説明

ポリエステル系仮撚捲縮加工糸

【課題】 弾性回復率に優れ,かつソフトな風合を有するストレッチ素材用として好適なポリエステル系仮撚捲縮加工糸を提供する。
【解決手段】 繊維を構成するポリマー成分の少なくとも95モル%が極限粘度0.5〜1.0のポリプロピレンテレフタレートからなり,ヤング率が30g/d以下,50%伸長時の弾性回復率が80%以上という特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ポリエステル系仮撚捲縮加工糸に係わり,さらに詳しくは,弾性回復率に優れ,かつソフトな風合を有するストレッチ素材用として好適なポリエステル系仮撚捲縮加工糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエステル系繊維のうち,ポリブチレンテレフタレート(以下, PBTと略記する。)糸を用いた仮撚捲縮加工糸は良好な弾性回復性を有し,さらには,この弾性回復性の持続性に優れていることが知られている(例えば,特開昭48-22738号公報参照)。しかしながら,これら従来のPBTの仮撚捲縮加工糸は,使用開始初期のうちは良好な伸縮性を示すが,使用,洗濯を繰り返しているうちに,次第に弾性回復性が悪くなり,その持続性が不十分であるという欠点がある。さらには,ポリエステル特有のさらりとした風合はあるものの生地が硬く,不快感が残るという問題もあった(例えば,特開昭63-20930号公報参照)。
【0003】また,ポリヘキサメチレンテレフタレート(以下, PHTと略記する。)糸を用いた仮撚捲縮加工糸も提案されている。しかしながら,PHTの仮撚捲縮加工糸は,弾性回復性や風合は向上するものの,PHTの融点が約 160℃と低いため,仮撚加工する際に糸の密着が生じたり,耐摩擦性が劣るため切糸や毛羽が発生しやすく,実用性に乏しいという欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記のような欠点を解消し,弾性回復率に優れ,かつソフトな風合を有するストレッチ素材用として好適なポリエステル系仮撚捲縮加工糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記の課題を解決するために鋭意検討した結果,本発明に到達した。すなわち, 本発明は,繊維を構成するポリマー成分の少なくとも95モル%が極限粘度0.5〜1.0のポリプロピレンテレフタレートからなり,ヤング率が30g/d以下であり,かつ50%伸長時の弾性回復率が80%以上であることを特徴とするポリエステル系仮撚捲縮加工糸を要旨とするものである。
【0006】なお,本発明におけるヤング率(g/d)と弾性回復率(%)は,次の方法で測定するものである。
(1) 極限粘度フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒として用い,温度20℃で測定する。
(2) ヤング率(g/d)
JIS−L−1073−合成繊維フイラメント糸試験方法の初期引張抵抗度の項に準じて測定する。
(3) 弾性回復率(%)
オリエンテック株式会社製テンシロンUTM−4−100型を用い,試料長10cm,引張速度10cm/分で50%伸長した後,同速度で元の長さまで戻し,再び伸長したとき,応力が現れたときの長さを求め,次式によって弾性回復率を求める。
【0007】
弾性回復率(%)=〔(L0 −L1)/L0 〕×100L0 : 伸ばす前の長さ(cm)
1 : 再度伸ばしたとき,応力が現れたときの長さ(cm)
なお,測定回数は10回とし,その平均値を弾性回復率とする。また,伸長後の弾性回復率は,試料長3cm,引張速度3cm/分で1.5倍まで伸長後,同速度で元の長さまで戻し,15分弛緩させたものを試料とし,上記の弾性回復率測定法で測定する。
【0008】
【発明の実施の形態】以下,本発明について詳細に説明する。
【0009】本発明のポリエステル系仮撚捲縮加工糸は繊維を構成するポリマー成分の少なくとも95モル%がポリプロピレンテレフタレート(以下,PPTと略記する。)である必要があり,ポリエチレンテレフタレート(以下, PETと略記する。),PBT等, PPT以外のポリエステルを5モル%を超えて含有すると,ソフトな風合や弾性回復率が低下する。このPPTは,5モル%未満まではエチレングリコール,1,4−ブタンジオール,イソフタル酸等が共重合されたものでもよく,また,酸化チタン等の顔料や制電剤,難燃剤等を添加したものでもよい。
【0010】本発明のポリエステル系仮撚捲縮加工糸を構成するPPTは,例えば次の方法で製造することができる。まず,1,3−プロパンジオールとテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とをエステル化反応させ,エステル化反応率92〜98%の反応物を得る。次に,得られた反応物に触媒(テトラブチルチタネート又はスルホサルチル酸が好ましい。)をポリエステルを構成する酸成分1モルに対して5×105 〜5×103 モル,好ましくは1×104 〜2×103 モル加え,5hPa以下の減圧下, 240℃以上,260℃以下の温度で3〜5時間重縮合反応を行うことにより,極限粘度0.5〜1.0のPPTを得ることができる。
【0011】PPTの極限粘度は,0.5〜1.0であることが必要であり,極限粘度が0.5より低いと,紡糸時に糸切れが多発したり,製品の強度が低くて実用上使えない。
【0012】また,PPTの極限粘度が1.0を超えると,得られる仮撚捲縮加工糸は硬い風合のものとなる。
【0013】また,本発明のポリエステル系仮撚捲縮加工糸は,ヤング率が30g/d以下,50%伸長時の弾性回復率が80%以上であることが必要である。ヤング率が30g/dを超えると,風合が硬くなるので好ましくない。さらに,50%伸長時の弾性回復率が80%未満になると,ストレッチ素材としての伸縮性に劣るものとなる。
【0014】ヤング率が30g/d以下, 50%伸長時の弾性回復率が80%以上である本発明の仮撚捲縮加工糸を得る方法としては,仮撚加工上がりの単糸繊度が5d以下で,フイラメント数が3〜50になるように,未延伸糸条又は部分配向糸条を延伸に引き続き仮撚加工を行う方法や,未延伸糸条又は部分配向糸条を延伸と同時に仮撚加工する方法等が採用される。仮撚加工上がりの単糸繊度が5dを超えると,風合が硬くなる傾向を示すようになる。上記仮撚加工時の仮撚数T(T/m)は,(18750〜32500)/ (仮撚捲縮加工糸の繊度:デニール)1/2が好適に用いられる。
【0015】また,PPTの良好な弾性回復率とソフトな風合を最大限に発揮させるためには,上記仮撚時の熱固定温度を 160〜 195℃とすることが好ましい。熱固定温度が 160℃より低くなると, 特に初期の弾性回復率が低下し,195℃より高くなると強伸度の低下が大きく,初期及び伸長後の弾性回復率が低下したり,風合が硬くなるので好ましくない。
【0016】本発明のポリエステル系仮撚捲縮加工糸は,繊維を構成するポリマー成分の少なくとも95モル%が極限粘度0.5〜1.0のPPTからなり,ヤング率が30g/d以下なので風合がソフトであり, また,50%伸長時の弾性回復率が80%以上なので,ストレッチ素材として使用すれば,初期及び伸長後の弾性回復率が極めて良好なものである。
【0017】
【実施例】次に,本発明を実施例により具体的に説明する。なお,実施例中の測定,評価は, 次の方法で行った。
(1) 繊度(d)
試料長90cmの糸条を5本サンプリングして各重量を測定し,9000mに換算した重量値(g)の平均値を繊度とした。
(2) 強度(g/d)と伸度(%)
オリエンテック株式会社製テンシロンUTM−4−100型を用い,試料長10cm,引張速度10cm/分で測定した。
(3) 風合織,編,染色技術者からなる10人を選定し,触感での官能検査方法により,布帛におけるソフト感,膨らみ感について8段階で判定させた。最もよい場合を8とし,最も悪い場合を1として評価した。
【0018】実施例1極限粘度が0.75のPPTを, 吐出孔数10個の紡糸口金を用いて 270℃で溶融吐出し,捲取速度1400m/分で捲き取った未延伸糸を,速度 650m/分,延伸倍率3.0倍で延伸し,伸度が30%である30d/10f の延伸糸を得た。仮撚加工装置(三菱LS−6)を用い,この延伸糸を,糸速 100m/分,スピンナー回転数40×104rpm,仮撚ヒータ温度 165℃,ストレッチ率1.05で仮撚加工し,仮撚捲縮加工糸を得た。次いで,得られた仮撚捲縮加工糸を筒編,染色し,風合の評価を行った。仮撚加工条件と,得られた仮撚捲縮加工糸の評価結果を表1に示す。
【0019】実施例2〜5,比較例1〜3延伸糸の伸度,仮撚ヒータ温度,ストレッチ率を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様に実施した。仮撚加工条件と,得られた仮撚捲縮加工糸の評価結果を表1に示す。
【0020】比較例4極限粘度0.75のPPT/PET(モル比90/10)共重合ポリエステルを用いて実施例1と同様に実施した。仮撚加工条件と,得られた仮撚捲縮加工糸の評価結果を表1に示す。
【0021】比較例5未延伸糸の延伸倍率を2.5倍にした以外は実施例1と同様に実施した。仮撚加工条件と,得られた仮撚捲縮加工糸の評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】


