説明

ホルムアミド誘導体の製造方法

【構成】 第VIII族遷移金属錯体の存在下に、超臨界状態にある二酸化炭素と水素とを1級あるいは2級アミンもしくはこれに対応するカーバメートと反応さる。
【効果】 毒性の低い二酸化炭素を用い、高い反応速度で高効率でのホルムアミド誘導体の製造が可能になる。また、溶媒を使用しないため、分離操作も容易となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ホルムアミド誘導体の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、二酸化炭素と水素の混合物の超臨界状態での反応によって、従来の液相反応では、達成することのできない高い反応速度と高い収率による二酸化炭素と水素と1級あるいは2級アミン類との反応で、有機化学工業の原料あるいは極性溶媒として有用なホルムアミド誘導体を製造することのできる新しい方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその問題点】従来より、ホルムアミド誘導体は有機化学工業における基礎原料等として有用なものであり、各種化成品、プラスチック、医薬品、農薬等の諸分野に広く利用されていて、とりわけN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)は極性溶媒として多くの合成反応溶媒として広く用いられている。
【0003】また、これらのホルムアミド誘導体の製造方法としては、従来より、(1)アミンと一酸化炭素とを高温、高圧条件下で金属アルコラート触媒により合成する方法(DMF Dimethyl formamide chemical uses, E. I. du Pont de Nemours, 1967,217頁)、(2)アミンとギ酸メチルエステルとを一酸化炭素の雰囲気下で金属アルコラート触媒により合成する方法(DMF Dimethyl formamide chemical uses, E. I. du Pont de Nemours, 1967,217頁)、(3)一般的にカルボン酸やカルボン酸無水物あるいはカルボン酸ハロゲン化物さらにはカルボン酸のカーバメートなどのカルボン酸誘導体とアミンとの反応方法(The Chemistry of Amides J. Zabiscky 著に記載の方法やEPA0 062 161、およびDE2715044に記載の方法)が知られており、たとえば工業的なDMF製造については(1)および(2)方法が利用されている。
【0004】しかしながら、これら従来の方法の場合、たとえば方法(1)および(2)では毒性の高い一酸化炭素を高温、高圧で用いる必要があること、さらに(2)および(3)の方法では高温を必要とし、主原料であるカルボン酸誘導体を別途合成しなければいけないという欠点がある。また、その他の方法として、毒性の小さな二酸化炭素を用いる方法が知られている。二酸化炭素と水素とアミンとを金属錯体触媒を用いてホルムアミド誘導体を合成する方法で、触媒として1)銅、亜鉛、カドミウム、パラジウム、または白金のハロゲン化物あるいはそのホスフィンやアルシン錯体を用いる方法(US Patent 3 530 182)、2)コバルト、ロジウム、イリジウム、ルテニウムのホスフィン錯体を用いる方法(Tetrahedron Letters 1970年,5号,365頁あるいはJ. Mol. Catal, 1989年,L11頁)、3)塩化ルテニウムのホスフィン錯体を用いる方法(特開昭52−36617)、4)塩化ロジウムや塩化パラジウムのホスフィン錯体を用いる方法(Chem. Lett. 1977年,1495頁あるいはBull. Inst. Chem. Res., Kyoto Univ.,1981年,59巻、88頁)、5)白金のホスフィン錯体を用いる方法(J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1988年 602頁)などが知られている。
【0005】しかしながら、これら従来公知の方法の場合には、そのいずれのものも多量の溶媒を用いて反応させることが必要であることから、生成物であるギ酸と触媒および溶媒との分離に煩雑な操作が避けられず、さらにいずれの方法においても反応速度および収率が十分でなく必ずしも実用には適さないという欠点があった。このため、より簡便な操作で、生産性に優れ、しかも反応速度の大きな方法による新しいホルムアミド誘導体の製造方法の実現が求められていた。
【0006】この発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであって、従来の方法の欠点を解消し、反応速度が大きく、簡便な操作によって生産性の高いホルムアミド誘導体製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【問題点を解決する手段】この発明は、上記の課題を解決するものとして、第VIII族遷移金属錯体の存在下に超臨界状態にある二酸化炭素(scCO2 と表記)と水素と1級あるいは2級アミン類もしくはこれに対応するカーバメートとを反応させることを特徴とするホルムアミド誘導体の製造方法を提供する。
【0008】
