周速度で回転している。また、第3ニップロール8の表面温度は第3冷却ロール7の表面温度と同じ温度となるように加熱されているのが好ましい。
【0051】
本発明の方法では、第2冷却ロール7から送り出されたプロピレン系樹脂フィルムAを後述する冷却工程で冷却させてもよいが、第2冷却ロール7から送り出されたプロピレン系樹脂フィルムAを、第3冷却ロール7に供給し、プロピレン系樹脂フィルムAを表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下とされた第3冷却ロール7の表面に載せて搬送するのが好ましい(第3搬送工程)。
【0052】
そして、この第3搬送工程においても、第3冷却ロール7の周速度(R)と第2冷却ロール5の周速度(R)との比(R/R)を1.01〜5.00となるように第3冷却ロール7を回転させ、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAをその搬送方向に延伸させることにより、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を、プロピレン系樹脂フィルムAの搬送方向にさらに配向させることができる。その後、プロピレン系樹脂フィルムAを所定の表面温度に調整されている第3冷却ロール7上で三次冷却させることにより、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラをさらに生成することができる。このように、第1搬送工程及び第2搬送工程に続き、第3搬送工程においても、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を配向させた上で三次冷却することにより、プロピレン系樹脂のラメラの生成をさらに促進させることができる。
【0053】
なお、第2冷却ロール5から送り出されたプロピレン系樹脂フィルムAが第3冷却ロール7上で滑ることを抑制し、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAの延伸を確実に行うために、第2冷却ロール5から送り出されたプロピレン系樹脂フィルムAを第3冷却ロール7の表面に載せて連続的に搬送する際に、プロピレン系樹脂フィルムAを第3冷却ロール7及び第3ニップロール8により挟むことが好ましい。
【0054】
第3冷却ロール7の表面温度は、プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下に限定されるが、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下がより好ましい。第3冷却ロール7の表面温度が低いと、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラを充分に生成しない虞れがある。又、第3冷却ロール7の表面温度が高いと、プロピレン系樹脂フィルムAが第3冷却ロール7から剥がれ難くなったり、プロピレン系樹脂フィルムAのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまいラメラが崩れる虞れがある。
【0055】
第2冷却ロール5の周速度(R)に対する第3冷却ロール7の周速度(R)の比(R/R)は、1.01〜5.00が好ましく、1.01〜4.00がより好ましく、1.05〜1.10が特に好ましい。第2冷却ロール5の周速度(R)に対する第3冷却ロール7の周速度(R)の比(R/R)が、小さいと、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAを十分に延伸することができず、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を配向できない虞れがあり、大きいと、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在するプロピレン系樹脂フィルムAが幅方向に収縮する、いわゆるネックイン現象が生じる虞れがある。
【0056】
また、第2冷却ロール5の周速度(R)に対する第3冷却ロール7の周速度(R)の比(R/R)は、第1冷却ロールの周速度(R)に対する第2冷却ロール5の周速度(R)の比(R/R)よりも低くするのが好ましい。周速度比(R/R)を周速度比(R/R)よりも低くすることにより、プロピレン系樹脂フィルムAをその搬送方向に均一に延伸させて、プロピレン系樹脂をプロピレン系樹脂フィルムAの搬送方向に高度に且つ均一に配向させることができる。
【0057】
プロピレン系樹脂フィルムAが第3冷却ロール7から初めて剥離した時のプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂分子を十分に配向できないだけでなく、プロピレン系樹脂分子の配向にバラツキが生じる虞れがあり、高いと、プロピレン系樹脂フィルムAが第3冷却ロール7から剥がれ難くなったり、プロピレン系樹脂フィルムのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまいラメラが崩れる虞れがあることから、プロピレン系樹脂の融点より100℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より10℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下がより好ましく、プロピレン系樹脂の融点より60℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下が特に好ましい。
【0058】
