説明

ボイラのブロー率算出方法及びブロー制御方法

【課題】流量計や電気伝導度センサーを用いることなく、ボイラのブロー率を正確に把握して所定値になるようにするボイラのブロー率算出方法と、ボイラの制御方法とを提供する。
【解決手段】軟水を補給水とする小型貫流ボイラにおいて、ボイラ水及び給水の水質から、ボイラのブロー率を算出する方法であって、(a)ボイラ水をサンプリングする前に、小型貫流ボイラを低燃焼又は高燃焼固定運転にする工程、(b)気水分離器からの降水管ラインよりボイラ水のサンプリングを行う工程、(c)給水のサンプリングを行う工程、及び(d)(b)・(c)工程でそれぞれサンプリングされたボイラ水及び給水の塩化物イオン濃度又はシリカ濃度に基づき、ボイラのブロー率を算出する工程、を施すボイラのブロー率算出方法。得られたブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御するボイラの制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボイラのブロー率算出方法及びブロー制御方法に関し、さらに詳しくは、ボイラ水及び給水の水質から、ボイラのブロー率を正確に把握する方法と、該ブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ボイラを長時間運転すると、缶水が濃縮し、キャリーオーバ現象等により蒸気の乾き度が低下してしまうので、適宜、缶水の入れ替えを行う必要がある。そのため、ブロー弁を備えたブローラインが付設され、このブロー弁の開閉を制御することにより、ブロー制御が行われている。
前記ブロー制御においては、たとえば、前記ブロー弁が給水ポンプの稼動、停止と連動させて開閉制御され、所定のブロー率(=ブロー量/給水量)になるように、前記ブロー弁の開閉時間や瞬間ブロー量(1秒あたりのブロー量)が設定されている。しかしながら、ボイラの運転状況によっては、ブロー率が変動することがある。たとえば、缶内圧力の変化、給水ポンプ能力の低下、給水配管の詰まりなどにより、単位時間あたりの給水量が変化し、ブロー率が変動する。この変動は、特に、給水ポンプの稼動、停止を水位検出器からの水位検出信号を基準に時間制御する場合に、顕著になる。ブロー率が高くなると、ブロー量過多で無駄に缶水を排出している状況になり、ブロー率が低くなると、ブロー量不足で缶水が過濃縮し、蒸気の乾き度が低下しやすくなる。
【0003】
ブロー率を算出する方法としては、従来流量計を用いる方法が知られているが、近年小型貫流ボイラの設置コストを下げる目的で、連続ブローラインに流量計が付設されないケースが増加している。
一方、特許文献1には、ある運転圧力において、電磁弁を通る単位時間あたりのブロー流量を予め計測しておき、連続ブローの電磁弁の開時間からブロー量を、給水ポンプの能力と稼動時間とから給水量を求め、ブロー率を算出する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、予め設定した濃縮ブロー率に基づいて、缶水の濃縮度を自動制御する制御システムにおいて、給水する水の電気伝導率の変化に対応し、予め設定した濃縮ブロー率を修正して缶水の濃縮度を自動制御するボイラの濃縮ブロー制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−126305号公報
【特許文献2】特開平7−167405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載されている技術においては、経年劣化により、給水ポンプが規定の能力を出せなくなったり、ブロー配管にスケールなどが付着したことで、電磁弁を通る単位時間あたりの流量が設定値と異なったりすることで、ブロー率の誤差が大きくなることがあるなどの問題があった。
また、特許文献2に記載されている技術においては、電気伝導度の測定に電気伝導度センサーが用いられているが、電気伝導度の検出は、電気伝導度センサーの汚れ等によっても影響を受けるため、保守が不十分であると正確な値を検出できなくなり、適正なブローを行えなくなるという欠点があった。
