説明

ポリウレタン系弾性繊維およびその製造方法

【課題】制電性、耐塩素性、生産性に優れたポリウレタン系弾性繊維およびポリウレタン系弾性繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリウレタン系弾性重合体およびスルホン酸4級アンモニウム塩を含有するポリウレタン系弾性繊維であって、前記スルホン酸4級アンモニウム塩が、一般式(1)で示される化合物であり、前記ポリウレタン系弾性重合体に対して0.01〜10重量%含まれる、ポリウレタン系弾性繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタン系弾性繊維の制電性と耐塩素性の向上剤として、特定のスルホン酸4級アンモニウム塩を含有するポリウレタン系弾性繊維およびそのポリウレタン系弾性繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系弾性繊維は、天然繊維や他の化学繊維や合成繊維と交編・交織され、使用されることが多い。その際、巻取りパッケージからの解舒性不良や静電気の発生が多い場合、糸切れが多発することで、整経や編み経てが困難になり、生産性が低下する。ポリウレタン系弾性繊維として用いられるのは、ポリエーテル系ポリウレタン弾性繊維やポリエステル系ポリウレタン弾性繊維であり、近年これらポリウレタン系弾性繊維の後加工工程の高速化および使用繊度の細dtex化が進んできため、後加工工程において静電気によるトラブルが増加する傾向にある。そこで、静電気の発生を抑制するために、特許文献1や特許文献2に記載された弾性繊維用処理剤を繊維に付着させる。これらの処理剤は繊維表面に付着しているため、後加工工程において繊維とガイドとの接触による脱落や、精練などによって脱落するために安定した制電性の維持が困難であった。特に、ガイド上での脱落はスカムの原因となり、糸切れを発生させ生産性を低下させるという問題があった。また、特許文献3に記載されているように種々のスルホン酸塩を繊維に内添する方法もあるが、ポリウレタン系弾性重合体に対する相溶性が十分でない場合があり、高い制電性は付与できないという問題があった。
また、ポリウレタン系弾性繊維は、水泳プールなどの活性塩素濃度0.5〜3ppmの殺菌用塩素水中に繰り返し浸けると、その弾性機能が著しく損なわれ、糸切れを生じる。このため、ポリウレタン系弾性繊維の耐塩素性を向上させる方法として、特許文献4に示すように、金属酸化物等を内添させる方法があるが、紡糸原液に不溶であるため、均一に分散させにくく、作業性や生産性が低下する問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−162187号公報
【特許文献2】特開2006−161253号公報
【特許文献3】国際公開第99/35314号パンフレット
【特許文献4】特開昭57−29609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を解決し、制電性、耐塩素性、生産性に優れたポリウレタン系弾性繊維およびポリウレタン系弾性繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、ポリウレタン系弾性繊維の紡糸原液に可溶な制電剤である特定のスルホン酸4級アンモニウム塩をポリウレタン系弾性繊維に内添することで、取扱い性、制電性、耐塩素性、生産性に優れたポリウレタン系弾性繊維を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明はポリウレタン系弾性重合体およびスルホン酸4級アンモニウム塩を含有するポリウレタン系弾性繊維であって、前記スルホン酸4級アンモニウム塩が、下記一般式(1)で示される化合物であり、前記ポリウレタン系弾性重合体に対して0.01〜10重量%含まれる、ポリウレタン系弾性繊維である。
【化1】

(式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜22の炭化水素基または水酸基を有する炭素数1〜18の炭化水素基を示す。Rは、炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基または下記一般式(2)で示される置換フェニル基を示す。)
【化2】

(式中、Rは、炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基を示す。)
【0007】
