説明

ポリオレフィン微多孔膜、非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池

【課題】耐熱性多孔質層と複合化した場合にも、優れたイオン伝導度および機械強度が得られ、かつ、電解液の液枯れを防止可能なポリオレフィン微多孔膜を提供すること。
【解決手段】フィブリル径が40〜100nmであり、微多孔径が50〜100nmであり、膜抵抗から算出した曲路率が1.4〜1.8であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜に関わるものであり、特に非水系二次電池の安全性および電池特性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極にコバルト酸リチウムに代表されるリチウム含有遷移金属酸化物、負極にリチウムをドープ・脱ドープ可能な炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池を代表とする非水系二次電池は、高エネルギー密度を有するという特徴から携帯電話に代表される携帯電子機器の電源として重要なものであり、これら携帯電子機器の急速な普及に伴いその需要は高まる一方である。
【0003】
また、ハイブリッド自動車など、環境対応を意識した自動車が数多く開発されているが、搭載される電源の一つとして、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が大きく注目されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の多くは、正極、電解液を含むセパレータ、負極の積層体から構成されている。セパレータは、主たる機能として正極と負極の短絡防止を担っているが、要求特性として、リチウムイオンの移動度、強度、耐久性などがある。
【0005】
現在、リチウムイオン二次電池セパレータ用途に適するフィルムとして各種のポリオレフィン微多孔膜が数多く提案されている。ポリオレフィン微多孔膜は、上述にある要求特性を満たし、かつ高温時の安全機能として、高温による孔の閉塞から電流を遮断する事による熱暴走防止機能、いわゆるシャットダウン機能を有している事もあり、リチウムイオン二次電池のセパレータとして幅広く使用されている。
【0006】
しかしながら、温度上昇により微多孔膜の孔が閉塞されて電流が一旦遮断されても、電池温度が微多孔膜を構成するポリエチレンの融点を超えて、ポリエチレンの耐熱性の限界を超えると、微多孔膜自体が溶融してシャットダウン機能が失われる。その結果、電極間の短絡をきっかけとして電池の熱暴走がおこり、リチウムイオン二次電池を組み込んだ装置の破壊や、発火による事故発生などを招くおそれがある。このため、さらなる安全性確保のために、高温時でもシャットダウン機能を維持できるセパレータが求められている。
【0007】
そこで、特許文献1には、ポリエチレン微多孔膜の表面に、全芳香族ポリアミド等の耐熱性ポリマーからなる耐熱性多孔質層を被覆した非水系二次電池用セパレータが提案されている。また、特許文献2には、耐熱性多孔質層中にアルミナ等の無機微粒子を含ませて、シャットダウン機能に加えて耐熱性の向上を図った構成が示されている。また、特許文献3には、耐熱性多孔質層中に水酸化アルミニウム等の金属水酸化物粒子を含ませて、シャットダウン機能および耐熱性に加えて難燃性の向上を図った構成が示されている。これらの構成はいずれも、シャットダウン機能と耐熱性を両立させた点において、電池の安全性という観点において優れた効果が期待できる。
【0008】
しかし、非水系二次電池用セパレータはポリオレフィン微多孔膜を耐熱性多孔質層でコーティングするという構造のため、セパレータのイオン伝導度を良好に保つには、ポリオレフィン微多孔膜には、優れたイオン伝導度が求められていた。しかし、イオン伝導度を向上させるため、ポリオレフィン微多孔膜を薄くすると、ポリオレフィン微多孔膜の機械強度が低下し、結果として非水系二次電池用セパレータの機械強度が低下するという問題があった。
【0009】
ところで、リチウムイオン電池の高容量化という点では、近年、様々な高容量タイプの正極材料や負極材料の開発が行われている。しかし、このような高容量タイプの正・負極材料には、充放電時における体積変化が大きなものが多く存在するため、電極の大きな体積変化によって電池特性が低下してしまうといった問題が生じてくる。
【0010】
すなわち、セパレータは、電池内においては正極と負極の間に配置されているため、電池の充放電が行われた場合、電極の膨張・収縮によってセパレータの厚み方向に圧縮力や回復力が作用する。従来のコバルト酸リチウムやハードカーボンなどの低容量タイプの正負極材料の場合は、電極の体積変化が小さいため、セパレータの厚み方向への変形も小さく、電池特性への影響も特にはない。ところが、高容量タイプの正・負極活物質など、充放電時における体積変化率が大きい電極材料を用いた場合、電極からセパレータに与えられる作用力も大きくなる。そして、電極の体積変化にセパレータが追随できず、セパレータの多孔質構造が圧縮された状態から回復できなくなると、セパレータの空孔内に十分な量の電解液が保持されなくなると言った、いわゆる液枯れの問題が発生するおそれがある。この液枯れ現象は、結果として電池の繰り返し充放電特性(サイクル特性)を低下させてしまうおそれがある。
【0011】
この液枯れの問題を解決するために、ポリオレフィン微多孔膜の弾性等の物性を制御することが考えられるが、上述したようにポリオレフィン微多孔膜には良好なイオン伝導度と機械強度も求められており、ポリオレフィン微多孔膜の一方の物性を制御すれば必然的に他の物性にも影響が生じてくる。よって、これらの諸特性をバランス良く向上できる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−209570号公報
【特許文献2】国際公開第2008/062727号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/156033号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、耐熱性多孔質層と複合化した場合にも、優れたイオン伝導度および機械強度が得られ、かつ、電解液の液枯れを防止可能なポリオレフィン微多孔膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の構成により解決可能である事を見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、フィブリル径が40〜100nmであり、微多孔径が50〜100nmであり、膜抵抗から算出した曲路率が1.4〜1.8であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜である。
【0016】
