説明

ボビンホルダ

【課題】ホルダ部材を高速に回転させて、ホルダ部材に保持された複数のボビンに迅速に糸を巻き取る。
【解決手段】ボビンホルダ5は、軸中心に回転可能な巻取軸23と、巻取軸23の先端に連結され、複数のボビンを着脱自在に支持する円筒状のホルダ部材25とを有している。ホルダ部材25には、周方向に間隔をあけて複数配置され、さらに軸方向に複数並んで配置された凹部25bが形成されている。ボビンホルダ5は、さらに、複数の凹部25bに対応して配置された複数のチャックピースを有している。複数のチャックピースは、ホルダ部材25に装着された複数のボビンを保持するものであり、ホルダ部材25に装着されたボビンを押圧可能なチャックと、チャックをボビンに接近及び離反する径方向に移動させるピースと、ピースを軸方向に関してチャックに近づく方向(前方)に付勢するバネとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取る糸巻取装置の複数のボビンを保持するボビンホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡糸機などから供給される複数本の糸がそれぞれ巻き取られる複数のボビンを保持するボビンホルダを有する糸巻取装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の糸巻取装置のボビンホルダは、軸中心に回転可能な巻取軸にホルダ部材が連結されて構成されている。ホルダ部材の外周のボビン装着位置には、全周にわたる所定幅の溝が複数形成されている。各溝には、軸方向に対して傾斜した傾斜外周面を有する複数のピースが連結されて構成された、軸方向に移動可能な環状の作動リングと、作動リングの傾斜外周面に対応した傾斜内周面を有し、周方向に間隔をあけて作動リング上に並んだ複数のチャックと、作動リングを軸方向に移動させるバネと、が配置されている。
【0003】
バネに付勢されて作動リングが軸方向に関して複数のチャックに近づく方向に移動すると、複数のチャックは、作動リングの傾斜外周面に沿って、ホルダ部材の径方向外側に移動し、ホルダ部材に装着された複数のボビンを径方向外側に押圧して把持する。このようにして、ボビンホルダに装着された複数のボビンを保持する。また、作動リングが軸方向に関して複数のチャックから遠ざかる方向に移動すると、複数のチャックは、作動リングの傾斜外周面に沿って、ホルダ部材の径方向内側に移動し、ホルダ部材に装着された複数のボビンの押圧を解除する。このようにして、ボビンホルダに装着された複数のボビンを開放する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−32451号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、巻取軸が回転すると、ホルダ部材も巻取軸と一体回転して、ホルダ部材に保持された複数のボビンに糸の巻き取りが可能になるが、ホルダ部材の回転にともない生じる振動の周波数が、ホルダ部材の形状や剛性によって定まる固有の共振周波数に近づくと、ホルダ部材は共振して大きく振動してしまい、糸の巻き取りが不可能となってしまう。特許文献1に記載の糸巻取装置においては、複数のピースが連結された作動リングが環状であるため、この環状の作動リングを収容するために、ホルダ部材に全周にわたって溝が形成されており、その溝は、ホルダ部材の軸方向に複数形成されている。このように、複数の溝が形成されていると、ホルダ部材の剛性が低下して、共振周波数が低下してしまう。共振周波数が低下すると、ホルダ部材の回転にともない生じる振動の周波数が遅い回転速度で共振周波数に達してしまい、高速で糸を巻き取ることが困難となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ホルダ部材の剛性低下を最小限にして、共振周波数を高くすることで、ホルダ部材を高速に回転させて、ホルダ部材に保持された複数のボビンに迅速に糸を巻き取ることができるボビンホルダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のボビンホルダは、複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