さらに、JIS B 8223(2006)には、各種ボイラにおいて、塩化物イオンを濃縮倍率(逆数をとることでブロー率となる。)の指標とすることが記載されているが、水質変動の大きな小型貫流ボイラにおいては、数値のバラつきが大きく、正確な値を求めることは困難であるため、塩化物イオンを濃縮倍率の指標としていない。
本発明は、このような状況下になされたものであり、小型貫流ボイラにおいて、流量計や電気伝導度センサーを用いることなくボイラのブロー率を正確に算出する方法と、この算出結果に基いて該ブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御する方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
ブロー率の算出は、流量計や電気伝導度センサーを用いずに、ボイラ水及び給水の水質に基づき行うが、小型貫流ボイラは、ボイラ水の水質が変動しやすく、サンプリング箇所やサンプリングタイミングによっては、水質から求められるブロー率は、数%程度誤差が生じることが分かった。
そこで、サンプリング箇所及びサンプリングタイミングを特定化することにより、正確にブロー率を算出し得ることを見出した。特に、ボイラ水及び給水中のシリカは塩化物イオンと比較して濃度が高いことが多いため、シリカに基いてブロー率を算出した方が誤差が生じ難く、より正確にブロー率を算出し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1]軟水を補給水とする小型貫流ボイラにおいて、ボイラ水及び給水の水質から、該ボイラのブロー率を算出する方法であって、(a)前記ボイラ水をサンプリングする前に、当該小型貫流ボイラを燃焼固定運転にする工程、(b)気水分離器からの降水管ラインより、前記ボイラ水のサンプリングを行う工程、(c)前記給水のサンプリングを行う工程、及び(d)上記(b)工程及び(c)工程でそれぞれサンプリングされたボイラ水及び給水の塩化物イオン濃度又はシリカ濃度に基づき、前記ボイラのブロー率を算出する工程、を施すことを特徴とするボイラのブロー率算出方法。
[2](b)工程におけるボイラ水のサンプリングを、連続ブローが行われる直前に実施する前記[1]のボイラのブロー率算出方法。
[3](d)工程におけるボイラ水及び給水のシリカ濃度に基づき、ボイラのブロー率を算出する前記[1]又は[2]のボイラのブロー率算出方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかのブロー率算出方法によって得られたブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御することを特徴とするボイラの制御方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボイラ水及び給水の水質から、ボイラのブロー率を正確に算出する方法と、該ブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係るボイラのブロー率算出方法及びボイラの制御方法について説明する。
〔ボイラのブロー率算出方法〕
本発明に係るボイラのブロー率算出方法は、軟水を補給水とする小型貫流ボイラにおいて、ボイラ水及び給水の水質から、該ボイラのブロー率を算出する方法であって、下記(a)〜(d)工程を施すことを特徴とする。
このようなボイラのブロー率算出方法によれば、小型貫流ボイラの運転負荷を低燃焼又は高燃焼で固定することにより、ボイラ水中の塩化物イオン濃度及びシリカ濃度の変動が小さくなり、ブロー率を正確に算出することができる。
【0011】
(小型貫流ボイラ)
本発明のボイラ水のブロー制御方法においては、ボイラとして軟水を補給水とする小型貫流ボイラが用いられる。
貫流式ボイラは、管の一端から給水された水が長い管内で加熱、蒸発、過熱されて、管の他端より過熱蒸気を得るボイラである。したがって、自然循環式や強制循環式ボイラと異なり、管群で構成されるため高圧蒸気の発生に適しており、産業用発電ボイラから超臨界圧の事業用発電ボイラとして使用されている。
小型貫流ボイラは管によって構成されているが、気水分離器を有し、分離後の熱水を再び加熱管に戻す水管ボイラで、最大給水量に対する循環水量の比が2以下のものをいう。小型貫流ボイラには単管式と多管式があり、多管式が広く用いられている。
