説明

ホイールローダ

【課題】ステアリング油圧装置の小型化が可能であり、消費エネルギを低減することが可能なホイールローダを提供する。
【解決手段】操舵角検出器55から送出される操舵角度の情報に基づいて、各電動モータMA〜MDそれぞれの回転数NA〜NDを算出し、その結果に基づいて各電動モータMA〜MDを駆動する。ハンドル54の操作中における外輪側の電動モータMAとMCの回転数NとNCの大小関係と内輪側の電動モータMBとMDの回転数NBとNDの大小関係とは、逆となっている。このため、前フレーム3と後フレーム9は、ハンドル54の操舵操作角対応した屈曲角θに屈曲する。このようにして、各電動モータMA〜MDにより車体1の換向を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホイールローダに関する。
【背景技術】
【0002】
前フレームと後フレームとが連結軸を回転軸として屈曲されるアーティキュレート式のホイールローダは、連結軸の前後に左右一対の前輪と、左右一対の後輪を備える。左右の前輪および左右の後輪は、それぞれ、デファレンシャル装置を介して車輪軸で連結されている。エンジンの駆動軸の回転がトルコン、トランスミッションを介してプロペラシャフトに伝達され、このプロペラシャフトの回転がデファレンシャル装置を介して前輪および後輪に伝達されて車両が走行する。
【0003】
また、各車輪軸に電動モータを取付け、一対の前輪のそれぞれ、および一対の後輪のそれぞれを各電動モータにより駆動するホイールローダも知られている。
上記のホイールローダでは、エンジンに発電機を連結し、エンジンの駆動軸の回転により発電機を駆動する。そして、発電機からの電力を各電動モータに供給して、前輪および後輪を駆動する。また、ホイールローダでは、旋回走行する際に、前フレームおよび後フレームを屈曲し、車体を換向するが、この車体の換向は、操舵操作に伴って伸縮するステアリング用油圧シリンダによってなされる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000―177411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行文献に記載されたホイールローダでは、車体の換向を、ステアリング用油圧シリンダによって行うものである(特許文献1の第24段落参照)。この方法では、車体の換向を行う際に、ステアリング用油圧シリンダに大きな駆動力が必要となり、油圧装置が大型化する。このため、ホイールローダが大型化すると共に、エネルギの消費量が大きくなり、また、これに伴って環境への悪影響も大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のホイールローダは、前フレームと後フレームとが連結部において操舵可能に連結された車体と、連結部を挟んで、前フレームに取り付けられた少なくとも一対の前輪および後フレームに取り付けられた少なくとも一対の後輪と、一対の前輪を駆動する一対の前輪用電動モータおよび一対の後輪を駆動する一対の後輪用電動モータと、操舵操作を行っている間は、前フレームと後フレームとが結合部を中心として相互に逆方向に回動するように、一対の前輪用電動モータと一対の後輪用電動モータを、内輪側同士における速度の大小関係と外輪側同士の速度の大小関係が逆で、かつ、操舵角度に対応する速度差で駆動して車体を屈曲する換向制御手段と、操舵操作が終了したと判断されると、一対の前輪用電動モータおよび一対の後輪用電動モータを、それぞれ、外輪側と内輪側とに、操舵角度に対応する内外輪の速度差が付くように駆動する旋回走行制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、一対の前輪と一対の後輪の内輪側同士の速度の大小関係と外輪側同士の速度の大小関係が逆となるように駆動して車体を換向するので、大きな油圧装置が不要となり、ホイールローダを小型化し、また、消費エネルギを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明に係るホイールローダの一実施形態としてのハイブリッドホイールの外観斜視図。
【図2】図1に図示されたハイブリッドホイールローダの上面図。
【図3】図2に図示されたハイブリッドホイールローダが屈曲された状態を示す側面図。
【図4】図1に図示されたハイブリッドホイールローダの側面図。
【図5】この発明に係るホイールローダのシステムブロック図。
【図6】この発明に係るホイールローダの電動モータとステアリング油圧シリンダの関係を示す模式図。
【図7】図6に図示されたホイールローダの換向動作を説明するための模式図。
【図8】図6に図示されたホイールローダの旋回動作を説明するための模式図。
【図9】この発明に係るホイールローダの旋回動作の処理フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るホイールローダを、ハイブリッドホイールローダを一実施形態として、図面を参照して詳細に説明する。
図1はハイブリッドホイールローダの外観斜視図であり、図2は、図1に図示されたハイブリッドホイールローダの上面図であり、図3は、図2に図示されたホイールローダが屈曲された状態の上面図であり、図4は図1に図示されたハイブリッドホイールローダの側面図である。但し、図2〜図4では、図1に図示された作業装置(バケット)は、図示を省略されている。
【0010】
図1〜図4に図示されたハイブリッドホイールローダ100は、以下に説明する如く、前部車体2と後部車体7とが、結合フレーム18により屈曲可能に連結されたアーティキュレート式の車体1を有する作業車両である。
前部車体2は、ハイブリッドホイールローダ100の前側に配置されており、略箱状に形成された前フレーム3と、この前フレーム3の下側に設けられた前車軸4と、この前車軸4の左、右両端に設けられた前輪5A、5Bと、前フレーム3の前側に俯仰動可能に取付けられた作業装置6とを備えている。
【0011】
