説明

ベクター系

本発明は、一般的に分子生物学及びゲノミクスの分野に関する。当該技術分野が必要とするものは、異なるベクターへの再クローニングをほとんど必要とせずに又は必要とせずに、クローニングされた物質を増殖、マッピング、発現、及び分析する能力を提供するだけでなく、全ゲノムを忠実に代表できる高品質ゲノムライブラリーの構築を可能にするベクターである。ゲノムライブラリー、クローン及びサブクローンは、効率的に高収率で生成されるべきである。ゲノムライブラリーは、容易に増殖及び分析されるべきでもある。当該技術分野は、組換えDNA又はタンパク質産生用の改良型ベクターも必要とする。本発明は、核酸分子のクローニング及び核酸ライブラリーの生成並びに組換えタンパク質の発現及びバクトフェクションに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に分子生物学及びゲノミクスの分野に関する。より具体的には、本発明は、核酸分子のクローニング及び核酸ライブラリーの生成並びに組換えタンパク質の発現及びバクトフェクション(bactofection)に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA、組換えタンパク質、及びゲノミクスは、生物医学研究及び治療上の処置に多大の影響を与えている。これらの方法は配列情報を必要とし、ひいては、全ゲノムを最小限のバイアスで代表する高品質ゲノムライブラリーを必要とする。ゲノムライブラリー用のDNA断片は、制限酵素を使用しゲノムを部分消化して生成されることが多いが、それには幾つかの限界がある。ゲノムの部分消化は、制限部位間の距離が、適用されたサイズ選択範囲より小さい又は大きいゲノム領域に対してバイアスをもたらす。部分消化に伴うクローニングバイアスの代わりとして、DNA断片は、ゲノムを無作為に剪断することにより生成できる。しかしながら、無作為に剪断されたDNAを使用すると、クローニング効率は著しく低下する。
【0003】
細菌人工染色体(BAC)ベクターは、細菌のゲノムライブラリーの構築及び忠実な維持のために開発された。BACベクターは、細胞1つ当たり1〜2つのコピーでベクターを維持するFプラスミドに基づく。低コピー数は、組換えに供される相同配列の量を制限することによるクローン安定性に関する重要な特徴である。しかしながら、低コピー数の重大な欠点は、クローニング用ベクターの調製と、配列決定法及びフィンガープリント法などによるクローンの下流分析用ベクターの調製とが、両方ともより高価でより困難になることである。
【0004】
組換えDNAとタンパク質の過剰産生用には、典型的には目標産物の高収率に結びつくため、中〜高コピー数プラスミドが低コピー又は単一コピー数プラスミドより好ましいことが多い。しかしながら、ある種の目標の過剰産生は、細胞に望ましくない毒性を引き起こし、著しい代謝ストレスを宿主に課し、重度の成長遅延を引き起こすことがある。細菌宿主は、「毒性」産物の産生を徹底的に低減した、又は完全に排除した変異細胞を自然選択することにより、「望ましくない」物質の過剰産生に応答することが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当技術分野が必要とするものは、異なるベクターへの再クローニングをほとんど必要とせずに又は必要とせずに、クローニングされた物質を増殖、マッピング、発現、及び分析する能力を提供するだけでなく、全ゲノムを忠実に代表できる高品質ゲノムライブラリーの構築を可能にするベクターである。ゲノムライブラリー、クローン及びサブクローンは、効率的に高収率で生成されるべきである。ゲノムライブラリーは、容易に増殖及び分析されるべきでもある。当技術分野は、組換えDNA又はタンパク質産生用の改良型ベクターも必要とする。
【0006】
これら及び他の必要性に対応できれば、当技術分野に重要な進歩がもたらされよう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの実施形態では、ベクターは、挿入部位、第1及び第2の複製開始点、並びに切除可能な断片に隣接する1対の転写ターミネーターを含む切除可能な断片を含むことができる。第1の複製開始点は、oriSなどの低コピー数複製開始点であってよい。第2の複製開始点は、oriVなどの誘導可能な高コピー数複製開始点であってよい。高コピー数複製開始点は、アラビノースプロモーターの支配下にあってよい。高コピー数複製開始点は、アラビノースプロモーターの支配下にある遺伝子によりコードされるTrfAにより制御されてもよい。
【0008】
別の実施形態では、ベクターの切除可能な断片は、少なくとも1つのIIS型制限酵素認識部位を含むことができる。ベクターは、切除可能な断片に隣接する2つの誘導可能な切除媒介部位(excision−mediating site)をさらに含むことができる。切除可能な断片は第2の複製開始点を含むことができる。1つの実施形態では、切除可能な断片は第1の複製開始点を含まない。別の実施形態では、切除可能な断片は第1又は第2の複製開始点を含まない。ベクターは、切除可能な断片に隣接する配列プライマー結合部位も含むことができる。さらに、宿主細胞はベクターを含むことができる。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、異種核酸は、異種核酸を準備し、本明細書中に記載のベクターを準備し、ベクターの挿入部位に異種核酸を導入することによりクローニングできる。ベクターは、例えばIIS型制限酵素で消化されていてよい。異種核酸は平滑末端を含んでいてもよい。第1の平滑末端及び消化されたベクターの末端と相補的な第2の末端を有し得る二重鎖アダプターが提供され得る。
【0010】
別の実施形態では、ベクターは、クローニングされた異種核酸を含んで生成できる。異種核酸はポリペプチドをコードできる。異種核酸は、プロモーターに作動可能に連結もできる。
【0011】
他の実施形態では、核酸のライブラリーは、異種核酸のライブラリーを準備し、本明細書中に記載のベクターを準備し、ベクターの挿入部位に異種核酸を導入することにより生成できる。ベクターは、例えばIIS型制限酵素で消化されていてよい。異種核酸は平滑末端を含んでいてもよい。第1の平滑末端及び消化されたベクターの末端と相補的な第2の末端を有し得る二重鎖アダプターが提供され得る。
【0012】
さらに別の実施形態では、本発明によるベクターは、細胞への細菌媒介性遺伝子導入(バクトフェクション)に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】pBAC16から構築されたpBAC−D及びpBAC−Pベクターを示す図である。
【図2】ゲノムライブラリー生成用のベクター構築体を示す図である。パネルAは、ベクターの先祖であるpKG15を示す。パネルBは、pKG15に挿入されたカセット領域を示す。lacZ−α及びPvuIIRは、縮尺通りに描かれていないことに留意すべきである。
【図3】断片をベクターに結合するために使用できるリンカー類を示す図である。左列上部の鎖の5’突出は、AarIに適合する突出である。右列上部の鎖の3’突出は、BstXIに適合する突出である。左列最下部の鎖の5’突出及び右列上部の鎖の5’突出は、他の任意の制限酵素であってよい。
【図4】実施例6、実験5の染色された組織培養を示す図である。試料1は39%のバクトフェクション効率(プラスミドコピー数の増幅有り)を示し、試料3はバクトフェクション効率の欠如(増幅無しの同一プラスミド)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
種々の実施形態では、本発明は、ゲノムライブラリー生成用だけでなく、特に組換えDNA及びタンパク質産生用に使用できるベクターに関する。本発明は、ベクターを増殖及び維持するための宿主細胞にも関する。他の有利な特性の中で、このベクターは、中〜高コピー数プラスミドが一般的に保持する高収率/低安定との折り合いに取り組み、組換えタンパク質の基礎発現も低減できる。
1.定義
本発明の化合物、産物、及び組成物並びに方法を開示して説明する前に、本明細書中で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明することが目的であり、限定的であることを意図しないことが理解されるべきである。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈が明らかにそうでないと指示しない限り、複数の参照対象が含まれることに留意しなければならない。「及び」及び「又は」という用語は、文脈が明らかにそうでないと指示しない限り、接続的及び離接的な意味の両方を包含し得ることにさらに留意しなければならない。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「塩基対」という用語は、二本鎖DNA分子における、例えばアデニン(A)がチミン(T)と、又はシトシン(C)がグアニン(G)と水素結合したヌクレオチドを指してよい。RNAでは、ウラシル(U)がチミンに置換される。塩基対は、DNAの長さの測定単位としても使用できる。
【0016】
挿入配列及びベクターに関して使用される場合、「クローン」という用語は、挿入配列のベクターへのライゲーション、又は相同的組換え、部位特異的組換え、若しくは場合によっては非正統的組換えのいずれかによるその導入を意味してよい。挿入配列、ベクター、及び宿主細胞に関して使用される場合、この用語は、所定の挿入配列の複製を作ることを意味してよい。この用語は、クローニングされた挿入配列を保持する宿主細胞、又はクローニングされた挿入配列自体を指してもよい。
【0017】