取る糸巻取装置の前記複数のボビンを保持するボビンホルダであって、巻取軸と、円筒状に形成され、前記巻取軸に連結されたホルダ部材と、前記ホルダ部材の外周部にその長手方向に並べて装着される前記複数のボビンを、前記ホルダ部材にそれぞれ固定する複数のボビン固定手段と、を備えており、前記ホルダ部材の外周部の前記複数のボビンが装着される位置に、前記複数のボビン固定手段をそれぞれ収容する複数の収容部が形成されており、少なくとも一部の前記収容部は、前記ホルダ部材の外周部において周方向に間隔をあけて配置された複数の凹部を有し、各ボビン固定手段は、対応する前記収容部の前記複数の凹部内にそれぞれ収容された、前記ホルダ部材の径方向に移動可能であり、前記巻取軸の軸方向に対して傾斜した第1傾斜面を有し、前記ホルダ部材に装着された前記ボビンを内側から押圧して把持する複数のチャックと、前記ホルダ部材に対して前記軸方向に相対移動可能であり、前記第1傾斜面と対応する第2傾斜面を有し、前記複数のチャックを前記第2傾斜面に沿って前記径方向外側に押し出す複数の押出部材と、前記複数の押出部材を前記軸方向に移動させる駆動手段と、を有している。
【0008】
本発明のボビンホルダによると、複数の押出部材は、ホルダ部材の周方向に間隔をあけて配置されており、ホルダ部材には、複数の押出部材が配置される領域にだけ凹部が形成されている。したがって、ホルダ部材の剛性低下を最小限にすることができ、共振周波数を高くすることができる。これにより、巻取軸とともにホルダ部材を高速に回転させることができ、ホルダ部材に保持された複数のボビンに迅速に糸を巻き取ることができる。
【0009】
また、前記複数の収容部のうち、前記ホルダ部材の前記巻取軸との連結部に近い位置に配置された前記収容部ほど、周方向に配置された前記複数の凹部の周長の総和が小さくなっていることが好ましい。これによると、ホルダ部材の連結部に近い位置に配置された収容部ほど、複数の凹部の周長の総和を小さくして、剛性低下を低減している。また、ホルダ部材の巻取軸との連結部から離れた領域においては、共振周波数を高くするためには、剛性を上げるよりも重量低減の効果が大きい。そこで、凹部の数を増やすなどして、軽量化することで、共振周波数を高くすることができる。
【0010】
さらに、前記複数の収容部のうち、前記ホルダ部材の前記巻取軸との連結部に近い位置する一部の前記収容部においては、前記複数の凹部が周方向に間隔をあけて配置され、前記一部の収容部よりも前記ホルダ部材の前記巻取軸との連結部から離れた位置にある前記収容部においては、前記複数の凹部が周方向に連結されて環状溝を構成していることが好ましい。これによると、ホルダ部材の巻取軸との連結部から離れた領域は、軽量化されるため、共振周波数を高くすることができる。
【0011】
加えて、前記軸方向に関して互いに隣接する2つの前記収容部のうち、一方の前記収容部に属する複数の前記凹部と、他方の前記収容部に属する複数の前記凹部は、周方向に関してずれて形成されていることが好ましい。これによると、ホルダ部材の軸方向に関する局所的な剛性の変化が起きにくく、全体的に剛性が上がるため、共振周波数をより高くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
ホルダ部材の剛性低下を最小限にして、共振周波数を高くすることで、巻取軸とともにホルダ部材を高速に回転させることが可能となり、ホルダ部材に装着された複数のボビンに迅速に糸を巻き取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る糸巻取装置の側面図である。
【図2】糸巻取装置の正面図である。
【図3】ボビンホルダの斜視図である。
【図4】ボビンホルダの軸方向に沿った断面図である。
【図5】図4のチャックピース近傍の拡大図である。
【図6】変形例1におけるボビンホルダの斜視図である。
【図7】変形例2におけるボビンホルダの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る糸巻取装置の側面図である。図2は、糸巻取装置の正面図である。図1に示すように、糸巻取装置1には、図示しない紡糸機から複数本の糸Yが連続的に供給される。そして、糸巻取装置1は、紡糸機から供給された複数本の糸Yを、複数のボビン9にそれぞれ巻き取って複数のパッケージ10を形成する。