また、本発明は前記ポリオレフィン微多孔膜を耐熱性多孔質層で被覆した非水系二次電池用セパレータである。また、本発明はリチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、前記非水系二次電池用セパレータを用いたことを特徴とする非水系二次電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性多孔質層と複合化した場合にも、優れたイオン伝導度および機械強度が得られ、かつ、電解液の液枯れを防止可能なポリオレフィン微多孔膜を提供することができる。このような本発明のポリオレフィン微多孔膜あるいはこれを用いた非水系二次電池用セパレータによれば、非水系二次電池の安全性および電池特性を向上させる事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
[ポリオレフィン微多孔膜]
本発明のポリオレフィン微多孔膜において、微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を言う。
【0019】
本発明で用いられるポリオレフィン微多孔膜の原料としては、ポリオレフィン、すなわち例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びその共重合体等が挙げられる。中でもポリエチレンが好ましく、より好ましくは高密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物が、強度、耐熱性等の観点から好ましい。ポリエチレンの分子量は重量平均分子量で50万〜500万のものが好適であり、重量平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレンを1重量%以上含むポリエチレンの組成物が特に好ましい。さらに、重量平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレンを10〜90重量%含むポリエチレン組成物が好適である。また、高密度ポリエチレンの密度は0.942g/cm(JIS K 6748−1981)以上であることが好ましい。なお、本発明で用いるポリオレフィン微多孔膜は、90重量%以上がポリオレフィンからなるものであればよく、10重量%以下の電池特性に影響を与えない他の成分を含んでいても構わない。
【0020】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、フィブリル径が40〜100nm、微多孔径が50〜100nm、膜抵抗から算出した曲路率が1.4〜1.8である。フィブリル径、微多孔膜、曲路率がこの範囲にある時、本発明のポリオレフィン微多孔膜を使用した非水系二次電池用セパレータのイオン伝導度と機械強度のバランスがとれたものとなる。また、このポリオレフィン微多孔膜は、適度な多孔質構造を有することにより、充放電の電極の体積変化よって生じる繰り返し変形に対して孔形状が十分に回復するため、電解液の液枯れを防止することができる。
【0021】
フィブリル径が40nm未満の場合、フィブリル1本の機械強度が低いものとなり、結果としてポリオレフィン微多孔膜の機械強度が低下し、好ましくない。逆にフィブリル径が100nmを越える場合、ポリオレフィン微多孔膜の微多孔の孔径が同時に大きくなり、機械強度が低下する傾向にあり、好ましくない。なお、フィブリル径としては、50〜80nmであるとより好ましい。
【0022】
微多孔径が50nm未満の場合、電解液の移動度が低下し、電池特性が低下する傾向にあり好ましくない。逆に微多孔径が100nmを越える場合、ポリオレフィン微多孔膜の機械強度が低下する傾向にあり、好ましくない。なお、微多孔径としては、60〜100nmであるとより好ましい。
【0023】
ここで、本発明におけるフィブリル径は、ポリオレフィン微多孔膜の全構成が円柱状のフィブリルであると仮定して、また本発明における微多孔径は、細孔の構造が全て円柱状であると仮定して下記の通り算出する。
【0024】
フィブリル繊維質の全体積をVs1、全細孔体積をVs2とする。フィブリルの直径をRs1、円柱状孔の直径をRs2とするとし、フィブリル全長をLs1、円柱状孔全長をLs2とすると、下記式(i)〜(v)が成り立つ。
Ss・Ws=πRs1・Ls1=πRs2・Ls2 … (i)
s1=π(Rs1/2)・Ls1 … (ii)
s2=π(Rs2/2)・Ls2 … (iii)
s2=ε・(Vs1+Vs2) … (iv)
s1=Ws/ds … (v)
ここで、Ssは比表面積(m/g)、Wsは目付(g/m)、εは空孔率(%)、dsは真密度(g/cm)である。
【0025】
上記(i)〜(v)の式からRs1(フィブリル径)とRs2(微多孔径)を求めることができる。
【0026】
なお、比表面積は、例えば以下に示すガス吸着法で得られたN吸着量から下記のBET式を用いて求めることができる。(JIS Z 8830に準じた方法)
1/[W・{(P/P)−1}]={(C−1)/(Wm・C)}(P/P)(1/(Wm・C) … BET式
ここで、Pは吸着平衡における吸着質の気体の圧力、Pは吸着平衡における吸着質の飽和蒸気圧、Wは吸着平衡圧Pにおける吸着量、Wmは単分子吸着量、CはBET定数である。上記のガス吸着法による比表面積測定法(以下「BET法」と称することがある。)
x軸を相対圧力P/P、y軸を1/[W・{(P/P)−1}]としてプロット(BETプロット)すると線形となる。このプロットにおける傾きをA、切片をBとすると、単分子吸着量Wmは以下の式となる。
【0027】
Wm=1/(A+B)
次いで、比表面積Sは下記式により求まる。
【0028】
Ss=(Wm・N・Acs・M)/w
ここで、Nはアボガドロ数、Mは分子量、Acsは吸着断面積、wはサンプル重量である。例えばNの場合、吸着断面積は0.16nmである。
【0029】
本発明において、曲路率は、微多孔の一方の面から反対側の面へ貫通する流路の長さと膜厚の比を示す。曲路率の計算方法にはいくつかの方法があるが、具体的には例えば膜抵抗から計算する方法や、比表面積から計算する方法が挙げられる。電池特性を考慮する際は、膜抵抗から計算する方法が望ましい。曲路率が1.4未満の場合、微多孔膜の一方の面から反対側の面まで、ほぼ直線的に微多孔が貫通している事になり、短絡の可能性が高まり、好ましくない。逆に曲路率が1.8を超える場合、電解液の移動度が低下し、電池特性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0030】
さらに、Kozeny‐Carman式から算出した曲路率と膜抵抗から算出した曲路率の比は1.3〜1.6が好ましい。Kozeny−Carmanの式から計算する曲路率は、フィブリル径、比表面積等を用いて求めるが、微多孔膜の一方の面から反対側の面までの平均経路を示す。それに対し、膜抵抗から計算する曲路率は微多孔膜の一方の面から反対側の面までの最短経路を示す。これは微多孔膜を貫通する微多孔同士で結合している部分があり、膜抵抗すなわちイオン伝導度は最短経路で測定されるためである。曲路率の比が1.3未満の場合、平均経路と最短経路が近い長さである事を意味し、優れたイオン伝導を得難い傾向がある。逆に曲路率の比が1.6を超える場合、経路のショートパスが非常に多い事を意味し、機械強度の低下の可能性があり、好ましくない場合がある。
