説明

ベルト

【課題】非粘着摩耗性に優れたコンベヤーベルトや伝動ベルト等のベルトに関し、粘着摩耗の発生が防止でき、それによってベルト走行時の異音の発生を抑えることができ、耐久性に優れ、且つ安価に製造することのできるベルトを提供することを課題とする。
【解決手段】ベルトが、ゴム100重量部に対して、石炭灰が3〜60重量部添加されたゴム組成物によって構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非粘着摩耗性に優れたコンベヤーベルトや伝動ベルト等のベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
この種、コンベヤーベルトや伝動ベルト等のベルト用のエラストマーとしては、耐熱性、耐油性、耐磨耗性等の一般的な特性の他に、繊維との接着性、耐屈曲疲労性等の特性が要求されている。
【0003】
従来より、広く用いられているエラストマーの中でも、特に天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム等によって構成されるベルトは、摺動部において粘着性の磨耗粉が発生し易く、その摩擦粉がベルト表面に付着する、いわゆる粘着摩耗という現象が発生し易いという問題があった。そして、このような粘着摩耗が発生すると、ベルトの走行性能に悪影響を及ぼし、ベルト走行中に摺動部においてベルトが摺動部材と接触し、異常に干渉し合うことによって、異音が発生するという問題があった。
【0004】
このような粘着摩耗の発生を防止する手段として、従来ではエラストマーの硬度を高める手段や、エラストマー表面の摩擦係数を低くする等の手段が採用されている。
【0005】
エラストマーの硬度を高める具体的な手段としては、たとえば下記特許文献1のように
エラストマーの架橋密度を高める方法や、特許文献2の従来技術に開示されているようなカーボンブラック等の補強剤の配合量を増量する方法が一般に行われている。このような手段により、粘着摩耗の発生をある程度は防止することができる。しかしながら、硬度を高める手段では、粘着摩耗の発生を防止できるまで硬度を高めると、エラストマーの加工性が悪くなり、また補強剤を増量しすぎ、或いは架橋密度を高めすぎると、最終製品の弾性率が高くなりすぎるため、製品の繰り返し歪み・応力下での耐久性が悪くなるという問題があった。
【0006】
またエラストマー表面から露出させる手段や、特許文献3のように塩素、コロナ、紫外線等による表面処理を施す手段等も採用されているが、このような手段では、ベルト表面のクラックを誘発させ易いという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−75985号公報
【特許文献2】特開2003−105139号公報
【特許文献3】特開平9−295372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、粘着摩耗の発生が防止でき、それによってベルト走行時の異音の発生を抑えることができ、耐久性に優れ、且つ安価に製造することのできるベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、請求項1記載の発明は、
ゴム100重量部に対して、石炭灰が3〜60重量部添加されたゴム組成物によって構成されていることを特徴とする。
【0010】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載のベルトにおいて、ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及び水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。
【0011】
さらに請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のベルトにおいて、石炭灰の平均粒子径が10〜50μmであることを特徴とする。さらに請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のベルトにおいて、石炭灰添加量に対して、シランカップリング剤がさらに添加されたゴム組成物により構成されていることを特徴とする。
【0012】
さらに請求項5記載の発明は、請求項4記載のベルトにおいて、シランカップリング剤が、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、又はビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド−ジサルファイドのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のベルトは、石炭灰を添加したゴム組成物によって構成されているため、粘着摩耗の発生を防止することができ、また耐久性に優れるという効果を奏する。
【0014】
また、充填剤として、火力発電等における石炭燃焼等により大量に発生する石炭灰が用いられているので、安価に製造することができ、非粘着摩耗性のコンベアベルトや伝動ベルト等のベルトの製造コストを低減することができるという効果がある。
【0015】
