説明

ペプチドの製造方法

【課題】効率の良いペプチドの製造方法を提供する。
【解決手段】Sphingobacterium multivorum由来アミノ酸エステルトランスペプチダーゼ(AET)のN末端シグナルペプチドをErwinia carotovora由来のものへと置換したAET発現株、およびN末端のシグナルペプチドを様々な箇所で欠損させたAET発現株を構築し、サイトゾルに局在し、酵素活性に優れるAET培養物を得た、該培養物とカルボキシ成分と、アミン成分とを混合し、ペプチドを生成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペプチドの製造方法に関し、詳しくは、ペプチドの製造方法およびこれに用いるタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドは、医薬品、食品等のさまざまな分野で利用されている。例えば、L−アラニル−L−グルタミンはL−グルタミンに比べ安定かつ水溶性も高いことから、輸液や無血清培地の成分として広く用いられている。
【0003】
ペプチドの製造法としては従来から化学合成法が知られているが、その製造法は必ずしも簡便さ、効率性の点で満足のいくものではなかった。
【0004】
他方、酵素を用いたペプチドの製造方法も開発されてきた(例えば特許文献1、2など)。しかしながら、従来の酵素を用いたペプチドの製造方法では、ペプチド生成速度が極めて遅い、ペプチド生成収率が低いなどの点で改善の余地が残されるものであった。このような背景の下、工業的にも効率の良いペプチドの製造法の開発が望まれている。その一つの方策として、ペプチドの工業的製造に適した酵素の発掘、改良などが試みられている。
【0005】
ペプチド生成活性に優れた酵素として、スフィンゴバクテリウムに由来する酵素が見出されている(例えば、特許文献3〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】EP 278787 A1公報
【特許文献2】EP 359399 B1公報
【特許文献3】国際公開第2004/011653号
【特許文献4】特開2005−058212号公報
【特許文献5】国際公開第2006/075486号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、効率の良いペプチドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはペプチドの製造方法に用いる酵素として、Sphingobacterium multivorum(スフィンゴバクテリウム・マルチボラム、以下、S.multivorumと記す場合がある)由来アミノ酸エステルトランスペプチダーゼ(以下、AETと略記する場合がある)に着目した。S.multivorum由来AETのN末端には、イン・シリコ(in silico)の配列予測によると、配列番号2の配列における1番目のメチオニン残基から20番目のアラニン残基がシグナルペプチドであると推定された。そのため、一般的に考えると、S.multivorum由来AETはペリプラズムに局在すると予想された。
【0009】
本発明者らは、S.multivorum由来AETをエシェリヒア・コリ(Escherichia coli、以下、E.coliと略記する場合がある)で発現させた際のAETの局在を確認したところ、予想外に、可溶化AETおよび不溶化AETいずれの局在もサイトゾルであり、いずれにおいてもシグナルペプチドは切断されていることを見出した。すなわち、E.coliでの発現において、S.multivorum由来AETのシグナルペプチドは切断されるものの、ペリプラズムへの移行にシグナルペプチドはあまり寄与していないと推定された。このような現象は、シグナルペプチドを有するタンパク質としては一般的ではない。
【0010】
さらに本発明者らは、酵素活性の観点からすると、S.multivorum由来AETをE.coliで発現させた際の局在はサイトゾルまたはペリプラズムのいずれが適しているかについて判断するため、S.multivorum由来AETのN末端シグナルペプチドをErwinia carotovora由来のものへと置換したAET発現株、およびN末端のシグナルペプチドを様々な箇所で欠損させたAET発現株を構築し、種々の実験を行った。その結果、配列番号2の配列における2番目のリジン残基から、第18番目のロイシン残基あるいは第19番目のヒスチジン残基あるいは第20番目のアラニン残基あるいは第21番目のグルタミン残基あるいは第22番目のスレオニン残基あるいは第23番目のアラニン残基あるいは第24番目のアラニン残基を欠損させたS.multivorum由来AETが、サイトゾルに局在し、しかも培養物として酵素活性に優れるという知見を得て、本発明を完成させた。本発明は係る知見に基づき、下記ペプチドの製造方法およびこれに用いるタンパク質の製造方法を提供するものである。
【0011】
〔1〕下記(A)群、(B)群、(C)群、(D)群、ならびに(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクターを含む形質転換体を培養し、培養物を調製する、培養物調製工程と、
前記培養物と、カルボキシ成分と、アミン成分とを混合し、ペプチドを生成する、反応工程とを含み、
前記(A)群が、
(A18)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第18番目のロイシン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A19)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第19番目のヒスチジン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A20)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第20番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A21)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第21番目のグルタミン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A22)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第22番目のスレオニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A23)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第23番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、および
(A24)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第24番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
からなる群であり、
前記(B)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(C)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(D)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(E)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群である、
ペプチドの製造方法。
〔2〕前記(A)群が、前記(A18)、(A19)、(A20)、および(A21)からなる群である、上記〔1〕に記載のペプチドの製造方法。
〔3〕前記培養物調製工程において、形質転換体を27℃以上35℃以下の温度条件下で培養する、上記〔1〕または〔2〕に記載のペプチドの製造方法。
〔4〕前記形質転換体の宿主が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
〔5〕生成するペプチドが、ジペプチドである、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
〔6〕カルボキシ成分がアミノ酸エステルである、上記〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
〔7〕カルボキシ成分がアスパラギン酸ジメチルエステルであり、アミン成分がフェニルアラニンであり、生成するペプチドがα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルである、上記〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
〔8〕下記(A)群、(B)群、(C)群、(D)群、ならびに(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクターを含む形質転換体を作製し、前記形質転換体を培養して前記タンパク質を発現させる工程を含み、
前記(A)群が、
(A18)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第18番目のロイシン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A19)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第19番目のヒスチジン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A20)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第20番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A21)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第21番目のグルタミン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A22)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第22番目のスレオニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A23)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第23番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、および