【0031】
なお、これらのフィブリル径、微多孔径および曲路率を制御する方法に特に限定は無いが、具体的には例えばポリオレフィン微多孔膜の延伸条件の制御、原料に用いるポリオレフィンの分子量や分岐構造の制御、微多孔膜の空孔率の制御、以下において説明するゲル状組成物の乾燥工程におけるフィルムの引取比を制御すること等が挙げられる。基本的には、分子量を高くするほど、分岐構造を長くするほど、延伸条件を強くするほど、空孔率を上げるほど、フィブリル径、微多孔径は大きくなる傾向にある。
【0032】
なお、本発明に近い構成として、従来、平均フィブリル径が40〜80nm、細孔の平均孔径が15〜50nm、曲路率が1.2〜1.8であるポリオレフィン微多孔膜が開示されている(特開2010−53245号参照)。しかし、この従来技術は、本発明のように耐熱性多孔質層と複合化することや、電解液の液枯れ防止については全く考慮がされていない。また、上記従来技術は細孔の平均孔径が15〜50nmであって、本発明の微多孔径50〜100nmよりも小さい孔径となっている点でも、相違している。
【0033】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、非水系二次電池のエネルギー密度、負荷特性、機械強度およびハンドリング性の観点から、5〜25μmであることが好ましい。
【0034】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、透過性、機械強度およびハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。更に好ましくは、40%〜60%である。
【0035】
本発明のポリオレフィン微多孔膜のガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗をバランス良く得るという観点から、50〜500sec/100ccであることが好ましい。
【0036】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗は、非水系二次電池の負荷特性の観点から、0.5〜5ohm・cmであることが好ましい。
【0037】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は300g以上であることが好ましい。300gを下回ると、非水系二次電池を作成した場合、電極の凹凸や衝撃等でセパレータにピンホール等が発生し、非水系二次電池が短絡する可能性が高くなるため、好ましくない場合がある。
【0038】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の引張強度は10N以上であることが好ましい。10Nを下回ると、非水系二次電池を作成する時にセパレータを捲回する際に、セパレータが破損する可能性が高くなるため、好ましくない場合がある。
【0039】
本発明のポリオレフィン微多孔膜のシャットダウン温度は130〜150℃であることが好ましい。シャットダウン温度は、抵抗値が10ohm・cmとなった温度を差す。シャットダウン温度が130℃より小さい場合、シャットダウン現象が低温で発現するのと同じく、ポリオレフィン微多孔膜が完全溶融し短絡現象が発生するメルトダウンと呼ばれる現象も低温で発生する事になり、安全上好ましくない場合がある。また、シャットダウン温度が150℃より大きいと、高温時の十分な安全機能が期待できず、好ましくない場合がある。好ましくは135〜145℃である。
【0040】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の105℃における熱収縮率は5〜40%以下であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にある時、ポリオレフィン微多孔膜を加工して得た非水系二次電池用セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがとれたものとなる。
【0041】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造法]
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製造法に、特に制限は無いが、具体的には下記(1)〜(6)の工程を経て製造することが好ましい。なお、原料に用いるポリオレフィンについては上述のとおりである。
(1)ポリオレフィン溶液の調整
ポリオレフィンを溶剤に溶解させた溶液を調整する。この時、溶剤を混合して溶液を作成しても構わない。溶剤としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。ポリオレフィン溶液の濃度は1〜35重量%が好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1重量%未満では、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤されるため変形し易く、取扱いに支障をきたす場合がある。一方、35重量%を超えると押し出しの際の圧力が高くなるため吐出量が低くなり生産性が上げられない場合があり、また押し出し工程での配向が進み、延伸性や均一性が確保できなくなる場合がある。
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調整した溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出した溶液をチルロールまたは冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くこともできる。特に、溶媒として揮発性溶媒と不揮発性溶媒を組合せて用いた場合において、フィブリル径、微多孔径および曲路率を制御するという観点では、ゲル状組成物を加熱する際に、フィルムの引取比を1〜5倍にすることが好ましい。一方、不揮発性溶媒の場合は圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお溶媒は完全に除く必要はない。
(4)ゲル状組成物の延伸
脱溶媒処理に次いで、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行っても良い。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時または逐次のどちらであってもよい。また縦多段延伸や3、4段延伸とすることもできる。
延伸温度は、90℃〜ポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点を越える場合は、ゲル状成形物が溶解するために延伸できない。又、加熱温度が90℃未満の場合は、ゲル状成形物の軟化が不十分で延伸において破膜し易く高倍率の延伸が困難となる場合がある。
