説明

ホタル石型セリア系固体電解質

【目的】 従来のものに比べイオン伝導度及びCe4+の耐還元性が著しく向上したホタル石型セリア系固体電解質を提供する。
【構成】 下記一般式(1)で表される欠陥ホタル石型固体電解質。
{(M1-aaxCe1-x}O2-y (1)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、a、x、yはそれぞれ0<a<0.6、0.2<x<0.5、0<y<0.55を表す)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多量の酸素欠陥を有し、強還元雰囲気下においても高い酸素イオン伝導性を有するホタル石型セリア系固体電解質材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】CeO2はホタル石型化合物に属し、4価のCeサイトに3価の希土類元素(Y、Sm、Nd等)を固溶させることにより、酸素欠陥が導入され高い酸素イオン伝導を示す固体電解質材料となることが知られている(H.Yahiro,Y.Baba,K.Eguchi and H.Arai,J.Electrochem.Soc.,vol.135,2077−80 (1988)及びT.Inoue,T.Setoguchi,K.Eguchi and H.AraiSolid State Ionics,vol.36,71−75 (1989)等)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】こうした欠陥セリア系固体電解質は、4価のCeのサイトに3価の希土類元素を置換固溶させることにより、酸素欠陥を生じさせているが、酸素欠陥量を増加させるべく3価元素の固溶量を増加させると、C型希土類化合物が生成し、この化合物の生成により伝導度が低下するために、酸素イオン伝導度の向上が難しい状況にあった。
【0004】また欠陥セリア系固体電解質はCeO2中のCe4+が還元雰囲気下において容易にCe3+に還元され、この変化に伴い酸素イオン伝導性以外に電子伝導性が現れるという欠点を有していた。電子伝導度が著しく高くなると、燃料電池用のセル材料とした際の出力密度が低下する。燃料電池使用状況下におけるCe4+の還元しやすさは、欠陥セリア系固体電解質の実用化を妨げる極めて大きな問題点であった。
【0005】本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のものに比べイオン伝導度及びCe4+の耐還元性が著しく向上し、燃料電池用セル材料とした際に優れた出力密度を示すホタル石型セリア系固体電解質を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、(1)3価の希土類元素のサイトをさらに1価又は2価の元素で一部置換固溶させることにより、3価の希土類元素のサイトを平均原子価において3価以下の低価数とすることで、伝導度低下の要因となる希土類酸化物とCeO2の固溶体であるC型希土類化合物の生成を抑制し、酸素欠陥の量を増加させ、かつ1価又は2価という、3価の希土類元素に比してイオン半径の大きい元素を固溶させることで、格子を膨脹させ、酸素イオンの通過可能な結晶格子内の空間を増大させることによって、高い酸素イオン伝導度を有する固体電解質材料の提供が可能となること、(2)欠陥セリア系化合物の不定比性と酸素欠陥量の間に相関性があるとの考えのもと多量の酸素欠陥を導入することにより、還元雰囲気下においても欠陥セリア系化合物における4価から3価への変動を極めて小さくすることに成功し、欠陥セリア系固体電解質の実用化を妨げる大きな問題点であった還元されやすいという欠点を克服した高酸素イオン伝導度を有する固体電解質材料の提供が可能となり、あわせて燃料電池用のセルとして用いた場合、優れた出力密度が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される欠陥ホタル石型固体電解質、{(M1-aaxCe1-x}O2-y (1)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、a、x、yはそれぞれ0<a<0.6、0.2<x<0.5、0<y<0.55を表す)
下記一般式(2)で表される欠陥ホタル石型固体電解質、{(MαaxCe1-x}O2-y (2)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、α、a、x、yはそれぞれ0.4<α<1,0<a<0.1、0.2<x<0.5、0<y<0.26を表す)