前記RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜22の炭化水素基であり、前記RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜7の炭化水素基または水酸基を有する炭素数1〜18の炭化水素基であることが好ましい。さらに前記RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数6〜18の炭化水素基であることが好ましい。
【0008】
また、本発明のポリウレタン系弾性繊維はベース成分としてシリコーンオイルおよび鉱物油を含有し、鉱物油の重量割合が60重量%以下である弾性繊維用処理剤が、弾性繊維に対して0.1〜15重量%付与されていることが好ましい。
【0009】
本発明は、前記ポリウレタン系弾性重合体および前記スルホン酸4級アンモニウム塩を含む紡糸原液を調製し、該紡糸原液を紡糸する、ポリウレタン系弾性繊維の製造方法である。
【0010】
ポリウレタン系弾性繊維の製造方法は、前記ポリウレタン系弾性重合体を含む溶液に前記スルホン酸4級アンモニウム塩を添加して紡糸原液を調製し、該紡糸原液を紡糸することが好ましい。添加される前記スルホン酸4級アンモニウム塩は、その水分量が5重量%以下であり、その不純物である無機塩の含有量が1重量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のような特定のスルホン酸4級アンモニウム塩は、塩の極性を低下させ、紡糸原液に対して良好な溶解性と相溶性を有する。このようなスルホン酸4級アンモニウム塩をポリウレタン系弾性繊維に内添させることで、制電性、耐塩素性、生産性に優れたポリウレタン系弾性繊維を得ることができる。また、制電性、耐塩素性、生産性に優れた弾性繊維の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ローラー静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図2】編成張力の測定方法および静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図3】繊維間摩擦係数の測定方法を説明する模式図。
【図4】解舒速度比の測定方法を説明する模式図。
【図5】耐塩素性の作用効果の評価方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ポリウレタン系弾性重合体および特定のスルホン酸4級アンモニウム塩を含有するポリウレタン系弾性繊維およびその製造方法である。本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
(スルホン酸4級アンモニウム塩)
本発明に用いられるスルホン酸4級アンモニウム塩は、上記一般式(1)で示される化合物である。式(1)中、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜22の炭化水素基または水酸基を有する炭素数1〜18の炭化水素基を示す。R、R、R、Rの炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基であってもよく、これらの中でも脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基であってもよく、また直鎖状や分岐を有していてもよい。
は、炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基または上記一般式(2)で示される置換フェニル基を示す。式(2)中、Rは炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基を示す。R、Rの脂肪族炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基であってもよく、また直鎖状や分岐を有していてもよい。
【0015】
このように本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩は、4級アンモニウムであることとスルホネートに炭素数6〜22の長鎖の脂肪族炭化水素基を導入することで、塩の極性を適度に低下させ、紡糸原液に対する良好な溶解性と相溶性を付与できる。また、式(2)にあるように、スルホネートの炭化水素基を、炭素数6〜22の長鎖の脂肪族炭化水素基を有する置換フェニル基とすることで、より良好な溶解性と相溶性を持つようになる。具体的には、ポリウレタン系弾性繊維の紡糸原液の溶媒として用いられるDMAC、DMFに対して、30〜50重量%程度の溶解性を示すことができる。また、本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩の窒素原子が活性塩素を捕捉する効果を有するため、本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩をポリウレタン系弾性繊維に添加することで、制電性と耐塩素性を同時に付与できる。
