説明

ポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂の製法、およびポリエステル系樹脂水性液

【課題】高屈折率を有し、水性溶媒に対して容易に水性化し得るポリエステル系樹脂を提供する。
【解決手段】特定のフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)からなり、分子末端にカルボン酸無水物(C)に由来するカルボキシル基が結合してなるポリエステル系樹脂。該ポリエステル系樹脂は、数平均分子量が300〜10000、酸価が10〜100mgKOH/gであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂に関し、さらに詳しくは、高い屈折率を有し、水性溶媒に対して容易に水性化し得るカルボキシル基を含有するポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂の製法、およびポリエステル系樹脂水性液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、包装材料、磁気カード、磁気テープ、磁気ディスク、印刷材料等の形成材料にポリエステルフィルムが用いられている。上記ポリエステルフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性ポリエステルやこれらの共重合体に、必要に応じて他の樹脂を混合したものを、溶融押出して成形した後、二軸延伸し、熱固定したものが用いられている。このようなポリエステルフィルムは、機械強度、耐熱性、耐薬品性等の諸物性に優れている反面、配向性が高いことから塗料、接着剤、インク等を付着させにくいという問題を有している。
【0003】
このようなことから、従来、ポリエステルフィルムの表面にポリエステル樹脂の水分散体を塗布して成膜してなる被膜を設けることにより、塗料等の接着性を向上することが行なわれている。
【0004】
ところで、近年、光学フィルム用途等においては、ポリエステルフィルムの表面に易接着性の被膜を形成して、これを屈折率の異なる他のフィルムと接合することが行われている。この場合、歪みの少ない光学フィルムを得るため、上記易接着性の被膜の屈折率を高くして基材となるPET等のポリエスエルフィルムとの間の屈折率差を小さくすることが求められるようになってきている。
【0005】
上記屈折率差を小さくする手段としては、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸またはそのメチルエステルを含む多価カルボン酸成分と、ビス(4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンを含むポリオール成分とを重合させてポリエステル製の被膜を形成することが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の提案により得られるポリエステル樹脂は、高い屈折率を有するものの、被膜形成材料を調製する際に関係する水分散性に関して充分満足のいくものではなかった。このような問題を解決するために、2,6−ナフタレンジカルボン酸類と金属スルホネート基を有するジカルボン酸類を特定量含有する多価カルボン酸成分と、フルオレン系化合物を特定量含有するポリオール成分とを共重合させてなるポリエステル樹脂が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−110091号公報
【特許文献2】特開2009−242461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2により提案されたポリエステル樹脂は、金属スルホネート基含有ジカルボン酸や三価以上の多価カルボン酸を、他のジカルボン酸成分およびジオール成分とともに、一括仕込みにより製造されるため、縮合反応時に増粘したり、ゲル化したりする等の恐れが生じる。また、上記特許文献2により提案されたポリエステル樹脂は、分子量が大きいため、水性化を行なう際にも水性化し難いものであり水性液を調製するという点に関して問題が残るものであった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、高屈折率を有し、水性溶媒に対して容易に水性化し得るポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂の製法、およびポリエステル系樹脂水性液の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、形成された被膜が高屈折率を有し、しかも水性溶媒に対して水性化が容易で塗工による被膜形成が容易となるポリエステル系樹脂を得るために鋭意検討を重ねた。その結果、前記特定の構造を有するフルオレン系化合物を特定量含有するポリオール成分とカルボン酸成分からなるポリエステル系樹脂の分子末端にカルボン酸無水物を結合させてこれに由来するカルボキシル基を有する構造を備えると、高屈折率を有するうえ、水性溶媒に対して容易に水性化し得るポリエステル系樹脂となることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、フルオレン系化合物を多量に用いてポリエステル系樹脂を作製した場合、通常、フルオレン系化合物が疎水性を有することから、得られるポリエステル系樹脂を水性化することは困難であったが、上記のように、分子末端にカルボン酸無水物を結合させてこれに由来するカルボキシル基を有する構造のポリエステル系樹脂とすることにより、水性化が容易になることを突き止めた。また、ポリエステル系樹脂の製造において、多量のフルオレン系化合物を、その他の酸成分およびポリオール成分とともに一括にて仕込み重縮合反応を行なうと、増粘やゲル化が起こる等の製造上の問題点が残るものであったが、本発明の製法によりこれらも改善されることを突き止めたのである。