【0015】
図1及び図2に示すように、糸巻取装置1は、本体フレーム2と、この本体フレーム2に上下方向に移動可能(昇降可能)に設けられた昇降枠3と、本体フレーム2に回転可能に設けられた円板状のターレット4と、ターレット4に一端が支持されるとともに、複数のボビン9が装着される2本のボビンホルダ5と、ボビン9に巻き取られる糸Yを綾振るトラバース装置6と、巻取位置P1(図2参照)にあるボビンホルダ5に装着されたボビン9に接触するコンタクトローラ7などを備えている。なお、本実施形態においては、ボビンホルダ5のターレット4に支持された基端側から支持されていない開放端側に向かう方向(図1の右から左へ向かう方向)を前方とし、反対方向を後方として、以下説明する。
【0016】
円板状のターレット4は、本体フレーム2の鉛直面に平行な姿勢で、本体フレーム2に回転可能に設けられている。ターレット4の回転中心に対して互いに対称な2つの位置には、2本のボビンホルダ5がそれぞれ回転可能に突設されている。2本のボビンホルダ5は、ターレット4に一端が支持されており、前方に向かって延在している。そして、これら2本のボビンホルダ5は、ターレット4と一体的に回転するようになっている。2本のボビンホルダ5には、それぞれ複数のボビン9が、ボビンホルダ5の軸方向に直列に並べて装着されている。
【0017】
ターレット4は、図示しないモータにより回転駆動される。ターレット4が回転することにより、2本のボビンホルダ5は、コンタクトローラ7に接触してボビン9に糸Yを巻取る巻取位置P1と、巻取位置P1よりも下方であり、巻取位置P1とターレット4の回転中心に関して点対称な位置である待機位置P2とにわたって移動可能である。巻取位置P1にあるボビンホルダ5に装着されたボビン9に糸が巻き取られ、パッケージ10が形成されると、この巻取位置P1に位置するボビンホルダ5と待機位置P2に位置するボビンホルダ5とは切り換えられる。
【0018】
ターレット4に支持された2本のボビンホルダ5は、図示しないモータによりそれぞれ回転駆動される。そして、巻取位置P1にあるボビンホルダ5が回転することによって、このボビンホルダ5に装着された複数のボビン9に複数の糸Yがそれぞれ巻き取られる。
【0019】
昇降枠3は、ボビンホルダ5の軸方向に延びる長尺なフレームである。この昇降枠3は、ボビンホルダ5と平行な姿勢で、その長手方向基端部において上下方向(ボビンホルダ5に対して接離する方向)に移動可能(昇降可能)に本体フレーム2に支持されている。昇降枠3は、本体フレーム2に固設された図示しないシリンダのロッドと連結され、シリンダを駆動することで、上下方向に移動する。
【0020】
トラバース装置6は、昇降枠3に設けられている。トラバース装置6は、巻取位置P1にあるボビンホルダ5に装着された複数のボビン9にそれぞれ対応する、複数のトラバースガイド6aを有している。複数のトラバースガイド6aに複数の糸Yがそれぞれ掛けられた状態で、トラバース装置6が、ボビンホルダ5の軸方向(図2の紙面垂直方向)に関して、複数のトラバースガイド6aを所定のトラバース範囲で往復移動させることで、複数の糸Yはそれぞれ綾振られながら対応するボビン9に巻き取られる。
【0021】
昇降枠3には、コンタクトローラ7を支持する支持フレーム11が連結されている。支持フレーム11の長手方向両端部には、コンタクトローラ7を回転自在に支持する2つの支持部11aがそれぞれ設けられている。この支持フレーム11は、昇降枠3の長手方向に長尺であり、その長手方向両端部に設けられた案内プレート12を介して、昇降枠3に対して上下方向に移動可能に連結されている。
【0022】
コンタクトローラ7は、ボビンホルダ5と平行な状態で、支持フレーム11の2つの支持部11aに支持されている。また、コンタクトローラ7は、巻取位置P1にあるボビンホルダ5に装着された複数のボビン9、または、ボビン9に糸Yが巻き取られて形成されたパッケージ10の外周面に接触可能である。コンタクトローラ7は、ボビン9への糸巻取時には、パッケージ10に所定の接圧を付与しながら回転して、パッケージ10の形状を整える。また、支持フレーム11とコンタクトローラ7は、案内プレート12により案内されながら、巻取位置P1にあるボビン9に近接する方向(下方向)及びこのボビン9から離れる方向(上方向)へ昇降枠3に対する相対位置を変えることができる。
