説明

ペン先

【課題】どの方向からも筆記できるように、軸体内に、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン基本体を周状に配列したペン先において、筆記時の筆圧によりペン基本体が後退可能とすることで、抑揚感と筆跡幅に変化をもたらすことが可能なペン先とする。
【解決手段】ペン基本体保持部材4を、小径な前方突設部4aと、後方に向かうにしたがってより軸心から離間する複数の収容溝6を周状に複数有した本体部4bと、小径な小軸部4cと、後端鍔部4dとで構成するとともに、前後に連通したインキ流通路8を設け、前方突設部4aにスリット9を設ける。前記収容溝6に遊嵌する挿着部2cを有し、先端部2aに切割溝3を設けた剛体の複数のペン基本体2を、前記挿着部2cを本体部4bの収容溝6に挿入し、ペン基本体2とペン基本体保持部材4との間にコイルばね15を張架して前後動可能に軸体5内に挿着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸体内に、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン基本体を周状に配列して、各ペン基本体の先端部の全体形状が先窄み形状となるように設けたペン先に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、どの方向からも筆記面に筆記できる無方向性のペン先として、複数のペン基本体を周状に配列して、集合した各ペン基本体の先端部の全体形状が略円錐形状となるように集合してなるペン先は知られており、ペン基本体が、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない剛体に形成されたものも、特開2003−165293号により知られている。
【0003】
ペン基本体が金属製の平板で形成されたものであれば、万年筆のペンのように筆記時における筆圧により、各ペン基本体の先端部は軸径方向に撓み抑揚感を得ることができるが、前記したようにペン基本体が剛体に形成されたものでは、先端部は軸径方向に撓むことがなく、前記したような抑揚感が得られないという問題があった。
【0004】
また、万年筆においては、筆記時の筆圧により、ペンの先端に形成された切割溝により先端が開き、紙面等の筆記面へインキを流出するための前記切割溝で構成されたインキ流出路の幅が広くなるので、筆跡幅に変化をもたらすことができるが、前記したように剛体の複数のペン基本体で構成された無方向性のペン先にあっては、ペン先の先端へのインキ流出は各ペン基本体間で形成される隙間に依存しており、筆記時の筆圧によりペン基本体が軸径方向に撓んだり前後動したりしないので、前記隙間量に変化がおこらず、筆跡幅に変化をもたらすこともできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−165293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記事実に鑑みてなされたもので、どの方向からも筆記できるように、軸体内に、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン基本体を周状に配列して、集合した各ペン基本体の先端部の全体形状が先窄み状となるようにしたペン先において、筆記時の筆圧によりペン基本体が後退可能とすることで、抑揚感と筆跡幅に変化をもたらすことが可能なペン先を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「1.外周面上に後方に向かうにしたがってより軸心から離間する複数の収容溝を周状に複数有し、少なくとも後端を開口し前後に延びたインキを先端に流通するためのインキ流通路と、先端部にインキ流通路に連通したスリットを有したペン基本体保持部材に、ペン基本体保持部材の収容溝に遊嵌可能な挿着部を有した先端部が筆圧により軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン基本体を、挿着部を収容溝に遊嵌してペン基本体保持部材に対して前後動可能に配し、集合した各ペン基本体の先端部の全体形状が先窄み状となるように設けるとともに、ペン基本体の先端部の内壁面とペン基本体保持部材のスリットを設けた外壁面との間に毛管作用によりインキが滞留するインキ滞留部が形成されるように設けて、軸体内に、軸体に体してペン基本体保持部材が前後動することなく、ペン基本体の先端が軸体の先端より突出して挿着するとともに、ペン基本体とペン基本体保持部材との間にばねを張架し、筆圧によりペン基本体がペン基本体保持部材に対して、各ペン基本体の先端が互いに接近または離間するように前後動可能としたことを特徴とするペン先。
