説明

ポリエステルカーボネートの製造方法

【目的】 機械的性質に優れるとともに、成形性にすぐれた着色のない高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートを提供するにある。
【構成】 脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジカルボン酸および炭酸ジエステルを溶融重合させるに際し、触媒としてジルコニウム化合物またはハフニウム化合物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートを効率よく製造する方法に関する。さらに詳しくは、触媒としてジルコニウム化合物またはハフニウム化合物を使用する高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートを製造方法に関する。本発明によるポリエステルカーボネートは機械的強度、流動性、射出成形性、生分解性などの性質に優れ包装材料や成形品などに有用なものである。
【0002】
【従来の技術】従来、芳香族化合物を使用するポリエステルカーボネートは成形品、フィルム、ガラス繊維強化プラスチック等として、多方面に利用されている。このような芳香族系ポリエステルあるいはポリカーボネートは、通常、高い融点を持つかあるいは高いガラス転移点を示すため溶融成形性に欠点がある。このため、脂肪族化合物を用いることにより溶融流動性の改良がはかられており、例えば、芳香族と脂肪族とのコポリエステルカーボネートの製造あるいは脂環式化合物のポリエステルカーボネートが提案されている。これらポリエステルカーボネートの製造としては、例えば、特開平4−226126号公報に示されるように、芳香族化合物と脂肪族ジカルボン酸から芳香族ヒドロキシ末端を有する中間体を形成し、これを界面法でポリエステルカーボネートとする方法がある。この方法は、2段法でありまたホスゲンを使用することに難点がある。また特開平3−203926号公報および特開平3−200830号公報にはエステル交換法による芳香族化合物と脂肪族化合物からなるコポリエステルカーボネート、芳香族化合物と脂環式化合物からなるポリエステルカーボネートの製造法が示されている。しかしながら、ここに示されるコポリエステルカーボネート、ポリエステルカーボネートは溶融成形性が未だ不十分である。
【0003】一方、芳香族化物を含まない脂肪族ポリエステルカーボネートは、高い溶融流動性が期待できる。脂肪族ポリエステルカーボネートは、例えば有機カーボネート化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物および脂肪族ジオールから縮重合により製造されるが、このような脂肪族ポリエステルカーボネートは、実用に耐える強度を有するに十分な分子量の重合体が得られていないのが実状であり、例えば特開平2−145619号公報、特開平4−342785号公報に示されるようにポリウレタンの一成分として使用されるたかだか数平均分子量6000程度のオリゴマーが知られているに過ぎない。
【0004】高分子量体のものを製造する場合には環状モノマーを用いた開環重合法で高分子量体の製造が可能であり、例えば特開平4−226527号公報にはヒドロキシカルボン酸の環状エステルと環状カーボネートを用いた開環重合による高分子量の脂肪族ポリエステルカーボネートの製造法が開示され、また特開平4−213321号公報には脂肪族ポリカーボネートのヒドロキシ末端を開始剤として環状エステルを開環重合する方法するが開示されている。上記の開環重合によって得られる脂肪族ポリエステルカーボネートは、ヒドロキシカルボン酸単位とカーボネート単位をその構成要素とするものであり、深刻化するプラスチック廃棄物処理問題の解決のため自然環境下で分解する生分解性ポリマーとして分類されているが、特殊な環状モノマーを必要とするため安価な製造法とはいえない。
【0005】
【発明が解決しようとする問題点】本発明の目的は、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジヒドロキシ化合物および炭酸ジエステルを溶融重縮合させ、機械的強度、流動性、射出成形性、生分解性などの性質に優れ包装材料や成形品などに有用で実用に耐える高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法を提供することにある。
【0006】
【問題点を解決するための手段】本発明者らは成形加工可能な脂肪族ポリエステルカーボネートを高収率で製造する方法について鋭意検討した結果、特定のエステル交換触媒の存在下に、脂肪族二塩基酸あるいはそのアルキルエステルと脂肪族ジヒドロキシ化合物および炭酸ジエステルとの重縮合を行わせることにより、着色がない目的とする高分子量のポリエステルカーボネートが製造できることを見いだし本発明を完成させた。
【0007】すなわち、本発明は、 (A) 一般式(1)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物と、(B)一般式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸またはそのアルキルエステル、および(C)炭酸ジエステルを溶融重縮合させるに際し、エステル交換触媒として10-4〜1重量部のジルコニウム化合物もしくはハフニウム化合物を用いることを特徴とする着色のない高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法。