また、延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行うことが好ましい。特に、結晶パラメータを制御するという観点では、延伸倍率が機械方向に4〜10倍、また機械垂直方向に6〜15倍であることが好ましい。
延伸後、必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライドなどの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類など易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤はポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、微多孔膜中の溶媒を1重量%未満に迄除去する。
(6)微多孔膜のアニール
微多孔膜をアニールにより熱セットする。アニールは80〜150℃で実施する。本発明においては、所定の熱収縮率を有するという観点から、アニール温度が115〜135℃であることが好ましい。
【0042】
[非水系二次電池用セパレータ]
本発明の非水系二次電池用セパレータは、上述したポリオレフィン微多孔膜と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に積層された耐熱性多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータであることを特徴とする。
【0043】
このような本発明の非水系二次電池用セパレータによれば、ポリオレフィン微多孔膜によりシャットダウン機能が得られると共に、耐熱性多孔質層によりシャットダウン温度以上の温度においてもポリオレフィンが保持されるため、メルトダウンが生じ難く、高温時の安全性を確保できる。従って、本発明のセパレータによれば、安全性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
【0044】
本発明の非水系二次電池用セパレータは、非水系二次電池のエネルギー密度の観点から、全体の膜厚が30μm以下であることが好ましい。
【0045】
本発明の非水系二次電池用セパレータの空孔率は、透過性、機械強度およびハンドリング性の観点から、30〜70%であることが好ましい。更に好ましくは、40%〜60%である。
【0046】
本発明の非水系二次電池用セパレータのガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスが良くなるという観点から、100〜500sec/100ccであることが好ましい。
【0047】
本発明の非水系二次電池用セパレータの膜抵抗は、非水系二次電池の負荷特性の観点から、1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。
【0048】
本発明の非水系二次電池用セパレータの突刺強度は250〜1000gであることが好ましい。突刺強度が250g未満の場合、非水系二次電池を作成した場合、電極の凹凸や衝撃等でセパレータにピンホール等が発生し、非水系二次電池が短絡する可能性があり好ましくない場合がある。
【0049】
本発明の非水系二次電池用セパレータの引張強度は10N以上であることが好ましい。10N未満の場合、非水系二次電池を作成する時にセパレータを捲回する際に、セパレータが破損する可能性が高くなるため、好ましくない場合がある。
【0050】
本発明の非水系二次電池用セパレータのシャットダウン温度は130〜155℃であることが好ましい。シャットダウン温度が130℃未満の場合、メルトダウンが低温で発生する事になり、安全上好ましくない場合がある。また、シャットダウン温度が155℃より大きい場合、高温時の十分な安全機能が期待できず、好ましくない場合がある。好ましくは135〜150℃である。
【0051】
本発明の非水系二次電池用セパレータの105℃における熱収縮率は0.5〜10%であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にある時、非水系二次電池用セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがとれたものとなる。更に好ましくは0.5〜5%である。
【0052】
[耐熱性多孔質層]
本発明において、耐熱性多孔質層としては、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットーワーク状の多孔質構造を有した層を挙げることができるが、より優れた耐熱性が得られる点で、微多孔膜状の層であることが好ましい。ここで、微多孔膜状の層とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層のことを言う。
【0053】
本発明で用いられる耐熱性樹脂は、融点200℃以上のポリマー、あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマーが適当である。このような耐熱性樹脂の好ましい例としては、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドおよびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。特に、耐久性の観点から全芳香族ポリアミドが好適であり、多孔質層を形成しやすく耐酸化還元性に優れるという観点から、メタ型全芳香族ポリアミドであるポリメタフェニレンイソフタルアミドがさらに好適である。
【0054】
本発明において、耐熱性多孔質層はポリオレフィン微多孔膜の両面または片面に形成すればよいが、ハンドリング性、耐久性および熱収縮の抑制効果の観点から、基材の表裏両面に形成した方が好ましい。なお、耐熱性多孔質層を基材上に固定するためには、耐熱性多孔質層を塗工法により基材上に直接形成する手法が好ましいが、これに限らず、別途製造した耐熱性多孔質層のシートを基材上に接着剤等を用いて接着する手法や、熱融着や圧着などの手法も採用することができる。
【0055】
本発明において、耐熱性多孔質層の厚みについては、耐熱性多孔質層が基材の両面に形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であることが好ましく、耐熱性多孔質層が基材の片面にのみ形成されている場合は耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。このような膜厚の範囲は、液枯れの防止効果の観点からも好ましい。
【0056】
本発明において、耐熱性多孔質層の空孔率は、液枯れの防止効果の観点から、30〜90%の範囲が好適である。より好ましくは30〜70%である。
【0057】
[無機フィラー]
本発明において、耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることが好ましい。無機フィラーとしては、特に限定はないが、具体的にはアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの金属酸化物、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物などが好適に用いられる。このような無機フィラーは、不純物の溶出や耐久性の観点から結晶性の高いものが好ましい。