また、プロピレン系樹脂フィルムAが第2冷却ロール5から剥離した後の第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、プロピレン系樹脂フィルムAの延伸を十分に行うために、プロピレン系樹脂の融点より100℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より10℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点より80℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より20℃低い温度以下がより好ましく、プロピレン系樹脂の融点より70℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点より30℃低い温度以下が特に好ましい。
【0059】
第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度を上記範囲内とするには、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間の距離を調整して、第2冷却ロール5から剥離したプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度の低下を抑制することにより行うのが好ましい。また、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在しているプロピレン系樹脂フィルムAを保温するための手段を設けてもよい。なお、保温手段としては上述したのと同様の手段が用いられる。
【0060】
[冷却工程]
本発明の方法では、上述した第2搬送工程後のプロピレン系樹脂フィルムAを、好ましくは第3搬送工程後のプロピレン系樹脂フィルムAを、プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度未満に冷却する(冷却工程)。
【0061】
上述した搬送工程において、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂に配向を付与させながらプロピレン系樹脂フィルムAを所定温度に冷却した後、冷却工程においてプロピレン系樹脂フィルムAをプロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度未満に冷却することにより、プロピレン系樹脂フィルムAを冷却固化させると共に、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラをさらに生成することができる。冷却工程後のプロピレン系樹脂フィルムAでは十分に成長させた厚いラメラが形成されている。したがって、後述するプロピレン系樹脂フィルムの延伸工程において、ラメラ内ではなく、ラメラ間において亀裂を発生させ、この亀裂を起点として微小な貫通孔(微小孔部)を形成することができる。
【0062】
冷却されたプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度未満に限定されるが、プロピレン系樹脂の融点よりも140〜110℃低い温度が好ましく、プロピレン系樹脂の融点よりも135〜120℃低い温度がより好ましい。冷却されたプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度が、プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度より高いと、プロピレン系樹脂フィルムAを冷却固化させることができないだけでなく、プロピレン系樹脂フィルムAを構成しているプロピレン系樹脂がラメラを十分に形成できない虞れがある。
【0063】
[養生工程]
本発明の方法では、冷却工程を経たプロピレン系樹脂フィルムAは、後述する延伸工程の前に、養生させるのが好ましい(養生工程)。この養生工程により、プロピレン系樹脂フィルム中に生成されているラメラを成長させることができる。
【0064】
プロピレン系樹脂フィルムの養生温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの成長が促進されず、プロピレン系樹脂フィルムの延伸工程において、ラメラ間において微小な貫通孔が形成されにくく、高いと、プロピレン系樹脂フィルムのプロピレン系樹脂分子の配向が緩和してしまい、ラメラが崩れる虞れがあるので、プロピレン系樹脂の融点よりも30℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも5℃低い温度以下が好ましく、プロピレン系樹脂の融点よりも25℃低い温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下がより好ましい。
【0065】
プロピレン系樹脂フィルムの養生時間は、短いと、プロピレン系樹脂フィルムのラメラの成長を促進できず、プロピレン系樹脂フィルムの第一延伸工程において、ラメラ間において微小な貫通孔が形成されにくくなるので、充分な時間を確保することが好ましい。プロピレン系樹脂フィルムの養生時間は、一分以上が好ましい。
【0066】
プロピレン系樹脂フィルムの養生は、プロピレン系樹脂フィルムを走行させながら行ことができ、また、プロピレン系樹脂フィルムをロール状に巻き取った状態で行うこともできる。プロピレン系樹脂フィルムをロール状に巻き取った状態で養生させた場合には、養生工程後、プロピレン系樹脂フィルムをロール状に巻き取ったロールからプロピレン系樹脂フィルムを巻き出して次の延伸工程を行えばよい。
【0067】
冷却工程後、好ましくは養生工程後のプロピレン系樹脂フィルムAの複屈折率は、1.7×10-2以上が好ましく、2.0×10-2以上がより好ましい。プロピレン系樹脂フィルムAの複屈折率が小さいと、プロピレン系樹脂が十分に配向していないためラメラが十分に形成しておらず、プロピレン系樹脂微孔フィルムAの透気性が向上しにくくなることがある。
【0068】
なお、プロピレン系樹脂フィルムAの複屈折率は、次のようにして測定する。即ち、先ず、プロピレン系樹脂フィルムの厚みDをマイクロゲージを用いて測定する。
【0069】
次に、プロピレン系樹脂フィルムの表裏面にパラフィンワックスを全面的に塗布して光の乱反射による光線透過量の影響を除去する。厚みが1mmの二枚のガラス板をその厚み方向に重ね合わせ、ガラス板上に上記プロピレン系樹脂フィルムを載置する。
