説明

ポリウレタン多孔質体の製造方法

【課題】 乾燥工程での収縮率が小さく、設計通りの製品を安定して製造することのできるポリウレタン多孔質体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物と、水と溶剤の重量比が水/溶剤=10/90〜75/25からなる混合液とを混練し混練組成物を得る工程、前記混練組成物を成形する工程、得られた成形体を凝固させる工程、および凝固された成形体から無水塩化カルシウムを水抽出して除去し、その後乾燥する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式凝固法によるポリウレタン多孔質体の製造方法に関し、特に凝固工程を経た成形体から無水塩化カルシウムを除去して得られるポリウレタン多孔質体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂を用いたポリウレタン多孔質体は、クッション材、化粧用スポンジ等として用いられている。このようなポリウレタン多孔質体の製造方法のひとつとして湿式凝固法が周知であり、例えば、ポリウレタン樹脂、溶媒および無機塩を混練した混練組成物を調製し、この混練組成物を脱泡、成形する工程、得られた成形体を水中で凝固させる工程、さらに凝固した成形体から無機塩を水抽出して除去し、その後乾燥させる方法が開示されている(特許文献1,2)。
【0003】
しかし、本発明者らの検討によれば、例えば、上記無機塩のうち、塩化カルシウムを用いた湿式凝固法では、例えば、平均粒径20μm程の比較的粒子径の小さな塩化カルシウムを用いた場合、乾燥工程の前後で成形体の収縮率が大きくなり、設計通りの成形体を製造することができない場合があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−233987号公報
【特許文献2】特開2006−152202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、乾燥工程での収縮率が小さく、設計通りの製品を安定して製造することのできるポリウレタン多孔質体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、所定の重量比からなる水と溶剤との混合液をポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物に添加、混練することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 ポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物と、水と溶剤の重量比が水/溶剤=10/90〜75/25からなる混合液とを混練し混練組成物を得る工程、前記混練組成物を成形する工程、得られた成形体を凝固させる工程、および凝固された成形体から無水塩化カルシウムを水抽出して除去し、その後乾燥する工程を有する、ポリウレタン多孔質体の製造方法。
〔2〕 無水塩化カルシウムの平均粒径が100μm以下である、前記〔1〕記載のポリウレタン多孔質体の製造方法。
〔3〕 混練組成物中のポリウレタン樹脂の含有量が20重量%以下である、前記〔2〕記載のポリウレタン多孔質体の製造方法。
〔4〕 化粧用スポンジ、クッション材、OA機器用ローラー、吸水ローラー、液切りローラー、導電ローラー、インクローラー、吸水シート、スワブ、医療用スポンジ、薬液塗布用ヘッドラバー、浸透印、筆ペンまたはフィルターに用いる、前記〔3〕記載のポリウレタン多孔質体の製造方法。
〔5〕 前記〔3〕記載の方法により製造されるポリウレタン多孔質体。
〔6〕 化粧用スポンジ、クッション材、OA機器用ローラー、吸水ローラー、液切りローラー、導電ローラー、インクローラー、吸水シート、スワブ、医療用スポンジ、薬液塗布用ヘッドラバー、浸透印、筆ペンまたはフィルターに用いる、前記〔5〕記載のポリウレタン多孔質体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物と、水と溶剤の重量比が水/溶剤=10/90〜75/25からなる混合液とを混練し混練組成物を得る工程を有するので、乾燥工程での収縮率が小さく、設計通りの製品が安定して製造されるポリウレタン多孔質体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るポリウレタン多孔質体の製造方法は、上述したとおり、ポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物と、水と溶剤の重量比が水/溶剤=10/90〜75/25からなる混合液とを混練し混練組成物を得る工程、前記混練組成物を成形する工程、得られた成形体を凝固させる工程、および凝固された成形体から無水塩化カルシウムを水抽出して除去し、その後乾燥する工程を有することを特徴とする。