【0058】
中でも、無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものであるものが好ましい。この様な特性を有する無機フィラーとして、特に限定されないが、金属水酸化物、硼素塩化合物または粘土鉱物等からなる無機フィラーであって、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられ、これらは単独若しくは2種以上を組合せて用いることができる。また、これらの難燃性の無機フィラーには、アルミナやジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭酸塩などの他の無機フィラーを適宜混合して用いることもできる。
【0059】
ここで、非水系二次電池では、正極の分解に伴う発熱が最も危険と考えられており、この分解は300℃近傍で起こる。このため、吸熱反応の発生温度が200℃〜400℃の範囲であれば、非水系二次電池の発熱を防ぐ上で有効である。例えば、水酸化アルミニウムやドーソナイト、アルミン酸カルシウムは200〜300℃の範囲において脱水反応が起こり、また、水酸化マグネシウムや硼酸亜鉛は300〜400℃の範囲において脱水反応が起こるため、これらの無機フィラーのうち少なくともいずれか一種を用いることが好ましい。
【0060】
特に本発明では、無機フィラーは難燃性の向上効果、ハンドリング性、除電効果、電池の耐久性の改善効果の観点から、金属水酸化物からなることが好ましい。中でも水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0061】
本発明において、無機フィラーの平均粒子径は、高温時の耐短絡性や成形性等の観点から、0.1〜2μmの範囲が好ましい。
【0062】
本発明において、耐熱性多孔質層における無機フィラーの含有量は、耐熱性向上効果、透過性およびハンドリング性の観点から、50〜95重量%であることが好ましい。
【0063】
なお、耐熱性多孔質層中の無機フィラーは、耐熱性多孔質層が微多孔膜状である場合は耐熱性樹脂に捕捉された状態で存在しており、耐熱性多孔質層が不織布等の場合は構成繊維中に存在するか、樹脂などのバインダーにより不織布表面等に固定されていればよい。
【0064】
[耐熱性多孔質層の製造法]
本発明において、非水系二次電池用セパレータの製造法は、上述した構成の本発明のセパレータが製造できれば特に限定されないが、例えば下記(1)〜(5)の工程を経て製造することが可能である。
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定は無いが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、当該溶剤はこれらの極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9重量%が好ましい。また必要に応じ、これに無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤などで表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。この中でも、塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。基材の両面に同時に塗工する場合は、例えば、基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
(3)スラリーの凝固
スラリーが塗工された基材を、前記耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理する。塗工用スラリーを塗工した基材を、当該耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性多孔質層を形成する。凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した基材に対して凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、当該基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。凝固液としては、当該耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、または、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80重量%が好適である。水の量が40重量%より少ないと、耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間が長くなったり、凝固が不十分になったりという問題が生じる。また、水の量が80重量%より多いと、溶剤回収においてコスト高となったり、凝固液と接触する表面の凝固が速くなりすぎて表面が十分に多孔化されなかったりという問題が生じる。
(4)凝固液の除去
凝固液を水洗することによって除去する。
(5)乾燥
シートから水を乾燥して除去する。乾燥方法は特に限定は無いが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0065】
[非水系二次電池]
本発明の非水系二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、上述した構成の非水系二次電池用セパレータを用いたことを特徴とする。非水系二次電池は、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっている。
【0066】
負極は、負極活物質、導電助剤およびバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金などが挙げられる。特に本発明のセパレータによる液枯れ防止効果を活かすという観点では、負極活物質としてはリチウムを脱ドープする過程における体積変化率が3%以上となるものを用いることが好ましい。かかる負極活物質としては、例えばSn、SnSb、AgSn、人造黒鉛、グラファイト、Si、SiO、V等が挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などを用いることが可能である。
【0067】
正極は、正極活物質、導電助剤およびバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。特に本発明のセパレータによる液枯れ防止効果を活かすという観点では、正極活物質としてはリチウムを脱ドープする過程における体積変化率が1%以上となるものを用いることが好ましい。かかる正極活物質としては、例えばLiMn、LiCoO、LiNiO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔などを用いることが可能である。
