説明

ポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】イミド化時の結晶化によるヘイズの発生を抑制し、透明性と耐熱性を両立したポリイミドフィルムとその製造方法を提供する。
【解決手段】有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸溶液を支持体上に流延・加熱して、残揮発成分量が15〜45%の範囲である自己支持性のゲルフィルムを得た後これをイミド化することにより、示差走査熱量計測定(DSC)にて結晶化に由来する発熱ピークが250℃以上にあり、YIが23以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルムを得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れたポリイミドフィルムに関する。特に、残揮発成分量を適切な範囲に制御することにより、熱履歴の影響を受けやすい結晶性ポリイミドにおいてもヘイズの発生を抑えることができ、耐熱性と共に透明性に対する要求が高い製品又は部材を形成するための材料(例えば、表示装置ガラス代替など)として好適に利用できるポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶や有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されるようになってきた。これらのデバイスにはガラス板上に様々な電子素子、例えば、薄型トランジスタや透明電極等が形成されているが、このガラス材料をフィルム材料に変えることにより、パネル自体のフレキシブル化、薄型化や軽量化が図れる。本用途に使用するフィルム材料には、電子素子の形成プロセスにおける耐熱性が要求される。
【0003】
耐熱性に優れる一般的なフィルム材料としてはポリイミドフィルムが挙げられる。ポリイミドフィルムはその耐熱性、絶縁性を生かし、フレキシブルプリント配線板を代表とする電子機器・半導体用途に広く利用されている。しかしながらポリイミドフィルムは一般的に黄色、褐色に着色しており、またガラスなどと比較して線膨張係数が高いため、ガラス代替として使用するためには透明性の向上、低線膨張係数の実現が課題であった。これら課題を解決するための試みは従来からなされており、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られるポリイミドは、耐熱性や線膨張係数に加えて透明性にも優れており、これまでいくつかの報告例がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ポリイミドは原料であるジアミンと酸二無水物の組み合わせによっては、結晶性が発現することがある。上記の3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られるポリイミドも結晶性を示す。結晶化により結晶粒子が形成されると、そのサイズによっては光散乱によりヘイズが発生する。従来のポリイミドは主として成形体用途、配線板用途に使用されていたため、ヘイズが発生しても大きな問題とはならなかった。しかし、ガラス代替として使用する場合はヘイズが発生すると光透過率が低下するため、ヘイズ発生を抑制する手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−46054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、ヘイズが抑えられたポリイミドフィルムとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムの製膜時に残揮発成分量を制御することにより、得られるフィルムのヘイズを低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0008】
1). 示差走査熱量計測定(DSC)にて結晶化に由来する発熱ピークが250℃以上にあり、YIが23以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルム。
【0009】
2). 有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸を含有する溶液を支持体上に流延・加熱して自己支持性のゲルフィルムを得た後、これを加熱してイミド化したものであることを特徴とする、1)に記載のポリイミドフィルム。
【0010】
3). 下記式により求められるゲルフィルムの残揮発成分量が、15〜45%の範囲であることを特徴とする、2)に記載のポリイミドフィルム。
【0011】
(式);(A−B)/B×100 (%)
(A;ゲルフィルムの重量、B;ゲルフィルムを350℃で10分間加熱した後の残留物の重量)
4). イミド化時の最高温度を、(結晶化に由来する発熱ピーク温度+50)℃以下とすることを特徴とする、2)または3)に記載のポリイミドフィルム。
【0012】
5). イミド化時の初期温度を、(結晶化に由利する発熱ピーク温度−200)℃以上〜(結晶化に由来する発熱ピーク温度−80)℃以下とすることを特徴とする、2)〜4)のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0013】