【0070】
しかる後、プロピレン系樹脂フィルムの光線透過率T(%)を複屈折率測定装置を用いて検光子135°、偏光子45°の条件下にて測定し、下記式に基づいて波長λが550nmにおける位相差Reを算出し、この位相差Reに基づいて複屈折率Δnを算出する。
位相差Re=550×arcsin(T1/2)/π
複屈折率Δn=Re/D
【0071】
[延伸工程]
本発明の方法では、冷却工程後のプロピレン系樹脂フィルムAを、好ましくは養生工程後のプロピレン系樹脂フィルムAを延伸する(延伸工程)。
【0072】
(第一延伸工程)
延伸工程では、プロピレン系樹脂フィルムAを一軸延伸する(第一延伸工程)。第一延伸工程では、プロピレン系樹脂フィルムAを好ましくは搬送方向に一軸延伸する。第一延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムA中のラメラは殆ど溶融しておらず、延伸によってラメラ同士を離間させることによって、ラメラ間の非結晶部において効率的に微細な亀裂を独立して生じさせ、この亀裂を起点として確実に多数の微小孔部を形成させる。
【0073】
第一延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、低いと、延伸時にプロピレン系樹脂フィルムが破断する虞れがあり、高いと、ラメラ間の非結晶部において亀裂が発生しにくくなるので、−20〜100℃が好ましく、0〜80℃がより好ましい。
【0074】
第一延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムAの延伸倍率は、小さいと、ラメラ間の非結晶部において微小孔部が形成されにくくなり、大きいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムに微小孔部が均一に形成されないことがあるので、1.05〜1.60倍が好ましく、1.10〜1.50倍がより好ましい。
【0075】
なお、本発明において、プロピレン系樹脂フィルムAの延伸倍率とは、延伸後のプロピレン系樹脂フィルムAにおける延伸方向の長さを延伸前のプロピレン系樹脂フィルムの長さで除した値をいう。
【0076】
プロピレン系樹脂フィルムAの第一延伸工程における延伸速度は、小さいと、ラメラ間の非結晶部において微小孔部が均一に形成されにくくなるので、20%/分以上が好ましく、大き過ぎると、プロピレン系樹脂フィルムAが破断する虞れがあるので、20〜3000%/分がより好ましく、20〜70%/分が特に好ましい。
【0077】
なお、本発明において、プロピレン系樹脂フィルムAの延伸速度とは、単位時間当たりのプロピレン系樹脂フィルムAの延伸方向における寸法の変化割合をいう。
【0078】
上記第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの延伸方法としては、プロピレン系樹脂フィルムAをその搬送方向に一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、プロピレン系樹脂フィルムAを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。
【0079】
(第二延伸工程)
次いで、第一延伸工程における一軸延伸後のプロピレン系樹脂フィルムAに、プロピレン系樹脂フィルムAの表面温度が第一延伸工程での一軸延伸時のプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度よりも高く且つプロピレン系樹脂の融点より10〜100℃低い温度以下にて一軸延伸処理を施すことが好ましい(第二延伸工程)。第二延伸工程においても、プロピレン系樹脂フィルムAを好ましくは搬送方向に一軸延伸する。このように、第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度よりも高い表面温度にてプロピレン系樹脂フィルムAに第一延伸工程時と同一方向に延伸処理を施すことによって、第一延伸工程にてプロピレン系樹脂フィルムに形成された多数の微小孔部を成長させることができる。
【0080】
第二延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、低いと、第一延伸工程においてプロピレン系樹脂フィルムAに形成された微小孔部が成長し難く、プロピレン系樹脂微孔フィルムAの透気性が向上しないことがあり、高いと、第一延伸工程においてプロピレン系樹脂フィルムAに形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムAの透気性が低下することがあるので、第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度よりも高く且つプロピレン系樹脂の融点より10〜100℃低い温度以下が好ましく、第一延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度よりも高く且つプロピレン系樹脂の融点より15〜80℃低い温度以下がより好ましい。
【0081】
第二延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムAの延伸倍率は、小さいと、第一延伸工程時にプロピレン系樹脂フィルムAに形成された微小孔部が成長し難く、プロピレン系樹脂微孔フィルムAの透気性が低下することがあり、大きいと、第一延伸工程においてプロピレン系樹脂フィルムAに形成された微小孔部が閉塞してしまい、かえってプロピレン系樹脂微孔フィルムAの透気性が低下することがあるので、1.05〜3.00倍が好ましく、1.8〜2.5倍がより好ましい。
【0082】