下記一般式(3)で表される欠陥ホタル石型固体電解質、 {(M1-aax(Ce1-bb1-x}O2-y (3)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、A及びBは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表しA≠B、a、x、b、yはそれぞれ0<a<0.6、0.1<x<0.4、0<b<0.4、0<y<0.8を表す)及び下記一般式(4)で表される欠陥ホタル石型固体電解質 {(Mαax(Ceβb1-x}O2-y (4)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、A及びBは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表しA≠B、a、x、b、yはそれぞれ0.4<α<1、0<a<0.1、0.1<x<0.4、0.6<β<1、0<b<0.1、0<y<0.41を表す)である。
【0008】
【発明の実施の形態】次に本発明を更に詳細に説明する。
【0009】本発明のCeO2系固体電解質は、上記一般式(1)乃至(4)のいずれかで表される欠陥ホタル石型固体電解質である。
【0010】下記一般式(1)において、{(M1-aaxCe1-x}O2-y (1)
MはCeを除く3価の希土類元素であり特に限定するものではない。これらの希土類元素のうち、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素が好ましい。8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ムを下回る元素の場合、この0.97オングストロ−ムは8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径であるため、結晶格子が著しく収縮し、イオン伝導の妨げとなるために好ましくない。一方1.20オングストロ−ムを上回る元素の場合、8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径と大きく異なるため、この場合も結晶格子が著しく歪みイオン伝導の妨げとなるために好ましくない。
【0011】Mの具体的な例としては、Lu(0.97)、Yb(0.98)、Tm(0.99)、Er(1.00)、Y(1.015)、Ho(1.02)、Dy(1.03)、Gd(1.06)、Eu(1.07)、Sm(1.09)、Nd(1.12)等が挙げられる。ここでカッコ内の数字は、8配位を仮定した場合のイオン半径である。
【0012】上記一般式(1)中、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表す。
【0013】上記一般式(1)中、aの値は0<a<0.6である。aの値が0では酸素欠陥量が少なく十分に高い酸素イオン伝導度は得られず、またaの値が0.6以上ではCeサイトに1価又は2価の元素が固溶しきれず、粒界に析出し、原料中にわずかに含まれるガラス相と反応して粒界における抵抗を高め、電解質全体の酸素イオン伝導度を低下させるために好ましくない。
【0014】上記一般式(1)中、xの値は0.2<x<0.5である。xの値が0.2以下では活性な酸素欠陥量が不十分で十分に高い酸素イオン伝導度は得られず、またxの値が0.5以上では酸素欠陥量は増加するが、CeO2中へのM23の固溶量が増えるため格子は収縮し、1価又は2価元素の固溶により、格子を膨脹させる効果を打ち消し、結果としてかえって多量に存在する可動イオンの通路を狭めるために、著しくイオン伝導度は低下するので好ましくない。
【0015】上記一般式(1)中、yの値は上記a及びxの値を定める際に正電荷と負電荷の値がバランスするように決まる値であり、通常0<y<0.55の値となる。
【0016】また上記一般式(1)において、特に0<a<0.1の場合には、MとAとの量的関係であるA/Mは、a/(1−a)に限定されず、A/M=a/α,0.4<α<1をとることが可能となる。
【0017】すなわち、下記一般式(2)において、{(MαaxCe1-x}O2-y (2)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、α、a、x、yはそれぞれ0.4<α<1,0<a<0.1、0.2<x<0.5、0<y<0.26を表す)
MはCeを除く3価の希土類元素であり特に限定するものではない。これらの希土類元素のうち、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素が好ましい。8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ムを下回る元素の場合、この0.97オングストロ−ムは8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径であるため、結晶格子が著しく収縮し、イオン伝導の妨げとなるために好ましくない。一方1.20オングストロ−ムを上回る元素の場合、8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径と大きく異なるため、この場合も結晶格子が著しく歪みイオン伝導の妨げとなるために好ましくない。
【0018】Mの具体的な例としては、Lu(0.97)、Yb(0.98)、Tm(0.99)、Er(1.00)、Y(1.015)、Ho(1.02)、Dy(1.03)、Gd(1.06)、Eu(1.07)、Sm(1.09)、Nd(1.12)等が挙げられる。ここでカッコ内の数字は、8配位を仮定した場合のイオン半径である。