【0010】
まず本発明では、ポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物が調製される。
【0011】
原料として用いられるポリウレタン樹脂は、ポリオール、鎖長剤及びポリイソシアネートを反応させて得られるものである。
【0012】
ポリオールとしては、通常のポリウレタン樹脂の製造に使用され、分子中に水酸基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリル系ポリオール、ヒマシ油系ポリオール、シリコーン系ポリオール等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、得られるポリウレタン多孔質体の劣化を抑制する観点から、ポリカーボネートポリオールが好ましく用いられる。なお、前記でいう劣化には、光による劣化、熱による劣化、水による劣化等が含まれる。
【0013】
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)及び/又は複素環式エーテル(テトラヒドロフラン等)を重合又は共重合して得られるもの、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−ポリプロピレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリエチレン−テトラメチレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ−2−メチルテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等が挙げられる。または、アミン化合物(モノ又はジアミン、ヒドラジン、置換ヒドラジン等)にアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)を付加したアミン系エーテルポリオール等が挙げられる。
【0014】
ポリエステルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、グルタル酸、アゼライン酸等)及び/又は芳香族ジカルボン酸(オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸等)と低分子グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサン等)とを縮重合させたもの、具体的にはポリエチレングリコールアジペート、ポリブタンジオールアジペート、ポリヘキサンジオールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール等が挙げられる。
【0015】
ポリカーボネートポリオールとしては、ポリブタンジオールカーボネート、ポリ−3−メチルペンタンジオールカーボネート、ポリヘキサンジオールカーボネート、ポリノナンジオールカーボネート、ポリブタンジオールヘキサンジオールカーボネート、ポリペンタンジオールヘキサンジオールカーボネート、ポリ−2−メチルオクタンジオールノナンジオールカーボネート、ポリ−3−メチルペンタンジオールヘキサンジオールカーボネート等が挙げられる。
【0016】
ポリラクトンポリオールとしては、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール、ポリ−3−メチルバレロラクトンジオール等が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィンポリオールとしては、ポリブタジエングリコール、ポリイソプレングリコールまたはその水素化物等が挙げられる。
【0018】
シリコーン系ポリオールとは、ポリシロキサン主鎖に水酸基を導入したものである。また、導入した水酸基は、ポリシロキサン主鎖の両末端、または片末端にあればよい。
【0019】
鎖長剤としては、通常のポリウレタン樹脂の製造に使用され、分子中に水酸基を2個以上有する短鎖ジオール化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、ノナンジオール、オクタンジオール、ジメチロールヘプタン、1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