6). 有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸溶液を支持体上に流延・加熱して、残揮発成分量が15〜45%の範囲である自己支持性のゲルフィルムを得た後これをイミド化することを特徴とする、1)〜5)のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により得られるポリイミドフィルムは、ヘイズの発生が抑えられており、透明性と耐熱性が同時に求められる用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、以下に説明する。
【0016】
<ポリアミド酸>
本発明に係るポリイミドフィルムは、有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸をイミド化して得られる。本発明に係るポリイミドフィルムは低線膨張係数を実現するため、芳香族ジアミン成分及び/または芳香族酸二無水物成分として剛直な構造を有するものを用いることが好ましい。更に、得られるポリイミドフィルムの透明性を向上させる点から電子吸引基を有するものを用いることが好ましい。電子吸引基としてはハロゲン、ハロゲン化炭化水素を挙げることができる。それらの中でもフッ化炭化水素、特にはトリフッ化メチルを挙げることができる。これら電子吸引基を有する芳香族ジアミン成分及び/または芳香族酸二無水物成分を用いることが好ましい。電子吸引基を有する芳香族ジアミン成分及び/または芳香族酸二無水物成分の中でもジアミン成分に電子吸引性基を有する成分を用いることが好ましい。
【0017】
芳香族ジアミン成分として電子吸引基を有するジアミンを用いる場合、芳香族ジアミン成分中における電子吸引基を有するジアミンを用いる割合としては、50〜100重量%、さらには70〜100重量%、特には全量電子吸引基を有する芳香族ジアミンを用いることが、得られるポリイミドの透明性を向上させる点から好ましい。
【0018】
好適な原料の具体例としては、芳香族ジアミンとしてp−フェニレンジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンが挙げられる。
【0019】
芳香族酸二無水物としてはピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。これら芳香族ジアミンや芳香族酸二無水物は単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いることもできる。
【0020】
ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができる。通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを実質的等モル量で有機溶媒中に溶解させ、得られる混合溶液を制御された温度条件下で上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで撹拌することによって製造される。
【0021】
ポリアミド酸の重合に使用する溶剤としては従来公知の有機溶剤を使用可能であるが、原料ならびに生成するポリアミド酸の溶解性を考慮すると、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドといったアミド系溶剤が好適に用いられ得る。得られるポリイミドフィルムの着色が抑えられるという点を考慮すると、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0022】
合成時のポリアミド酸溶液の濃度については、濃度が低い方がポリアミド酸溶液に含まれる溶媒量が多くなり、イミド化促進剤との混合性が向上するため好ましい。しかし、濃度が低すぎると、厚めのフィルムを作製することが困難となる。ポリアミド酸溶液の濃度は、5〜30重量%が好ましく、10〜25重量%がより好ましい。
【0023】
また、ポリアミド酸溶液の粘度については、低い方がイミド化促進剤との混合性が向上するため好ましい。しかし、粘度を低くすることはポリアミド酸の分子量を低下させることに繋がるため、得られるフィルムが所望の機械強度を発現しなくなる場合がある。混合性とフィルム強度確保の両立を考えた場合、ポリアミド酸溶液の粘度は、1000〜3500ポイズが好ましく、1500〜3000ポイズがより好ましい。一方、ポリアミド酸の粘度は濃度にも左右され、同じ分子量ならば濃度が低い方が粘度も低くなる。そのため、所望の粘度となるようにポリアミド酸の濃度を調整して対応しても良い。但し、十分な強度を有するフィルムを得るためには、ポリアミド酸の重量平均分子量は最低でも10万以上にしておくことが好ましい。
【0024】
<イミド化促進剤>
ポリイミドフィルムをイミド化する方法としては、加熱のみでイミド化する方法、イミド化触媒を添加して加熱イミド化する方法、イミド化触媒と脱水剤からなるイミド化促進剤を添加して加熱イミド化する方法が挙げられる。イミド化促進剤を添加する方法が最もイミド化速度が速くなるため生産性に優れ、また得られるフィルムの線膨張係数が低くなり易い。一方で反応速度が速いために反応系全体を十分に冷却する必要があり、ロングラン性に劣るという欠点がある。いずれの方法を用いるかは、生産性等を鑑みながら適宜選択すれば良い。