【0019】上記一般式(2)中、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表す。
【0020】上記一般式(2)中、上記一般式(1)中、aの値は0<a<0.1であり、αの値は0.4<α<1である。これは、Aの固溶量が少ない場合には、A/M比が比較的広くなってもホタル石構造を形成することができ、微量な酸素欠陥を有効に機能させて、イオン伝導度を向上させることが可能となるためであると考えられる。
【0021】上記一般式(2)中、xの値は0.2<x<0.5である。xの値が0.2以下では活性な酸素欠陥量が不十分で十分に高い酸素イオン伝導度は得られず、またxの値が0.5以上では酸素欠陥量は増加するが、CeO2中へのM23の固溶量が増えるため格子は収縮し、1価又は2価元素の固溶により、格子を膨脹させる効果を打ち消し、結果としてかえって多量に存在する可動イオンの通路を狭めるために、著しくイオン伝導度は低下するので好ましくない。
【0022】上記一般式(2)中、正電荷と負電荷の値のバランスから決定されるyの値は、0<y<0.26である。
【0023】次に下記一般式(3)において、 {(M1-aax(Ce1-bb1-x}O2-y (3)
MはCeを除く3価の希土類元素であり特に限定するものではない。これらの希土類元素のうち、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素が好ましい。8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ムを下回る元素の場合、この0.97オングストロ−ムは8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径であるため、結晶格子が著しく収縮しイオン伝導の妨げとなるために好ましくない。一方1.20オングストロ−ムを上回る元素の場合、8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径と大きく異なり、この場合も結晶格子が著しく歪みイオン伝導の妨げとなるために好ましくない。
【0024】Mの具体的な例としては、Lu(0.97)、Yb(0.98)、Tm(0.99)、Er(1.00)、Y(1.015)、Ho(1.02)、Dy(1.03)、Gd(1.06)、Eu(1.07)、Sm(1.09)、Nd(1.12)等である。ここでカッコ内の数字は、8配位を仮定した場合のイオン半径である。
【0025】上記一般式(3)中、A及びBは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、A≠Bである。
【0026】上記一般式(3)中、aの値は0<a<0.6である。aの値が0では、酸素欠陥量が少なく十分高い酸素イオン伝導度は得られず、またaの値が0.6以上では、Yサイトに1価又は2価の元素が固溶しきれず、粒界に析出し、原料中にわずかに含まれるガラス相と反応して粒界における抵抗を高め、電解質全体の酸素イオン伝導度を低下させるために好ましくない。
【0027】上記一般式(3)中、xの値は0.1<x<0.4である。xの値が0.1以下では活性な酸素欠陥量が不十分で、十分高い酸素イオン伝導度は得られず、またxの値が0.4以上では酸素欠陥量は増加するが、CeO2中へのY23の固溶量が増えると格子は収縮し、1価又は2価元素の固溶により、格子を膨脹させる効果を打ち消し、結果としてかえって多量に存在する可動イオンの通路を狭めるために、著しくイオン伝導度は低下するので好ましくない。
【0028】上記一般式(3)中、bの値は0<b<0.4である。bの値が0の場合は請求項1に該当する以外の場合には、上述の理由により伝導度が低下するので好ましくなく、またbの値が0.4以上ではCeサイトに1価又は2価の元素が固溶しきれず、粒界に析出し、原料中にわずかに含まれるガラス相と反応して粒界における抵抗を高め、電解質全体の酸素イオン伝導度を低下させるために好ましくない。
【0029】上記一般式(3)中、yの値は上記a及びxの値を定める際に正電荷と負電荷の値がバランスするように決まる値であり、通常0<y<0.8の値となる。
【0030】また上記一般式(3)において、特に0<a<0.1、0<b<0.1の場合には、MとA及びCeとBの量的関係であるA/M及びB/Ceは、a/(1−a)、b/(1−b)に限定されず、A/M=a/α,0.4<α<1及びB/Ce=b/β,0.6<β<0.1をとることが可能となる。
【0031】すなわち、下記一般式(4)において、 {(Mαax(Ceβb1-x}O2-y (4)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、A及びBは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表しA≠B、a、x、b、yはそれぞれ0.4<α<1、0<a<0.1、0.1<x<0.4、0.6<β<1、0<b<0.1、0<y<0.41を表す)