【0016】
本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩において、スルホン酸4級アンモニウム塩を構成する4級アンモニウムに長鎖の炭化水素基を3〜4個導入すると、極性が低下して相溶性が悪化する場合がある。このため、ポリウレタン系弾性重合体表面にブリードアウトし、制電性や耐塩素性の性能が安定して維持できない場合や、これらが発揮されない場合がある。このような理由から、RおよびRがそれぞれ独立して炭素数1〜22の炭化水素基で、かつRおよびRがそれぞれ独立して炭素数1〜7の炭化水素基または水酸基を有する炭素数1〜18の炭化水素基であることが好ましい。
およびRは炭素数1〜7の炭化水素基であり、炭化水素基上に水酸基を有しないことがさらに好ましい。RやRの炭化水素基上に水酸基が存在すると、スルホン酸4級アンモニウム塩の極性が高くなるため制電性が向上するが、ポリウレタン系弾性繊維からのブリードアウトや水への溶出が起こりやすく、生産性と制電性の維持が困難となる場合がある。RおよびRは炭素数が1〜3個である炭化水素基であることが特に好ましい。
【0017】
さらに、スルホン酸4級アンモニウム塩を構成する4級アンモニウムに比較的短鎖の炭化水素基を3〜4個導入すると、極性が高いため親水性が強くなり、ポリウレタン系弾性繊維の紡糸原液に対する溶解性が乏しくなる場合がある。また、繊維ポリマーに対する相溶性も悪くなる場合がある。このような理由から、RおよびRがそれぞれ独立して炭素数6〜18の炭化水素基で、かつRおよびRがそれぞれ独立して炭素数1〜7の炭化水素基または水酸基を有する炭素数1〜18の炭化水素基であることが好ましい。RおよびRは、炭素数が8〜18である炭化水素基がさらに好ましく、炭素数10〜16である炭化水素基が特に好ましい。
【0018】
また、上記式(1)のRが脂肪族炭化水素基の場合、その炭素数は6〜20が好ましく、8〜18がさらに好ましく、10〜16が特に好ましい。Rが上記式(2)で示される置換フェニル基の場合、Rの炭化水素基の炭素数は6〜20が好ましく、8〜18がさらに好ましく、10〜16が特に好ましい。Rの置換位置は特に限定なく、任意の位置でよい。これらの中でも、Rは、上記式(2)で示される置換フェニル基が好ましい。
【0019】
本発明に用いられるスルホン酸4級アンモニウム塩は、対応するスルホン酸ナトリウムと4級アンモニウムクロライドを水中で80℃から90℃に保って3時間攪拌し、複製する無機塩を水層に溶解して削減するため生成した有機層を数回イオン交換水で水洗し、140℃で水分量が5重量%以下になるまで乾燥させることで簡便に合成できる。
【0020】
本発明に用いられるスルホン酸4級アンモニウム塩は、その水分量は5重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましく、0.3重量%以下がさらに好ましい。水分量が5重量%よりも多くなると、ポリウレタン系弾性繊維の糸強度の低下の原因となる場合がある。また、不純物として含有される無機塩の含有量は1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらに好ましい。無機塩の含有量が1重量%よりも多くなると、繊維強度の低下や生産性の低下の原因となる場合がある。
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0021】
スルホン酸4級アンモニウム塩を形成する4級アンモニウムカチオンとしては、ジメチルジヘキシルアンモニウムカチオン、ジメチルジオクチルアンモニウムカチオン、ジメチルジデシルアンモニウムカチオン、ジメチルジドデシルアンモニウムカチオン、ジメチルジオレイルアンモニウムカチオン、ジエタノールジドデシルアンモニウムカチオン、ジエタノールジオレイルアンモニウムカチオン、トリメチルヘキシルアンモニウムカチオン、トリメチルオクチルアンモニウムカチオン、トリメチルデシルアンモニウムカチオン、トリメチルドデシルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
同様に、スルホン酸4級アンモニウム塩を形成するスルホネートアニオンとしては、ヘキシルスルホネート、オクチルスルホネート、ドデシルスルホネート、ヘキシルベンゼンスルホネート、オクチルベンゼンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート等が挙げられる。
【0022】
(ポリウレタン系弾性繊維およびその製造方法)
