説明

プローブの固定化方法

【課題】プローブの変性を抑制したプローブの固定化方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】基板11にプローブ12を固定化するためのプローブの固定化方法であって、基板11とプローブ12とを準備する工程と、基板11を処理することで化学反応を伴わずプローブ12を基板11に固定化するプローブの固定化方法からなるものである。これにより、プローブ12が固定化する際に、化学反応を伴うことがなくプローブ12を自然反応的に基板11に吸着し固定することができるため、化学反応におけるpHや温度の変化に伴ったプローブ12の変性を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAアレイ、プロテインアレイ、糖鎖アレイなどに用いられるアレイ基板に固定されるプローブの固定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種診断チップやDNAアレイ、プロテインアレイ、糖鎖アレイなどに用いられるアレイ基板に用いられるアレイチップの構築のために、核酸、ペプチド、抗体、レクチンなどのプローブを固定化することが有用視されている。
【0003】
従来、基板表面に抗体などのプローブを固定化する技術としては、シランカップリング反応が知られている。これは、例えば、固相担体と、例えば、3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物のような、酸無水物官能基を有するシランカップリング剤とを接触させること、前記接触後の固相担体を0℃〜60℃の温度範囲下に保持しながら、前記酸無水物官能基に対する前記生理活性物質の結合処理を行うこと、を含むことによって、シランカップリング法によってプローブを固定化することができる。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−229319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のプローブの固定化方法においては、化学反応を伴うことによって、プローブの機能を最大限に活用できない場合があった。
【0007】
すなわち、シランカップリング反応は手順が煩雑であり、プローブを保持していた溶媒をシランカップリング用の試薬に置換する必要があり、pH、塩濃度、温度の変化や界面活性剤の影響によりプローブが変性してしまうことも考えられる。このように化学反応により官能基を基板に付加するため、工程が煩雑になり手間がかかると共に、固定化基板ロット毎のばらつきを生むという問題を有していた。
【0008】
さらに、シランカップリング反応を用いた場合、基板と結合するプローブ面を特定することができないので、上記反応方法ではプローブが基板に固定化される向きを制御することは難しい。すなわち、化学反応によく用いられるシランカップリング法は、基板と結合するプローブ面を特定できない上に、プローブと基板の間に長いリンカーを有することになるので、プローブの配向が困難となる。
【0009】
そこで本発明は、プローブの変性を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明のプローブの固定化方法は、特に化学反応を伴わず、自然反応的あるいは物理的に基板を処理することでプローブを基板に吸着、固定化する工程を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の基板を物理的に処理することにより、プローブを自然反応的に基板に吸着し固定することができるため、化学反応におけるpHや温度の変化に伴ったプローブの変性を抑制することが可能となる。さらに、化学反応を伴わないため工程数の軽減、測定時における固定化基板ロット毎のばらつきを軽減することができる。さらに、プローブと基板間の距離をごく短くすることを可能とし、プローブの配向を可能にするという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるプローブの固定化基板の断面模式図
【図2】(a)、(b)実施例1におけるプローブの固定化方法を示すための断面図
【図3】(a)、(b)実施例1におけるプローブの固定化方法を示すための断面図
【図4】実施例1におけるプローブの固定化基板の断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施例1)
以下、本実施例におけるプローブの固定化方法について説明する。
【0014】
図1に本実施例のプローブの固定化方法において固定化された固定化基板の断面模式図を示す。
【0015】
固定化基板10には、基板11の表面にある表面分子とプローブ12のアルデヒド基とが共有結合することでプローブ12が固定化されている。
【0016】
次に、図2及び図3を用いて本実施例におけるプローブの固定化方法を示す。
【0017】
まず、基板11と、固定化するためのプローブ12とを準備し、準備した基板11にプラズマ処理をすることで、ラジカル化した官能基(基板の官能基13)を基板11に付加する。例えば、図2(a)に示すように、シリコン、ガラス、石英、酸化シリコン、酸窒化シリコン、のいずれからなるか、あるいは、これらのうちのいずれかの混合物よりなる基板11を、酸素プラズマによって処理するとラジカル化された水酸基(−OH)(基板の官能基13)が多数形成される。もしくは、図3(a)に示すように、窒化シリコン、酸窒化シリコンあるいはこれらの混合物よりなる基板11を、笑気ガスプラズマ、もしくはNOxプラズマ、もしくは窒素と水素の混合プラズマによって処理するとラジカル化されたアミン基(−NH2)(基板の官能基13)が多数形成される。あるいは、基板11に酸素プラズマ処理によってラジカル化された水酸基(−OH)を形成し、その後窒素プラズマ処理によってラジカル化された−ON基を形成させてもよい。なお、プラズマは、チャンバー内に不活性気体ガスや反応性ガス圧力を一定の減圧状態に保ち、電極間に印加した直流電圧や高周波電圧、あるいはマイクロ波などによる電界によって加速された電子とガス分子との衝突電離を利用して生成することができる。このようなプラズマ処理によって形成される基板の官能基13の数および密度は、プラズマ発生の際の電力・ガスの分圧、真空度によって厳密に制御することができる。
【0018】
このようなラジカル化された基板の官能基13は、図2(b)あるいは図3(b)に示すように、準備されていたプローブ12の官能基14と容易に反応し、共有結合を形成することにより、プローブ12が基板11に吸着し固定される。ここでいうプローブの官能基14とは、アルデヒド基、チオール基、カルボキシル基、活性化カルボキシル基、ジスルフィド基、活性化ジスルフィド基、アルキル基、アルケン基、アルキン基、アルデヒド基、ケトン基、アジド基、アミンあるいはそれらの誘導体からなる。