(A24)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第24目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
からなる群であり、
前記(B)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(C)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(D)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(E)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群である、
タンパク質の製造方法。
〔9〕前記形質転換体を27℃以上35℃以下の温度条件下で培養する、上記〔8〕に記載のタンパク質の製造方法。
〔10〕前記形質転換体の宿主が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、上記〔8〕または〔9〕に記載のタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、可溶化しやすく、単位量あたりの酵素活性が高い培養物を用いてペプチドを製造するため、効率の良いペプチドの製造方法が提供される。本発明のペプチドの製造方法では、酵素を含有する培養物の調製が簡便であり、工業的なペプチドの製造方法において有利である。また、酵素活性の高い培養物を調製し得るため、培養物の添加量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動の結果を示す図である。各レーンの画分は次のとおりである。第1レーン:pET22b AET発現株の菌体破砕全画分。第2レーン:第1レーンの遠心上清画分。第3レーン:第1レーンの遠心沈殿画分。第4レーン:pET22b n/s21−AET発現株の菌体破砕全画分。第5レーン:第4レーンの遠心上清画分。第6レーン:第4レーンの遠心沈殿画分。第7レーン:pET22b pelB21−AET発現株の菌体破砕全画分。第8レーン:第7レーンの遠心上清画分。第9レーン:第7レーンの遠心沈殿画分。
【図2】図2は、サイトゾル画分(Cy)とペリプラズム画分(Pe)の活性の総和を100%としたときの、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステル生成活性およびグルコース6燐酸デヒドロゲナーゼ活性の相対値を示す。(以下、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルをAMPと略記する場合がある。)
【図3−1】図3−1は、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動にて展開した結果を示す。各レーンの画分は次のとおりである。第1レーン:25℃培養したpET22b AET発現株の菌体破砕全画分。第2レーン:第1レーンの遠心上清画分。第3レーン:第1レーンの遠心沈殿画分。第4レーン:25℃培養したpET22b n/s21−AET発現株の菌体破砕全画分。第5レーン:第4レーンの遠心上清画分。第6レーン:第4レーンの遠心沈殿画分。第7レーン:25℃培養したpET22b pelB21−AET発現株の菌体破砕全画分。第8レーン:第7レーンの遠心上清画分。第9レーン:第7レーンの遠心沈殿画分。
【図3−2】図3−2は、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動にて展開した結果を示す。各レーンの画分は次のとおりである。第1レーン:30℃培養したpET22b AET発現株の菌体破砕全画分。第2レーン:第1レーンの遠心上清画分。第3レーン:第1レーンの遠心沈殿画分。第4レーン:30℃培養したpET22b n/s21−AET発現株の菌体破砕全画分。第5レーン:第4レーンの遠心上清画分。第6レーン:第4レーンの遠心沈殿画分。第7レーン:30℃培養したpET22b pelB21−AET発現株の菌体破砕全画分。第8レーン:第7レーンの遠心上清画分。第9レーン:第7レーンの遠心沈殿画分。
【図4】図4は、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動にて展開した結果を示す。各レーンの画分は次のとおりである。第1レーン:25℃培養したpET22b AET発現株の菌体破砕全画分。第2レーン:第1レーンの遠心上清画分。第3レーン:第1レーンの遠心沈殿画分。第4レーン:25℃培養したpET22b n/s21−AET発現株の菌体破砕全画分。第5レーン:第4レーンの遠心上清画分。第6レーン:第4レーンの遠心沈殿画分。第7レーン:25℃培養したpET22b n/s25−AET発現株の菌体破砕全画分。第8レーン:第7レーンの遠心上清画分。第9レーン:第7レーンの遠心沈殿画分。第10レーン:25℃培養したpET22b n/s26−AET発現株の菌体破砕全画分。第11レーン:第10レーンの遠心上清画分。第12レーン:第10レーンの遠心沈殿画分。第13レーン:30℃培養したpET22b n/s27−AET発現株の菌体破砕全画分。第14レーン:第13レーンの遠心上清画分。第15レーン:第13レーンの遠心沈殿画分。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に挙げる種々の遺伝子工学的な技法については、Molecular Cloning: A Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor Press(2001年)、新遺伝子工学ハンドブック改訂第4版、村松ら編、羊土社(2003年)など、多くの標準的な実験マニュアルがあり、これらの文献を参考にすることにより当業者であれば実施可能である。
【0015】
本明細書において用いられる用語は、基本的に、化学分野、生命科学分野、遺伝子工学分野などにおける標準的な意味に従って用いられるが、本発明をより明確に説明するために本明細書において用いられる用語の一部について、以下説明する。
本明細書において、酵素とは、化学反応を触媒する活性を有するタンパク質のことをいう。
本明細書においてペプチドとは、2個以上のアミノ酸またはその誘導体がペプチド結合によって結合した化合物のことをいう。本明細書では、化合物としてのペプチドとポリペプチドとは同義である。
本明細書において、ジペプチドとは、2個のアミノ酸またはその誘導体がペプチド結合によって結合した化合物をいう。
本明細書においてトリペプチドとは、3個のアミノ酸またはその誘導体が2つのペプチド結合を介して結合した化合物のことをいう。
本明細書においてオリゴペプチドとは、分子中に含まれるアミノ酸残基が少数であるポリペプチドのことをいう。オリゴペプチドは、ポリペプチドとしては低分子量のポリペプチドである。オリゴペプチドのアミノ酸残基数は、必ずしも明確に定めることを要しないが、例えば、2〜20程度であり、または2〜10程度であり、または2〜5程度であり得る。
本発明は酵素反応を利用したペプチドの製造方法を提供する。本明細書では、生成目的のペプチドを単にペプチドと表記する場合がある。
本明細書においてペプチド生成活性とは、アミン成分とカルボキシ成分とからペプチドを生成する反応を触媒する活性のことをいう。
本明細書において、ポリヌクレオチドまたは核酸は、DNA、RNA、またはこれらのハイブリッドであり得る。
また、本明細書においては、特に断らない限り、配列番号は配列表中の配列番号を示す。
【0016】
本発明のペプチドの製造方法は、ペプチド生成活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクターを含む形質転換体を培養し、培養物を調製する、培養物調製工程と、前記培養物と、カルボキシ成分と、アミン成分とを混合し、ペプチドを生成する、反応工程とを含む。以下、各工程に沿って順次説明する。
【0017】
1.培養物調製工程
1.1 本発明で用いられるタンパク質
培養物調製工程では、(A)群、(B)群、(C)群、(D)群、ならびに(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクターを含む形質転換体を培養し、培養物を得る。
(A)群は、次の(A18)から(A24)からなる群により構成される。
(A18)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第18番目のロイシン残基までを欠失させた配列である、タンパク質。
(A19)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第19番目のヒスチジン残基までを欠失させた配列である、タンパク質。
(A20)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第20番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質。
(A21)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第21番目のグルタミン残基までを欠失させた配列である、タンパク質。
(A22)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第22番目のスレオニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質。