【0025】
イミド化触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の第三級アミンが好適に用いられ得る。中でも、触媒能力とフィルム着色性とのバランスから、β−ピコリン、イミダゾール、3,5−ジエチルピリジンのいずれかを使用することが好ましい。
【0026】
脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、およびフタル酸無水物などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これら脱水剤は、単独で、あるいは混合して使用することが好ましい。
【0027】
イミド化促進剤の添加量については、得られるフィルムの特性と生産条件を考慮して適宜設定すれば良い。脱水剤とイミド化触媒の量をあえて例示すれば、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましく、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.01が好ましい。更に好ましくは、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましく、イミド化触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.5が好ましい。
【0028】
<フィルム化>
ポリアミド酸とイミド化促進剤を混合して得られるドープ液をフィルム状に成形することにより、本発明のポリイミドフィルムが得られる。成形方法としては従来公知の装置・方式が使用可能である。好適な例を挙げると、回転しているドラム、エンドレスベルト等の支持体上に、上記ドープ液をTダイ等から押し出してキャストする方法を用いることができる。キャストしたポリアミド酸溶液を支持体上で加熱して、溶剤を揮発させると共に、ある程度イミド化を進行させ、自己支持性を持った生乾きのフィルム(本願ではゲルフィルムという)を得、このゲルフィルムを支持体から引き剥がし、幅方向の両端を固定した状態で加熱炉を通し、残っている溶剤の除去ならびにイミド化を完了させることにより、ポリイミドフィルムを得ることが出来る。
【0029】
一方、ポリイミドフィルムとガラスもしくは金属箔との積層体を得たい場合は、上記ドープ液をガラスもしくは金属箔上にキャスト・加熱してゲルフィルムとした後、基板から引き剥がすことなく加熱して溶剤の除去ならびにイミド化を完了させれば良い。もちろん、ポリイミドフィルムを単独で作製した後、ガラスや金属箔と熱圧着して積層体としても良い。
【0030】
上記いずれの手段を用いるとしても、得られるポリイミドフィルムのヘイズを抑制するためには、ゲルフィルムの残揮発成分量を制御することが非常に重要である。即ち、下記式により求められるゲルフィルムの残揮発成分量を、15〜45重量%の範囲とすることが必要である。好ましくは、20〜40重量%の範囲、更に好ましくは20〜30重%の範囲である。
【0031】
(式);(A−B)/B×100 (%)
(A;ゲルフィルムの重量、B;ゲルフィルムを350℃で10分間加熱した後の残留物の重量)。
【0032】
ゲルフィルムの残揮発成分量が上記範囲より高くなった場合、得られるポリイミドフィルムのヘイズ抑制が困難となる場合がある。逆に上記範囲よりも低い場合、ゲルフィルムの強度が低下し、厚みの厚いフィルムを作製することが困難となる場合がある。
【0033】
ゲルフィルムの残揮発成分量を制御することで得られるポリイミドフィルムのヘイズを抑えられる理由について、以下に説明する。
本発明に係るポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミド酸をイミド化することにより得ることができる。ゲルフィルムの段階ではポリアミド酸の一部がイミド化されているが、加熱温度はそれほど高くないため、溶媒が残存量も多くほぼ非晶質の状態で部分的にイミド化されている。ここから更に高温で加熱することにより溶媒等の揮発成分がフィルム中から除去されると共にイミド化が進行するが、加熱の初期段階では溶媒等の揮発成分が多く残留している。
【0034】
従って、これら残揮発成分の可塑剤効果により、ゲルフィルムを高温焼成して完全にイミド化させる工程で見かけ上の結晶化温度(Tc)が低下し、Tcよりも低い温度で加熱しているにも関わらず、ゲルフィルムの段階でイミド化されていた箇所が結晶化してしまう。その結果、得られるポリイミドフィルムにヘイズが発生する。ゲルフィルムの残揮発成分量を低くすることで可塑剤効果を抑制し、加熱時の結晶化を抑えることが可能となるため、結果として得られるポリイミドフィルムのヘイズを抑えることが可能となる。
【0035】
本願発明は結晶化に由来する発熱ピークが250℃以上にあるポリイミドフィルムにおいて、このゲルフィルム段階の残揮発成分量を特定の範囲となすことによりヘイズと共にYIが小さいポリイミドフィルムを得ることが出来ることを見いだしたものである。
【0036】
ゲルフィルムの残揮発成分量は、ゲルフィルム作製時の加熱温度、加熱時間により制御が可能である。加熱温度を高くすれば短い時間で残揮発成分量を低くすることが出来るため生産性の面で好ましいが、温度が高すぎるとゲルフィルム作製時に結晶化も同時に進行してしまうため、得られるポリイミドフィルムのヘイズが高くなってしまう場合がある。ゲルフィルム作製時の加熱温度は60〜180℃の範囲内が好ましく、70〜160℃の範囲内がより好ましい。