2.前記ペン基本体の先端部に、先端に開口し前記インキ滞留部に連通した切割溝を設けたことを特徴とする、前記1項に記載のペン先。」
である。
【0008】
前記ペン基本体保持部材に設けるインキ流通路は、孔で構成しても良いし、さらに前記孔に繊維状のインキ誘導芯等を挿入して構成しても良く、本発明のペン先を装着する軸筒内に収容したインキをペン基本体保持部材の先端部に確実に流通できればどのような構造でも良い。また、ペン基本体保持部材の先端部に形成するスリットの数は、特に限定されず、インキ滞留部に充分に供給できれば1つでも良いし、例えばペン基本体の数だけ設けても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明は前記したような構造なので、どの方向からも筆記できるように、軸体内に、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない複数の剛体のペン基本体を周状に配列して、集合した各ペン基本体の先端部の全体形状が先窄み状となるように設けたペン先であっても、筆記時の筆圧によりペン基本体が筆圧に対応して後退するので、抑揚感を得ることができ、かつ各ペン基本体の先端が筆圧により後退して互いに離間するので、筆跡幅に変化をもたらすことができる。
【0010】
請求項2に係る発明とすることで、ペン基本体が後退して各ペン基本体の先端が互いに離間することで各ペン基本体間の隙間量が広くなり、毛細管としての機能が低下して各ペン基本体の先端へのインキ供給量が少なくなっても、ペン基本体の後退による幅が変化しない切割溝によりインキが供給できるので、ペン基本体の先端に充分にインキを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のペン先の実施例を示す、ペン先の斜視図である。
【図2】本発明のペン先の実施例を示す、ペン先の要部を断面した図である。
【図3】本実施例におけるペン基本体の拡大斜視図である。
【図4】本実施例におけるペン基本体保持部材の拡大斜視図である。
【図5】本実施例におけるペン基本体保持部材にペン基本体を装着した状態を示す、拡大斜視図である。
【図6】図2において、ペン基本体が後退した状態を示す、ペン先の要部を断面した図である。
【図7】実施例のペン先を装着した筆記具の一例を示す、筆記具の要部を断面した図である。
【図8】実施例のペン先を装着した筆記具の他の例を示す、筆記具の要部を断面した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、先窄み状の先端部を有した、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン基本体を、後端から先端に連通したインキを流通するためのインキ流通路を有したペン基本体保持部材に、該ペン基本体保持部材に対して前後動可能に装着するものである。
【実施例】
【0013】
本発明のペン先の実施例を、図1〜図6を用いて説明する。
本実施例のペン先1は、前方に向かって軸径方向と周方向において先窄み状の先端部2aを有し、該先端部2aに軸心方向に延び先端に開口した切割溝3を設けた、筆圧により先端部2aが軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン基本体2と、該ペン基本体2を周状に配列して保持するためのペン基本体保持部材4と、前記ペン基本体2とペン基本体保持部材4を装着しインキを収容する軸筒(図示せず)の先端に連接可能な軸体5とで構成されている。
【0014】
ペン基本体保持部材4は、図2および図4に示すように、小径な前方突設部4aと、該前方突設部4aより大径で、後方(図4において右側方向)に向かうにしたがい漸次大径となるテーパー状の本体部4bと、該本体部4bより小径な小軸部4cと、本体部4bより大径な後端鍔部4dとで構成されている。本体部4bの外周面には、該本体部4bのテーパーに沿って複数の収容溝6を設けてある(図4を参照)。また、ペン基本体保持部材4には、後端鍔部4dの後端から前方突設部4aの先端に貫通した貫通孔7を形成し、内部に繊維束からなるインキ誘導芯を挿入してインキを流出するためのインキ流通路8を設けてある。前記前方突設部4aは、先端部4aaをさらに小径にし、一方をインキ流通路8に連通し他方を外方に開口した、収容溝6と同数のスリット9を設けてある。