【0068】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClOなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0069】
外装材は、金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0071】
[測定方法]
本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの膜厚は、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
【0072】
(2)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの目付は、サンプルを10cm×10cmに切り出し重量を測定する。この重量を面積で割ることで1m当たりの重量である目付を求めた。
【0073】
(3)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの空孔率は、下記式から求めた。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、ε:空隙率(%)、Ws:目付(g/m)、ds:真密度(g/cm)、t:膜厚(μm)である。
【0074】
(4)ポリオレフィン微多孔膜のフィブリル径及び微多孔径は以下の方法で求めた。
ポリオレフィン微多孔膜のBET比表面積は、JIS K 8830に準じて測定を行った。具体的にはNOVA−1200(ユアサアイオニクス社製)を用い、窒素ガス吸着法より解析し求めた。測定の際のサンプル重量は0.1〜0.15gとした。解析は3点法にて実施し、BETプロットから比表面積Ss(m/g)を求めた。
また、孔径はフィブリル繊維質の全体積をVs、全細孔体積をVsとし、フィブリルの直径をRs、孔径をRsとし、フィブリル全長Ls、円柱状孔全長をLsとすると、下記式(i)〜(v)が成り立つ。
Ss・Ws=πRs・Ls=πRs・Ls ・・・(i)
Vs=π(Rs/2)・Ls ・・・(ii)
Vs=π(Rs/2)・Ls ・・・(iii)
Vs=ε・(Vs+Vs) ・・・(iv)
Vs=Ws/ds ・・・(v)
ここで、Ss:比表面積(m/g)、Ws:目付(g/m)、ε:空孔率(%)、ds:比重(g/cm)である。
上記(i)〜(v)の式からRs、Rsを求める事ができる。
【0075】
(5)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータのガーレ値はJIS P8117に従って求めた。
【0076】
(6)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの膜抵抗は、以下の方法で求めた。
まず、サンプルを2.6cm×2.0cmのサイズに切り出す。非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾する。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出しリードタブを付ける。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出したサンプルをアルミ箔が短絡しないように挟む。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)を含浸させる。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入する。このようなセルをアルミ箔中にセパレータが1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製する。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定する。測定されたセルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し傾きを求める。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
【0077】
(7)ポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗から計算した曲路率τionは、下記式から求めた。
τion={(Rm・ε)/(ρ・t)}(1/2)
ここで、上記式において、Rm:膜抵抗(ohm・cm)、ε:空孔率(%)、ρ:電解液の比抵抗(ohm・cm)、t:膜厚(μm)である。電解液には1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)(キシダ化学社製)を20℃で用いているが、この場合のρは2.663×10−2ohm・cmである。
【0078】
(8)ポリオレフィン微多孔膜のKozeny−Carmanの式から計算した曲路率τKCは、下記式から求めた。
k=[4×ε/(300×π×Rs×Ss)]×τKC
ここで、上記式において、k:Kozeny−Carman係数(5を用いる)、ε:空孔率(%)、Rs:フィブリル径、Ss:比表面積(m/g)である。
【0079】
(9)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの突刺強度は、カトーテック社製KES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重を突刺強度とした。ここでサンプルは直径11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
【0080】
(10)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの引張強度は、10×100mmに調整したサンプルを引張試験機(A&D社製、RTC−1225A)を用い、ロードセル荷重5kgf、チャック間距離50mmの条件で測定した。
【0081】
(11)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータのシャットダウン温度は、以下の方法で求めた。
サンプルを直径19mmに打ち抜き、非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾した。サンプルを直径15.5mmのSUS板に挟んだ。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)(キシダ化学社製)を含浸させた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定した。抵抗値が10ohm・cm以上となった温度をシャットダウン温度とした。
【0082】