【0037】
加熱時間は30〜1000秒の範囲内が好ましく、90〜800秒の範囲内がより好ましい。同じ加熱条件でもゲルフィルムの厚みによって残揮発成分量は変化するため、上記範囲内で適宜調整すれば良い。また、加熱温度は単一温度でも良いが、複数のステップに分けて加熱していくことがゲルフィルムの残揮発成分量のコントロールが容易になるので好ましい。
その場合の温度条件としては、例えば2つの加熱炉を有する装置を用いる場合、60〜100℃と90〜180℃、さらには80〜100℃と90〜160℃の様に、順次高い温度になるような複数の温度条件で加熱することがゲルフィルムの残揮発成分量のコントロールが容易になるので好ましい。
【0038】
上記で得られたゲルフィルムを更に高温で加熱することにより、本発明のポリイミドフィルムが得られる。加熱装置としては従来公知の装置が用いられ得るが、生産性を考慮すると複数の加熱炉あるいは加熱炉中で複数の温度ステップを設けた装置を用いることが好ましい。この時、溶媒揮発時のフィルム収縮を防ぐため、フィルム端部をクリップやピンで固定することが好ましい。但しポリイミドをガラス板や金属箔などの基板上に直接形成する場合は、ゲルフィルムが基板に密着しており収縮が抑制されるため、この限りではない。
【0039】
加熱時の最高温度は、(結晶化に由来する発熱ピーク温度+50)℃以下とすることが好ましい。更に好ましくは、(結晶化に由来する発熱ピーク温度+30)℃以下とするのが良い。最高温度の下限は、(結晶化に由来する発熱ピーク温度−40)℃以上とすることが好ましい。更に好ましくは、(結晶化に由来する発熱ピーク温度−20)℃以上とすることが好ましい。
上記温度よりも高い場合、加熱中に結晶化が進行し、得られるポリイミドフィルムのヘイズが高くなる場合がある。また、ゲルフィルムをいきなり最高温度で加熱すると、上記温度以下であったとしても溶媒による可塑剤効果により結晶化が進行する場合がある。逆に上記温度よりも低い場合、結晶化温度よりも低い温度で加熱されているので上記問題が発生する可能性は抑えられるが、温度が低いために残揮発成分を除去しにくくなる。それを補うために加熱炉の炉長を長くしたり、ラインスピードを下げて滞留時間を増す必要が生じ、設備コストや生産性の面で問題がある。加熱は低温側から複数段階に分けて昇温していくことが好ましい。
【0040】
この時、初期加熱温度を低くするほど結晶化が起こりにくいので好ましいが、初期温度の設定を低くすると最高温度との温度差が大きくなるため、急激な温度変化を防ぐために加熱炉を長くしたり加熱炉を多く設ける等により温度ステップを増やしたり、ラインスピードを下げて滞留時間を増す必要が生じ、設備コストや生産性の面で問題がある。本願ではゲルフィルムの残揮発成分量を適切に制御することにより、初期加熱温度をある程度高くしてもヘイズの発生を抑制することが可能となる。
【0041】
以上のことから、初期加熱温度は(結晶化に由来する発熱ピーク温度−200)℃以上〜(結晶化に由来する発熱ピーク温度−80)℃以下とすることが好ましく、(結晶化に由来する発熱ピーク温度−150)℃以上〜(結晶化に由来する発熱ピーク温度−100)℃以下とすることが更に好ましい。
加熱時間については、フィルムの厚みや温度設定を鑑みて適宜設定すれば良いが、生産性も考慮すると30〜4000秒の範囲内とすることが好ましく、100〜2000秒の範囲内とすることが更に好ましい。
【0042】
複数の加熱炉を用いるあるいは加熱炉中に複数の温度ステップを設けて加熱温度を複数段階に分けて昇温していく方法を採用する場合、加熱時間は、イミド化の初期における最も低い加熱温度条件の時間:イミド化における最も高い温度条件の時間=1:0.5〜1:2.5、さらには1:0.8〜1:2の割合になるように加熱することが好ましい。
加熱後の降温についても、得られるフィルムのヒステリシスを小さくするために、最高温度条件での加熱後は最高温度より低い温度条件の加熱炉を設けて降温することが好ましい。その温度や時間については適宜選択して採用することが出来る。
【0043】
ポリイミドフィルムの結晶化に由来する発熱ピーク温度(結晶化温度、Tc)については250℃以上となるように制御するが、280℃以上、さらには300℃以上に制御することが好ましい。ポリイミドフィルムのTcが上記範囲よりも低い場合、残揮発成分を含むゲルフィルム状態での見かけ上のTcが非常に低くなるため、ゲルフィルムの残揮発成分量を低く制御しても、得られるポリイミドフィルムのヘイズを抑制できない場合がある。Tcの上限は特に無いが、Tcが高いほど最高加熱温度を高くできるため、高温短時間でのイミド化が可能となり生産性の面で優れる。Tcはポリイミドの一次構造に由来するため、原料である芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物の組み合わせを変えることで制御し得る。
【0044】
本発明に係るポリイミドフィルムには、長尺での搬送性や巻き取り時のブロッキングを防ぐため、アンチブロッキング材として無機粒子を添加しても良い。無機粒子の材質は特に限定されないが、粒子径の大きい無機粒子を添加すると透過光を散乱してフィルムのヘイズが高くなるため、無機粒子のサイズは100nm以下であることが好ましい。