【0019】
本実施例におけるプローブの固定化方法による効果を示す。
【0020】
本発明におけるプローブの固定化方法は、従来のシランカップリング法のように、プローブの末端を特定の反応基に置換する必要がないので、プローブに薬品処理などの化学処理を施す必要がない。すなわち、プローブそのものを化学処理による化学反応により処理することなく、基板11をプラズマ処理してラジカル化した基板の官能基13を発生させることにより、プローブ12に存在するアルデヒド基などのプローブの官能基14をそのまま用いて基板11に吸着、固定化させることができる。従って、プローブ12を固定化する際に、プローブ12の混ざった溶液を化学反応させるために必要な溶液に置換する必要がなく、どのようなpHや温度の溶液を用いた場合でもプローブ12を固定化することができる。その結果、プローブ12に対して好ましくないpH、塩濃度、温度もしくは界面活性剤を含んだ溶液に置換することによるプローブ12の変性を避けることができる。さらに、従来のような化学反応を伴わないため工程数の軽減、測定時における固定化基板10ロット毎のばらつきを軽減することができる。さらに、プローブ12と基板11の間に長いリンカーを有する必要がないのでプローブ12の配向制御が容易となる。
【0021】
なお、プラズマに用いるガスとして、酸素ガス、笑気ガス、NOxについて説明したが、プラズマ化としては、他に、窒素、水素、アンモニア、C26、CF4、大気などのガスのいずれかあるいはそれらのいずれかの混合ガスを利用しても良い。
【0022】
なお、基板11として、ABS樹脂、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(環状オレフィン・コポリマー)のような、樹脂基板を前記のプラズマガスで処理しても同様の効果を得ることができる。
【0023】
なお、プローブ12として糖を用いた場合に、プローブ12に特別に官能基を付加する必要性がないので、より工程数を軽減させることができる。この場合は、プローブ12である糖の末端を還元し還元糖にすることでアルデヒド基が露出することができる。そしてこの還元糖をプラズマ処理しラジカル化された官能基13を有する基板11に固定化させることによって、還元糖を末端に含む糖であるプローブ12を吸着、固定化することができる。
【0024】
なお、プローブ12である糖を還元糖とする工程では、酵素反応を用いることができるので、薬品処理などの化学処理を施す必要がなく、プローブの変性を抑制することができる。
【0025】
また図4に示すように、プローブ12に官能基がない場合は、官能基を持ったエピトープ15をプローブ12に付加することでラジカル化された基板11にプローブを固定できる。例えば、プローブ12がタンパク質12aである場合、エピトープ15として糖15aの末端を還元した還元糖を糖転移酵素によってプローブ12であるタンパク質12aのリジン残基ないしセリン残基に付加し、還元糖のアルデヒド基を介してプローブ12を基板11に吸着、固定化することができる。リンカーとして還元糖を用いることにより、リンカーを短くすることができ、従来に比べプローブ12の配向制御を容易とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明はDNAアレイ、プロテインアレイ、糖鎖アレイなどに用いられるアレイ基板に固定されるプローブの固定化方法として有用である。
【符号の説明】
【0027】
10 固定化基板
11 基板
12 プローブ
12a タンパク質
13 基板の官能基
14 プローブの官能基
15 エピトープ
15a 糖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にプローブを固定化するためのプローブの固定化方法であって、
基板とプローブとを準備する工程と、
化学反応を伴わずに基板を処理することでプローブを基板に固定化するプローブの固定化方法。
【請求項2】
前記基板とプローブとを準備する工程の後に
基板をプラズマ処理する工程と、
プラズマ処理した基板にプローブを固定化する工程とを含む請求項1に記載のプローブの固定化方法。
【請求項3】
前記プラズマ処理は、酸素、窒素、水素、笑気ガス、NOxガス、アンモニア、C26、CF4または大気のいずれかあるいはそれらのいずれかの混合ガスによってプラズマ処理される請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項4】
前記基板は、シリコン、ガラス、石英、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、のいずれかあるいはそれらのいずれかの混合物よりなる請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項5】
前記基板は、ABS、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、COP、COCのいずれかあるいはそれらのいずれかの混合物よりなる請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項6】
前記プローブを準備する工程においてアルデヒド基を有するプローブを準備し、
前記プラズマ処理した基板にプローブを固定化する工程において、
前記プラズマ処理された基板と、このアルデヒド基を有したプローブのアルデヒド基とが固定化される工程を含む請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項7】
前記アルデヒド基の代わりに、チオール、カルボキシル、活性化カルボキシル、ジスルフィド、活性化ジスルフィド、アルキル、アルケン、アルキン、アルデヒド、ケトン、アジドあるいはそれらの誘導体やアミンからなる反応基をもつ基を有するプローブを準備する請求項6に記載のプローブの固定化方法。
【請求項8】
前記プローブとして糖を準備する工程と、
前記糖の末端を還元し還元糖とする工程と、
前記還元糖をプラズマ処理した基板に固定化する工程とを含む請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項9】
糖を準備する工程と、
前記糖の末端を還元し還元糖とする工程と、
前記プローブに還元糖を付加する工程と、
前記還元糖をプラズマ処理した基板に固定化する工程とを含む請求項2に記載のプローブの固定化方法。
【請求項10】
前記プローブに還元糖を付加する工程として、前記プローブの所定のリジン残基あるいはセリン残基に糖転移酵素によって還元糖を付加する工程を有し、プラズマ処理した基板に還元糖を介してプローブを固定する請求項9に記載のプローブの固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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