説明

ポリウレタン樹脂水性液およびそれを用いた水性印刷インキ組成物

【目的】 インキや塗料などに代表される水性塗工剤のバインダー樹脂として使用され、長期に渡って保存安定性、接着性を低下させないポリウレタン樹脂水性液を提供すること。また、良好な再溶解性と、長期保存においても高い接着性、ラミネート適性を有する水性印刷インキ組成物を提供すること。
【構成】 有機ジイソシアネート成分、高分子ジオール成分および鎖伸長剤を反応させた、特定の構成単位を有する、数平均分子量2,000〜200,000、酸価5〜100のポリウレタン樹脂を、塩基性化合物の存在下で水中に溶解または分散させてえられるポリウレタン樹脂水性液およびそれを用いた水性印刷インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリウレタン樹脂水性液およびそれを用いた水性印刷インキ組成物に関する。さらに詳しくは、ラミネート用水性印刷インキ組成物などのバインダー樹脂として使用したばあいに、長期保存安定性に優れ、良好な接着性、ラミネート適性および再溶解性を有する水性印刷インキ組成物などを与えるポリウレタン樹脂水性液、さらにそれを用いた水性印刷インキ組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、包装容器の多様化、合成皮革などの合成樹脂製品の高機能化に伴い、装飾あるいは表面保護のために用いられる印刷インキや各種コーティング剤は、高度な性能が要求されるようになってきている。
【0003】たとえばプラスチックフィルム用印刷インキの分野においては、優れた印刷適性、広範な種類のフィルムに対する接着性、耐ブロッキング性、光沢、および発色性などを備えていることが必要である。
【0004】さらに、印刷物を食品包装容器として利用するばあいは、インキの印刷面上にラミネート加工と称する方法でポリマー層を設けて、内容物とインキとの直接の接触を防止し、また高級な印刷物としての印象を与えているが、このラミネート加工に利用されるインキは、印刷基材と良好に接着することはもとより、積層されるフィルムとの接着性(ラミネート適性)にも優れていなければならない。
【0005】これらのインキ性能は、主にバインダー樹脂の性能に依存することから、バインダー樹脂の中でも、広範な種類のフィルムに対する接着性、ラミネート適性に優れたポリウレタン樹脂をバインダー樹脂とした、溶剤性ラミネート用インキがよく使用されてきた。
【0006】しかし、最近では環境問題、省資源、労働安全性および食品衛生などの見地から、水性タイプの印刷インキの要望が強くなっている。
【0007】一般に、溶剤性インキを水性化する方法としては、溶剤性インキで用いられているバインダー樹脂を、乳化剤の存在下で水中に分散(水分散性タイプ)させるか、または分子内に酸基を導入し、塩基性化合物の存在下で水中に溶解(水溶性タイプ)または分散(自己乳化性タイプ)させて、水を媒体としたインキとする方法がある。
【0008】ポリウレタン樹脂をバインダー樹脂とする溶剤性インキも、前記の方法により水性化されているが、一般に前記水分散性タイプのポリウレタン樹脂を使用すると、顔料分散性、インキの流動性および再溶解性が不良となる傾向を有する。
【0009】そこで、前記水溶性または自己乳化性タイプのポリウレタン樹脂が基本バインダーとして使用されており、ポリウレタン樹脂の分子内に酸基を導入する方法としては、以下の方法がある。
【0010】■ジメチロールプロピオン酸などのジオールモノカルボン酸を利用する方法(特開平4−178418号公報など)。
【0011】■無水ピロメリット酸とトリメチロールプロパンとのエステル、または無水ピロメリット酸とジオール化合物とのエステルなど、分子内に1つの芳香環にカルボキシル基が2つ結合した構成単位を有するポリエステルジオールを利用する方法(特開平5−171091号公報など)。
【0012】しかし、■の方法で得られるポリウレタン樹脂では、塩基性化合物の水溶液中に溶解するのに必要な量のカルボキシル基を分子内に導入すると、分子自体が硬くなり、えられるインキの接着性が低下する傾向があることから、充分な溶解性と接着性を有するバインダーをうることが困難となる。
【0013】一方、■の方法でえられるポリウレタン樹脂では、分子自体の硬化は防止できるが、塩基性化合物により加水分解されて、経時でのインキの接着性や保存安定性が低下する。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の第一の目的は、前記従来技術の問題点を解決して、インキや塗料などに代表される水性塗工剤のバインダー樹脂として使用され、長期に渡って保存安定性、接着性を低下させないポリウレタン樹脂水性液を提供することにある。また、第二の目的は、当該ポリウレタン樹脂をバインダーとして使用したラミネート加工適性をも有する水性印刷インキ組成物を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、ポリウレタン樹脂が、塩基性化合物の存在下水中で溶解または分散状態で存在する水性液において、前記ポリウレタン樹脂が、有機ジイソシアネート成分、高分子ジオール成分および鎖伸長剤、さらには必要に応じて反応停止剤を反応させた、下記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位を有する、数平均分子量2,000〜200,000、酸価5〜100のポリウレタン樹脂であることを特徴とするポリウレタン樹脂水性液(請求項1の発明)に関する。