2つの核酸末端を参照する際に本明細書中で使用される場合、「適合する」という用語は、末端が(i)両方とも平滑末端であること、又は(ii)制限エンドヌクレアーゼで消化した後に生成されるものなど、相補的な一本鎖の伸長を含むことを意味してよい。少なくとも1つの末端は5’リン酸基を含んでいてよく、二本鎖DNAリガーゼによる末端のライゲーションを可能にしてよい。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「補完的」、「相補的」、又は「相補性」という用語は、核酸分子のヌクレオチド又はヌクレオチド類似体間のワトソンクリック型又はフーグスティーン型塩基対を意味してよい。例えば、配列5’−A−G−T−3’は、配列3’−T−C−A−5’と相補的である。相補性は、幾つかのヌクレオチドのみが塩基対合の法則により一致する「部分的」であってよい。又は、核酸間に「完全な」又は「全面的な」相補性があってよい。核酸鎖間の相補性の度合いは、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率及び強度に対して影響を与えることがある。
【0019】
核酸を参照する際に本明細書中で使用される場合、「エンコードする」、又は「コードする」という用語は、RNAへの転写及びその後のタンパク質への翻訳の際に、所定のタンパク質、ペプチド、又はアミノ酸配列の合成に結びつくヌクレオチドの配列を意味してよい。そのような転写及び翻訳は、実際にin vitro又はin vivoで生じてよく、又は標準的遺伝暗号に基づく全くの理論上であってよい。
【0020】
二本鎖核酸に関して使用される場合、「自由末端」という用語は、平滑自由末端若しくは粘着性自由末端、又はそれの組合せを有する線形核酸を意味してよい。
【0021】
本明細書中で使用される場合、「遺伝子」という用語は、ポリペプチド又はそれへの先駆物質をコードする核酸配列を含む核酸(例えば、DNA又はRNA)を指してよい。ポリペプチドは、全長又は断片の所望の活性又は機能的特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、抗原性など)が維持される限り、全長コード配列によりコードされてよく又はコード配列の任意の部分によりコードされてよい。この用語は、遺伝子の全長mRNAへの転写に寄与する、5’及び3’末端の両端でコード領域に隣接して位置する配列も包含する。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNA及びゲノム形態の両方を包含する。遺伝子のゲノム形態又はクローンは、非コード配列(例えばイントロンと呼ばれる)で中断されたコード領域を含んでよい。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「ライブラリー」という用語は、各々が挿入配列を含む複数のベクターを指してよく、又は複数のヌクレオチド断片を指してよい。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「核酸」という用語は、それらに限定されないがDNA又はRNAを含む任意の核酸含有分子を意味してよい。この用語は、これらに限定されないが、4−アセチルシトシン、8−ヒドロキシ−N6−メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル,5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルアデニン、1−メチルプソイドウラシル、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−メチルアデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マニノシルキュエオシン(β−D−maninosylqueosine)、5’−メトキシカルボニルメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、プソイドウラシル、キュエオシン(queosine)、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、N−ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、プソイドウラシル、キュエオシン、2−チオシトシン、及び2,6−ジアミノプリンを含む、DNA及びRNAの任意の塩基類似体を含む配列を包含する。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「ヌクレオチド」という用語は、ペントース糖部分、リン酸基、及び窒素の複素環塩基からなる核酸(例えば、DNA又はRNA)の単量体単位を指してよい。塩基は、グリコシドの炭素(ペントースの1’位の炭素)を介して糖部分に連結されていてよい。塩基及び糖の組合せはヌクレオシドと呼ばれてよい。ヌクレオシドが、ペントースの3’位又は5’位に結合したリン酸基を含む場合、ヌクレオチドと称されてよい。作動可能に連結されたヌクレオチドの配列は、「塩基配列」又は「ヌクレオチド配列」又は「核酸配列」と称されてよく、本明細書中では、左から右への方向性が5’末端から3’末端の通常方向である式により表されてよい。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「作動可能に連結した」という用語は、ポリヌクレオチドの生産的な転写がプロモーターから開始されるようなプロモーター及び下流のポリヌクレオチドを指してよい。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「制限」という用語は、認識部位でのエンドヌクレアーゼによる二重鎖DNAのニック又は切断を指してよい。エンドヌクレアーゼは、認識部位で又は認識部位の近くで二本鎖DNAを切断できる。
2.ベクター
ベクターは、挿入配列の複製をもたらすように挿入配列を組み込むことができる、細胞内で複製可能な円形又は線形の核酸分子であってよい。ベクターの代表的な例には、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、及びBACが含まれるが、それらに限定されない。
【0027】
ベクターは、下記に記載したものなど、多数のベクターエレメントのいずれかを含むことができる。ベクターは、参照により本明細書中に組み込まれるSambrook, J.ら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」に記載の方法など、in vitro及びin vivo法の組合せを使用して生成できる。
a.複製開始点
ベクターは、宿主細胞におけるベクターの自律増殖をもたらし得る複製開始点を含むことができる。複製開始点の代表的な例には、oriS、ColEl起点、並びにサルモネラ属(Salmonella)、エルシニア属(Yersinia)、エルウィニア属(Erwinia)、及びシゲラ属(Shigella)などの他の細菌に由来する染色体性の複製開始点が含まれるが、それらに限定されない。複製開始点は、oriV(タンパク質TrfAを必要とする)、fd複製開始点(バクテリオファージfd遺伝子IIにコードされたタンパク質を必要とする)、ラムダori(ラムダOタンパク質を必要とする)、並びにphi80、phi21、434、及び81などのファージの関連複製開始点、Plなどのファージの溶菌性及び溶原性複製開始点、単鎖ファージM13に由来する複製開始点、並びにラムダのシス活性化複製開始点であってもよい。
【0028】
ベクター又は宿主細胞は、複製開始点の選択に基づき、ベクターの増殖に適切な複製因子を含むことができる。
【0029】
複製開始点は、細胞が分裂する際にほとんどの娘細胞がベクターを含まない分配系を有し得る低コピー複製開始点であってよい。低コピー複製開始点の分離は、宿主染色体の分離産物と相関していてよく、又はパラレルメカニズムにより分離されてよい。低コピー複製開始点は、宿主細胞において少数のベクターを維持でき、ベクター、挿入、及び宿主染色体間の再編成を最小限にするのに有用であり得る。低コピー複製開始点は、結果として宿主細胞に1〜5コピーのベクターをもたらすことができる。低コピー複製開始点の代表的な例はoriSである。
【0030】
複製開始点は、分配系を有しないことがある高コピー複製開始点であってもよい。高コピー複製開始点は質量作用により分離してよく、ベクターコピーの数を考慮すると低い確率で中身のない細胞を最小限に抑えることができる。高コピー複製開始点は、宿主細胞に多数のベクターを維持できる。高コピー複製開始点は、宿主細胞に5〜100コピーのベクターを維持できる。高コピー複製開始点は、宿主細胞中に100を超えるコピーから1000を超えるコピーのベクターも維持できる。高コピー複製開始点の代表的な例は、変異体trfAを必要とすることがあるoriVである。高コピー複製開始点は、宿主細胞中のベクター産生を増加させるために使用できる。
【0031】
ベクターは複数の複製開始点を含むことができる。例えば、ベクターは、低コピー複製開始点及び高コピー複製開始点を含むことができる。ベクターは、低コピー複製開始点を使用して維持できるが、それらの内容が参照により本明細書中に組み込まれるHradecnaら(1998年)及びWildら(1998年)に記載のように、高コピー複製開始点用の複製因子の発現を誘導することにより多量に産生できる。そのような系は、利点を犠牲にせずに、高コピーベクターの代謝ストレス及び不安定性を回避するために、単一コピーから高コピーへの「命令による」増幅を提供できる。
b.マーカー
