説明

ペースト状食品

【課題】指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であるにもかかわらず、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を提供する。
【解決手段】指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であるペースト状食品であって、寒天、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有し、pHが3〜5であるペースト状食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であるにもかかわらず、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ベビーフードは、乳幼児の発育に伴い、栄養補給を行うとともに、順次一般食品に適応させることを目的として製造された離乳補助食品である。また、それと同時に乳児に嚼む、飲むなどの動作、味や舌触りなどの感覚を覚えさせる目的も持っており、ベビーフードには、乳幼児の成長に合わせた物性が求められている。
【0003】
特に、離乳が開始される生後5、6ヶ月頃の乳児には、なめらかにすりつぶした状態のベビーフードが好ましいとされており、カボチャやコーンなどを裏ごししたペースト状食品が市販されている。
【0004】
栄養のバランスを考慮して、多種多様な食品原料をペースト状食品にすることが望まれているが、果実等を主原料としたペースト状食品を製造する場合、水分含量の多いため適度な粘度に調整することが困難であった。これらの問題の解決策として、キサンタンガムなどの食品添加物である増粘安定剤を用いて調整する方法が知られているが、この方法で得られたペースト状食品は口溶けが悪くなるという問題があった。また、乳幼児にベビーフードを与える親の立場からも、安全安心を求めて食品添加物の使用を極力控えた商品の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であるにもかかわらず、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、寒天、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有させ、pHを3〜5に調整することで、意外にも、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であるペースト状食品であって、寒天、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有し、pHが3〜5であるペースト状食品、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であるにもかかわらず、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を提供することができ、これにより、乳幼児向けを中心としたペースト状食品の更なる需要の拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特に規定しない限り、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0010】
本発明のペースト状食品は、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であることを特徴とし、これによって適度な粘度を有したペースト状食品が得られ難いという課題を有する。
【0011】
本発明において指定添加物とは、食品衛生法施行規則別表1に収載された食品添加物であり、既存添加物とは、1995年の食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律(平成7年法律第101号)附則第2条第4項で規定される既存添加物名簿に収載された食品添加物である。また、本発明において増粘安定剤とは、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものであり、参考文献(食品添加物表示の実務、日本食品添加物協会、平成19年5月30日発行)に記載の増粘安定剤がこれにあたり、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令(平成20年厚生労働省令第151号)によって食品添加物に追加された加工澱粉を含む。具体的には、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、アゾトバクタービネランジーガム、アマシードガム、アーモンドガム、アラビアガム、ウェランガム、カシアガム、ガティガム、カラヤガム、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、サバクヨモギシードガム、ジェランガム、スクレロガム、セスバニアガム、タラガム、トラガントガム、トリアカンソスガム、納豆菌ガム、マクロホモプシスガム、ラムザンガムなどのガム質、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、オリゴグルコサミン、カードラン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キチン、キトサン、グァーガム酵素分解物、グルコサミン、酵母細胞壁、デキストラン、デンプングリコール酸ナトリウム、微小繊維状セルロース、ファーセレラン、プルラン、ペクチン、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプンなどの加工澱粉が挙げられる。なお、本発明の必須成分である湿熱処理澱粉は、食品原料であるため、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものには該当しない。
【0012】
本発明のペースト状食品において、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量は、ペースト状食品の口溶けを良くする観点から、ペースト状食品に対して1%以下であり、好ましくは0.5%以下であるが、実質的に含有していないことがさらに好ましい。ここで実質的に含有していないとは、上記増粘安定剤がペースト状食品の物性に影響を与える程度の含有量以下しか含有していないことをいう。具体的には、増粘安定剤の含有量がペースト状食品に対して0.1%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましく、含有していないことが最も好ましい。
【0013】
本発明のペースト状食品の水分含量は、70〜95%であり、好ましくは75〜90%、さらに好ましくは80〜90%である。ペースト状食品の水分含量が前記範囲より少ないと、本発明の効果が顕著に現れ難いためであり、また、前記範囲より少ないと、ペースト状食品の栄養面が不十分になるためである。
【0014】
ペースト状食品の水分含量の測定方法は、減圧加熱乾燥法(「食品衛生検査指針」厚生労働省監修、社団法人 日本食品衛生協会、2005年3月31日発行)によることができる。減圧加熱乾燥法は、測定サンプルが分解しない温度において減圧下で加熱することにより減少した質量(水分含量)を測定する方法である。
【0015】
本発明のペースト状食品は、寒天、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有させ、pHを3〜5に調整することを特徴としており、これによって適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品が得られる。
【0016】
本発明で用いる寒天は、テングサ、オゴノリ、オバクサ、伊谷草等の紅藻類より熱水抽出された多糖類を精製・脱水し乾物化されたものであり、液状物に添加し加熱することにより液状となり、冷却により凝固してゲルとなる熱可逆性作用を有するもので、本発明においては、通常食用として供されるものであれば特に限定されるものではない。
