説明

ポリアミド繊維

【課題】複写機、エアコン、空気清浄機、プリンター等から発生するVOCや臭気ガス等を効率よく除去することができるポリアミド繊維であって、暗所な環境下においても十分な吸着性能を有し、かつ吸着性能の耐久性に優れ、加工性にも優れ、フィルター等の繊維製品に好適に使用することができるポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】単糸の横断面形状において、二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子を含有するポリアミドが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されており、繊維中の該混合物微粒子の含有量が繊維質量に対して0.1〜30質量%であるポリアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン等に代表されるVOC(有機性揮発物質)や悪臭成分等の汚染ガスの吸着性能に優れ、エアコン、空気清浄機、プリンター、複写機などから発生するVOCを除去することができるフィルター等各種製品に好適に使用できるポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シックハウス症候群に代表されるように、住宅建材や家具等から発生するアルデヒド類の有害物質による生活環境の問題が深刻化してきている。また、住宅だけに限らず、オフィス内や車両内等においても、様々な悪臭に対する関心が高まり、例えば、複写機、エアコンや空気清浄機等の家電製品から発生する有害物質、壁紙等に使用されている塗料等から発生するトルエンやキシレン等の芳香環を有した難分解性のVOCを軽減させる性能を有する製品が望まれている。
【0003】
生活環境には塩基性臭気成分、酸性臭気成分、アルデヒド等の中性臭気成分等が存在し、これらの複数の臭気成分を同時に効率よく除去することは困難である。
例えば、家電製品等に使用されるフィルター用途等においては、悪臭成分ガス吸着性を改善する為に様々な方法が提案されている。例えば、活性炭を吸着剤として使用する方法や活性炭繊維を使用する方法は数多く提案されている。
【0004】
活性炭を主とする固体吸着剤では、造粒または破砕状に加工されフィルター形状に成形されたものや、粒状活性炭に分解触媒等を担持させ、ハニカム構造のフィルター等も提案されている。ところが、従来の活性炭を採用したフィルターは、活性炭自体のホルムアルデヒドやVOCなどの吸着能力が小さいために、例えば、アミン化合物等を表面に化学修飾させ吸着能力を高める必要があったのに加え、飽和容量を超えた場合には、吸着種の再放出の懸念や活性炭自体の脱落等起こり、取り扱いが困難であるという問題があった。
【0005】
また、天然の針葉樹、広葉樹からの抽出物あるいは緑茶からの抽出物等を後加工により繊維製品の表面に付着させる方法が提案されているが、後加工により機能を付与するため耐久性に問題があった。
【0006】
そこで、繊維や布帛の一部に吸着性能を有する多孔質物質と酸化チタン光触媒を用い、光触媒効果により有機物を分解・除去しようとする試みが広く行われている。しかしながら、上記の光触媒は、太陽光の紫外線が当たらなければ効果が生じず、また、チタン表面の表面効果であるため、離れたところでの吸着効果は全く得られないという大きな欠点があった。さらに、光触媒は有機物等を炭酸ガスと水に分解するという機能を有する反面、強い酸化力により繊維自体が分解したり着色するという問題があった。
【0007】
このため、改善策として、例えば特許文献1や特許文献2において、架橋型樹脂やバインダー樹脂を用いて、繊維布帛の表面に光触媒を固着させる方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、この方法では光触媒自体が樹脂に覆われてしまい、せっかくの効果が得られ難く、また、加工途中などでコーティングされた吸着物質が脱落して、性能が低下するという問題や製造工程の増加に伴うコスト面等においても課題があった。
【0009】
吸着剤を繊維に担持させた消臭繊維も提案されている。例えば、特許文献3や特許文献4には金属フタロシアニンを担持した消臭繊維が開示されており、触媒的に悪臭成分を分解する方法が挙げられているが、金属フタロシアニンの触媒活性が弱く、臭気成分の吸着効果は十分ではなかった。
【0010】
さらに、特許文献5では、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とで構成されたアモルファス構造のケイ酸亜鉛粒子を繊維中に練りこんだ消臭繊維、特許文献6や特許文献7では四価金属の水不溶性リン酸塩と二価金属の水酸化物を含有する吸着組成物を繊維中に複合または配合した消臭繊維が提案されている。しかしながら、これらも臭気成分の吸着効果は十分ではなく、ベンゼンやスチレンといったVOCの吸着効果も不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−1879号
【特許文献2】特開2001−254281号
【特許文献3】特開昭62−6985号
【特許文献4】特開昭62−6986号
【特許文献5】特開平2−91209号
【特許文献6】特表平5−504091号
【特許文献7】特開平6−47276号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
複写機、エアコン、空気清浄機、プリンター等から発生するVOCや臭気ガス等を効率よく除去することができるポリアミド繊維であって、暗所な環境下においても十分な吸着性能を有し、かつ吸着性能の耐久性に優れ、加工性にも優れ、フィルター等の各種製品に好適に使用することができるポリアミド繊維を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、単糸の横断面形状において、二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子を含有するポリアミドが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されており、繊維中の該混合物微粒子の含有量が繊維質量に対して0.1〜30質量%であることを特徴とするポリアミド繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリアミド繊維は、吸着剤として二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子を用い、この吸着剤を含有するポリアミドが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されているため、複写機、エアコン、空気清浄機、プリンター等から発生するVOCに対して十分な吸着性能を有するものである。つまり、使用する環境が暗所であったり、低濃度のVOCの場合であっても十分に吸着することができ、さらには吸着性能の耐久性にも優れる。
