説明

ポリエステルの製造方法

【課題】ジエチレングリコール含有量が少なく、ポリマーの熱安定性、特に高温溶融時の色調悪化および耐熱性が飛躍的に改善されたポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化またはエステル交換反応させた後、ゲルマニウム系重縮合触媒の存在下で重縮合反応して得られるポリエステルを製造する方法において、RO(RO)P・C・CまたはRO(RO)P・C・C・P(OR)ORで表されるリン化合物を添加することを特徴とするポリエステルの製造方法。ここで、水酸基を含む炭素数1〜20の炭化水素基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色調、熱安定性に優れたポリエステルの製造方法に関するものである。更に詳しくは、従来品に比べてジエチレングリコール含有量が少なく、ポリマーの熱安定性、特に高温溶融時における色調悪化および耐熱性が飛躍的に改善されたポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば、衣料用、産業資材用、フィルム用、また、ボトルなどの中空成形容器用等に用いられている。その中でも、汎用性、実用性の点でポリエチレンテレフタレートが優れ、好適に使用されている。
【0003】
一般にポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造されるが、高分子量のポリマーを製造する商業的なプロセスでは、重縮合触媒としてアンチモン化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物などが知られている。
【0004】
なかでも、ゲルマニウム化合物は、アンチモン化合物に比べて重合触媒活性はやや劣るものの、透明性が良好であることからボトル用やフィルム用、さらに繊維用途などにも使用されている。しかしながら、ゲルマニウム化合物は高価であることから汎用的に用いることは難しい状況にあること、また、ポリマーの色調が黄味になったり、熱安定性が劣るため実用的でなかった。そこで、ポリマーの色調を改善したり、成形時の熱安定性を向上させるために、リン化合物としてリン酸や亜リン酸系化合物、あるいはホスホン酸系化合物を併用する方法(特許文献1、特許文献2)が知られている。
【0005】
しかしながら、これらの従来公知のリン化合物を用いると、確かにポリマーの熱安定性に一定の向上は見られるものの、一定量以上のリン化合物を加えると重合活性の抑制効果が大きく影響するために目標の重合度まで到達せず、重合反応が遅延したり、結果として得られるポリマー色調の悪化やカルボキシル末端基(以下COOHという)量増加など耐熱性の低下、さらにジエチレングリコール(以下、DEGという)量が大幅に増加する等といった問題があった。
【0006】
本発明は上記課題を改善することについて鋭意検討した結果、ゲルマニウム系化合物を重合触媒として用いたポリエステルを製造する工程において、特定のリン化合物を添加することにより本発明の目的を達成できるという知見を得た。
【特許文献1】特開昭55−98225号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭59−113027号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は上記従来の問題を解消し、重合反応性が良好であり、従来品に比べてDEG含有量が少なく、かつ、ポリマーの熱安定性、特に高温溶融時の色調悪化および耐熱性が飛躍的に改善されたポリエステルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の課題は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化またはエステル交換反応させた後、ゲルマニウム系重縮合触媒の存在下で重縮合反応して得られるポリエステルを製造する方法において、下記式1または式2で表されるリン化合物を添加することを特徴とするポリエステルの製造方法により達成できる。
【0009】
【化1】

【0010】
(上記式1、式2中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の、ゲルマニウム系重縮合触媒の存在下に重縮合させてポリエステルを得る方法において、式1または式2で表されるリン化合物を添加することで、従来品に比べてDEG含有量が少なく、かつ、色調、および高温溶融時における耐熱性が大幅に向上したポリエステルを得ることができる。このポリエステルは、繊維用、フイルム用、ボトル用等の成形体の製造において、色調悪化や成形性不良等の問題を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリエステルの製造方法は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化またはエステル交換反応させた後、重縮合させ合成されるものである。
【0013】
このような製造方法により得られるポリエステルとして具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、なかでも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体において好適である。
【0014】
本発明のポリエステルの製造方法は、ゲルマニウム系重縮合触媒の存在下に重縮合させてポリエステルを得る方法において、リン化合物として式1または式2で表される特定のリン化合物を任意の時点で添加することが必須である。式1または式2で表される特定のリン化合物を添加すると得られるポリマーの色調と耐熱性が改善されるが、特に高温溶融時の色調悪化および溶融時の耐熱性が飛躍的に改善される。
【0015】
【化2】