【0045】
無機粒子の添加量は得られるフィルムのヘイズを勘案しながら適宜選択し得る。添加方法についてもポリアミド酸の重合時にポリアミド酸溶液に添加しても良いし、イミド化促進剤の調合時にイミド化促進剤に添加しても良い。
【0046】
本発明のポリイミドフィルムは上記手段により、ガラス代替材料として適した透明性、耐熱性の実現が可能となる。具体的にはYIが23以下、かつヘイズが5%以下となる。フィルム部材として好適に使用するためには、YIが20以下、かつヘイズが3%以下、特にはYIが18以下、かつヘイズが2.5%以下となることができる。
【0047】
本発明に係るポリイミドフィルムは、耐熱性、絶縁性等のポリイミド本来の特性に加えて、高い透明性と寸法安定性を有することから、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、無機薄膜や無機微細構造物を表面に有するフィルム部材、例えば、シリコン、もしくは金属酸化物、もしくは有機物から形成される薄膜トランジスター用フィルム、カラーフィルターフィルム、透明電極付きフィルム、ガスバリアフィルム、無機ガラスもしくは有機ガラスを積層したフィルムなどに適応できる。
【0048】
これらの部材は、例えば、液晶ディスプレイ用フィルム、有機EL等フィルム、電子ペーパー用フィルム、太陽電池用フィルム、タッチパネル用フィルムなどに用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるポリイミドフィルムの結晶化温度、YI、ヘイズ、ポリアミド酸分子量の評価法は次の通りである。
【0050】
<結晶化温度>
フィルムの結晶化温度はTAインスツルメント社製示差走査熱量計Q200を用いて測定した。測定は10mgのサンプルを使用し、変調測定モードで温度振幅1℃、温度周期60秒、昇温速度3℃/分で0〜400℃の温度範囲で実施した。得られたヒートフローを可逆成分と不可逆成分に分離し、不可逆成分の発熱ピーク温度を結晶化温度とした。
【0051】
<YI>
フィルムのYIは日本電色工業株式会社製HANDY COLORIMETER NR−3000を用い測定した。測定は18cm角サイズのサンプルについて位置を変えて五箇所測定し、平均値をフィルムの測定値とした。
【0052】
<ヘイズ>
フィルムのヘイズは日本電色工業株式会社製ヘイズメーターNDH5000を用いて実施した。測定は18cm角サイズのサンプルについて位置を変えて五箇所測定し、平均値をフィルムの測定値とした。
【0053】
<ポリアミド酸分子量>
ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は、Waters製GPCを用いて次の条件で測定した:(カラム:Shodex製 KD−806M 2本、温度60℃、検出器:RI、流量:1ml/分、展開液:DMF(臭化リチウム0.03M、リン酸0.03M)、試料濃度:0.2重量%、注入量:20μl、基準物質:ポリエチレンオキサイド)。
【0054】
(合成例1;ポリアミド酸溶液の合成)
窒素雰囲気下、20℃に保持した反応器中にN,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)758.5gを添加し、撹拌しながら3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAという)95.8gを添加した。撹拌を続けながら2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBという)83.4gを添加した。
【0055】
2時間撹拌を続け、溶け残りがなくなったことを目視で確認してからTFMBを17.7g添加し、更に1時間撹拌した。TFMBが固形分7重量%の濃度でDMFに溶解した溶液を別途調製し、この溶液41.6gを反応系に徐々に全量添加した。添加終了後、40時間撹拌を続け、粘度2000ポイズ、固形分濃度20%のポリアミド酸溶液を得た。ポリアミド酸の重量平均分子量は12万であった。
【0056】
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/β−ピコリン/DMAc(重量比10/3/1)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を150℃×350秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲルフィルムを引き剥がしてテンタークリップに固定し、200℃、250℃、300℃、320℃、200℃で各35秒ずつ乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。フィルムの結晶化に由来する発熱ピーク温度は330℃であった。
【0057】
(実施例2)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/β−ピコリン/DMAc(重量比10/3/1)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出して、125μm厚みのPETフィルム(ルミラー、東レ製)上に流延した。この樹脂膜を80℃×300秒、150℃×300秒加熱した後、PETフィルムから自己支持性のゲルフィルムを引き剥がしてテンタークリップに固定し、実施例1と同じ条件で乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0058】