(12)非水系二次電池用セパレータの耐熱性は、上記(11)のシャットダウン温度を測定した際に、シャットダウンが発現してからセル温度が200℃になるまでに、抵抗値が10ohm・cm以上を維持し続けるかどうかにより評価した。抵抗値が10ohm・cm以上を維持し続ければ耐熱性が良好(〇)と判断し、抵抗値が10ohm・cmを下回れば耐熱性が不良(×)と判断した。
【0083】
(13)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの熱収縮率は、サンプルを105℃で1時間加熱することによって測定した。
【0084】
(14)ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの液枯れ防止効果は、以下の加圧回復率を測定して評価した。
まず、サンプル2.6cm×2.0cmのサイズに切り出した。非イオン性界面活性剤(花王社製;エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液に、切り出したサンプルを浸漬し、風乾した。厚さ20μmのアルミ箔を、2.0cm×1.4cmに切り出しリードタブを付けた。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出したセパレータを、アルミ箔が短絡しないように挟んだ。電解液には、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートが1対1の重量比で混合された溶媒中にLiBFを1M溶解させたものを用い、この電解液を上記サンプルに含浸させた。これをアルミラミネートパック中に、タブがアルミパックの外に出るようにして減圧封入した。このセルの抵抗を交流インピーダンス法で、振幅10mV、周波数100kHzにて測定し、加圧前の抵抗値(A)(ohm・cm)を求めた。次にこのセルを平板プレス機で40MPaとなるように5分間加圧し、続いて圧力を開放した。この操作を5回繰り返し、加圧後圧力を開放したセルの抵抗値(B)(ohm・cm)を測定した。そして、下式により加圧回復率を求めた。なお、加圧回復率が高いほど、液枯れ防止効果に優れているといえる。
加圧回復率=抵抗値(B)/抵抗値(A)×100(%)
【0085】
[実施例1]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製GUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を3:7(重量比)となる様にして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製スモイルP−350:沸点480℃)とデカリン(和光純薬社製、沸点193℃)の混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:67.5:2.5(重量比)である。
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥した。この際、ベーステープの乾燥中の引取比は1倍とした。この後、該ベーステープを縦延伸、横延伸を逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸6倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率9倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に135℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリオレフィン微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し、細孔を構成する構造を有するものであった。
得られたポリオレフィン微多孔膜の特性(膜厚、目付、空孔率、ガーレ値、膜抵抗、フィブリル径、孔径、膜抵抗から算出した曲路率(τion)、Kozeny‐Carman式から算出した曲路率(τKC)、曲路率の比(τKC/τion)、突刺強度、引張強度、シャットダウン(SD)温度、熱収縮率、加圧回復率)の測定結果を表1に示す。なお、以下の実施例2および比較例1,2についても同様に表1に示す。
【0086】
[実施例2]
ゲル状ベーステープの乾燥中の引取比を5倍とした以外、実施例1と同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0087】
[比較例1]
ポリエチレン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=20:80:0(重量比)とし、ゲル状ベーステープの乾燥中の引取比を8倍とした以外、実施例1と同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0088】
[比較例2]
ポリエチレン溶液の組成をポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=20:20:60(重量比)とし、ゲル状ベーステープの乾燥中の引取比を8倍とした以外、実施例1と同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0089】
【表1】

【0090】
[実施例3]
実施例1で得られたポリオレフィン微多孔膜を用い、これに耐熱性樹脂と無機フィラーからなる耐熱性多孔質層を積層させて、本発明の非水系二次電池用セパレータを製造した。
具体的に、耐熱性樹脂として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製、コーネックス)を用いた。この耐熱性樹脂を、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に溶解させた。このポリマー溶液に、無機フィラーとしての水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キスマ−5P、平均粒子径1.0μm)を分散させて、塗工用スラリーを作製した。なお、塗工用スラリーにおけるポリメタフェニレンイソフタルアミドの濃度は5.5重量%となるようにし、かつ、ポリメタフェニレンイソフタルアミドと無機フィラーの重量比は25:75となるように調整した。そして、マイヤーバーを2本対峙させ、その間に塗工液を適量のせた。この後、ポリオレフィン微多孔膜を、塗工液がのっているマイヤーバー間を通過させて、ポリオレフィン微多孔膜の表裏面に塗工液を塗工した。ここで、マイヤーバー間のクリアランスは20μmに設定し、マイヤーバーの番手は2本とも#6を用いた。これを重量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬し、次いで水洗・乾燥を行った。これにより、ポリオレフィン微多孔膜の表裏両面に耐熱性多孔質層が形成された非水系二次電池用セパレータを得た。
得られた非水系二次電池用セパレータの特性(膜厚、目付、空孔率、ガーレ値、膜抵抗、突刺強度、引張強度、シャットダウン温度、耐熱性、熱収縮率、加圧回復率)の測定結果を表2に示す。なお、以下の実施例4〜9および比較例3,4についても同様に、表2に示す。
