説明

ヘリカル歯車の加工方法

【課題】カッタの送り速度を調整してゴースト音を抑制する歯車の加工方法を提供する。
【解決手段】ヘリカル歯車の歯数をZ、歯車の歯面を切削するカッタの条数をH、任意の正の整数をN1、残部整数部分をMとして、Z=H×N1+Mと表し、M=±1のいずれかを満たすか否かを判定する仕様判定ステップと、M=±1のいずれかを満たす歯数Zおよび条数Hとなる組み合わせで歯切りする歯切りステップと、を含む歯車の加工方法であって、歯車の幅方向に沿う方向における1歯噛み合い分長さδを設定し、カッタの送り速度をVとして、1歯噛み合い分長さδの中に形成される前記カッタのツールマーク数Tを、δ/Vから求めるツールマーク数算出ステップを有し、歯切りステップは、任意の自然数をN2、残部整数部分をKとして、T=N2×H+Kと表したとき、T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカル歯車の加工方法に係り、特に、ゴースト音が発生する蓋然性が高い加工仕様であるか否かを判定し、カッタの送り速度を調整してゴースト音を抑制するヘリカル歯車の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車の歯面を創成する場合、歯車ブランク材と刃具を相対移動させながら、歯車ブランク材を切削する歯切り工程で歯形を形成する。刃具は、ホブカッタやピニオンカッタ等を使用する。
歯車ブランク材と刃具の組み合わせで加工する場合、一般的には最終歯形とはならず、いわゆるツールマークと呼ばれる各加工刃による歯面へのうろこ状の微小な加工痕が残るため、歯面仕上げ工程が必要である。この歯面仕上げ工程では、シェービングカッタやねじ型砥石による歯車研磨などで歯面仕上げを行い、歯面粗さを改善し歯面精度を確保して、ギアノイズを低減している。
【0003】
ここで、通常の歯車音は、一般に、歯車の噛み合い次数、およびその整数倍で発生し、音や振動として知覚されるが、歯車の噛み合い次数の非整数倍で発生する騒音をいわゆるゴースト音といい、通常の歯車音に対して不快感を与える。そのため、ゴースト音を抑制するために、歯面を研削して面粗さを向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、回転体の振動データを収集し周波数分析することにより、ギアの噛みの良否を判断したり(例えば、特許文献2)、歯車の複数の同時接触線方向の各は面形状を測定し各実測歯面形状の頂点に基づいて噛み合い進行方向を設定することにより、はすば歯車の歯面形状を測定したりする技術が知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−52145号公報
【特許文献2】特開平2−38930号公報
【特許文献3】特開平11−118407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、ゴースト音が発生する歯車を歯面研削によりゴースト音を解消する加工技術であり、カッタによる歯切り加工においてゴースト音を抑制するという課題に着目したものではない。
また、特許文献2と特許文献3は、歯面形状の測定分析技術を開示したものであり、ゴースト音の発生を未然に抑制するためのカッタによる歯切りの加工仕様を創設するという課題は何ら開示されていない。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、ゴースト音が発生する蓋然性が高い加工仕様であるか否かを判定し、カッタの送り速度を調整してゴースト音を抑制するヘリカル歯車の加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、ヘリカル歯車である歯車の歯数をZ、前記歯車の歯面を切削するカッタの条数をH、任意の正の整数をN、残部整数部分をMとして、Z=H×N1+Mと表し、M=±1のいずれかを満たすか否かを判定する仕様判定ステップと、M=±1のいずれかを満たす前記歯数Zおよび前記条数Hとなる組み合わせで歯切りする歯切りステップと、を含む歯車の加工方法であって、前記歯車の幅方向に沿う方向における1歯噛み合い分長さδを設定し、前記カッタの送り速度をVとして、1歯噛み合い分長さδの中に形成される前記カッタのツールマーク数Tを、T′=δ/Vから四捨五入して整数として求めるツールマーク数算出ステップを有し、前記歯切りステップは、任意の自然数をN2、残部整数部分をKとして、T=N2×H+Kと表したとき、T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、Z=H×N1+Mと表し、M=±1のいずれかを満たすか否かを判定する仕様判定ステップを含むことで、ゴースト音が発生する可能性が高い加工仕様であるかどうかを判定して、ゴースト音が発生する可能性が高い場合にはゴースト音を抑制する手段を予め加工工程内に組み入れておくことができる。
【0010】
すなわち、M=±1のいずれかを満たす前記歯数Zと前記条数Hの組み合わせでは、前記歯車の歯面に形成される前記カッタのツールマークを検証すると、カッタの送り方向に沿って順次、隣接する1つ違いの条番号の刃部(第1条目から第H条目までの個々のカッタ)で形成されたツールマークが並ぶ。
【0011】
一方、前記カッタには個体差としての中心軸の偏芯や歯切り加工機への取り付け時における中心軸のずれが加工精度の許容限度内で必然的に発生するため、この軸の偏芯等の影響を受けて、各条番号の刃部(第1条目から第H条目までの歯部)は、それぞれ微小に異なる切込み深さのツールマークを形成することが想定される。
【0012】
そうすると、軸の偏芯等の影響は、条数が多いカッタでは隣接する条番号の歯部が形成するツールマークの切込み深さの差が微小であるから、歯面に順次隣接する1つ違いの条番号のツールマークが並ぶと、それぞれ微小に異なる切込み深さのツールマークが連続的に並ぶことで、連続的な滑らかな規則性を有するうねりが歯面に形成される。また、当該うねりがゴースト音に影響を及ぼすことについては後述する。
【0013】
このようにして、M=±1のいずれかを満たすか否かを判定することで、ゴースト音に影響を及ぼす連続的な滑らかな規則性を有するうねりが歯面に形成される蓋然性が高いか否かを簡易な手法で判定し、ゴースト音の発生に影響を及ぼす当該うねりが形成されるような加工仕様である場合には、ゴースト音を抑制する手段を予め加工工程内に組み入れておくことで、ゴースト音の発生を未然に効率的に抑制することができる。
【0014】
しかしながら、トランスミッションに要求される歯車のギア比やカッタの条数の選択には回避できない事情もあるため、歯切りステップでは、M=±1のいずれかを満たす加工仕様でやむを得ず歯切りしなければならない場合が生じ得るが、可能な限りゴースト音を抑制する加工仕様を採択することが要請される。
【0015】
つまり、M=±1のいずれかを満たす加工仕様で歯切りする場合には、歯車の歯面には、前記ゴースト音に影響を及ぼす連続的な滑らかな規則性を有するうねりが生じる蓋然性が高いが、さらに、当該各歯面に形成されるうねりが隣接する歯面同士の間でも滑らかに連続し当該うねりの周期性を維持したまま連続され歯車全体としても同じ周期性を有することとなる加工仕様を採択すると、よりゴースト音が発生する蓋然性が高く、しかもゴースト音が大きくなってしまう蓋然性が高い。
【0016】
そこで、前記歯切りステップでは、任意の自然数をN2、残部整数部分をKとして、T=N2×H+Kと表したとき、T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることで、前記各歯面に形成されるうねりが各歯面間で滑らかに段差が少なく連続し前記うねりの周期性が全体としてもそのまま維持されるツールマークの並びにならないようにしている。
【0017】
具体的には、1歯噛み合い分長さδを定義したことで、歯車の任意の第i歯における1歯噛み合い分長さδが噛み合った後、第i歯に続いて噛み合う第i+1歯における1歯噛み合い分長さδが噛み合うことになるため、隣接する第i歯と第i+1歯との滑らかな連続性を遮断し歯車全体としてのうねりの周期性を乱すようなツールマーク数Tを採択すれば、ゴースト音を抑制ないし緩和することが可能となる。
ここで、ツールマーク数Tは、1歯噛み合い分長さδを基準とすると、ツールの送り速度Vを速くすればツールマーク数T数は減少し、送り速度Vを遅くすれば増加する。
【0018】
つまり、T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たすようなツールマーク数Tを採択すると、歯車が組み込まれて実際に噛み合う状態において、左ねじれヘリカル歯車および右ねじれのヘリカル歯車の両方を想定すると、第i歯に形成された1歯噛み合い分長さδの最後のツールマークの条番号と、第i+1歯に形成された1歯噛み合い分長さδの最初のツールマークの条番号が、1つ違いで順次並ぶため、左ねじれヘリカル歯車または右ねじれのヘリカル歯車のいずれかにおいて、滑らかに段差が少なく連続し前記うねりの周期性が全体としてもそのまま維持されるような組み合わせとなってしまう。
【0019】
したがって、T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定することで、前記各歯面に形成されるうねりが隣接する歯面同士の間でも滑らかに連続し前記うねりの周期性が全体としてもそのまま維持されるような組み合わせを回避することができる。
【0020】
