説明

ホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱法及び通電加熱装置、及び、表面性状に優れたホットスタンプ成形品

【課題】ホットスタンプ用めっき金属板、特に、ホットスタンプ用めっき鋼板の通電加熱において、溶融しためっき層に作用するローレンツ力を減殺して、めっき層の偏り(寄り)を防止する。
【解決手段】ホットスタンプ用めっき金属板に通電して加熱する通電加熱方法において、(x)ホットスタンプ用めっき金属板と同一形状の金属導体と、ホットスタンプ用めっき金属板を、位置を揃えて平行に配置し、(y)ホットスタンプ用めっき金属板と上記金属導体を電気的に接続して通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ(又はホットプレス)用めっき金属板(例えば、自動車用部品めっき鋼板)の通電加熱方法と通電加熱装置、更に、表面性状に優れたホットスタンプ成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料の消費を抑制するため、自動車の車体を軽量化することが強く求められている。自動車の車体を軽量化する一つの方法として、自動車用部品用材料の機械強度を向上させる方法がある。自動車用部品には、主として鋼板を用いるが、鋼板の強度を高めると、通常、加工性や成形性が低下する。
【0003】
高強度化に伴う加工性や成形性の低下を踏まえ、鋼板を所望の形状に成形する成形方法の一つとして、鋼板を800℃以上に加熱した状態でプレス成形するホットスタンプ法がある。ホットスタンプ法に用いる鋼板としては、Al系金属のめっき層を有する鋼板が、例えば、特許文献1〜3に開示されている。また、Zn系金属のめっき層を有する鋼板が、例えば、特許文献4に開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の鋼板においては、目的とする強度は得らているものの、ホットスタンプを行うための加熱中に、めっき層が溶融して偏り、めっき層の“寄り”が生じる場合がある。めっき層の寄りが生じると、成形品の外観が損なわれるし、また、めっき層厚が薄い部分では耐食性が低下する。
【0005】
特許文献2には、めっき鋼板を、めっきに使用した金属の融点以上に加熱して成形加工する加熱成形用鋼板の加熱方法において、成形前に金属の融点より200℃低い所定温度から金属の融点直下までの温度領域で、めっき鋼板を、5秒以上、予備加熱する加熱方法が提案されている。
【0006】
しかし、特許文献2に記載の加熱方法では、予備加熱をするので、ホットスタンプ前の加熱時間が長くなり、作業効率が低下する。
【0007】
また、特許文献3には、電流密度を制限して、めっきの偏り(寄り)を解消する加熱方法が提案されている。しかし、特許文献3に記載の加熱方法では、電流密度を制限するので、ホットスタンプ前の加熱時間を短縮できず、作業効率が低い。
【0008】
特許文献1〜3に記載の加熱方法は、Al系のめっき層を有する鋼板に係るものであるが、特許文献4には、Zn系めっき層を有する熱間プレス鋼材が記載されている。
【0009】
ホットスタンプ前の加熱時間を短縮して、作業効率を上げるためには、めっき鋼板に大電流を流す必要があるが、溶融しためっき層には大きなローレンツ力が作用し、めっき層の偏り(寄り)が生じる。例えば、めっき層に0.02mmを超える高さの凸部が生じるが、この高さの凸部が生じると、自動車部品用の素材として使用できない。
【0010】
ホットスタンプ用めっき鋼板に通電して加熱する場合において、めっき層の偏り(寄り)を解消できていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−38640号公報
【特許文献2】特開2003−27203号公報
【特許文献3】特開2010−70800号公報
【特許文献4】特開2005−240072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記実情に鑑み、ホットスタンプ用めっき金属板、特に、ホットスタンプ用めっき鋼板の通電加熱において、溶融しためっき層に作用するローレンツ力を減殺して、めっき層の偏り(寄り)を防止することを課題とし、該課題を解決する通電加熱方法と通電加熱装置、更に、表面性状に優れたホットスタンプ成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
めっき鋼板に通電して加熱すると、めっき層が溶融する。溶融しためっき層に流れる電流で生じる磁界(磁場)と、めっき鋼板に流れる電流で生じる磁界(磁場)との相互作用により、溶融しためっき層にローレンツ力が作用する。
【0014】
このローレンツ力により、溶融しためっき層が一方に移動(ピンチ効果)し、そのまま凝固して、めっき層に偏りが生じることになる。
【0015】
本発明者らは、以上の事実を踏まえ、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、ホットスタンプ用めっき金属板と同一形状の金属導体を、ホットスタンプ用めっき金属板と位置を揃えて平行に配置して、溶融しためっき層に作用するローレンツ力を減殺する方法を見いだした。
【0016】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0017】
(1)ホットスタンプ用めっき金属板に通電して加熱する通電加熱方法において、