【0023】
次に、ボビンホルダ5について図3〜5を参照して詳細に説明する。図3は、ボビンホルダの斜視図である。図4は、ボビンが装着されたボビンホルダの軸方向に沿った断面図である。図5は、図4のチャックピース近傍の拡大図であり、(a)はボビン開放時であり、(b)はボビン保持時である。なお、図3に示すボビンホルダの斜視図では、ホルダ部材に装着されるスリーブ及びチャックピースからなるチャック装置の図示を省略している。
【0024】
図3及び図4に示すように、ボビンホルダ5は、一端がターレット4の前面に接続され、前方に突出した円筒状の支持部材21と、支持部材21の内周面に固設された軸受22a、22bを介して回転自在に支持された巻取軸23と、巻取軸23の先端に連結され、複数のボビン9が装着される円筒状のホルダ部材25と、ホルダ部材25内に配置されたシリンダ26と、ホルダ部材25の前方に設けられ、シリンダ26の先端から突出したピストンロッド27に連結されたキャップ28と、ホルダ部材25の外周に装着されたチャック装置30などを有している。
【0025】
ホルダ部材25は、径方向内側に突出した連結部25aが巻取軸23の先端に連結されることで、巻取軸23に連結されている。そして、巻取軸23に連結されたモータ24が駆動し、巻取軸23が回転することにより、ホルダ部材25は連結部25aにより巻取軸23と一体となって軸中心に回転する。また、ホルダ部材25は、径方向外側に開口した複数の凹部25bを有している。複数の凹部25bは、周方向に間隔をあけて配置されて凹部群29(収容部)を構成しており、この凹部群29は、軸方向に複数並んで配置されている。複数の凹部群29は、ホルダ部材25に装着される複数のボビン9の前端と後端の位置に対応してそれぞれ配置されている。また、各凹部群29に属する複数の凹部25bは、他の凹部群29に属する複数の凹部25bと周方向に関して同じ位置となっている。
【0026】
シリンダ26は、ホルダ部材25内において、巻取軸23の前方に配置されており、前方に向かってピストンロッド27が突出している。シリンダ26は、駆動することで、ピストンロッド27を軸方向に往復移動させる。キャップ28は、ホルダ部材25の外径よりも大きく、ホルダ部材25に装着された複数のボビン9の内径よりも小さな径の円板状をしており、その面中心にピストンロッド27の先端部が連結されている。
【0027】
チャック装置30は、複数の凹部25bの位置に対応して設けられた複数のチャックピース31(ボビン固定手段)と、ホルダ部材25の外周に装着され、複数のチャックピース31をそれぞれ露出させる複数の開口32aを有しているスリーブ32とで構成されている。
【0028】
複数のチャックピース31は、ホルダ部材25に装着された複数のボビン9を保持するものであり、複数の凹部25bに対応して周方向に間隔をあけて複数配置され、さらに軸方向に複数並んで配置されている。図5に示すように、各チャックピース31は、ホルダ部材25の凹部25bに収容されており、ホルダ部材25に装着されたボビン9を押圧可能なチャック35と、チャック35をボビン9に接近及び離反する径方向に移動させるピース36(押出部材)と、ピース36を軸方向に関してチャック35に近づく方向(前方)に付勢するバネ37(駆動手段)とを有している。
【0029】
チャック35は、凹部25bの前方側面と接触しており、ホルダ部材25に装着されたボビン9の内周面と対向する対向面35aと、後方に向かうにつれて径方向外側に傾斜した傾斜面35bとを有している。ピース36は、凹部25bの下面と接触しており、チャック35の傾斜面35bに接触し、この傾斜に沿った傾斜面36aと、後端から後方に向かって延在し、ホルダ部材25の外周面よりも径方向外側に突出した凸部36bとを有している。バネ37は、ピース36よりも後方であって、凸部36bの径方向内側に配置されており、ピース36を前方に付勢している。
【0030】
スリーブ32は、円筒状をしており、ホルダ部材25に装着される。また、スリーブ32には、複数のチャックピース31(凹部25b)に対応して厚み方向に貫通した複数の開口32aが形成されている。スリーブ32は、各開口32aの後方端において径方向内側に突出する突出部32bを有しており、この突出部32bはピース36の凸部36bと摺動可能に配置されている。