以上のように、左ねじれヘリカル歯車および右ねじれのヘリカル歯車の両方を想定して、T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定し、第i歯に形成された1歯噛み合い分長さδにおける最後のツールマークの条番号と、第i+1歯に形成された1歯噛み合い分長さδにおける最初のツールマークの条番号とが、1つ違いで順次並ばないようにして、隣接する任意の第i歯と第(i+1)歯との滑らかな連続性を遮断し歯車全体としてのうねりの周期性を乱すことで、歯切り加工の段階で効果的にゴースト音を抑制することができる。
【0021】
よって、請求項1に係る発明は、簡略化された簡易な手法により、不測に発生するゴースト音を歯切り加工の段階で効果的に抑制することが可能となるため、ゴースト音を解消するための余分な研磨加工等による過大な負担を軽減して工数削減に寄与することができる。
【0022】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記1歯噛み合い分長さδは、前記歯車のモジュールをm、ねじれ角をβとして、δ=πm/sinβとすることを特徴とする。
かかる構成によれば、1歯噛み合い分長さδをδ=πm/sinβと定義することで、ヘリカル歯車のゴースト音の発生を簡略化された簡易な手法により、効率的に抑制することができる。
【0023】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記歯車が左ねじれのヘリカル歯車である場合において、M=−1のときは、T=N2×H+1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
かかる構成によれば、ヘリカル歯車が左ねじれか右ねじれかを判断して区別することで、ゴースト音をより確実に抑制しながら適用可能な加工仕様範囲を広げることができる。
【0024】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、T=N2×H−1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
かかる構成によれば、T=N2×H+1を満たす送り速度Vを回避して、ゴースト音を抑制できる送り速度Vをより確実に設定することができる。
【0025】
請求項5に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記歯車が左ねじれのヘリカル歯車である場合において、M=+1のときは、T=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
かかる構成によれば、ヘリカル歯車が左ねじれか右ねじれかを判断して区別することで、ゴースト音をより確実に抑制しながら適用可能な加工仕様範囲を広げることができる。
【0026】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、T=N2×H+1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
かかる構成によれば、T=N2×H−1を満たす送り速度Vを回避して、ゴースト音を抑制できる送り速度Vをより確実に設定することができる。
【0027】
請求項7に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記歯車が右ねじれのヘリカル歯車である場合において、M=−1のときは、T=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
【0028】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、T=N2×H+1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
【0029】
請求項9に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記歯車が右ねじれのヘリカル歯車である場合において、M=+1のときは、T=N2×H+1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
【0030】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、T=N2×H−1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする。
【0031】
請求項11に係る発明は、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記T=N2×H±1の条件を満たさない送り速度Vが認識できる作業仕様書に基づいて歯切りすることを特徴とする。
かかる構成によれば、作業者が作業仕様書を参照することで、簡単に間違いなく確実に適切な加工仕様を採択することができる。
【0032】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記作業仕様書は、前記歯切りステップにおいて設定することを禁止する加工条件を明示したことを特徴とする。かかる構成によれば、作業者が回避しなければならない加工仕様を容易に判断することができる。
【0033】
請求項13に係る発明は、請求項11に記載のヘリカル歯車の加工方法であって、前記作業仕様書は、前記歯切りステップにおいて設定可能な加工条件を明示したことを特徴とする。かかる構成によれば、作業者が適切な加工仕様を容易に採択することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、ゴースト音が発生する蓋然性が高い加工仕様であるか否かを判定し、カッタの送り速度を調整してゴースト音を抑制するヘリカル歯車の加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一般的な歯切り加工の様子を示す斜視図であり、(a)はカッタを下から上に送りながらで歯車を加工する様子を示し、(b)は5条のカッタと歯車の歯数との関係を概念的に示す。
【図2】歯数が44歯の歯車を5条のカッタで加工する場合の歯面に形成されるツールマークの状態を説明するための図であり、(a)は各歯面におけるツールマークの並び順を示し、(b)は歯面に形成されるうねりの状態を概念的に示し、(c)はカッタの回転中心がずれた状態を模式的に示す側面図である。
【図3】右ねじれのヘリカル歯車と左ねじれのヘリカル歯車が噛合する際のR歯面が加速する場合における歯当たりの状態を説明するための歯面の模式図であり、(a)は右ねじれヘリカル歯車が時計回り、(b)は左ねじれヘリカル歯車が反時計回りに回転する状態を示す。
【図4】右ねじれのヘリカル歯車と左ねじれのヘリカル歯車が噛合する際のL歯面が加速する場合における歯当たりの状態を説明するための歯面の模式図であり、(a)は右ねじれヘリカル歯車が反時計回り、(b)は左ねじれヘリカル歯車が時計回りに回転する状態を示す。
【図5】歯面に形成されるツールマークの状態を説明するための模式図であり、(a)は歯車の歯面の部分斜視図、(b)〜(d)はカッタの各条の切込み量の相対差を示す概念図である。
【図6】左ねじれの歯数が44歯の歯車を6条のカッタで加工する場合の歯面に形成されるツールマークの状態を説明するための図であり、(a)は各歯面におけるツールマークの並び順を示し、(b)は歯面に形成されるうねりの状態を概念的に示し、(c)はカッタの回転中心がずれた状態を模式的に示す側面図である。
【図7】左ねじれの歯数が44歯の歯車を3条のカッタで加工する場合の歯面に形成されるツールマークの状態を説明するための図である。
【図8】左ねじれの歯数が44歯の歯車を3条のカッタで加工する場合における他の例のツールマークの状態を説明するための図である。
【図9】歯数と条数の組み合わせとゴースト音との関係を説明するための表である。
【図10】歯車における1歯噛み合い分長さを説明するための模式的な斜視図である。
【図11】ツールマーク数とゴースト次数との関係を解析した図であり、(a)は44歯の歯車を5条のカッタで加工する場合、(b)は49歯の歯車を6条のカッタで加工する場合を示す。
【図12】カッタの偏芯とゴースト音との関係を説明するための図であり、(a)はカッタが偏芯する様子を示す断面図であり、(b)はカッタの偏芯量とゴースト音の程度を対比するグラフである。
【図13】左ねじれの歯数が44歯の歯車を5条のカッタで加工した場合の各歯の連続性を示す図であり、(a)は1歯噛み合い分長さδの中に形成されるツールマーク数が4個〜11個となるようにしたときの第1歯から第4歯までの各歯に形成されるツールマークを示す表であり、(b)は第1歯から第4歯までの各歯に形成されるツールマークを連続して並べた図であり、(c)は送り速度と1歯噛み合い分長さの中に形成されるツールマーク数の関係を示す表である。
【図14】右ねじれの歯数が44歯の歯車を5条のカッタで加工した場合の各歯の連続性を示す図であり、(a)は1歯噛み合い分長さδの中に形成されるツールマーク数が4個〜11個となるようにしたときの第1歯から第4歯までの各歯に形成されるツールマークを示す表であり、(b)は第1歯から第4歯までの各歯に形成されるツールマークを連続して並べた図である。
【図15】右ねじれと左ねじれの場合における歯数が44歯の歯車を5条のカッタで加工したときの回転方向とNGツールマーク数との関係を示す図である。
【図16】0.8〜1.4までの送り速度とゴースト音の関係を示す図である。
【図17】1.5〜2.0までの送り速度とゴースト音の関係を示す図である。
【図18】送り速度とゴースト音のピークの関係を示す図である。
【図19】歯数が49歯の歯車を6条のカッタで加工する場合の歯面に形成されるツールマークの状態を説明するための図である。
【図20】左ねじれの歯数が49歯の歯車を6条のカッタで加工した場合の各歯の連続性を示す図である。
