説明

ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物

【課題】植物性炭素材料を使用しても、樹脂に対して高い電気伝導性を付与する技術を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ、カーボンブラックから選択される少なくとも一種の炭素材料と、植物を炭化処理してなる植物性炭素材料とを併用する。これらの炭素材料と組み合わせる熱可塑性樹脂は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂である。特に、ポリフェニレンサルファイド系樹脂の使用が好ましい。また、植物性炭素材料のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックと呼ばれる一群の樹脂は優れた強度等の物性を有する。このため、樹脂は様々な分野に使用されており、軽量化等のために金属部品から樹脂部品に変更することも多く行われる。
【0003】
また、充填材等の添加剤を樹脂に配合することで、所望の物性が付与された樹脂製品(成形体)が容易に得られる。このことも樹脂が様々な分野に使用される理由の一つである。例えば、樹脂製品に対して電気伝導性を付与する方法が知られている。具体的には、樹脂にイオン伝導性を付与する材料を添加したり、金属微粒子、金属繊維、炭素材料等の導電性フィラーを添加したりする方法が知られている。この中でも、樹脂製品の小型化、軽量化の観点から炭素材料が注目されている。
【0004】
ところで、近年の環境・資源問題として、二酸化炭素等の温室効果ガスの増加、将来の化石資源の枯渇への対応策が社会的に求められている。このため、化石原料をベースとした樹脂に対して、ポリ乳酸等のバイオベースプラスチックや植物等由来の添加剤を配合する検討が進められている。また、樹脂や樹脂製品中に含まれる植物由来成分の含有量を植物度として表す検討も行われている。
【0005】
植物等由来の添加剤として、植物を炭化処理してなる植物性炭素材料が知られている。具体的には、籾殻、麩、糠、大豆殻等を炭化処理してなる植物性炭素材料が知られており、導電材料等の工業製品としての利用が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載されるような植物性炭素材料が、特許文献1に記載されるような炭素材料の替わりに使用されると、樹脂製品の充分な電気伝導性向上の効果は得られない。このため、樹脂に対して電気伝導性を付与する際に、植物性炭素材料が使用されることはほとんどない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−225648号公報
【特許文献2】特開2009−173540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、植物性炭素材料を使用しても、樹脂に対して高い電気伝導性を付与する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、カーボンナノチューブ、カーボンブラックから選択される少なくとも一種の炭素材料と、植物を炭化処理してなる植物性炭素材料とを併用することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) ポリアリーレンサルファイド系樹脂と、植物を炭化処理してなる植物性炭素材料と、カーボンナノチューブ、カーボンブラックから選択される少なくとも一種の炭素材料と、を含むポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【0011】
(2) 前記植物性炭素材料のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下である(1)に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【0012】
(3) 前記植物性炭素材料の含有量は、5質量%以上70質量%以下であり、前記炭素材料の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下である(1)又は(2)に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【0013】
(4) 前記植物は、穀物類の殻・藁、穀物類の芯・搾りかす、種実類・豆類の殻・搾りかす、茶殻、果菜類の皮、木材、竹類、紙類である(1)から(3)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【0014】