【0015】
前記ペン基本体2は、図2および図3に示すように、本体部2bの前方に先窄み状の先端部2aを、後方に前記収容溝6に遊嵌する挿着部2cを有した形状としてあり、該挿着部2cは収容溝6のテーパーにならい、後端が後方に向かうにしたがって軸心Hより離間するように形成してある。挿着部2cの後端には、内方に突出した突出部10を設けてある。また、先端部2aは、後方に向かうにしたがって肉厚が漸次厚くなり、各ペン基本体2をペン基本体保持部材4に挿着した際に、各ペン基本体2の先端部2aの内壁面がペン基本体保持部材4の中心軸線上で互いに当接するように形成してある。
【0016】
各ペン基本体2をペン基本体保持部材4に、挿着部2cをペン基本体保持部材4の収容溝6に遊嵌し、挿着部2cの突出部10を小軸部4cに対向して挿着し、各ペン基本体2の先端部2aの全体形状を略円錐形としてある。各ペン基本体2の先端部2aの後端には切欠部11を設けてあり、該切欠部11で構成された挿入孔12(図2を参照)を形成してある。該挿入孔12の内径は、ペン基本体保持部材4の前方突設部4aの先端部4aaの外径より若干大径となるように形成してあり、先端部4aaのスリット9の周りの外壁面とペン基本体2の先端部2aの内壁面との間の隙間は、毛管作用によりインキが溜まるインキ滞留部13としてある。
【0017】
ペン基本体2の本体部2bの内壁面に形成した段部14の後端面とペン基本体保持部材4の本体部4bの前端面との間にコイルばね15を張架してある。
【0018】
前記軸体5は、図2に示すように、内部形状が、ペン基本体保持部材4に挿着したペン基本体2を収容可能で各ペン基本体2が後退(図2において右側方向)可能な、ペン基本体2の本体部2aのテーパー状の外形にならったテーパー状の内壁面を有する前方内壁部5aと、該前方内壁部5aの内径より大径でペン基本体保持部材4の後端鍔部部4dの外径より大径な後方内壁部5bとからなる形状である。軸体5に、前記ペン基本体保持部材4に各ペン基本体2を装着した状態で、前方内壁部5aの内部にペン基本体保持部材4の前方突設部4a、本体部4b、小軸部4cを配し、後端鍔部4dを後方内壁部5bに配し、後端鍔部4dを前方内壁部5aの後端面に当接して挿着してペン先1としてある。
【0019】
本実施例の軸体5には、ペン先1を装着する軸筒に着脱自在に装着できるように、雌ねじ部16を設けて軸筒に着脱自在に装着可能としてあるが、軸筒に係る内部構造等や軸筒との装着構造については限定されるものではない。また、本実施例においては、軸体5内にペン基本体保持部材4を固定しておらず、本実施例のペン先1を装着する軸筒等によりペン基本体保持部材4が軸体5より抜け出さないような構造としてあるが、軸体5の後方内壁部5bの壁面に雌ねじ部を形成し、ペン基本体保持部材4の後端鍔部4dの外周面に雄ねじ部を形成してねじ嵌合することで、ペン基本体保持部材4を軸体5内に固定しても良い。
【0020】
本実施例のペン先1は、各ペン基本体2がペン基本体保持部材4に対して、突出部10のペン基本体保持部材4の本体部4aと後端鍔部4d間の移動距離だけ前後動可能となり、筆記時の筆圧により、図6に示すようにペン基本体2は後退するが、ペン基本体2はコイルばね15により前方方向(図6において左側方向)に付勢されているので、筆圧の強弱によりペン基本体2の後退量も変わるので、万年筆のペン先のように筆記時における抑揚感を感ずることができる。また、ペン基本体2が後退することで各ペン基本体2の先端部分は拡開するので、筆跡幅に変化をもたらすことができる。
【0021】
また、本実施例のペン先1は、ペン先1を装着した筆記具の軸筒内に収容したインキを、ペン基本体保持部材4に設けたインキ流通路8を通ってペン基本体保持部材4の前方突設部4aの先端に流出し、スリット9を介してインキ滞留部13にインキが溜り、各ペン基本体2との間に形成される隙間17やペン基本体2の先端部2aに設けた切割溝3により(図1を参照)、ペン基本体2の先端に供給される。ペン基本体2が後退して、各ペン基本体2との間に形成される隙間17が拡開して先端へのインキ供給の性能が落ちても、インキ出が出渋り状態になるという問題は解消される。
【0022】