MはCeを除く3価の希土類元素であり特に限定するものではない。これらの希土類元素のうち、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素が好ましい。8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ムを下回る元素の場合、この0.97オングストロ−ムは8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径であるため、結晶格子が著しく収縮しイオン伝導の妨げとなるために好ましくない。一方1.20オングストロ−ムを上回る元素の場合、8配位を仮定した場合のCe4+のイオン半径と大きく異なり、この場合も結晶格子が著しく歪みイオン伝導の妨げとなるために好ましくない。
【0032】Mの具体的な例としては、Lu(0.97)、Yb(0.98)、Tm(0.99)、Er(1.00)、Y(1.015)、Ho(1.02)、Dy(1.03)、Gd(1.06)、Eu(1.07)、Sm(1.09)、Nd(1.12)等である。ここでカッコ内の数字は、8配位を仮定した場合のイオン半径である。
【0033】上記一般式(4)中、A及びBは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、A≠Bである。
【0034】上記一般式(4)中、α、a、β、bの値は、それぞれ0.4<α<1、0<a<0.1、0.6<β<1、0<b<0.1である。これは、A及び/又はBの固溶量が少ない場合には、A/M比及びB/Ce比が比較的広くなってもホタル石構造を形成することができ、微量な酸素欠陥を有効に機能させて、イオン伝導度を向上させることが可能となるためであると考えられる。
【0035】上記一般式(4)中、xの値は0.1<x<0.4である。xの値が0.1以下では活性な酸素欠陥量が不十分で、十分高い酸素イオン伝導度は得られず、またxの値が0.4以上では酸素欠陥量は増加するが、CeO2中へのY23の固溶量が増えると格子は収縮し、1価又は2価元素の固溶により、格子を膨脹させる効果を打ち消し、結果としてかえって多量に存在する可動イオンの通路を狭めるために、著しくイオン伝導度は低下するので好ましくない。
【0036】上記一般式(4)中、正電荷と負電荷の値のバランスから決定されるyの値は、0<y<0.41となる。
【0037】上記一般式(1)乃至一般式(4)のいずれかの組成を選択することにより、ホタル石単一相からなる高イオン伝導体の作製が可能となる。
【0038】本発明の合成方法として特に限定するものではないが、例えば、原料粉末として酸化物を用いて乾式及び湿式混合により混合したのち焼成する方法、原料として無機塩の水溶液を使用し沈澱剤としてシュウ酸等を用いることにより炭酸塩として沈澱物を作製し、この沈澱を濾過、乾燥したのち焼成する方法や原料としてアルコキシド溶液を使用するアルコキシド法を用いて、液相混合したのち加水分解反応により沈澱を作製し、この沈澱を濾過、乾燥したのち焼成する方法等を用いて合成することができる。
【0039】本発明の効果発現の機構については、未だ十分には解明されていないが、CeO2に単に3価の希土類元素を固溶させる場合には、酸素欠陥を増加させるとC型希土類化合物が生成して伝導度を低下させてしまうが、3価の希土類元素のサイトに1価又は2価の元素を一部置換固溶させることにより、C型希土類化合物を生成させることなく、酸素欠陥量を増加させ、あわせて格子体積増大によるボトルネック径増大の効果により、酸素イオン伝導度が向上する結果となったものと考えられる。
【0040】また、強還元雰囲気下において、CeO2中のCe4+がCe3+に還元されるという従来のセリア系固体電解質の欠点を克服した理由は、セリア系酸化物の不定比性と酸素欠陥量の関係から説明できる。
【0041】セリア系酸化物に見られる酸素分圧と酸素欠陥量の関係を図1に模式的に示す。図1にあるように、酸素分圧が低下する、すなわち還元状態になると、セリア系酸化物中の酸素欠陥量は増加する傾向にある。この酸素欠陥は正の電荷を有するため、この酸素欠陥の増加した分、セリア系化合物は自身の電気的中性を保つためにCe4+をCe3+へと低下させる。このことがCeO2中のCe4+がCe3+に還元されやすい理由であると考えられる。そこで図1中のA点に注目すると、A点での酸素欠陥量を持つ材料は、aの酸素分圧値を下回ると更に酸素欠陥を発生させ、同時にCeの価数低下が生まれる。故に予め図1中のB点まで酸素欠陥を多量に導入することによって、より低い酸素分圧(b点)までCeの価数低下を生じる必然性が無くなり、還元雰囲気下においても高いイオン伝導性を保つようになり、燃料電池用のセルとした場合には、優れた出力密度を示すことが可能となるものと考えられる。
【0042】以上説明したように、本発明は、多量の酸素欠陥を有するホタル石型セリア系固体電解質に関するものであり、この酸素欠陥の働きを利用した新規固体電解質を得ることが可能となる。
【0043】