【0016】
(上記式1、式2中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造、水酸基および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。)
なお、ポリエステルの着色や耐熱性の悪化については飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、初版、P.178〜198)に明示されているように、ポリエステル重合の副反応によって起こる。このポリエステルの副反応は金属触媒によってカルボニル酸素が活性化し、β水素が引き抜かれることにより、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分が発生する。このような副反応を契機としてポリマーが黄色に着色し、主鎖エステル結合が切断されるため耐熱性が劣ったポリマーとなる。
【0017】
ゲルマニウム系重縮合触媒の使用において、従来公知のリン化合物を用いた場合には副反応の活性を抑制すると同時に重合活性についても低下させることは避けられなかった。しかしながら、式1または式2に示される本発明のリン化合物は、ゲルマニウム化合物の重合活性を十分に保持したまま副反応活性を極めて小さく抑えることができるだけでなく、ポリマーの色調と耐熱性が大幅に改善されることであり、特に高温溶融時の色調悪化および耐熱性が飛躍的に改善されることを見出した。この効果のメカニズムは現在のところ明らかではないが、従来公知のリン化合物による単純な効果とは本質的に異なったものと考えられる。
【0018】
中でも、式3および/又は式4で表されるリン化合物を用いると色調や耐熱性の改善効果が極めて大きいことから好ましく使用される。
【0019】
【化3】