本発明では上述した短鎖ジオール化合物の他、鎖長剤として例えばポリアミンを用いることができる。ポリアミンとしては、通常のポリウレタン樹脂の製造に使用され、分子中にアミノ基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジアミン、3−アミノメチル−3,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、シス−2,6−ジメチルピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、4,4’−シクロヘキシルメタンジアミン、トリエチレンテトラミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン等の脂環族アミン;4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル4,4’−ジアミノジフェニルメタン、キシレンジアミン、フェニレンジアミン、1,5−ナフテンジアミン、トルエン−2,4−ジアミン、トルエン−2,6−ジアミン、3,3’−ジメチルベンジジン等の芳香族アミン等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
ポリイソシアネートとしては、通常のポリウレタン樹脂の製造に使用され、末端にイソシアネート基を2つ以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製ジフェニルメタンイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート及びその水素添加物;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネト、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
原料として用いられる溶剤としては、通常、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の有機溶剤やこれらの混合物が挙げられ、後工程において容易に水で抽出できる点で、DMFが好ましく用いられる。
【0023】
本発明では、後述する乾燥工程での収縮率を小さくするため、原料無機塩として無水塩化カルシウムが用いられる。本明細書において「乾燥工程での収縮率が小さい」とは、乾燥工程前後においてポリウレタン多孔質体の鉛直方向および水平方向の収縮率が10%未満となることをいう。無水塩化カルシウムの平均粒径としては、混練時間を短縮できる点で通常100μm以下のものが用いられる。本明細書において「平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、体積基準で測定された粒度分布から計算される体積平均径をいう。また、多孔質体のセルを微細なものにする点で、平均粒径として5〜50μmが好ましく、5〜30μmがより好ましく、5〜20μmがさらに好ましい。
【0024】
本発明者らの検討によれば、ポリウレタン樹脂、溶媒および無水塩化カルシウムを含有する混合物を用いて湿式凝固法によりポリウレタン多孔質体を製造する場合、乾燥工程での収縮率と無水塩化カルシウムの平均粒径とは大きく相関し、平均粒径の小さいものを用いるほど乾燥工程での収縮率が大きくなることが判明した。具体的には、平均粒径が100μmを超える無水塩化カルシウムを使用した場合、後述する混合液を用いなくても、乾燥工程での収縮率は比較的小さい状態(最大でも収縮率15%以下)を保持し得る。一方、平均粒径が100μm以下の無水塩化カルシウムを使用した場合、後述する混合液を用いなければ、乾燥工程での収縮率を小さくすることが難しくなる。したがって、本発明のように、平均粒径として上述したとおり100μm以下の無水塩化カルシウムを用いる場合、乾燥工程での収縮率を小さくする観点から、後述する混合液を用いることが必須となる。
【0025】
ポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物を調製する際には、上記3種類の原料を同時に攪拌、混練してもよいが、例えば固形分25〜40重量%で製造されたポリウレタン樹脂溶液に溶剤と無水塩化カルシウムを添加、混練することもできる。この場合に用いる溶剤としては、ポリウレタン樹脂溶液に用いられている溶剤と同じものが溶解性の点で好ましい。例えば、固形分30重量%のポリウレタン樹脂を用いる場合、該ポリウレタン樹脂100重量部に対して、溶剤を0〜100重量部(好ましくは20〜70重量部)、無水塩化カルシウムを20〜70重量部(好ましくは25〜65重量部)の範囲で配合することができる。また、上記混合物には上記原料以外にも、必要に応じて例えば、界面活性剤、着色剤、耐候剤、抗菌剤等の周知の添加剤をさらに含んでもよい。
【0026】
混合物の調製には、例えば、ニーダー、プラネタリーミキサー、プロペラミキサー、リボンミキサー、単軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサーなど、高粘度のものであっても容易に攪拌、混練可能な混合機が好ましい。上記各原料は、通常10〜50℃の温度範囲で、5〜60分間混練される。