【0012】
本発明は、下記の一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)からなるポリエステル系樹脂であって、分子末端にカルボン酸無水物(C)に由来するカルボキシル基が結合してなるポリエステル系樹脂を第1の要旨とする。
【化1】

【0013】
また、本発明は、上記ポリエステル系樹脂を製造する方法であって、下記の一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)とを共重合させてポリエステルポリオール(I)を作製した後、このポリエステルポリオール(I)にカルボン酸無水物(C)を付加反応させることにより上記ポリエステルポリオール(I)の分子末端に上記カルボン酸無水物(C)を結合させるポリエステル系樹脂の製法を第2の要旨とする。
【化2】

【0014】
そして、本発明は、上記ポリエステル系樹脂を水性溶媒に溶解または分散してなるポリエステル系樹脂水性液を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明は、上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)からなり、分子末端にカルボン酸無水物(C)に由来するカルボキシル基が結合してなるポリエステル系樹脂である。このため、水性溶媒に対して容易に水性化し得るものであり、高屈折率を有するものである。したがって、これを水性溶媒に溶解または分散してなるポリエステル系樹脂水性液は、例えば、基材としてのポリエステルフィルムに塗工して良好な被膜を形成することが可能となり、得られる被膜とポリエステルフィルムとの間の屈折率差を小さくすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に限定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
《ポリエステル系樹脂》
本発明のポリエステル系樹脂は、下記の一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)からなり、その分子末端にカルボン酸無水物に由来するカルボキシル基が結合してなるものである。
【0018】
【化3】

【0019】
前記本発明のポリエステル系樹脂は、例えば、〔α〕上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)とを共重合させてポリエステルポリオール(I)を作製し、このポリエステルポリオール(I)にカルボン酸無水物を付加反応させることにより上記ポリエステルポリオール(I)の分子末端にカルボン酸無水物を結合させ、カルボン酸無水物に由来するカルボキシル基を存在させることにより調整することができる。また、この他、〔β〕上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)とを共重合させてなるポリエステル系樹脂と、ポリオール成分(A)の末端にカルボン酸無水物を付加反応させてなるモノオールとをエステル化反応させたりすることによっても、本発明のポリエステル系樹脂を調整することができるが、本発明では特に、上記〔α〕の方法が生産性、反応制御の点で好ましい。
【0020】
<ポリオール成分(A)>
上記ポリオール成分(A)は、上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物を50モル%以上含有するものであり、好ましくは上記フルオレン系化合物を70モル%以上含有する、より好ましくは上記フルオレン系化合物を80モル%以上含有する、特に好ましくは上記フルオレン系化合物100モル%、すなわちポリオール成分(A)が上記フルオレン系化合物のみからなるものである。上記フルオレン系化合物の含有量が少なすぎると、充分な高屈折率化を得ることが困難になる傾向がみられる。
【0021】
上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)としては、R1としては、好ましくはメチレン基、エチレン基があげられる。また、R2,R3,R4,R5としては、好ましくは水素、メチル基、エチル基があげられ、特に水素が好ましい。そして、このフルオレン系化合物としては、入手し易さ等の観点から、ビスフェノキシエタノールフルオレンが好ましく用いられる。
【0022】