(A23)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第23番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質。
(A24)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第24番目のアラニン酸残基までを欠失させた配列である、タンパク質。
【0018】
(A18)から(A24)の各タンパク質は、配列番号2の配列に照らして明らかなように、次のとおり言い換えることができる。
(A18)N末端がメチオニンであり、これに続いて、配列番号2の配列における第19番目のヒスチジン残基から第619番目のアスパラギン酸残基までの全長配列からなるアミノ酸配列で構成されるタンパク質。
(A19)N末端がメチオニンであり、これに続いて、配列番号2の配列における第20番目のアラニン残基から第619番目のアスパラギン酸残基までの全長配列からなるアミノ酸配列で構成されるタンパク質。
(A20)N末端がメチオニンであり、これに続いて、配列番号2の配列における第21番目のグルタミン残基から第619番目のアスパラギン酸残基までの全長配列からなるアミノ酸配列で構成されるタンパク質。
(A21)N末端がメチオニンであり、これに続いて、配列番号2の配列における第22番目のスレオニン残基から第619番目のアスパラギン酸残基までの全長配列からなるアミノ酸配列で構成されるタンパク質。
(A22)N末端がメチオニンであり、これに続いて、配列番号2の配列における第23番目のアラニン残基から第619番目のアスパラギン酸残基までの全長配列からなるアミノ酸配列で構成されるタンパク質。
(A23)N末端がメチオニンであり、これに続いて、配列番号2の配列における第24番目のアラニン酸残基から第619番目のアスパラギン酸残基までの全長配列からなるアミノ酸配列で構成されるタンパク質。
(A24)N末端がメチオニンであり、これに続いて、配列番号2の配列における第25番目のアスパラギン酸残基から第619番目のアスパラギン酸残基までの全長配列からなるアミノ酸配列で構成されるタンパク質。
【0019】
アミノ酸配列が配列番号2で表されるタンパク質は、S.multivorum由来AETであり、ペプチド生成活性を有する。配列番号2で表されるアミノ酸配列は、コドンの縮重により複数の塩基配列によりコードされ得る。配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号1の配列において表される塩基配列が挙げられる。
【0020】
配列番号1における塩基配列で特定されるポリヌクレオチドおよび配列番号2のアミノ酸配列で特定されるタンパク質は、S.multivorumから単離し得る。より具体的な例としては、これらのポリヌクレオチドおよびタンパク質は、スフィンゴバクテリウム・マルチボラム FERM BP−10163株(寄託者が付した識別のための表示:Sphingobacterium multivorum AJ2458)から単離し得る。FERM番号が記載されている菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)に寄託されており、受託番号を参照して分譲を受けることができる。配列番号1のポリヌクレオチドおよび配列番号2のタンパク質と実質的に同等なタンパク質は、当業者であれば、スフィンゴバクテリウム属に属する微生物、S.multivorumなどから単離し得る。
【0021】
(A)群のタンパク質は、S.multivorum由来AETのアミノ酸配列のN末端側の領域であって、シグナルペプチドに該当すると推定される配列番号2の配列における第1番目のメチオニン残基から第20番目のアラニン残基のうち、第2番目のリジン残基から第20番目のアラニン残基の一部または全部を欠失させたものである(以下、本明細書においては、シグナルペプチドに相当すると推定される配列番号2の配列における第1番目のメチオニン残基から第20番目のアラニン残基を単にシグナルペプチドと略称する場合がある)。(A)群のタンパク質は、ペプチド生成活性を有する。シグナルペプチドを具備しないため、細菌の体内で発現した際に、サイトゾルに局在する傾向が強い。また(A)群のタンパク質はシグナルペプチドを含むタンパク質に比べ、水溶液に可溶化しやすい。また(A)群のタンパク質を発現する細胞を培養して得られる培養物は、シグナルペプチドを含むタンパク質を発現する細胞を培養して得られる培養物に比べ、培養物単位量あたりの酵素活性が向上する。さらに、(A)群のタンパク質は、シグナルペプチドを含むタンパク質と比べ、より高温条件下でも活性を維持する傾向が認められる。そのため、培養物の調製温度を高めに設定してもよく、培養物の調製時間を短縮することが可能である。これらの特性は、(A)群のタンパク質は封入体を形成しにくいという特性とも関連すると考えられる。
【0022】
前記(A)群に属するタンパク質のうちでも、ペプチドの生成活性や可溶化の観点から総合的に判断すると、ペプチドの工業的生産においては、(A18)、(A19)、(A20)、および(A21)のタンパク質が好ましく、より好ましくは(A19)および(A20)のタンパク質が挙げられる。
【0023】
本発明のペプチド製造方法では、(A)群のタンパク質のみならず、これと実質的に同等のタンパク質群も用いる。(A)群のタンパク質と同等のタンパク質群としては、次の(B)群、(C)群、(D)群および(E)群のいずれかの群に属するタンパク質が挙げられる。
(B)群:前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群。
(C)群:前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群。
(D)群:前記(A)から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群。
(E)群:前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群。
【0024】
(B)群、(C)群、(D)群および(E)群の各群のタンパク質は、(A)群のタンパク質の立体構造または活性を大きく損なわないような範囲で、アミノ酸配列(またはこれをコードするヌクレオチド)が異なるタンパク質である。(B)群から(E)群の各群のタンパク質としては、(A)群に属する(A18)から(A24)の各タンパク質に対応したタンパク質が含まれる。
【0025】
(B)群のタンパク質として、以下の(B18)から(B24)のタンパク質が含まれる。
(B18):(A18)のタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(B19):(A19)のタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(B20):(A20)のタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(B21):(A21)のタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(B22):(A22)のタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(B23):(A23)のタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(B24):(A24)のタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
【0026】
(C)群のタンパク質として、以下の(C18)から(C24)のタンパク質が含まれる。
(C18):(A18)のタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(C19):(A19)のタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(C20):(A20)のタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(C21):(A21)のタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(C22):(A22)のタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(C23):(A23)のタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(C24):(A24)のタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
【0027】
(D)群のタンパク質として、以下の(D18)から(D24)のタンパク質が含まれる。
(D18):(A18)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(D19):(A19)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(D20):(A20)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(D21):(A21)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(D22):(A22)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(D23):(A23)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(D24):(A24)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
【0028】
(E)群のタンパク質として、以下の(E18)から(E24)のタンパク質が含まれる。