【0017】
本発明のペースト状食品において、寒天の含有量は特に限定するものではないが、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を得られ易いことから、ペースト状食品に対して0.1%〜1%が好ましく、0.3〜0.8%がより好ましい。
【0018】
本発明で用いる湿熱処理澱粉は、「湿熱処理澱粉」として市販されているものであれば特に限定するものではないが、例えば、加熱しても糊化しない程度の水分を含む澱粉粒子を、密閉容器中で相対湿度100%の条件下で約100〜125℃に加熱して得る方法、あるいは第1段階で澱粉を容器中に入れ密閉・減圧し、第2段階で生蒸気を容器内に導入し、加湿加熱するシステムである減圧加圧加熱法等で製造されたものを用いればよい。
【0019】
本発明のペースト状食品において、湿熱処理澱粉の含有量は特に限定するものではないが、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を得られ易いことから、ペースト状食品に対して1〜8%が好ましく、2〜5%がより好ましい。
【0020】
本発明のペースト状食品は、上述した寒天、湿熱処理澱粉に加えて、果実のピューレを含有することを特徴とする。該ピューレは、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を得られ易いことから、ピューレ中の食物繊維含有量が0.8%以上、好ましくは1〜3%、より好ましくは1.2〜2%であるものを用いるとよい。
【0021】
食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレとしては、特に限定するものではないが、リンゴ、モモ、マンゴー、パインアップル、バナナ、アンズ、イチゴ、ウメ等のピューレを用いればよく、これらを2種以上混合して用いてもよい。また、寒天、湿熱処理澱粉と組み合わせて本発明の効果を奏し易い観点から、リンゴ、モモ、マンゴーのピューレがより好ましい。
【0022】
ピューレの食物繊維含有量は、五訂日本食品標準成分表に記載されたプロスキー法により定量したものを意味する。ここでプロスキー法とは、酵素重量法ともよばれ、食物繊維の定量法としては最も簡単で精度が高く、汎用性のある定量法であり、具体的には、試料をアミラーゼ、アミログルコシダーゼ、プロテアーゼで処理し、エタノールで沈殿させ、非分解部分の重量を食物繊維(水溶性・不溶性)とする。本発明において食物繊維含有量とは水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の総量をいう。
【0023】
本発明のペースト状食品において、食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレの含有量は特に限定するものではないが、ペースト状食品に対して10〜40%が好ましく、15〜30%がより好ましい。ピューレの含有量が前記範囲より少ないと、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を得られ難い傾向にあるためである。また、ピューレの含有量が前記範囲より多くても特定以上の効果を奏さず経済的でないためである。
【0024】
本発明のペースト状食品のpHは3〜5であり、好ましくは3.5〜4.5である。ペースト状食品のpHが前記範囲より低いと、酸味が強すぎ、ベビーフードとして好ましくないためである。また、pHが前記範囲より高いと、適度な粘度を有した口溶けの良いペースト状食品を得られ難いためである。
【0025】
本発明のペースト状食品には、前記pHに調整するため、pH調整材を含有させることが好ましく、pH調整材としては、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ブドウ、パインアップルなどの果実類の果汁、食酢、ヨーグルト等の酸性発酵食品等を用いればよい。
【0026】
本発明のペースト状食品には上述した指定添加物、既存添加物、寒天、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレ、pH調整材以外に、本発明の効果を損なわない範囲で当該食品に一般的に使用されている各種原料を適宜選択し配合させることができる。例えば、トマト、カボチャ、ホウレンソウ、ニンジン、キャベツ、ダイコン、ゴボウ、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモなどの野菜、食物繊維含有量が0.8%未満の果実のピューレ、卵、小麦粉、砂糖、水飴、ブドウ糖、マルトース、異性化糖などの糖類、マーガリン、ショートニングなどの動植物油脂類、牛乳、クリーム、発酵乳、脱脂乳などの乳製品、アーモンドやピーナッツなどのナッツ類、鶏肉、牛肉、豚肉、レバーなどの肉類、魚、貝、エビ、イカ、タコなどの魚介類、グルタミン酸ナトリウム、食塩、醤油、味噌などの各種調味料、保存料、乳化剤、フレーバー、着色料、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ナイアシンなどのビタミン類原料、無機鉄、ヘム鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、ヨウ素等のミネラル類、あるいはこれらミネラル類を高度に含有した酵母などが挙げられる。
【0027】
本発明のペースト状食品の製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、以下のように製造することができる。
まず、寒天、湿熱処理澱粉、食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含む原料を撹拌混合する。この際、野菜等、具材感を有する原料を配合する場合は、野菜等をニーダーに投入し加熱調理し、これにその他の原料を投入して混合した後、コミトロールでペースト化処理する。得られたペースト状物を80〜120℃で加熱処理し、容器に充填することで本発明のペースト状食品が得られる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明のペースト状食品について、実施例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0029】
[実施例1]
下記の配合割合に準じ、トマトピューレ、リンゴピューレ、砂糖、湿熱処理澱粉、濃縮パインアップル果汁、寒天、清水を撹拌混合し、ニーダーに投入し、90℃で5分間加熱処理した後、ビンに充填することで本発明のペースト状食品を得た。得られたペースト状食品は、水分が82%であり、pHが4.1であった。
【0030】
<配合>
トマトピューレ 20部
リンゴピューレ 20部
(食物繊維含量1.5%)
砂糖 10部
湿熱処理澱粉 5部
濃縮パインアップル果汁 2部
寒天 0.5部
清水 残余
――――――――――――――――――――
合計 100部
【0031】
[試験例1]
本発明のペースト状食品において、澱粉および果実の種類による、ペースト状食品の粘度、口溶けへの影響を調べた。具体的には、実施例1で配合した湿熱処理澱粉、リンゴピューレを表1に示す澱粉、果実のピューレ(比較例2においては果汁とアップルファイバー)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でペースト状食品を製した。次いで、ペースト状食品を喫食し、ペースト状食品の粘度と口溶けを下記の評価基準で評価した。なお、製したペースト状食品は全て、水分が80〜90%であり、pHが3.5〜4.5であった。
【0032】
粘度の基準
A :適度な粘度のペースト状である
B1:ややゲル化したペースト状である
B2:やや粘度の低いペースト状である
C1:ゲル化したゼリー状である
C2:粘度が低く流動性がある
【0033】
口溶けの基準
A :口溶けが非常に良い
B :口溶けは良いが少し粘りがある
C :口溶けが悪い
【0034】
【表1】