上記ポリオール成分(A)において、一般式(1)で表されるフルオレン系化合物以外に用いられるポリオール成分としては、二価アルコールがあげられる。上記二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール等の脂環族ジオール、4,4′−チオジフェノール、4,4′−メチレンジフェノール、4,4′−(2−ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4′−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−およびp−ジヒドロキシベンゼン、4,4′−イソプロピリデンフェノール、4,4′−イソプロピリデンビス(2,6−シクロロフェノール)2,5−ナフタレンジオールおよびp−キシレンジオール等の芳香族ジオールがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
中でも、脂肪族ジオールであるジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、脂環族ジオールである1,2シクロヘキサンジメタノール、1,3シクロヘキサンジメタノール、1,4シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオールが好ましく用いられ、より好ましくは脂肪族ジオールであり、特に好ましくはジエチレングリコールである。
【0023】
さらに、上記二価アルコールの他に少量であるならば三価以上の多価アルコール、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,3,6−ヘキサントリオール、アダマンタントリオール等を併用することもできる。
【0024】
<カルボン酸成分(B)>
上記カルボン酸成分(B)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ベンジルマロン酸、1,4−ナフタール酸、ジフェニン酸、4,4′−オキシ安息香酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタール酸、アゼライン酸、ゼバシン酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、チオジプロピオン酸、ジグリコール酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸があげられる。これらはエステル、クロライド、酸無水物等であってもよく、例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジメチルおよびテレフタル酸ジフェニルを含む。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸、芳香族ジカルボン酸である2,5−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、およびそれらのエステルが好ましく用いられ、より好ましくは脂肪族ジカルボン酸であり、ポリエステル樹脂中のビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)含有量を高くできる点で特に好ましくは低分子量の脂肪族ジカルボン酸であり、更に好ましくはコハク酸、無水コハク酸であり、殊に好ましくは無水コハク酸である。
【0025】
さらに、上記ジカルボン酸の他に少量であるならば三価以上の多価カルボン酸、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、アダマンタントリカルボン酸、トリメシン酸等も使用可能である。
【0026】
上記ポリオール成分(A)、カルボン酸成分(B)の他に、縮合反応時にスルホン酸塩基を樹脂中に導入することもできる。上記スルホン酸塩基を導入するに際して用いられる縮合成分としては、例えば、5−ソジオスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸等があげられる。
【0027】
<ポリエステルポリオール(I)>
本発明に使用されるポリエステルポリオール(I)は、例えば、上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)を重縮合反応させることによって得られる。
【0028】
上記ポリエステルポリオール(I)の製造方法としては、例えば、上記カルボン酸成分(B)に対して、0.8〜3.0倍モル、好ましくは1.0〜2.7倍モル、より好ましくは1.1〜2.5倍モルのポリオール成分(A)を触媒とともに反応器に仕込み、通常140〜280℃、好ましくは170〜275℃、より好ましくは180〜250℃に昇温して脱水縮合を行なう方法があげられる。上記反応において、必要に応じて、酢酸メチル、ベンゼン、アセトン、キシレン、トルエン等の不活性溶媒を使用してもよい。
【0029】
上記ポリエステルポリオール(I)としては、数平均分子量が300〜8000であることが好ましく、より好ましくは350〜3000、特に好ましくは400〜2000である。数平均分子量が小さすぎると、塗工時のハジキとなる傾向がみられ、大きすぎると、ゲル化したり、水性化が困難となったり、塗工ムラが発生する等の傾向がみられる。