ここで、前車軸4は、左、右の車軸管4A内に収容されて回転可能に支持されている。車軸管4Aは前フレーム3の下面に固定されている。これにより、前車軸4は、ロール軸Oを中心とするロール運動が不能な状態で前フレーム3に取付けられている。また、前車軸4と前フレーム3との間には、各種の緩衝用懸架装置等は設けられておらず、作業装置6に加わる大きな荷重を前フレーム3、前車軸4、前輪5A、5B等によって支持する構成となっている。
【0012】
作業装置6は、前フレーム3の左、右両側の上端側に設けられたブラケット部3Aに俯仰動可能に取付けられたアーム6Aと、このアーム6Aの先端部に回動可能に取付けられたバケット6Bとを備えている。アーム6Aは、アームシリンダ6Cにより回動動作され、バケット6Bはバケットシリンダ6Dにより回動動作される。作業装置6は、アームシリンダ6Cとバケットシリンダ6Dによる回動動作により、バケット6Bを上、下方向に俯仰動作させ、バケット6Bによって土砂等の運搬作業およびダンプトラックへの積荷作業等を行う。
【0013】
後部車体7は前部車体2の後方に、左右方向に屈曲可能な状態で前部車体2に連結されている。この後部車体7は、駆動源8を収容する後フレーム9と、この後フレーム9の下側に設けられた後車軸10と、後車軸10の左、右両端に設けられた後輪5C、5Dと、後フレーム9上に設けられた運転室12とを備えている。
後フレーム9は、エンジン、電動/発電機および油圧ポンプ等の駆動源8が収容された収容枠部9Aと、この収容枠部9Aの前側に設けられた結合部9Bとによって構成されている。電動/発電機および油圧ポンプについては後述する。
【0014】
収容枠部9Aの下側には、車体1の左右方向に沿って延びる一対の支持ブラケット13が設けられている。一対の支持ブラケット13は、後フレーム9の長手方向における中間部で離間して配置されている。車体1の幅方向の中心軸は、前フレーム3と後フレーム9の全長に亘り挿通するロール軸Oとされており、各支持ブラケット13には、ロール軸Oに沿って貫通した挿通孔(図示せず)が設けられている。上記した一対の支持ブラケット13の間には後車軸10の支持部14が配置されている。
【0015】
支持部14は、その左、右両側に後車軸10を収容した車軸管10Aが固着されると共に、前、後両側にはロール軸Oに沿って延びる支持軸14Aが突出して設けられている。支持部14の支持軸14Aは、支持ブラケット13の挿通孔(図示せず)内に挿通されている。これにより、後車軸10は、後フレーム9に対してロール軸Oの周りに回動可能に軸支されている。また、後車軸10は、前車軸4と共にプロペラシャフト15と通じて駆動源8に連結されている。
【0016】
一方、結合部9Bには、ロール軸Oに沿って延びる円筒状の結合筒部16が設けられると共に、該結合筒部16内には結合軸20と、この結合軸20を軸支する軸受(図示せず)が設けられている。また、結合部9B上には、作業者が乗り込む運転室12が配置されている。
【0017】
前フレーム3と後フレーム9との間に設けられた結合フレーム18には、左、右方向の中央に位置して上、下両端側に鉛直方向(図4の屈曲軸Z方向)に延びる連結軸(ピン)19が設けられると共に、ロール軸Oに沿って後フレーム9側に向けて延びる円筒状の結合軸20が設けられている。
【0018】
結合フレーム18は、前フレーム3の上板3B、下板3C(図4参照)に挟まれた状態で連結軸19を介して前フレーム3に連結されると共に、結合軸20が結合部9Bの結合筒部16内に挿通されることによって後フレーム9に連結されている。
これにより、結合フレーム18は、屈曲軸Zを中心にして前フレーム3と後フレーム9とを、図3に図示されるように、左右方向に屈曲可能に連結している。また、結合フレーム18の結合軸20は、軸受(図示せず)によってロール軸Oを中心に回転可能に軸支されている。このように、結合フレーム18は、前フレーム3と後フレーム9とを相対ロール運動可能に連結している。
【0019】
結合フレーム18と前フレーム3とは、ロール軸Oを対称軸とする一対のステアリング用油圧シリンダ22Lおよび22Rにより連結されている。結合フレーム18の前側には、一対の結合ブラケット21が設けられており、この結合ブラケット21に、各ステアリング用油圧シリンダ22L、22Rの一端側が取付けられている。また、各ステアリング用油圧シリンダ22L、22Rの他端側は、前フレーム3の下板3C(図4参照)に取付けられている。ステアリング用油圧シリンダ22Lおよび22Rは、駆動源8の油圧ポンプ(図示せず)から圧油が給、排されることによって伸縮し、前フレーム3を後フレーム9に対して左右方向に屈曲させる構成となっている。
【0020】
また、ハイブリッドホイールローダ100において、23は後フレーム9と後車軸10との間に設けられたロール振動制限用アクチュエータとしての油圧シリンダである。ロール振動制限用油圧シリンダ23は、左右の後輪5C、5D近傍にそれぞれ位置して、上下方向に延びた状態で配置されている。ロール振動制限用油圧シリンダ23は、そのチューブのボトム側が後フレーム9に取付けられ、ロッドの先端側が後車軸10を収容する車軸管10Aに取付けられている。ロール振動制限用油圧シリンダ23は、駆動源8内の油圧ポンプ(図示せず)に接続されている。左右のロール振動制限用油圧シリンダ23は、ボトム側とロッド側との差圧に応じて、後フレーム9と後車軸10との間にロール軸O周りの推力を加える。これにより、油圧シリンダ23は、後フレーム9のロール振動(ロール軸O周りの振動)を制限する構成となっている。
【0021】
この実施形態におけるハイブリッドホイールローダでは、結合部9Bおよび結合フレーム18により、前フレーム3と後フレーム9とをロール軸Oの周りに相対ロール運動可能に連結している。このため、作業装置6による掘削作業等によって前フレーム3がロール軸O周りに振動するときでも、結合フレーム18等を用いて前フレーム3に対して後フレーム9を相対的にロール運動させることができ、前フレーム3から後フレーム9に振動が伝達するのを防止することが可能となっている。また、後フレーム9と後車軸10との間に設けたロール振動制限用油圧シリンダ23を用いて後フレーム9と後車軸10との間にロール軸O周りの推力を与えて、後フレーム9のロール振動を制限し、以って、後フレーム9に設けられた運転室12の乗り心地を向上させることができる。