【作用】すなわち、この発明は、二酸化炭素と水素と1級あるいは2級アミン類との反応を高効率で行なわせるための触媒の探索および反応系の検討を行なった結果、二酸化炭素を超臨界状態とし、水素と超臨界状態のscCO2 と1級あるいは2級アミン類を同一反応槽で反応させることにより反応速度の著しい向上を達成され、ホルムアミド誘導体の高効率な製造方法が実現されるとの知見が見出されたことから、この知見に基づいて完成されたものである。そして、実際にもこの発明は、既存の製造方法が有機溶媒を大量に用いることが不可欠であり、得られたホルムアミド誘導体と溶媒との煩雑な分離操作を必要としたが、このような不都合を解消すると同時に著しい反応速度と収率の向上を達成することが可能となる。さらにscCO2 を媒体とするため超臨界流体の特性から温度あるいは圧力をわずかに変化させるだけで触媒と生成物あるいは媒体であるscCO2 とを容易に分離でき、結果として無溶媒でホルムアミド誘導体製造することができるという大きな利点がある。
【0009】この発明の製造方法において使用することのできる第VIII族金属錯体は、たとえば、ロジウム、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、白金、コバルト、ニッケル等の第VIII族遷移金属の錯体であって、超臨界状態の二酸化炭素(scCO2 )中での反応を実現させるために不可欠のものである。この金属錯体は、いわゆる触媒、もしくは反応促進剤として考慮されるものである。均一系または不均一系として使用されるが、より好ましくは均一系反応とするために、scCO2に可溶であることが好ましい。
【0010】より具体的にはMXY(Ln)で示される化合物を用いることができる。このMXY(Ln)においては、Mは、ロジウム、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、または白金など金属を示し、X、Yとは、1価の化合物が好ましい場合には一般式としてはMXLnで示され、Xとしてはハロゲン酸基、カルボン酸基、炭酸基、炭酸水素基、水素基等が例示される。また、XとYがある場合には、これらの基の、同一または異なったものとすることができる。
【0011】中性配位子としては、scCO2 に可溶な有機配位子であり、CO、シクロペンタジエニル配位子、有機窒素化合物配位子、ホスフィン配位子PR1 2 3等とすることができる。たとえば、この場合、R1 ,R2 ,R3 は同じであっても異なってもかまわないが、脂肪族基、脂環族基、または芳香族基を示すことができる。更に、二座配位のホスフィン配位子であってもよい。たとえばトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、トリフルオロホスフィン、など第3ホスフィン、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイトなど第3ホスファイト、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノメタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジメチルホスフィンメタン、ジメチルホスフィノエタンなど二座配位の第3ホスフィン化合物等が好適なものとして例示される。
【0012】以上の錯体については、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金族のものが好ましく使用され、なかでも、とりわけルテニウム錯体が高い活性を有する。具体的にはRuH2 [P(CH3 3 4 、RuCl2 [P(CH3 3 4 、RuHCl[P(CH3 3 4 、RuH(CH3 COO)[P(CH3 3 3、RuH(HCOO)[P(CH3 3 3 、RuH2 [P(C6 5 3 4、RuHCl[P(C6 5 3 4 、RuH(CH3 COO)[P(C6 53 3 、RuH2 [P(CH3 2 (C6 5 )]4 、RuH2 [P(CH3)(C6 5 2 4 、RuCl2 [P(CH3 2 (C6 5 )]4 、RuCl2 [P(CH3 )(C6 5 2 4 、[Ru(CO)2 Cl2 2 、[Ru(CO)2 2 2 、[Ru(CO)3 Cl2 2 、Ru3 (CO)12、RuCl2 [(CH3 2 PCH2 CH2 P(CH3 2 2 、RuHCl[(CH32 PCH2 CH2 P(CH3 2 2 等が例示される。もちろん、この発明に用いられる錯体はこれらに何等限定されるものではない。
【0013】上記の第VIII族遷移金属錯体の使用量については、この発明が無溶媒であることを特徴とし、ホルムアミド誘導体の製造の生産性に依存するため特にその上限および下限はなく、scCO2 への溶解性、反応容器の大きさおよび経済性などにより適宜に選択される。好適には、触媒もしくは反応促進剤としての濃度は重量基準で50〜5,000ppmで好ましくは100〜1,000ppmとする。
