説明

ポリエーテルエステルポリオールの製造法

【目的】 汎用でかつ安全性の高い原料を使用して、テトラヒドロフランとラクトンとを共重合させることによりポリエーテルエステルポリオールを得る。
【構成】 テトラヒドロフラン、ラクトンおよび多価アルコールをヘテロポリ酸の存在下に反応させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリエーテルエステルポリオールの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)をソフトセグメント成分とするポリエステル、ポリウレタン等のエラストマーは、耐加水分解性、耐熱性および低温特性に優れていることから、スパンデックスの材料などとして用いられている。しかし、PTMGをソフトセグメント成分とするエラストマーは、耐光性に欠けることから利用に制約を受ける点が多い。一方、ポリエステルポリオールをソフトセグメントとするエラストマーは、PTMGからのエラストマーと比べて耐光性などの点で優れているが、その反面、耐加水分解性や耐熱性に劣る欠点を持っている。エラストマーのソフトセグメント成分として使用した場合におけるPTMGとポリエステルポリオールの持つ上記の相互の欠点を補完し、長所を生かす方法として、テトラヒドロフラン(THF)とラクトンの共重合により得られたポリエーテルエステルポリオールのソフトセグメント成分としての利用が考えられる。しかし、THFとラクトンは重合性に大きな違いがあり、一般に共重合は困難である。例えば、THFとε−カプロラクトンとをトリエチルオキソニウムテトラフルオロボレートまたは2−メチル−1,3−ジオキソレニウムペルクロレートの存在下に反応させた場合に得られた生成物は、ポリオキシテトラメチレンブロックとポリ−ε−カプロラクトンブロックとを含むブロック性の高い、分子量分布の不均一な重合体組成物であったことが報告されている[Polymer Journal,vol.3,No.3,pp.389〜393(1972)参照]。THFとラクトンからランダム性の高い共重合体を得る方法として、THFとε−カプロラクトンを、少量のエチレンオキシド、プロピレンオキシドなどの3員環または4員環のエーテルと三フッ化ホウ素のエーテル錯体または四塩化スズとの存在下に反応させる方法が提案されている(特開昭63−178131号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記特開昭63−178131号公報に記載されたTHFとラクトンとの共重合体の製造方法は、3員環または4員環のエーテルの使用に付随する問題点を有している。すなわち、該エーテルとして無置換の3員環エーテル、すなわちエチレンオキシドを用いる方法は、エチレンオキシドが極めて高い爆発性および引火性を有することから、その取扱いに厳重な注意が必要になるために工業的には採用しがたい面がある。該エーテルとして置換基を有する3員環エーテルを用いる方法では、得られるポリエーテルエステルポリオールの分子末端の水酸基が、ウレタン化反応、エステル化反応などの反応性に劣る2級水酸基となるために、エラストマーのソフトセグメント成分を与える原料として有利に使用しうる重合体を得ることが出来ない。また、該エーテルとして4員環エーテルを用いる方法は、4員環エーテルが高価であることから工業的に不利である。
【0004】しかして本発明の目的は、汎用であり、かつ安全性の高い原料を使用して工業的に有利に、反応性に富むポリエーテルエステルポリオールを製造しうる方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、上記の目的は、THF、ラクトンおよび多価アルコールをヘテロポリ酸の存在下に反応させることを特徴とするポリエーテルエステルポリオールの製造法を提供することにより達成される。
【0006】本発明の方法で用いられるラクトンは、構造上特に限定されるものではない。ラクトンとしては、例えば、β−プロピオラクトン(PL)およびその置換体(例えばα−メチル体、β−メチル体、β,β−ジメチル体、β−エチル体などのアルキル置換体)、γ−ブチロラクトンまたはその置換体(例えばα−メチル体、β−メチル体、α,α−ジメチル体、α,β−ジメチル体、β,β−ジメチル体、α−エチル体、β−エチル体などのアルキル置換体)、δ−バレロラクトン(VL)またはその置換体(例えばα−メチル体、β−メチル体、γ−メチル体、α,α−ジメチル体、β,β−ジメチル体、γ,γ−ジメチル体、α−エチル体、β−エチル体、γ−エチル体などのアルキル置換体)、ε−カプロラクトン(CL)またはその置換体(例えばα−メチル体、β−メチル体、γ−メチル体、δ−メチル体、α,α−ジメチル体、β,β−ジメチル体、γ,γ−ジメチル体、δ,δ−ジメチル体、α−エチル体、β−エチル体、γ−エチル体、δ−エチル体などのアルキル置換体)などの、炭素数3〜10の脂肪族の環状エステルが好ましい。ラクトンとしてβ−メチル−δ−バレロラクトン(MVL)を用いて得られるポリエーテルエステルポリオールは、それをソフトセグメント成分とするエラストマーの耐加水分解性および柔軟性を特に良好とする性質を有する。