【0022】
前車軸4の両端部と前輪5Aおよび5Bとの間には、それぞれ、電動モータ(前輪電動モータ)MAおよび電動モータ(前輪電動モータ)MBが装着され、後車軸10の両端部と後輪5C、5Dとの間には、それぞれ、電動モータ(後輪電動モータ)MCおよび電動モータ(後輪電動モータ)MDが装着されている。各電動モータMA〜MDと前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dとの間には、それぞれ、ブレーキ付き減速機31A〜31Dが介装されている。プロペラシャフト15と前車軸4との間にはデファレンシャル装置32Fが介装され、プロペラシャフト15と後車軸10との間にはデファレンシャル装置32Bが介装されている。
【0023】
このハイブリッドホイールローダ100では、駆動源8内に収容されたエンジンの駆動軸の回転に伴い、電動/発電機が発電を行い、発電された電力が直接または蓄電装置に充電された電力と共に各電動モータMA〜MDに供給される。そして、各電動モータMA〜MDにより前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dに走行駆動力が与えられる。また、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dが、それぞれ、所定の回転数で回転されることにより、前部車体2と後部車体7が連結軸19を中心軸として相対的に連結角度を変化するように回動し、これにより車体1が屈曲する、すなわち、換向する。この動作の詳細は後述するが、本発明に係るホイールローダにおいては、前部車体2と後部車体7とが屈曲する際、ステアリング用油圧シリンダ22Lおよび22Rは、前部車体2および後部車体7の上記動作による屈曲に追随して伸縮する。この場合、ステアリング用油圧シリンダ22の伸縮が、電動モータMA〜MDに駆動される前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数の差によって屈曲される車体1の動作に先行することはない。
【0024】
図5は、この発明に係るホイールローダのシステムブロック図である。
先ず、電気回路について説明する。上述した如く、前フレーム3と後フレーム9は、連結軸19を中心として回動可能に連結されている。前フレーム3には、一対の電動モータMAおよびMBが前車軸4を介して取付けられている。後フレーム9には、一対の電動モータMCおよびMDが後車軸10を介して取付けられている。
各電動モータMA〜MDは、電源制御部51からの制御信号によって回転駆動される。
【0025】
上述した如く、駆動源8内には、エンジン8A、電動/発電機8Bが収容されている。また、図示はしないが、駆動源8には、後述するステアリング用油圧シリンダ22Lおよび22Rに圧油を給、排するステアリング油圧用ポンプ(図示せず)が収容されている。電動/発電機8Bは、エンジン8Aの駆動軸が回転することにより発電する。
【0026】
ハイブリッドホイールローダ100は、蓄電装置52を備えている。電源制御部51は、エンジンブレーキが働いて車速が減速した際、各電動モータMA〜MDに蓄積された電気エネルギを回生して蓄電装置52に充電されるように制御する。また、電動/発電機8Bが発電した電気エネルギを蓄電装置52に充電されるように制御する。電源制御部51は、インバータを含んでおり、電動モータMA〜MDまたは電動/発電機8Bから出力される電流が交流である場合には、直流に変換して蓄電装置52に充電する。また、蓄電装置52から取り出される直流電流を交流電流に変換して、電動/発電機8Bを電動機として動作する。電動/発電機8Bを電動機として動作することにより、エンジン8Aによりアームシリンダ6C、バケットシリンダ6Dまたはロール振動制限用油圧シリンダ23に圧油を給、排する油圧ポンプを駆動する際、エンジン8Aをアシストすることができる。
【0027】
エンジン8Aを駆動すると、電動/発電機8Bが発電機として動作し、この電動/発電機8Bにより発電された電力が各電動モータMA〜MDに供給され、それぞれ、電源制御部51からの制御信号によって制御されて回転する。各電動モータMA〜MDを制御して回転することにより、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dを、それぞれ、適切な回転数で回転し、四輪駆動で直進および旋回走行を行う。運転室12内にはステアリングハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル等の操作レバーが備えられており、これらの操作レバーを操作することで、各電動モータMA〜MDにの電流を制御し、正転、逆転切換および車体の換向等が調整される。また、ブレーキペダル操作によりブレーキ付き減速機31A〜31Dのブレーキを駆動して車体1を停止する。
【0028】
制御装置50は、CPU、ROM、RAMおよび演算処理装置を含んで構成されている。操舵角検出器55から送出されるハンドル54の操舵角度の情報は制御装置50に入力される。制御装置50は、操舵角検出器55から出力される操舵角度の情報に基づいて、各電動モータMA〜MDを回転する回転数NA〜NDを演算し、その演算結果に基づいて各電動モータMA〜MDを回転させる。また、制御装置50は、操舵角検出器55から送出される操舵角度の情報に基づいて、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rの伸縮量を演算し、その演算結果に基づいて、電動モータ制御弁駆動用アクチュエータ57を介して、方向制御弁62の位置の切換および方向制御弁62から流出される圧油の流量を制御する。
【0029】
制御装置50では、操舵角検出器55から送出される操舵角度の情報に基づいて、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数の比を演算し、その回転数の比に、そのときの回転数(速度)を乗じて、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dのそれぞれに対応する