HO−R1 −OH (1)R2 OOC−R3 −COOR4 (2)(式中、R1 、R3 、は炭素数1〜8のアルキル基であり、これらは同一であっても異なっていてもよい。R2 、R4 は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0008】本発明の脂肪族ポリエステルカーボネートの製造は、脂肪族ジヒドロキシ化合物と脂肪族ジカルボン酸またはそのアルキルエステルおよび炭酸ジエステルを同時に反応させてもよいが、低沸点の炭酸ジエステルの副生やカルボン酸によるカーボネート結合の分解を回避するために2段階に分けて実施することが好ましい態様である。
【0009】すなわち、第1工程は脂肪族ジヒドロキシ化合物と脂肪族ジカルボン酸もしくは脂肪族ジカルボン酸エステルを、温度100〜250℃、好ましくは150〜220℃で、副生する水もしくはアルコール及び過剰の脂肪族ジヒドロキシ化合物を除去しながら、数平均分子量10000以下、好ましくは5000以下のポリエステルオリゴマーを製造する工程である。オリゴマーの分子量が高い場合は、ポリマー中のカーボネート結合の割合が著しく低くなるが、カーボネート結合はポリエステルオリゴマーの結合剤としてポリエステルの分子量を容易に高分子量体とすることが可能であり本特許の範囲に含まれる。第1工程では、原料混合物100重量部に対して、10-4〜1重量部の量のエステル交換触媒の存在下で実施される。また反応は通常減圧下に行われ、上記反応が達成される圧力が選ばれ、反応を促進する目的で300mmHg以下の減圧で行われる。
【0010】第2工程は第1工程で得られたポリエステルオリゴマーと炭酸ジエステルとを反応させ高分子量体とする工程であり、温度150〜250℃、好ましくは200〜220℃で、副生するフェノール及び若干量の原料脂肪族ジヒドロキシ化合物を除去する工程である。この反応において反応温度が高い場合重合は速いが、生成する重合体を着色させることがありあまり高い温度は好ましくない。反応は、必要に応じて徐々に減圧度を調節して最終的には3mmHg以下の減圧とすることが好ましい。
【0011】このようにして得られる本発明のポリエステルカーボネートは、下記(3)、(4)の繰り返し構造単位を有する着色のない高分子量の脂肪族ポリエステルポリカーボネートである。
【0012】
【化1】


ここで上記R1 、R3 は前記と同じ。
【0013】本発明で使用される一般式(1)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物は、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等が例示される。
【0014】本発明で使用される一般式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸またはそのエステルは、例えば、琥珀酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、ジグリコール酸およびこれらのアルキルエステル等が例示される。
【0015】これら、脂肪族ジヒドロキシ化合物と脂肪族ジカルボン酸またはそのエステルは、それぞれ単独であるいは混合物として用いることができ所望の組合せが可能であるが、成形材料に好適なものを得るには融点が比較的高いものが好ましい。例えば、価格と物性を考慮すると琥珀酸と1,4−ブタンジオールの組合せが好ましい。脂肪族ジヒドロキシ化合物の使用量は、脂肪族ジカルボン酸またはそのエテスル1モルに対して1〜10倍モル、好ましくは2〜4倍モルである。
【0016】本発明の脂肪族ポリエステルカーボネート中の繰り返し単位は所望の構成が可能であるが、構造単位(3)の割合が多い場合は、得られる脂肪族ポリエステルカーボネートの柔軟性が増すが融点は低下する。従って、成形性を考慮する場合構成単位(3)と(4)の比は50/50〜99/1が好ましい。
【0017】また、本発明で用いられる炭酸ジエステルの具体的な例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネートなどを挙げることができる。これらの炭酸ジエステルの中で特にジフェニルカーボネートが好ましい。炭酸ジエステルの使用量は、第1工程で得られる脂肪族ポリエステルオリゴマーの末端水酸基に対して0.40〜0.6倍モル量用いるが、より好ましくは0.45〜0.55倍モル量である。
【0018】本発明でいう高分子量体とは、数平均分子量で15000以上のものをいい、数平均分子量が15000以下のものは、成形体として十分な強度を示さなく、このましくない。
【0019】本発明で触媒として使用されるジルコニウム化合物、ハフニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムアセチルアセトネート、アセチルアセテートジルコニル、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラブターシャリーブトキシド、ジルコニルクロライド、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ジルコニウムオキシアセテート、オクタン酸ジルコニウム、ジルコニウムオキシステアレート、ハフニウムアセチルアセトネート、ハフニウムテトラブトキシド、ハフニウムテトライソプロポキシドなどが例示されるが、ジルコニウムアセチルアセトネート、ハフニウムアセチルアセトネートがとくに好ましく用いられる。
【0020】使用した触媒は最終的には樹脂中に残留するため、過剰に用いることは生成樹脂の熱安定性を損ない好ましくなく、少なすぎればオリゴマー製造および重合の終了までに長時間を要し不利益である。また、例えば本発明によって得られるホリエステルカーボネートを食品関係の包装材料として使用する場合には、触媒量は極力少ないことが望ましい。したがって触媒量は通常、重合原料混合物100重量部に対して、10-4〜1重量部、好ましくは10-4〜0.1 重量部の量の範囲で用いられる。