ベクターは、選択可能なマーカー又は可視マーカーも含むことができ、それは遺伝子であってよく、又はさもなくば有害であろう環境で増殖若しくは生存する能力を授与する活性をコードする若しくは提供する他のDNA断片であってよい。例えば、選択可能なマーカーは、選択可能なマーカーが発現される細胞に抗生物質又は薬物に対する耐性を授与できる。複製開始点は、プラスミドベクターの増殖を可能にする選択可能なマーカーとしても使用できる。選択可能なマーカー又は可視マーカーは、クローニングされたDNAを維持及び操作するために使用できる。マーカーの代表的な例には、Amp、Cam、Kan、Tet、lacZ、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子が含まれるが、それらに限定されない。マーカーは、制限酵素(例えばpvuIIR)などのネガティブ選択マーカー、又は本明細書中に記載した他のマーカーであってもよい。
【0032】
抗生物質耐性マーカーは、細胞代謝に負担を課すことがある遺伝子発現を時には伴うことがある。代謝負担が問題になり得る場合、初期クローンが選択されつつあるが増殖中に活性がない際に機能するように制御され得るマーカーを使用することにより、細胞代謝に対する負担を最小限にすることが、ある状況下では望ましいことがある。例えば、Tet耐性の発現は、Tetが培地に存在しない場合は、負担が低いように制御される。ベクターが分配された制御を有する場合、マーカーは、ベクターを欠如する細胞を選択するために連続的には必要ではないことがあり、したがってTetなどのマーカーが使用できる。
c.挿入部位
ベクターは、核酸のクローニングに使用できる挿入部位も含むことができる。挿入部位は、I、II、又はIII型制限酵素などのエンドヌクレアーゼ、ホーミングエンドヌクレアーゼ、又はニッキング酵素の認識部位であってよい。挿入部位は、相同組換え用の特異部位であってもよい。挿入部位は、挿入部位においてのみベクターに存在してよい。ある状況では、ベクターから他の挿入部位を取り除くことが望ましいことがある。例えば、挿入部位が制限酵素の認識部位である場合、他のそのような認識部位を染色体から取り除くことが望ましいことがある。
【0033】
I型制限酵素の代表的な例には、CfrAI、Eco377I、Eco394I、Eco585I、Eco646I、Eco777I、Eco826I、Eco851I、Eco912I、EcoAI、EcoBI、EcoDI、EcoDR2、EcoDR3、EcoDXXI、EcoEI、EcoKI、EcoprrI、EcoR124I、EcoR124II、EcoRD2、EcoRD3、HindI、KpnAI、KpnBI、NgoAV、StyLTIII、StySBLI、StySEAI、StySGI、StySJI、StySKI、StySPI及びStySQIが含まれるが、それらに限定されない。III型制限酵素の代表的な例には、EcoP15I、EcoPI、HinfIII、及びStyLTIが含まれるが、それらに限定されない。
【0034】
II型制限酵素の代表的な例には、AarI、AatII、AccI、AceIII、AciI、AcII、AcyI、AflII、AflIII、AgeI、AhaIII、AjuI、AlfI、AloI、AluI、AlwFI、AlwNI、ApaBI、ApaI、ApaLI、ApoI、AscI、AspCNI、AsuI、AsuII、AvaI、AvaII、AvaIII、AvrII、BaeI、BalI、BamHI、BbvCI、BbvI、BbvII、BccI、Bce83I、BcefI、BcgI、BciVI、BclI、BdaI、BetI、BfiI、BglI、BglII、BinI、BmgI、BplI、Bpu10I、BsaAI、BsaBI、BsaXI、BsbI、BscGI、BseMII、BsePI、BseRI、BseSI、BseYI、BsgI、BsiI、BsiYI、BsmAI、BsmI、Bsp1407I、Bsp24I、BspGI、BspHI、BspLU11I、BspMI、BspMII、BspNCI、BsrBI、BsrDI、BsrI、BstEII、BstXI、BtgZI、BtrI、BtsI、Cac8I、CauII、CdiI、Cfrl0I、CfrI、CjeI、CjeNII、CjePI、ClaI、CspCI、CstMI、CviJI、CviRI、DdeI、DpnI、DraII、DraIII、DrdI、DrdII、DsaI、Eam1105I、EciI、Eco31I、Eco47III、Eco57I、Eco57MI、EcoNI、EcoRI、EcoRII、EcoRV、Esp3I、EspI、FalI、FauI、FinI、Fnu4HI、FnuDII、FokI、FseI、FspAI、GdiII、GsuI、HaeI、HaeII、HaeIII、HaeIV、HgaI、HgiAI、HgiCI、HgiEII、HgiJII、HhaI、Hin4I、Hin4II、HindII、HindIII、HinfI、HpaI、HpaII、HphI、Hpy178III、Hpy188I、Hpy99I、KpnI、Ksp632I、MaeI、MaeII、MaeIII、MboI、MboII、McrI、MfeI、MjaIV、MluI、MmeI、MnlI、MseI、MslI、MstI、MwoI、NaeI、NarI、NcoI、NdeI、NheI、NlaIII、NlaIV、NotI、NruI、NspBII、NspI、OliI、PacI、PasI、Pfll108I、PflMI、PfoI、PleI、PmaCI、PmeI、PpiI、PpuMI、PshAI、PsiI、PspXI、PsrI、PstI、PvuI、PvuII、RleAI、RsaI、RsrII、SacI、SacII、SalI、SanDI、SapI、SauI、ScaI、ScrFI、SduI、SecI、SexAI、SfaNI、SfeI、SfiI、SgfI、SgrAI、SgrDI、SimI、SmaI、SmlI、SnaBI、SnaI、SpeI、SphI、SplI、SrfI、Sse232I、Sse8387I、Sse8647I、SsmI、SspI、Sth132I、StuI、StyI、SwaI、TaqI、TaqII、TatI、TauI、TfiI、TseI、TsoI、Tsp45I、Tsp4CI、TspDTI、TspEI、TspGWI、TspRI、TssI、TstI、TsuI、Tth111I、Tth111II、UbaF10I、UbaF9I、UbaPI、VspI、XbaI、XcmI、XhoI、XhoII、XmaIII及びXmnIが含まれるが、それらに限定されない。
【0035】
ホーミングエンドヌクレアーゼの代表的な例には、F−SceI、F−SceII、F−SuvI、F−TevI、F−TevII、F−TflI、F−TflII、F−TflIV (別名HegA)、H−DreI、I−AmaI、I−AniI、I−BasI、I−BmoI、I−CeuI、I−CeuAIIP、I−ChuI、I−CmoeI、I−CpaI、I−CpaII、I−CreI、I−CrepsbIP、I−CrepsbIIP、I−CrepsbIIIP、I−CrepsbIVP、I−CsmI、I−CvuI、I−CvuAIP、I−DdiI、I−DirI、I−DmoI、I−HmuI、I−HmuII、I−HspNIP、I−LlaI、I−MsoI、I−NaaI、I−NanI、I−NclIP、I−NgrIP、I−NitI、I−NjaI、I−Nsp236IP、I−PakI、I−PboIP、I−PcuIP、I−PcuAI、I−PcuVI、I−PgrIP、I−PobIP、I−PogI、I−PorI、I−PorIIP、I−PpbIP、I−PpoI、I−ScaI、I−SceI、I−SceII、I−SceIII、I−SceIV、I−SceV、I−SceVI、I−SceVII、I−SneIP、I−SpomI、I−SquIP、I−Ssp6803I、I−SthPhiJP、I−SthPhiST3P、I−SthPhiS3bP、I−TevI、I−TevII、I−TevIII、I−Tsp061I、I−TwoI、I−UarHGPA1P、I−VinIP、I−ZbiIP、PI−MgaI、PI−MtuI、PI−MtuHIP、PI−MtuHIIP、PI−PabI、PI−PabII、PI−PfuI、PI−PfuII、PI−PkoI、PI−PkoII、PI−PspI、PI−Rma43812IP、PI−ScaI、PI−SceI、PI−TfuI、PI−TfuII、PI−ThyI、PI−TliI、PI−TliII及びPI−ZbaIが含まれるが、それらに限定されない。
【0036】
他の考え得る種類のエンドヌクレアーゼは、認識部位の複雑さにより特徴づけられる酵素である。そのような酵素の代表的な例は、参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第5,543,308号明細書に記載のFseIである。
【0037】
ベクターは複数の挿入部位を含むことができ、挿入部位はマルチクローニングサイトの一部としてクラスター化できる。ベクターは、同一であってよい複数のマルチクローニングサイトも含むことができる。
d.スタッファー断片
ベクターは、各末端でエンドヌクレアーゼの認識部位により画定され得るスタッファー断片も含むことができる。スタッファー断片は複製開始点を含むことができる。スタッファー断片はマーカーも含むことができる。スタッファー断片は挿入部位も含むことができる。
【0038】
スタッファー断片の末端を画定する認識部位は、IIS型又は類似の酵素の制限部位であってよい。そのような認識部位は、線形化ベクターの2つの末端で、非パリンドロームの突出及び非相補的な突出を生成するために使用できる。例えば、AarIでの消化は、その結果生じるベクター断片の以下の突出:
【0039】
【化1】

を生成するために使用できる。
【0040】