【0016】
【化2】


【0017】(式中、Xは、−CH2 −、−CO−または−O−を示す)。
【0018】また、前記発明の良好な態様として、以下の(a)および(b)のポリウレタン樹脂水性液に関する。
【0019】(a)高分子ジオール成分が、前記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位を分子内に有するものである前記請求項1のポリウレタン樹脂水性液(請求項2の発明)。
【0020】(b)前記の一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位に起因する全カルボキシル基を、ポリウレタン樹脂分子内の全カルボキシル基の30モル%以上となる量で含有する請求項1または2のポリウレタン樹脂水性液(請求項3の発明)。
【0021】さらに、本発明は、請求項3記載のポリウレタン樹脂水性液および顔料を必須成分として含有する水性印刷インキ組成物に関する。
【0022】
【作用および実施例】本発明のポリウレタン樹脂水性液は、前記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位を有する、数平均分子量2,000〜200,000、酸価5〜100のポリウレタン樹脂が、塩基性化合物の存在下水中で溶解または分散状態で存在する点に特徴があり、それを水性インキ組成物などのバインダー樹脂として用いたばあい、優れた長期保存安定性、接着性、ラミネート適性および再溶解性を呈するものである。
【0023】本発明に用いるポリウレタン樹脂に使用される有機ジイソシアネート成分、高分子ジオール成分および鎖伸長剤について説明する。
【0024】まず、有機ジイソシアネート成分としては、ポリウレタン樹脂の形成が可能な有機ジイソシアネートであればとくに限定されず、具体的にはたとえばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート化合物、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物をあげることができる。それらの中でも、各種フィルムに対する接着性や水性印刷インキの再溶解性を良好にするという点から、脂環式または芳香脂肪族ジイソシアネート化合物が好ましい。
【0025】次に、高分子ジオール成分について説明する。
【0026】まず、一般式(I)および(または)一般式(II)で表される構成単位を分子内に含有する高分子ジオール成分(以下、高分子ジオール成分(A)ともいう)としては、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(式(III) )、3,3′,4,4′−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物(式(IV))、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(式(V))、4,4′−オキシジフタル酸二無水物(式(VI))より選択される少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物と、低分子ジオール化合物および(または)高分子ジオール化合物とを反応させてえられるポリエステルジオールが使用できる。
【0027】
【化3】


【0028】
【化4】


【0029】
【化5】


【0030】
【化6】


【0031】前記低分子ジオール化合物としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの直鎖状グリコール類、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、エチルブチルプロパンジオールなどの分岐グリコール類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのエーテル系ジオール類などの低分子ジオール成分をあげることができる。
【0032】また、前記高分子ジオール化合物としては、前記低分子ジオール化合物とアジピン酸、フタル酸などの二塩基酸成分との重縮合、あるいは、ラクトン類などの環状エステル化合物の開環反応によってえられるポリエステルジオール類、また、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフランなどを重合もしくは共重合してえられるポリエーテルジオール類、さらには、アルキレンカーボネート、ジアリルカーボネート、ジアルキルカーボネートなどのカーボネート成分あるいはホスゲンと、前記低分子ジオール化合物とを反応させてえられるポリカーボネートジオール類、ポリブタジエングリコール類などが挙げられる。
【0033】前記テトラカルボン酸二無水物と低分子ジオール化合物および(または)高分子ジオール化合物とを反応させるばあい、所定の比率で混合した後、70〜140℃に加熱する方法が一般に用いられる。
