説明

ホットメルト接着剤

【課題】比較的安価な酸化防止剤を用いつつ、加熱による変色を遅延させることができるという効果を有する接着剤を提供すること。
【解決手段】少なくとも、ポリオレフィン樹脂とヒンダードフェノール系酸化防止剤であるテトラキス[メチレン-3-(3',5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと、ホスファイト系酸化防止剤であるサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)とが配合されたものであり、酸化防止剤のホットメルト接着剤の全成分中の配合比が重量比で0.3%であり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤のホスファイト系酸化防止剤に対する配合比が重量比で50%〜100%の範囲内である
ホットメルト接着剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、加熱による変色を遅延させることができる、ポリオレフィン樹脂が配合されたホットメルト接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平9−31436号公報
【特許文献2】特開2004−217692号公報
【0003】
従来より、包装、製本、木工、製袋、弱電、アッセンブリー、衛生材料、ラミネート紙、ラミネートフィルムなどの種々の用途にホットメルト接着剤が広く用いられている。これは、熱可塑性樹脂を主な原料としたものであり、熱を加えることによって溶融させた状態で接着対象物に塗布し、その後温度の低下に伴い、固化して接着機能を発揮するものである。このホットメルト接着剤は、溶剤や水分を含有しないものであるため作業性に大変優れるものであり、生産ラインの自動化に貢献することのできるものである。
【0004】
しかし、従来のホットメルト接着剤は、加熱により黄色や褐色に変色しやすかった。例えば、工場の休業時に生産ラインが溶融状態を保ったまま停止し、その後の始業時に、変色してしまったホットメルト接着剤を廃棄せざるを得ず、不経済であった。
また、ホットメルト接着剤が露出する位置に配される用途である場合、この変色したホットメルト接着剤により商品価値が低下してしまうことがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この加熱による変色の対策として、酸化防止剤が配合されたホットメルト接着剤が種々存在する。このように酸化防止剤が配合されたことにより、上記のような加熱による変色の発生を遅延させることができる。
【0006】
ここで、従来から用いられていた酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤単体、もしくはヒンダードフェノール系酸化防止剤にホスファイト系酸化防止剤やチオエーテル系酸化防止剤が組み合わされたものであった。ここで、ホスファイト系酸化防止剤やチオエーテル系酸化防止剤には安価なものから高価なものまで、種々のものが市場に存在している。しかしながら、フェノール系酸化防止剤には着色の問題があり、チオエーテル系酸化防止剤には臭気の問題があるため、高い変色遅延効果を持たせるためには、比較的高価なホスファイト系酸化防止剤を配合する必要があった。具体的に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の単体コストを基準とすると、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とを組み合わせたものの酸化防止剤のコスト上昇は1.6〜2.2倍となっていた。
【0007】
そこで、本願の発明者は、酸化防止剤のコストを従来よりも低減させるために、ヒンダードフェノール系酸化防止剤に対し、他の比較的安価な酸化防止剤を配合することを試してみたが、遅延効果が低下してしまい、実際の使用に耐えないものとなった。つまり、単純に安価な酸化防止剤に置換しても、所望の変色遅延効果を得ることができなかった。
【0008】
本願発明は上記のことに鑑み、比較的安価な酸化防止剤を用いつつも、加熱による変色を遅延させることができるという効果を有し、ホットメルト接着剤の製造コストの上昇を最小限とするホットメルト接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者は、比較的安価な酸化防止剤を組み合わせて用いることにより、加熱による変色に関して高い遅延効果を有することができるホットメルト接着剤を鋭意研究の上、見出したものである。
つまり、本願の請求項1に記載の発明は、少なくとも、ポリオレフィン樹脂とヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とが配合されたホットメルト接着剤であり、上記のヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とを合計したものの、ホットメルト接着剤の全成分中の配合比が、重量比で0.3%であり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤のホスファイト系酸化防止剤に対する配合比が重量比で50%〜100%の範囲内であって、上記のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが用いられ、ホスファイト系酸化防止剤としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)が用いられたことを特徴とするホットメルト接着剤を提供することにより、上記の課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本願発明は、比較的安価な酸化防止剤である、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)とを組み合わせて用いることにより、加熱による変色に関して高い遅延効果を有し、しかもホットメルト接着剤の製造コストの上昇を最小限としたホットメルト接着剤を提供できたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願発明の実施の形態の一例をとりあげて説明する。
本願発明に係るホットメルト接着剤は、少なくともポリオレフィン樹脂が配合されたものであって、本例においては、ポリオレフィン樹脂、水添脂環族系炭化水素樹脂、ワックスからなるHMA配合物に酸化防止剤が配合されたものとされている。
上記のポリオレフィン樹脂としては、ホモPP樹脂、PP/PE共重合樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂が例示できる。また、ワックスとしては、サゾールワックス、マイクロクリスタリンワックスが例示できる。
【0012】