【実施例】以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】実施例1〜実施例16配合を下記に示す12種類の化学式になるように、酸化イットリウム粉末(信越化学製)、酸化イットリビウム(キシダ化学製)、酸化サマリウム(キシダ化学製)、酸化ガドリウム(キシダ化学製)、炭酸セシウム粉末(キシダ化学製)、炭酸ナトリウム(キシダ化学製)、炭酸ストロンチウム(キシダ化学製)、酸化セリウム粉末(三津和化学製)及び酸化リチウム粉末(キシダ化学製)をエタノ−ル中においてボ−ルミル混合したのち、1000℃、1h空気中において仮焼し、この粉末をペレット状に2t/cm2の静水圧により成形した。得られた試料を1500℃、4h空気中において焼結することにより立方晶ホタル石単相の焼結体を作製した。
【0045】
(実施例1){(Y0.5Na0.50.4Ce0.6}O1.6(実施例2){(Y0.5Cs0.50.3Ce0.7}O1.7(実施例3){(Y0.5Cs0.50.3(Ce0.67Li0.330.7}O1.35(実施例4){(Y0.5Cs0.50.2(Ce0.67Li0.33O.8}O1.4(実施例5){(Y0.5Sr0.50.4Ce0.6}O1.7(実施例6){(Y0.4Na0.60.4Ce0.6}O1.56(実施例7){(Y0.4Na0.60.3(Ce0.67Li0.330.7}O1.38(実施例8){(Yb0.5Cs0.50.4Ce0.6}O1.6(実施例9){(Gd0.5Cs0.50.4Ce0.6}O1.6(実施例10){(Sm0.5Cs0.50.4Ce0.6}O1.6(実施例11){(Gd0.5Cs0.50.3(Ce0.67Li0.330.7}O1.35(実施例12){(Sm0.5Cs0.50.3(Ce0.67Li0.330.7}O1.35(実施例13){(Sm0.5Cs0.090.3(Ce0.67Li0.080.7}O1.20(実施例14){(Sm0.5Cs0.010.3(Ce0.67Li0.010.7}O1.66(実施例15){(Sm0.5Cs0.090.4Ce0.6}O1.52(実施例16){(Sm0.5Cs0.010.4Ce0.6}O1.50ただし、上記の酸素数は正電荷と負電荷のバランスから計算上求めた値である。
【0046】得られた焼結体は、白金電極を塗布し、1000℃において電極を焼き付け処理を施した後、交流2端子法により複素インピ−ダンスを測定してイオン伝導度を下式により算出した。
【0047】イオン伝導度:logσ=log{Zcosθ/(l・S-1)}
ここで、σは伝導度(イオン伝導度はこの値を対数として示す)、Zはインピ−ダンス、θはおくれ角、lはペレットの厚み、Sはペレット上の白金電極面積を表す。
【0048】さらに強還元雰囲気下における還元性の評価を行うために酸素濃淡電池を用いた起電力法により酸素イオン輸率を測定した。酸素イオン輸率(ti)は、以下の式により算出される。
【0049】ti=Em/EtここでEmは測定される起電力、Etは理論起電力である。
【0050】さらに、理論起電力は以下の式により算出される。
【0051】
Et=(RT/4F)ln(P”O2/P´O2
ここで、Tは絶対温度、Rはガス定数、Fはファラデ−定数であり、P”O2及びP´O2はそれぞれ濃淡電池の両極における酸素分圧である。
【0052】濃淡電池の一方を酸素、他方を空気とした場合、すなわちlog(P”O2/P´O2)=−1と一方を酸素、他方を水素とした場合、すなわち、log(P”O2/P´O2)=−21の2通りの環境下において950℃におけるイオン輸率を測定した。
【0053】tiは、0≦ti≦1の値をとり、1に近いほど電子伝導性は小さいことになり、またいずれの雰囲気においても高いイオン輸率を有するものが、耐還元性に優れるということになる。
【0054】表1に、950℃における伝導度の値と酸素イオン輸率の値を示す。
【0055】
【表1】


【0056】また燃料電池用セルとして用いた場合の発電試験については、燃料極のNiとZrO2のサーメットを、空気極に(LaSr)MnO3を用い、電極径を直径15mm、固体電極の厚さを500μmとし、空気極側には酸素、燃料極側には加湿水素ガスを送り、出力密度測定を1000℃及び800℃で行い、最大出力密度を求めた。
【0057】表2に1000℃及び800℃における最大出力密度の値を示す。
【0058】
【表2】


【0059】比較例1〜比較例7配合を下記に示す7種類の化学式になるように、実施例同様に酸化イットリウム粉末、酸化サマリウム粉末、炭酸セシウム粉末、酸化セリウム粉末及び酸化リチウム粉末をエタノ−ル中においてボ−ルミル混合したのち、1000℃、1h空気中において仮焼し、この粉末をペレット状に2t/cm2の静水圧により成形した。得られた試料を1500℃、4h空気中において焼結して試料とした。
(比較例1)(Y0.3Ce0.7)O1.85(比較例2)(Sm0.3Ce0.7)O1.85(比較例3){(Y0.3Cs0.70.3Ce0.7}O2-y(比較例4){(Y0.5Cs0.50.5(Ce0.67Li0.330.5}O1.25(比較例5){(Y0.5Cs0.50.3(Ce0.5Li0.50.7}O2-y(比較例6){(Sm0.3Cs0.70.3Ce0.7}O2-y(比較例7){(Sm0.5Cs0.50.5(Ce0.67Li0.330.5}O1.25ただし、上記の酸素数は正電荷と負電荷のバランスから計算上求めた値である。