【0034】さらに、他の使用可能な高分子ジオール成分(一般式(I)および(または)一般式(II)で表される構成単位を分子内に含有しない高分子ジオール成分、以下高分子ジオール成分(B)ともいう)としては、前記高分子ジオール化合物と無水ピロメリット酸などとを反応させるか、または、ジメチロールプロピオン酸などを開始剤として、ラクトン類を開環重合してえられる遊離のカルボキシル基を有する高分子ジオール化合物のほかに、前記高分子ジオール化合物自体も高分子ジオール成分として使用する事ができる。
【0035】なお、本発明のポリウレタン樹脂水性液を印刷インキ組成物のバインダーなどとして使用するばあいは、プラスチックフィルムとの接着性、ラミネート適性などの面から、高分子ジオール成分(A)および(B)の高分子ジオール化合物としてはポリエステルジオール類、ポリカーボネートジオール類を使用することが望ましく、さらに、ボイル・レトルト適性を付与するためには、ポリエステルジオール類を使用することが好ましい。
【0036】以上の高分子ジオール成分(A)および(B)の分子量(数平均分子量、以下同様)は、えられるポリウレタン樹脂の皮膜硬度や凝集力を最適にするという点から500〜10000が好ましく、さらには1000〜6000のものが好適に使用できる。
【0037】さらに高分子ジオール成分と前記低分子ジオール化合物を併用して、分子量を前記の範囲とすることによっても、良好な性能を付与しうるポリウレタン樹脂をうる事ができる。
【0038】次に、鎖伸長剤について説明する。
【0039】まず、一般式(I)および(または)一般式(II)で表される構成単位を分子内に含有する鎖伸長剤(以下、鎖伸長剤(A)ともいう)は、前記テトラカルボン酸二無水物より選択される少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物と、前記低分子ジオール化合物または低分子ジアミン化合物とを、nモル:n+1モル(ただし、n=1〜3程度の整数)で反応させてえられるジオール化合物またはジアミン化合物が利用できる。
【0040】ここで、低分子ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、イソホロンジアミンなどの脂肪族および脂環式ジアミン類が利用できる。
【0041】前記テトラカルボン酸二無水物と低分子ジアミンとを反応させるばあい、所定の比率で混合したのち、室温〜60℃に加熱する方法が一般的である。
【0042】また、その他の使用可能な鎖伸長剤(一般式(I)および(または)一般式(II)で表される構成単位を分子内に含有しない鎖伸長剤、以下、鎖伸長剤(B)ともいう)としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールなどのグリコール、ヒドラジン、前記低分子ジアミン化合物、下記の一般式(VII) :
【0043】
【化7】


【0044】(式中、R1 は、水素原子、または炭素数1〜8の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を示す)、で表される化合物、あるいはコハク酸、アジピン酸などと低級ポリオールとを反応させてえられるカルボキシル基含有脂肪族ポリオール類、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸またはその無水物と低級ポリオールとを反応させてえられるカルボキシル基含有芳香族ポリオール類をあげることができ、さらにポリウレタン樹脂が水中で安定に分散できる使用範囲で、前記の二官能鎖伸長剤と、グリセリン、1,2,3−トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの脂肪族ポリオール類、1,3,5−シクロヘキサントリオールなどの脂環式ポリオール類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族ポリアミン類などの多官能鎖伸長剤を併用する事ができる。
【0045】さらに本発明は必要に応じて反応停止剤を使用するものである。
【0046】反応停止剤とは、ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤で鎖伸長したのち、残存するイソシアネート基と反応させ、反応性を消失させるために使用されるものであり、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、N,N−ジ−n−ブチルアミンなどのアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミン類、ヒドラジン、アルキルジヒドラジン、アルキルジヒドラジドなどのヒドラジン類、メタノール、エタノールなどのモノアルコール類をあげることができる。
【0047】以上の有機ジイソシアネート成分、高分子ジオール成分、鎖伸長剤および反応停止剤を用いて、ポリウレタン樹脂を製造する方法を説明する。
【0048】まず、有機ジイソシアネート成分と高分子ジオール成分を(1.3〜3.0):1、より好ましくは、(1.5〜2.0):1のモル比率で混合したのち、両者の反応性に応じて、水混和性溶媒や触媒の使用の要否や種類、反応温度などを決定し、既知の方法で反応させて、ウレタンプレポリマーを合成する。次いで、鎖伸長剤、および必要に応じて溶媒、触媒などを添加して反応させ、さらに反応停止剤を反応させて製造を完結する。なお、反応停止剤を使用するかわりに、鎖伸長剤を過剰に使用して反応停止する方法および鎖伸長剤と反応停止剤を同時に添加する方法でも差し支えない。