線形ベクター断片の2つの末端は、相補的ではないので互いにライゲーションしてベクターを再び閉じることができない。アダプターは、線形化ベクターに挿入をライゲーションするために使用できる。アダプターは、互いにアニーリングして1つの末端でベクターに相補的な突出を有する二本鎖DNA分子を生成する、2つの部分的に相補的なDNA鎖を含むことができる。アダプターの他方の末端は平滑末端であってよい。アダプターは、両末端でリン酸が欠如していてよい。アダプターは、制限酵素部位も含むことができる。上記で示した線形化ベクター用のアダプターの代表的な例は、以下:
【0041】
【化2】

であり、これは、NotI(GC▼GGCCGC)及びAscI(GG▼CGCGCC)の認識部位も有する。
【0042】
アダプターは、いずれの鎖にも5’リン酸を有しないため、また突出がそれ自体に対して相補的ではないため、それ自体にライゲーションできない。目標断片、ベクター及びアダプターのライゲーションに際して、次の反応のみ:(a)アダプターの平滑末端を目標断片のリン酸化平滑末端に結合させること、(b)アニーリングした後でアダプターの突出をベクターの相補的な突出に結合させること、及び稀に(c)目標の末端を結合させて連鎖状の目標を生成することが起こり得る。非常に好ましい反応産生物は、各末端で単一のアダプターを介して1つの目標に結合された1つのベクターを含む環であってよい。この分子は、宿主細胞に形質転換されてクローンを産生できる。副反応産物(c)は、大きさがほぼ2倍又はそれよりさらに大きいため、区別されずクローニングできないことがある。
【0043】
アダプターの平滑末端は、目標断片に相補的であるように調節できる。例えば、目標断片は、修復により平滑末端化され得る無作為に剪断されたDNAであってよい。平滑末端のDNAは、線形の目標DNAの各末端へのTaqポリメラーゼによる単一Aヌクレオチドの非テンプレート媒介性付加により修飾できる。そのような場合、上記のアダプターは以下のように修飾できる。
【0044】
【化3】

目標DNAへの単一Aヌクレオチドの付加は、DNAの線形鎖状体の形成を防止し、目標断片へのリンカーのライゲーション効率を増加できる。同一の非相補的突出を実現する追加的な方法には、ターミナルトランスフェラーゼによりポリヌクレオチドを付加すること、及び3つ又はそれより少数のヌクレオチド三リン酸の存在下で、混合物中に存在しない塩基により画定される固有の位置に対して、DNAポリメラーゼのプルーフリーディング活性を使用することが含まれる。
【0045】
スタッファー断片は、ベクターの線形化後に物理的手段により取り除くことができる。スタッファー断片は、挿入部位にクローニングされた核酸を有するベクターを含む宿主細胞を選択又は識別するために使用できる選択可能な又はアッセイ可能なマーカーも含むことができる。選択可能なマーカーは、色によりクローン挿入の識別を可能にするLacZをコードできる。選択可能なマーカーは、ネガティブ対抗選択の形態であってもよい。例えば、スタッファー断片は、枯草菌(B.subtilis)のsacBによりコードされるものなど、ネガティブに選択可能なスクロース感受性用のマーカーを含むことができる。
【0046】
スタッファー断片は、アラビノースプロモーター、lacプロモーター、又は別のプロモーターの支配下にある、大腸菌(E.coli)の浸透圧調節遺伝子MscLの「常時開口」変異体の遺伝子も含むことができる。mscL遺伝子は、正常であれば細胞の恒常的な浸透圧を維持するために開く又は閉じる水分用の膜貫通チャンネルをコードする。「常時開口」変異体チャンネルは常に開口しており、そのためその発現は閉口できない穴を膜に生じさせ、したがって細胞は死滅し、ネガティブ選択が提供される。未切断のベクターを増殖するための条件は、毒性産物が産生されない条件下(例えばグルコースによる抑制)で選択され、クローンの選択及び増殖のための条件は、毒素が発現される条件下(例えばアラビノースの存在下)で選択される。
【0047】
スタッファー断片は、制限酵素、例えばPvuIIをコードする配列を含むこともできる。制限酵素は、本明細書中に列挙された制限部位などの制限部位に特異的であってよい。ベクターは、制限酵素により認識される制限部位に特異的なメチルトランスフェラーゼ遺伝子を発現する宿主細胞で維持できる。
【0048】
ネガティブ選択は、バクテリオファージP1に由来する毒素(Doc)抗毒素(Phd)系であってもよい。ベクターは、抗毒素であるPhdを発現する宿主で増殖できる。組換えクローンは、Phdを発現しない別の宿主で増殖できる。ベクターDNAは、ベクターDNAの単離後にクローニング酵素で切断され、スタッファー断片から分離して精製できる。目標断片は、上記の方法の1つ及び増殖宿主に導入されたライゲーション産物を使用して挿入できる。スタッファー断片を保持するベクターは、毒素であるDocを発現して細胞を死滅させよう。挿入は含むがスタッファー断片を含まない所望のクローンは、正常に増殖する。ネガティブ対抗選択は、参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第6,291,245号明細書に記載のような方法であってもよい。
e.転写ターミネーター
ベクターは、スタッファー断片の外側のプロモーターから開始される転写が、スタッファー断片に転写を拡張しないようにベクターに配置できる転写ターミネーターも含むことができる。ベクターは、スタッファー断片の各側に転写ターミネーターを含むことができる。これは、潜在的な毒性産物をコードする核酸配列の改善されたクローニングを可能にしてよい。
【0049】
転写終結配列は、ATに富む配列が後に続き二回転対称性を有する、GCに富む領域を含むことができる。T7、TINT、TL1、TL2、TL3、TR1、RR2、T6S、バクテリオファージラムダに由来する終結シグナル、大腸菌のtrp遺伝子クラスターなどの細菌性遺伝子に由来する終結シグナル、及びTrrnBなどのリボソームターミネーターを含むが、それらに限定されない多様な転写終結配列が使用できる。
f.配列決定用プライマー
ベクターは、挿入配列にクローニングされた核酸の配列を決定するために使用できる配列決定用プライマー結合部位も含むことができる。ベクターは、スタッファー断片の各側に配列決定用プライマー結合部位を含むことができる。−47及び−48を含むが、それらに限定されない多様な配列決定用プライマー結合部位が使用できる。
g.切除
ベクターは、挿入部位に隣接し、それにより切除可能な断片を画定できる切除部位も含むことができる。好適なシグナルの存在下で適切な因子があれば、切除部位は活性化され互いに再結合し、それにより切除可能な断片、及び挿入部位内の核酸を切除し、円形プラスミドを生成できる。
【0050】
切除可能な断片は、切除された断片を複製するために使用できる複製開始点を含むことができる。切除可能な断片は、切除された断片を選択するために使用できるマーカーも含むことができる。切除可能な断片は、例えば、クローニングされた挿入以外に最低限の量の核酸配列を有することが望ましい場合、複製開始点又はマーカーを有しなくともよい。
【0051】
切除部位は、それらに限定されないが、xisを有する若しくは有しないラムダ又は他のファージインテグラーゼ(例えば、attP及びattB部位)、cre−lox、flipリコンビナーゼ(例えば、FRTエレメント)、及びラムダミニサークル(lambda minicircle)を含む系に適合できる。参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第5,874,259号明細書に記載のように、切除系は誘導可能であってよい。
3.宿主細胞
宿主細胞はベクターで形質転換できる任意の細胞であってよい。宿主細胞の代表的な例には、K−12又はBなどの大腸菌株が含まれるがそれらに限定されない。K−12株はMG1655であってよい。大腸菌株は、F又はF’因子を欠如していてよい(例えば、DH10B)。宿主細胞は、その内容が参照により本明細書中に組み込まれる国際公開第2003/070880号パンフレットに記載のような、縮小ゲノムの細菌であってもよい。縮小ゲノムの細菌は、特定のエンドヌクレアーゼの挿入配列及び認識部位を欠如するように修飾できる。
【0052】
宿主細胞は、複製開始点の複製に結びつく因子も含むことができ、これらの因子は誘導可能であってよい。例えば、宿主細胞はtrfA遺伝子を含むことができ、その産物はoriVなどの高コピー数複製開始点の維持を可能にしてよい。trfA遺伝子の発現は、アラビノースに制御されるプロモーターPBADプロモーターなど、誘導可能なプロモーターの支配下にあってよい。
4.クローニング
ベクターは、核酸断片をクローニングするために使用できるクローニングベクターであってよい。ベクターは、クローニングされる核酸断片の末端と適合するエンドヌクレアーゼを用いて挿入の大きさで切断できる。その後、核酸断片はベクターにライゲーションできる。ライゲーションは、単一段階又は多段階で起こってよい。アダプターは、核酸断片をベクターの挿入部位にライゲーションするために使用できる。核酸断片は、in vitro又はin vivoのいずれかで、相同組換え、部位特異的組換え、又はブリッジ組換え(bridging recombination)によりクローニングベクターに導入することもできる。
【0053】
核酸断片は、ベクターに配置可能な任意の核酸配列であってよい。代表的な例には、無作為なDNAライブラリー、ゲノムライブラリー、及び公知の核酸配列が含まれるが、それらに限定されない。特定の核酸断片とは、同一核酸分子の貯留若しくは貯留の一部、非同一核酸分子の貯留若しくは貯留の一部、又は特定の個々の核酸分子を指してよい。
【0054】
核酸断片は、平滑末端を有し得る無作為に剪断されたDNAであってよい。無作為に剪断されたDNAは、例えば、パルスフィールドゲル電気泳動を使用して、サイズ選択できる。無作為に剪断されたDNAの末端は、修復されてリン酸化平滑末端を生成できる。1つ又は複数のヌクレオチドを、Taqポリメラーゼによる3’アデノシンヌクレオチドの付加など、非テンプレート媒介性付加により鎖の末端に付加できる。無作為に剪断されたDNAは、核酸断片に対して過剰量であり得るアダプターを使用して、ベクターにライゲーションできる。