【図21】右ねじれの歯数が49歯の歯車を6条のカッタで加工した場合の各歯の連続性を示す図である。
【図22】右ねじれと左ねじれの場合における歯数が49歯の歯車を6条のカッタで加工したときの回転方向とNGツールマーク数との関係を示す図である。
【図23】Z=H×N1+MのMとT=N2×H+KのKとの関係における連続性を有するNGとなる加工仕様を示す図である。
【図24】NG送り速度の加工条件を示す仕様書の例を示す図である。
【図25】OK送り速度の加工条件を示す仕様書の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態に係る歯車の加工方法について、ヘリカル歯車を例として、ゴースト音が発生する蓋然性が高い加工仕様と対比しながら説明する。
【0037】
一般的に、ホブカッタやピニオンカッタ等のカッタ2でワークBL(歯車ブランク材)から歯切り加工をする場合には、図1(a)に示すように、カッタ2を図示したA方向に移動させて位置決めし、高速で回転させながら、下から上に図示するB方向(歯車の幅方向)に送りをかけてワークBLを回転させながら歯切りする。歯切り終了後は、カッタ2をC方向に逃がしD方向に移動して加工原点に戻す。
【0038】
そして、例えば、5条のカッタ2の場合には、図1(a)に示すように、第1条目から第5条目まで、螺旋形状に連続して配設された凸形状の刃部2a,2b,2c,2d,2e(2a〜2e)が形成されている。このため、5条のカッタで歯数がZ歯の歯車3を加工する場合には、図1(b)に示すように、凸形状の刃部2a〜2eにより、歯面3a,3b,3c,3d,3e(3a〜3e)が切削されて、第1歯3A、第2歯2B、第3歯3C、第4歯3D、第5歯3E・・・第Z歯まで順次ギア歯が創成される。
【0039】
本発明の実施形態に係る歯車の加工方法は、歯車の歯数とカッタの条数との組み合わせがゴースト音が発生する可能性が高いかどうかを判定する仕様判定ステップと、適切な歯数と条数の組み合わせで歯切りすることができない場合には、ツールマーク数算定ステップを実行して、1歯噛み合い分長さδの中に形成されるカッタのツールマーク数Tが適切な数となるようにカッタの送り速度Vを設定して歯切りする歯切りステップと、を含んでいる。
【0040】
仕様判定ステップは、歯車の歯数をZ、前記歯車の歯面を切削するカッタの条数をH、任意の正の整数をN1、残部整数部分をMとして、Z=H×N1+Mと表し、M=±1のいずれかを満たすか否かを判定するステップである。
【0041】
仕様判定ステップについて、具体的に、44歯の歯車をカッタの条数が、それぞれ5条、6条、3条のカッタ(ホブカッタ)で加工する場合を例として、説明する。
ここで、カッタの条数が5条の場合には、Z=H×N1+Mにおいて、44=5×9−1であるから、M=−1の条件を満たす。よって、この組み合わせでは、ゴースト音が発生する蓋然性が高いことが想定される。
【0042】
カッタの条数が6条の場合には、Z=H×N1+Mにおいて、44=6×7+2であるから、M=2、かつ、44=6×8−4であるから、M=−4である。
よって、M=±1のいずれをも満たさないため、この組み合わせでは、ゴースト音が発生する蓋然性が低いことが想定される。
【0043】
カッタの条数が3条の場合には、Z=H×N1+Mにおいて、44=3×15−1であるから、M=−1の条件を満たす。よって、この組み合わせでは、ゴースト音が発生する蓋然性が高いことが想定される。
【0044】
仕様判定ステップは、具体的には、歯車の各歯面におけるカッタの1条目からH条目までの各条により形成されるツールマークの並び順がどのようになるかを判定する並び順判定ステップと、前記各条により形成されるツールマークにおける当該カッタの中心軸と回転軸との偏芯(ずれ)に起因する前記各条による切り込み深さの差を加味して、前記ツールマークが連続して並ぶことにより形成される前記歯面の凹凸形状(うねり)がサインカーブに近くなるような連続的な滑らかな(段差が小さい)規則性を有する単独のまたは等周期のうねり(等周期うねり)を形成するかどうかを判定するうねり形状判定ステップと、を有している。
【0045】
そして、うねり形状判定ステップにおいて、当該うねりがサインカーブに近い連続する滑らかな単独のまたは等周期のうねりを形成する場合には、M=±1のいずれかを満たすことがわかる。また、M=±1のいずれかを満たす場合には、当該うねりがサインカーブに近い連続する滑らかな単独のまたは等周期のうねりを形成することがわかる。
【0046】
[44歯で5条の場合]
仕様判定ステップにおいて、歯数が44歯の歯車を条数が5条のカッタで歯切りする場合について、図2から図5を参照しながら説明する。参照する図2(a)は、並び順判定ステップを示し、歯車の第1歯(歯数1の欄)から第44歯(歯数44の欄)までの各歯面に形成されるツールマークの並び順を縦方向に並べて表示したものである。また、表の最下段がワークBL(図1(a)参照)の1周目の回転、その上がワークBLの2周目の回転のようにして順次表示する。図2(b)は、うねり形状判定ステップを示し、ツールマークの並び順に沿って各条の切込み深さの差を加味して歯面に形成される凹凸形状のうねりを概念的に示したものである。
【0047】
図2(a)に示す表の最下段は、左端の歯数1の項に記載した第1歯から右方向に第44歯まで、カッタの第1条目で形成されたツールマークを1として表示し、カッタの第2条目で形成されたツールマークを2というようにして表示したものである。ワークBLの第1周目の回転では、歯車の第1歯から第5歯までがそれぞれカッタの第1条目から第5条目までで形成されるため、ツールマーク1〜5として表示する。同様に、歯車の第6歯から第10歯までもそれぞれカッタの第1条目から第5条目までで形成され、ツールマーク1〜5として表示する。そうすると、第44歯は、第4条目で形成されたツールマーク4である。
【0048】
このようにして、ワークBLが1回転すると、その間にカッタが歯面に沿って歯車の幅方向に送られるため(図1(a)参照)、第44歯に続く第1歯は、第5条目のツールマークが形成される。つまり、第1歯にはツールマーク1に隣接してツールマーク5が形成される(第1歯の下から2段目参照)。
以上のように、第1歯では、表の下からツールマーク1,5,4,3,2,の順で繰り返しながら歯切り加工が進められる。
【0049】
[ツールマーク算定ステップ]
ツールマーク算定ステップは、図10に示すように、歯車の幅方向に沿う方向における1歯噛み合い分長さδを設定し、この1歯噛み合い分長さδ内に含まれるツールマークの数Tをカッタの送り速度をVとして、T=δ/Vから求める。1歯噛み合い分長さδは、歯車の主要な歯当たりに相当する噛み合い長さを表す概念である。
【0050】
ヘリカル歯車は、歯すじがつる巻線である円筒歯車であり、基準円筒状でつる巻線はβのねじれを有し、歯車が1回転すると歯車の幅方向に沿う方向においてリードPzだけ進む。したがって、1歯噛み合い分長さδは、δ=Pz/Zで表され、基準円直径をd、歯直角モジュールをmとすると、Pz=πd/tanβであるから、δ=π×m÷sinβで求めることができる。
具体的には、m=1.74、ねじれ角をβ=36度とすると、1歯噛み合い分長さδは、δ=3.14×1.74÷0.588≒9.30mmである。
【0051】
したがって、1歯噛み合い分長さδ内に含まれるツールマークの数Tは、カッタの送り速度を例えば、V=1.5mm/sとすると、1歯噛み合い分長さδ内に含まれるツールマークの数Tは、T′=9.3÷1.5=6.2個であるから、四捨五入して歯面の中央部分であるT=6個分のツールマークを抽出して考察する。
【0052】
ここで、ヘリカル歯車を駆動させたときの歯当たりの状態について、図3と図4を参照しながら説明する。図3と図4は、ヘリカル歯車におけるねじれ方向、回転方向、および従動歯車か駆動歯車かの違いによる歯当たりの向きを説明するための図であり、図3は左ねじれ、図4は右ねじれを示す。
図3および図4において、Top側はエンジン等の駆動装置が連結される側、Bottom側はトランスミッション等の被駆動装置が連結される側を示し、回転方向はTop側から見て時計回りか反時計回りかを示す。また、歯元部をRoot、歯先部をTipとして示す。
【0053】
例えば、図3に示すように、Top側から見て右ねじれのヘリカル歯車を時計回りに駆動回転する場合には(図3(a)参照)、対となる左ねじれのヘリカル歯車は反時計回りに従動回転する(図3(b)参照)。この場合には、双方歯車ともにR歯面が歯当たり面となり、右ねじれのヘリカル歯車は、図3(a)に示すように、Bottom側の歯元部RootからTop側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。対となる左ねじれのヘリカル歯車は、図3(b)に示すように、Bottom側の歯先部TipからTop側の歯元部Rootまで対角線上に歯当たり進行する。
【0054】
ところで、例えば、車のエンジン、ミッション、駆動輪を想定して上記の歯車セットがミッションに組み込まれた場合には、回転が逆になることはない。つまり、エンジンが回転数を上げると、右ねじれのヘリカル歯車は駆動歯車として、また左ねじれのヘリカル歯車は従動歯車として双方歯車ともにR歯面が噛み合い回転する。減速する場合はエンジン回転が低下するが、駆動輪は回転する力が働くので、今度は左ねじれのヘリカル歯車は駆動歯車として、また、右ねじれのヘリカル歯車は従動歯車として双方歯車ともにL歯面が噛み合い回転する。
【0055】
つまり、上記の過程で駆動歯車と従動歯車の機能が双方の歯車で変化することはあっても、回転方向が変化することはない。