【0049】また、ポリウレタン樹脂の製造の際に使用される水混和性溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、N−メチルピロリドンなどをあげることができ、また、触媒としては、オクチル第一錫、ジブチル錫ジアセテート、テトラブトキシチタネート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミンなどをあげることができる。
【0050】以上の材料と製造方法よりえられたポリウレタン樹脂は、2,000〜200,000、好ましくは5,000〜100,000の数平均分子量を有するものである。ポリウレタン樹脂の数平均分子量が2,000未満では、樹脂皮膜の凝集力が乏しく、十分な接着性が得られなくなり、一方200,000を超えると、水中での分散または溶解安定性が低下する。
【0051】次に、前記ポリウレタン樹脂を水性化する方法について説明する。
【0052】ポリウレタン樹脂の水性化は、分子内にカルボキシル基を有するポリウレタン樹脂を、塩基性化合物の存在化で、水中に溶解または分散させる方法により行われる。
【0053】ここで、分子内に導入するカルボキシル基の量は、一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位に起因するカルボキシル基を必須成分として、当該ポリウレタン樹脂の酸価を5〜100、好ましくは20〜60とする量である。ポリウレタン樹脂の酸価が前記の範囲より小さくなると、水中で充分な溶解性または分散性がえられず、一方、酸価が前記範囲より大きくなると、ポリウレタン樹脂をバインダーとする各種塗工剤などの耐水性が低下し好ましくない。
【0054】前記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位に起因する全カルボキシル基は、長期間保存しても粘度変化などをおこさず、樹脂皮膜が適度の柔軟性を有するという点から、ポリウレタン樹脂の酸価によっても異なるが一般的には、ポリウレタン樹脂分子内の全カルボキシル基の10モル%以上が好ましく、さらには20モル%以上が好ましい。
【0055】なお、本発明のポリウレタン樹脂水性液を印刷インキのバインダーとして使用するばあいは、長期間保存しても印刷適性やプラスチックフィルムに対する接着性を低下させないという点から、一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位に起因する全カルボキシル基は、ポリウレタン樹脂分子内の全カルボキシル基の30モル%以上であり、さらには50モル%以上が好ましい。
【0056】一方、ポリウレタン樹脂を水中に分散または溶解させるために使用する塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物などをあげることができ、具体的には、有機アミンとして、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミンなどのアルキルアミン、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンなどのアルカノールアミン、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがあげられる。その中でも、乾燥性を向上させるために、常温あるいはわずかの加温下で容易に揮発するもの(たとえばアンモニアやアルキルアミンなど)が好ましい。
【0057】また、ポリウレタン樹脂を水中に溶解または分散させるために使用する塩基性化合物の使用量は、ポリウレタン樹脂を中和するために必要な量の0.15〜1.2当量が好ましく、さらには0.8〜1.1当量が好ましい。塩基性化合物の使用量が0.15当量より少なくなると、ポリウレタン樹脂を水中に分散させることが困難となる傾向がある。一方、塩基性化合物を1.2当量をこえて使用することもできるが、ポリウレタン樹脂を水中に溶解あるいは分散させる効果は、1.2当量の使用量の時と大差がない。
【0058】また、本発明のポリウレタン樹脂は、固形分として5〜50%(重量%、以下同様)、より好ましくは10〜40%となる範囲で水中に溶解または分散させる事が好適である。固形分が5%より少なくなると、濃度が低くなりすぎて用途が制限され、一方、50%より多くなると水中に分散または溶解させることが困難となり好ましくない。
【0059】なお、ポリウレタン樹脂の水性化は、ポリウレタン樹脂を製造後、塩基性化合物などを用いて水性化させてもよいし、またウレタンプレポリマーを水性化させ、そののち鎖伸長剤などを反応させてもよい。
【0060】次に、本発明のポリウレタン樹脂水性液をバインダー樹脂として用いた水性印刷インキ組成物について説明する。
【0061】本発明の水性印刷インキ組成物は、前記ポリウレタン樹脂水性液および顔料を必須成分とし、任意成分として水混和性溶剤などからなる、プラスチックフィルムなどを対象とした水性印刷インキ組成物である。必要に応じ、さらに水を適宜配合して濃度を調整する。