5.タンパク質発現
ベクターは、作動可能に連結されたコード配列(例えば、産生物をコードする挿入配列)を特定の宿主生物で発現するのに必要である適切な核酸配列を含むことができる発現ベクターであってよい。発現に必要な核酸配列には、プロモーター、オペレーター、及びリボソーム結合部位が含まれるが、それらに限定されない。
【0055】
プロモーターは、誘導剤に応答することにより宿主細胞で機能して作動可能に連結された下流のポリヌクレオチドの転写を促進できる誘導可能なプロモーターであってよい。プロモーターは、誘導前には不活性であることが可能で、その結果、非誘導状態において産生物のレベルがわずかである又は通常の検知法による測定では検知不可能であり、それは特定のポリペプチドの発現が宿主細胞に有害な場合に望ましいことがある。プロモーターの代表的な例には、アラビノースにより誘導できるAraC/ParaBAD(アクチベーター−プロモーター)、アンヒドロテトラサイクリン(anhydrotetracycline)により誘導できるTetR/PLtetO(リプレッサー−プロモーター)、Ptac、並びにT5、T7、及びラムノースプロモーターが含まれるが、それらに限定されない。プロモーターがファージT7のプロモーターである場合、宿主細胞は、ラムノースプロモーターなど、別の誘導可能なプロモーターの支配下でT7ポリメラーゼを発現できる。
【0056】
ベクターは、発現されたタンパク質を精製するのに使用できるアフィニティータグのコード領域を含むことができる。そのコード領域は、発現されたタンパク質のアミノ末端又はカルボキシ末端でアフィニティータグの発現を可能にしてよい。そのコード領域は、発現されたタンパク質の精製後にアフィニティータグを切断するのに使用できるプロテアーゼ切断部位を含むこともできる。アフィニティータグの代表的な例には、(His)、マルトース結合タンパク質、チオレドキシン、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、及びNusAが含まれるが、それらに限定されない。
6.バクトフェクション
1つの実施形態では、本明細書中に記載のベクターは、核酸、例えば遺伝子、又は治療剤若しくは予防剤をコードする若しくは含む内在性、外来性、若しくは異種の発現可能なDNA若しくはRNAを動物細胞に送達する(バクトフェクション)ために使用できる。これらの方法に使用される細菌は、細菌ベクター又はバクトフェクションベクターと呼ばれる。核酸によりコードされた治療剤又は予防剤には、合成遺伝子、免疫調節剤、抗原、例えば病原性生物若しくは腫物に関連する抗原、DNA、アンチセンスRNA、触媒RNA、タンパク質、ペプチド、抗体、サイトカイン、低分子、又は他の有用な治療用分子若しくは予防用分子が含まれ得る。
【0057】
1つの実施形態では、本発明は、動物細胞において核酸又は遺伝子を誘導及び発現する方法を含み、この方法は(a)挿入部位、第1及び第2の複製開始点、並びに1対の転写ターミネーターを含むベクターを準備することと;(b)このベクターの挿入部位に核酸又は遺伝子を導入することと;(c)少なくとも1つの侵襲性細菌をこのベクターで形質転換し、少なくとも1つの形質転換された細菌を形成することと;(d)動物細胞を前記形質転換された細菌に感染させることとを含む。1つの実施形態では、核酸又は遺伝子は検知可能なレベルで発現される。別の実施形態では、動物細胞はin vitroで培養される。
【0058】
本明細書中で「侵襲性細菌」とは、動物細胞の細胞質又は核に侵入するように遺伝子操作された細菌と同様に、動物細胞の細胞質又は核にもともと侵入可能な細菌である。
【0059】
関連する実施形態では、第1の複製開始点は、低コピー数複製開始点である。別の実施形態では、低コピー数複製開始点はoriSである。さらに別の実施形態では、第2の複製開始点は、誘導可能な高コピー数複製開始点である。さらに別の実施形態では、高コピー数複製開始点はoriVである。1つの実施形態では、高コピー数複製開始点は、アラビノースプロモーターの支配下にある。別の実施形態では、高コピー数複製開始点は、アラビノースプロモーターの支配下にある遺伝子によりコードされるTrfAにより制御される。
【0060】
別の実施形態では、ベクターは、切除可能な断片に隣接する2つの誘導可能な切除媒介部位をさらに含む。別の実施形態では、切除可能な断片は、第2の複製開始点を含む。その代わりに、切除可能な断片は、第1の複製開始点を含まない。関連する実施形態では、切除可能な断片は、治療剤又は予防剤をコードする又は含む第1又は第2の複製開始点を含まない。
【0061】
1つの実施形態では、核酸又は遺伝子は、治療剤又は予防剤をコードする。別の実施形態では、核酸は、治療用タンパク質、低分子、免疫調節分子、アンチセンスRNA、及び触媒RNAからなる群から選択されるメンバーをコードするDNA又はRNAを含む。別の実施形態では、コードされたメンバーは、少なくとも検知可能なレベルで発現される。
【0062】
別の実施形態では、哺乳動物の細胞は、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、ネコ、バッファロー、イヌ、ヤギ、ウマ、ロバ、シカ、及び霊長類の細胞からなる群から選択される。
【0063】
別の実施形態では、侵襲性細菌は、シゲラ属種、リステリア属種、リケッチア属種、及び腸侵入性大腸菌からなる群から選択される。別の実施形態では、侵襲性細菌には、シゲラ属種、リステリア属種、リケッチア属種、又は腸侵入性大腸菌種の侵襲特性を模倣するために遺伝子操作された、エルシニア属種、エシェリヒア属(Escherichia)種、クレブシェラ属(Klebsiella)種、ボルデテラ属(Bordetella)種、ナイセリア属(Neisseria)種、エーロモナス属(Aeromonas)種、フランシエセラ属(Franciesella)種、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)種、シトロバクター属(Citrobacter)種、クラミジア属(Chlamydia)種、ヘモフィルス属(Hemophilus)種、ブルセラ属(Brucella)種、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)種、レジオネラ属(Legionella)種、ロドコッカス属(Rhodococcus)種、シュードモナス属(Pseudomonas)種、ヘリコバクター属(Helicobacter)種、サルモネラ属種、ビブリオ属(Vibrio)種、バチルス属(Bacillus)種、リーシュマニア属(Leishmania)種、又はエリシペロトリックス属(Erysipelothrix)種が含まれる。別の実施形態では、細菌は縮小ゲノムを有する。さらに別の実施形態では、細菌は弱毒化される。さらに別の実施形態では、細菌株はMDS42である。
【0064】
別の実施形態では、動物細胞は、多細胞生物に由来する又は多細胞生物に存在する。細胞は、無傷動物、初代細胞培養、外植片培養、又は形質転換された細胞系に存在していてよい。
【0065】
別の実施形態では、本発明は、疾病を治療する又は予防する目的で、動物、好ましくはヒトに本発明の細菌ベクターが投与される治療方法又は予防方法に関する。
【0066】
別の実施形態では、本発明のベクター及びプラスミドは、バクトフェクション効率の改善をもたらし、例えば、約1%を超えた、約5%を超えた、約10%を超えた、約20%を超えた、約30%を超えた、約40%を超えた、約50%を超えた、約60%を超えた、約70%を超えた、約80%を超えた、又は約90%を超えたバクトフェクションを示す。
【実施例】
【0067】
本発明のこれらの及び他の実施形態は、以下の非限定的な実施例で例証される。
【0068】
(実施例1)DNA及びタンパク質産生用の増幅可能なベクター
図1のベクターは、利点を犠牲にせずに高コピーベクターの代謝ストレス及び不安定性を回避するための、単一コピーから高コピーへの「命令による」増幅を特徴とする。ベクターは、プラスミドpBAC16に由来した。プラスミドは、oriS複製開始点により単一コピーとして維持することができ、プラスミドの単一コピーは、細胞分裂中に、par遺伝子によりコードされた分配機能により娘細胞へ忠実に移動され得る。この開始点は、200kbを超える挿入を安定的に維持することができ、全代謝経路の導入を可能にする。
【0069】
oriSは、プラスミドを維持する際に選択の基盤となる薬物を除外可能にすることに留意すべきである。薬物選択を除外すると、生産コストが最小限に抑えられるだけでなく、宿主細胞に対するストレスが低減できる。CAT遺伝子及びOriV断片は、2つのFRT部位内にあるように描かれているが、そのいずれか又は両方は、切除産物に存在することがそのいずれか又は両方にとって望ましいかどうか次第で、2つのFRT部位の外部に位置していてよいことにも留意すべきである。OriVの分配に関与するparA、parB、及びparC、並びにF’プラスミドの複製に関与するrepEは必要ではなく、もし所望であればベクター上に位置してよく、又は宿主細胞により提供されてよいことにも留意すべきである。
【0070】
プラスミドは、trfA遺伝子産物の発現により高コピー数に活性化され得る第2の複製開始点(oriV)も含む。trfA遺伝子産物はoriVで複製を開始でき、1細胞当たり100コピーまで産生する。oriV開始点は、有害な影響を与えずに150kbを超える挿入と共に機能できる。2つの複製開始点の組合せは、高コピーへの増幅と同様に、プラスミドの安定した複製を低コピーで可能にする。
【0071】