【0027】
続いて、上記で得られた混合物と、水と溶剤からなる混合液とが混練され、混練組成物が調製される。混合液に用いられる溶剤は上記混合物の調製時に用いた溶剤と同じものが溶解性の点で好ましい。混合液中の水と溶剤の重量比としては、後述する乾燥工程での収縮率を小さくするため、水/溶剤=10/90〜75/25の範囲が好ましく、15/85〜70/30の範囲がより好ましい。また、混練組成物の調製には、ニーダー、プラネタリーミキサー、プロペラミキサー、リボンミキサー、単軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサーなど、高粘度のものであっても容易に攪拌、混練可能な混合機が挙げられる。通常は、調製された混合物を収容する混合機を運転した状態で混合液が添加、混練される。混合物と混合液は、通常10〜50℃の温度範囲で、5〜30分間混練される。
【0028】
本発明で製造されるポリウレタン多孔質体は、用途との関係で比較的低密度のもの(見かけ密度として0.15〜0.30g/cm)が要求される場合がある。この場合、ポリウレタン樹脂の配合割合は、混練組成物中、固形分換算で通常10〜20重量%の範囲とされる。このように、ポリウレタン多孔質体が低密度になるほど、乾燥時の収縮率が大きくなるが、本発明では上述した混合液を用いるため、乾燥工程での収縮率を小さくすることができる。
【0029】
上記のように混練組成物を調製し、混練終了後、混練組成物を成形する。なお、必要に応じて混練組成物の混練中または混練後に混練組成物を脱泡してもよい。脱泡の具体的方法としては、混練組成物中の気泡を取り除くことができる方法であれば特に限定されず、例えば、ベント式押出機を使用して減圧脱泡を行う方法、真空フード等を採用したプラネタリーミキサーを使用して真空減圧状態で攪拌、混練を行なう方法、減圧条件下に放置する方法、遠心分離機などを使用して気泡を強制的に取り除く方法等が挙げられる。
【0030】
成形の具体的方法としては、公知の方法であれば特に限定されず、例えば、押出機を使用し、その成形ダイスより混練組成物を押し出し賦型する方法、所定形状の型に混練組成物を注入、充填して賦型する方法等が挙げられる。
【0031】
続いて、成形された成形体から溶剤を抽出し、凝固された成形体を製造する。具体的方法としては、公知の方法であれば特に限定されず、例えば、10〜50℃程度の水等を入れた水槽に成形された成形体を浸漬する方法等が挙げられる。凝固時間は成形体の厚みにより適宜変更可能であり、例えば20mm厚みの成形体の場合通常3〜48時間である。
【0032】
その後、凝固された成形体から無水塩化カルシウムを水抽出して除去する。水抽出する具体的方法としては、公知の方法であれば特に限定されず、例えば、水中に放置する方法、手もみ洗い、バブリング、超音波洗浄等が挙げられる。また、洗濯機等に凝固した成形体を投入し、10〜50℃の水で10分〜数時間程度、攪拌、洗浄する方法が挙げられる。
【0033】
水抽出後、無水塩化カルシウムが除去された成形体を、例えば、送風定温式、減圧式、除湿式、タンブラー式等の公知の乾燥機を用いて、130℃以下で乾燥する。このようにしてポリウレタン多孔質体が製造される。
【0034】
得られたポリウレタン多孔質体は、乾燥前後での鉛直方向および水平方向の収縮率が10%未満となり、水と溶剤からなる混合液を使用しない従来法と比べて、格段に収縮率が小さくなり、改善される。
【0035】
また、硬度、引張り強度及び伸長率の測定結果から、本発明に係るポリウレタン多孔質体は、例えば、化粧用パフやアイシャドーチップ等の化粧用スポンジ、クッション材、OA機器用ローラー、吸水ローラー、液切りローラー、導電ローラー、インクローラー等の各種ローラー、吸水シート等の吸液部材、スワブ、医療用スポンジ、薬液塗布用ヘッドラバー等の塗布用スポンジ、浸透印、筆ペン、フィルター等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例および比較例についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1〜4)
1.ポリウレタン多孔質体の製造
ジャケット付きのプラネタリーミキサー((株)井上製作所、容量:5L、型式:PLM−5)で40℃の温水を循環させて、表1に示す配合割合(重量比)で、ポリウレタン樹脂溶液(トーヨーポリマー(株)、HILACK MP−1051 SPN、DMFを溶剤とする固形分30%のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)、DMFおよび無水塩化カルシウム(平均粒径:20μm)を回転数60rpmで20分間混練し混合物を得、続いて表1に示す配合割合(重量比)からなる水とDMFからなる混合液を投入し、15分間混練して混練組成物を調製した。次にプラネタリーミキサーの回転数を40rpmに下げ、10分間真空脱泡を行なった。