【0012】
小型貫流ボイラは、貫流ボイラの区分のうち伝熱面積30m2以下のボイラの総称であり、一般には伝熱面積10m2未満で圧力10kgf/cm2以下のボイラが多い。
小型貫流ボイラは限られた伝熱面積(一般に10m2未満)の中で一般に換算蒸発量100〜2,000kg/hのものがあり、伝熱面蒸発率(kg/m2h)で比較すると蒸発量の大きいものでは、水管ボイラとほぼ同等の負荷がかかっている。また蒸発量に対する保有水量は丸ボイラや水管ボイラの1/2〜1/10程度と少なく、これらのボイラに比べて短時間で濃縮度が高くなる。
したがって、スケール付着が発生しやすく、スケール付着を防止するために、一般の産業用ボイラ(丸ボイラ、水管ボイラ)以上に軟水管理や薬注管理を十分に行うことが必要である。
【0013】
本発明のボイラのブロー算出方法においては、ボイラ水及び給水の水質からボイラのブロー率を正確に算出するために、以下に示す(a)工程、(b)工程、(c)工程及び(d)工程を施す。
ボイラ水及び給水中の溶存物質濃度の濃縮による上昇は、随時その時点でのブロー率が反映されるため、給水ポンプの経年劣化などの影響を受けることなく、ブロー率を算出することができる。
【0014】
((a)工程)
この(a)工程は、前記ボイラ水をサンプリングする前に、当該小型貫流ボイラを低燃焼又は高燃焼固定運転にする工程である。
前述した小型貫流ボイラのボイラ水質は変動しやすいので、この(a)工程においては、小型貫流ボイラの運転負荷を連続燃焼させることで、ボイラ水の濃度がなるべく均一になるようにする。
【0015】
((b)工程)
この(b)工程は、気水分離器からの降水管ラインより、ボイラ水のサンプリングを行う工程である。
ボイラ水のサンプリングは、ブロー直前に気水分離器の降水管ラインで行うことにより、最も濃縮の高いボイラ水をサンプリングすることができ、正しい濃縮倍数及びブロー率の算出を行うことができる。このサンプリングは、複数回(好ましくは3回以上)行うことで、給水水質の変動によって生じる誤差を緩和することができる。
【0016】
((c)工程)
この(c)工程は、給水のサンプリングを行う工程であり、前記(b)工程におけるボイラ水のサンプリングと同時に、複数回(好ましくは3回以上)行うことが望ましい。サンプリング箇所については、給水がサンプリングできる箇所であればよく、特に制限はない。
【0017】
((d)工程)
この(d)工程は、上記(b)工程及び(c)工程でそれぞれサンプリングされたボイラ水及び給水の塩化物イオン濃度又はシリカ濃度に基づき、ボイラのブロー率を算出する工程である。
塩化物イオン濃度を濃縮倍数の指標とすることは、JIS B 8223(2006)に記載されている。一方、シリカについても、低圧の小型貫流ボイラではシリカの選択的キャリーオーバーが0.001%以下であるため、給水に復水及び水処理薬品由来でシリカの混入がない限り、濃縮倍数の指標とすることが可能である。
なお、国内のボイラ給水中の塩類のうち、塩化物イオンや硫酸イオンに比べて、シリカの方が濃度が高いケースが多く、ブロー率を算出した際に誤差が生じにくく、かつ有効数字が二桁取れるため、シリカ濃度を指標とすることで、高い精度のブロー率が算出できる。ただし、本発明によると、運転負荷を低燃焼又は高燃焼で固定することで、ボイラ水の濃度が均一になるようにするため、塩化物イオン濃度に基いても高い精度のブロー率が算出できる。
【0018】
本発明においては、ボイラのブロー率は、以下のようにして算出する。
まず、複数回サンプリングしたボイラ水及び給水中の平均塩化物イオン濃度又はシリカの平均濃度を求め、式(1)により平均濃縮倍数NAVを求めると共に、式(2)によりボイラの平均ブロー率BAVを算出する。
AV=(ボイラ水の平均塩化物イオン濃度又は平均シリカ濃度)/(給水の平均塩化物イオン濃度又は平均シリカ濃度) (1)
AV=(1/NAV)×100 (2)
なお、前述した理由から、式(1)において、ボイラ水及び給水の平均塩化物イオン濃度よりも、平均シリカ濃度を採用することが好ましい。
【0019】
[ボイラのブロー制御方法]