第二延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムAの延伸速度は、大きいと、プロピレン系樹脂フィルムAに微小孔部が均一に形成されないことがあるので、500%/分以下が好ましく、400%/分以下がより好ましく、60%/分以下が特に好ましい。また、第二延伸工程において、プロピレン系樹脂フィルムの延伸速度は、小さいと、ラメラ間の非結晶部において微小孔部が均一に形成されにくくなるので、15%/分以上とするのが好ましい。
【0083】
上記第二延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの延伸方法としては、プロピレン系樹脂フィルムAをその搬送方向に一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、プロピレン系樹脂フィルムAを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。
【0084】
[アニーリング工程]
第二延伸工程にて一軸延伸が施されたプロピレン系樹脂フィルムAはアニール処理が施される(アニーリング工程)。このアニーリング工程は、上述した延伸工程において加えられた延伸によってプロピレン系樹脂フィルムAに生じた残存歪みを緩和して、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムに加熱による熱収縮が生じるのを抑えるために行われる。
【0085】
アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、低いと、プロピレン系樹脂フィルムA中に残存した歪みの緩和が不充分となって、得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムの加熱時における寸法安定性が低下することがあり、高いと、延伸工程で形成された微小孔部が閉塞してしまう虞れがあるので、延伸工程時のプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度以上で且つプロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下が好ましい。なお、延伸工程を複数回に行う場合、アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度は、全ての延伸工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度のうちプロピレン系樹脂フィルムAの表面温度が最も高い温度以上となるようにするのが好ましい。
【0086】
アニーリング工程におけるプロピレン系樹脂フィルムAの収縮率は、大きいと、プロピレン系樹脂フィルムAにたるみを生じて均一にアニールできなくなったり、微小孔部の形状が保持できなくなったりすることがあるので、30%以下に設定することが好ましい。なお、プロピレン系樹脂フィルムAの収縮率とは、アニーリング工程時における延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムAの収縮長さを、第二延伸工程後の延伸方向におけるプロピレン系樹脂フィルムAの長さで除して100を乗じた値をいう。
【0087】
[プロピレン系樹脂微孔フィルム]
上述した本発明の方法により得られたプロピレン系樹脂微孔フィルムは、多数の微小孔部がフィルム表裏面を貫通して形成され、優れた透気性を有している。従って、プロピレン系樹脂微孔フィルムを例えば、リチウムイオン電池のセパレータとして用いると、リチウムイオンは、プロピレン系樹脂微孔フィルムを円滑に且つ均一に通過することができるので、得られるリチウムイオン電池は優れた電池性能を発揮する。
【0088】
更に、プロピレン系樹脂微孔フィルムは、多数の微小孔部が独立して形成されているので、上述の優れた透気性を維持しており、リチウムイオンが円滑に且つ均一に透過し易く、デンドライトが生成しにくく、更に、優れた機械的強度も有しており、リチウムイオン電池の充放電によって万一、負極端面にリチウムのデンドライトが生じたとしても、デンドライトがプロピレン系樹脂微孔フィルムを突き破ることはなく、デンドライトショートを確実に防止し、電池容量の劣化などの問題を生じることを未然に防止することができる。
【0089】
プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度は、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムのリチウムイオンの透過性が低下して、プロピレン系樹脂微孔フィルムを用いたリチウムイオン電池の電池性能が低下することがあり、大きいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムのフィルム強度が低下するので、40〜400s/100mLが好ましく、100〜400s/100mLがより好ましく、100〜320s/100mLが特に好ましい。
【0090】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムの透気度は、JIS P8117に準拠して23℃、相対湿度65%にて測定された値をいう。
【0091】
プロピレン系樹脂微多孔フィルムの表面開口率は、透気度を制御する主要な因子であり、微小孔部のサイズと単位面積当たりの微小孔部の数によって決まる。プロピレン系樹脂微多孔フィルムの透気度を高くするためには微小孔部のサイズを大きくするか又は微小孔部の数を増やせばよいが、後者の制御は前者ほど容易でなく、従来の微孔フィルムにおいては透気度の高いフィルムほど微孔のサイズが大きくなる傾向にあった。その結果、従来の微孔フィルムは、局所リチウムイオン移動による抵抗値の上昇やデンドライトの発生、フィルム強度の低下といった課題を抱えるものであった。そこで、本発明のプロピレン系樹脂微多孔フィルムでは、微小孔部のサイズを低抵抗が確保でき、デンドライトの生じにくい水準に維持しつつ、プロピレン系樹脂微多孔フィルムの単位面積当たりの微小孔部の数を増やすことにより上記所定の透気度を有するプロピレン系樹脂微多孔フィルムを得ることに成功したものであり、表面開口率は25〜55%が好ましく、30〜50%がより好ましい。