【0062】前記顔料としては、一般に印刷インキ、塗料などで使用されている無機顔料(酸化チタン、べんがら、カーボンブラックなど)、有機顔料(アゾ顔料、縮合多環系顔料、フタロシアニン顔料など)および体質顔料(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなど)が使用できる。
【0063】水性バインダー樹脂としては、前記特定するポリウレタン樹脂を必須成分として用いるが、インキの他性能の向上を目的として、本発明の効果を低下させない範囲でたとえばセルロース樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、エチレン−アクリル酸系樹脂などの他の各種水性樹脂、また一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位を分子中に含まないポリウレタン樹脂などを、本発明の効果を低下させない範囲で併用することもできる。
【0064】さらに、インキ性能の必要性に応じて、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メトキシプロパノールなどの低級アルコールまたは低級アルコキシプロパノールなどの水混和性溶剤および耐ブロッキング剤、消泡剤、架橋剤などの各種添加剤を含有させることもできる。
【0065】前記ポリウレタン樹脂水性液は、適度な流動性、インキ皮膜凝集力を付与するという点から、水性印刷インキ組成物中に固形分換算で5〜30%、さらには10〜25%含有されていることが好ましい。
【0066】また、前記顔料は、インキの着色力と流動性とのバランスを図るという点から、水性印刷インキ組成物中に1〜50%、さらには5〜40%含有されていることが好ましい。
【0067】また、水混和性溶剤を用いるばあいは、水性印刷インキ組成物中に5〜20%含有されていることが好ましい。
【0068】以上の材料を使用して水性印刷インキを製造する方法としては、まず顔料とポリウレタン樹脂水性液などの水性バインダー樹脂を撹拌混合させたのち、通常の分散装置(たとえばレッドデビル型分散機)で混練し、さらに所定の成分を添加混合して製造することができる。
【0069】本発明からえられる水性印刷インキ組成物は、長期保存安定性に優れ、良好な接着性と再溶解性を有するものである。
【0070】次に、本発明の水性印刷インキ組成物の使用方法について説明する。
【0071】まず、本発明の水性印刷インキ組成物が印刷されるプラスチックフィルムとしては、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、ポリスチレンなどの各種プラスチックフィルムが使用でき、特にコロナ放電処理または表面コート処理したプラスチックフィルムが好適である。
【0072】また本発明の水性印刷インキ組成物は、既知のフレキソ印刷機、グラビア印刷機を使用して、フレキソまたはグラビア印刷方式で印刷することができる。
【0073】さらに、前記の印刷方法によってえられた印刷物を、押出しラミネート法とドライラミネート法でラミネート加工することができる。
【0074】以上の方法からえられた水性印刷インキ組成物は、良好な再溶解性と、長期保存においても高い接着性、ラミネート適性を有するものである。
【0075】以下、実施例で具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】なお、実施例などにおける部は、とくに限定がない限り重量部を表す。
【0077】実施例1撹拌機、冷却管、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた四つ口フラスコ中に分子量1500の(ポリ−3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸との重縮合でえられるジオール、以下同様)300部、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部を仕込み、反応温度120〜140℃で1時間反応させた。50℃に冷却後、イソホロンジイソシアネート40部を仕込み、60〜80℃で4時間反応させ、ついで水740部、イソプロパノール131部、トリエチルアミン20.2部を仕込み水溶化した。さらに、イソホロンジアミン10.8部、ヒドラジン1.6部を加え、20分間反応させて、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.1をえた(ポリウレタン樹脂の分子量23,000、酸価28)。
【0078】なお、酸価および分子量は下記の方法により測定した。
【0079】(酸価)1/10Nアルコール性水酸化カリウムを使用した中和滴定法により求めた。
【0080】(分子量)常法によりGPC法で数平均分子量を測定した。
【0081】実施例23,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部の代わりに、3,3′,4,4′−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物30.8部、また水を743部とした以外は、実施例1と同じ装置、組成および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.2をえた(ポリウレタン樹脂の分子量23,000、酸価28)。