従って、図3に示すように、左ねじれのヘリカル歯車が反時計回りに駆動回転する場合は(図3(b)参照)、対となる右ねじれのヘリカル歯車が時計回りに従動回転し(図3(a)参照)、双方歯車ともにL歯面が歯当たり面となり、左ねじれのヘリカル歯車は、図3(b)に示すように、Bottom側の歯元部RootからTop側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。対となる右ねじれのヘリカル歯車は、図3(a)に示すように、Bottom側の歯先部TipからTop側の歯元部Rootまで対角線上に歯当たり進行する。
【0056】
一方、図3の例に対して回転が逆方向である図4の例について説明する。
Top側から見て右ねじれのヘリカル歯車を反時計回りに駆動回転する場合には(図4(a)参照)、対となる左ねじれのヘリカル歯車は時計回りに従動回転する(図4(b)参照)。この場合には、双方歯車ともにL歯面が歯当たり面となり、右ねじれのヘリカル歯車は、図4(a)に示すように、Top側の歯元部RootからBottom側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。対となる左ねじれのヘリカル歯車はTop側の歯先部TipからBottom側の歯元部Rootまで対角線上に歯当たり進行する。
【0057】
また、左ねじれのヘリカル歯車が時計回りに駆動回転する場合は、対となる右ねじれのヘリカル歯車が反時計回りに従動回転し、双方歯車ともにR歯面が歯当たり面となり、左ねじれのヘリカル歯車はTop側の歯元部RootからBottom側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。対となる右ねじれのヘリカル歯車は、図4(b)に示すように、Top側の歯先部TipからBottom側の歯元部Rootまで対角線上に歯当たり進行する。
【0058】
通常の車両を想定した場合には、回転が逆転する構造ではないが、一般的には、逆回転する構造もある。例えば、モーター駆動のギヤボックスでは回転方向は制御により自由自在である。しかしながら、図3(b)と図4(b)を対比すれば明らかなとおり、逆回転した場合には各歯の噛み合い順序と各歯面における噛み合い方向がいずれも逆になるため同様の結果となる。したがって、本願発明は、回転方向を限定する必要はなく、また逆回転可能な構造を排除するものでもない。
【0059】
以下、左ねじれの44歯のヘリカル歯車を5条のカッタで加工した場合における歯面に形成されるツールマークの連続性について具体的に説明する。
左ねじれのヘリカル歯車を反時計回りに従動歯車として回転させた場合には、図5(a)に示すように、矢印Fの方向に歯当たりが進行する(図3(b)参照)。したがって、1歯噛み合い分長さδ内に含まれる6個分のツールマークに着目すると、太枠で囲った範囲となり、第1歯では、歯幅方向に沿って紙面上から下方向にツールマーク1,2,3,4,5,1と並ぶ(図5(a)参照)。
【0060】
第2歯では、同様にして、図5(a)に示すように、第1歯のツールマークに対して、次の条番号で加工されるため、並び順は第1歯と同じようにツールマーク1,2,3,4,5,1と並ぶが、第1歯と同じ範囲の6個のツールマークを上から下方向に見るとツールマーク2,3,4,5,1,2と並ぶ。第3歯では、ツールマーク3,4,5,1,2,3と並ぶ。
【0061】
ここで、図5(a)では、条番号は固有のものではなく条番号のつながりが重要であるから、説明の便宜上、第1歯において1歯噛み合い分長さδ内の最初の歯当たり部の条番号が1となる範囲を抽出して考察する。
また、実際の歯当たりは、矢印Fの方向に進行するが、ツールマークの並び順は歯幅方向に沿って考察しても同様であるので、歯幅方向に沿って紙面における上から下方向に並んだツールマークに着目して考察する。
【0062】
なお、本実施形態においては、歯車の主要な歯当たりに相当する噛み合い長さを1歯噛み合い分長さδとして、δ=π×m÷sinβとしたが、これに限定されるものではなく、歯車の形状や大きさ等により適宜定めることができる。
【0063】
一方、カッタには個体差としての中心軸の偏芯や歯切り加工機への取り付け時における中心軸のずれが加工精度の許容限度内で必然的に発生する(図11(a)照)。
このため、実際の歯切り加工においては、カッタの回転中心C1がカッタの中心軸C2に対して第1条の歯部2a(図1参照)の方にずれていると想定すると、図5(b)〜(d)に示すように、第1条目(第1条の歯部による加工)よりも第2条目の方が切り込み量が深くなり、第3条目と第4条目がさらに深くなり、第5条目が第2条目と同じ切込み量となる。
【0064】
このようなカッタの条番号ごとの切込み量の相対差をグラフに表示すると、図2(b)に示すように、第1歯では、ツールマーク1,2,3,4,5,1であるから(図2(a))、ツールマーク1とツールマーク2の切込み量の差、およびツールマーク2とツールマーク3の切込み量の差が等しく段差も小さいから連続的な滑らかさを有している。そして、ツールマーク3とツールマーク4の切込み量が同じであるから滑らかな連続性を有する。さらに、ツールマーク4とツールマーク5の切込み量の差が等しく段差も小さいから連続的な滑らかさを有し、ツールマーク5とツールマーク1の切込み量の差が等しいからやはり滑らかな連続性を有する。
【0065】
このため、第1歯におけるツールマーク1,2,3,4,5,1の並び順では、段差が少なく連続的にツールマークが並び、この変化が同じ周期で繰り返されるから、第1歯の歯面には、連続的な滑らかな規則性を有する単独のまたは等周期のうねり(等周期うねり)が形成される。
【0066】
同様にして、第2歯および第3歯も、第1歯とツールマークの並び順は同じであるから、同じように等周期うねりが形成され、第4歯から第44歯にも同じように等周期うねりが形成される。このように、第1歯から第44歯まで、ツールマークの並び順は同じであるから、同じ規則性を有する同じような等周期うねりが形成される。
【0067】
このすべての歯面(第1歯から第44歯まで)に共通する規則性を有する等周期うねりが、ゴースト音に影響を及ぼす蓋然性が高いことが想定される。そして、このような等周期うねりは、M=±1のいずれかを満たす場合に形成されることがわかる。
【0068】
[44歯で6条の場合]
歯数が44歯の歯車を条数が6条のカッタで歯切りする場合について、主として図6を参照しながら説明する。図6の表の最下段は、歯車の第1歯から第6歯までがそれぞれカッタの第1条目から第6条目までで形成されるため、ツールマーク1〜6として表示する。第44歯は、第2条目で形成されたツールマーク2である。
【0069】
このようにして、ワークBL(歯車ブランク材)が1回転すると、その間にカッタが歯面に沿って歯車の幅方向に送られるため(図1(a)参照)、第44歯に続く第1歯は、第3条目のツールマーク3が形成される(第1歯の下から2段目参照)。
【0070】
したがって、第1歯では、表の下からツールマーク1,3,5,1,3,5の順で繰り返しながら歯切り加工が進められる(図6(a)参照)。一方、第2歯では、表の下からツールマーク2,4,6,2,4,6の順で繰り返すようにツールマークが形成され、第3歯では、ツールマーク3,5,1,3,5,1の順で繰り返す。このように、奇数番目の第1歯と第3歯の並び順は同じであるが、奇数番目の第1歯と偶数番目の第2歯の並び順では異なっている。
【0071】
ここで、1歯噛み合い分長さδ内に含まれる6個分のツールマークに着目すると、第1歯では、上から下方向にツールマーク1,5,3,1,5,3と並ぶ(図6(a)参照)。一方、第2歯では、ツールマーク2,6,4,2,6,4と並び、第3歯では、ツールマーク3,1,5,3,1,5と並ぶ。
【0072】
そして、カッタの条番号ごとの切込み量の相対差を考慮すると、図6(c)から理解されるように、第1条目の切込み量と比較すると、第1条目よりも第2条目と第6条目の方が切り込み量が深くなり、第3条目と第5条目がさらに深くなり、第4条目が最も深くなる切込み量となる。
【0073】
このカッタの条番号ごとの切込み量の相対差をグラフに表示すると、図6(b)に示すように、第1歯では、ツールマーク1,5,3,1,5,3の順であるから(図4(a))、ツールマーク1とツールマーク5,3の切込み量の差が比較的大きいため、段差が大きく連続的な滑らかさに欠けている。
同様に、第2歯でも、2,6,4,2,6,4の順であるから(図6(a))、ツールマーク2,6とツールマーク4の切込み量の差が大きいため、段差が比較的大きく連続的な滑らかさに欠けている。
【0074】
しかも、奇数番目の第1歯に形成された凹凸状のうねりはツールマーク1が浅くツールマーク5と3が深くなっているのに対して、偶数番目の第2歯に形成された凹凸状のうねりはツールマーク2と6がツールマーク1よりも深く、そしてツールマーク2と6よりもツールマーク4がさらに深くなっているため凹凸形状も深さも異なるため、各歯に共通する同じ規則性を有しない。よって、すべての歯面に共通する規則性(等周期性)を有する等周期うねりが生じないので、ゴースト音が発生する蓋然性は低いと考えられる。
【0075】
[44歯で3条の場合(6ツールマーク)]
歯数が44歯の歯車を条数が3条のカッタで歯切りする場合について、主として図7を参照しながら説明する。
図7の表の最下段は、歯車の第1歯から第3歯までがそれぞれカッタの第1条目から第3条目までで形成されるため、ツールマーク1〜3として表示する。第44歯は、第2条目で形成されたツールマーク2である。
このようにして、ワークBLが1回転すると、その間にカッタが歯面に沿って歯車の幅方向に送られるため(図1(a)参照)、第44歯に続く第1歯は、第3条目のツールマーク3が形成される(第1歯の下から2段目参照)。
【0076】