参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第5,874,259号明細書、第6,472,177号明細書、及び第6,864,087号明細書に記載のものなどの増幅可能なBACベクターは、クローニング部位がparC遺伝子及びcat遺伝子間の転写の集束領域にあるという問題を有する。クローニングされたDNAへの転写読み過ごしは、不安定性に関する問題を引き起こすことが多い。ベクターpBAC−P及びpBAC−Dは、SalIクローニング部位に隣接する転写ターミネーターを有し、目標DNAへの転写読み過ごしを防止できる。配列決定用プライマー結合部位(−47及び−48プライマー)、及び低頻度切断酵素部位(PmeI、PI−SceI、SwaI、及びI−SceI)は、クローニングに都合がよいようにSalIクローニング部位も隣接する。
【0072】
pBAC16の固有なSalI部位は、追加的な応用及び産生物用にベクターを修飾するのに使用できる。挿入は、SalI部位が再形成される場合はSalI断片として、又は適合する突出を有するがSalI又はXhoI部位を再形成しないXhoI断片としてクローニングできる。個別の実験のために、マルチクローニングサイト、カラースクリーニング、又は特別な至適化を有するカセットは、容易に設計されpBAC16ベクターにクローニングできる。
【0073】
クローニングに使用できるベクターpBAC−Dは、pBAC16にSalI部位でクローニングカセットを付加することにより生成された。従来のクローニングカセットは、lacZ遺伝子のアルファ断片へのクローニングを利用し、X−galプレート上で青色/白色コロニーとして容易にアッセイができるlacZの不活性化を引き起こす。この系の欠点は、lacプロモーターが依然として存在し、クローニングされた断片への転写を指示できることであり、それは、挿入由来の発現が有害な場合、問題を引き起こす。pBAC16の転写ターミネーターを利用するために、クローニングカセットは、lacZプロモーター及びアルファ断片の完全な除去を可能にする制限部位をlacZの両側に有した。したがってDNAは、プロモーターのない2つの転写ターミネーター間にクローニングできる。
【0074】
タンパク質発現用に使用できるベクターpBAC−Pは、pBAC16のSalI部位に発現カセットを付加することにより生成された。カセットは、T7プロモーター、リボソーム結合部位、及びマルチクローニングサイトを含んでいた。特に毒性産物を伴うタンパク質発現の場合、低基礎レベルの発現がクローン安定性及び堅固な成長にとって非常に重要であり得る。単一コピーで増幅可能なベクターは、低基礎レベルを達成するために、(i)通常の多コピーベクターでの低基礎レベルの発現系が、単一コピーでさらに低い基礎レベルを示し得ること、(ii)ベクターへの転写読み過ごしが、隣接する転写ターミネーターにより厳密に制限され得ることという2つの局面を提供できる。高発現だが制御可能である発現を達成するために、プロモーター及びコピー数の両方が誘導されてよい。複製の誘導は、転写の誘導と組み合わせるため、非常に広いダイナミックレンジが達成できる。
【0075】
(実施例2)誘導及びコピー数の独立した制御
pBAC−Pベクターの利点は、タンパク質発現を制御するためにコピー数及び転写を独立して制御することが可能なことである。誘導の1つの方法は、その代謝が異化代謝産物で抑制されるラクトース、マルトース、ラムノース、又はアラビノースなどの追加的な糖を培地に含む限定的な量のグルコースで宿主細胞が増殖するジオーキシシフト(diauxic shift)の使用である。グルコースが消費されると、異化代謝産物抑制は緩和され、供給された2次的な糖の支配下にあるプロモーターが活性化され得る。幾つかのプロトコルではグリセロールも培地に添加され、ジオーキシシフト後のエネルギー源を提供する。グリセロールは異化代謝産物で抑制されないが、グルコースが利用可能な場合は使用され得ない。誘導する糖の異化経路には、栄養素要求性突然変異が意図的に導入されることが多く、誘導レベルを安定させるためにその代謝を防止する。これらの場合、エネルギー源を提供するためにグリセロールが必要であり得る。
【0076】
ジオーキシシフト法は自動的に制御できる。細胞の成長速度にかかわらず、細胞は、増殖曲線の同一点でグルコースを使い果たし、誘導できる。増殖をモニターしその後手作業で誘導する必要がない。これは、様々な分離物の接種材料及び増殖速度が変動するマイクロタイタープレートにおけるハイスループット応用に特に魅力的である。ジオーキシシフトは、IPTGのような高価な化学薬品、温度変化に求められるような複雑な設備、及びリン酸塩欠乏におけるような細胞に対する代謝攻撃を必要としなくてよい。この方法は、安価で、再現性があり、且つ便利である。
【0077】
本発明者らは、アラビノース支配下のtrfA、及びラムノース支配下のT7ポリメラーゼ遺伝子を有する縮小ゲノム細菌株を構築した。発明者らは、ジオーキシシフトが両方の場合に十分に機能することを個々に確認した。アラビノースに制御されるtrfA及びラムノースに制御されるT7ポリメラーゼは、MDS43中で組み合わせる。この構築体では、アラビノース及びラムノースの異化遺伝子が、それぞれtrfA及びT7ポリメラーゼに置換され、誘導物質の濃度が異化により低下するのを防止する。アラビノースプロモーター由来の発現は、集団中の幾つかの細胞は十分に発現しているが、他の細胞は発現していないという「全か無か」の発現効果を被ることがある。アラビノース輸送体(araE)の構成的発現は、この問題を緩和できる。MDS細胞系は、araEの構成的発現を示すように構築されている。
【0078】
この宿主株及びpBAC−Pを使用して、ジオーキシシフトをアラビノースで使用すると、発現を伴わない増幅を得ることができる。ラムノースを用いると、増幅を伴わずに発現を誘導できる。この2つの糖の組合せを使用すると、増幅及び発現の両方を誘導できる。
【0079】
(実施例3)ゲノムライブラリーの構築用ベクター
ゲノムライブラリーは、ベクターの2つの制限部位間のスタッファー断片を無作為に剪断されたDNAに交換又は置換することにより生成する。スタッファー断片は、選択可能又は分析可能なマーカーを含むことができる。画定された認識配列を有するが切断部位では画定されない塩基を有する2つのIIS型制限部位又は類似の部位を使用し、それにより同一の適合しない突出の形成が可能になり得る。適合する突出を有するリンカーを、無作為に剪断されたゲノムDNAにライゲーションし、その後ベクターにライゲーションする。
【0080】
図2Aに示すように、このベクターの先祖はpKG15である。プラスミドpKG15は、(1)クロラムフェニコールアセチル転移酵素をコードする遺伝子(cat)が、内部EcoRI部位を取り除き、米国特許第5,874,259号明細書、第6,472,177号明細書、及び第6,864,087号明細書に記載の増幅可能なBACベクターと比較して、oriV付近のおよそ600bp分だけベクターの大きさを低減するために修飾されたことと;(2)転写ターミネーターtL3及びリボソームターミネーターtrrnBがベクターに挿入され、それにより読み過ごしを低減でき、挿入内へ又は外への転写により引き起こされる不安定性と毒性を排除できることと;(3)希少な制限部位:一方の側ではPmeI(8bp認識)及びPI−SceI(36bp)、並びに他方ではSwaI(8bp)及びI−SceI(18bp)がクローニング部位に隣接して挿入され、クローニングされたDNA断片のきれいな切除及びマッピングを容易にできることと;(4)−47及び−48配列決定用プライマーアニーリング部位と;(5)種々のカセットをクローニングできる配列プライマーアニーリング部位間の固有なSalI制限部位との5つの固有の特徴を備えている。
【0081】
CAT及びOriVは、2つのFRT部位内にあるように描かれているが、そのいずれか又は両方は、切除産物に存在することがそのいずれか又は両方にとって望ましいかどうか次第で、2つのFRT部位の外部に位置していてよいことに留意すべきである。OriVの分配に関与するparA、parB、及びparC、並びにF’プラスミドの複製に関与するrepEは必要ではなく、もし所望であればベクター上に位置してよく、又は宿主細胞により提供されてよいことにも留意すべきである。
【0082】
カセットの3つを図2Bに示す。これらの断片は、pKG15の固有なSalI部位に断片をクローニングするために使用できるXhoI部位を末端に有する。IIS型制限部位(AarI)はXhoI部位の内側に位置し、4bpの5’突出を生成するために使用できる。pBAC3のカセットは、AarI部位間にlacZα補完断片を有する。このベクターは、ライブラリー構築の2つの様式:AarI部位を使用したリンカー媒介性クローニング、及びlacZ断片への挿入による従来のクローニングを可能にしてよい。後者においては、クローンは、毒性クローンに関する問題を引き起こし得るlacプロモーターの下流に配置される。リンカー媒介性クローニングには、無転写の環境に挿入するという利点がある。
【0083】
pBAC6のカセットは、PvuII制限エンドヌクレアーゼ(pvuIIR)をコードする遺伝子を組み込み、それはネガティブ選択可能なマーカーとして使用でき、PvuIIメチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(pvuIIM)を発現する宿主で維持できる。このベクターはリンカー媒介性クローニングに使用できる。pBAC8のカセットは、lacZ及びpvuIIRの両マーカーを組み合わせる。このベクターは、EcoRI、BamHI、SalI、又はHindIIIでの置換クローニングに使用できる。lacZは青色/白色選択を提供できるが、pvuIIRは未切断のベクターを選択するために使用できる。