【0030】
なお、本発明において、上記数平均分子量は、酸価および水酸基価から下記の計算式によって算出されるものである。
数平均分子量=56.11×1000×2/(酸価+水酸基価)
【0031】
また、上記ポリエステルポリオール(I)としては、水酸基価が20〜500mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは30〜400mgKOH/g、特に好ましくは50〜300mgKOH/gである。水酸基価が小さすぎると、カルボン酸無水物(C)に由来するカルボキシル基の結合が困難となり、水性溶媒に対して水性化が困難となる傾向がみられ、大きすぎると、分子量が小さくなる為、塗工時のハジキとなる傾向がみられる。なお、上記ポリエステルポリオール(I)の水酸基価は、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0032】
上記ポリエステルポリオール(I)との付加反応に用いられるカルボン酸無水物(C)としては、少なくとも1つのカルボン酸無水物構造を有するものであればよく、カルボン酸一無水物、カルボン酸二無水物等の無水物等が用いられ、好ましくは反応性、水性化の際の水分散性の点からテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0033】
これらカルボン酸無水物(C)の具体例としては、例えば、上記のカルボン酸成分(B)として例示したものの無水物や、無水トリメリット酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、2,2′,3,3′−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等があげられ、中でも1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)、5−(2,5ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等が好ましく用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0034】
付加反応における上記カルボン酸無水物(C)の使用量は、ポリエステルポリオール(I)に対して、1〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは3〜30モル%、特に好ましくは5〜25モル%である。カルボン酸無水物(C)の使用量が少なすぎると、水性化が困難となる傾向がみられ、多すぎると、塗工時のハジキや塗工ムラとなる傾向がみられる。
【0035】
上記付加反応に際して、溶剤は必ずしも必要ではないが、反応は230℃以下、好ましくは190〜210℃、より好ましくは180〜200℃から開始することが好ましい。したがって、そのような温度における反応物の粘度が高過ぎる場合には撹拌し易くするために必要な溶剤を使用すればよい。上記溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート等の芳香族系溶剤、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等のアルコール系溶剤、ジメチルホルムアミド等があげられる。
【0036】
上記付加反応は室温でも進行するが、通常、170〜210℃で0.5〜4時間かけて反応を進行させることが好ましい。特に好ましい温度は170〜200℃であり、特に好ましい反応時間は1〜3時間である。さらに分子量をある程度高くする場合は上記ポリエステルポリオールを180〜250℃にて脱水縮合を行った後、徐々に冷却し170〜210℃で0.5〜4時間かけて反応を進行させることが好ましく、より好ましくは170〜200℃で1〜3時間かけて反応を進行させる。
【0037】
このようにして得られる本発明の分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂としては、好ましくは数平均分子量が300〜10000であり、より好ましくは400〜5000、特に好ましくは450〜2000である。ポリエステル系樹脂の数平均分子量が小さすぎると、塗工時のハジキや塗工ムラが生じる傾向がみられ、大きすぎると、ゲル化したり、水性化が困難となったり、塗工筋が発生する等の傾向がみられる。なお、数平均分子量の測定は、前述のポリエステルポリオール(I)の測定方法に準ずる。
【0038】
また、本発明の分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂の酸価は、通常10〜100mgKOH/gであり、好ましくは20〜80mgKOH/g、特に好ましくは25〜70mgKOH/gである。酸価が小さすぎると、水性化が困難となる傾向がみられ、大きすぎると、塗工時のハジキが生じたり、耐水性が悪くなる等の傾向がみられる。なお、酸価は、JIS K0070に準拠して測定される。
【0039】