本発明のポリウレタン系弾性繊維はポリウレタン系弾性重合体およびスルホン酸4級アンモニウム塩を含有するものであり、ポリウレタン系弾性重合体を主要な成分とするものである。ポリウレタン系弾性繊維としては、ポリエーテル系ポリウレタン弾性繊維、ポリエステル系ポリウレタン弾性繊維等が挙げられる。
【0023】
ポリウレタン系弾性重合体としては、ハードセグメントにジイソシアナートを用い、ソフトセグメントとしてポリエーテルジオールを用いたポリエーテル系ポリウレタン弾性重合体と、ポリエステルジオールを用いたポリエステル系ポリウレタン弾性重合体がある。
またこれらには、鎖伸長剤として低分子量の多官能性活性水素化合物が使用される。代表的には、有機ジイソシアナートと高分子ジオールとで調整されたイソシアナート末端のプレポリマーに多官能性活性水素原子を有する鎖伸長剤および単官能性活性水素原子を有する末端封鎖剤を1段または多段階に反応せしめて分子内にウレタン基を有するポリウレタンウレア弾性重合体が挙げられる。これを乾式紡糸、湿式紡糸または溶融紡糸してポリウレタンウレア弾性繊維を得ることができる。
【0024】
本発明のポリウレタンウレア弾性重合体の製造原料の一つである高分子ジオールとしては、両末端にヒドロキシル基を持つ高分子体である。これらは例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール等を挙げることができる。
【0025】
本発明のポリウレタンウレア弾性重合体の製造原料の一つである有機ジイソシアナートとしては、例えば脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアナートの中で、反応条件下で溶解または液状であるものすべてを適用できる。例えば、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアナート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアナート)、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート等が例示され、好ましくはメチレン−ビス(4−フェニルイソシアナート)である。
【0026】
本発明のポリウレタンウレア弾性重合体の製造原料の一つである多官能性活性水素原子を有する鎖伸長剤としては、例えば、ヒドラジン、ポリヒドラジド、ポリオール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン等のポリアミン、ヒドロキシルアミン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等のポリオール等を用いることができる。
【0027】
本発明のポリウレタンウレア弾性重合体の製造原料の一つである単官能性活性水素原子を有する末端停止剤としては、例えば、ジエチルアミンのようなジアルキルアミン等が用いられる。これらの鎖伸長剤、末端停止剤は一種または二種以上混合して用いてもよい。上記ポリウレタン重合体組成物には、公知のポリウレタン重合体組成物に使用される特定の化学構造を有する有機または無機の配合剤、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の紫外線吸収剤;ヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤;防黴剤;硫酸バリウム、酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等のような無機微粒子;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオルガノシロキサン等の粘着防止剤等を適宜配合することもできる。
【0028】
本発明のポリウレタン系弾性繊維の製造方法は、前記ポリウレタン系弾性重合体および前記スルホン酸4級アンモニウム塩を含む紡糸原液を調製し、該紡糸原液を紡糸するものである。紡糸方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用できる。本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩は疎水性が強いために水洗が容易であり、高温または減圧によって十分に乾燥できる。その結果、ポリウレタン系弾性重合体の原料とともに混合、反応せしめ、紡糸原液を調整することも可能である。しかし、ポリウレタン系弾性重合体の重合が終わる前に本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩を添加すると、スルホン酸4級アンモニウム塩の合成中に生成する微量の不純物との反応が起こり、ポリウレタン系弾性繊維の黄変等、糸質低下の原因となる場合がある。よって、ポリウレタン系弾性重合体を含む溶液にスルホン酸4級アンモニウム塩を添加して紡糸原液を調製し、これを紡糸することが好ましい。