【0084】
IIS型認識部位及び制限部位はスタッファー断片内に位置しているため、特異的認識部位及び/又は突出を変更することが可能である。AarIの代わりにBstXIが使用されている以外はpBAC3と類似しているベクターpDW11も構築された。BstXIは3’突出を残すが、AarIは5’突出を生成する。図3に描写したように、一連のリンカーを生成した。内側の二本鎖領域は、8bp認識の制限酵素であるNotI用の及びAscI又はPacIのいずれか用の部位を含む。リンカーの使用は、クローニングされたDNAに隣接する固有の酵素部位の付加を可能にし、同一の酵素で切断した際に適合するベクター−突出を有するように設計できる。リンカーは、無作為に剪断されたゲノムDNAにライゲーションされた平滑末端であるか、又は任意の制限酵素と適合する突出を有するかのいずれかであってよい。
【0085】
1.5kbの断片は、HindIIIで消化し、HindIIIに適合するリンカーにライゲーションしたか、又は無作為に剪断されたゲノムDNAのクローニングを擬態するためにT4ポリメラーゼで平滑末端化した。AarI突出又はBstXI突出のいずれかを有するリン酸化及び非リン酸化リンカーの両方をこの断片にライゲーションし、その後適切に消化されたベクターにライゲーションした。リン酸化リンカーは、非リン酸化リンカーより多くのクローンを産生し、BstXIリンカー/ベクターの組合せはAarIより良好に機能した。2つの酵素間の違いが制限酵素の純度によるものか、又は一方が5’突出を生成し他方が3’突出を生成するという事実によるものかは明らかではない。平滑末端ライゲーションは、クローニング効率においてHindIII突出に匹敵した。
【0086】
IIS型制限酵素は一方の部位で結合し遠位部位で切断するため、重複するIIS型制限部位を設計することが可能である。発明者らは、以下に示した挿入の1つの末端と共に、BstXI及びAarIを使用して、1つのベクターを設計した。
【0087】
【化4】

BstXI及びAarIの配列はスタッファー断片の両端に存在し、適合するXhoI部位(+)を使用して、pKG15のSalI部位にクローニングした。4bpの突出配列(NNNNと示す)は、任意の所望の配列になるように選ぶことができる。BstXI(^)で消化すると3’突出が生成され、AarI(=)は、同一の配列から5’突出を生成する。異なる制限酵素認識部位の組合せにより、発明者らは、突出配列、方向性、及び酵素の影響を決定できる。この同じ戦略は、突出の長さの影響を決定するために、より長い突出配列を産生するIIE型制限酵素(例えば、PpiI、FalI、及びPsrI)に拡張できる。
【0088】
(実施例4)ベクター−宿主系
クローニングベクターpBAC8及び大腸菌宿主MDS42trfAは、幾つかの固有の特性を有する。pBAC8は、2つの複製開始点:安定した単一コピー状態を保証するoriS、及び宿主trfA遺伝子のアラビノース誘導の際にBAC8増幅を可能にして、配列決定を含む種々のDNA操作を容易にするoriVを含有する。MDS42trfAは、クローニングされたDNAがこれらの望ましくない配列で汚染されるのを回避するために、転移因子を全て欠如するMDS42から構築された。
【0089】
2つの様式は、クローニングされたDNA内へ又は外への転写を防止するターミネーターにより隣接されるように、挿入をクローニングするために使用できる。さらに、挿入を含むクローンは、保持された制限酵素(REase)の致死性に基づき、白色−青色のlacZカラースクリーニング及び未切断ベクターのネガティブ対抗選択の両方又はいずれかより選択される。クローンの増殖ではなく、REaseを産生するベクターの増殖だけが、同系のメチルトランスフェラーゼを発現する宿主を必要とした。
【0090】
クローニングの第1の様式では、DNA断片を、lacZ遺伝子のα断片のマルチクローニングサイト(MCS)にライゲーションする。そのようなクローニングは、対抗選択されたマーカー(REaseをコードする遺伝子)も取り除く。これにより、挿入を有するクローンが選択される。
【0091】
クローニングの第2の様式では、ベクターは、同一のしたがって適合しない突出を産生するために、(lacZ内の対抗選択マーカー及びMCSに隣接する)部位でIIs型REaseを用いて切断する。その後リンカーを使用して、ベクター及び挿入突出を効率的なライゲーションに適合させる。挿入の両端に好適なREase部位を導入するために、多数のリンカーを設計した。この様式は、任意のベクター由来プロモーターが完全に存在しないクローンを生成する。
【0092】
発明者らは、適切な制限エンドヌクレアーゼで部分消化したニワトリDNAに由来するゲノムライブラリーの構築に関してpBAC8を試験した。線形化ベクター及び適切なアダプターを使用して、挿入をライゲーションした。ライゲーション対照も実施した。ライゲーションの効率は、0.2mlの形質転換反応当たりの形質転換体の数を決定することにより分析し、結果は以下の通りである。
【0093】
【化5】

予想通り、対照(#1〜#4)は、形質転換体を産生しなかった。大型挿入の存在について、#5及び#6の形質転換体を試験した。#5については、試験した16個のクローンのうち13個が大型挿入を有した。#6については、試験した10個のクローンのうち6個が大型挿入を有した。クローンの挿入は、40から70kbまでの範囲だった。これは、両宿主でのクローニングが、大型のゲノム挿入の高効率クローニングに帰着したことを示す。
【0094】
(実施例5)ゲノムライブラリーの構築
pBAC8に類似するベクターを、BstXI部位を組み込んで構築した。SalI−ApaLI断片をpBAC8から欠失させ、pJW680を生成した。その後、pBAC8に由来するHindIII断片をpJW680にクローニングして、pJW681を産生した。pBAC8のBstXI部位は取り除く。
【0095】
アダプターは、1つの末端がBstXIと適合するように設計した。ライブラリーは、適切な制限エンドヌクレアーゼで部分消化したニワトリDNAを使用して構築し、線形化ベクター及びアダプターを使用してライゲーションした。ライゲーション対照も実施した。
【0096】
(実施例6)バクトフェクションに使用するためのベクター
pKG15に類似するベクターは、ヒトのベータグロビン遺伝子に由来するイントロン2を含むlacZ遺伝子の発現を制御するCMVプロモーターと、その天然プロモーター下の偽結核エルジニア菌(Yersinia pseudotuberculosis)侵入遺伝子とを含んで構築し、プラスミドpYinv4を生成した。このプラスミドを、染色体プロモーター支配下のtrfA遺伝子を含むMDS42株に形質転換し、AraBADによるプラスミドのコピー数誘導を可能にした。
【0097】
pYinv4を含むMDS42trfA株は、0.02%のグルコース、及び0.2%のアラビノースで増殖させ、アラビノースプロモーターに由来するtrfA発現の誘導を引き起こし、プラスミドのコピー数を増幅するジオーキシシフトを誘導した。コピー数が誘導された細胞は、そのまま又は15%のグリセロールで凍結後のいずれかで、哺乳動物細胞のバクトフェクションに使用した。
【0098】
この生菌細胞を哺乳動物のヒーラ細胞培養物に添加し、2時間感染させておいた。その後、ヒーラ細胞を抗生物質で洗浄し、新鮮な培地を供給してさらに18〜24時間増殖させた。その後、ヒーラ細胞を固定し、ベータガラクトシダーゼ活性用に染色した。
【0099】
観察されたバクトフェクションの効率を下記に示す。
【0100】
【化6】

図4に示したように、実験5の染色された組織培養の5×増幅は、試料1では39%のバクトフェクション効率を、試料3ではバクトフェクションの欠如を示した。
【0101】
【化7】

【0102】
【化8】

【0103】
【化9】

(実施例7)縮小ベクター/宿主系
repE、parA、及びparB遺伝子がベクターから取り除かれ、宿主株により提供される縮小BACベクター/宿主系が構築されよう。クオーターBAC(quarterbac)と呼ばれる縮小BACベクターは、プラスミドpKG15又は誘導体の領域をoriSから反時計回りにparCまでPCR増幅することにより構築されよう。このプラスミドは、分配用のparC、クローニング用に両側で転写ターミネーターにより隣接された固有のSalI部位、薬剤耐性遺伝子、並びにoriS及びoriV複製開始点配列の両方を含むだろうが、それらに対応する複製タンパク質trfA及びrepEは含まないであろう。不完全で機能しない2つの複製開始点を有するクオーターBACプラスミドは、アラビノースの存在下でMDS42trfAで維持され、oriV複製開始点に由来する複製を可能にしよう。
【0104】
宿主株は、repE遺伝子産物を含むように構築され、oriS及びparA及びparBの遺伝子産物の低コピープラスミドを安定して分配する機能を可能にしよう。そのプロモーターを含むrepEからpKG15のparA及びparBまでの領域が増幅されよう。大腸菌染色体との相同性領域がrepE、parA、parB断片に付加され、染色体への相同組換えに使用されよう。
【0105】
クオーターBACベクターは、MDS42trfAから単離され、機能的なrepE、parA、及びparB遺伝子の染色体への相同組換え用の選択として使用されよう。trfAが存在しないとoriVは活性でなく、同様にoriSが機能するためにはrepE遺伝子産物が必要である。クオーターBACベクター(Cam)の薬物マーカーに対する安定した耐性は、活性repE細胞系を示し、したがって宿主株の候補を示そう。この細胞系は、完全なrepE、parA、parB断片の正確な挿入について分析されよう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)挿入部位を含む切除可能な断片と;