また、紡糸、延伸、後加工工程での工程通過性も良好であり、操業性よく得ることが可能である。
本発明のポリアミド繊維を織編物、不織布、シート等の少なくとも一部に用いることで、VOCに対する吸着性能を必要とする各種の製品(例えばエアコン等のフィルター)を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド繊維は、吸着剤として二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子を用い、この吸着剤を含有するポリアミドが単糸の横断面形状において、繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されたものである。
【0016】
つまり、本発明のポリアミド繊維は、マルチフィラメントでもモノフィラメントでもよいが、単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)において吸着剤を含有するポリアミドが繊維表面の少なくとも一部を占めているものである。
【0017】
吸着剤を含有するポリアミドが繊維表面の少なくとも一部を占める形状としては、吸着剤を含有するポリアミドのみからなるもの(単一成分型のもの)や、吸着剤を含有するポリアミドと他のポリマーからなる複合型のものがある。
【0018】
本発明のポリアミド繊維において吸着性能を向上させるには、吸着剤を含有するポリアミドが繊維表面の全てを占めていることが好ましく、したがって、単一成分型のものや吸着剤を含有するポリアミドが鞘部を占める芯鞘複合型のものとすることが好ましい。
【0019】
芯鞘複合型とする場合には、同心芯鞘型であっても偏心芯鞘型であってもよい。また、生産性を考慮すると芯部は1つのものとすることが好ましいが、複数有するものであってもよく、複数の芯部を有する場合は、芯部の数を2〜10個とすることが好ましい。
【0020】
なお、複合型の他の形状としては、サイドバイサイド型や多層型のもの、繊維表面の一部にのみ吸着剤を含有するポリアミドが露出した形状のもの等が挙げられる。
【0021】
本発明において吸着剤を含有させるポリアミドとしては、分子内にアミド基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリメタキシレンアジパミドが挙げられ、これらの成分を共重合したものやブレンドしたものであってもよい。
【0022】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記したポリアミド(ホモポリマー、共重合物、ブレンド物ともに)は他の成分が共重合又はブレンドされていてもよい。このような場合、上記したポリアミドを80モル%以上含むものとすることが好ましい。80モル%未満であるとポリアミド成分が本来有している優れた強靭性、衝撃吸収性、柔軟性等を失うこととなりやすい。
【0023】
さらには、ポリアミド中には必要に応じて、熱安定性、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、微粉体、難燃剤等の各種添加剤や結節強度を高める脂肪酸アミド類、例えばメタキシレンビスステアリルアミド、メタキシリレンビスオレイルアミド、キシレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリル酸アミド等を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0024】
本発明においては、このようなポリアミド中に含有させる吸着剤として、二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子を用いるものである。このような混合物微粒子はVOCに対して十分な吸着性能を有するものであり、吸着性能の耐久性にも優れる。
【0025】
混合物微粒子中の二酸化珪素の含有量は40〜50%、酸化亜鉛の含有量が10〜20%、アルミノ珪酸塩の含有量は15〜30%であることが好ましい。混合物微粒子中には水が含まれていてもよく、含有量は15%以下とすることが好ましい。
【0026】
また、混合物微粒子中にはアミンが混合されていてもよい。アミンはアルデヒド類の吸着に効果があり、VOC吸着性能を向上させるには有効である。混合物微粒子中のアミンの含有量は0.5〜3.0%とすることが好ましい。
【0027】
さらに、混合物微粒子は繊維表面に配されるポリアミド中に含有されるものであるため、紡糸、延伸、加工時の操業性を考慮すると、粒径は1〜20μmとすることが好ましい。
【0028】
上記したような二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子の吸着剤としては、ラサ工業株式会社製の『シュークレンズ』KD−411を用いることができる。
【0029】
そして、本発明のポリアミド繊維は、上記したように単一成分型でも複合型でもよいが、二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子の繊維中の含有量は、繊維質量に対して0.1〜30質量%であり、中でも0.5〜20質量%であることが好ましく、さらには1.0〜15質量%であることが好ましい。
【0030】
該混合物微粒子の含有量が繊維質量に対して0.1質量%未満であると、VOC吸着性能に乏しいものとなり、吸着性能の耐久性にも乏しいものとなる。一方、該混合物微粒子の含有量が繊維質量に対して30質量%を超えると、紡糸、延伸、加工時に糸切れ等が発生して操業性が悪化し、強度、伸度等の物性値や品位に劣るものとなる。
【0031】