本発明のボイラのブロー制御方法は、前述した手法を用いてボイラのブロー率を正確に算出し、このブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御する方法である。このブロー制御方法によれば、ボイラの運転状況が変化しても、所定のブロー率になるようにブロー弁を制御し、適正なブローを行うことにより、小型貫流ボイラにおけるボイラ水の水質を適正に管理することができる。
また、前述した手法を用いて、ブロー率を正確に求めることで、ボイラ水処理薬品を適用する際の使用決めや水質管理を従来以上の正確さで実施できる。さらに、ボイラの省エネルギー計算(ブロー量を削減した際のメリットなどやボイラ効率の算出)についてもより正確に行うことができ、省エネルギー、省コストの計画と評価が高い精度で実施できる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
参考例1
実機小型貫流ボイラ(伝熱面積10m2、圧力1MPa以下)において、給水流量計と、ブローラインに設置したタービン式の流量計の値からブロー率を算出した。流量を計測した時間は3時間であった。ブロー率の算出条件及び算出されたブロー率を第1表に示す。
【0021】
実施例1
参考例1で用いた同じボイラにおいて、低燃焼固定運転(運転条件:0.7MPa)において、給水及びボイラ水をそれぞれ5回サンプリングして、給水中の平均シリカ濃度及び平均塩化物イオン濃度、並びにボイラ水中の平均シリカ濃度及び平均塩化物イオン濃度を求め、その値から平均ブロー率を算出した。
ブロー率の算出条件及び算出された平均ブロー率を第1表に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
第1表から分かるように、参考例1における流量計の値から求めたブロー率と、実施例1における平均シリカ濃度から求めた平均ブロー率は一致したが、平均塩化物イオン濃度から求めた平均ブロー率は一致しなかった。これは給水中の平均塩化物イオン濃度が低いために、有効数字が1桁しか取れていないことに由来すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係るボイラのブロー率算出方法及びボイラのブロー制御方法は、軟水を補給水とする小型貫流ボイラにおいて、ボイラ水及び給水の水質から、該ボイラのブロー率を正確に算出する方法、及びこのブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御する方法であって、ボイラの運転状況が変化しても、所定のブロー率になるようにブロー弁を制御し、適正なブローを行うことにより、小型貫流ボイラにおけるボイラ水の水質を適正に管理することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟水を補給水とする小型貫流ボイラにおいて、ボイラ水及び給水の水質から、該ボイラのブロー率を算出する方法であって、
(a)前記ボイラ水をサンプリングする前に、当該小型貫流ボイラを燃焼固定運転にする工程、
(b)気水分離器からの降水管ラインより、前記ボイラ水のサンプリングを行う工程、
(c)前記給水のサンプリングを行う工程、及び
(d)上記(b)工程及び(c)工程でそれぞれサンプリングされたボイラ水及び給水の塩化物イオン濃度又はシリカ濃度に基づき、前記ボイラのブロー率を算出する工程、
を施すことを特徴とするボイラのブロー率算出方法。
【請求項2】
(b)工程におけるボイラ水のサンプリングを、連続ブローが行われる直前に実施する請求項1に記載のボイラのブロー率算出方法。
【請求項3】
(d)工程におけるボイラ水及び給水のシリカ濃度に基づき、ボイラのブロー率を算出する請求項1又は2に記載のボイラのブロー率算出方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブロー率算出方法によって得られたブロー率が所定の値になるようにボイラ水のブローを制御することを特徴とするボイラの制御方法。

【公開番号】特開2012−255627(P2012−255627A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130013(P2011−130013)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)