(x)ホットスタンプ用めっき金属板と同一形状の金属導体と、ホットスタンプ用めっき金属板を、位置を揃えて平行に配置し、
(y)ホットスタンプ用めっき金属板と上記金属導体を電気的に接続して通電する
ことを特徴とするホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【0018】
(2)前記ホットスタンプ用めっき金属板が、ホットスタンプ用めっき鋼板であることを特徴とする前記(1)に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【0019】
(3)前記金属導体が、銅又は銅合金の導体であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【0020】
(4)前記金属導体が、別のホットスタンプ用めっき金属板であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【0021】
(5)前記金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間隔が1mm以上あることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【0022】
(6)前記金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間に、非磁性絶縁体を配置することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【0023】
(7)ホットスタンプ用めっき金属板に通電して加熱する通電加熱装置であって、
(x)位置を揃えて平行に配置した、ホットスタンプ用めっき金属板と同一形状の金属導体と、ホットスタンプ用めっき金属板を電気的に接続して保持する給電部材と、
(y)上記給電部材に通電する電源を備える
ことを特徴とするホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【0024】
(8)前記ホットスタンプ用めっき金属板が、ホットスタンプ用めっき鋼板であることを特徴とする前記(7)に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【0025】
(9)前記金属導体が、銅又は銅合金の導体であることを特徴とする前記(7)又は(8)に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【0026】
(10)前記金属導体が、別のホットスタンプ用めっき金属板であることを特徴とする前記(7)又は(8)に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【0027】
(11)前記金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間隔が1mm以上あることを特徴とする前記(7)〜(10)のいずれかに記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【0028】
(12)前記給電部材が、金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間に配置した非磁性絶縁体を保持する保持部を備えることを特徴とする前記(7)〜(11)のいずれかに記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【0029】
(13)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法で加熱したホットスタンプ用めっき金属板をホットスタンプで成形したことを特徴とする表面性状に優れたホットスタンプ成形品。
【0030】
(14)前記(7)〜(12)のいずれかに記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置で加熱したホットスタンプ用めっき金属板をホットスタンプで成形したことを特徴とする表面性状に優れたホットスタンプ成形品。
【0031】
(15)前記(13)又は(14)に記載の表面性状に優れたホットスタンプ成形品が自動車部品であることを特徴とする表面性状に優れたホットスタンプ成形品。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ホットスタンプ用めっき金属板(特に、ホットスタンプ用めっき鋼板)に通電して加熱する際、溶融しためっき層が一方向に移動する現象を抑制して、めっき層の偏りを解消することができる。その結果、ホットスタンプの作業効率を高めることができるとともに、表面性状が優れた成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来の通電加熱方法を示す図である。
【図2】溶融しためっき層に作用する磁界Hを示す図である。(a)は、ホットスタンプ用めっき鋼板において、電流Iがz方向に流れる態様を示し、(b)は、ホットスタンプ用めっき鋼板のA−A断面において、溶融しためっき層に作用する磁界Hを示す。
【図3】ホットスタンプ用めっき鋼板に通電したとき発生するx方向及びy方向の磁界の強さの一例を示す図である。