目標回転数NA〜NDを算出する。そして、各電動モータMA〜M Dのインバータに各目標回転数NA〜NDに応じた制御信号を出力し、各電動モータMA〜M Dをそれぞれの回転数NA〜NDで回転させる。これにより、前フレーム3と後フレーム9とは操舵操作に対応する屈曲角に屈曲される。
【0030】
また、制御装置50では、ハンドル54の操舵角度に対応した内外輪回転差、すなわち、前輪5Aと5Bまたは後輪5Cと5Dの回転数の比を演算し、その回転数の比に、そのときの回転数(速度)を乗じて、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dそれぞれに対応する回転数NA〜NDを算出する。そして、各電動モータMA〜M Dのドライバ(図示せず)に各回転数NA〜NDの情報を出力する。なお、以下の説明では、前輪(動輪)5A、5Bおよび後輪(動輪)5C、5Dの回転数と、各動輪に対応する各電動モータMA〜M Dの回転数は同じとする。これにより、各ドライバによって、各電動モータMA〜M Dが、それぞれの回転数NA〜NDで回転され、前輪5Aと5B、および後輪5Cと5Dは、それぞれ、操舵角度に応じた内外輪回転差で旋回走行する。
【0031】
ハイブリッドホイールローダ100は、前輪5A、5Bの回転数NA、NBおよび後輪5C、5Dの回転数NC、NDを検出する回転数検出器56A〜56Dを備えている。各回転数検出器56A〜56Dからの出力信号は制御装置50に入力され、制御装置50において、操舵操作に応じて、予め、演算された回転数に達したか否かが判断される。
【0032】
次に、油圧回路について説明する。なお、図5では、アームシリンダ6C、バケットシリンダ6D、ロール振動制限用油圧シリンダ23およびこれらのシリンダに圧油を吐出する油圧ポンプ等は図示を省略されている。
ステアリング用油圧シリンダ22Lおよび22Rには、ステアリング油圧用ポンプ61から吐出された圧油が方向制御弁62を介して給油される。また、ステアリング用油圧シリンダ22Lおよび22Rから排出された排油は、アンチボイド付リリーフバルブ(アンチボイドバルブ)63、64を介してタンク66に戻される。
【0033】
油路67は、分岐点67aにおいて分岐して、ステアリング油圧シリンダ22Lのボトム室とステアリング油圧シリンダ22Rのロッド室に接続されている。油路68は、分岐点68aにおいて分岐して、ステアリング油圧シリンダ22Rのボトム室とステアリング油圧シリンダ22Lのロッド室に接続されている。従って、方向制御弁62を介してステアリング油圧用ポンプ61からの圧油が油路71に吐出されると、油路67を介してステアリング油圧シリンダ22Lのボトム室に圧油が流入し、これと共にステアリング油圧シリンダ22Lのロッド室から排油が油路68およびアンチボイド付リリーフバルブ63からタンク66に排出され、ステアリング油圧シリンダ22Lが伸長する。また、ステアリング油圧用ポンプ61からの圧油が油路71に吐出されると、ステアリング油圧シリンダ22Rのロッド室に圧油が流入し、これと共にステアリング油圧シリンダ22Rのボトム室から排油が油路67およびアンチボイド付リリーフバルブ64からタンク66に排出され、ステアリング油圧シリンダ22Rが縮退する。
【0034】
一方、方向制御弁62を介してステアリング油圧用ポンプ61からの圧油が油路72に吐出されると、油路68を介してステアリング油圧シリンダ22Rのボトム室に流入し、これと共にステアリング油圧シリンダ22Rのロッド室から排油が油路67およびアンチボイド付リリーフバルブ64からタンク66に排出され、ステアリング油圧シリンダ22Rが伸長する。また、ステアリング油圧用ポンプ61からの圧油が油路72に吐出されると、ステアリング油圧シリンダ22Lのロッド室に圧油が流入し、これと共にステアリング油圧シリンダ22Lのボトム室から排油が油路68およびアンチボイド付リリーフバルブ68からタンク66に排出され、ステアリング油圧シリンダ22Lが縮退する。
【0035】
ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rが、前フレーム3および後フレーム9に対して連結軸19を対称軸として対称に取付けられ、また、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rが同一の形状・サイズである場合には、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rが伸縮する量と速度は同一である。
【0036】
制御弁駆動用アクチュエータ57は、上述した如く、制御装置50からの制御信号により、方向制御弁62を、ステアリング油圧ポンプ61と油路71が接続される位置とステアリング油圧ポンプ61と油路72が接続される位置とに切り換える。また、制御弁駆動用アクチュエータ57は、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rのボトム室およびロッド室に流入出される圧油の量、すなわち、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを伸縮する速度をステアリングハンドルの操作速度に応じて調整する。
【0037】
この場合、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを伸縮する速度は、前フレーム3と後フレーム9が屈曲する際、電動モータMA〜MDに駆動される前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数の差によって屈曲される車体1の屈曲の速度に先行しないようにされている。つまり、前フレーム3と後フレーム9との屈曲、換言すれば、換向は、電動モータMA〜MDに駆動される前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数の差によってなされる。ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rの伸縮量は、電動モータMA〜MDの回転数の差により前フレーム3と後フレーム9が屈曲される駆動力により、各シリンダのロッドが引張りまたは圧縮されて、操舵操作の角度に対応した伸縮量に達する。