(E18):(A18)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(E19):(A19)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(E20):(A20)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(E21):(A21)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(E22):(A22)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(E23):(A23)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
(E24):(A24)のタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質。
【0029】
(B)群から(E)群のタンパク質は、ペプチド生成活性を保持する。(B)群から(E)群のタンパク質としては、20℃、pH8.5の条件下で、対応する(A)群のタンパク質が有するペプチド生成活性の半分程度以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上を保持していることが望ましい。
【0030】
(B)群のタンパク質としては、(A)群に属する(A18)から(A24)の各タンパク質にそれぞれ対応したタンパク質が含まれる。アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、用語「1又は数個」が示す数は、例えば、1〜100個、好ましくは1〜70個、より好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
【0031】
(C)群のタンパク質は、(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質である。アミノ酸配列の同一性(identity)は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%、96%、97%、98%または99%以上である。複数の配列間における同一性を示す数値は、配列解析用のソフトウエアによって算出可能である。なお、本明細書において示すアミノ酸配列の同一性の数値は、株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ポリペプチド鎖全長を用いて、Unit Size to Compare=2の設定でMarching countをpercentage計算させて算出された数値である。
【0032】
(D)群のタンパク質は、(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質である。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このような条件は、例えば、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中、約45℃でのハイブリダイゼーション、続いて、0.2×SSC、0.1%SDS中、50〜65℃での1または2回以上の洗浄である。このような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれるが、それらについては、市販の発現ベクターにつなぎ、適当な宿主で発現させて、発現産物の酵素活性を後述の方法で測定することによって容易に取り除くことができる。
【0033】
(E)群のタンパク質は、(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、70%以上の塩基配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質である。塩基配列の同一性(identity)は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%、96%、97%、98%または99%以上である。複数の配列間における同一性を示す数値は、配列解析用のソフトウエアによって算出可能である。なお、本明細書において示す塩基配列の同一性の数値は、株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ポリヌクレオチド鎖全長を用いて、Unit Size to Compare=6、pick up location=1でpercentage計算させて算出された数値である。
【0034】
アミノ酸残基が置換により変異される場合、アミノ酸残基の置換は、保存的置換であってもよい。本明細書中で用いられる場合、用語「保存的置換」とは、所定のアミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換することをいう。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で周知である。例えば、このようなファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸(例、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β位分岐側鎖を有するアミノ酸(例、スレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)、ヒドロキシル基(例、アルコール性、フェノール性)含有側鎖を有するアミノ酸(例、セリン、スレオニン、チロシン)、及び硫黄含有側鎖を有するアミノ酸(例、システイン、メチオニン)が挙げられる。好ましくは、アミノ酸の保存的置換は、アスパラギン酸とグルタミン酸との間での置換、アルギニンとリジンとヒスチジンとの間での置換、トリプトファンとフェニルアラニンとの間での置換、フェニルアラニンとバリンとの間での置換、ロイシンとイソロイシンとアラニンとの間での置換、及びグリシンとアラニンとの間での置換であってもよい。
【0035】
本発明で用いられるタンパク質は、部位特異的変異法等の変異導入法により、または精製用配列等のタグ配列を有する発現ベクターに、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入することにより調製され得る。また、上記のようなアミノ酸配列を有するタンパク質は、従来知られている突然変異処理によって取得してもよい。突然変異処理としては、例えば、配列番号2のアミノ酸配列で特定されるタンパク質をコードするDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び当該タンパク質をコードするDNAを保持するエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常人工突然変異に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0036】
また、上記のような変異には、微生物の種あるいは菌株による差等、天然に生じる変異も含まれる。上記のような変異を有するDNAを適当な細胞で発現させ、発現産物の本酵素活性を調べることにより、配列番号2のアミノ酸配列により特定されるタンパク質と実質的に同等のタンパク質をコードするDNAが得られる。
【0037】
1.2 培養物の調製(タンパク質の製造方法)
培養物調製工程では、上記(A)群から(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質を形質転換体に産生させ、形質転換体を培養することによって、上記(A)群から(E)群のタンパク質を含む培養物を調製する。
【0038】
(A)群から(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質を発現する形質転換体は、当該タンパク質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを構築し、これを適切な宿主に導入することにより得ることができる。例えば、(A18)のタンパク質をコードする塩基配列として、配列番号1の配列の第4番目のアデニンから第54番目のアデニンまでの塩基配列を除いた配列からなるDNA断片を調製し、このDNA断片を組み込んだ発現ベクターを構築し、この発現ベクターを適切な宿主に導入することにより、(A18)のタンパク質を発現する形質転換体を得ることができる。他のタンパク質を発現する形質転換体も同様にして調製し得る。
【0039】
所定のDNAを宿主に導入するために用いる発現ベクターは、発現させようとする宿主の種類に応じたベクターに、これらのDNAを、DNAがコードするタンパク質が発現可能な形態で挿入することで構築することができる。
【0040】
タンパク質を発現させるための宿主としては、培養による増殖性が高く、取扱の容易な細胞が好適であり、一般に、微生物を用い得る。宿主として好ましい微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、コリネバクテリウム属細菌、及びバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)をはじめとする種々の真核細胞を用いることができ、工業的なペプチドの製法においては、培養や取扱の容易性などの観点から、E.coliが好適である。さらに、E.coliについて詳述すると、大腸菌K12株亜種のE.coli JM109株、DH5α株、HB101株、BL21(DE3)株などから選択し得る。形質転換を行う方法、および形質転換体を選別する方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor press (2001/01/15)などの文献に記載されている。
【0041】
以下、形質転換されたE.coliを作製し、これを用いて所定の酵素を製造する方法を、一例としてより具体的に説明する。
【0042】
ベクターとしては、例えば、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pACYC177、pACYC184、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218、pQE30およびその誘導体等を用いてもよい。ベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が好適である。他のベクターとしては、ファージDNAのベクターを利用してもよい。さらに、プロモータを含み、挿入DNA配列を発現させることができる発現ベクターを使用してもよい。