(5) 前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂は、ポリフェニレンサルファイド系樹脂である(1)から(4)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定の炭素材料と、植物を炭化処理してなる植物性炭素材料とを併用することで、植物性炭素材料を使用しても、樹脂に対して高い電気伝導性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物について説明する。
【0017】
<ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物>
ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物(以下、「PAS系樹脂組成物」という場合がある。)は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂(以下、「PAS系樹脂」という場合がある)と、植物性炭素材料と、カーボンナノチューブ、カーボンブラックから選択される少なくとも一種の炭素材料(以下、「特定の炭素材料」という場合がある)を含有し、さらに、その他の成分を含有してもよい。以下、PAS系樹脂、植物性炭素材料、特定の炭素材料、その他の成分の順で説明する。
【0018】
[ポリアリーレンサルファイド系樹脂]
PAS系樹脂は、高い耐熱性、機械的物性、耐薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、工業製品等の原料として広く使用されている。後述する植物性炭素材料を製造する際に酸成分が発生し、植物性炭素材料内に酸成分が残る場合があるが、上記の通りPAS系樹脂は耐薬品性に優れるため、酸成分が植物性炭素材料に含まれていても問題を生じない。なお、植物性炭素材料の製造時の酸成分の発生がほとんど無い場合もあることから、植物性炭素材料と特定の炭素材料との併用は、従来公知の熱可塑性樹脂を用いた製品に対して電気伝導性を付与することができると推測される。
【0019】
PAS系樹脂は、−(Ar−S)−(但しArはアリーレン基)で主として構成された樹脂である。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。
【0020】
この場合、上記のアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で同一の繰返し単位を用いたポリマー、即ちホモポリマーの他に、組成物の加工性という点から、異種繰返し単位を含んだコポリマーが好ましい場合もある。また、PAS系樹脂は本発明の効果を害さない範囲で、他の一般的なモノマーを含んでもよい。
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするPPSが好ましく用いられる。
また、コポリマーとしては、上記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できる。中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。
【0021】
また、これらのPAS系樹脂の中でも、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが好ましく使用できるが、直鎖状構造のPAS系樹脂以外にも、縮重合させるときに3個以上のハロゲン官能基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーも使用できるし、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素又は酸化剤の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマー、あるいはこれらの混合物も使用可能である。
【0022】
PAS系樹脂を製造する方法は特に限定されず、例えば、従来公知の方法で単数又は複数のモノマーを縮重合する方法がある。
【0023】
PAS系樹脂組成物中のPAS系樹脂の含有量は特に限定されないが、PAS系樹脂の有する優れた物性を樹脂製品にも付与しやすいため、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、特に、25質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0024】
[植物性炭素材料]
植物性炭素材料は、植物を炭化処理してなる。植物性炭素材料のみの使用では、樹脂製品に対して充分に電気伝導性を付与することが難しい。しかし、植物性炭素材料と後述する特定の炭素材料とを組み合わせることで、樹脂製品に高い電気伝導性を付与することができる。
【0025】
「植物」とは、植物に由来する任意の物質及び材料を意味し、その形態は生のものに限られない。乾燥処理、発酵処理、粉末化処理、焙煎処理、抽出処理、絞り粕、加工物等の種々の処理が施された植物でもよい。
【0026】