脱泡後の混練組成物の性状を目視観察した後、該混練組成物を直径130mm、高さ20mmの円盤型の型内に注入、充填し、水温17〜20℃の水槽に投入して混練組成物を凝固させた。混練組成物の凝固が進行すると、鉛直方向に切断して断面を目視にて観察することにより凝固部と未凝固部の境目が外観ではっきり分かるので、混練組成物の上端面から鉛直方向下向きの厚みを凝固厚みとして、24時間後、48時間後および72時間後の凝固厚みを測定した。そして、凝固完了後、円盤状の成形物を型から取り出し、40〜50℃の水で約10分間手もみ洗いして無水塩化カルシウムを抽出除去し、湿潤状態のポリウレタン多孔質体を得た。表2に混練組成物の配合割合、性状および凝固厚みを示す。
なお、無水塩化カルシウムの平均粒径は、(株)島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2200)を用い、体積基準で測定された粒度分布から計算された体積平均径である。後述する実施例14〜17で使用する無水塩化カルシウム、比較例4,10〜13で使用する塩化カルシウム二水和物と塩化ナトリウムの平均粒径も上記と同様の方法で測定された値である。
【0038】
2.乾燥前後の収縮率の測定
湿潤状態のポリウレタン多孔質体の表層全体をカッターで除去し、油性マジックで縦(厚み)方向に長さ10mm以上の標線を2本マーキングし、横(直径)方向に長さ90mm以上の標線を1本マーキングし、ノギスで各標線の長さを測定した後、送風定温式乾燥機を用いて80℃で15時間乾燥させた。乾燥終了後に上記縦および横の標線の長さをノギスで測定し、〔乾燥前の標線の長さ−乾燥後の標線の長さ)/乾燥前の標線の長さ〕×100(%)により収縮率を求めた。表2に結果を示す。
【0039】
3.ポリウレタン多孔質体の物性測定
乾燥工程を経て得られたポリウレタン多孔質体について、硬度(アスカーC型)、見かけ密度、引張り強度および伸長率を測定し、表2に結果を示した。硬度の測定はアスカーC型硬度計(高分子計器(株))を使用して行ない、見かけ密度の測定はJIS K 7222、引張り強度と伸長率の測定はともにJIS K 6440−5に従った。
【0040】
(比較例1)
水とDMFからなる混合液に代えてDMFのみを使用したこと以外は、上記「(実施例1〜4)」と同様に行なった。表1に各成分の配合割合を、表2に結果を示す。
(比較例2)
表1に示す混合物と混合液を使用したこと以外は、上記「(実施例1〜4)」と同様に行なった。表1に各成分の配合割合を、表2に結果を示す。
(比較例3)
混合液を使用せずに混練組成物を調製したこと以外は、上記「(実施例1〜4)」と同様に行なった。表1に各成分の配合割合を、表2に結果を示す。
(比較例4)
無水塩化カルシウムと水に代えて塩化カルシウム二水和物(平均粒径:20μm)を使用したこと、および水とDMFからなる混合液に代えてDMFのみを使用したこと以外は、上記「(実施例1〜4)」と同様に行なった。表1に各成分の配合割合を、表2に結果を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
実施例1〜4の収縮率は縦方向および横方向ともに一桁であり良好な結果を示した。一方、比較例3では、縦および横方向の収縮率がともに10%以上を示し、良好な収縮率を示さなかった。この結果から、乾燥工程でポリウレタン多孔質体の収縮率を10%未満とするには、ポリウレタン樹脂溶液、DMFおよび無水塩化カルシウムからなる混合物と、水とDMFからなる混合液とを混練し混練組成物を得る工程が必要であることが分かった。さらに、比較例3では得られたポリウレタン多孔質体が固体状に硬くなり、物性測定ができなかった。
次に、比較例1では比較例3と同様、縦および横方向の収縮率がともに10%以上を示し、良好な収縮率を示さなかった。さらに、比較例1では比較例3と同様、ポリウレタン多孔質体自体は製造できたが、固体状に硬くなり、物性面で商品価値が低くなった。
そして、比較例2では水とDMFからなる混合液を使用したものの、混練組成物がそぼろ状になり、ポリウレタン多孔質体の成形品を製造することができなかった。
以上の結果から、乾燥工程でポリウレタン多孔質体の収縮率を10%未満とするには、水とDMFからなる混合液の重量比として、水/DMF=5/25〜20/10が好適な範囲といえる。
また、比較例4は、無水塩化カルシウムと水の代わりに塩化カルシウム二水和物を用いた系であるが、縦および横方向の収縮率がいずれも15%以上となり、良好な収縮率を示さなかった。
【0044】
(実施例5〜13)
表1に示す配合割合からなる混合物と混合液を使用したこと以外は、上記「(実施例1〜4)」と同様に行なった。表3に結果を示す。