【図4】磁界により発生するローレンツ力を示す図である。(a)は、y方向の磁界(Hy)で発生するローレンツ力(Fx(Hy))を示し、(b)は、x方向の磁界(Hx)で発生するローレンツ力(Fy(Hx))を示す。
【図5】本発明の実施形態1を示す図である。(a)は、実施形態1の電気的接続態様を示し、(b)は、通電回路を模式的に示す。
【図6】本発明の実施形態2を示す図である。(a)は、実施形態2の電気的接続態様を示し、(b)は、通電回路を模式的に示す。
【図7】本発明の実施形態3を示す図である。(a)は、実施形態3の電気的接続態様を示し、(b)は、通電回路を模式的に示す。
【図8】本発明の実施形態4を示す図である。(a)は、実施形態4の電気的接続態様を示し、(b)は、通電回路を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明について、ホットスタンプ用めっき鋼板を例にとり説明する。
【0035】
図1に、従来の通電加熱方法を示す。めっき層1aを有するホットスタンプ用めっき鋼板1の両端に、電源3の給電部材2を接続して通電する。図2に、溶融しためっき層に作用する磁界Hを示す。図2(a)に、ホットスタンプ用めっき鋼板において電流Iがz方向に流れる態様を示し、図2(b)に、ホットスタンプ用めっき鋼板のA−A断面において、溶融しためっき層に作用する磁界Hを示す。
【0036】
ホットスタンプ用めっき鋼板(以下単に「めっき鋼板」ということがある。)に流れる電流全体によって生じる磁界により、各部位に流れる電流I(Amp/mm2)は、その部位に作用する磁束密度Bにより、
F=I×B=μI×H
の力Fを受けることになる。
【0037】
F、I、B、及び、Hは、ベクトル量であり、×はベクトル積又は外積を表す。μは、溶融しためっき層の透磁率であるが、溶融しためっき層は、非磁性体又は常磁性体であるので、μは、真空の透磁率に概略等しく、B=μ0Hである。溶融しためっき層に作用する磁界の方向は、図2(b)に示す通りである。
【0038】
ここで、図3に、板厚1.2mm、板幅200mm、長さ1,000mmの鋼板に、電流密度80Amp/mm2、全電流値19.2kAを通電したときに発生するx方向及びy方向の磁界の強さの一例を示す。なお、磁界の強さの単位は、アンペア回数/ミリメートル(AT/mm)である。
【0039】
図3に示すように、めっき鋼板の端部のめっき層には、約49.2AT/mmの磁界が発生した。めっき鋼板の端部で溶融しためっき層に作用するローレンツ力は、49.2AT/mmを透磁率で除して得た値、3,938A・AT/mm3である。その結果、溶融しためっき層に偏りが生じた。
【0040】
溶融しためっき層が偏るメカニズムについて説明する。まず、図4に、磁界により発生するローレンツ力を示す。図4(a)に、y方向の磁界(Hy)で発生するローレンツ力(Fx(Hy))を示し、図4(b)に、x方向の磁界(Hx)で発生するローレンツ力(Fy(Hx))を示す。
【0041】
磁界のy方向成分:Hyは、めっき鋼板の幅方向(通電方向と直角の方向)の端部で強くなり、溶融しためっき層には、幅方向中央に向かうローレンツ力:Fx(Hy)が作用する(図4(a)、参照)。その結果、めっき層の偏りが発生する。
【0042】
また、磁界のx方向成分:Hxは、溶融しためっき層に、板厚中心に向かうローレンツ力:Fy(Hx)を発生させる(図4(b)、参照)。このローレンツ力は、めっき層の偏りに直接関与しないが、溶融しためっき層に内圧を発生させ、めっき層の形状を不安定にする要因となる。
【0043】
本発明者らは、これらのローレンツ力の基となる磁場は、ホットスタンプ用めっき鋼板全体に流れる電流によって形成されることを踏まえ、同じ電流密度の電流を、反対向きに流せば、反対向きの磁場が発生し、ホットスタンプ用めっき鋼板全体に流れる電流により形成される磁場が打ち消されることに想到した。
【0044】
この手法を採用することにより、めっき鋼板に、短時間加熱のため、電流密度の高い電流を通電しても、めっき層の偏りを解消することができる。
【0045】
めっき鋼板が自動車部品用の場合、Siを含むAl系金属のめっき層、又は、Siを含むZn系金属のめっき層を有するめっき鋼板が主として使用されるが、めっき層は、偏りのメカニズムからして、Al系又はZn系に限定されない。
【0046】
以上、ホットスタンプ用めっき鋼板を例にとり説明したが、めっき層の偏りは、偏りのメカニズムからして、鋼板のめっき層に限られないことは明らかである。
【0047】
即ち、本発明は、ホットスタンプ用めっき金属板に通電して加熱する通電加熱方法において、
(x)ホットスタンプ用めっき金属板と同一形状の金属導体と、ホットスタンプ用めっき金属板を、位置を揃えて平行に配置し、
(y)ホットスタンプ用めっき金属板と上記金属導体を電気的に接続して通電する
ことを基本思想とする。
【0048】
なお、ホットスタンプ用めっき金属板と金属導体の電気的接続は、ホットスタンプ用めっき金属板と金属導体が一対の場合は直列接続であるが、ホットスタンプ用めっき金属板、又は、金属導体を2枚以上用いる場合、並列接続を併用してもよい。この点は、後述する。
【0049】
ここで、めっき金属板全体に流れる電流により形成される磁場を打ち消す具体的な実施形態について説明する。
【0050】
(実施形態1)
図5に、本発明の実施形態1を示す。図5(a)に、実施形態1の電気的接続態様を示し、図5(b)に、直列接続の通電回路を模式的に示す。
【0051】