【0035】
表1より、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有したペースト状食品は、適度な粘度を有しており、口溶けの良いものであった。(実施例1〜4)。特に、リンゴ、モモ、マンゴーのピューレを用いた場合、より口溶けの良いペースト状食品が得られた(実施例1〜3)。
一方、湿熱処理澱粉、または食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有しないペースト状食品は適度な粘度が得られず、口溶けも良いものが得られなかった(比較例1〜3)。
【0036】
[試験例2]
本発明のペースト状食品において、寒天および果実のピューレの含有量による、ペースト状食品の粘度、口溶けへの影響を調べた。具体的には、実施例1のペースト状食品における寒天、湿熱処理澱粉および果実のピューレを表2に示す含有量に変更した以外は、実施例1と同様の方法でペースト状食品を製した。次いで、ペースト状食品を喫食し、ペースト状食品の粘度と口溶けを試験例1と同様の評価基準で評価した。なお、製したペースト状食品は全て、水分が80〜90%であり、pHが3.5〜4.5であった。
【0037】
【表2】

【0038】
表2より、寒天、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有し、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下であるペースト状食品は、適度な粘度を有しており、口溶けの良いものであった。(No.2〜11)。特に、寒天の含有量が0.1〜1%、湿熱処理澱粉の含有量が1〜8%、食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレの含有量が10〜40%であって、指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が0.1%以下であるペースト状食品は、より口溶けの良いペースト状食品が得られた(No.2〜4、6、7、9〜11)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指定添加物または既存添加物であって増粘安定剤として使用するものの含有量が1%以下あるいは含有しておらず、水分含量が70〜95%であるペースト状食品であって、寒天、湿熱処理澱粉、および食物繊維含有量が0.8%以上である果実のピューレを含有し、pHが3〜5であることを特徴とするペースト状食品。

【公開番号】特開2012−130293(P2012−130293A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285580(P2010−285580)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】