【0029】
ポリウレタン系弾性重合体を含む紡糸原液の調整方法としては、例えば、DMAC、DMFなどの溶剤中に、本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩を含む各原料を投入、溶解せしめ、適度な温度に加熱し、反応させて紡糸原液を得る方法や、前記高分子ジオールと有機ジイソシアナートを予め混合、適度な温度で反応せしめ、鎖伸長剤のDMAC、DMF溶液を加え、反応させた後に、本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩を添加して紡糸原液を得る方法がある。
【0030】
紡糸原液を調製する際に、本発明のスルホン酸4級アンモニウム塩をそのまま添加することも可能であるが、紡糸原液に用いられるDMACまたはDMF溶媒を用いてスルホン酸4級アンモニウム塩を30〜50重量%含有する溶液とし、これを添加することでより均一に混合でき、取扱い性もよい。
【0031】
紡糸原液を調製する際に使用されるスルホン酸4級アンモニウム塩は、上述しているようにその水分量が5重量%以下であり、その不純物である無機塩の含有量が1重量%以下であることが好ましい。
ポリウレタン系弾性重合体に対する(ポリウレタン系弾性重合体を100重量%としたとき)スルホン酸4級アンモニウム塩の重量割合は、0.01〜10重量%であり、好ましくは0.5〜3重量%であり、さらに好ましくは1〜3重量%である。0.01重量%よりも少ない場合、制電性の効果がなく、10重量%より多くなると繊維表面への析出や繊維強度の低下を招くため、生産性、糸質が著しく悪化する。
【0032】
(弾性繊維用処理剤)
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、弾性繊維用処理剤を付与することができる。弾性繊維用処理剤としては、ベース成分としてシリコーンオイルおよび鉱物油を必須に含有し、処理剤全体に対する鉱物油の重量割合が60重量%以下となることが好ましい。処理剤全体に占める鉱物油の重量割合は、10〜50重量%が好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。鉱物油の割合が60重量%よりも大きくなると、ポリウレタン系弾性繊維中のスルホン酸4級アンモニウム塩がブリードアウトし易くなる。
【0033】
シリコーンオイルとしては特に限定はないが、たとえば、ポリジメチルシロキサン、ポ
リアルキルシロキサン、ポリアルキルフェニルシロキサン(いずれのシリコーンオイルも
25℃における粘度:2〜100mm/s)等を挙げることができ、1種または2種以
上を併用してもよい。これらのシリコーンオイルのうちでも、処理剤のオイリング時に扱
いやすく、粘度が高すぎると糸がローラーに取られて切れてしまう等の理由から、弾性繊
維用処理剤の30℃における粘度が、好ましくは3〜100mm/s、さらに好ましく
は5〜50mm/sに調整することができるようなシリコーンオイルを選択することが
好ましい。
【0034】
鉱物油としては特に限定はないが、たとえば、30℃における粘度が30〜150秒、
好ましくは60〜100秒のスピンドル油や流動パラフィン等を挙げることができ、1種
または2種以上を併用してもよい。鉱物油の粘度が30秒よりも低いと、得られる弾性繊
維の品質が低下することがある。一方、鉱物油の粘度が150秒超であると、弾性繊維用
処理剤全体の粘度が高くなり、得られる弾性繊維がローラーに取られ、糸が切れてしまう
ことがある。
【0035】
弾性繊維用処理剤は、平滑剤、解舒性向上剤、つなぎ剤、制電剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常弾性繊維の処理剤に用いられる成分をさらに含有することができる。
【0036】
弾性繊維用処理剤は、30℃における粘度が2〜100mm/sの範囲にあることが好ましく、5〜15mm/sの範囲がより好ましい。粘度が2mm/s未満では、油剤の揮発が問題となる事があり、50mm/sより大きいと弾性繊維への表面への濡れ性が悪くなる事がある。
【0037】
弾性繊維用処理剤を製造する方法については、特に限定はなく、公知の方法を適用することができる。弾性繊維用処理剤は、構成する上記の各成分を任意の順番で添加混合することによって製造される。また、弾性繊維用処理剤を付与する方法については、特に限定はなく、公知の方法を適用することができる。