【0060】比較例1及び比較例4はホタル石単一相であったが、比較例3及び比較例6は、酸化セシウムとホタル石化合物の混相、比較例5は極微量の酸化リチウムとホタル石化合物の混相状態であった。また、比較例3、比較例5及び比較例6は単一相ではないので、酸素数は不明確であることから上記のように記載した。
【0061】得られた焼結体の950℃における伝導度の値と酸素イオン輸率の値を表1に合わせて示す。
【0062】
【発明の効果】本発明により従来のものに比べイオン伝導度が著しく向上し、燃料電池用セルを作成した場合優れた出力密度を示すホタル石型セリア系固体電解質を提供することができる。
【0063】また本発明のホタル石型セリア系固体電解質は多量の酸素欠陥を有し、耐還元性に優れるため、工業的にも非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】セリア系酸化物に見られる酸素分圧と酸素欠陥量の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(1)で表される欠陥ホタル石型固体電解質。
{(M1-aaxCe1-x}O2-y (1)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、a、x、yはそれぞれ0<a<0.6、0.2<x<0.5、0<y<0.55を表す)
【請求項2】 Mが、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素であることを特徴とする請求項1に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。
【請求項3】 MがYであることを特徴とする請求項1に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。
【請求項4】 下記一般式(2)で表される欠陥ホタル石型固体電解質。
{(MαaxCe1-x}O2-y (2)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、Aは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表し、α、a、x、yはそれぞれ0.4<α<1,0<a<0.1、0.2<x<0.5、0<y<0.26を表す)
【請求項5】 Mが、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素であることを特徴とする請求項4に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。
【請求項6】 MがYであることを特徴とする請求項4に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。
【請求項7】 下記一般式(3)で表される欠陥ホタル石型固体電解質。
{(M1-aax(Ce1-bb1-x}O2-y (3)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、A及びBは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表しA≠B、a、x、b、yはそれぞれ0<a<0.6、0.1<x<0.4、0<b<0.4、0<y<0.8を表す)
【請求項8】 Mが、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素であることを特徴とする請求項7に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。
【請求項9】 MがYであることを特徴とする請求項7に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。
【請求項10】 下記一般式(4)で表される欠陥ホタル石型固体電解質。
{(Mαax(Ceβb1-x}O2-y (4)
(式中、MはCeを除く3価の希土類元素であり、A及びBは1価のアルカリ金属又は2価のアルカリ土類金属を表しA≠B、a、x、b、yはそれぞれ0.4<α<1、0<a<0.1、0.1<x<0.4、0.6<β<1、0<b<0.1、0<y<0.41を表す)
【請求項11】 Mが、8配位を仮定した場合のイオン半径が0.97オングストロ−ム以上1.20オングストロ−ム以下の範囲にある元素であることを特徴とする請求項10に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。
【請求項12】 MがYであることを特徴とする請求項10に記載の欠陥ホタル石型固体電解質。

【図1】
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