【0091】
[実施例4]
ポリオレフィン微多孔膜として実施例2で作製したものを使用した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0092】
[実施例5]
実施例3において、マイヤーバー間のクリアランスを7μmに設定した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0093】
[実施例6]
実施例3において、DMAcとTPGの混合比を40:60(重量比)にし、マイヤーバー間のクリアランスを60μmに設定し、凝固液の組成を水:DMAc:TPG=50:30:20に調整した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0094】
[実施例7]
実施例3において、DMAcとTPGの混合比を40:60(重量比)にし、マイヤーバー間のクリアランスを75μmに設定し、凝固液の組成を水:DMAc:TPG=50:30:20に調整した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0095】
[実施例8]
実施例3において、DMAcとTPGの混合比を35:65(重量比)にし、マイヤーバー間のクリアランスを60μmに設定し、凝固液の組成を水:DMAc:TPG=50:32:18に調整した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0096】
[実施例9]
実施例3において、DMAcとTPGの混合比を70:30(重量比)にし、凝固液の組成を水:DMAc:TPG=50:15:35に調整した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0097】
[比較例3]
ポリオレフィン微多孔膜として比較例1で作製したものを使用した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0098】
[比較例4]
ポリオレフィン微多孔膜として比較例2で作製したものを使用した以外は、実施例3と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0099】
【表2】

【0100】
[サイクル特性]
コバルト酸リチウム(LiCoO:日本化学工業社製)89.5重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製デンカブラック)4.5重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)6重量部となるように、N−メチル−ピロリドンを用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスし、100μmの正極を得た。
メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪瓦斯化学社製)87重量部、アセチレンブラック(電気化学工業社製商品名デンカブラック)3重量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製)10重量部となるようにN−メチル−2ピロリドンを用いてこれらを混練し、スラリーを作製した。得られたスラリーを厚さが18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスし、90μmの負極を得た。
上記正極及び負極の間に、実施例1〜9および比較例1〜4で作製したポリオレフィン微多孔膜あるいは非水系二次電池用セパレータをそれぞれ挟んだ。これに電解液を含浸させアルミラミネートフィルムからなる外装に封入して、実施例10〜18および比較例5〜8の非水系二次電池を作製した。ここで、電解液には1M LiPF エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7重量比)(キシダ化学社製)を用いた。
ここで、この試作電池は正極面積が2×1.4cm、負極面積は2.2×1.6cmで、設定容量は8mAh(4.2V−2.75Vの範囲)とした。
このようにして得た各非水系二次電池について、4.0Vの定電流・定電圧充電と、2.75Vの定電流放電を100サイクル繰り返した後に、その放電容量を測定した。そして、100サイクル後の放電容量を3サイクル後の放電容量で割り、得られた放電容量保持率(%)をサイクル特性の指標とした。測定結果を表3にまとめて示す。
【0101】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、フィブリル径、微多孔径、曲路率を制御する事で、これと耐熱性多孔質層を複合化した場合にも、優れたイオン伝導度および機械強度が得られ、かつ、電解液の液枯れを防止することが可能となる。これにより、該非水系二次電池用セパレータを用いた非水系二次電池の安全性及び電池特性を確かなものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル径が40〜100nmであり、
微多孔径が50〜100nmであり、
膜抵抗から算出した曲路率が1.4〜1.8であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
Kozeny‐Carman式から算出した曲路率と膜抵抗から算出した曲路率の比が1.3〜1.6である事を特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリオレフィン微多孔膜と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に積層された耐熱性多孔質層とを、備えたことを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記耐熱性樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドおよびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることを特徴とする請求項3または4に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記無機フィラーは水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項5に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜あるいは非水系二次電池用セパレータを、セパレータとして用いたことを特徴とする非水系二次電池。

【公開番号】特開2011−210574(P2011−210574A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77710(P2010−77710)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】