次に、本実施例のペン先1を装着した筆記具の具体例を図7および図8を用いて簡単に説明すると、図7に示す筆記具101は、例えば、軸筒102の内部に筆記用インキ(図示せず)を直に収容する構造のもので、軸筒102の内部をインキ収容部103とし、軸筒102の先端には、櫛溝104と前後端に開口して連通したインキ流出溝(図示せず)を有したペン芯105をペン芯保持部材106を介して装着してある。この軸筒102に、本実施例のペン先1を、軸体5に設けた雌ねじ部16と軸筒102に設けた雄ねじ部107をねじ嵌合により連接し、ペン芯105の前端をペン基本体保持部材4の後端鍔部4dの後端に当接して、ペン芯105のインキ流出溝(図示せず)とインキ流通路8を連通させることで、各ペン基本体2の先端にインキを供給可能とするものである。
【0023】
図8に示す筆記具201は、本実施例のペン先1を装着する軸筒202は、櫛溝203と前後端に開口して連通したインキ流出溝(図示せず)を有し、後端にインキカートリッジ204を挿着した際にインキ流出防止用のための開口部を閉塞した蓋(図示せず)をずらして開口部を開口するための後方(図5において右側方向)に突出した突起部205を有したペン芯206をペン芯保持部材207を介して装着した前軸202aと、該前軸202aの後端に、ねじ嵌合により着脱自在に連接する、後端を閉塞し前記ペン芯206に挿着したインキカートリッジ204を収容可能な収容室208を有した後軸202bとで構成されている。この軸筒202に、本実施例のペン先1を、軸体5に設けた雌ねじ部16と前軸202aに設けた雄ねじ部209をねじ嵌合により連接することで、筆記具として使用することができる。前軸202aに装着したペン芯206の前端をペン基本体保持部材4の鍔部4dの後端に当接して、ペン芯206のインキ流出溝(図示せず)とインキ流通路8を連通させることで、各ペン基本体2の先端にインキを供給可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、どの方向からも筆記面に筆記できる、筆圧により先端部が軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン基本体からなる無方向性のペン先において、筆記時の筆圧による抑揚感を付与した場合、または筆跡幅を変化させたい場合に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 ペン先
2 ペン基本体、2a 先端部、2b 本体部、2c 挿着部
3 切割溝
4 ペン基本体保持部材
5 軸体
6 収容溝
8 インキ流通路
9 スリット
13 インキ滞留部
15 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面上に後方に向かうにしたがってより軸心から離間する複数の収容溝を周状に複数有し、少なくとも後端を開口し前後に延びたインキを先端に流通するためのインキ流通路と、先端部にインキ流通路に連通したスリットを有したペン基本体保持部材に、ペン基本体保持部材の収容溝に遊嵌可能な挿着部を有した先端部が筆圧により軸径方向に撓むことのない剛体の複数のペン基本体を、挿着部を収容溝に遊嵌してペン基本体保持部材に対して前後動可能に配し、集合した各ペン基本体の先端部の全体形状が先窄み状となるように設けるとともに、ペン基本体の先端部の内壁面とペン基本体保持部材のスリットを設けた外壁面との間に毛管作用によりインキが滞留するインキ滞留部が形成されるように設けて、軸体内に、軸体に体してペン基本体保持部材が前後動することなく、ペン基本体の先端が軸体の先端より突出して挿着するとともに、ペン基本体とペン基本体保持部材との間にばねを張架し、筆圧によりペン基本体がペン基本体保持部材に対して、各ペン基本体の先端が互いに接近または離間するように前後動可能としたことを特徴とするペン先。
【請求項2】
前記ペン基本体の先端部に、先端に開口し前記インキ滞留部に連通した切割溝を設けたことを特徴とする、請求項1に記載のペン先。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−131196(P2012−131196A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287216(P2010−287216)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】