【0021】本発明の脂肪族ポリエステルカーボネートは、土壌中あるいは酵素の存在下において高い分解性を有しており、土壌表面を被覆して土壌の保温をするマルチフィルム、植林用の鉢や紐、また肥料のコーティング材料などに利用でき、さらには釣り糸、漁網に、あるいは医療用材料、生理用品などの衛生材料として利用できる。
【0022】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお各物性の測定は下記によった。
【0023】共重合体の融点は、セイコー電子(株)製DSC−220を用いて測定した。
【0024】共重合体の分子量は、クロロホルムを溶媒として昭和電工(株)GPC System−11で測定した。
【0025】カーボネート結合含有量は、日本電子(株)製NMR EX−270を用いて、13CNMRの測定により構造単位(3) および(4) の合計モル数に対するカーボネート単位の割合(モル%)として測定した。
【0026】実施例1撹拌機、分溜コンデンサー、温度計、ガス導入管を付けた200ミリリットルセパラブルフラスコに、琥珀酸35.0g(0.30モル)、1,4−ブタンジオール53.4g(0.60モル)およびジルコニウムアセチルアセトネート4.4mgを仕込み、窒素雰囲気下で温度150〜220℃で2時間反応し水を留出させた。つづいて、最終的に3mmHg以下の減圧としさらに水と1,4−ブタンジオールを留出させた。得られたプレポリマーの数平均分子量は1700であった。また、末端水酸基価は3.2であり、酸価は0.02であった。
【0027】次いで、得られたプレポリマー50gにジフェニルカーボネート11.2gを添加し温度210〜220℃で最終的に1mmHgの減圧とし4時間反応した。得られた高分子量体は、GPCの測定による数平均分子量が78000であり、13CNMR測定によりポリカーボネート成分として16%のカーボネート結合を有していた。また、融点は101℃であり無色で強靭なフィルムを得た。
【0028】実施例2撹拌機、分溜コンデンサー、温度計、ガス導入管を付けた300ミリリットルフラスコに、琥珀酸77.8g(0.66モル)、1,4−ブタンジオール118.4g(1.32モル)およびジルコニウムアセチルアセトネート15.1mgを仕込み、窒素雰囲気下で温度150〜220℃で2時間反応し水を留出させた。つづいて、最終的に3mmHg以下の減圧としさらに水と1、4−ブタンジオールを留出させた。得られたプレポリマーの数平均分子量は1500であった。また、末端水酸基価は4.3であり、酸価は0.2であった。
【0029】得られたプレポリマー50gを撹拌機、分溜コンデンサー、温度計を付けた200ミリリットルセパラブルフラスコに仕込み、ジフェニルカーボネート13.7gを添加し温度210〜220℃で最終的に1mmHgの減圧とし4時間反応した。得られた高分子量体は、GPCの測定による数平均分子量が93000であり、13CNMR測定によりポリカーボネート成分として21%のカーボネート結合を有していた。また、融点は97.8゜Cであり無色で強靭なフィルムを得た。
【0030】実施例31,4−ブタンジオールに代えてエチレングリコールを81.2g用いた外は実施例2と同様の操作を行った。重合後得られたポリエステルカーボネートは無色であり、数平均分子量が81000であった。
【0031】実施例4ジルコニウムアセチルアセトネートに代えてジルコニウムテトラエトキシドを用いた外は実施例2と同様の操作を行った。重合後得られたポリエステルカーボネートは無色であり、数平均分子量が71000であった。
【0032】実施例5ジルコニウムアセチルアセトネートに代えてジルコニウムテトラブトキシドを用いた外は実施例2と同様の操作を行った。重合後得られたポリエステルカーボネートは無色であり、数平均分子量が76000であった。
【0033】実施例6ジルコニウムアセチルアセトネートに代えてハフニウムアセチルアセトネートを用いた外は実施例2と同様の操作を行った。重合後得られたポリエステルカーボネートは無色であり、数平均分子量が78000であった。
【0034】比較例1ジルコニウムアセチルアセトンに代えてテトラノルマルブトキシチタネートを用いた外は実施例1と同様の操作を行った。得られたポリエステルカーボネートは、GPCによる数平均分子量は69000であったが、著しく黄色に着色した。
【0035】
【本発明の効果】本発明の方法により、包装材料や成形体などに利用できる機械的強度ならびに流動性、射出成形性、生分解性などの性質に優れる高分子量の脂肪族ポリエステルカーボネートが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A) 一般式(1)で表される脂肪族ジヒドロキシ化合物と、(B)一般式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸またはそのアルキルエステル、および(C)炭酸ジエステルを溶融重縮合させるに際し、エステル交換触媒として10-4〜1重量部のジルコニウム化合物もしくはハフニウム化合物を用いることを特徴とする着色のない高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法。
HO−R1 −OH (1)R2 OOC−R3 −COOR4 (2)(式中、R1 、R3 、は炭素数1〜8のアルキル基であり、これらは同一であっても異なっていてもよい。R2 、R4 は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。)
【請求項2】数平均分子量が10000以下のポリエステルオリゴマーとジフェニルカーボネートを溶融重縮合させることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】脂肪族ジヒドロキシ化合物が、1,4−ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸が琥珀酸である請求項1記載の製造法。