【0020】
(上記式3中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造、水酸基および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。また、a+b+c=0〜5の整数である。)
上記式3にて表されるリン化合物としては、例えばa=2、b=0、c=0、R=tert−ブチル基、R=2,4位の化合物としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトがあり、この化合物はIRGAFOS P−EPQ(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)またはSandostab P−EPQ(クラリアント・ジャパン社製)として入手可能である。
【0021】
中でも、式4で表されるリン化合物であることが、得られるポリエステルの色調や耐熱性が特に良好となるため好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
(上記式4中、R〜R10は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表している。なお、炭化水素基は脂環構造、脂肪族の分岐構造、芳香環構造、水酸基および2重結合を1つ以上含んでいてもよい。)
上記式4にて表されるリン化合物としては、R=tert−ブチル基、R=tert−ブチル基、R10=メチル基の化合物としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトがあり、この化合物はGSY−P101(大崎工業社製)として入手可能である。これらの化合物は単独で用いてもまたは併用して用いてもよい。
【0024】
本発明のポリエステルの製造方法において、式1または式2で表される特定のリン化合物の添加を、重縮合触媒を添加した後に反応器内を減圧にして重縮合反応を開始してから重合が目標とする重合度に到達するまでの間に行うことにより、色調が良好でかつ耐熱性に優れたポリエステルを得ることができるので好ましい。この方法で本発明のリン化合物を添加する場合、エチレングリコール等のジオール成分を多量に持ち込んで添加を行うと、ポリエステルの解重合(ポリエステル主鎖の切断反応)が進行してしまうため、リン化合物を単独で添加するか、あるいは高濃度にリン化合物を含有したマスターペレットを添加する方法がより好ましい。本発明のリン化合物の添加にあたっては数回に分割して添加してもよく、フィーダーなどで継続的に添加を行っても良い。
【0025】
なお、重合反応器内の減圧を開始する前に式1または式2のリン化合物を、得られるポリエステルに対してリン原子換算で0〜50ppm添加し、かつ重合反応器内の減圧を開始してからポリエステルが目標とする重合度に到達するまでの間に式1または式2のリン化合物を、得られるポリエステルに対して10〜500ppm添加すると、色調が特に良好でかつ重合遅延を極めて小さくすることができるので好ましい。
【0026】
また、本発明の特定のリン化合物の添加方法は、重合系に溶解又は溶融可能であり、かつ、本発明で得られる重合体と実質的に同一成分の重合体から成る容器に充填して添加することが好ましい。このような容器にリン化合物を入れて添加を行うと、減圧条件下での重合反応器に添加を行うことで、リン化合物が飛散して、減圧ラインにリン化合物が流出を防止することができると共に、リン化合物をポリマー中に所望量添加することができる。本発明でいう容器とは、リン化合物がまとめられるものであればよく、例えば、ふたや栓を有する射出成形容器、あるいはシートやフィルムをシールあるいは縫製などで袋状にしたものなどが含まれる。上記の容器は、空気抜きを作ることがさらに好ましい。空気抜きを作った容器にリン化合物を入れて添加すると、真空条件下で重合反応器に添加しても、空気膨張により容器が破裂してリン化合物が減圧ラインに流出したり、重合反応器の上部や壁面に付着することがなく、ポリマー中にリン化合物を所望量添加することができる。この容器の厚さは、厚すぎると溶解、溶融時間が長くかかるため厚さは薄いほうがよいが、リン化合物の封入・添加作業の際に破裂しない程度の厚さを確保する。そのためには10〜500μm厚さで均一で偏肉のないものが好ましい。
【0027】
本発明における重合用触媒のゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、あるいはゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシドのごときゲルマニウムアルコキシド、メチルゲルマン、エチルゲルマン、トリメチルゲルマニウムメトキシド、ジメチルゲルマニウムジアセテート、トリブチルゲルマニウムアセテートのごとき有機ゲルマニウム化合物があげられる。中でも二酸化ゲルマニウムが好ましく用いられる。なお、これらのゲルマニウム化合物は単独で用いても、また併用して用いてもよい。
【0028】
本発明のポリエステルの製造方法において、重合用触媒であるゲルマニウム化合物はポリエステルの反応系にそのまま添加してもよいが、予め該化合物をエチレングリコールやプロピレングリコール等のポリエステルを形成するジオール成分を含む溶媒と混合し、溶液またはスラリーとした後、反応系に添加すると、ポリマー中での異物生成がより抑制されるため好ましい。
【0029】
本発明のポリエステルの製造方法は、ゲルマニウム化合物を得られるポリマーに対してゲルマニウム原子換算で50〜400ppmとなるように添加することが好ましい。100〜350ppmであると重合反応性やポリマーの耐熱性が良好となるのでより好ましく、更に好ましくは150〜300ppmである。
【0030】
また、ゲルマニウム化合物と共に本発明のリン化合物をポリエステルに対してリン原子換算で1〜500ppmとなるように添加することが好ましい。ポリエステルの耐熱性や色調の観点から、リン添加量は5〜250ppmが好ましく、さらに好ましくは10〜100ppmである。
【0031】
また、ゲルマニウム化合物のゲルマニウム原子はリン化合物中のリン原子としてモル比率でGe/P=0.05〜50であるとポリエステルの熱安定性や色調が良好となり好ましい。より好ましくはGe/P=0.1〜20であり、さらに好ましくはGe/P=0.2〜10である。
【0032】
本発明のポリエステルの製造方法により得られるポリエステルは、オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定したときの固有粘度(IV)が、0.4〜1.0dlg−1であるのが好ましい。0.5〜0.8dlg−1であるのがさらに好ましく、0.6〜0.7dlg−1であるのが特に好ましい。
【0033】
本発明のポリエステルの製造方法により得られるポリエステルは、DEG含有量が1.5重量%以下であると成形時における口金汚れが少なく成形性が良好となりので好ましい。より好ましくは1.3重量%以下で、特に好ましくは1.1重量%以下である。
【0034】
また、アセトアルデヒドの含有量が15ppm以下であると成形体における風味、香りへの悪影響を抑えるため好ましい。より好ましくは13ppm以下で、特に好ましくは11ppm以下である。
【0035】
なお、本発明のポリエステルの製造方法により得られるポリエステルは、150℃で16時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下300℃で60分間溶融させた後のカルボキシル末端基の増加(以下ΔCOOH300という)が15当量/トン以下であると熱安定性が良好であり、成形時において金型等に付着する汚れや製糸時において口金に付着する汚れが少なく好ましい。より好ましくは10当量/トン以下、特に好ましくは8当量/トン以下である。
【0036】
また、150℃で16時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下300℃で60分間溶融させた後の色調b値の変化Δb値300が5以下であることが好ましい。この値が小さいほど、熱劣化による分解・着色が少なく熱安定性に優れている。好ましくは4以下、特に好ましくは3以下である。