ホットスタンプ用素材1’と金属導体4が、位置を揃えて配置されている。ホットスタンプ用素材1’と金属導体4の両端に、給電部材2が電気的に接続され、かつ、それぞれを保持している。一方の一対の給電部材2には、電源3が接続され、他方の一対の給電部材2は、電気的に接続されている。即ち、ホットスタンプ用素材1’と金属導体4は、直列に接続されている。
【0052】
なお、図5においては、ホットスタンプ用素材1’を上に、金属導体4を下に配置したが、逆でもよい。ただし、上記配置が、ホットスタンプの作業効率の点で好ましい。
【0053】
ホットスタンプ用素材1’と金属導体4の間隔(図中、L)は、できるだけ小さいことが好ましいが、0になると短絡するので、0mmを超える間隔とする。実際に、ホットスタンプ用素材1’のバリやゴミによる短絡を考えると、1mm以上が望ましい。
【0054】
ホットスタンプ用素材1’と金属導体4の間には、非磁性絶縁体を配置してもよい。この場合、非磁性絶縁体の耐熱温度によっては、間隔を小さくすることができる。
【0055】
ホットスタンプ用素材1’と金属導体4の間隔は、電流値が低いと広くすることができ、この限りで、上記間隔に上限はないが、100A程度まで考えると、50mm以下が目安となる。これにより、磁場の強さを半減することができる。
【0056】
金属導体4の厚さは、特に制限はないが、ホットスタンプ用素材1’の厚さと極端に違えることは好ましくなく、また、金属導体の厚さが厚くなりすぎると、磁界の相殺能力が低下するので、好ましくは5〜20mmである。また、金属導体の厚さを不用意に厚くすると、最大電流密度が低下してしまう。
【0057】
金属導体4の電流密度が高くなると、金属導体4が発熱し好ましくない。それ故、電流密度を低く抑えることが有効である。20A/mm2以下が好ましい。ところで、金属導体4のホットスタンプ用素材1’に対向しいていない面に、例えば、冷却パイプをろう付けして金属導体4を冷却すれば、電流密度を高くすることができる。
【0058】
金属導体4は、電気を通す導体であればよく、材質に制限はないが、良導体の銅又は銅合金が好ましい。
【0059】
図4(a)に示すように、磁界のy方向成分:Hyにより、溶融しためっき層に幅方向中央に向かうローレンツ力:Fx(Hy)が作用し、めっき層に偏りが発生する。
【0060】
Fx(Hy)は、具体的には、下記式F=I×Hy(A・AT・mm3)で計算することができる。めっき層に偏りを生じさせないFの上限は、ホットスタンプ用素材の性状(特に、めっき層の性状)で異なるが、本発明者らの実施実績によれば、3000以下が好ましい。それ故、本発明では、下記式Fが3000以下となるように、諸量を決定する。
【0061】
【数1】

【0062】
I:全電流(A)
t:ホットスタンプ用素材の厚さ(mm)
w:ホットスタンプ用素材と金属導体の幅(mm)
L:ホットスタンプ用素材と金属導体の表面間の距離(mm)
T:金属導体の厚さ(mm)
(実施形態2)
図6に、本発明の実施形態2を示す。図6(a)に、実施形態2の電気的接続態様を示し、図6(b)に、直列接続の通電回路を模式的に示す。
【0063】
図6に示す実施形態2は、図5に示す実施形態1において、金属導体4に替えて、ホットスタンプ用素材1”を用いたものである。こうすると、2枚のホットスタンプ用素材を、めっき層に偏りを生じさせることなく、同時に加熱することができる。この場合、後工程で、2台のプレス機が必要となるが、生産量の増大の点で好ましい。
【0064】
(実施形態3)
図7に、本発明の実施形態3を示す。図7(a)に、実施形態3の電気的接続態様を示し、図7(b)に、並列接続を併用した通電回路を模式的に示す。
【0065】
図7(a)に示すように、実施形態3では、金属導体4、4’を、ホットスタンプ用素材1’の表面と裏面に対向して配置し、ホットスタンプ用素材1’に流した電流を半分にして、金属導体4、4’に流している(図7(b)、参照)。それ故、実施態様3では、電流値を高くしても、めっき層の偏りを解消することができる。
【0066】
ホットスタンプ用素材1’と金属導体4の間隔L1と、ホットスタンプ用素材1’と金属導体4’の間隔L2は、同じであることが望ましい。L1とL2が異なる場合は、違いを10%以内に収めることが望ましい。金属導体4と金属導体4’の形状も同じであることが望ましい。寸法が異なる場合は、違いを、面積で10%以内に収めることが望ましい。
【0067】
(実施形態4)
図8に、本発明の実施形態3を示す。図8(a)に、実施形態4の電気的接続態様を示し、図8(b)に、並列接続を併用した通電回路を模式的に示す。
【0068】
図8に示すように、実施形態4では、ホットスタンプ用素材1’、1”を金属導体4の表面と裏面に対向して配置し、金属導体4、4’に流した電流を半分にして、ホットスタンプ用素材1’、1”に流している(図8(b)、参照)。それ故、実施態様4では、電流値を高くしても、めっき層の偏りを解消することができる。また、2枚のホットスタンプ用素材を同時に加熱することができる。
【0069】
ホットスタンプ用素材1’と金属導体4の間隔L1と、ホットスタンプ用素材1”と金属導体4の間隔L2は、同じであることが望ましい。L1とL2が異なる場合は、違いを、面積で10%以内に収めることが望ましい。
【実施例】
【0070】
表1に示すホットスタンプ用めっき鋼板を、表1に示す加熱条件で加熱した。結果を表1に併せて示す。金属導体として無酸素銅を用いた。
【0071】