したがって、第1歯では、表の下からツールマーク1,3,2,1,3,2の順で繰り返しながら歯切り加工が進められる(図7(a)参照)。一方、第2歯では、第1歯と並び順は同じであるが、第1歯とは1つずれたツールマーク2から始まり、表の下からツールマーク2,1,3,2,1,3の順で繰り返すようにツールマークが形成され、第3歯では、さらに1つずれたツールマーク3から始まり、ツールマーク3,2,1,3,2,1の順で繰り返す。
【0077】
このように、1つずれているが、始端と終端が異なるのみですべての歯でツールマークの並び順が同じであるから、すべての歯面に共通する規則性(等周期性)を有する等周期うねりが生じる。
【0078】
1歯噛み合い分長さδ内に含まれる6個分のツールマークに着目すると、第1歯では、上から下方向にツールマーク1,2,3,1,2,3と並ぶ(図5(a)参照)。第2歯では、ツールマーク2,3,1,2,3,1と並び、第3歯では、ツールマーク3,1,2,3,1,2と並ぶ。
そして、カッタの条番号ごとの切込み量の相対差を考慮すると、図7(c)から理解されるように、第1条目の切込み量と比較すると、第1条目よりも第2条目と第3条目の方が切り込み量が深くなっている。
【0079】
このカッタの条番号ごとの切込み量の相対差をグラフに表示すると、図7(b)に示すように、第1歯では、ツールマーク1とツールマーク2,3の切込み量の差が大きく、連続性には欠けているが、等周期性は備えている。同様に、第2歯と第3歯でも、ツールマーク2,3とツールマーク1の切込み量の差が大きく、連続性な滑らかさに欠けているが、前記したように、すべての歯でツールマークの並び順が同じであるため、各歯に共通する同じ規則性(等周期性)を有している。
【0080】
よって、ゴースト音が発生する蓋然性が低いと判定するのは適切ではなく、このような加工仕様を回避してゴースト音が発生する蓋然性が低い加工仕様に変更するか、カッタの偏芯の管理等の精度管理をより厳格したり、仕上げ加工の削り代を増加したりする等、予め対策を講じておくことが望ましい。
【0081】
[44歯で3条の場合(7ツールマーク)]
ここで、カッタの送り速度Vを遅くして、1歯噛み合い分長さδ内に含まれるツールマーク数が7になるように調整すると、カッタの条番号ごとの切込み量の相対差のグラフは、図8(b)に示すように、第1歯では、ツールマーク1,2,3,1,2,3,1と並ぶ(図6(a)参照)。第2歯では、ツールマーク2,3,1,2,3,1,2と並び、第3歯では、ツールマーク3,1,2,3,1,2,3と並ぶ。
【0082】
図7(b)に表示された6ツールマークのうねりと、図8(b)に表示された7ツールマークのうねりを対比すると、7ツールマークのうねりの方が6ツールマークのうねりよりも各歯面における等周期性(規則性)が向上するため、各歯面に共通する規則性が高くなるため、よりゴースト音が発生する蓋然性がより高くなることが想定される。
【0083】
このように、カッタの送り速度Vを調整することで、送り方向のツールマークの長さが変わるため、各歯面に形成される等周期うねりの周期が変化したり、隣接する歯面における等周期うねりの連続性が変化したりするので、ゴースト音の大きさやゴースト音が発生する蓋然性の程度が異なることが想定される。この点については、後記する歯切りステップにおいて詳述する。
【0084】
なお、歯数が44歯の歯車を条数が2条または4条のカッタで歯切りする場合のように、歯数Z÷条数Hが割り切れ、Z=H×N1+Mにおいて、M=0となる場合がある。
このような組み合わせの場合には、第1歯の歯面にはすべて第1条目によるツールマーク1が形成され、第2歯の歯面にはすべて第2条目によるツールマーク1が形成されるというように、カッタの条番号の固有の特性が特定の歯面にすべて反映されてしまう。このため、通常採用しない方が望ましい組み合わせであるので、前記したような等周期うねりは生じないが、このような組み合わせの詳細な説明は省略する。
【0085】
以上の結果に基づいて、歯車の歯数とカッタの条数との関係について、ゴースト音が発生する蓋然性が高いかどうかを整理すると図9のようになる。図9は、歯数が10〜49までの歯車を条数が2〜6までのカッタで歯切りする場合の歯数と条数との関係を示し、Z=H×N1+Mにおいて、M=±1のいずれかを満たすか否かを記載したものである。
【0086】
表中の「○印」はM=±1を満たさず、ゴースト音が発生する蓋然性が低いと想定される組み合わせであり、表中の「1と−1の表示」は、M=±1のいずれかを満たし、ゴースト音が発生する蓋然性が高いと想定される組み合わせであり、表中の「0の表示」は、M=0となる組み合わせであるから回避することが望ましい組み合わせである。
【0087】
次に、44歯の左ねじれ歯車を5条カッタで歯切りする場合におけるゴースト音の発生パターンを数学的に検討する。図11に示すように、ツールマーク数に整数を取り、5条カッタの5に相当するところに歯数44を対応させる。44÷5=8.8をツールマーク数の1の横に置いて対応させ、順次ツールマーク数の整数倍ごとに8.8の倍数を置いて対応させる。このようにすると、ツールマーク数4には35.2が対応し、ツールマーク数6には52.8が対応する。
【0088】
この事実は、44歯の歯車音が44次、及びその整数倍で発生することを考慮すれば、ツールマーク数が4のとき、35.2次、整数表現では35次、ツールマーク数が6つまり6ツールマークのとき52.8次、整数表現では53次のゴースト音が発生することを示唆する。
【0089】
更に、カッタ条数の整数倍前後、例えばカッタ条数−1のパターンでゴースト音が発生するならば、そのゴースト音の次数は35次(35.2)、79次(79.2)、123次(123.2)、もしカッタ条数+1のパターンでゴースト音が発生するならば、そのゴースト音の次数は53次(52.8)、97次(96.8)、141次(140.8)となる。
【0090】
続いて、歯切りステップについて主として図13から図17を参照しながら説明する。
図13(a)は、歯数が44歯の歯車を5条のカッタで歯切りする場合において、カッタの送り速度を調整して、1歯噛み合い分長さδの中に形成されるツールマーク数Tが4個〜11個となるようにしたときの第1歯から第4歯までの各歯に形成されるツールマークの並び順を示す表である。図13(b)は、第1歯から第4歯までの各歯に形成されるツールマークを連続して並べた図である。図13(c)は、送り速度と1歯噛み合い分長さδの中に形成されるツールマーク数の関係を示す表である。
【0091】
歯切りステップは、任意の自然数をN2、残部整数部分をKとして、T=N2×H+Kと表したとき、T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りする。
そして、更には本実施形態のような左ねじれ歯車の場合は、M=−1のとき、T=N2×H+1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りする。
【0092】
具体的には、歯数が44歯の歯車を5条のカッタで歯切りする場合には、Z=H×N1+Mにおいて、44=5×9−1よりM=−1であるから、T=N2×H+1(K=1)を満たさない送り速度Vを設定する。なぜなら、図13(a)に示すように、ツールマーク数T=6,11のときには、それぞれT=1×5+1、T=2×5+1を満たすので、K=1となり各歯の間で滑らかな段差の少ない連続性が生じ各歯面に形成された等周期うねりの周期性が全体としてもそのまま維持された状態で第1歯から第4歯までつながり、歯車全体としても等周期うねりの周期性がそのまま維持される。
【0093】
[44歯の左ねじれ歯車が従動歯車の場合]
例えば、6ツールマークの場合には、図13(a)に示すように、左ねじれのヘリカル歯車を反時計回りに従動歯車として回転させて使用する場合を想定すると(図3(b)参照)、表の上から下にツールマークの並び順を見るので、第1歯には、ツールマーク1,2,3,4,5,1の順で並び、第2歯には、ツールマーク2,3,4,5,1,2の順で並び、第3歯には、ツールマーク3,4,5,1,2,3の順で並び、第4歯には、ツールマーク4,5,1,2,3,4の順で並ぶ。
【0094】
そして、これらのツールマークを第1歯から第4歯まで連続して並べると、図13(b)において「連続性有」と表示するように、第1歯から第4歯まで滑らかな段差の少ない連続性が生じ各歯面に形成された等周期うねりの周期性が全体としてもそのまま維持された状態で第1歯から第4歯までつながり、第44歯まで連続する。
【0095】
すなわち、第1歯と第2歯との連続性は、第1歯の1歯噛み合い分長さδの最後のツールマーク1に続いて第2歯の1歯噛み合い分長さδの最初のツールマーク2が連続するため、第1歯のツールマーク1,2,3,4,5,1に続いて、第2歯のツールマーク2,3,4,5,1,2が連続するため、第1歯の等周期うねりの周期性がそのまま維持された状態で第2歯につながる。第2歯と第3歯との連続性も同様であり、第44歯まで等周期うねりの周期性が連続して維持される。
【0096】
このため、6ツールマークの場合には、以下に示す他の場合と比較すると、よりゴースト音が発生する蓋然性が高く、しかもゴースト音が大きくなってしまう蓋然性が高いことが想定される。このため、このような加工仕様は排除することが望ましい。11ツールマークの場合も同様であるため、説明を省略する。
【0097】
一方、4ツールマークの場合には、図13(b)において「連続性無」と表示するように、例えば、第1歯と第2歯との間では、ツールマーク1と4がつながるため、条番号が離れているので、隣接する条番号でつながる6ツールマークの場合よりも大きな段差が生じる。また、5ツールマークの場合には、例えば、第1歯と第2歯との間でツールマーク1と3がつながるため、同様に6ツールマークの場合よりも大きな段差が生じている。