植物としては、例えば、籾殻等の穀物類(米、小麦、大麦、そば、ライ麦、ヒエ、アワ、キビ等)の殻や、穀物類の藁、トウモロコシ芯やサトウキビの搾りかす等の穀物類の芯・搾りかす、大豆殻、ヤシ殻、コーヒー豆殻等の種実類・豆類(例えば、アーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ココナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、コーヒー豆等)の殻・搾りかす、使用後の茶葉(例えば、緑茶や紅茶等の葉)等の茶殻、果菜類(例えば、ミカン、バナナ、スイカ、パイナップル、かぼちゃ等)の皮、木材、竹、紙類等が挙げられる。
【0027】
これらの植物を使用することは、植物由来の産業廃棄物の資源化を図るという観点から好ましい。また、これら植物は、家庭ごみ並びに酒類製造会社及び食品会社からの廃棄物として入手することができる。また、木材はその原料として間伐材や端材等を利用することも可能であり、紙類は古紙や製紙くずを利用することもできる。特に、得られる植物性炭素材料の品質の観点で、穀物類の殻、種実類・豆類の殻、木材、竹が好ましい。
【0028】
炭化処理は従来公知の方法により行うことができる。また、炭化処理の際の炭化条件(例えば昇温速度、到達温度(焼成温度)、冷却条件等)は適宜設定することができる。炭化処理の一例を以下に説明する。
先ず、第1段目の焼成として、大気中、真空下又は不活性ガス(窒素、アルゴン等)中において、例えば400℃以上700℃以下の温度で、自燃式の焼成炉を用いて、上記植物又は植物由来の産業廃棄物を焼成する。
次いで、焼成物を室温まで徐冷した後に、第2段目の焼成として、真空下又は不活性ガス(窒素、アルゴン等)中において、例えば700℃以上900℃以下の温度で、電気炉を用いて、第1段目の焼成後の焼成物をさらに焼成する。
次いで、第2段目の焼成後の焼成物を室温まで徐冷した後に、第3段目の焼成として、真空又は不活性ガス(窒素、アルゴン等)中において、例えば1000℃以上1300℃以下の温度で、電気炉を用いて、第2段目の焼成後の焼成物をさらに焼成する。第3段目の焼成後に得られるのが植物性炭素材料である。なお、焼成炉としては、ガス炉や高周波加熱炉を用いてもよい。
【0029】
植物性炭素材料を粉砕処理して、そのメジアン径を適宜調整してもよい。粉砕処理の方法は特に限定されないが、例えば植物性炭素材料をボールミル粉砕機、らいかい機、又はジェットミル粉砕機等で粉砕、分級することにより所望のメジアン径に調整ことができる。植物性炭素材料のメジアン径は、およそ0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。植物性炭素材料のメジアン径が0.1μm以上であればPAS系樹脂への配合におけるハンドリングの容易さ等の理由で好ましく、メジアン径が100μm以下であれば表面外観の向上等の理由で好ましい。特に、1μm以上80μm以下であることが好ましい。なお、メジアン径の測定方法は、レーザー回折・散乱法による微粒子の粒度分布測定法により測定して得られる中央値(50%)の粒径値を採用する。
【0030】
PAS系組成物中の植物性炭素材料の含有量は、特に限定されないが、およそ5質量%以上70質量%以下であることが好ましい。植物性炭素材料の含有量が5質量%以上であれば充分な電気伝導性を樹脂製品に付与できるため好ましく、70質量%以下であればPAS系樹脂の有する優れた物性を樹脂製品に付与できるため好ましい。特に、10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0031】
このように、本発明は植物由来の成分を多く含有することができることから、環境に特に配慮された材料であり、さらに、電気伝導性等の物性面でも優れた材料である。なお、植物性炭素材料の含有量がおよそ20質量%以上であれば、環境に特に配慮された材料であり、本発明においては、植物性炭素材料の含有量を上記の量に設定しても充分な電気伝導性が樹脂製品に付与される。
【0032】
[特定の炭素材料]
特定の炭素材料とは、カーボンナノチューブ、カーボンブラックであり、カーボンナノチューブとカーボンブラックを併用してもよい。これらの特定の炭素材料は、樹脂に含有させることで、樹脂製品に電気伝導性を付与することができる。そして、上記特定の炭素材料は、上述の植物性炭素材料と併用することで、樹脂製品への電気伝導性付与の効果を大幅に高めることができる。以下、カーボンナノチューブ、カーボンブラックについて説明する。
【0033】
カーボンナノチューブは、一般的に、単繊維が絡み合った毛玉状、直線状等の形状を有する中空繊維であり、従来公知のものを使用することができる。また、カーボンナノチューブの製造方法としては、化学的気相成長法、レーザーアブレーション、アーク放電等の種々の方法を採用することができる。
【0034】