本発明の分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、通常40〜200℃であり、好ましくは70〜180℃であり、特に好ましくは80〜175℃である。ガラス転移温度が高すぎると、乾燥後の塗膜が硬くなり、塗工フィルムを巻き取る際にクラックが入りやすい傾向があり、低すぎると、塗工フィルムを巻き取った後にブロッキング(塗工面で接着がおこる)し、再度の巻き出しが困難となる傾向がある。
【0040】
《ポリエステル系樹脂水性液》
本発明の分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂を用い、これを水性溶媒に溶解あるいは分散させることによりポリエステル系樹脂水性液を得ることができる。
【0041】
上記水性溶媒としては、水または水に親水性有機溶媒や中和剤としてアンモニアを混合したものがあげられる。上記親水性有機溶媒としては、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等の水と混合可能なものがあげられる。特にブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、イソプロピルアルコールを用いることが好ましい。有機溶媒を用いる場合には、その水性溶媒全体に対する割合は用途等に応じて適宜設定されるが、例えば、水性媒体全体の30重量%以下とすることが好ましい。
【0042】
また、本発明のポリエステル系樹脂水性液には、例えば、ポリエステル系樹脂水性液をポリエステルフィルムに塗布成膜する際のポリエステルフィルムに対する濡れ性の向上を目的に、必要に応じてアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の界面活性剤を添加することができる。上記界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、第四級アンモニウムクロリド、アルキルアミン塩酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ塩等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0043】
さらに、本発明のポリエステル系樹脂水性液には、必要に応じて耐電防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0044】
本発明のポリエステル系樹脂水性液は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、得られたポリエステル系樹脂を上記水性溶媒に投入し、溶解あるいは分散させることによりポリエステル系樹脂水性液を作製することができる。もしくは、得られたポリエステル系樹脂および親水性有機溶媒を水に投入し溶解あるいは分散させることによりポリエステル系樹脂水性液を作製することができる。
【0045】
上記水性溶媒に溶解あるいは分散させる際の温度条件としては、通常40〜100℃であり、より好ましくは60〜100℃、特に好ましくは70〜90℃である。
【0046】
また、上記水性溶媒に溶解あるいは分散させる時間は、通常30〜240分間、より好ましくは60〜180分間、特に好ましくは60〜120分間である。
【0047】
上記水性溶媒の使用量は、所望のポリエステル系樹脂水性液の固形分濃度となるように適宜設定される。そして、本発明のポリエステル系樹脂水性液の固形分の濃度は、ポリエステル系樹脂の良好な分散性を確保するとともに塗布成膜工程により良好な被膜を形成することができるように適宜調整されるものであるが、例えば、1〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30重量%、特に好ましくは10〜20重量%である。上記固形分濃度が低すぎると、塗工時のハジキが生じる傾向があり、高すぎると水性化が困難となったり、水溶液の安定性が低下し層分離する傾向がある。
【0048】
本発明のポリエステル系樹脂水性液の使用例としては、例えば、この水性液をポリエステルフィルムに塗布し、加熱乾燥することにより成膜して、被膜付きポリエステルフィルムを作製する態様があげられる。この被膜付きポリエステルフィルムには、さらに延伸加工を施してもよい。
【0049】
上記ポリエステルフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、これらに他の共重合成分を共重合させたコポリマー等からなるフィルムがあげられる。上記ポリエステルフィルムは未延伸のものと、延伸したもののいずれでもよいが、中でも延伸フィルムを用いることが好ましく、特に二軸延伸フィルムを用いることが好ましい。
【0050】
このようにして得られる被膜付きポリエステルフィルムは、耐熱性、耐水性等に優れ、磁気カード、磁気ディスク、印刷材料、グラフィック材料、感光材料等に用いることができ、特に光学フィルム用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0052】
〔実施例1〕
窒素導入管、温度計、撹拌機、精留塔を付した反応器に、カルボン酸成分(B)としてナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(NDCM)229.2部(0.94モル)、ポリオール成分(A)としてビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)658.3部(1.50モル)、触媒としてジブチル錫オキサイド(DBTO)0.2部、および酢酸亜鉛0.2部を仕込み、70〜240℃に昇温し、メタノールもしくは水を留去しながら8時間反応を行なうことによりポリエステルポリオール(I)を作製した。