【0043】
形質転換体を選別するために、ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモータを持つ発現ベクターが市販されている(例、pUC系(タカラバイオ社製)、pPROK系(クローンテック製)、pKK233−2(クローンテック製))。
【0044】
プロモータとしては、通常E.coliにおける異種タンパク質生産に用いられるプロモータを使用することができ、例えば、T7プロモータ、lacプロモータ、trpプロモータ、trcプロモータ、tacプロモータ、ラムダファージのPRプロモータ、PLプロモータ、T5プロモータ等の強力なプロモータが挙げられる。
【0045】
生産量を増大させるためには、目的タンパク質をコードするDNAの下流に転写終結配列であるターミネータを連結することが好ましい場合がある。このターミネータとしては、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、E.colitrpA遺伝子のターミネータ等が挙げられる。
【0046】
プロモータと、ペプチド生成活性を有する目的タンパク質またはその目的タンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子と、任意のターミネータとを、この順に連結したDNA断片と、ベクターDNAとを所定の制限酵素を用いて連結し、発現ベクターを構築し得る。
【0047】
得られた発現ベクターを用いてE.coliを形質転換し、このE.coliを培養すると、所定のタンパク質が発現することにより生産される。
【0048】
宿主の種類に応じて適当な培地で培養増殖せしめることにより、所望のタンパク質を大量生産することができる。培地はその宿主が増殖し得るものであれば特に制限はなく、通常の炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、無機イオン、更に必要に応じ有機栄養源を含む通常の培地でよい。
【0049】
宿主が微生物の場合を主に想定すると、培地に加える成分としては次のような成分が挙げられる。
例えば、炭素源としては上記微生物が利用可能であればいずれも使用でき、具体的には、グルコース、フラクトース、マルトース、アミロース等の糖類、ソルビトール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、フマル酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸類及びこれらの塩類、パラフィンなどの炭水化物類あるいはこれらの混合物などを使用し得る。
【0050】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの有機窒素化合物あるいはこれらの混合物を使用し得る。
【0051】
他に無機塩類、微量金属塩、ビタミン類等、通常の培地に用いられる栄養源を適宜混合して用い得る。
【0052】
生産培地として、M9−カザミノ酸培地、LB培地など、E.coliを培養するために通常用いる培地を用いてもよい。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、プロモータ、宿主などの種類に応じて適宜選択し得る。
【0053】
本発明のペプチドの製造方法で用いる培養物は、上記のように形質転換体を培養し得られ、上記の(A)群から(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質を含有するものである。培養物の具体的な形態としては、例えば、培養された形質転換体、培養に用いた培地、および培養された形質転換体により生成された物質、およびこれらの混合物などが挙げられる。例えば、微生物を宿主とする場合、培養された微生物そのもの、その微生物を培養した培地、培養された微生物により精製された物質、およびこれらの混合物などを培養物として用い得る。菌体処理物を培養物として用いてもよく、菌体処理物の形態としては、菌体の破砕物、溶菌物、凍結乾燥物などが挙げられる。さらに培養物を粗精製処理してペプチド生成活性を有するタンパク質濃度を高めてもよい。
【0054】
本発明のペプチドの製造方法の一実施形態としては、得られた菌体またはこれを含む混合物を培養物として利用する形態が挙げられる。菌体をそのまま用いることができるため、菌体を破砕または溶菌するなどの手間を要しない、破砕または溶菌により露出した菌体由来のペプチド分解酵素と、生成目的物としてのペプチドとの接触のおそれを低減することができるなどの利点がある。
【0055】
形質転換体の培養温度は、形質転換体の宿主の種類などによって調整してよい。本発明の一つの側面として、培養温度の下限値は、好ましくは27℃以上、より好ましくは28℃以上、さらに好ましくは29℃以上を提示し得る。上記(A)群から(E)群のタンパク質のようにシグナルペプチドを当初から除いたタンパク質は、上記下限値以上の温度としても、シグナルペプチドが付属したままのタンパク質と比べて封入体を形成しにくく、可溶化しやすい(これに対して、シグナルペプチドを備えたままの場合、27℃以上では封入体を形成し、不溶化しやすい)。E.coliなど宿主として汎用される微生物は一般に上記の下限値よりも高い温度条件下とすることにより増殖速度が高めることができる。すなわち、上記(A)群から(E)群のタンパク質のように、当初からシグナルペプチドを除いたタンパク質を発現させることにより、形質転換体の増殖速度を向上させるように温度の設定をしやすく、目的とするペプチド生成活性を有するタンパク質の生産効率を向上させることができる。上限値は、目的のタンパク質が変性しない温度、または宿主の増殖性などの観点から適宜定められる。培養温度の上限値は、例えば、55℃以下、または40℃以下、または35℃以下とし得る。上記のように、培養温度の下限および上限はそれぞれ調整可能であるが、培養温度の好ましい一形態としては、29〜30℃に調整される。
【0056】
2.ペプチドを生成する反応工程
本発明のペプチドの製造方法は、上記のようにして調製された培養物と、カルボキシ成分と、アミン成分とを混合して、カルボキシ成分とアミン成分とを反応させ、ペプチドを生成する反応工程とを含む。
【0057】
反応温度は、例えば0℃以上60℃以下であり、好ましくは5℃以上40℃以下である。本発明において用いるタンパク質は、シグナルペプチドを当初から欠失した状態で発現しており、シグナルペプチドが付属したままのタンパク質よりも高い温度条件下でも酵素活性を維持している。そのためシグナルペプチドが付属したままのタンパク質を用いる場合よりも、比較的高温条件下で反応工程を実施可能であり、ペプチドの生成反応が促進されやすい温度条件設定が可能である。
反応pHは、例えば6.5〜10.5であり、好ましくは7.0〜10.0である。
【0058】
培養物の使用量は、目的とする効果を発揮する量(有効量)であればよく、この有効量は当業者であれば簡単な予備実験により容易に求められる。
ペプチドの生成反応を行うための好ましい一実施形態としては、50mM アスパラギン酸ジメチルエステル塩酸塩、75mM L−フェニルアラニン、100mM ホウ酸緩衝液(pH8.5)、20℃の培養条件において、反応液1mlにつき2.2U分の酵素(培養液)を添加する形態が挙げられる。この条件を満たすための、シグナルペプチドを有する酵素の発現菌の添加量、およびシグナルペプチド欠損酵素の発現菌の添加量を、下記実施例中の表3−1の数値を利用して求めると、それぞれ次のようになる。下記実施例中の表3−1によると、シグナルペプチドを有する酵素の発現菌pET22b AETでは、OD1あたりのAMP生成活性は2.96U/mlである。これに対して、シグナルペプチド欠損酵素の発現菌の一つであるpET22b n/s21 AETでは、4.69U/mlである。したがって、pET22b AETでは、OD1あたりの菌体が0.74ml必要となるのに対して、pET22b n/s21 AETではOD1あたりの菌体が0.44ml必要であり、後者の方が菌体の添加量を0.30ml低減することができる。
【0059】
25℃の培養条件において、反応液1mlにつき2.2U分の酵素(培養液)を添加する場合の菌体の添加量を対比すると次のようになる。下記実施例中の表3−2によると、シグナルペプチドを有する酵素の発現菌pET22b AETでは、OD1あたりのAMP生成活性は1.15U/mlである。これに対して、シグナルペプチド欠損酵素の発現菌の一つであるpET22b n/s20 AETでは、4.58U/mlである。したがって、pET22b AETでは、OD1の菌体が1.91ml必要となるのに対して、pET22b n/s20 AETではOD1の菌体が0.48ml必要であり、後者の方が菌体の添加量を1.43ml低減することができる。
【0060】
上記培養物調整工程で得られる培養物は、可溶性が高く、培養物の単位量あたりの酵素活性が高いものとすることができる。そのため、培養物の添加量を抑制することができ、製造コストの低減を図ることが可能である。また、生成物であるペプチドは、例えばフィルターなどを使って回収することができる。そのため、培養物の添加量を抑制することができることにより、フィルターに対する負荷を低減することが可能であり、例えばフィルターの交換回数を減らすことが可能である。したがって、この点からも製造コストの低減を図ることが可能である。さらに、培養物の単位量あたりの酵素活性の向上によって反応系に添加する菌体量を低減できるため、宿主由来のペプチド分解酵素によって生成目的とするペプチドを分解してしまうリスクを低減し得る。
【0061】
なお、微生物の培養物を用いる場合には、ペプチドの生成に関与せずに生成ペプチドを分解する酵素が存在する場合があり、この場合には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属プロテアーゼ阻害剤を添加するほうが好ましい場合がある。添加量は、0.1mMから300mMの範囲で、好ましくは1mMから100mMである。
【0062】
基質として、カルボキシ成分およびアミン成分が、ペプチドを生成するための反応系に添加される。本明細書において、カルボキシ成分とは、ペプチド結合(−CONH−)を形成する反応において、カルボニル基(−CO−)を供与する成分のことをいい、アミン成分とは、アミノ基(−NH−)を供与する成分のことをいう。