【0038】
このように、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rの伸縮は、前フレーム3と後フレーム9の屈曲に追随するものであり、前フレーム3と後フレーム9を屈曲させるように行われるものではない。従って、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rは、大きな駆動力が必要でなく、これを駆動する油圧装置は小さいもので済む。
【0039】
車体1の屈曲を電動モータMA〜MDにより行うにも拘わらず、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを装備する理由は、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dに外力が作用したときの信頼性の確保のためである。つまり、道路状況や運転の際の操舵により、前輪5A、5Bあるいは後輪5C、5Dに外力が作用すると、電動モータMA〜MDだけでは、外力に抗しきれず前輪5A、5Bあるいは後輪5C、5Dの操舵角度が変化してしまい、路面との間で滑り等が起こる。ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rは、この滑り等を防止する。
【0040】
上述した如く、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rは、前フレーム3と後フレーム9の屈曲に追随する。このことは、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rの各ロッドまたは各チューブは、前フレーム3と後フレーム9が屈曲する際に、伸張する方向に引っ張られることを意味する。つまり、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rへの圧油の流入が間に合わず、ロッド室またはボトム室が負圧となる。負圧になるのは、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rにおいて、それぞれ、拡張方向に対応する室側である。
【0041】
アンチボイド付リリーフバルブ63および64は、このような状態に対応するために備えられている。ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rにおけるボトム室またはロッド室のうち、負圧となった側の室に、チェックバルブを介してタンク66に連通する油路73から戻り油を供給して、直ちに、充足させる作用を果たすものである。
【0042】
図6〜図8は、本発明に係るホイールローダの電動モータとステアリング油圧シリンダの関係を示す模式図であり、図6は、換向前の状態を示し、図7は換向時の過渡状態を示し、図8は換向後の旋回走行の状態を示す。
図6は、ハンドル54を操作する前の状態を示す模式的な平面図である。この状態では、前フレーム3と後フレーム9の中心軸は一致し、連結軸19の中心軸を通る1つの直線上に位置する。この状態では、前フレーム3に取付けられた電動モータMA、MBおよび後フレーム9に取付けられた電動モータMC、MDは、それぞれ、対応する各前輪5A、5B、後輪5C、5Dを同一の回転数NA〜NDで回転している。また、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rのロッドは、同一の長さに引き出されている。
【0043】
図7は、図6の状態でハンドル54を操作して、例えば、運転室12側から見て、左方向に回転した場合の過渡状態を示す。制御装置50では、ハンドル54の操作に伴い、操舵角検出器55から送出される操舵角度信号に基づいて、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数の比を演算する。また、その結果得られた回転数の比に、そのときの回転数を乗じて、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数を算出する。そして、各電動モータMA〜M Dのインバータを介して、各電動モータMA〜M Dをそれぞれの回転数NA〜NDで回転させる。
【0044】
前フレーム3と後フレーム9とを連結軸19で回動して車体1を換向する場合、前輪5A、5Bの内輪と外輪とは異なる速度とし、後輪5C、5Dの内輪と外輪とは異なる速度とする。但し、前輪5A、5Bの内輪と外輪との速度の大小の関係と、後輪5C、5Dの内輪と外輪の速度の大小の関係は逆となる。
【0045】
例えば、図7において、後フレーム9からみて前フレーム3を反時計方向へ回動(左旋回)する場合、前フレーム3側においては、外輪となる電動モータMA(前輪5Aを駆動)の回転数NAは内輪となる電動モータMB(前輪5Bを駆動)の回転数NBより大きい。一方、後フレーム9側においては、外輪となる電動モータMC(後輪5Cを駆動)の回転数NCは内輪となる電動モータMD(後輪5Dを駆動)の回転数NDより小さい。
【0046】
外輪となる電動モータMA(前輪5Aを駆動)の回転数NAが内輪となる電動モータMB(前輪5Bを駆動)の回転数NBより大きいことにより、前フレーム3は、連結軸19を中心に反時計方向に回動する。また、外輪となる電動モータMC(後輪5Cを駆動)の回転数NCが内輪となる電動モータMD(後輪5Dを駆動)の回転数NDより小さいことにより、後フレーム9は、連結軸19を中心に時計方向に回動する。この結果、前フレーム3と後フレームとが、連結軸19を中心に合計して屈曲角θだけ回動する。そして、前フレーム3の中心軸と後フレーム9の中心軸とは、回動前の180度よりθだけ小さい角度となる。
【0047】