【0092】
なお、プロピレン系樹脂微多孔フィルムの表面開口率は下記の要領で測定することができる。先ず、プロピレン系樹脂微多孔フィルム表面の任意の部分において、縦9.6μm×横12.8μmの平面長方形状の測定部分を定め、この測定部分を倍率1万倍にて写真撮影する。
【0093】
次いで、測定部分内に形成された各微小孔部を、長辺と短辺の何れか一方が延伸方向に平行となる長方形で囲む。この長方形は、長辺及び短辺が共に最小寸法となるように調整する。上記長方形の面積を各微小孔部の開口面積とする。各微小孔部の開口面積を合計して微小孔部の総開口面積S(μm2)を算出する。この微小孔部の総開口面積S(μm2)を122.88μm2(9.6μm×12.8μm)で除して100を乗じた値を表面開口率(%)とする。なお、測定部分と、測定部分でない部分とに跨がって存在している微小孔部については、微小孔部のうち、測定部分内に存在している部分のみを測定対象とする。
【0094】
プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の最大長径は、大きいと、局所的なリチウムイオンの移動によってデンドライトショートが発生する虞れがあり、又、プロピレン系樹脂微孔フィルムの機械的強度が低下する虞れがあるので、1μm以下が好ましく、900nm以下がより好ましく、100nm〜900nmが特に好ましい。
【0095】
プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の平均長径は、大きいと、デンドライトショートが発生する虞れがあるので、500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、10nm〜400nmが特に好ましい。
【0096】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムにおける微小孔部の開口端の最大長径及び平均長径は次のようにして測定される。先ず、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面をカーボンコーティングする。次に、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面における任意の10個所を走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万にて撮影する。なお、撮影範囲は、プロピレン系樹脂微孔フィルムの表面において縦9.6μm×横12.8μmの平面長方形の範囲とする。
【0097】
得られた写真に現れている各微小孔部の開口端の長径を測定する。微小孔部における開口端の長径のうち、最大の長径を微小孔部の開口端の最大長径とする。各微小孔部における開口端の長径の相加平均値を微小孔部の開口端の平均長径とする。なお、微小孔部の開口端の長径とは、この微小孔部の開口端を包囲し得る最小径の真円の直径とする。撮影範囲と、撮影範囲でない部分とに跨がって存在している微小孔部については、測定対象から除外する。
【0098】
プロピレン系樹脂微孔フィルムの孔密度は、上記透気度範囲を満たし且つ微小孔部の開口端の最大長径及び平均長径が上記範囲を満たすために自ずと下限値が制約されるものであり、小さいと、プロピレン系樹脂微孔フィルムの物性(透気度、微小孔部の開口端の最大長径又は微小孔部の開口端の平均長径)を満足しなくなるので、15個/μm2以上が好ましく、17個/μm2以上がより好ましい。
【0099】
なお、プロピレン系樹脂微孔フィルムの孔密度は、下記の要領で測定する。先ず、プロピレン系樹脂微孔フィルム表面の任意の部分において、縦9.6μm×横12.8μmの平面長方形状の測定部分を定め、この測定部分を倍率1万倍にて写真撮影する。そして、測定部分において微小孔部の個数を測定し、この個数を122.88μm2(9.6μm×12.8μm)で除すことによって孔密度を算出することができる。なお、測定部分と、測定部分でない部分とに跨がって存在している微小孔部は0.5個として数える。
【発明の効果】
【0100】
本発明の方法によれば、優れた透気性を有しているプロピレン系樹脂微孔フィルムを容易に製造することができる。このようなプロピレン系樹脂微孔フィルムによれば、例えば、リチウムイオン電池のセパレータに用いた場合にはリチウムイオンの通過を円滑で且つ均一なものとし、リチウムイオン電池は優れた電池性能を有していると共に、デンドライトショートの発生も概ね防止することができ、長期間に亘って安定した電池性能を有するリチウムイオン電池を構成することができる。
【0101】
特に、本発明の方法により得られるプロピレン系樹脂微孔フィルムをセパレータに用いることによって、高出力用途においても放電容量の急激な低下やデンドライトショートの発生が概ね防止された高性能な電池性能を有するリチウムイオン電池を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の方法における押出工程及び搬送工程に用いられる製造装置の一例を示した模式側面図である。
【図2】本発明の方法における押出工程及び搬送工程に用いられる製造装置の他の一例を示した模式側面図である。
【図3】比較例1の方法における押出工程及び搬送工程に用いられる製造装置の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0103】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0104】
[実施例1]
(押出工程)
図1に示した製造装置を用いて、冷却されたホモポリプロピレンフィルムAを得た。具体的には、表1に示した重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、融点、及びDSCによって得られる融解熱量を有するホモポリプロピレンを押出機1に供給して樹脂温度195℃にて溶融混練し、押出機1の前端に取り付けられたTダイ2から押出速度(R)0.31m/分でホモポリプロピレンフィルムAを押出した。