【0037】
本発明のポリエステルの製造方法により得られるポリエステルは、例えば溶融押出成形等によってフィラメント状、フィルム状あるいは中空成形容器などに成形することにより、繊維、フィルム、ボトル等として有用なものとなる。
【0038】
本発明のポリエステルの製造方法を説明する。具体例としてポリエチレンテレフタレートの例を記載するがこれに限定されるものではない。
【0039】
ポリエチレンテレフタレートは通常、次のいずれかのプロセスで製造される。
すなわち、(A)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(B)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。
【0040】
本発明のポリエステルは、(A)または(B)の一連の反応の任意の段階、好ましくは(A)または(B)の一連の反応の前半で得られた低重合体に、重縮合触媒として前述のゲルマニウム化合物および本発明の特定のリン化合物を、また、必要に応じて艶消し剤である酸化チタン等を添加した後、重縮合反応を行い、高分子量のポリエチレンテレフタレートを得るというものである。上記の反応は回分式、半回分式あるいは連続式等の形式に適応し得る。
【0041】
また、色調調整剤を実質的に重縮合反応が完了した後にポリエステルに添加することも可能である。この場合には1軸あるいは2軸押出機を用いてチップに色調調整剤を直接溶融混練する方法や、あらかじめ別に高濃度に色調調整剤を含有するポリエステルを調製しておき、色調調製剤を含まないチップとブレンドしても良い。
【実施例】
【0042】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
(1)固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(2)DEG量
モノエタノールアミンを溶媒として、1,6−ヘキサンジオール/メタノール混合溶液を加えて冷却し、中和した後遠心分離した後に、上澄み液をガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC−14A)にて測定した。
(3)COOH量
オルソクレゾールを溶媒として、25℃で0.02規定のNaOH水溶液を用いて、自動滴定装置(平沼産業社製、COM−550)にて滴定して測定した。
(4)色調
色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ハンター値(L、b値)として測定した。
(5)アセトアルデヒド含有量
ポリエステルと純水を窒素シール下で160℃2時間の加熱抽出を行い、その抽出液中のアセトアルデヒド量を、イソブチルアルコールを内部標準としてガスクロマトグラフィー(島津製作所製「GC−14A」)を用いて定量した。
(6)ΔCOOH300、Δb値300
ポリエステルを、150℃で16時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下300℃で60分間加熱溶融させた後、(3)および(4)の方法にてCOOH量および色調を測定し、加熱溶融前後の差をそれぞれΔCOOH300、Δb値300として測定した。
【0043】
実施例1
予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約123kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持されたエステル化反応槽に高純度テレフタル酸(三井化学社製)100kgとエチレングリコール(日本触媒社製)45kgのスラリーを4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物123kgを重縮合槽に移送した。
【0044】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽に、酢酸マグネシウム(37.5g)のエチレングリコール溶液、ポリマーに対してゲルマニウム原子換算で200ppm相当の酸化ゲルマニウムを添加し、5分後に反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を250℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。その後、本発明のリン化合物Aを、所定の攪拌トルクの85%となった時点(減圧を開始してから2時間15分の時点)で、ポリエチレンテレフタレートシートを射出成形して作成した厚さ0.2mm、内容積500cmの容器にポリマーに対してリン原子換算で85ppm相当のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト(大崎工業社製、GSY−P101)を詰めて、反応缶上部より添加した。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は2時間47分であった。得られたポリマーは色調、および耐熱性(ΔCOOH300、Δb値300)は良好であり、DEG含有量は少ないものであった。
【0045】
実施例2〜5
本発明のリン化合物Aの添加量をそれぞれ変更し、実施例2はリン化合物Aをリン原子換算で8ppm相当量を添加した。また、実施例3はリン原子換算で35ppm相当量を、実施例4および5はそれぞれリン原子換算で200ppm相当量、360ppm相当量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。
【0046】
実施例2におけるポリマーの耐熱性はやや悪かったものの、製品上問題ないレベルであった。それ以外の実施例における色調および耐熱性はいずれも良好であり、DEG含有量は少ないものであった。
【0047】
実施例6〜8
酸化ゲルマニウムの添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリマーは色調および耐熱性はいずれも良好であり、DEG含有量は少ないものであった。
【0048】
実施例9および実施例10
実施例9は、リン化合物としてテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、IRGAFOS P−EPQ)(リン化合物B)、また、実施例10は、リン化合物としてビス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4−イルホスホナイト(リン化合物C)を用いた点以外は、実施例1と同様にして重合した。得られたポリマーの色調および耐熱性は良好であり、DEG含有量は少ないものであった。
【0049】
実施例11および実施例12
実施例11は、重縮合開始前に本発明のリン化合物A(リン原子換算で25ppm相当量)を添加した後、反応器内を減圧にして重縮合反応を開始させてから重合が目標とする重合度に到達するまでの間に、本発明のリン化合物Aをさらに添加(リン原子換算で60ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。リン化合物の反応系への添加は、所定の攪拌トルクの85%となった時点(減圧を開始してから2時間35分の時点)で、ポリエチレンテレフタレートシートを射出成形して作成した厚さ0.2mm、内容積500cmの容器に本発明のリン化合物Aを詰めて、反応缶上部より添加した。
【0050】
また、実施例12は、重縮合開始前に本発明のリン化合物A(リン原子換算で40ppm相当量)を添加した後、反応器内を減圧にして重縮合反応を開始させてから重合が目標とする重合度に到達するまでの間に、本発明のリン化合物Aをさらに添加(リン原子換算で140ppm相当量)した以外は実施例11と同様にポリエステルを重合した。
【0051】
実施例13および実施例14