連結軸19の中心と前車軸4の中心軸との距離LFと連結軸19の中心と後車軸10の中心軸との距離LRとが等しい場合(図6参照)、電動モータMAの回転数NAと電動モータMDの回転数NDは等しく、電動モータMBの回転数NBと電動モータMCの回転数NCは等しい。つまり、電動モータMAの回転数NAに対する電動モータMBの回転数NBの比と、電動モータMDの回転数NDに対する電動モータMCの回転数NCの比は等しい。連結軸19の中心と前車軸4の中心軸との距離LFと連結軸19の中心と後車軸10の中心軸との距離LRとが等しくない場合には、電動モータMAの回転数NAと電動モータMDの回転数NDおよび電動モータMBの回転数NBと電動モータMCの回転数NCとは、それぞれ、距離LFと距離LRの長さの比に対応して変化する。しかし、この場合でも、前輪5A、5Bを駆動する電動モータMA、MBの回転数NA、NBの大小関係と、後輪5C、5Dを駆動する電動モータMC、MDの回転数NC、NDの大小関係は逆である。
【0048】
このように、前輪側においては、外輪が内輪より大きい速度で走行し、後輪側においては、内輪が外輪より大きい速度で走行することにより、図7に図示されるように、後フレーム9側から見て前フレーム3側が相対的に反時計回り方向に回転する。これにより、車体1が屈曲角θに屈曲される。
車体1が屈曲されるに伴い、内輪側となるステアリング油圧シリンダ22Lは、前フレーム3と後フレーム9との距離が小さくなるため縮退する。また、外輪側となるステアリング油圧シリンダ22Rは、前フレーム3と後フレーム9との距離が大きくなるため伸張する。
【0049】
図7に図示された車体1の換向が終了した後、図8に図示されるように、電動モータMA、MCと、電動モータMB、MDとは、それぞれ、外側の半径Routの軌道上および内側の半径Rinの軌道上を旋回走行するように、内外輪回転差が付く回転数で回転される。
連結軸19の中心と前車軸4の中心軸との距離LFと連結軸19の中心と後車軸9の中心軸との距離LRとが等しい場合、前輪5Aの回転数NAと後輪5Cの回転数NCとは同一であり、後輪5Cは前輪5Aと同一半径Rout上を旋回走行する。前輪5Bの回転数NBと後輪5Dの回転数NDとは同一であり、後輪5Dは前輪5Bと同一半径Rin上を旋回走行する。上述したように、連結軸19の中心と前車軸4の中心軸との距離LFと連結軸19の中心と後車軸9の中心軸との距離LRとが異なる場合は、距離LFと距離LRの長さの比に対応して、前輪5A、5Bの回転半径と後輪5C、5Dの回転半径とは異なるものとなり、後輪5C、5Dは前輪5A、5Bの回転半径の外側または内側を旋回走行する。
次に、本発明に係るホイールローダ100の動作について説明する。
【0050】
図9は、本発明に係るホイールローダ100の旋回走行に関する処理フローの一実施形態を示す。この処理フローは制御装置50内のCPUの制御プログラムを実行して行われる。
旋回動作の処理フローは、ステップS1に示すように、ホイールローダ100が、電動モータMC〜MDの各回転数NA〜NDが同一で走行し、エンジン8Aの駆動軸が回転してステアリング油圧用ポンプ61が駆動された状態でスタートする。この場合、車体1の屈曲角度θはゼロであるものとして説明する。
【0051】
ステップS2において、ハンドル54の操舵操作がなされたか否かが判断される。この判断は制御装置50において、操舵角検出器55から操舵角度信号が送出されたか否かに基づいて行われる。ハンドル54が操作され、操舵信号が検出されると、ステップS3において、ハンドル54の操舵操作が継続中であるか否かが判断される。
【0052】
ステップS3は、所定の時間内に操舵角検出器55から操舵角度の情報が継続して入力されるか否かを判断する処理である。ステップS3において操舵角検出器55から操舵角度の情報が所定の時間内に入力されていると判断されれば、ハンドル54の操作中とみなしてステップS4の処理を行う。ステップS3において操舵角検出器55から操舵角度の情報が所定の時間内に入力されない場合は、操舵操作が終了或いは中止とみなして、ステップS7の処理を行う。
【0053】
操舵角検出器55から操舵角度の情報が所定の時間内に送出されている場合は、ステップS4において、前フレーム3と後フレーム9とがハンドル54の操舵角に対応する屈曲角(換向角)θとなる各電動モータMA〜MDの回転数NA〜NDを、制御装置50において演算する。上述した如く、各電動モータMA〜MDの回転数NA〜NDは、操舵角に対応する屈曲角θとなる各電動モータMA〜MDの回転数の比を演算し、この回転数の比にそのときの回転数を乗じて算出される。そして、ステップS5において、インバータへ制御信号を送出して各電動モータMA〜MDを、それぞれ、算出された回転数NA〜NDで回転させる。
【0054】
また、ステップS3において操舵角検出器55から操舵角度の情報が所定の時間内に入力されていると判断されれば、ステップS4に併行して、ステップS11において、ハンドル54の操舵角に対応するステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rの伸縮量を演算する。そして、ステップS12において、制御弁駆動用アクチュエータ57に演算結果に対応する制御信号を送出し、方向制御弁62をハンドル54の回転方向に対応する位置に切り換えると共に、方向制御弁62から油路71または72に流出される圧油の流量を調整する。
【0055】
上述した如く、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを伸縮する速度は、電動モータMA〜MDに駆動される前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数の差によって屈曲される車体1の屈曲の速度に先行しない。換言すれば、車体1の屈曲は、電動モータMA〜MDに駆動される前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの回転数の差によってなされる動作が先行する。つまり、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rの伸縮は、前フレーム3と後フレーム9の屈曲に追随する速度でなされる。ステップS11おける制御装置50の演算は、このような条件に適合するように行われる。