【0031】
ピース36がバネ37により前方に付勢されており、ピース36の凸部36bとスリーブ32の突出部32bは係合していることから、スリーブ32は、バネ37によりピース36とともに前方に付勢されることとなる。前方に付勢されたスリーブ32とキャップ28は、微小な距離、もしくは、チャック35がボビン9を把持する力を妨げない程度の反力で接触している。
【0032】
次に、ボビンホルダ5に複数のボビン9を装着し、保持する動作について説明する。まず、ホルダ部材25に固定されたシリンダ26を駆動して、ピストンロッド27を後方に移動させ、ピストンロッド27に連結されたキャップ28をホルダ部材25に対して後方に相対移動させる。そして、キャップ28とともにスリーブ32をホルダ部材25に対して後方に相対移動させ、図5(a)に示すように、スリーブ32の突出部32bがピース36の凸部36bと係合していることで、スリーブ32とともにピース36をバネ37の付勢力に抗して、凹部25b内において後方に移動させる。その後、ピース36の傾斜面36aに沿って、チャック35を摺動させて径方向内側に移動させる。そして、チャック35の対向面35aがホルダ部材25の外周面から突出しない位置までチャック35を移動させた上で、シリンダ26の駆動を停止させる。これにより、ボビンホルダ5に複数のボビン9を装着可能となる。
【0033】
続いて、ボビンホルダ5のターレット4に支持されていない側の端部から複数のボビン9を軸方向に直列に装着する。そして、シリンダ26内の流体圧力を減じることにより、リターンスプリング33に抗う力がなくなり、ピストンロッド27及びキャップ28は、リターンスプリング33の力により前方に移動する。また、バネ37の力によりピース36及びスリーブ32は、前方に移動するとともに、チャック35はピース36の傾斜面36aに沿って径方向外側に移動する。すると、チャック35の対向面35aはボビン9の内周面に接触し、ボビン9はバネ37によって発生する力により強固に把持される。このようにして、複数のチャック35は、複数のボビン9の内周面における前端及び後端を周方向に間隔をあけて押圧し、ボビンホルダ5に装着された複数のボビン9を把持する。
【0034】
一方、巻取軸23などを含めたボビンホルダ5のような回転体は、高速域まで回転させて共振周波数に達すると、激しく振動し回転不可能となる。なお、本実施形態においては、この回転体の共振周波数は、ホルダ部材25の形状に支配的であることが知られている。したがって、ホルダ部材25の共振周波数を高くすることが重要であることは公知である。
【0035】
仮に、周方向に配置された複数のチャックピース31のピース36を連結している場合には、連結された複数のピース36をホルダ部材25に配置するために、ホルダ部材25の全周にわたって溝を形成する必要があるが、この場合、ホルダ部材の剛性が著しく低下してしまう。そこで、本実施形態においては、複数のチャックピース31が収容される領域にのみ凹部25bを形成し、ホルダ部材の剛性低下を最小限にして、共振周波数を高くしている。これにより、巻取軸23とともにホルダ部材25を高速に回転させても、ボビンホルダ5の振動の周波数は共振周波数に達することがなく、ホルダ部材25に保持された複数のボビン9に迅速に糸を巻き取ることができる。
【0036】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。ただし、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0037】
本実施形態においては、ホルダ部材25には、規則的に複数の凹部25bが形成され、ホルダ部材25の剛性低下を軸方向のどの位置においても一様に低減していたが、ホルダ部材25の巻取軸23との連結部25aから軸方向に関して離れた領域においては、剛性低下よりも軽量化を重視してもよい。つまり、ホルダ部材25の、巻取軸23との連結部25a近傍に位置する凹部群29に属する複数の凹部25bの周長の総和は、連結部25aから離れた領域に位置する凹部群29に属する複数の凹部25bの周長の総和よりも小さくなっていてもよい。
【0038】