【0053】
続いて、200℃に冷却した後、カルボン酸無水物(C)として無水ピロメリット酸(PMAn)112.6部(0.52モル)を仕込み、溶解しながら170℃で2時間反応を行なうことにより、分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂を得た。
【0054】
〔実施例2〕
カルボン酸成分(B)として無水コハク酸(SuAn)を147.5部(1.48モル)、ポリオール成分(A)としてビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)743.3部(1.70モル)およびジエチレングリコール(DEG)31.3部(0.30モル)、カルボン酸無水物(C)として5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物(DIC社製、EPICLON B−4400)77.9部(0.30モル)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂を得た。
【0055】
〔実施例3〕
カルボン酸成分(B)としてイソフタル酸(IPA)を113.5部(0.68モル)、ポリオール成分(A)としてビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)748.8部(1.71モル)およびジエチレングリコール(DEG)3.6部(0.03モル)、カルボン酸無水物(C)として無水ピロメリット酸(PMAn)134.1部(0.61モル)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂を得た。
【0056】
〔実施例4〕
カルボン酸成分(B)としてナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(NDCM)を161.2部(0.66モル)、ポリオール成分(A)としてビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)720.8部(1.64モル)およびジエチレングリコール(DEG)2.8部(0.03モル)、カルボン酸無水物(C)として無水ピロメリット酸(PMAn)115.2部(0.53モル)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂を得た。
【0057】
〔比較例1〕<フルオレン系化合物の含有量が50モル%未満>
窒素導入管、温度計、撹拌機、精留塔を付した反応器に、カルボン酸成分(B)として無水コハク酸(SuAn)を286.9部(2.87モル)、またポリオール成分(A)としてビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)440.0部(1.00モル)とジエチレングリコール(DEG)121.7部(1.15モル)、触媒としてジブチル錫オキサイド(DBTO)0.2部、および酢酸亜鉛0.2部を仕込み、70〜240℃に昇温し、メタノールもしくは水を留去しながら8時間反応を行なうことによりポリエステルポリオール(I)を作製した。
【0058】
続いて、200℃に冷却した後、カルボン酸無水物(C)として5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物(DIC社製、EPICLON B−4400)151.5部(0.57モル)を仕込み、溶解しながら170℃で2時間反応を行なうことにより、分子末端にカルボキシル基を有するポリエステル系樹脂を得た。
【0059】
〔比較例2〕<カルボン酸無水物(C)不使用>
窒素導入管、温度計、撹拌機、精留塔を付した反応器に、カルボン酸成分(B)としてナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(NDCM)234.9部(0.96モル)とテレフタル酸ジメチル(DMT)31.3部(0.16モル)と5−スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム(SIPM)47.8g(0.16モル)を、またポリオール成分(A)としてビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)424.5部(0.97モル)とエチレングリコール(EG)130.2部(2.10モル)とジエチレングリコール(DEG)51.4部(0.48モル)を、さらに触媒としてジブチル錫オキサイド(DBTO)0.2部、および酢酸亜鉛0.2部を仕込み、70〜240℃に昇温し、メタノールもしくは水を留去しながら8時間反応を行なうことによりポリエステル系樹脂を作製した。
【0060】
〔比較例3〕<カルボン酸無水物(C)の一括仕込み>