(実施例3)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、イミダゾール/DMAc/トルエン(重量比1/5/6)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比50%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出して厚さ1mmのガラス板上に流延した。この樹脂膜を80℃×240秒、140℃×360秒加熱した後、ガラス板と密着させたまま200℃、250℃、300℃、320℃、200℃で各60秒ずつ乾燥・イミド化させ、厚み10μmのポリイミドフィルムとガラス板の積層体を得た。
【0059】
(比較例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/β−ピコリン/DMAc(重量比10/3/1)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出してステンレス製のエンドレスベルト上に流延した。この樹脂膜を100℃×350秒加熱した後、エンドレスベルトから自己支持性のゲルフィルムを引き剥がしてテンタークリップに固定し、実施例1と同じ条件で乾燥・イミド化させ、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0060】
(比較例2)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、イミダゾール/DMAc(重量比1/11)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比50%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出して厚さ1mmのガラス板上に流延した。この樹脂膜を80℃×240秒、120℃×360秒加熱した後、ガラス板と密着させたまま実施例3と同じ条件で乾燥・イミド化させ、厚み10μmのポリイミドフィルムとガラス板の積層体を得た。
【0061】
(比較例3)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、無水酢酸/β−ピコリン/DMAc(重量比10/3/1)からなるイミド化促進剤をポリアミド酸溶液に対して重量比35%添加し、連続的にミキサーで撹拌しTダイから押出して厚さ1mmのガラス板上に流延した。この樹脂膜を減圧下で80℃×60分加熱した後、ガラス板から自己支持性のゲルフィルムを引き剥がしてテンタークリップに固定し、実施例1と同じ条件で乾燥・イミド化させた。しかし途中でフィルムが割れてしまい、ポリイミドフィルムを得ることが出来なかった。
【0062】
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。ゲルフィルムの残揮発成分量を適切な範囲内に抑えることにより、得られるポリイミドのYIとヘイズを抑えることが出来る結果となった。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計測定(DSC)にて結晶化に由来する発熱ピークが250℃以上にあり、YIが23以下、かつヘイズが5%以下のポリイミドフィルム。
【請求項2】
有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸を含有する溶液を支持体上に流延・加熱して自己支持性のゲルフィルムを得た後、これを加熱してイミド化したものであることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
下記式により求められるゲルフィルムの残揮発成分量が、15〜45%の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載のポリイミドフィルム。
(式);(A−B)/B×100 (%)
(A;ゲルフィルムの重量、B;ゲルフィルムを350℃で10分間加熱した後の残留物の重量)
【請求項4】
イミド化時の最高温度を、(結晶化に由来する発熱ピーク温度+50)℃以下とすることを特徴とする、請求項2または3に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
イミド化時の初期温度を、(結晶化に由利する発熱ピーク温度−200)℃以上〜(結晶化に由来する発熱ピーク温度−80)℃以下とすることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸溶液を支持体上に流延・加熱して、残揮発成分量が15〜45%の範囲である自己支持性のゲルフィルムを得た後これをイミド化することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−51995(P2012−51995A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194493(P2010−194493)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】