【0063】
カルボキシ成分としては、もう一つの基質であるアミン成分と縮合してペプチドを生成できるものであれば、いかなるものを使用してよい。カルボキシ成分としては、例えば、L−アミノ酸エステル、D−アミノ酸エステル、L−アミノ酸アミド、D−アミノ酸アミド、およびアミノ基の有さない有機酸エステル等が挙げられる。また、アミノ酸エステルとしては、天然型のアミノ酸に対応するアミノ酸エステルだけでなく、非天然型のアミノ酸もしくはその誘導体に対応するアミノ酸エステルなども例示される。また、アミノ酸エステルとしては、α−アミノ酸エステルの他、アミノ基の結合位置の異なる、β−、γ−、ω−等のアミノ酸のエステルなども例示される。アミノ酸エステルの代表例としては、アミノ酸のメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、n−ブチルエステル、iso−ブチルエステル、およびtert−ブチルエステル等が挙げられる。
【0064】
アミン成分としては、もう一つの基質であるカルボキシ成分と縮合してペプチドを生成できるものであれば、いかなるものも使用してよい。アミン成分としては、例えば、L−アミノ酸、C保護L−アミノ酸、D−アミノ酸、C保護D−アミノ酸、およびアミンなどが挙げられる。また、アミンとしは、天然型アミンだけでなく、非天然型のアミンもしくはその誘導体などが例示される。また、アミノ酸としては、天然型アミノ酸だけではなく非天然型アミノ酸もしくはその誘導体も例示される。α−アミノ酸の他、アミノ基の結合位置の異なる、β−、γ−、ω−等のアミノ酸なども例示される。
【0065】
出発原料であるカルボキシ成分およびアミン成分の濃度は各々1mM〜10M、好ましくは0.05M〜2Mであるが、カルボキシ成分に対してアミン成分を等量以上添加したほうが好ましい場合がある。また、基質が高濃度だと反応を阻害するような場合には、反応中にこれらを阻害しない濃度にして逐次添加してもよい。
【0066】
本発明のペプチドの製造方法は、各種のペプチドの製造するために好適である。ペプチドとしては、例えば、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−メチルエステル(i.e., α−L−(β−O−methyl aspartyl)−L−phenylalanine(略称:α−AMP)L−アラニル−L−グルタミン(Ala−Gln)、L−アラニル−L−フェニルアラニン(Ala−Phe)、L−フェニルアラニル−L−メチオニン(Phe−Met)、L−ロイシル−L−メチオニン(Leu−Met)、L−イソロイシル−L−メチオニン(Ile−Met)、L−メチオニル−L−メチオニン(Met−Met)、L−プロリル−L−メチオニン(Pro−Met)、L−トリプトファニル−L−メチオニン(Trp−Met)、L−バリル−L−メチオニン(Val−Met)、L−アスパラギニル−L−メチオニン(Asn−Met)、L−システイニル−L−メチオニン(Cys−Met)、L−グルタミル−L−メチオニン(Gln−Met)、グリシル−L−メチオニン(Gly−Met)、L−セリル−L−メチオニン(Ser−Met)、L−スレオニル−L−メチオニン(Thr−Met)、L−チロシニル−L−メチオニン(Tyr−Met)、L−アスパルチル−L−メチオニン(Asp−Met)、L−アルギニル−L−メチオニン(Arg−Met)、L−ヒスチジル−L−メチオニン(His−Met)、L−リジル−L−メチオニン(Lys−Met)、L−アラニル−グリシン(Ala−Gly)、L−アラニル−L−スレオニン(Ala−Thr)、L−アラニル−L−グルタミン酸(Ala−Glu)、L−アラニル−L−アラニン(Ala−Ala)、L−アラニル−L−アスパラギン酸(Ala−Asp)、L−アラニル−L−セリン(Ala−Ser)、L−アラニル−L−メチオニン(Ala−Met)、L−アラニル−L−バリン(Ala−Val)、L−アラニル−L−リジン(Ala−Lys)、L−アラニル−L−アスパラギン(Ala−Asn)、L−アラニル−L−システイン(Ala−Cys)、L−アラニル−L−チロシン(Ala−Tyr)、L−アラニル−L−イソロイシン(Ala−Ile)、L−アルギニル−L−グルタミン(Arg−Gln)、グリシル−L−セリン(Gly−Ser)、グリシル−L−(t−ブチル)セリン(Gly−Ser(tBu))、(2S,3R,4S)−4−ヒドロキシルイソロイシル−フェニルアラニン(HIL−Phe)などのジペプチド;L−アラニル−L−フェニルアラニル−L−アラニン(AFA)、L−アラニル−グリシル−L−アラニン(AGA)、L−アラニル−L−ヒスチジル−L−アラニン(AHA)、L−アラニル−L−ロイシル−L−アラニン(ALA)、L−アラニル−L−アラニル−L−アラニン(AAA)、L−アラニル−L−アラニル−グリシン(AAG)、L−アラニル−L−アラニル−L−プロリン(AAP)、L−アラニル−L−アラニル−L−グルタミン(AAQ)、L−アラニル−L−アラニル−L−チロシン(AAY)、グリシル−L−フェニルアラニル−L−アラニン(GFA)、L−アラニル−グリシル−グリシン(AGG)、L−トレオニル−グリシル−グリシン(TGG)、グリシル−グリシル−グリシン(GGG)、L−アラニル−L−フェニルアラニル−グリシン(AFG)などのトリペプチド;グリシル−グリシル−L−フェニルアラニル−L−メチオニン(GGFM)などのテトラペプチド;L−チロシル−グリシル−グリシル−L−フェニルアラニル−L−メチオニン(YGGFM)などのペンタペプチドが挙げられる。
【0067】
本発明のペプチドの製造方法の好ましい一形態としては、カルボキシ成分がアスパラギン酸ジメチルエステルであり、アミン成分がフェニルアラニンであり、生成するペプチドがアスパルチルフェニルアラニンである。より具体的には、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−メチルエステル(i.e., α−L−(β−O−methyl aspartyl)−L−phenylalanine(略称:α−AMP)の製造方法として、本発明のペプチドの製造方法は好適である。α−AMPは、甘味料として大きな需要があるα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−α−メチルエステル(製品名:アスパルテーム)製造の重要な中間体である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について、実施例を示し、より詳細に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0069】
<実施例1 発現プラスミドの構築>
<1−1> pelBシグナルペプチド置換AET発現プラスミドの構築
S.multivorum由来AET全長を含む発現プラスミドpSF_Sm_Aet(WO2006/075486 A1)を鋳型とし、センスプライマーとして配列番号3の配列で表されるプライマー(NcoI認識配列の後にS.multivorum由来AETのN末端より21番目のアミノ酸に対応するコドンから増幅するようデザインしたプライマー)およびアンチセンスプライマーとして配列番号4の配列で表されるプライマー(XhoI認識配列の後にAETの停止コドンから増幅するようデザインしたプライマー)を用いて、94℃で30秒、52℃で1分、68℃で2分の条件で30サイクルのPCRを行った。次に、得られたPCR産物をNcoI/XhoIで消化した後に、アガロース電気泳動にて目的の約1.8kbのDNAを切り出し、pET22b(novagen社)のNcoI−XhoIサイトに連結した。塩基配列を確認し、正しいものをpET22b pelB21−AETと名付けた。pET22b pelB21−AETは、S.multivorum由来の全長AETに含まれるシグナルペプチドがシグナルペプチドpelBに置換された、「pelBシグナルペプチド置換AET」を発現するプラスミドである。pelBは、Erwinia carotovoraに由来するシグナルペプチドである。
【0070】
<1−2> シグナルペプチド欠損AET発現プラスミドの構築
S.multivorum由来AET全長を含む発現プラスミドpSF_Sm_Aet(WO2006/075486 A1)を鋳型とし、センスプライマーとして配列番号5の配列で表されるプライマー(NdeI認識配列の後にAETのN末端より21番目のアミノ酸に対応するコドンから増幅するようデザインしたプライマー)とアンチセンスプライマーとして配列番号4の配列で表されるプライマーを用いて94℃で30秒、52℃で1分、68℃で2分の条件で30サイクルのPCRを行った。次に、得られたPCR産物をNdeI/XhoIで処理した後に、アガロース電気泳動にて目的の約1.8kbのDNAを切り出し、pET22bのNdeI−XhoIサイトに連結した。塩基配列を確認し、正しいものをpET22b n/s21−AETと名付けた。pET22b n/s21−AETは、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第20番目のアラニン残基まで欠失したAET、すなわちS.multivorum由来の全長AETに含まれるシグナルペプチドが欠損したAETを発現するプラスミドである。
【0071】
<1−3> AET発現プラスミドの構築
コントロール発現プラスミドとして、S.multivorum由来AETのシグナルペプチドを有する発現プラスミドについても構築した。S.multivorum由来AET全長を含む発現プラスミドpSF_Sm_Aet(WO2006/075486 A1)を鋳型とし、センスプライマーとして配列番号6の配列で表されるプライマー(NdeI認識配列の後にS.multivorum由来AETのN末端より2番目のアミノ酸に対応するコドンから増幅するようデザインしたプライマー)とアンチセンスプライマーとして配列番号4の配列で表されるプライマーを用いて、94℃で30秒、52℃で1分、68℃で2分の条件で30サイクルのPCRを行った。次に、得られたPCR産物をNdeI/XhoIで消化した後に、アガロース電気泳動にて目的の約1.9kbのDNAを切り出し、pET22bのNdeI−XhoIサイトに連結した。塩基配列を確認し、正しいものをpET22b AETと名付けた。pET22b AETは、S.multivorum由来の全長AET、すなわち野生型のシグナルペプチドを含むAETを発現するプラスミドである。