(b)第1及び第2の複製開始点と;
(c)切除可能な断片に隣接する1対の転写ターミネーターと
を含むベクター。
【請求項2】
前記第1の複製開始点が低コピー数複製開始点である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記低コピー数複製開始点がoriSである、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記第2の複製開始点が誘導可能な高コピー数複製開始点である、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
前記高コピー数複製開始点がoriVである、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
前記高コピー数複製開始点がアラビノースプロモーターの支配下にある、請求項4に記載のベクター。
【請求項7】
前記高コピー数複製開始点が、アラビノースプロモーターの支配下にある遺伝子によりコードされるTrfAにより制御される、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
前記切除可能な断片が少なくとも1つのIIS型制限酵素認識部位を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項9】
前記切除可能な断片に隣接する2つの誘導可能な切除媒介部位をさらに含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項10】
前記切除可能な断片が前記第2の複製開始点を含む、請求項4に記載のベクター。
【請求項11】
前記切除可能な断片が前記第1の複製開始点を含まない、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
前記切除可能な断片が前記第1又は第2の複製開始点を含まない、請求項4に記載のベクター。
【請求項13】
前記切除可能な断片に隣接する配列プライマー結合部位をさらに含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項14】
請求項1に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項15】
異種核酸をクローニングする方法であって、
(a)前記異種核酸を準備することと;
(b)請求項1に記載のベクターを準備することと;
(c)前記ベクターの挿入部位に前記異種核酸を導入することとを含む方法。
【請求項16】
前記ベクターがIIS型制限酵素で消化され、前記異種核酸が平滑末端を含み、二重鎖アダプターがさらに準備され、前記アダプターの第1の末端が平滑末端であり、前記アダプターの第2の末端が前記消化されたベクターの末端に相補的である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法により生成されたベクター。
【請求項18】
前記異種核酸がポリペプチドをコードする、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
前記ベクターが、前記異種核酸に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
異種核酸をさらに含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項21】
核酸のライブラリーを生成する方法であって、
(a)異種核酸のライブラリーを準備することと;
(b)請求項1に記載のベクターを準備することと;
(c)前記ベクターの挿入部位に前記異種核酸を導入することとを含む方法。
【請求項22】
前記ベクターがIIS型制限酵素で消化され、前記異種核酸のライブラリーが平滑末端を含み、二重鎖アダプターがさらに準備され、前記アダプターの第1の末端が平滑末端であり、前記アダプターの第2の末端が前記消化されたベクターの末端に相補的である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法により生成されたライブラリー。
【請求項24】
動物細胞において核酸を誘導及び発現する方法であって、
(a)挿入部位、第1の複製開始点、第2の複製開始点、及び1対の転写ターミネーターを含むベクターを準備することと;
(b)前記ベクターの挿入部位に前記核酸を導入することと;
(c)少なくとも1つの侵襲性細菌を前記ベクターで形質転換し、少なくとも1つの形質転換された細菌を形成することと;
(d)前記少なくとも1つの形質転換された細菌で前記動物細胞を感染させることとを含む方法。
【請求項25】
前記第1の複製開始点が低コピー数複製開始点である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記低コピー数複製開始点がoriSである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記第2の複製開始点が誘導可能な高コピー数複製開始点である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記高コピー数複製開始点がoriVである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記高コピー数複製開始点がアラビノースプロモーターの支配下にある、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記高コピー数複製開始点が、アラビノースプロモーターの支配下にある遺伝子によりコードされるTrfAにより制御される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記核酸が異種DNA又はRNAを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
異種DNA又はRNAが治療剤又は予防剤をコードする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記治療剤又は予防剤が、免疫調節剤、抗原、アンチセンスRNA、触媒RNA、タンパク質、ポリペプチド、抗体、サイトカイン、又は低分子を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記動物細胞が哺乳動物細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項35】
、前記哺乳動物細胞が、ヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、ネコ、バッファロー、イヌ、ヤギ、ウマ、ロバ、シカ、及び霊長類の細胞からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも1つの細菌が、シゲラ属種、リステリア属種、リケッチア属種、及び腸侵入性大腸菌からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1つの細菌が縮小ゲノムを有する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記少なくとも1つの細菌が大腸菌である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記少なくとも1つの細菌が弱毒化されている、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記異種DNA又はRNAが、治療用タンパク質、低分子、免疫調節分子、アンチセンスRNA、及び触媒RNAからなる群から選択されるメンバーをコードする、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記メンバーが少なくとも検知可能なレベルで発現される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
動物細胞において異種DNA又はRNAを誘導及び発現する方法であって、
(a)挿入部位、低コピー数複製開始点、誘導可能な高コピー数複製開始点、及び1対の転写ターミネーターを含むベクターを準備することと;
(b)前記ベクターの挿入部位に異種DNA又はRNAを導入することと;
(c)縮小ゲノム大腸菌を前記ベクターで形質転換し、少なくとも1つの形質転換された大腸菌を形成することと;
(d)前記形質転換された大腸菌で前記動物細胞を感染させることとを含む方法。
【請求項44】
前記大腸菌が弱毒化されている、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
repE、parA、及びparB遺伝子を含む宿主株と、repE、parA、及びparB遺伝子を含まないベクターとを含む縮小ベクター−宿主系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−545328(P2009−545328A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523072(P2009−523072)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/075214
【国際公開番号】WO2008/017073
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(305023377)ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】