(比較例5〜7)
水とDMFからなる混合液に代えてDMFのみを使用したこと以外は、上記「(実施例5〜13)」と同様に行なった。表1に各成分の配合割合を、表3に結果を示す。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例5〜13では、縦方向および横方向の収縮率がともに10%未満となり、良好な収縮率を示した。一方、水とDMFからなる混合液に代えてとしてDMFのみを用いた比較例5〜7では、縦および横方向の収縮率がともに10%以上を示し、良好な収縮率を示さなかった。これらの結果から、各成分について混練組成物の配合割合を変化させた場合でも、上記「(実施例1〜4)」と同様の結果が得られることが分かった。
【0047】
(実施例14〜17)
表4の欄外に示す平均粒径を有する無水塩化カルシウムを使用したこと、および表4に示す配合割合からなる混合物と混合液を使用したこと以外は、上記「(実施例1〜4)」と同様に行なった。表5に結果を示す。
(比較例8〜9)
水とDMFからなる混合液に代えてDMFのみを使用したこと以外は、上記「(実施例14〜17)」と同様に行なった。表4に各成分の配合割合を、表5に結果を示す。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
実施例14〜17では、縦方向および横方向の収縮率がともに10%未満となり、良好な収縮率を示した。実施例14,16と実施例1の収縮率を比べると、実施例14,16の方が実施例1よりも小さくなった。この結果から、無水塩化カルシウムの平均粒径が大きくなるほど収縮率が小さくなる傾向にあることが分かった。実施例15,17と実施例4の収縮率を比べても同様の結果となった。
【0051】
(比較例10〜13)
無水塩化カルシウムに代えて塩化ナトリウム(平均粒径:10μmまたは30μm)を使用したこと、および表4に示す各成分の配合割合で混練組成物を調製したこと以外は、上記「(実施例1〜4)」と同様に行なった。表5に結果を示す。
【0052】
比較例10〜13の結果から、無水塩化カルシウムに代えて塩化ナトリウムを用いた系では、比較例11の場合には水とDMFの混合液を添加、混練すると比較例10と比べて収縮率は小さくなるが、縦方向の収縮率が15%前後になるため、収縮率の値としては良好とはいえないことが分かった。さらに、比較例12と13との比較から、水とDMFの混合液を添加、混練しても収縮率が変化しない場合もあることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、乾燥工程での収縮率が小さく、設計通りの製品を安定して製造することのできるポリウレタン多孔質体の製造方法として広く適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂、溶剤及び無水塩化カルシウムを含有する混合物と、水と溶剤の重量比が水/溶剤=10/90〜75/25からなる混合液とを混練し混練組成物を得る工程、前記混練組成物を成形する工程、得られた成形体を凝固させる工程、および凝固された成形体から無水塩化カルシウムを水抽出して除去し、その後乾燥する工程を有する、ポリウレタン多孔質体の製造方法。
【請求項2】
無水塩化カルシウムの平均粒径が100μm以下である、請求項1記載のポリウレタン多孔質体の製造方法。
【請求項3】
混練組成物中のポリウレタン樹脂の含有量が20重量%以下である、請求項2記載のポリウレタン多孔質体の製造方法。
【請求項4】
化粧用スポンジ、クッション材、OA機器用ローラー、吸水ローラー、液切りローラー、導電ローラー、インクローラー、吸水シート、スワブ、医療用スポンジ、薬液塗布用ヘッドラバー、浸透印、筆ペンまたはフィルターに用いる、請求項3記載のポリウレタン多孔質体の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の方法により製造されるポリウレタン多孔質体。
【請求項6】
化粧用スポンジ、クッション材、OA機器用ローラー、吸水ローラー、液切りローラー、導電ローラー、インクローラー、吸水シート、スワブ、医療用スポンジ、薬液塗布用ヘッドラバー、浸透印、筆ペンまたはフィルターに用いる、請求項5記載のポリウレタン多孔質体。

【公開番号】特開2011−225807(P2011−225807A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229602(P2010−229602)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000222417)トーヨーポリマー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】