ゲルマニウム化合物として、酸化ゲルマニウムの代わりにゲルマニウムテトラブトキシド、シュウ酸ゲルマニウムを用いる点以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。得られたポリマーは色調および耐熱性は良好であり、DEG含有量は少ないものであった。
【0052】
比較例1〜4
比較例1、2および比較例4はリン化合物として、リン酸系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。いずれも重合遅延があり、目標IVに到達するまでの時間が大幅に長くなった。得られたポリマーの色調は黄味であり、DEG量が多かった。また、耐熱性を評価したところ、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0053】
なお、比較例3は、リン酸系化合物(リン酸トリメチル)をリン原子換算で85ppm相当量添加した。重合反応性が劣り、所定の撹拌トルクにまで到達しなかったため、重合を中止した。
【0054】
比較例5〜10
比較例5〜10はリン化合物として、ホスホン酸系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。比較例5、6、および8、10はいずれも重合遅延があり、目標IVに到達するまでの時間が長くなった。得られたポリマーの色調は黄味を帯びており、DEG含有量が多かった。また、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0055】
なお、比較例7,9(リン原子換算で85ppm相当量)は重合反応性が劣り、所定の撹拌トルクにまで到達しなかったため、重合を中止した。
【0056】
比較例11
比較例11はリン化合物として、ホスフィン酸系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。重合遅延があり、目標IVに到達するまでの時間が長くなった。得られたポリマーの色調は黄味を帯びており、DEG含有量が多かった。また、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0057】
比較例12
リン化合物として、ホスフィンオキサイド系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。重合遅延があり、目標IVに到達するまでの時間が長くなった。得られたポリマーの色調は黄味を帯びており、DEG含有量が多かった。また、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0058】
比較例13、14
比較例13、14はリン化合物として、亜リン酸系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。いずれの水準も重合遅延があり、目標IVに到達するまでの時間が長くなった。得られたポリマーの色調は黄味を帯びており、DEG含有量が多かった。また、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0059】
比較例15
リン化合物として、式1で示される構造を取らない亜ホスホン酸系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。所定の撹拌トルクに到達するまでの時間が大幅に長くなった。得られたポリマーの色調は黄味を帯びており、DEG含有量が多かった。また、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、熱安定性に劣っていた。
【0060】
比較例16
リン化合物として、亜ホスフィン酸系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。所定の撹拌トルクに到達するまでの時間が大幅に長くなった。得られたポリマーの色調は黄味を帯びており、DEG含有量が多かった。また、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0061】
比較例17
リン化合物として、ホスフィン系化合物を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は実施例1と同様にポリエステルを重合した。所定の撹拌トルクに到達するまでの時間が大幅に長くなった。得られたポリマーの色調は黄味を帯びており、DEG含有量が多かった。また、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。
【0062】
比較例18
重縮合触媒として、ゲルマニウム化合物の代わりにアンチモン化合物である酸化アンチモンと、リン化合物としてリン酸を添加(リン原子換算で35ppm相当量)した以外は、実施例1と同様にポリエステルを重合した。
【0063】
重合反応性は良好であり、DEG量は少ないものであったが、ΔCOOH300およびΔb値300の値が大きく、耐熱性に劣っていた。また、得られたポリエステルを用いて溶融紡糸したところ口金汚れや糸切れがあり、成形性に劣るものであった。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化またはエステル交換反応させた後、ゲルマニウム系重縮合触媒の存在下で重縮合反応して得られるポリエステルを製造する方法において、下記式1または式2で表されるリン化合物のうち少なくとも1種を添加することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【化1】

(上記式1、式2中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
ゲルマニウム系重縮合触媒中のゲルマニウム原子と式1または式2で表されるリン化合物中のリン原子のモル比率Ge/Pが0.05〜50であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
式2で表されるリン化合物が、式3で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルの製造方法。
【化2】

(上記式3中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表しており、a+b+cは0〜5の整数である。)
【請求項4】
式2で表されるリン化合物が、式4で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルの製造方法。
【化3】

(上記式4中、R〜R10は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜10の炭化水素基を表している。また、a+b+c=0〜5の整数である。)
【請求項5】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を重縮合触媒の存在下で重縮合反応して得られるポリエステルを製造する方法において、重合反応器内の減圧を開始する前に式1または式2のリン化合物を、得られるポリエステルに対してリン原子換算で0〜50ppm添加し、かつ重合反応器内の減圧を開始してからポリエステルが目標とする重合度に到達するまでの間に式1または式2のリン化合物を、得られるポリエステルに対して10〜500ppm添加することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【化4】

(上記式1、式2中、R〜Rは、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)

【公開番号】特開2008−208156(P2008−208156A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43579(P2007−43579)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】