カルボン酸成分(B)としてナフタレンジカルボン酸ジメチルエステル(NDCM)289.1部(1.18モル)とテレフタル酸ジメチル(DMT)28.8部(0.15モル)と5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物(DIC社製、EPICLON B−4400)39.1部(0.15モル)を、またポリオール成分(A)としてビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)519.6部(1.18モル)とエチレングリコール(EG)91.9部(1.48モル)とジエチレングリコール(DEG)31.4部(0.30モル)を用いた。それ以外は比較例2と同様にしてポリエステル系樹脂を作製した。得られたポリエステル系樹脂は、カルボン酸無水物(C)に相当する5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物を他のカルボン酸成分とともに一括に仕込み反応に供したため、ポリエステル系樹脂の主鎖中にカルボキシル基が組み込まれたものであり、その製造においてゲル化してしまった。
【0061】
このようにして作製したポリエステル系樹脂において、使用した各成分原料およびその使用量を下記の表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
このようにして作製されたポリエステルポリオールおよびポリエステル系樹脂の物性を下記の方法に従って測定し、その結果を後記の表2に示す。また、使用した各成分原料の配合割合(モル%)を後記の表2に併せて示す。
【0064】
〔ポリエステルポリオールの物性の測定〕
1)ポリエステルポリオールの数平均分子量
前述の測定方法に準じて測定した。
【0065】
2)ポリエステルポリオールの水酸基価
得られたポリエステルポリオールの水酸基価をJIS K0070に準拠して測定した。
【0066】
〔ポリエステル系樹脂の物性の測定〕
1)ポリエステル系樹脂の数平均分子量
前述の測定方法に準じて測定した。
【0067】
2)ポリエステル系樹脂の酸価
得られたポリエステル樹脂の酸価をJIS K0070に準拠して測定した。
【0068】
3)ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)
試験片を室温から10℃/分の割合で昇温および冷却を行ない、示差走査熱量計にて発熱量を測定し、吸熱曲線または発熱曲線に2本の延長線を引き、延長線間の1/2直線と吸熱曲線または発熱曲線の交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0069】
〔ポリエステル系樹脂水性液の調製〕
得られた各ポリエステル系樹脂を用い、つぎのようにしてポリエステル系樹脂水性液を調製した。まず、水800部を窒素導入管、温度計、撹拌機、冷却塔を付した反応器に仕込み、撹拌しながらポリエステル系樹脂150部およびブチルセロソルブ50部を投入した。投入後、内温70℃に昇温して、28%アンモニア水11.4部を添加し、内温90℃にて2時間溶解して、後記の表2に示す固形分濃度(重量%)を有するポリエステル系樹脂水性液(水分散体)を調製した。
【0070】
このようにして得られたポリエステル系樹脂水性液を用い、下記の方法に従って特性評価〔水溶解性、水溶液安定性、耐湿熱性、屈折率(D線)、アッベ数、複屈折)を行なった。その結果を後記の表2に併せて示す。
【0071】
〔水溶解性〕
実施例および比較例においてポリエステル系樹脂水性液(水分散体)を調製するに際して、ポリエステル系樹脂が水系溶媒中に充分に溶解もしくは分散した場合を○、ポリエステル系樹脂が水系溶媒中に溶解もしくは分散せず、ポリエステル系樹脂水性液(水分散体)を調製することが不可能な場合を×とした。
【0072】
〔水溶液安定性〕
後記の表2に示す固形分濃度(重量%)を有するポリエステル系樹脂水性液(水分散体)を用いて、60℃の恒温槽で1ヶ月保存した際に、相分離することなく均一状態を保持した場合を○、相分離した場合を×とした。
【0073】
〔耐湿熱性〕
実施例および比較例にて得られたポリエステル系樹脂水性液(水分散体)を塗布し乾燥(被膜厚み1μm)してなるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(易接着PETフィルム)(PETフィルムの厚み100μm)を準備した。つぎに、下記に示す配合成分からなる紫外線硬化型樹脂組成物を調製し、上記易接着PETフィルムの被膜形成面に、バーコーターを用いて硬化後の膜厚が10μmとなるように上記紫外線硬化型樹脂組成物を均一に塗布した。塗布後、80℃×3分間乾燥して塗布面より20cm高さにセットした120W/cmの照射強度を有する高圧水銀ランプを用いて紫外線を400mJ/cm2照射することにより紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させハードコート層を形成した。
【0074】
このようにして作製した試料を75℃×相対湿度90%の恒温恒湿器中に300時間放置した後、つぎに示す接着性評価を行なった。すなわち、試料にクロスカットを100個形成し、ニチバン社製のセロテープ(登録商標)を易接着PETフィルム面側に貼り付け、指で強く押し付けた後、90°方向に急速に剥離し、残存した個数により下記に示す3段階評価を行なった。そして、下記の評価での○を接着性良好とした。