実験例4、5、7〜9、11〜13、及び、16は発明例である。I×Hy(A・AT/mm3)が3000以下であり、めっき層に偏りは生じていない。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
前述したように、本発明によれば、ホットスタンプ用めっき金属板(特に、ホットスタンプ用めっき鋼板)に通電して加熱する際、溶融しためっき層が一方向に移動する現象を抑制して、めっき層の偏りを解消することができる。その結果、ホットスタンプの作業効率を高めることができるとともに、表面性状が優れた成形品を得ることができる。よって、本発明は金属加工産業において利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0074】
1 ホットスタンプ用めっき鋼板
1’、1” ホットスタンプ用素材
1a めっき層
2 給電部材
3 電源
4、4’ 金属導体
I 電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットスタンプ用めっき金属板に通電して加熱する通電加熱方法において、
(x)ホットスタンプ用めっき金属板と同一形状の金属導体と、ホットスタンプ用めっき金属板を、位置を揃えて平行に配置し、
(y)ホットスタンプ用めっき金属板と上記金属導体を電気的に接続して通電する
ことを特徴とするホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【請求項2】
前記ホットスタンプ用めっき金属板が、ホットスタンプ用めっき鋼板であることを特徴とする請求項1に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【請求項3】
前記金属導体が、銅又は銅合金の導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【請求項4】
前記金属導体が、別のホットスタンプ用めっき金属板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【請求項5】
前記金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間隔が1mm以上あることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【請求項6】
前記金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間に、非磁性絶縁体を配置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法。
【請求項7】
ホットスタンプ用めっき金属板に通電して加熱する通電加熱装置であって、
(x)位置を揃えて平行に配置した、ホットスタンプ用めっき金属板と同一形状の金属導体と、ホットスタンプ用めっき金属板を電気的に接続して保持する給電部材と、
(y)上記給電部材に通電する電源を備える
ことを特徴とするホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【請求項8】
前記ホットスタンプ用めっき金属板が、ホットスタンプ用めっき鋼板であることを特徴とする請求項7に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【請求項9】
前記金属導体が、銅又は銅合金の導体であることを特徴とする請求項7又は8に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【請求項10】
前記金属導体が、別のホットスタンプ用めっき金属板であることを特徴とする請求項7又は8に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【請求項11】
前記金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間隔が1mm以上あることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【請求項12】
前記給電部材が、金属導体とホットスタンプ用めっき金属板の間に配置した非磁性絶縁体を保持する保持部を備えることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱方法で加熱したホットスタンプ用めっき金属板をホットスタンプで成形したことを特徴とする表面性状に優れたホットスタンプ成形品。
【請求項14】
請求項7〜12のいずれか1項に記載のホットスタンプ用めっき金属板の通電加熱装置で加熱したホットスタンプ用めっき金属板をホットスタンプで成形したことを特徴とする表面性状に優れたホットスタンプ成形品。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の表面性状に優れたホットスタンプ成形品が自動車部品であることを特徴とする表面性状に優れたホットスタンプ成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−221784(P2012−221784A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87176(P2011−87176)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】