ポリアミド中に該混合物微粒子を含有させるには、重合時または重合直後に添加・含有する方法、予めポリアミド中に該混合物微粒子を高濃度に含有するマスターチップを製造しておき、それを使用する方法、紡糸工程までの任意の段階で該混合物微粒子をポリアミドに添加、混合する方法を採用することができる。
【0032】
本発明のポリアミド繊維は、前記したようにマルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよいが、マルチフィラメントの場合、単糸繊度1〜200dtex、総繊度30〜3000dtexとすることが好ましい。モノフィラメントの場合は、100〜10000dtexとすることが好ましい。
【0033】
また、本発明のポリアミド繊維の単糸の横断面形状は丸断面のみならず、異形断面であってもよい。吸着性能を向上させるには比表面積の大きな繊維とすることが好ましく、このため、単糸の断面形状は異形にすることが好ましい。例えば、三角、四角等の多角形状のものや、3葉、4葉等の多葉形状のもの、T字型、U字型、V字型、H字型、Y字型、W字型等のものを挙げることができる。また、中空部を有するものでもよい。
【0034】
次に、本発明のポリアミド繊維(単一成分型)の製造方法について一例を用いて説明する。予めポリアミド中に混合物微粒子を高濃度に含有するマスターチップを製造しておき、これを紡糸時にポリアミドに添加、混合して溶融紡糸を行う。
紡糸口金より紡出された糸条を冷却固化し、紡糸油剤を付与し、一旦巻き取った後又は巻き取ることなく延伸する。延伸倍率、延伸温度等は得ようとするポリアミド繊維の強度、伸度等に応じて適宜調整する。そして、巻取機にて巻き取る。
【実施例】
【0035】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例における特性値(吸着性能)の測定は以下のとおりに行った。
(ベンゼンガス吸着性能)
試料として得られたポリアミド繊維1gを容量1.5リットルのテドラーバッグに入れ、初期濃度50ppmになるようにベンゼンガスを入れて密閉した。30分間放置後、検知管でテドラーバッグ中の残留ベンゼンガス濃度を測定し次式に従い除去率(%)を算出した。
除去率(%)=[(初期濃度−残留ガス濃度)/初期濃度]×100
(スチレンガス吸着性能)
ベンゼンガスに代えてスチレンガスを用いて、上記のベンゼンガス吸着性能と同様にして測定を行い、スチレンガスの除去率(%)を算出した。
両性能の除去率を以下のように3段階で評価した。
○:除去率が90%以上
△:除去率が70%以上90%未満
×:除去率が70%未満
【0036】
実施例1
ポリアミドとして、相対粘度が2.5(96質量%硫酸を溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)のナイロン6を用い、二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子として、ラサ工業株式会社製の『シュークレンズ』KD−411を用いた。
ナイロン6中に二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子が20質量%含有されたマスターチップを作成しておき、このマスターチップとナイロン6チップとをエクストルーダー型溶融紡糸機に供給した。このとき、繊維中の該混合物微粒子の含有量が3.0質量%となるように調整した。
そして、紡糸孔の直径0.4mm、孔数48の紡糸口金を用い、紡糸温度265℃で溶融紡糸を行った。紡糸速度613m/分で紡糸し、紡出した糸条を冷却固化した後、紡糸油剤を付与し、速度2450m/分で巻き取り、総繊度470dtexのポリアミド繊維(単一成分型、丸断面形状のマルチフィラメント)を得た。
【0037】
実施例2、比較例1〜3
マスターチップの供給量を変更し、繊維中の二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子の含有量が表1に示す値となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド繊維を得た。
【0038】
比較例4
二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子に変えて、二酸化珪素と酸化亜鉛の混合物微粒子(ラサ工業株式会社製の『シュークレンズ』KD−211)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリアミド繊維を得た。
【0039】
実施例1〜2、比較例1〜4で得られたポリアミド繊維の特性値を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、実施例1〜2のポリアミド繊維は、二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子の繊維中の含有量が適量であったため、ベンゼン吸着性能、スチレン吸着性能ともに優れていた。
一方、比較例1のポリアミド繊維は二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子を含有しなかったため、比較例2のポリアミド繊維は該微粒子の繊維中の含有量が少なすぎたため、比較例4のポリアミド繊維は該微粒子に代えて、二酸化珪素と酸化亜鉛の混合物微粒子を含有したものであったため、いずれの繊維もベンゼン吸着性能、スチレン吸着性能に劣るものであった。比較例3では、該微粒子の繊維中の含有量が多すぎたため、紡糸、延伸時に糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸の横断面形状において、二酸化珪素、酸化亜鉛及びアルミノ珪酸塩の混合物微粒子を含有するポリアミドが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されており、繊維中の該混合物微粒子の含有量が繊維質量に対して0.1〜30質量%であることを特徴とするポリアミド繊維。



【公開番号】特開2010−270417(P2010−270417A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124146(P2009−124146)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】