【0007】また、本発明に用いられる多価アルコールは、触媒の活性を抑制する官能基を有していなければ、構造上特に限定されるものではない。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、トリメチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール(2−MPG)、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール(1,4−BG)、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(3−MPD)、3,3−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール(1,6−HG)、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−オクタンジオールなどのアルカンジオール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタントリオール、デカントリオールなどのアルカントリオール;エリトリトール、ペンタエリトリトールなどのアルカンテトラオールなどの炭素数2〜20の多価アルコールが挙げられる。ウレタン化反応、エステル化反応などの反応に対する反応性が高く、ポリウレタン、ポリエステルなどのエラストマーのソフトセグメント成分として有利に使用しうるポリエーテルエステルポリオールを得る目的においては、EG、トリメチレングリコール、2−MPG、ネオペンチルグリコール、1,4−BG、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−MPD、3,3−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−HG、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの2個のメチロール基(−CH2OH)を有するアルカンジオールなどの2個以上のメチロール基を有する炭素数2〜10の多価アルコールを使用することが好ましい。
【0008】また、本発明に用いられるヘテロポリ酸としてはモリブデン、タングステン、バナジウムなどのポリ原子の酸化物とリン、ケイ素、ヒ素、ゲルマニウムなどのヘテロ原子のオキシ酸が縮合して生成するオキシ酸であり、かつ該ヘテロ原子に対する該ポリ原子のモル比が2.5〜12であるポリ酸またはその塩が好ましい。ヘテロポリ酸としては例えばリンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイバナジン酸、ゲルミルタングステン酸、ゲルミルモリブデン酸、ゲルミルバナジン酸、リンタングストモリブデン酸、リンタングストバナジン酸、リンモリブドバナジン酸等の縮合酸またはその塩の無水物などが挙げられる。
【0009】本発明に従う反応においては、THF、ラクトンおよび多価アルコールとして、それぞれ十分乾燥したものを用いることが望ましい。これらの原料の相対使用量は、所望とされるポリエーテルエステルポリオールの分子量および共重合組成に応じて適宜選択されるが、通常、全原料基準でTHFは10〜90重量%の範囲で、ラクトンは10〜90重量%の範囲で、多価アルコールは1〜20重量%の範囲でそれぞれ使用される。ヘテロポリ酸は、原料1重量部に対し0.1〜2重量部使用することが好ましい。
【0010】反応温度は、使用されるラクトンの重合性の高さに応じて適宜選択されるが、温度が低すぎる場合にはTHFの重合性も低くなり、また高すぎる場合には平衡転化率の低下がおこることから、通常0℃ないし100℃の範囲内から選択することが好ましい。反応時間は、特に限定されるものではないが、通常1〜20時間であり、好ましくは2〜5時間である。反応は通常、THF、ラクトンおよび多価アルコールを含む混合溶液をヘテロポリ酸と接触させることにより行われるが、各原料を独立にまたはそれらの混合液の状態で反応系に仕込むことにより、バッチ式または連続式で行うことが可能である。尚溶媒は必要ではないが、反応に悪影響を及ぼさないものであれば使用してもよい。
【0011】反応終了後は、反応混合液を静置下で触媒層と有機層とに分離させた後有機層から減圧蒸留法等の方法で未反応の原料を除去することにより、目的とするポリエーテルエステルポリオールが取得される。なお該有機層中に溶解した少量の触媒を除去するために、有機層に有機溶媒を相分離させる方法、有機層を水洗する方法、有機層を活性炭などの吸着剤と接触させて触媒を吸着除去する方法などで処理を施してもよい。
【0012】本発明で得られるポリエーテルエステルポリオールは、ウレタン、ポリエステルなどのエラストマーのソフトセグメント成分を形成するための原料物質として有用である。該ポリエーテルエステルポリオールから形成されたソフトセグメント成分を分子中に有するエラストマーは、良好な耐加水分解性、耐熱性、低温特性および耐光性を発揮しうる。
【0013】
【実施例】次に本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。なお、次に示す例はいかなる場合も本発明を限定するものではない。実施例に示す数平均分子量は、無水フタル酸法によって求められた水酸基価に基づく。共重合組成比は、生成ポリマーの1H−NMR測定により求めた。結晶融解温度および結晶融解エンタルピーは、示差走査熱量測定装置を用いて測定した。
【0014】実施例1かくはん装置、温度計および滴下漏斗を付け、窒素シールした1リットル三口フラスコに、無水のリンタングステン酸(H3PW1240)100gを仕込み、かくはんしながらTHF200g、β−メチル−δ−バレロラクトン(MVL)47.5gおよびエチレングリコール(EG)6.5gからなる混合溶液を添加した。60℃で3時間反応させた後、トルエン100mlおよびn−オクタン100mlを加えて静置し、相分離した有機層を分取した。分取した有機層に活性炭5.0gを加え、50℃で1.5時間かくはんすることにより残存触媒を活性炭に吸着させた。次にアルミナを用いて混合物を濾過した。得られた濾液からTHF、トルエンおよびn−オクタンを減圧下に留去し、続けて残留物を薄膜蒸留することにより未反応のラクトンを留去しポリエーテルエステルジオールを得た。得られたポリエーテルエステルジオールの収量および分析結果は表1に示すとおりである。
【0015】
【表1】