【0038】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、上記弾性繊維用処理剤が弾性繊維に対して0.1〜15重量%(好ましくは1〜10重量%)付与されている弾性繊維である。0.1重量%より少ないと本発明の効果が充分でなく、15重量%を越えると不経済である。
【0039】
本発明のポリウレタン系弾性繊維は、その糸上静電気が−1KV〜+1KVであり、好ましくは−0.7KV〜+0.7KV、さらに好ましくは−0.5KV〜+0.5KVである。糸上静電気が−1KVより小さいまたは1KVより大きいと、ほこり等を糸に引き付け、糸品位や生産性を低下させることがある。
【0040】
本発明のポリウレタン系弾性繊維の用途として、CSY、シングルカバリング、PLY、エアーカバリング等のカバリング糸等の加工糸や、丸編み、トリコット等により、布帛として使用することができる。また、これらの加工糸、布帛を使用してストッキング、靴下、下着、水着等の伸縮性が必要とされる製品や、ジーンズ、スーツ等のアウターウェア等に快適性のために伸縮性を付与させる目的でも使用される。さらに最近では、紙おむつにも適用される。
【実施例】
【0041】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。
【0042】
〔スルホン酸4級アンモニウム塩溶液の調製〕
デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(60重量%水溶液)とジメチルジヘキシルアンモニウムクロライド(75重量%イソプロパノール溶液)をモル比率1:1で混合し、系中の水が、生成するスルホン酸4級アンモニウム塩と同重量となるようにイオン交換水を加えた。この混合溶液を90℃で1時間攪拌したあと、攪拌を停止して1時間静置し、有機層と水層とを分離させた。水層を捨て、生成するスルホン酸4級アンモニウム塩と同重量のイオン交換水を加え、90℃で15分攪拌し、1時間静置した後、水層を捨てた。さらにもう一回、同様にイオン交換水で有機層を洗浄し複製する塩化ナトリウムを0.1重量%とした。さらに140℃で3時間攪拌し、水分量が0.3重量%以下になるまで乾燥した。100℃まで冷却したあと、スルホン酸4級アンモニウム塩が30重量%となるようにDMACを加え溶液とし、室温まで冷却した(実施例1のスルホン酸4級アンモニウム塩溶液)。他の実施例に用いたスルホン酸4級アンモニウム塩についても、対応するスルホン酸ナトリウムとアンモニウムクロライドを変更する以外は同様に調製した。
【0043】
〔紡糸原液の調製〕
数平均分子量1800のポリオキシテトラメチレングリコールとメチレン−ビス(4−フェニルイソシアナート)をモル比率1:2で反応させ、次いでプロピレンジアミンのDMAC溶液を用いて鎖延長し、ポリマー濃度27%のDMAC溶液を得た。30℃での粘度は1700mPaSであった。この溶液に、ポリマー(ポリウレタン系弾性重合体)に対して、スルホン酸4級アンモニウム塩が目的の添加量となるように、調製したスルホン酸4級アンモニウム塩溶液を添加して混合し、紡糸原液を調製した。
【0044】
〔ポリウレタンウレア弾性繊維の調製〕
上記の紡糸原液を230℃の窒素気流中に吐出して乾式紡糸した。毎分500mの速度でボビンに巻き取り44dtexモノフィラメントチーズ(巻き量400g)を得た。
【0045】
〔ポリウレタンウレア弾性繊維用処理剤〕
上記のポリウレタンウレア弾性繊維を乾式紡糸する際、ポリジメチルシロキサン(粘度10センチストークス)と流動パラフィン50秒を重量比7:3で混合した油剤をオイリングローラーで弾性繊維に対して5重量%となるように付着させた。
【0046】
ポリウレタンウレア弾性繊維の評価方法
〔編成張力、静電気発生量〕
図2において、チーズ(3)から縦取りした弾性糸(4)をコンペンセーター(5)を経てローラー(6)、編み針(7)を介して、Uゲージ(8)に付したローラー(9)を経て速度計(10)、巻き取りローラー(11)に連結する。速度計(10)での走行速度が定速(例えば、10m/分、100m/分)になるように巻き取りローラーの回転速度を調整して、巻き取りローラーに巻き取り、そのときの編成張力をUゲージ(8)で測定し、繊維/編み針間の摩擦(g)を計測する。走行糸条より1cmのところで春日式電位差測定装置(12)で静電気発生量(kV)を測定する。
【0047】
〔繊維間摩擦係数(F/Fμs)〕
図3において、処理剤が付与された弾性繊維のモノフィラメントを50〜60cm程取り、一方の端に荷重T1(13)を吊り、ローラー(14)を介して、Uゲージ(15)にもう一方の端を掛けて定速(例えば、3cm/分)で引っ張り、そのときの2次張力T2をUゲージ(15)で測定し、下記式(1)により、繊維間摩擦係数を求める。
摩擦係数(F/Fμs=1/θ・ln(T2/T1) (1)