【0023】表1から明らかなように,ヤング率が30g/d以下, 50%伸長時の弾性回復率が80%以上である実施例1〜5の仮撚捲縮加工糸は,弾性回復率,風合ともに優れていた。
【0024】一方,比較例1は,延伸糸の伸度が低いため,ヤング率が30g/dを超えて風合が硬くなり,弾性回復率も低いものであった。比較例2は,仮撚時のストレッチ率が高いため, また,比較例3は,仮撚ヒータ温度が高いため,さらに,比較例4は,PPTが95モル%未満であるため,いずれもヤング率が30g/dを超えたものとなり,風合が硬く,弾性回復率も低いものであった。また,比較例5は,50%伸長時の弾性回復率が80%以下であり,ストレッチ素材としては不十分で風合も硬いものであった。
【0025】
【発明の効果】本発明のポリエステル系仮撚捲縮加工糸は,ヤング率が低いため風合がソフトであり,また,50%伸長時の弾性回復率が80%以上なので,初期及び伸長後の弾性回復性が優れている。このため,本発明のポリエステル系仮撚捲縮加工糸を用いてストレッチ織物あるいは編物を構成すれば,弾性回復性,その持続性及び風合が極めて良好なものとなり,長期にわたって使用可能で,かつ風合も良好なストレッチ素材を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維を構成するポリマー成分の少なくとも95モル%が極限粘度0.5〜1.0のポリプロピレンテレフタレートからなり,ヤング率が30g/d以下であり,かつ50%伸長時の弾性回復率が80%以上であることを特徴とするポリエステル系仮撚捲縮加工糸。