カーボンブラックとしては、製法別ではファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられ、また、原料別ではガスブラック、オイルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。これらのカーボンブラックは単独で使用してもよいし、複数のカーボンブラックを併用してもよい。
【0035】
PAS系樹脂組成物中の上記特定の炭素材料の含有量は、特に限定されないが、およそ0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。特定の炭素材料の含有量が0.1質量%以上であれば、充分な電気伝導性を樹脂製品に付与できるため好ましく、20質量%以下であれば、PAS系樹脂の有する優れた物性を樹脂製品に付与できるため好ましい。特に、0.3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0036】
PAS系樹脂組成物中の上記特定の炭素材料を増量した場合には、樹脂への配合が困難になる場合や、コスト高になる場合があるため、上述の植物性炭素材料と併用することで、これらの問題点の改善が可能である。また、上記特定の炭素材料は樹脂に対して電気伝導性を付与する材料であるが、単独では電気伝導性付与の効果がほとんど無いような含有量であっても、上述の植物性炭素材料と併用することで、電気伝導性付与の効果を大幅に向上させることができる。単独で電気伝導性付与の効果がほとんど無い含有量の範囲は、含有する樹脂の種類等によってその範囲が若干変動するため、明確に決めることはできないが、カーボンナノチューブを例に挙げるならばPAS系樹脂組成物中におよそ0.1質量%以上0.5質量%以下である。
【0037】
[その他の成分]
本発明のPAS系樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲でその他の樹脂を含有してもよく、また、本発明の効果を害さない範囲で、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の従来公知の添加剤、有機充填材、無機充填材、金属微粒子、金属繊維等の従来公知の充填材等を含有してもよい。
【0038】
[成形方法]
本発明の樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形等の公知の成形方法により成形可能である。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0040】
<材料>
PAS系樹脂:PPS系樹脂(株式会社クレハ製、フォートロンKPS W202A)
(植物性炭素材料)
植物性炭素材料1:籾殻を原料とする植物性炭素材料(三和油脂株式会社製、商品名「RHC」、メジアン径は60〜70μm)
植物性炭素材料2:大豆種皮を原料とする植物性炭素材料(日清オイリオグループ株式会社製、商品名「フィトポーラスSH−0930」、メジアン径は30μm)
植物性炭素材料3:大豆種皮を原料とする植物性炭素材料(日清オイリオグループ株式会社製、商品名「フィトポーラスSH−0905」、メジアン径は7μm)
植物性炭素材料4:木材を原料とする植物性炭素材料(株式会社増田屋製、商品名「備長炭パウダー(樫)500メッシュ」、メジアン径は8.4μm)
植物性炭素材料5:竹を原料とする植物性炭素材料(株式会社増田屋製、商品名「竹炭パウダー500メッシュ」、メジアン径は8.4μm)
(炭素材料)
炭素材料1:カーボンナノチューブ(昭和電工株式会社製、商品名「VGCF(登録商標)」、繊維長10μm)
炭素材料2:カーボンブラック(三菱化学株式会社製、商品名「ケッチェンブラックEC−600JD」)
炭素材料3:カーボンファイバー(東邦テナックス株式会社製、商品名「HTC432」)
炭素材料4:黒鉛(SEC株式会社製、商品名「SGP−50」)
【0041】
<実施例1〜3、比較例1〜3>
表1に示す材料を表1に示す配合で、実施例1〜3の樹脂組成物及び比較例1〜3の樹脂組成物を、東洋精機製作所株式会社製ラボプラストミル(溶融混錬条件320℃、5分)により作製した。続いて、ペレット(サンプル)を金属製のリング(内径φ30mm、厚み2mm)内に入れ、金属板/ポリイミドフィルム/リング/ポリイミドフィルム/金属の構成でリングを挟んだ状態で、320℃に加熱したホットプレス機(上下に加熱ブロックを有する)に入れて3分間20MPaにてプレスした後に取り出し、φ30mm×2mmt円板試験片の成形体を作成した。
【0042】
<評価1>
実施例1〜3及び比較例1〜3の成形体の抵抗値、表面抵抗率を測定した。具体的には以下の方法で測定した。
【0043】
[抵抗値]