【0016】実施例2〜8表2に示した仕込組成で原料および触媒を用い反応時間を4時間に変更した以外は、実施例1と同様の操作により反応を行った。得られたポリエーテルエステルジオールの収量、数平均分子量、共重合組成および結晶融解温度は、表3に示すとおりである。
【0017】比較例1表2に示すようにEGを用いずかつ反応時間を4時間に変更した以外は実施例1と同様の操作により反応を実施した。得られた重合物は、表3に示すとおり高分子量となり、しかもほとんどラクトンに由来する単位[−O(CH22CH(CH3)CH2CO−]のみから構成されていた。
【0018】比較例2表2に示すとおり無水のリンタングステン酸100gの代わりに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体14gを触媒として用いた以外は、実施例6と同様の操作により反応を実施した。得られた重合体は表3に示すとおり、実質的にラクトンに由来する単位[−O(CH25CO−]と多価アルコールに由来する単位[−OCH2CH2−]のみから構成されていた。
【0019】
【表2】


【0020】
【表3】


【0021】
【発明の効果】本発明の方法を用いれば、汎用でかつ安全性の高い多価アルコールを原料の1つとして用いて、テトラヒドロフランとラクトンを共重合させることができる。従って、本発明によれば、ポリエーテルエステルポリオールの工業的に有利な製造法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 テトラヒドロフラン、ラクトンおよび多価アルコールをヘテロポリ酸の存在下に反応させることを特徴とするポリエーテルエステルポリオールの製造法。