【0056】
なお、図9では、ステップS4とステップS11とを併行に処理するように示されているが、これは説明の都合上であって、実際には、ステップS4とステップS11とはシリアルに処理される。その場合、どちらのステップが先行しても差し支えない。
【0057】
ステップS5およびステップS12の処理に引き続いて、ステップS6において、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dが、それぞれ、演算によって算出された回転数NA〜NDに達したか否かが判断される。すなわち、制御装置50において、回転数検出器56A〜56Dから送出される前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの実際の回転数と、演算によって算出された回転数NA〜NDとが対比される。輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの実際の回転数が、演算によって算出された回転数NA〜NDに達していない場合には、ステップS3に戻り、引き続き、各電動モータMA〜MDを駆動する。前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dが、それぞれ、演算によって算出された回転数NA〜NDに達したと判断された場合は、ステップS7の処理を行う。
【0058】
ステップS7は、前フレーム3と後フレーム9との屈曲角θが、図7に図示されるように、ハンドル54の操舵操作角度に対応する屈曲角θに達し、図8に図示されるように、その屈曲角θに対応した半径の軌道上を旋回する走行に移行する状態である。従って、ステップS7においては、制御装置50において、ハンドル54の操舵角度に対応する内外輪回転差が付く各電動モータMA〜MDの回転数NA〜NDの比を演算し、その演算結果にそのときの回転数を乗じて各電動モータMA〜MDの回転数NA〜NDを算出する。そして、ステップS8において、算出されたNA〜NDで各電動モータMA〜MDを回転させる。
【0059】
この後は、ステップS9において、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dが、それぞれ、回転数NA〜NDに達したか否かが判断される。この場合においても、ステップS6における処理と同様に、制御装置50において、回転数検出器56A〜56Dから送出される前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dの実際の回転数と、演算によって算出された回転数NA〜NDとが対比される。前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dが、それぞれ、回転数NA〜NDに達していない場合には、ステップS3に戻り、引き続き、各電動モータMA〜MDを駆動する。前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dが、それぞれ、回転数NA〜NDに達したと判断された場合は、ステップS2に戻る。
【0060】
ステップS9において、前輪5A、5Bおよび後輪5C、5Dが、それぞれ、回転数NA〜NDに達したと判断された状態は、図8に図示されるように、ホイールローダ100がハンドル54の操作に対応した半径の軌道上を旋回走行している状態である。ステップS2〜ステップS9が繰り返されることにより、ホイールローダ100は、任意に方向を変えながら走行をすることができる。
【0061】
本発明の実施形態として示すハイブリッドホイールローダ100によれば、以下に示す効果を奏する。
(1)車体1の換向は、前輪5A、5B、後輪5C、5Dの各動輪に対応して装着した走行用電動モータMA〜MDの回転数NA〜NDを制御して行われる。このため、車体の換向を油圧シリンダで行う場合に必要とされる大きな油圧装置は不要となりホイールローダのサイズを小型化することができる。また、消費電力が小さくなり、環境に対しても望ましいものとなる。
(2)上記(1)に記載した通り、車体1の換向は、走行用電動モータMA〜MDの回転数NA〜NDを制御して行われるため、極めて高速に遂行される。従来の油圧駆動のみによる換向では油圧操作弁のスプールの応答遅れが蓄積されることにより、ハンドルに設けられた回転角度の目安とするためのノブの位置にズレ(ノブズレ)が生じ、ハンドル操作に支障が生じることがあるが、本発明の実施形態では、このようなノブズレを防止することが可能となる。
(3)加えて、車体の換向を行う際の換向動作の速度は、走行速度に関連付けてプログラミングにより調整をすることが可能となる。このため、高速走行時においても、緩やかに換向するように速度指令値を抑えた制御とすることができ、ホイールローダの横転を防ぐようにすることが容易となる。
【0062】
(4)電動モータMA〜MDの回転数制御による換向操作とは別に前フレーム3および後フレーム9の間に、換向のサポートとしてステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを設けた。このため、走行中に前輪5A、5B、後輪5C、5Dに外力が作用しても、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rによって車体1の滑り等を防止または緩和することができる。
(5)上記(4)に記載した如く、本発明のホイールローダにおける実施形態では、換向用としてのステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを備えている。このため、万が一、走行用電動モータMA〜MDの制御に異常が生じたとしても、車体1の換向は完遂される。よって、従来技術では得ることができない、高い信頼性と安全性を得ることができる。
【0063】