ホットプレス成形で作成したφ30mm×2mmt円板試験片を用い、試験片両端の電極を取り付ける個所に導電塗料(ドータイトD500、藤倉化成株式会社製)を塗布して、各成形体の抵抗値(Ω)を測定した。抵抗値の測定は低抵抗率測定装置(DIGITAL MULTIMETER R6450、株式会社アドバンテスト製)を使用して行い、抵抗値が高くて低抵抗率測定装置で測定できない場合には、高抵抗率測定装置(URTRA HIGH RESISTANCE R8340A、株式会社アドバンテスト製)に交換して測定を行った。結果を表1に示した。また、抵抗値低減効果を算出し、表1に示した。抵抗値低減効果とは、実施例の測定結果を、炭素材料としてその実施例と同様の植物性炭素材料のみを使用した例の測定結果で割った値(倍)である。
【0044】
[表面抵抗率]
表面抵抗率の評価には、ホットプレス成形で作成したφ30mm×2mmt円板試験片を用いた。また、測定にはJIS K7194に準拠した装置である、ロレスタGP MCP−T610(株式会社ダイアインスツルメンツ製)ASPプローブを使用した。円板試験片上の中央部の表面抵抗率(Ω)を測定し、結果を表1に示した。なお、比較例1は表面抵抗率の値が大き過ぎたため測定不能であった。また、表面抵抗率低減効果を算出し、表1に示した。抵抗値低減効果とは、実施例の測定結果を、炭素材料として植物性炭素材料のみを使用した例の測定結果で割った値(倍)である。
【表1】

【0045】
実施例1〜3の結果と、比較例1〜3の結果から、植物性炭素材料とカーボンナノチューブ又はカーボンブラックとを併用することで、成形体の電気伝導性が大幅に向上することが確認された。
また、植物性炭素材料の含有量が多く、カーボンナノチューブ又はカーボンブラックの含有量が少なくても、実施例の成形体は高い電気伝導性を有する。したがって、実施例の成形体は、環境に配慮された材料であり且つ電気伝導性が高いことが確認された。
また、実施例1及び比較例1の結果から、炭素材料の含有量を、単独の配合ではほとんど効果が無い量に設定しても、大幅な電気伝導性向上の効果が得られることが確認された。
【0046】
<実施例4〜10>
表2に示す材料を表2に示す配合で、上記実施例と同様の成形方法、成形条件で、同じ形状の成形体を作製した。
【0047】
<比較例4〜9>
表3に示す材料を表3に示す配合で、上記実施例と同様の成形方法、成形条件で、同じ形状の成形体を作製した。
【0048】
<評価2>
評価1と同様の方法で、実施例4〜10、比較例4〜9の成形体の抵抗値(Ω)、表面抵抗率(Ω)の測定を行った。測定結果を表2、3に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
実施例4〜10の結果から、植物性炭素材料の種類を変更しても、植物性炭素材料とカーボンナノチューブ又はカーボンブラックとの併用による、成形体の電気伝導性を向上させる効果を奏することが確認された。
また、比較例4〜9の結果から、植物性炭素材料の種類を変更しても、植物性炭素材料の単独使用では、成形体に高い電気伝導性を付与できないことが確認された。
【0052】
<比較例10〜16>
表4に示す材料を表4に示す配合で、上記実施例と同様の成形方法、成形条件で、同じ形状の成形体を作製した。
【0053】
<評価3>
評価1と同様の方法で、比較例10〜16の成形体の抵抗値(Ω)、表面抵抗率(Ω)の測定を行った。測定結果を表4に示した。
【0054】
【表4】

【0055】
比較例10〜16の結果、及び上記実施例1〜10の結果から、炭素材料としてカーボンナノチューブ、カーボンブラックを使用しなければ、植物性炭素材料と炭素材料との併用による、成形体の電気伝導性を充分に高める効果が奏されないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂と、
植物を炭化処理してなる植物性炭素材料と、
カーボンナノチューブ、カーボンブラックから選択される少なくとも一種の炭素材料と、を含むポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【請求項2】
前記植物性炭素材料のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下である請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【請求項3】
前記植物性炭素材料の含有量は、5質量%以上70質量%以下であり、
前記炭素材料の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下である請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【請求項4】
前記植物は、穀物類の殻・藁、穀物類の芯・搾りかす、種実類・豆類の殻・搾りかす、茶殻、果菜類の皮、木材、竹、紙類である請求項1から3のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂は、ポリフェニレンサルファイド系樹脂である請求項1から4のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。