本例のホットメルト接着剤における酸化防止剤の基本的な構成は従来通りであり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とが組み合わされたものである。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は一次酸化防止剤として作用するものであり、ポリオレフィン樹脂のラジカル連鎖反応を阻止することができる。また、ホスファイト系酸化防止剤は二次酸化防止剤として作用するものであり、これは樹脂中に生成したラジカルと酸素との反応で生成されたペルオキシラジカルから更に生成された過酸化物(ハイドロパーオキサイド)を分解して安定化するものである。具体的に、本願発明に係るホットメルト接着剤に用いられるヒンダードフェノール系酸化防止剤は、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンであり、ホスファイト系酸化防止剤は、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)である。
なお、上記のヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とを合計したものの、ホットメルト接着剤の全成分中の配合比は、重量比で0.3%とされている。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤のホスファイト系酸化防止剤に対する配合比が重量比で50%〜100%の範囲内とすることが、加熱による変色を効果的に遅延させるために望ましい。
【0013】
上記の酸化防止剤の組み合わせを、本願の発明者が知見するに際して、まず、下記の酸化防止剤を用いた実験を行った。
(A)テトラキス[メチレン-3-(3',5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン
(B)トリル(ノニルフェニル)ホスファイト
(C)サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)
(D)4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)
なお、上記の酸化防止剤のうち、(A)のみがヒンダードフェノール系酸化防止剤で、(B)〜(D)はホスファイト系酸化防止剤である。
酸化防止剤を配合する相手であるHMA配合物の組成は、重量比で、ポリオレフィン樹脂79.0%、水添脂環族系炭化水素樹脂16.2%、ワックス4.8%のものを用いた。
【0014】
実験方法は、上記のHMA配合物に対し、上記の酸化防止剤を表1に示す割合で配合した試料を加熱して溶融した状態とし、3つのビーカーに入れ、そのうち1つは初期状態を示すものとしてそのままとし、他の2つを180℃の熱風循環式オーブン中に配置し、配置後15時間経過後に1つを取り出し、72時間経過後に残りの1つを取り出し、各試料の色の変化を目視にて確認することによって行った。また、表面に皮膜が発生するなどの変化の有無も確認した。なお、変色に関する遅延効果の判定は、上記の酸化防止剤(A)をHMA配合物に対して0.30%配合した試料の15時間経過後のものに対する相対比較で行った。結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1に示した通り、総合的に見て、上記の酸化防止剤(A)であるテトラキス[メチレン-3-(3',5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと、上記の酸化防止剤(C)のサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)との組み合わせが最良であることが確認できた。また、表面に皮膜の発生も見られず、良好な状態であった。
【0017】
続いて、上記の酸化防止剤の組み合わせにおいて、最適な配合比を確かめる実験を行った。
実験方法は上記とほぼ同一であり、下記の配合比とした試料を加熱して溶融した状態とし、3つのビーカーに入れ、そのうち1つは初期状態を示すものとしてそのままとし、他の2つを180℃の熱風循環式オーブン中に配置し、配置後15時間経過後に1つを取り出し、72時間経過後に残りの1つを取り出し、各試料の色の変化を目視にて確認することによって行った。なお、変色に関する遅延効果の判定は、各配合比の試料の初期状態のものに対する相対比較で行った。
【0018】
本実験を行なった試料としては、ポリオレフィン樹脂の配合比が異なる2種を用意した。
第1グループの組成は、重量比で、ポリオレフィン樹脂78.80%、水添脂環族系炭化水素樹脂16.15%、ワックス4.75%、酸化防止剤(2種の合計)0.30%である。
第2グループの組成は、重量比で、ポリオレフィン樹脂49.85%、水添脂環族系炭化水素樹脂44.87%、ワックス4.99%、酸化防止剤(2種の合計)0.30%である。
【0019】
そして、上記各グループの試料において、酸化防止剤(A)と酸化防止剤(C)との重量比を2:1、1:1、1:2、1:3とした計8種の試料について実験を行なった。結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
第1グループと第2グループとの実験結果を総合すると、酸化防止剤(A)と酸化防止剤(C)との重量比が1:1〜1:2の範囲内、つまり、酸化防止剤(A)の酸化防止剤(C)に対する配合比が重量比で50%〜100%の範囲内において、加熱によるホットメルト接着剤の変色に関して高い遅延効果を有することが確認できた。
【0022】
また、本例の酸化防止剤(A)と酸化防止剤(C)とが配合されたもののコスト上昇は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(つまり酸化防止剤(A))単体のコストを基準とすると、1.1倍程度であり、従来のヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とが組み合わされたもののコスト上昇が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の単体コストを基準として1.6〜2.2倍であったことと比較すると、所望の変色遅延効果を得つつも、酸化防止剤のコスト上昇を抑え、ホットメルト接着剤の製造コストの上昇を最小限とすることができたと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリオレフィン樹脂とヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とが配合されたホットメルト接着剤であり、
上記のヒンダードフェノール系酸化防止剤とホスファイト系酸化防止剤とを合計したものの、ホットメルト接着剤の全成分中の配合比が、重量比で0.3%であり、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤のホスファイト系酸化防止剤に対する配合比が重量比で50%〜100%の範囲内であって、
上記のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが用いられ、
ホスファイト系酸化防止剤としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)が用いられたことを特徴とするホットメルト接着剤。

【公開番号】特開2006−348122(P2006−348122A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174508(P2005−174508)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(393000320)日東化成工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】