【0014】また反応に用いられるアミン化合物は第1級または第2級アミンであり、一般式R1 NH2 またはR2 3 NH(式中、R1 、R2 、R3 は各々、炭素数1ないし10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれ同一あるいは異なる基を示し、環状アミンも含む)で表される。その例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、フェニルエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、フェニルエチルアミン、ピペリジン、ピペラジン、などが挙げられる。これらのアミン化合物は二酸化炭素と容易に反応し、対応する一般式(R1 NH3 )(R1 NHCO2 )または(R2 3 NH2 )(R2 3 NCO2 )で示されるカーバメートを与えるが、この発明においては、上記アミン化合物の対応するカーバメートをそのまま用いてもなんら反応に影響を与えることがないため、ジメチルアミンのごとくガス状になりやすい化合物の場合は、カーバメートを原料として用いることができる。これらの含窒素化合物の量は、特に限定されるものではないが、反応器のサイズにより規定される。適切には触媒または反応促進剤としての第III族金属錯体に対し、100〜1,000,000当量であり、好ましくは1000〜500,000当量が好ましい。
【0015】反応には、好ましくは次の条件が採用される。すなわち、二酸化炭素は一般に圧力72.9atm、温度31度が超臨界点であり、これ以上の圧力、温度で超臨界状態となる。二酸化炭素と水素ガスの混合ガスの臨界点はTsang, C. Y.とStreett, W. B.著のChem. Eng. Sci. 1981年,36巻、993−1000頁に記載された結果により推定される。それによると二酸化炭素は75〜500atmの範囲で、好ましくは75〜210atmが望ましい。また、水素ガスの圧力は20atm〜150atmの範囲で、好ましくは40〜100atmが望ましい。しかし反応は臨界点以下の条件でも、その状態に触媒が可溶であれば用いることができるという特徴を持つ。例えば実施例に示すがごとく二酸化炭素の圧力を10〜60atmで行うこともできる。反応温度は反応系が超臨界状態を維持する温度以上が必要であり、好ましくは40〜150℃が望ましい。
【0016】また、この発明における反応は反応形式がバッチ式においても、連続法においても実施することができる。反応時間は、その反応形式によっても異なるが、バッチ式において実施される場合、1時間から24時間が好ましい。以下実施例を示し、さらに詳しくこの発明方法について説明する。
【0017】
【実施例】
実施例1〜8図1に例示した反応装置を用いて反応を実施した。すなわち、反応器(オートクレーブ)に金属錯体とアミンもしくはカーバメートを入れ、水素ガスを圧入し、所定の温度まで加熱し、温度が一定になった時点で所定圧まで水素ガスを導入し、その後二酸化炭素を所定の圧力まで圧入し、反応を開始する。反応終了後、反応器を低温にし、反応器の内容物を液化し、その後の反応系を常温、常圧にもどした後に生成したホルムアミド誘導体はNMRおよびGCを用いて定量する。いずれの反応もクリーンに進行する。
【0018】より具体的には、表1に示した通り、第III 族金属錯体としてRuCl2 (P(CH3 3 4 (2.4〜2.5μmol)を用い、これとジメチルアミンもしくは対応するカーバメートを内容積50mlないし150mlのステンレス製の反応器(オートクレーブ)に仕込み、アルゴン置換をした後水素ガスを所定の圧力80atmまで上昇させ、さらに二酸化炭素を130atm圧入して全圧210atmで反応を開始した。反応後は上記の方法にしたがい生成物のDMFを定量した。その結果も表1に示した。なお表1のカーバメートはジメチルアミンのカーバメートを示す。
【0019】後述の比較例に比べて、はるかに高い反応速度による高効率でのDMF生成が可能とされていることがわかる。なお、ギ酸は反応時間とともに消失し、DMFを与える。
【0020】
【表1】


【0021】実施例9実施例1〜8の条件に於て二酸化炭素の圧力を60atmにして行なう以外は同様に反応を行なった。この結果も表1にあわせて示した。
比較例1〜2表2の通りの態様において反応を実施した。触媒の存在は必須であることがわかる。さらに実施例7と同一条件下でTHFを溶媒として用いると反応活性は著しく低下することがわかる。
【0022】
【表2】


【0023】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この発明により毒性の低い原料を用い、高い反応速度により高効率でのホルムアミド誘導体の製造が可能となる。また、溶媒を使用しないため、分離操作も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の反応装置の一例を示した構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第VIII族遷移金属錯体の存在下に、超臨界状態にある二酸化炭素と水素とを1級あるいは2級アミン類もしくはこれに対応するカーバメートと反応させることを特徴とするホルムアミド誘導体の製造方法。
【請求項2】 超臨界状態の二酸化炭素と水素と1級あるいは2級アミン類との均一相中で反応させる請求項1の製造方法。
【請求項3】 第VIII族遷移金属錯体がロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウムおよび白金属から選択される少くとも1種の金属の錯体である請求項1の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開平7−330698
【公開日】平成7年(1995)12月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−125402
【出願日】平成6年(1994)6月7日
【出願人】(390014535)新技術事業団 (20)
【出願人】(593182026)