【0098】
これに対し、7ツールマークの場合には、例えば、ツールマーク1と1,2と2のように段差の生じない部分が連続するため、第1歯に形成された等周期うねりの周期性がそのまま維持されるのではなく段差の生じない部分で周期性が乱され弱められた状態となっている。
【0099】
8ツールマークの場合には、第1歯と第2歯の連続性において、ツールマーク5,1の後再びツールマーク5,1が繰り返されるので周期性が乱された状態になっている。
そして、9ツールマークと10ツールマークの場合には、5ツールマークと同様に6ツールマークの場合よりも大きな段差が生じている。
【0100】
[44歯の左ねじれ歯車が駆動歯車の場合]
図3のもう1つのパターン、左ねじれ歯車が駆動回転で、右ねじれ歯車が従動回転の場合、双方の歯車の回転と歯当たりはこの逆と同様であり、従って44歯の左ねじれ歯車を5条カッタで歯切りすると、6ツールマークと11ツールマークの時、等周期うねりは各歯間で連続性がある。
従って、図3(b)に示す左ねじれ歯車は反時計回転時、駆動回転でも従動回転でも、6ツールマークと11ツールマークの時、等周期うねりは各歯間で連続性があることとなる。
つまり、左ねじれ歯車は反時計回転時に加工カッタ条数によりM=−1のとき、T=N2×H+1を満たすと等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。
【0101】
[44歯の右ねじれ歯車が駆動歯車の場合]
ここで、本実施形態のような左ねじれ歯車(図3(b)参照)の対をなす44歯の右ねじれ歯車(図3(a)参照)を5条カッタで歯切りする場合のツールマークの連続性について検討する。
図3(a)の右ねじれ歯車では、時計回転で、Bottom側の歯先部TipからTop側の歯元部Rootまで対角線上に歯当たりが進行する。
【0102】
したがって、図14(a)において、歯当たりは表の右から左に、各歯面上では表の上から下に歯当たりが進行するので、ツールマークが4のとき、表の右から左に上から下にツールマークを読む。具体的には、表の右上から下に1,2,3,4、そして隣の列も同様にして5,1,2,3という順になる。この場合には、図14(b)に示すように、等周期うねりの周期性が全体としてもそのまま維持された状態で1歯から4歯までつながる。同様にして、順次11ツールマークまで展開すると、4ツールマークと9ツールマークの時、等周期うねりは各歯間で連続性がある。
また、左ねじれ歯車を検討した段落0100と同様、駆動従動を変更してもこの関係は変わらない。
したがって、右ねじれ歯車は時計回転時に加工カッタ条数によりM=−1のとき、T=N2×H−1を満たすと等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。
【0103】
[44歯の左ねじれ歯車が従動時計回転する場合]
ここで、図4のTop側から見て右ねじれのヘリカル歯車を反時計回りに駆動回転する場合での(図4(a)参照)、対となる従動時計回転する左ねじれ歯車(図4(b)参照)における等周期うねりの歯間連続性を検討する。
44歯の左ねじれ歯車を5条カッタで歯切りする場合、図14(a)と(b)を参照し、具体的に図示はしないが、回転が時計回転であるから歯面当たりが表の右から左へ、そして下から上へ進行するから(図4(b)参照)、これに従いツールマークを読む。例えば6ツールマークでは、表の右下から上に読むと4,3,2,1,5,4と並び、そして表の左に移動して下から上に読むと3,2,1,5,4,3、そして同様に、2,1,5,4,3,2、そして1,5,4,3,2,1となり、等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。11ツールマークも同様である。
【0104】
更に、左ねじれ歯車は、駆動時計回転時も、回転方向と歯面当たり方向が、時計回転で歯面当たりが下から上へ進行するから、図14(a)と(b)を参照し、具体的に図示はしないが同様に、6ツールマークと11ツールマークで等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。
【0105】
[44歯の右ねじれ歯車が駆動反時計回転する場合]
図4のもう1つのパターンである、Top側から見て右ねじれのヘリカル歯車を反時計回りに駆動回転する場合での、この右ねじれ歯車(図4(a))における等周期うねりの歯間連続性を検討する。
44歯の右ねじれ歯車を5条カッタで歯切りする場合、図14(a)と(b)を参照し、具体的に図示はしないが、回転が反時計回転で歯面当たりが下から上へ進行するから、表の左から右へ下から上へ歯当たりが進行するので、これに従いツールマークを読む。例えば4ツールマークでは、1,5,4,3そして2,1,5,4、そして、3,2,1,5、そして4,3,2,1となり、等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。9ツールマークも同様である。
【0106】
更に、右ねじれ歯車は、従動反時計回転時も、回転方向と歯面当たり方向が、反時計回転で歯面当たりが下から上へ進行するから(図4(a)参照)、図14(a)と(b)を参照し、具体的に図示はしないが同様に、4ツールマークと9ツールマークで等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。
【0107】
ここで、歯数が44歯の歯車を条数が5条のカッタで歯切りする場合には、M2=−1であるから、実際にカッタの振れが10μの場合と120μの場合で設定して、この組み合わせで歯切りして、ゴースト音が発生するかどうかを検証する。
【0108】
ベンチテストにより歯車の振動計測データを収集して、ゴースト音が発生するかどうかを次数解析した結果、図12(b)に示すように、通常のギア音が生じる44次ではなく、53次振幅のピークが認められた。したがって、53次の振幅に由来するゴースト音が発生することがわかる。振幅のピークは120μの方が10μよりも明確であるので、ゴースト音も大きくなることが想定される。
【0109】
数学的検討を加えた図11に示す結果と図12に示す実験結果はよく一致しており、歯車歯数とカッタ条数の組み合わせにより、ゴースト音が発生することが立証できた。次に明らかにすべきは歯車歯数とカッタ条数の組み合わせによる歯面形状とゴースト音の関係である。
【0110】
以上の検討結果を整理したものが図15であり、等周期うねりの各歯間連続性に影響するのは、歯車の仕様であり右ねじれか左ねじれかである。歯車の回転方向や、駆動であるか従動であるかは関係ない。
【0111】
続いて、送り速度を適宜調整して歯切りした場合における送り速度とゴースト音の関係について、図16と図17を参照しながら説明する。図16と図17は、歯数が44歯の歯車を条数が5条のカッタで歯切りした歯面形状を次数解析した結果を示す図であり、図16は送り速度が0.8から1.4mm/sまで、図17は送り速度が1.5から2.0mm/sまでの間で計8段階に分けて歯切りした場合のゴースト音の状態を示す。なお、各段階において送り速度が異なる別個の歯車であるため、厳密な各送り速度同士の横の対比は正確性を欠くものとなる。
【0112】
ゴースト音に由来する振幅のピークは、53次、97次、および141次に発生する。
例えば、図16(a)に示すように、送り速度が0.8mm/sの場合には、97次のピークが他の53次および141次よりも顕著であり、この97次のゴースト音が発生する蓋然性が高いことが想定される。このため、K=+1を満たす11ツールマークとなる送り速度、0.8mm/sの加工仕様は排除することが望ましい(図13(c)参照)。
【0113】
送り速度が1.0mm/sの場合には、9.3ツールマークとなるが(図13(c))、図16(b)に示すように、97次のピークが下降し、53次のピークが上昇している。送り速度が1.2mm/sの場合には、7.75ツールマークとなるが、さらに97次のピークが下降し、53次のピークが上昇している。このように、53次のピークと97次のピークは、53次のピークが上昇すると97次のピークが下降する関係にあることがわかる(図17参照)。
【0114】
一方、53次のピークは、送り速度が1.2mm/sから顕著に上昇し始め、送り速度が1.8mm/sから下降し始めているため、送り速度が1.4〜1.6mm/sの範囲でピークに到達するものと認められ、その中間付近とすると送り速度が1.5mm/sの近傍であると認めることができる。
【0115】
したがって、図18に示すように、53次のピークは、おおよそ送り速度が1.5mm/sの周囲であり、97次のピークは、おおよそ送り速度が0.8mm/sの周囲であり、53次のピークと97次のピークの中間付近ではいずれも振幅が下降しゴースト音は低減されるものと想定される。送り速度が1.5mm/sでは6.24ツールマークであり、送り速度が0.8mm/sでは11.69ツールマークであるから、K=+1の条件を満たす6ツールマーク、および11ツールマークと略一致することがわかる。
【0116】
さらに、他の例として、歯数が49歯の左ねじれのヘリカル歯車を6条のカッタで歯切りする場合における第1歯から第49歯までのツールマークの連続性について、図3、図4、および図19と図20を参照しながら説明する。
【0117】
[左ねじれの49歯で6条カッタの場合]
例えば、Top側から見て右ねじれのヘリカル歯車を時計回りに駆動回転する場合における対となる左ねじれのヘリカル歯車は、反時計回りに従動回転する(図3(b)参照)。この場合には、双方歯車ともにR歯面が歯当たり面となり、右ねじれのヘリカル歯車はBottom側の歯元部RootからTop側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。対となる左ねじれのヘリカル歯車はBottom側の歯先部TipからTop側の歯元部Rootまで対角線上に歯当たり進行する。