【0072】
<実施例2 AETのE.coliでの発現>
実施例1で作製した3つの発現プラスミド、pET22b AET、pET22b pelB21−AET、およびpET22b n/s21−AETのそれぞれで形質転換したE.coli BL21(DE3)を、それぞれpET22b AET株、pET22b pelB21−AET株、pET22b n/s21−AET株と名付けた。pET22b AET株、pET22b pelB21−AET株、pET22b n/s21−AET株を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地で20℃、16時間前培養した。次に、前培養した各種酵素発現株を100μg/mlのアンピシリンを含む2mlの培地(4g/l グリセロール、24g/l 酵母エキス、12g/l ペプトン、2.3g/l リン酸二水素カリウム、12.5g/l リン酸水素二カリウム、20ml/l Solution1、50ml/l Solution2、1ml/l Solution3)を張り込んだ普通試験管に1白金耳植菌し、20℃、40時間、150往復/分の本培養を実施、培養菌体を得た。(Solution1〜3は、Overnight Express Autoinduction System1(novagen社)に付属された溶液である。)
【0073】
<実施例3 AETの活性測定>
実施例2で得られたそれぞれの培養菌体を、50mM アスパラギン酸ジメチルエステル塩酸塩、75mM L−フェニルアラニンを含む100mM ホウ酸緩衝液(pH8.5)に懸濁し、20℃にて反応させた。生成物は、以下に示す高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて定量し、AET生成活性を求めた。培養菌体添加量は、2%(v/v)とした。
【0074】
(HPLC)
カラム:Inertsil ODS−3(GLサイエンス社)、溶離液:100mM 燐酸水溶液(pH2.1)、13% アセトニトリル、流速:1.0ml/分、カラム温度:40℃、検出:210nm
【0075】
測定結果を表1に示す。シグナルペプチドと推測される配列番号2の配列における第1番目のメチオニン残基から第20番目のアラニン残基のうち第2番目のリジン残基から第20番目のアラニン残基を欠損させたAET発現株(pET22b n/s21−AET株)は、コントロール株(pET22b AET株)と比較して培養液あたりのAMP(α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステル)生成活性向上が確認された。他方、pelBシグナルペプチドで置換したAET発現株(pET22b pelB21−AET株)の培養液あたりの活性は、コントロール株とほぼ同等であった。
【0076】
各培養液から、菌体を集菌し、超音波破砕した全画分、遠心上清画分、遠心沈殿画分をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動にて展開した結果を図1に示す。pET22b n/s21−AET株では、pET22b AET株、pET22b pelB21−AET株と比較して、遠心上清画分のAET量増加および遠心沈殿画分のAET量減少が認められた。すなわち、シグナルペプチドと推測される配列番号2の配列における第1番目のメチオニン残基から第20番目のアラニン残基のうち第2番目のリジン残基から第20番目のアラニン残基を欠損させたAETは可溶化しやすく、可溶化しやすくなった事により、培養液の菌体あたりの活性が向上していることが分かった。
【0077】
【表1】

【0078】
<実施例4 AETの局在>
実施例2で得られた培養菌体を25g/dlのスクロース溶液を用いた浸透圧ショック法により、ペリプラズム画分とサイトゾル画分に分画した。25g/dlのスクロース溶液に浸した菌体を20mM Tris−Cl(pH8.0)溶液に浸し、この遠心上清をペリプラズム画分とした。また、その遠心沈殿を再懸濁し、超音波破砕したものをサイトゾル画分とした。サイトゾルを分離したことを確認するため、サイトゾルに存在することが知られているグルコース6燐酸デヒドロゲナーゼの活性を指標とした。測定法は、1mM グルコース6燐酸、0.4mM NADP、10mM MgSO、50mM Tris−Cl(pH8.0)、30℃の反応溶液の中に適当量の酵素を添加し、340nmの吸光度の測定によりNADPHの生成を測定することにより行なった。
【0079】
サイトゾル画分(Cy)とペリプラズム画分(Pe)の活性の総和を100%としたときの相対値を図2に示す。グルコース6燐酸デヒドロゲナーゼ活性がペリプラズム画分の混入していないことは、サイトゾル画分にペリプラズム画分が混入していないことを示す。pET22b AET株では活性のうち約90%、pET22b pelB21−AET株では約96%、pET22b n/s21−AET株では約99%がサイトゾル画分に回収された。すなわち、S.multivorum由来AETは、アミノ酸配列よりペリプラズム酵素であると予測されたが、E.coliでの発現時はN末端のシグナル配列は切断されるもののペリプラズムへは移行せずサイトゾル画分に発現した。また、シグナルペプチドと推測される配列番号2の配列における第1番目のメチオニン残基から第20番目のアラニン残基のうち、第2番目のリジン残基から第20番目のアラニン残基を欠損させたAETは可溶化しやすく、培養液の菌体あたりの活性が高かった。
【0080】
<実施例5 培養温度の検討>
シグナルペプチドを欠損させる事でAETが可溶化しやすい事が分かったため、シグナル配列を欠損したAETは、より高温の培養温度においても活性発現する事が期待された。そこで、pET22b AET株、pET22b pelB21−AET株、pET22b n/s21−AET株を、実施例2に記載の方法にて25℃、30℃にて培養し、実施例3に記載の方法にて培養液の菌体あたりの活性を測定した。
【0081】
結果を表2−1(培養温度20℃)、表2−2(培養温度25℃)、および表2−3(培養温度30℃)に示す。培養温度を20℃から25℃に向上させる事により、pET22b AET株、pET22b pelB21−AET株で約40%にまで培養液あたりの活性が低減したのに対し、pET22b n/s21−AET株では約86%の活性を保持していた。培養温度30℃では、更なる活性の低下が認められたが、pET22b n/s21−AET株が培養液の容量あたりの活性で最も高活性であった。
【0082】
次に、25℃および30℃の培養液から、菌体を集菌し、超音波破砕した全画分、遠心上清画分、遠心沈殿画分をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動にて展開した結果を、図3−1および図3−2に示す。25℃培養にて、pET22b n/s21−AET株では、pET22b AET株、pET22b pelB21−AET株と比較して、遠心上清画分(可溶化画分)に著量のAETが確認された(図3−1)。また、30℃培養においては、pET22b AET株、pET22b pelB21−AET株では遠心上清画分にAETは確認されなかったが、pET22b n/s21−AET株ではAETが確認された(図3−2)。すなわち、シグナルペプチドを欠損させたpET22b n/s21−AET株は、シグナルペプチドを有するpET22b AET株、pET22b pelB21−AET株と比較して、より高温の培養温度においても活性発現する事が明らかとなった。
【0083】
【表2−1】

【0084】
【表2−2】

【0085】
【表2−3】

【0086】
<実施例6 開始アミノ酸の至適化>
pET22b AET株の培養液から菌体を集菌し、超音波破砕した遠心上清画分のAETのN末端アミノ酸配列の解析を実施したところ、約32%がグルタミンであった。これは、アミノ酸配列からの予測通り、配列番号2の配列における第1番目のメチオニン残基から、第20番目のアラニン残基までが切断されたものと推測された。一方で、約14%のアスパラギン酸、約11%のアラニン、約9%のヒスチジンも検出され、他箇所においても切断されている可能性が考えられた。そこで、N末端の至適化を目的として、以下に示す方法にて、各種シグナル配列欠損発現プラスミドを構築した。
【0087】
<シグナルペプチド欠損AET発現プラスミドの構築>
S.multivorum由来AET全長を含む発現プラスミドpSF_Sm_Aet(WO2006/075486 A1)を鋳型とし、センスプライマーとして配列番号7〜14の配列で表されるプライマー(NdeI認識配列の後にAETのN末端より19、20、22、23、24、25、26、27番目のアミノ酸に対応するコドンから増幅するようデザインしたプライマー)とアンチセンスプライマーとして配列番号4の配列で表されるプライマーを用いて94℃で30秒、52℃で1分、68℃で2分の条件で30サイクルのPCRを行った。
【0088】
次に、得られたPCR産物をNdeI/XhoIで処理した後に、アガロース電気泳動にて約1.8kbのDNAを切り出し、pET22b(novagen社)のNdeI−XhoIサイトに連結した。塩基配列を確認し、正しいものをpET22b n/s19−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第18番目のロイシン残基まで欠失)、pET22b n/s20−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第19番目のヒスチジン残基まで欠失)、pET22b n/s22−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第21番目のグルタミン残基まで欠失)、pET22b n/s23−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第22番目のスレオニン残基まで欠失)、pET22b n/s24−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第23番目のアラニン残基まで欠失)、pET22b n/s25−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第24番目のアラニン残基まで欠失)、pET22b n/s26−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第25番目のアスパラギン酸残基まで欠失)、pET22b n/s27−AET(配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第26番目のセリン残基まで欠失)と名付けた。