さらに、従来ではコンクリートの混和剤として一部が利用されていたものの、火力発電等から発生する石炭灰をすべて再利用することができず、一部が埋め立てられていたところ、本発明のようなベルトの充填剤として再利用可能とすることで、地球環境上の観点からも、石炭灰の資源価値を高め、その有効利用を図ることができるという多大な効果がある。
【0016】
さらに石炭灰の平均粒子径を10〜50μmとした場合には、補強性や粘着摩耗性を維持することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本発明のベルトは、ゴム100重量部に対して、石炭灰が3〜60重量部添加されたゴム組成物によって構成されているものである。
【0019】
ここで、石炭灰の添加量をゴム100重量部に対して3〜60重量部としたのは、3重量部未満であると所望の非粘着摩耗性効果を得ることができず、また60重量部を超えると、強度の低下が著しく、特に耐摩耗性が低下するという問題が生ずるからである。この観点からは、10〜20重量部とすることがより好ましい。
【0020】
ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及び水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のものが挙げられる。これらのゴムは、ベルトの原料として多用されているものであり、かかるゴムにより構成されたベルトは、一般的に、粘着摩耗を起こしやすいものである。エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムとしては、たとえばEPDMが用いられる。
【0021】
またゴムに添加される石炭灰は、石炭火力発電所において微粉炭を燃焼させた後に発生するものである。前記石炭灰には、石炭火力発電所において微粉炭を燃焼させた後、電気集塵機で集められたフライアシュと、ボイラー底部で回収された石炭灰を砕いたクリンカアッシュとがある。前記石炭灰の主成分は、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)の無機質が70〜80%でその他は少量の酸化マグネシウム等である。
【0022】
石炭灰を上記のようにゴムに添加して形成されるベルトは、粘着摩耗が抑制され、ベルト走行時の異音の発生が抑えられ、且つ耐久性に優れたものとなり、たとえばコンベアベルトや伝動ベルト等に用いられる。
【0023】
また石炭灰の平均粒子径は、10〜50μmであることが好ましい。10μm未満であると粘着摩耗が生じるおそれがあり、また50μmを超えると補強性が大幅に低下し、それによって耐摩耗性が低下するおそれがあるからである。
【0024】
さらに、石炭灰に対して、好ましくはシランカップリング剤が添加される。このようなシランカップリング剤を添加することで、マトリックスのゴム部と石炭灰のカップリング作用により補強性が発現する。
【0025】
この場合、シランカップリング剤としては、たとえばビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイドや、はビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド−ジサルファイドのようなものが用いられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0027】
(実施例1〜6、比較例1、2)
表1に示すように各成分を配合した(単位:重量部)各実施例1〜6、比較例1、2の
試料を作成した。試料は、図1に示すような角柱状のものとした。
【0028】
【表1】

【0029】
尚、表1において、HAFカーボンとはカーボンブラックの一種であり、上記実施例等では、東海カーボン株式会社製のシースト3(商品名)を用いた。また、EPDMとしてはJSR社製のEP21(商品名)を用いた。さらにシランカップリング剤としては、デグサ社製のシランカップリング剤Si−69(商品名)を用いた。さらにナフテンオイルとしては株式会社ジャパンエナジー社製のJOMOプロセスオイルRSOE(商品名)、老化防止剤としては大内新興化学社製のノクラック224(商品名)、ノクラックMB(商品名)、硫黄としては細井化学社製のオイルサルファー(商品名)、加硫促進剤としては三新化学社製のTET(商品名)、EZ(商品名)、MSA(商品名)をそれぞれ用いた。
【0030】
また表1において、フライアッシュI種とは、混入することにより、特にコンクリートの高強度、流動性付与、アルカリシリカ反応抑制等に効果があるフライアッシュであって、初期強度発現性も無混入の場合と遜色のないものである。またフライアッシュII種とは、標準的なフライアッシュで、混入することにより、特にコンクリートの水和発熱抑制、長期強度の改善効果があるものであって、コンクリートへの流動性付与、アルカリシリカ反応抑制について無混入の場合と比較して十分に効果が発揮されるものである。
【0031】
フライアッシュI種、II種の物性はJISA6201−1999に規定されており、そのJISA6201−1999によれば、フライアッシュI種は、強熱減量が3.0%以下、ブレーン比表面積が5000cm2/g以上、フロー値比が105%以上のもの等とされ、フライアッシュII種は、強熱減量が5.0%以下、ブレーン比表面積が2500cm2/g以上、フロー値比が95%以上のもの等とされている。
【0032】