【0118】
よって、図20(a)(b)より、左ねじれのヘリカル歯車は回転が反時計回転で歯面当たりが上から下へ進行するから、左から右へ上から下へ歯当たりが進行するので、これに従いツールマークを読む。例えば5ツールマークでは、5,4,3,2,1、そして6,5,4,3,2、そして、1,6,5,4,3、そして2,1,6,5,4,となり、等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。つまり、図19(b)の5ツールマークの図を上から読んでいることになる。11ツールマークも同様である。
また、左ねじれの同方向、つまり反時計回転では、従動でも駆動でも、各歯間等周期うねりは上記と同様、5、11ツールマークで発生する。これは44歯の歯車を5条のカッタで歯切りする場合と同様、回転方向と歯面当たり方向が一致しているからである。
【0119】
なお、1歯噛み合い分長さδ内から所定のツールマークを抽出する場合において、条番号は固有のものではなく条番号のつながりが重要であるから、説明の便宜上、第1歯において1歯噛み合い分長さδ内の最下段の条番号が1となるように範囲を選定した。
【0120】
一方、回転が逆の場合、つまり、Top側から見て右ねじれのヘリカル歯車を反時計回りに駆動回転する場合には、対となる左ねじれのヘリカル歯車は時計回りに従動回転する(図4(b)参照)。この場合には、双方歯車ともにL歯面が歯あたり面となり、右ねじれのヘリカル歯車はTop側の歯元部RootからBottom側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。対となる左ねじれのヘリカル歯車はTop側の歯先部TipからBottom側の歯元部Rootまで対角線上に歯当たり進行する。
【0121】
よって、図20(a)(b)より、左ねじれのヘリカル歯車は回転が時計回転で歯面当たりが下から上へ進行するから、右から左へ下から上へ歯当たりが進行するので、これに従いツールマークを読む。例えば5ツールマークでは、4,5,6,1,2、そして3,4,5,6,1、そして、2,3,4,5,6、そして1,2,3,4,5,となり、等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。図20(b)の5ツールマークの図を下から読んでいることになる。11ツールマークも同様である。
また、左ねじれの同方向、つまり時計回転では、従動でも駆動でも、各歯間等周期うねりは上記と同様、5、11ツールマークで発生する。これは44歯の歯車を5条のカッタで歯切りする場合と同様、回転方向と歯面当たり方向が一致しているからである。
【0122】
[右ねじれの49歯で6条カッタの場合]
Top側から見て右ねじれのヘリカル歯車を時計回りに駆動回転する場合には、R歯面が歯当たり面となり、右ねじれのヘリカル歯車はBottom側の歯元部RootからTop側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。
【0123】
よって、図21(a)(b)より、右ねじれ歯車は回転が時計回転で歯面当たりが上から下へ進行するから、右から左へ上から下へ歯当たりが進行するので、これに従いツールマークを読む。例えば7ツールマークでは、4,3,2,1,6,5,4、そして3,2,1,6,5,4,3、そして、2,1,6,5,4,3,2、そして1,6,5,4,3,2,1となり、等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。図21(b)の7ツールマークの図を上から読んでいることになる。13ツールマークも同様である。
また、右ねじれの同方向、つまり時計回転では、従動でも駆動でも、各歯間等周期うねりは上記と同様、7、13ツールマークで発生する。これは44歯の歯車を5条のカッタで歯切りする場合と同様、回転方向と歯面当たり方向が一致しているからである。
【0124】
一方、段落0122と回転が逆の場合、つまり、Top側から見て右ねじれのヘリカル歯車を反時計回りに駆動回転する場合には、L歯面が歯あたり面となり、右ねじれのヘリカル歯車はTop側の歯元部RootからBottom側の歯先部Tipまで対角線上に歯当たり進行する。
よって、図21(a)(b)より、右ねじれ歯車は回転が時計回転で歯面当たりが下から上へ進行するから、左から右へ下から上へ歯当たりが進行するので、これに従いツールマークを読む。例えば5ツールマークでは、1,2,3,4,5,6,1、そして、2,3,4,5,6,1,2そして、3,4,5,6,1,2,3、そして4,5,6,1,2,3,4となり、等周期うねりは各歯間で連続性があることになる。図21(b)の7ツールマークの図を下から読んでいることになる。13ツールマークも同様である。
また、右ねじれの同方向、つまり反時計回転では、従動でも駆動でも、各歯間等周期うねりは上記と同様、7、13ツールマークで発生する。これは44歯の歯車を5条のカッタで歯切りする場合と同様、回転方向と歯面当たり方向が一致しているからである。
【0125】
以上の検討結果を整理したものが図22であり、等周期うねりの各歯間連続性に影響するのは、歯車の仕様であり右ねじれか左ねじれかである。歯車の回転方向や、駆動であるか従動であるかは関係ない。
【0126】
ここで、歯車の歯数やカッタ条数に依存しない共通の原則を構築できないか検討する。既に段落0110で検討したように、歯車の回転方向や、駆動であるか従動であるかは関係ない(図3と図4参照)。
例えば図示は省略するが、左ねじれの27歯歯車を4条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは−1であり、歯間等周期うねりの連続性は5,9ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し+1となるツールマーク数の時である。
次に図示は省略するが、左ねじれの35歯歯車を6条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは−1であり、歯間等周期うねりの連続性は7,13ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し+1となるツールマーク数の時である。
次に前出の左ねじれの44歯歯車を5条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは−1であり、歯間等周期うねりの連続性は6,11ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し+1である。
以上の3件のから、左ねじれ歯車をカッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMが−1となる組み合わせのとき、歯間等周期うねりの連続性は、カッタ条数整数倍に対し+1となるツールマーク数の時である。
【0127】
次に図示は省略するが、左ねじれの21歯歯車を4条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは+1であり、歯間等周期うねりの連続性は3,7ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し−1となるツールマーク数の時である。
次に図示は省略するが、左ねじれの35歯歯車を6条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは+1であり、歯間等周期うねりの連続性は4,9ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し−1となるツールマーク数の時である。
次に図示は省略するが、左ねじれの43歯歯車を6条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは+1であり、歯間等周期うねりの連続性は5,11ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し−1である。
以上の3件のから、左ねじれ歯車をカッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMが−1となる組み合わせのとき、歯間等周期うねりの連続性は、カッタ条数整数倍に対し−1となるツールマーク数の時である。
【0128】
次に図示は省略するが、右ねじれの27歯歯車を4条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは−1であり、歯間等周期うねりの連続性は3,7ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し−1となるツールマーク数の時である。
次に図示は省略するが、左ねじれの34歯歯車を5条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは−1であり、歯間等周期うねりの連続性は4,9ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し−1となるツールマーク数の時である。
次に図示は省略するが、47歯歯車を6条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは−1であり、歯間等周期うねりの連続性は5,11ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し−1である。