○:100/100(残存個数/測定個数)
△: 80/100以上、100/100未満
×: 80/100未満
<紫外線硬化型樹脂組成物>
ハードコート用ウレタンアクリレート(日本合成化学工業社製、紫光UV−7600B)
25部
メチルエチルケトン/メチルイソブチルケトン[=1/1(混合重量比)] 75部
光重合開始剤(長瀬産業社製、イルガキュア184) 3部
【0075】
〔屈折率、アッベ数、複屈折の測定評価〕
実施例および比較例にて得られたポリエステル系樹脂水性液(水分散体)を100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、バーコーターを用いて塗工し、100℃×20分間熱風乾燥することにより測定試料(塗工乾燥膜厚約1μm)を作製した。そして、上記測定試料における光学特性〔屈折率(D線)、アッベ数、複屈折〕を、光学式薄膜測定システム(Scientific Computing international社、光学式薄膜測定システムFilmTek3000)を用いて測定した。
【0076】
【表2】

【0077】
上記結果から、実施例品は、水溶解性,水溶液安定性ともに良好な評価結果が得られ、優れた水性化特性を備えていることがわかる。さらに屈折率(D線),アッベ数,複屈折の全てにおいて適正な測定結果が得られ、高屈折率化が図られたことがわかる。
【0078】
これに対して、ポリオール成分(A)中のフルオレン系化合物の含有量が特定範囲を外れ下回る比較例1品は、水性化特性に関しては良好な結果が得られ問題はなかったが、耐湿熱性に劣り、屈折率(D線)が低く、高屈折率化が得られなかった。また、カルボン酸無水物を用いなかった比較例2品は、ポリエステル系樹脂水性液を調製するに際して水性溶媒に溶解せずポリエステル系樹脂水性液を得ることができなかった。したがって、他の測定評価を行なうことが不可能となった。そして、ポリエステルポリオールの調製にカルボン酸無水物を用い、ポリエステル系樹脂の主鎖中にカルボキシル基が組み込まれた比較例3品は、ポリエステル系樹脂の製造においてゲル化してしまった。したがって、ポリエステル系樹脂水性液を調製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のポリエステル系樹脂を水性媒体に溶解または分散してなるポリエステル系樹脂水性液は、各種基材、とりわけポリエステルフィルムへのコーティング剤、導光板のプリズム層等、光学材料に用いられる。また、上記水性液を用いて被膜が形成された被膜付フィルムは、磁気カード、磁気ディスク、印刷材料、グラフィック材料、感光材料等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)からなるポリエステル系樹脂であって、分子末端にカルボン酸無水物(C)に由来するカルボキシル基が結合してなることを特徴とするポリエステル系樹脂。
【化1】

【請求項2】
上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)からなるポリエステルポリオール(I)と、カルボン酸無水物(C)とを付加反応させてなり、上記カルボン酸無水物(C)に由来するカルボキシル基を分子末端に有することを特徴とする請求項1記載のポリエステル系樹脂。
【請求項3】
数平均分子量が300〜10000であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル系樹脂。
【請求項4】
酸価が10〜100mgKOH/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項5】
上記ポリエステルポリオール(I)の数平均分子量が300〜8000であり、水酸基価が20〜500であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項6】
カルボン酸無水物(C)の使用量が、ポリエステルポリオール(I)に対して1〜50モル%であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂を製造する方法であって、下記の一般式(1)で表されるフルオレン系化合物(A1)を50モル%以上含有するポリオール成分(A)とカルボン酸成分(B)とを共重合させてポリエステルポリオール(I)を作製した後、このポリエステルポリオール(I)にカルボン酸無水物(C)を付加反応させることにより上記ポリエステルポリオール(I)の分子末端に上記カルボン酸無水物(C)を結合させることを特徴とするポリエステル系樹脂の製法。
【化2】

【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂を水性溶媒に溶解または分散してなることを特徴とするポリエステル系樹脂水性液。

【公開番号】特開2012−7154(P2012−7154A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115336(P2011−115336)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】