【0089】
次に、作製したそれぞれの発現プラスミドで形質転換したE.coli BL21(DE3)を、実施例2に記載の方法にて培養を行ない、実施例3に記載の方法に従って、培養液あたりの活性を測定した。
【0090】
AMP生成活性の測定結果を、表3−1(培養温度20℃)、表3−2(培養温度25℃)、および表3−3(培養温度30℃)に示す。培養温度25℃、30℃では、pET22b n/s21−AET株よりもpET22b n/s20−AET株の方が培養液あたりの活性が高い事がわかった。
【0091】
次に、25℃の培養液から、菌体を集菌し、超音波破砕した全画分、遠心上清画分、遠心沈殿画分をSDS−ポリアクリルアミド電気泳動にて展開した結果を図4に示す。第5レーン、第8レーン、第11レーンおよび第14レーンを比較すると、N末端からの欠損領域が長いほど、遠心上清画分のAET量が減少する傾向が認められた。他方、第6レーン、第9レーン、第12レーンおよび第15レーンを比較すると、N末端からの欠損領域が長いほど、遠心沈殿画分のAET量が増加する傾向が認められた。このことから、N末端からの欠損領域が長いほど、培養液あたりのAMP生成活性が低下するのは、発現量の低下ではなく封入体形成によるものと推定された。
【0092】
【表3−1】

【0093】
【表3−2】

【0094】
【表3−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)群、(B)群、(C)群、(D)群、ならびに(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクターを含む形質転換体を培養し、培養物を調製する、培養物調製工程と、
前記培養物と、カルボキシ成分と、アミン成分とを混合し、ペプチドを生成する、反応工程とを含み、
前記(A)群が、
(A18)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第18番目のロイシン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A19)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第19番目のヒスチジン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A20)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第20番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A21)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第21番目のグルタミン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A22)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第22番目のスレオニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A23)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第23番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、および
(A24)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第24番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
からなる群であり、
前記(B)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(C)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(D)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(E)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群である、
ペプチドの製造方法。
【請求項2】
前記(A)群が、前記(A18)、(A19)、(A20)、および(A21)からなる群である、請求項1に記載のペプチドの製造方法。
【請求項3】
前記培養物調製工程において、形質転換体を27℃以上35℃以下の温度条件下で培養する、請求項1または2に記載のペプチドの製造方法。
【請求項4】
前記形質転換体の宿主が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、請求項1から3のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
【請求項5】
生成するペプチドが、ジペプチドである、請求項1から4のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
【請求項6】
カルボキシ成分がアミノ酸エステルである、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
【請求項7】
カルボキシ成分がアスパラギン酸ジメチルエステルであり、アミン成分がフェニルアラニンであり、生成するペプチドがα−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン−β−エステルである、請求項1から6のいずれか一項に記載のペプチドの製造方法。
【請求項8】
下記(A)群、(B)群、(C)群、(D)群、ならびに(E)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドが組み込まれた発現ベクターを含む形質転換体を作製し、前記形質転換体を培養して前記タンパク質を発現させる工程を含み、
前記(A)群が、
(A18)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から第18番目のロイシン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A19)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第19番目のヒスチジン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A20)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第20番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A21)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第21番目のグルタミン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A22)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第22番目のスレオニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
(A23)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第23番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、および
(A24)アミノ酸配列が、配列番号2の配列における第2番目のリジン残基から、第24番目のアラニン残基までを欠失させた配列である、タンパク質、
からなる群であり、
前記(B)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質に、さらに置換、欠失、挿入、および付加からなる群より選ばれる1または数個のアミノ酸残基の変異を含み、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(C)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質と、70%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(D)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群であり、
前記(E)群が、前記(A)群から選ばれるいずれかのタンパク質をコードするポリヌクレオチドと70%以上の塩基配列同一性を有するポリヌクレオチドでコードされ、かつ、ペプチド生成活性を有するタンパク質からなる群である、
タンパク質の製造方法。
【請求項9】
前記形質転換体を27℃以上35℃以下の温度条件下で培養する、請求項8に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項10】
前記形質転換体の宿主が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、請求項8または9に記載のタンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−223896(P2011−223896A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94407(P2010−94407)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】