具体的には、例えば、周方向に間隔をあけて配置された複数のピース36が連結されてリング状となっており、その連結された複数のピース36を収容するように、図6に示すように、全周にわたって溝125bが形成されてもよい(変形例1)。これは、ボビンホルダ5の長さが長くなるにつれて、ホルダ部材25の巻取軸23との連結部25aから離れた領域は、軽量化を行ったほうが共振周波数を高くするためには効果があり、図6に示すように、端部の軽量化を図ることで、さらに共振周波数を高くすることができる。極めて長いホルダ部材の場合には、本変形例が有効である。
【0039】
また、本実施形態においては、軸方向に関して隣接する2つの凹部群29のうち、一方の凹部群29に属する複数の凹部25bと、他方の凹部群29に属する複数の凹部25bは、周方向に関して同じ位置に形成されていたが、例えば、図7に示すように、凹部群125aとこれに隣接する凹部群125bとは、周方向に関してずれて形成されていてもよい(変形例2)。これによると、ホルダ部材25の軸方向に関する局所的な剛性の変化が起きにくく、全体的に剛性も上がるため、共振周波数をより高くすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 糸巻取装置
5 ボビンホルダ
9 ボビン
25 ホルダ部材
25b 凹部
29 凹部群
31 チャックピース
35 チャック
36 ピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸を複数のボビンにそれぞれ巻き取る糸巻取装置の前記複数のボビンを保持するボビンホルダであって、
巻取軸と、
円筒状に形成され、前記巻取軸に連結されたホルダ部材と、
前記ホルダ部材の外周部にその長手方向に並べて装着される前記複数のボビンを、前記ホルダ部材にそれぞれ固定する複数のボビン固定手段と、を備えており、
前記ホルダ部材の外周部の前記複数のボビンが装着される位置に、前記複数のボビン固定手段をそれぞれ収容する複数の収容部が形成されており、
少なくとも一部の前記収容部は、前記ホルダ部材の外周部において周方向に間隔をあけて配置された複数の凹部を有し、
各ボビン固定手段は、対応する前記収容部の前記複数の凹部内にそれぞれ収容された、
前記ホルダ部材の径方向に移動可能であり、前記巻取軸の軸方向に対して傾斜した第1傾斜面を有し、前記ホルダ部材に装着された前記ボビンを内側から押圧して把持する複数のチャックと、
前記ホルダ部材に対して前記軸方向に相対移動可能であり、前記第1傾斜面と対応する第2傾斜面を有し、前記複数のチャックを前記第2傾斜面に沿って前記径方向外側に押し出す複数の押出部材と、
前記複数の押出部材を前記軸方向に移動させる駆動手段と、を有することを特徴とするボビンホルダ。
【請求項2】
前記複数の収容部のうち、前記ホルダ部材の前記巻取軸との連結部に近い位置に配置された前記収容部ほど、周方向に配置された前記複数の凹部の周長の総和が小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載のボビンホルダ。
【請求項3】
前記複数の収容部のうち、前記ホルダ部材の前記巻取軸との連結部に近い位置する一部の前記収容部においては、前記複数の凹部が周方向に間隔をあけて配置され、
前記一部の収容部よりも前記ホルダ部材の前記巻取軸との連結部から離れた位置にある前記収容部においては、前記複数の凹部が周方向に連結されて環状溝を構成していることを特徴とする請求項2に記載のボビンホルダ。
【請求項4】
前記軸方向に関して互いに隣接する2つの前記収容部のうち、一方の前記収容部に属する複数の前記凹部と、他方の前記収容部に属する複数の前記凹部は、周方向に関してずれて形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のボビンホルダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−105472(P2011−105472A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263517(P2009−263517)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)