(式1において、θ=2π、ln=自然対数、T1は22dtex当り1g)
【0048】
〔解舒速度比〕
図4において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(16)をセットし、巻き取り側に紙管(17)をセットする。巻き取り速度を一定速度にセットした後、ローラー(18)および(19)を同時に起動させる。この状態では糸(20)に張力はほとんどかからないため、糸はチーズ上で膠着して離れないので、解舒点(21)は図4に示す状態にある。解舒速度を変えることによって、チーズからの糸(20)の解舒点(21)が変わるので、この点がチーズとローラーとの接点(22)と一致するように解舒速度を設定する。解舒速度比は下記式(2)によって求める。この値が小さいほど、解舒性が良いことを示す。
解舒速度比(%)=((巻取速度−解舒速度)/解舒速度)×100 (2)
【0049】
〔ローラー静電気、糸上静電気〕
図1において、解舒速度比測定機の解舒側に熱処理したチーズ(1)をセットし、50m/分の周速で回転させ、巻き取り側を100m/分とし、チーズ上2cmのところにおいて、春日式電位差測定装置(2)で、回転を始めて1時間後のローラー静電気(チーズ上静電気)を測定する。ローラー静電気を測定している時の走行糸上2mmでの発生静電気(糸上静電気)を測定する。
【0050】
〔耐塩素性の作用効果の評価方法〕
図5において、チーズより繊維を1.0gとりn−ヘキサン50mlで洗浄・乾燥後、有効塩素濃度100ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液100gに浸漬し、50℃で100時間処理した。この繊維1本、20cmをUゲージ(8)に掛け、切れるまで20cm/minで引張り、破断点荷重を測定した。なお、処理前の繊維の破断点加重(強度)は51gであった。
【0051】
なお、これら評価に用いたチーズは35℃、50%RHの雰囲気中で48時間処理を行ったものである。
【0052】
(水分量、無機塩含有量)
スルホン酸4級アンモニウム塩および比較例の制電剤の水分量と無機塩の含有量は、それぞれカールフィッシャー法とイオンクロマトグラフによって測定した。また、実施例のスルホン酸4級アンモニウム塩はDMAC溶液とする前に測定を行って確認した。
【0053】
〔実施例1〜7および比較例1〜7〕
以下に各実施例で添加したスルホン酸4級アンモニウムおよび比較例で添加した制電剤を示す。実施例1〜7のスルホン酸4級アンモニウムについては、前述のように調製した。比較例1の制電剤については、過剰のイソプロパノールに溶解し、無機塩を析出させた後ろ過し乾燥させたものを用いた。比較例2〜5の制電剤については、過剰のイソプロパノール中で対応するスルホン酸ナトリウムとアンモニウムクロライドを反応させ、無機塩をろ過した後、乾燥させたものを用いた。比較例6については、特に精製等が必要でなかったため、そのまま用いた。
【0054】
実施例1〜7については、前述のように、スルホン酸4級アンモニウム塩溶液、紡糸原液を調製し、ポリウレタンウレア弾性繊維を得た。また、比較例1〜6については、スルホン酸4級アンモニウム塩溶液を添加する代わりに、各比較例の制電剤を添加して紡糸原液を調製する以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタンウレア弾性繊維を得た。比較例7については、制電剤を含まない紡糸原液を調製する以外は実施例1と同様にして、ポリウレタンウレア弾性繊維を得た。得られたポリウレタンウレア弾性繊維を上記方法により評価した。その評価結果および添加したスルホン酸4級アンモニウム・制電剤の水分量と無機塩含有量を表1、2に示す。
なお、実施例、比較例ともに、ポリマーに対して3重量%となるよう、スルホン酸4級アンモニウムまたは制電剤を添加して紡糸原液を調製した。
実施例1:ジメチルジヘキシルアンモニウムデシルベンゼンスルホネート
実施例2:ジメチルジオクチルアンモニウムドデシルスルホネート
実施例3:ジメチルジドデシルアンモニウムドデシルベンゼンスルホネート
実施例4:ジメチルジドデシルアンモニウムドデシルスルホネート
実施例5:ジメチルジオレイルアンモニウムドデシルベンゼンスルホネート
実施例6:ジエタノールジドデシルアンモニウムドデシルベンゼンスルホネート
実施例7:トリメチルドデシルアンモニウムドデシルベンゼンスルホネート
比較例1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
比較例2:ドデシルアンモニウムドデシルスルホネート
比較例3:メチルドデシルアンモニウムドデシルスルホネート
比較例4:ジメチルドデシルアンモニウムベンゼンスルホネート