上記実施例等では、フライアッシュI種として中部電力社製のフライアッシュJISI種(商品名)を用い、フライアッシュII種として中部電力社製のフライアッシュJISII種(商品名)を用いた。
【0033】
(試験例1)部材粘着摩耗性の評価
上記実施例1〜6、比較例1、2の試料について、先ず部材粘着摩耗性の評価試験を行った。試験方法は、図1のような回転板1の表面にサンドペーパー(#1500)を貼着したものを回転させ、その所定位置に試料2を上側から押し付け、摩耗の程度を評価した。
【0034】
試験条件としては、回転板1に対する試料の面圧は0.4MPa(荷重1.0kg)、
回転板1の速度0.1m/s(回転数35rpm)、温度80℃、評価時間1分で行った。その結果を表2に示す。表2における部材粘着摩耗性の数値は、比較例1の結果を100とした場合の比率で示した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2からも明らかなように、実施例1〜6では比較例1に比べて部材粘着摩耗性の数値が低く、従って実施例1〜6では、フライアッシュが配合されていない比較例1に比べて粘着摩耗の発生が低い、すなわち非粘着摩耗性に優れていることがわかった。
【0037】
尚、比較例2では部材粘着摩耗性の数値が各実施例と同程度に低かったが、これは表1からも明らかなように、石炭灰(フライアッシュI種)がゴム100重量部に対して90重量部と非常に多く配合されているからである。
【0038】
(試験例2)耐摩耗性[損失摩耗指数]の評価
次に、上記実施例1〜6、比較例1、2の試料について、耐摩耗性[損失摩耗指数]の評価試験を行った。
【0039】
試験方法は、上記試験例1と同様のいわゆるピンディスク方式によって行った。すなわち、実施例1〜6、比較例1、2の試料を回転板の表面に押し付け、摩耗の程度を評価した。試験条件は、回転板に対する試料の面圧を0.8MPa、回転板の速度0.18m/s、温度100℃、評価時間1分で行った。
【0040】
その結果を表2に示す。表2における耐摩耗性[損失摩耗指数]の数値は、比較例1の結果を100とした場合の比率で示した。表2からも明らかなように、実施例1〜6では比較例1と耐摩耗性[損失摩耗指数]の数値が同程度であった。従って実施例1〜6では
比較例1に比べて耐摩耗性がさほど低下しないことがわかった。
【0041】
これに対して、比較例2では耐摩耗性[損失摩耗指数]の数値が各実施例よりも高く、
耐摩耗性が低下することがわかった。これは、比較例2において石炭灰がゴム100重量部に対して90重量部と非常に多く配合されているからであると認められ、ゴムに対する石炭灰の配合量が多すぎると、耐摩耗性が低下することが確認できた。
【0042】
(試験例3)熱老化後の耐摩耗性の評価
次に、上記実施例1〜6、比較例1、2の試料について、熱老化を行った後に、上記試験例2のような耐摩耗性の評価試験を行った。
【0043】
熱老化は、140℃で144時間行った。
【0044】
その結果を表2に示す。表2における熱老化後の耐摩耗性の数値は、上記試験例2の比較例1の結果を100とした場合の比率で示した。表2からも明らかなように、実施例1〜6では熱老化後においても、さほど数値が上がることはなく、従って耐摩耗性がさほど低下しないことがわかった。
【0045】
これに対して比較例2では、熱老化後の耐摩耗性の数値がさらに上昇し、熱老化後の耐摩耗性が一層低下することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】部材粘着摩耗性の評価試験の方法を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0047】
1…回転板 2…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム100重量部に対して、石炭灰が3〜60重量部添加されたゴム組成物によって構成されていることを特徴とするベルト。
【請求項2】
ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及び水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のベルト。
【請求項3】
石炭灰の平均粒子径が10〜50μmである請求項1又は2記載のベルト。
【請求項4】
石炭灰に対して、シランカップリング剤がさらに添加されている請求項1乃至3のいずれかに記載のベルト。
【請求項5】
シランカップリング剤が、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、又はビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド−ジサルファイドのいずれかである請求項4記載のベルト。


【図1】
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【公開番号】特開2007−333098(P2007−333098A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166143(P2006−166143)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)