【0082】実施例33,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部の代わりに、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物32.2部、また水を746部とした以外は、実施例1と同じ装置、組成および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.3をえた(ポリウレタン樹脂の分子量23,000、酸価28)。
【0083】実施例43,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部の代わりに、4,4′−オキシジフタル酸二無水物31.0部、また、水を743部とした以外は、実施例1と同じ装置、組成および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.4をえた(ポリウレタン樹脂の分子量23,000、酸価28)。
【0084】実施例53,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部の代わりに、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物9.7部、無水ピロメリット酸15.3部、また、水を729部とした以外は、実施例1と同じ装置、組成および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.5をえた(ポリウレタン樹脂の分子量22,000、酸価28)。なお、本実施例は、前記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位に起因する全カルボキシル基が、ポリウレタン樹脂分子内の全カルボキシル基の30モル%となるばあいであった。
【0085】実施例6分子量1500の(ポリ−3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール300部を450部に、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部を58.8部に、水740部を1063部に、イソプロパノール131部を188部に、トリエチルアミン20.2部を40.4部に変更した以外は、実施例1と同じ装置および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.6をえた(ポリウレタン樹脂の分子量34,000、酸価40)。
【0086】実施例7イソホロンジアミン10.8部を12.2部に、ヒドラジン1.6部を0.8部に変更した以外は、実施例6と同じ装置および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.7をえた(ポリウレタン樹脂の分子量67,000、酸価40)。
【0087】実施例8分子量1500の(ポリ−3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール300部の代わりに、分子量500のポリ(ネオペンチルアジペート)ジオールを200部、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部を88.2部に、水740部を624部に、イソプロパノール131部を110部に、トリエチルアミン20.2部を60.6部に変更した以外は、実施例1と同じ装置および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.8をえた(ポリウレタン樹脂の分子量20,000、酸価99)。
【0088】比較例1実施例1と同じ装置に、分子量1500の(ポリ−3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール300部、無水ピロメリット酸21.8部を仕込み、反応温度90〜100℃で2時間反応させた。50℃に冷却後、イソホロンジイソシアネート40部を仕込み、50〜60℃で2時間反応させ、さらに水682部、イソプロパノール120部、トリエチルアミン20.2部を仕込み水溶化した。
【0089】さらに、イソホロンジアミン10.8部、ヒドラジン1.6部を加え、20分間反応させて、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.9をえた(ポリウレタン樹脂の分子量22,000、酸価29)。
【0090】比較例2実施例1と同じ装置に、分子量4000の(ポリ−3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール240部、ジメチロールプロピオン酸24.1部、イソホロンジイソシアネート71.1部を仕込み、反応温度90℃で8時間反応させた。60℃に冷却後、水680部、イソプロパノール120部、トリエチルアミン18.0部を仕込み水溶化した。
【0091】さらに、イソホロンジアミン10.9部、ヒドラジン0.5部を加え、20分間反応させて、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.10をえた(ポリウレタン樹脂の分子量22,000、酸価29)。