比較例5:トリオクチルメチルアンモニウムトルエンスルホネート
比較例6:酸化亜鉛
比較例7:無添加
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
〔実施例8〜12〕
実施例3で使用したスルホン酸4級アンモニウム塩において、ポリマーに対して0.1〜5重量%の範囲で添加量を検討した。なお、試料糸は紡糸原液に添加するスルホン酸4級アンモニウム塩溶液の量を調節したのみで、実施例3と同様に作成した。評価結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表1、2に示すように、比較例1〜5のスルホン酸塩は、繊維のポリマーと相溶性が悪くなり、実施例のスルホン酸4級アンモニウム塩よりも制電性が悪化している。比較例6の無機系添加剤では、制電性には殆ど効果がない。また、表3に示すように、添加量は1〜3重量%が最適である。実施例のスルホン酸4級アンモニウム塩を添加することで、ポリウレタン系弾性繊維に制電性と耐塩素性を付与できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、制電性、生産性、耐塩素性等が改善されたポリウレタン系弾性繊維を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 弾性繊維のチーズ
2 春日式電位差測定装置
3 弾性繊維のチーズ
4 弾性糸
5 コンペンセーター
6 ローラー
7 編み針
8 Uゲージ
9 ローラー
10 速度計
11 巻き取りローラー
12 春日式電位差測定装置
13 荷重
14 ローラー
15 Uゲージ
16 チーズ
17 巻き取り用紙管
18 ローラー
19 ローラー
20 走行糸条
21 解舒点
22 チーズとローラーの接点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系弾性重合体およびスルホン酸4級アンモニウム塩を含有するポリウレタン系弾性繊維であって、
前記スルホン酸4級アンモニウム塩が、下記一般式(1)で示される化合物であり、前記ポリウレタン系弾性重合体に対して0.01〜10重量%含まれる、ポリウレタン系弾性繊維。
【化1】

(式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜22の炭化水素基または水酸基を有する炭素数1〜18の炭化水素基を示す。Rは、炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基または下記一般式(2)で示される置換フェニル基を示す。)
【化2】

(式中、Rは、炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記RおよびRが、それぞれ独立して炭素数1〜22の炭化水素基であり、前記RおよびRが、それぞれ独立して炭素数1〜7の炭化水素基または水酸基を有する炭素数1〜18の炭化水素基である、請求項1に記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項3】
前記RおよびRが、それぞれ独立して炭素数6〜18の炭化水素基である、請求項2に記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項4】
ベース成分としてシリコーンオイルおよび鉱物油を含有し、鉱物油の重量割合が60重量%以下である弾性繊維用処理剤が、弾性繊維に対して0.1〜15重量%付与されている、請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリウレタン系弾性繊維の製造方法であって、
前記ポリウレタン系弾性重合体および前記スルホン酸4級アンモニウム塩を含む紡糸原液を調製し、該紡糸原液を紡糸する、ポリウレタン系弾性繊維の製造方法。
【請求項6】
前記ポリウレタン系弾性重合体を含む溶液に前記スルホン酸4級アンモニウム塩を添加して紡糸原液を調製し、該紡糸原液を紡糸する、請求項5に記載のポリウレタン系弾性繊維の製造方法。
【請求項7】
添加される前記スルホン酸4級アンモニウム塩が、その水分量が5重量%以下であり、その不純物である無機塩の含有量が1重量%以下である、請求項6に記載のポリウレタン系弾性繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−236150(P2010−236150A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86631(P2009−86631)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】