【0105】
(第1搬送工程)
Tダイ2から押し出されたホモポリプロピレンフィルムAを第1冷却ロール3と第1ニップロール4によって挟み、ホモポリプロピレンフィルムAを第1冷却ロール3の前方円弧長に亘って密着させた状態で、ホモポリプロピレンフィルムAを積極的に張引しながら前方に送り出すことにより、ホモポリプロピレンフィルムAを連続的に搬送した。
【0106】
なお、第1冷却ロール3の表面温度は120℃に保持した。また、第1ニップロール4の表面温度は第1冷却ロール3の表面温度と同じ温度にした。第1冷却ロール3はその周速度(R)が15m/分となるように回転させ、Tダイ2出口におけるプロピレン系樹脂フィルムAの押出速度(R)に対する第1冷却ロール4の周速度(R)の比(R/R)は48とした。また、ホモポリプロピレンフィルムAが第1冷却ロール3から初めて剥離した時のホモポリプロピレンフィルムAの表面温度は120℃であった。そして、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在するホモポリプロピレンフィルムAの表面温度が110℃未満に冷却されないように、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間の距離は予め調整した。
【0107】
(第2搬送工程)
次に、第1冷却ロール3から送り出されたホモポリプロピレンフィルムAを第2冷却ロール5に供給し、ホモポリプロピレンフィルムAを第2冷却ロール5の表面に載せた後、第2冷却ロール5と第2ニップロール6との間に供給して第2冷却ロール5及び第2ニップロール6によって挟み、ホモポリプロピレンフィルムAを第2冷却ロール5の上方円弧長に亘って密着させた状態で、ホモポリプロピレンフィルムAを積極的に張引しながら前方に送り出すことにより、プロピレン系樹脂フィルムAを連続的に搬送した。
【0108】
なお、第2冷却ロール5の表面温度は120℃に保持した。第2冷却ロール5はその周速度(R)が23m/分となるように回転させ、第1冷却ロール3の周速度(R)に対する第2冷却ロール5の周速度(R)の比(R/R)は1.53とした。また、ホモポリプロピレンフィルムAが第2冷却ロール5から初めて剥離した時のホモポリプロピレンフィルムAの表面温度は120℃であった。
【0109】
(冷却工程)
次に、第2冷却ロール5から送り出されたホモポリプロピレンフィルムAをその表面温度が30℃となるまで冷却した。冷却後のホモポリプロピレンフィルムAは、厚みが30μmであり、幅が200mmであった。
【0110】
(養生工程)
得られたホモポリプロピレンフィルムAを熱風炉中に供給して、ホモポリプロピレンフィルムをその表面温度が150℃となるようにして24時間に亘って養生した。
【0111】
(第一延伸工程)
次に、ホモポリプロピレンフィルムAを一軸延伸装置により表面温度が23℃となるようにして50%/分の延伸速度にて延伸倍率1.2倍に搬送方向に一軸延伸した。
【0112】
(第二延伸工程)
続いて、ホモポリプロピレンフィルムAを一軸延伸装置により表面温度が120℃となるようにして42%/分の延伸速度にて延伸倍率2倍に搬送方向に一軸延伸した。
【0113】
(アニーリング工程)
しかる後、ホモポリプロピレンフィルムAをその表面温度が130℃となるように且つホモポリプロピレンフィルムAに張力が加わらないようにして10分間に亘って放置して、ホモポリプロピレンフィルムAにアニールを施して厚みが21μmのプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た。なお、アニーリング工程におけるホモポリプロピレンフィルムAの収縮率は20%とした。
【0114】
[実施例2]
表1に示した重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、融点、及びDSCによって得られる融解熱量を有するホモポリプロピレンを用い、押出工程におけるホモポリプロピレンを溶融混練する際の樹脂温度及び押出速度、第1搬送工程及び第2搬送工程における冷却ロール3、5の表面温度及び周速度をそれぞれ表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た。
【0115】
[実施例3]
(押出工程)
図2に示した製造装置を用いて、冷却されたホモポリプロピレンフィルムAを得た。具体的には、表1に示した重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、融点、及びDSCによって得られる融解熱量を有するホモポリプロピレンを押出機1に供給して樹脂温度190℃にて溶融混練し、押出機1の先端に取り付けられたTダイ2から押出速度(R)0.68m/分でホモポリプロピレンフィルムAを押出した。
【0116】
(第1搬送工程)
Tダイ2から押し出されたホモポリプロピレンフィルムAを第1冷却ロール3と第1ニップロール4によって挟み、ホモポリプロピレンフィルムAを第1冷却ロール3の前方円弧長に亘って密着させた状態で、ホモポリプロピレンフィルムAを積極的に張引しながら前方に送り出すことにより、ホモポリプロピレンフィルムAを連続的に搬送した。
【0117】
なお、第1冷却ロール3の表面温度は100℃に保持した。また、第1ニップロール4の表面温度は第1冷却ロール3の表面温度と同じ温度にした。第1冷却ロール3はその周速度(R)が10m/分となるように回転させ、Tダイ2出口におけるプロピレン系樹脂フィルムAの押出速度(R)に対する第1冷却ロール4の周速度(R)の比(R/R)は15とした。また、ホモポリプロピレンフィルムAが第1冷却ロール3から初めて剥離した時のホモポリプロピレンフィルムAの表面温度は100℃であった。そして、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間に存在するホモポリプロピレンフィルムAの表面温度が90℃未満に冷却されないように、第1冷却ロール3と第2冷却ロール5との間の距離は予め調整した。