【0092】比較例3分子量1500の(ポリ−3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール300部の代わりに、分子量500のポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオールを300部、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4部を147部に、水740部を905部に、イソプロパノール131部を160部に、トリエチルアミン20.2部を101部に変更した以外は、実施例1と同じ装置および方法で、固形分濃度30%のポリウレタン樹脂水性液No.11をえた(ポリウレタン樹脂の分子量30,000、酸価112)。
【0093】実施例9〜19および比較例4〜6(水性印刷インキ組成物)
実施例1〜8および比較例1〜3によりえられたポリウレタン樹脂水性液No.1〜11を使用し、表1記載の配合に従って、ラミネート用水性印刷インキ組成物を製造した。
【0094】すなわち、顔料とポリウレタン樹脂水性液をレッドデビル型分散機で45分撹拌し、セルロース系樹脂、水を添加しさらに15分撹拌を行った。
【0095】ここで、顔料としては、ファストゲンブルー5412SD(大日本インキ化学工業(株)製)、セルロース系樹脂としてはHEC SP−250(ダイセル化学工業(株)製)を使用した。
【0096】えられた水性印刷インキ組成物の再溶解性、接着性、押出しラミネート強度を下記の方法により評価し、その結果を表1に示した。
【0097】なお、製造直後のインキをA状態、40℃で1ヶ月経時させた後のインキをB状態として、インキの長期保存による各性能の変化も観察した。
【0098】(再溶解性)
試験方法 グラビア校正機で試験インキ組成物を用いて10秒間運転後、運転を止めてそのまま60秒間放置した。続いて、延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡(株)製、P−2161、30μm、以下OPPフィルムという)に印刷し、正常な印刷物になるまでのピッチ数からインキの再溶解性を判定した。
【0099】評価基準 A:5ピッチ以内で正常に戻るB:6〜20ピッチで正常に戻るC:21〜40ピッチで正常に戻るD:40ピッチでも正常に戻らない(接着性)
試験方法 各試験インキ組成物をグラビア校正機でコロナ放電処理したOPPフィルムに印刷し、印刷面にセロテープを貼り付け、これを急速に剥したときの、印刷皮膜がフィルムから剥離する度合いから接着性を評価した。
【0100】評価基準 A:印刷皮膜がフィルムから全く剥離しないものB:印刷皮膜の面積比率として、20%未満がフィルムから剥離するものC:印刷皮膜の面積比率として、20%以上、50%未満がフィルムから剥離するものD:印刷皮膜の面積比率として、50%以上フィルムから剥離するもの(押出しラミネート強度)
試験方法 各試験インキ組成物をグラビア校正機で、OPPフィルムに印刷後、イミン系アンカーコート剤(東洋モートン(株)製、EL−420)を塗布し、押出しラミネート機にて溶融ポリエチレンを積層してラミネート加工物をえた。これらのラミネート加工物を40℃で3日経時後、15mm幅に切断し、安田精機(株)製の剥離試験機を用いて、T型剥離強度を測定した。
【0101】評価方法 剥離強度(g/15mm)の実測値を記載した。
【0102】
【表1】


【0103】表1に示した結果から、本発明のポリウレタン樹脂水性液を用いた水性印刷インキ組成物は、良好な再溶解性と、長期保存しても高い接着性とラミネート強度を有する。一方比較例であげられた従来のポリウレタン樹脂水性液を使用した水性印刷インキ組成物は長期保存すると接着性、ラミネート強度の両方が低下している。
【0104】
【発明の効果】本発明のポリウレタン樹脂水性液は、水性印刷インキ組成物のバインダー樹脂などに使用でき、また前記ポリウレタン樹脂水性液などを用いてえられる本発明の水性印刷インキ組成物は、良好な再溶解性と、長期保存においても高い接着性、ラミネート適性を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリウレタン樹脂が、塩基性化合物の存在下水中で溶解または分散状態で存在する水性液において、前記ポリウレタン樹脂が、有機ジイソシアネート成分、高分子ジオール成分および鎖伸長剤、さらには必要に応じて反応停止剤を反応させた、下記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位を有する、数平均分子量2,000〜200,000、酸価5〜100のポリウレタン樹脂であることを特徴とするポリウレタン樹脂水性液。
【化1】


(式中、Xは−CH2 −、−CO−または−O−を示す)。
【請求項2】 高分子ジオール成分が、前記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位を分子内に有するものである請求項1記載のポリウレタン樹脂水性液。
【請求項3】 ポリウレタン樹脂が、前記一般式(I)および(または)(II)で表される構成単位に起因する全カルボキシル基を、ポリウレタン樹脂分子内の全カルボキシル基の30モル%以上となる量で含有する請求項1または2記載のポリウレタン樹脂水性液。
【請求項4】 請求項3記載のポリウレタン樹脂水性液および顔料を必須成分として含有する水性印刷インキ組成物。