(6)ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rのボトム室およびロッド室に対してステアリング油圧ポンプ61からの圧油を給、排する油路71、72とタンク66との間にアンチボイド付リリーフバルブ63、64を介装した。このため、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rの伸縮が前フレーム3および後フレーム9の屈曲に追随する構造であっても、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rが負圧になった場合には、直ちに、シリンダのチューブ内に戻り油を充足することが可能となる。
【0064】
本発明に係るホイールローダの一実施形態として示したハイブリッドホイールローダは以下のように変形しまたは適用を図ることができる。
(1)上記実施形態では、信頼性を確保するために、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを備えたホイールローダとした。しかし、必ずしも、ステアリング油圧シリンダ22Lおよび22Rを備える必要はない。
(2)作業装置をバケットとしたが、除雪装置等、他の作業装置を装備することができる。
(3)ホイールローダをハイブリッド式で説明したが、全電動式とすることも可能である。
(4)前輪および後輪をそれぞれ左右一対としたが、いずれか、または両方を複数対とすることも可能であり、車体が屈曲するホイールローダのすべてに適用することができる。
(5)車体1を換向する際の屈曲角θの制御を、前輪5A、5Bと後輪5C、5Dの回転数に基づいて行う方法に代えて、前フレーム3と後フレーム9の屈曲角θを検出する検出器を装着し、屈曲角θの検出信号に基づいて行うようにしてもよい。
【0065】
その他、本発明に係るホイールローダは、発明の趣旨の範囲内において、種々、変形して構成することが可能であり、要は、前フレームと後フレームとが連結部において操舵可能に連結された車体と、連結部を挟んで、前フレームに取り付けられた少なくとも一対の前輪および後フレームに取り付けられた少なくとも一対の後輪と、一対の前輪を駆動する一対の前輪用電動モータおよび一対の後輪を駆動する一対の後輪用電動モータと、操操舵操作を行っている間は、前記前フレームと前記後フレームとが前記結合部を中心として相互に逆方向に回動するように、一対の前輪用電動モータと一対の後輪用電動モータを、内輪側同士における速度の大小関係と外輪側同士の速度の大小関係が逆で、かつ、操舵角度に対応する速度差で駆動して車体を屈曲する換向制御手段と、操舵操作が終了したと判断されると、前記一対の前輪用電動モータおよび前記一対の後輪用電動モータを、それぞれ、外輪側と内輪側とに、操舵角度に対応する内外輪の速度差が付くように駆動する旋回走行制御手段と、を備えるものであればよい。
【符号の説明】
【0066】
1 車体
2 前部車体
3 前フレーム
4 前車軸
5A、5B、5C、5D 前輪
7 後部車体
8 駆動源
8A エンジン
8B 電動/発電機
9 後フレーム
10 後車軸
15 プロペラシャフト
19 連結軸
22L、22R ステアリング油圧シリンダ
32B、32F デファレンシャル装置
50 制御装置
51 電源制御部
54 ハンドル
55 操舵角検出器
56A、56B、56C、56D 回転数検出器
63、64 アンチボイド付リリーフバルブ(アンチボイドバルブ)
A、MB、MC、MD 電動モータ
A、NB、NC、ND 電動モータ(前輪、後輪)の回転数


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前フレームと後フレームとが連結部において操舵可能に連結された車体と、
前記連結部を挟んで、前記前フレームに取り付けられた少なくとも一対の前輪および前記後フレームに取り付けられた少なくとも一対の後輪と、
前記一対の前輪を駆動する一対の前輪用電動モータおよび前記一対の後輪を駆動する一対の後輪用電動モータと、
操舵操作を行っている間は、前記前フレームと前記後フレームとが前記結合部を中心として相互に逆方向に回動するように、前記一対の前輪用電動モータと前記一対の後輪用電動モータを、内輪側同士における速度の大小関係と外輪側同士の速度の大小関係が逆で、かつ、操舵角度に対応する速度差で駆動して前記車体を屈曲する換向制御手段と、
操舵操作が終了したと判断されると、前記一対の前輪用電動モータおよび前記一対の後輪用電動モータを、それぞれ、外輪側と内輪側とに、操舵角度に対応する内外輪の速度差が付くように駆動する旋回走行制御手段と、
を備えることを特徴とするホイールローダ。
【請求項2】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、さらに、それぞれ、前記前フレームと前記後フレームとに連結され、操舵操作に連動する伸縮動作により前記車体を屈曲する一対のステアリング油圧シリンダを有するホイールローダ。
【請求項3】
請求項2に記載のホイールローダにおいて、前記一対のステアリング油圧シリンダは、前記換向制御手段により駆動される前記電動モータの速度差によって屈曲される前記車体の換向動作に追随して伸縮動作することを特徴とするホイールローダ。
【請求項4】
請求項3に記載のホイールローダにおいて、さらに、前記一対のステアリング油圧シリンダの各々のボトム室およびロッド室に接続されたアンチボイドバルブを有することを特徴とするホイールローダ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のホイールローダにおいて、前記連結部は、前記一対の前輪が取り付けられた前車軸と前記一対の後輪が取り付けられた後車軸との距離が等しい中間位置に位置していることを特徴とするホイールローダ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−245988(P2011−245988A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121390(P2010−121390)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)