【0118】
(第2搬送工程)
次に、第1冷却ロール3から送り出されたホモポリプロピレンフィルムAを第2冷却ロール5に供給し、ホモポリプロピレンフィルムAを第2冷却ロール5の表面に載せた後、第2冷却ロール5と第2ニップロール6との間に供給して第2冷却ロール5及び第2ニップロール6によって挟み、ホモポリプロピレンフィルムAを第2冷却ロール5の上方円弧長に亘って密着させた状態で、ホモポリプロピレンフィルムAを積極的に張引しながら前方に送り出すことにより、プロピレン系樹脂フィルムAを連続的に搬送した。
【0119】
なお、第2冷却ロール5の表面温度は120℃に保持した。第2冷却ロール5はその周速度(R)が25m/分となるように回転させ、第1冷却ロール3の周速度(R)に対する第2冷却ロール5の周速度(R)の比(R/R)は2.50とした。また、ホモポリプロピレンフィルムAが第2冷却ロール5から初めて剥離した時のホモポリプロピレンフィルムAの表面温度は120℃であった。
【0120】
(第3搬送工程)
その後、第2冷却ロール5から送り出されたホモポリプロピレンフィルムAを第3冷却ロール7に供給し、ホモポリプロピレンフィルムAを第3冷却ロール7の表面に載せた後、第3冷却ロール7と第3ニップロール8との間に供給して第3冷却ロール7及び第3ニップロール8によって挟み、ホモポリプロピレンフィルムAを第3冷却ロール7の下方円弧長に亘って密着させた状態で、ホモポリプロピレンフィルムAを積極的に張引しながら前方に送り出すことにより、プロピレン系樹脂フィルムAを連続的に搬送した。
【0121】
なお、第3冷却ロール7の表面温度は110℃に保持した。第3冷却ロール7はその周速度(R)が27m/分となるように回転させ、第2冷却ロール5の周速度(R)に対する第3冷却ロール7の周速度(R)の比(R/R)は1.08とした。また、ホモポリプロピレンフィルムAが第3冷却ロール7から初めて剥離した時のホモポリプロピレンフィルムAの表面温度は110℃であった。そして、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間に存在するホモポリプロピレンフィルムAの表面温度が100℃未満に冷却されないように、第2冷却ロール5と第3冷却ロール7との間の距離は予め調整した。
【0122】
(冷却工程)
次に、第3冷却ロール5から送り出されたホモポリプロピレンフィルムAをその表面温度が30℃となるまで冷却した。冷却後のホモポリプロピレンフィルムAは、厚みが30μmであり、幅が200mmであった。
【0123】
そして、冷却後のホモポリプロピレンフィルムAを、実施例1と同様にして養生工程、第一延伸工程、第二延伸工程、及びアニーリング工程を実施することにより、プロピレン系樹脂微孔フィルムを得た。
【0124】
[比較例1]
図3に示した製造装置を用いて、冷却されたホモポリプロピレンフィルムAを得た。なお、図3に示した製造装置は、第2冷却ロール5及び第2ニップロール6が配設されていないこと以外は、図1に示した装置と同様の構成を有している。
【0125】
具体的には、表1に示した重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、融点、及びDSCによって得られる融解熱量を有するホモポリプロピレンを押出機1に供給して樹脂温度200℃にて溶融混練し、押出機1の前端に取り付けられたTダイ2から押出速度(R)0.20m/分でホモポリプロピレンフィルムAを押出した。
【0126】
(第1搬送工程)
Tダイ2から押し出されたホモポリプロピレンフィルムAを第1冷却ロール3と第1ニップロール4によって挟み、ホモポリプロピレンフィルムAを第1冷却ロール3の前方円弧長に亘って密着させた状態で、ホモポリプロピレンフィルムAを積極的に張引しながら前方に送り出すことにより、ホモポリプロピレンフィルムAを連続的に搬送した。
【0127】
なお、第1冷却ロール3の表面温度は130℃に保持した。また、第1ニップロール4の表面温度は第1冷却ロール3の表面温度と同じ温度にした。第1冷却ロール3はその周速度(R)が30m/分となるように回転させ、Tダイ2出口におけるプロピレン系樹脂フィルムAの押出速度(R)に対する第1冷却ロール4の周速度(R)の比(R/R)は150とした。また、ホモポリプロピレンフィルムAが第1冷却ロール3から初めて剥離した時のホモポリプロピレンフィルムAの表面温度は130℃であった。
【0128】
そして、第1冷却ロール3から送り出されたホモポリプロピレンフィルムAを、実施例1と同様にして冷却工程、養生工程、第一延伸工程、第二延伸工程、及びアニーリング工程を実施することにより、プロピレン系樹脂微孔フィルムを得た。なお、冷却工程後のホモポリプロピレンフィルムAにはネックインが発生し、ホモポリプロピレンフィルムAの搬送方向における両端部の厚みが中央部よりも厚くなっており、ホモポリプロピレンフィルムAの成膜安定性は不良であった。また、養生工程後のホモポリプロピレンフィルムAの複屈折率のバラツキも大きかった。
【0129】
[比較例2]
表1に示した重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、融点、及びDSCによって得られる融解熱量を有するホモポリプロピレンを用い、押出工程におけるホモポリプロピレンを溶融混練する際の樹脂温度、押出速度、第1搬送工程及び第2搬送工程における冷却ロール3、5の表面温度及び周速度をそれぞれ表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてプロピレン系樹脂微孔フィルムを得た。しかしながら、養生工程後のホモポリプロピレンフィルムAの複屈折率が低く、微小孔部がほとんど形成していないために透気度が高すぎるプロピレン系樹脂微孔フィルムが得られた。
【0130】
[比較例3]