以上の3件のから、左ねじれ歯車をカッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMが−1となる組み合わせのとき、歯間等周期うねりの連続性は、カッタ条数整数倍に対し−1となるツールマーク数の時である。
【0129】
次に図示は省略するが、右ねじれの21歯歯車を4条カッタで加工する場合、Z=H ×N+Mの式のMは+1であり、歯間等周期うねりの連続性は5,9ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し+1となるツールマーク数の時である。
次に図示は省略するが、左ねじれの36歯歯車を5条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは+1であり、歯間等周期うねりの連続性は6,11ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し+1となるツールマーク数の時である。
次に図示は省略するが、43歯歯車を6条カッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMは+1であり、歯間等周期うねりの連続性は7,13ツールマーク時であり、カッタ条数整数倍に対し+1である。
以上の3件のから、左ねじれ歯車をカッタで加工する場合、Z=H×N+Mの式のMが+1となる組み合わせのとき、歯間等周期うねりの連続性は、カッタ条数整数倍に対し+1となるツールマーク数の時である。
【0130】
ここで前記の段落0112〜0115を一覧表にまとめたものが図23である。これにより、歯間等周期うねりの連続性は単純な法則により成り立っていることが判る。
【0131】
続いて、作業者適切な加工仕様を容易に採択することができるように記載した作業仕様書について説明する。
図24(a)は、44歯左ねじれ歯車を5条カッタで加工する際の、歯切りステップにおいて設定することを禁止する加工条件を明示した作業仕様書の例であり、作業者がT=N2×H+1の条件を満たさない送り速度Vが簡単に認識できるようにしたものである。
図24(b)は、44歯右ねじれ歯車を5条カッタで加工する際の、歯切りステップにおいて設定することを禁止する加工条件を明示した作業仕様書の例であり、作業者がT=N2×H−1の条件を満たさない送り速度Vが簡単に認識できるようにしたものである。
図25(a)は、歯切りステップにおいて設定可能な加工条件を明示した作業仕様書であり、44歯左ねじれ歯車を5条カッタで加工する際にT=N2×H−1となる加工条件を明示しており、作業者が加工可能な送り速度Vを簡単に認識できるようにしたものである。
図25(b)、歯切りステップにおいて設定可能な加工条件を明示した作業仕様書であり、44歯右ねじれ歯車を5条カッタで加工する際にT=N2×H+1となる加工条件を明示しており、作業者が加工可能な送り速度Vを簡単に認識できるようにしたものである。
【0132】
本発明の実施形態に係る歯車の加工方法によれば、以下のような作用効果を奏する。
すなわち、Z=H×N1+Mと表し、左ねじれのヘリカル歯車である場合においては、M=−1のときは、T=N2×H+1を満たさない送り速度Vを設定し、M=+1のときは、T=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることで、各歯面に形成されるうねりが各歯面間で滑らかに段差が少なく連続し前記うねりの周期性が全体としてもそのまま維持されるツールマークの並びにならないようにしている。
また、Z=N2×H+Mと表し、右ねじれヘリカル歯車である場合においては、M=−1のときは、T=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定し、M=+1のときは、T=N2×H+1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることで、各歯面に形成されるうねりが各歯面間で滑らかに段差が少なく連続して前記うねりの周期性が全体としてもそのまま維持されるツールマークの並びにならないようにしている。
【0133】
よって、本発明の実施形態に係る歯車の加工方法は、簡略化された簡易な手法により、不測に発生するゴースト音を歯切り加工の段階で効果的に抑制することが可能となるため、ゴースト音を解消するための余分な研磨加工等による過大な負担を軽減して工数削減に寄与することができる。
【0134】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されず、適宜変更して実施することが可能である。
例えば、本実施形態においては、カッタの送り速度を調整して歯切り段階でゴースト音を抑制する加工方法を説明したが、シェービング加工等の仕上げ工程を排除する趣旨ではなく、本発明を実施した後にシェービング加工等により歯切りステップで形成されたツールマークを除去する工程を実行することもできる。シェービング加工等を実行する場合であっても、本発明を実施して、予めゴースト音が抑制されるような加工仕様で歯切りしておくことで、仕上げ加工の工数削減を図ることができる。
【符号の説明】
【0135】
2 カッタ
3 歯車
N1,N2 任意の正の整数
M 残部整数部分
H カッタの条数
T ツールマーク数
Z 歯車の歯数
m 歯直角モジュール
δ 1歯噛み合い分長さ
β ねじれ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリカル歯車である歯車の歯数をZ、前記歯車の歯面を切削するカッタの条数をH、任意の正の整数をN1、残部整数部分をMとして、Z=H×N1+Mと表し、
M=±1のいずれかを満たすか否かを判定する仕様判定ステップと、
M=±1のいずれかを満たす前記歯数Zおよび前記条数Hとなる組み合わせで歯切りする歯切りステップと、を含む歯車の加工方法であって、
前記歯車の幅方向に沿う方向における1歯噛み合い分長さδを設定し、前記カッタの送り速度をVとして、
1歯噛み合い分長さδの中に形成される前記カッタのツールマーク数Tを、
T′=δ/V から四捨五入して整数として求めるツールマーク数算出ステップを有し、
前記歯切りステップは、
任意の自然数をN2、残部整数部分をKとして、
T=N2×H+Kと表したとき、
T=N2×H+1またはT=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とするヘリカル歯車の加工方法。
【請求項2】
歯車のねじれ角をβ、歯直角モジュールをmとして、
δ=πm/sinβ
とすることを特徴とする請求項1に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項3】
前記歯車が左ねじれのヘリカル歯車である場合において、
M=−1のときは、T=N2×H+1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項4】
T=N2×H−1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項3に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項5】
前記歯車が左ねじれのヘリカル歯車である場合において、
M=+1のときは、T=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項6】
T=N2×H+1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項5に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項7】
前記歯車が右ねじれのヘリカル歯車である場合において、
M=−1のときは、T=N2×H−1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項8】
T=N2×H+1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項7に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項9】
前記歯車が右ねじれのヘリカル歯車である場合において、
M=+1のときは、T=N2×H+1を満たさない送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項10】
T=N2×H−1を満たすように、前記送り速度Vを設定して歯切りすることを特徴とする請求項9に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項11】
前記T=N2×H±1の条件を満たさない送り速度Vが認識できる作業仕様書に基づいて歯切りすることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項12】
前記作業仕様書は、前記歯切りステップにおいて設定することを禁止する加工条件を明示したことを特徴とする請求項11に記載のヘリカル歯車の加工方法。
【請求項13】
前記作業仕様書は、前記歯切りステップにおいて設定可能な加工条件を明示したことを特徴とする請求項11に記載のヘリカル歯車の加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2011−194514(P2011−194514A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63937(P2010−63937)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)