表1に示した重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、融点、及びDSCによって得られる融解熱量を有するホモポリプロピレンを用い、押出工程におけるホモポリプロピレンを溶融混練する際の樹脂温度、押出速度、第1搬送工程及び第2搬送工程における冷却ロール3、5の表面温度及び周速度をそれぞれ表1の通りに変更した以外は実施例1と同様にしてプロピレン系樹脂微孔フィルムの作製を試みた。しかしながら、搬送工程において、ホモポリプロピレンフィルムAが第2冷却ロール5に巻き付いて、ホモポリプロピレンフィルムAを第2冷却ロールから剥がすことができず、プロピレン系樹脂微孔フィルムを得ることができなかった。
【0131】
養生工程後のホモポリプロピレンフィルムAの複屈折率、プロピレン系樹脂微孔フィルム透気度、表面開口率、微小孔部の開口端の最大長径及び平均長径、並びに孔密度を上述の要領で測定し、その結果を表1に示した。なお、比較例2で得られたプロピレン系樹脂微孔フィルムでは、微小孔部がほとんど形成していなかったため微小孔部の開口端の最大長径及び平均長径の測定を行うことができなかった。
【0132】
【表1】

【符号の説明】
【0133】
1 押出機
2 Tダイ
2a 押出口
3 第1冷却ロール
4 第1ニップロール
5 第2冷却ロール
6 第2ニップロール
7 第3冷却ロール
8 第3ニップロール
A プロピレン系樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系樹脂を押出機に供給し、上記プロピレン系樹脂の融点よりも20℃高い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃高い温度以下にて溶融混練し、上記押出機に取り付けたTダイから押出すことによりプロピレン系樹脂フィルムを得る押出工程と、
上記Tダイから押出された上記プロピレン系樹脂フィルムを第1冷却ロールに供給し、上記プロピレン系樹脂フィルムを、表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下とされた第1冷却ロールの表面に載せて、上記第1冷却ロールの周速度(R)と上記プロピレン系樹脂フィルムの押出速度(R)との比(R/R)が5〜80となるように上記第1冷却ロールを回転させ、上記Tダイと上記第1冷却ロールとの間に存在する上記プロピレン系樹脂フィルムをその搬送方向に延伸する第1搬送工程と、
上記第1冷却ロールから送り出された上記プロピレン系樹脂フィルムを、表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下とされた第2冷却ロールに供給し、上記プロピレン系樹脂フィルムを上記第2冷却ロールの表面に載せて、上記第2冷却ロールの周速度(R2)と上記第1冷却ロールの周速度(R1)との比(R2/R1)が1.01〜5.00となるように上記第2冷却ロールを回転させ、上記第1冷却ロールと上記第2冷却ロールとの間に存在する上記プロピレン系樹脂フィルムをその搬送方向に延伸する第2搬送工程と、
上記第2搬送工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が上記プロピレン系樹脂の融点よりも100℃低い温度未満となるまで冷却する冷却工程と、
上記冷却工程後のプロピレン系樹脂フィルムを一軸延伸することにより、上記プロピレン系樹脂フィルムに微小孔部を形成する延伸工程と、
上記延伸工程後の上記プロピレン系樹脂フィルムをアニーリングするアニーリング工程とを有することを特徴とするプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。
【請求項2】
プロピレン系樹脂は、重量平均分子量が25万〜50万であり、分子量分布が7.5〜12.0であり、且つ融点が160〜170℃であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。
【請求項3】
延伸工程が、プロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が−20〜100℃にて搬送方向に1.05〜1.60倍に延伸する第1延伸工程と、上記第1延伸工程後のプロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が上記第1延伸工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度よりも高く且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10〜100℃低い温度にて搬送方向に1.05〜3.00倍に延伸する第2延伸工程とを含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。
【請求項4】
アニーリング工程において、プロピレン系樹脂フィルムをその表面温度が延伸工程時のプロピレン系樹脂フィルムの表面温度以上で且つ上記プロピレン系樹脂の融点よりも10℃低い温度以下にてアニーリングすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造されてなることを特徴とするプロピレン系樹脂微孔フィルム。
【請求項6】
透気度が40〜400s/100mLで且つ表面開口率が25〜55%であることを特徴とする請求項5に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルム。
【請求項7】
微小孔部の開口端の最大長径が1μm以下で且つ平均長径が500nm以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルム。
【請求項8】
孔密度が15個/μm2以上であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂微孔フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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